多田有花句集『蒼き氷河』紹介と感想

●多田有花句集『蒼き氷河』が、花冠俳句叢書・電子版1 として出版されました。有花さん、おめでとうございます。

花冠会員の皆さまには、有花さんからメールの添付ファイルで句集が届いていることと思います。読み方は、有花さんがメールで説明されていますので、お読みになって、その通りにしてください。
わからない時は、有花さんに直接、または発行所にお尋ねください。
『蒼き氷河』
https://amzn.to/4f3jpNv

有花さんの電子書籍での句集発行は花冠では初めてで、画期的なことです。句集を読まれましたら、有花さん、または発行所に感想をお寄せください。

【感想】
⑤川名ますみ
多田有花さまの句集『蒼き氷河』を、拝読しました。
俳句も写真も、迷いなく切り取られた、晴れやかな一瞬で、花冠の「明るくて深い」を目指されていることが、確かです。
写真が俳句を、邪魔しないのはもちろん、説明にもならず、引き立て合っていることにも驚きました。付きすぎも離れもしない関係は、俳句を作るゆえの技術かもしれません。
旅や登山の俳句からは、あったに違いない険しい道程を敢えて書くことなく、最も大切な発見だけを綴る姿勢に、感嘆いたしました。それは、日頃の生活の御句にも繋がる姿勢で、有花さまがぱっと取り出した景色に、はっとすることがしばしばです。
下記に好きな句を、思いつくまま、挙げてまいります。

インラインスケート春の弧を描く
四半世紀ほど前、若い友人がインラインスケートを楽しんでいました。当時は、検索結果で見るばかりだったその様子を、御句から、くっきりと感じ取ることができました。

<東北自転車行>
十和田湖の水の蒼さや蕗のとう
光る風追い越したくてペダル踏む
中学校の修学旅行が東北で、十和田湖へも行きました。長い冬の果てに待つ土地の春を、静かに、且つ、明確に感じます。お写真の自転車で回られたのでしょうか。「追い越したくて」ペダルを踏むお気持ちを想像しました。すてきですね。

畑より両手に熱き真桑瓜
収穫したばかりの真桑瓜を持ち帰られたのでしょう。「両手に熱き」から、気温の残りだけでなく、成長し熟す、真桑瓜の力を感じます。

<北八ヶ岳縦走>
秋澄むや明日踏む峰を指させり
実際に山を登る人でなければ、詠めない御句と存じます。さらに、母音のAと子音のSが爽やかな響きを成して、澄み渡る景色を映し出しています。

<大山登山>
寒晴れや真白き尾根を風が研ぐ
寒晴れの尾根の白さを「風が研ぐ」と表現されたこと、まさにその通りと感じました。雪を風が研ぎ、あの色と耀きが生まれるのでしょう。

帰る日の近き真鴨の鳴き交わす
春先の鴨を「帰る日が近い」と詠む優しさに、ほっとしました。間もなく帰るからこそ、彼らは鳴き交わしているのかもしれません。

<富士山頂俳句リーディング>
・七合目あたり
雲の峰富士の斜面を立ち上がる
・俳句リーディング
富士山頂風に我が句を唱えけり

私の「水煙」入会前ですが、富士山頂俳句リーディングには、有花さまの御句とあわせて憧れておりました。雲の峰が「斜面を立ち上がる」様子、山頂で「我が句を唱え」る開放感など、富士山頂俳句リーディングならではの描写が見事です。

<ケニア山・キリマンジャロ紀行>
空風にマント鮮やかマサイ来る
女たち頭上にバナナの房を載せ
サングラス空と氷河を映しけり
その場に立たなくては詠めない俳句。冬と夏が混在したような景色も、現地ならではのことと思います。からりとした強い光を感じ、同じ場所に立たせていただいた気分です。

<シャモニ・モンブラン>
ブルーベリー摘みつつ高きに登りけり
氷河より雲湧き出る秋空へ
登山には、厳しい環境や強い緊張が伴うものと思います。それを踏まえた上で、小さなブルーベリーを摘む楽しみから、氷河と空の繋がりまで、誇張なく捉えていること、感嘆いたします。

大いなる自由の響き夏休み
活動的で率直な、有花さまらしい御句と存じます。夏休みの度に思い出して、自由を謳歌したいです。

聴診器ことりと置いて冴返る
暖かくなりかけた頃、聴診器を机に「ことりと」置いた小さな音に、寒さの戻りを感じ、心身が透き通るような感覚を得られたのでしょう。静かで確かな描写が、印象に残ります。


④上島祥子
この度は、電子書籍での句集「蒼き氷河」の発表おめでとうございます。
電子書籍の句集で、1頁に七句を配置する試みが、多作である有花さんらしい 句集の型のように思いました。
俳句がシャワーのように 降って来る感覚があります。
読むスピードが、自然に上がりますが、これも有花さんの句を鑑賞するのに、丁度良い速度のように思います。
通常の紙媒体の句集における空白の余韻という慣習を外す、既存のルールに縛られない考え方の自由さに、感心いたしました。写真が多いのも、早いテンポに置かれた小休止のように、句集のリズムを整えているようです。山、ロード、オートバイ、自転車、植物の画像が、俳句を邪魔をせず置かれていて、巧みな構成だと思いました。

好きな句
暖かき七日の空へタオル干す
松の内の最後の日、穏やな暮らしが戻ってくる安心感があり、歳のスタートがつつがなく始まる喜びが感じられます。

蹴り上げしボールに先に春日あり
秋澄むや明日踏む峰を指させり
爆心にいまふたたびの若葉風
高速路曲がる先まで冬紅葉

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③廣田洋一
句集「蒼き氷河」のご出版おめでとうございます。
月毎に題を付けるのは初めてです。
気に入ったのはキリマンジャロの句です。
空風にマント鮮やかマサイ来る
マサイの特長は、狩猟民族としての長槍です。
都会では、自転車に乗っていても槍を背負っています。
この点が詠まれていないのが残念です。

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②高橋秀之
多田有花句集『蒼き氷河』ご出版、おめでとうございます。
Amazon KDPの電子書籍、新たな手法ですね。
きれいなお写真と合わせて拝見しております。普段は文字から情景を想像しておりますが、写真がセットになっていることで、同じ句であっても、感じ方が違ってくるから不思議です。

2001年から2005年の5年間。この時代がどんな時代であったかにも思いを寄せつつ、「好きな句」というより「直感的に気に入った句」をいくつかあげさせていただき、感想に代えさせていただきます。(ちなみに、デスクトップに貼り付いてので、いつでも見れる状況にあります)

陽光をひらりかわして初燕
燕の巣は軒下の太陽の光を避けたところにあります。そんな巣に戻ってくる親燕の様子が、ひらりかわして(躱している)と感じられたのでしょう。このころは大阪市内でもまだ見かけていたと記憶していますが、今は全くといっていいほど都市部では見かけなくなりました。

夏富士の空の青さへ日の丸を
この時期は、まだ水煙入会前でしたので、みなさまのお話でしたか存じ上げませんが、素晴らしいリーディングの会であったということは想像に難くありません。その素晴らしい句会がひとつのページになって、素敵な写真と対をなす。いいページだと思います。

秋風に水輝きて流れけり
水の輝きは、水の流れと同じで、同じ輝きはなく、その一コマ一コマが唯一無比の輝きです。流れゆく輝きは、20年のときを過ぎても悠久の輝きとして連綿と続いていることでしょう。

追記
たまたまこの時期は、長男、次男が産まれた時期に当たります。直接は関係ないことではありますが、そういった自分の歴史?も思い出させていただきました。
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①土橋みよ
句集「蒼き氷河」のご出版おめでとうございます。歴史的背景や社会的意味を持つ素晴らしい句が多く含まれており感嘆いたしましたが、私には大きな歴史や理念を背負う句は書けないので、私自身がお手本にしたい句をいくつか選び、感想を書きました。
1.柚子ひとつ置かれて卓の広さかな
小さな柚子一つによって、卓全体の広さが見えてきました。柚子の色や香りや丸みには何も触れていないのに、目に見えるようです。生活の場を詠みながら、清潔で品のあるこのような句を詠んでみたいと思いました。
2.花吹雪櫂のしずくに重なりぬ
最初、「櫂のしずく」から滝廉太郎の「花」を連想しましたが、この俳句はたった17文字で一曲のすべてを表しているように感じました。櫂から落ちる水滴と空から散る花びらの一瞬の重なりが美しいです。花吹雪が単なる美しい景色でなく、身近で起きた出来事になるのが素敵だと感じました。
3.桐の花その高さより風が吹く
桐の花の高さを目には見えない風の出どころと感じられるような感性を私も持ちたいと思いました。高いところに咲く桐の花が揺れ、その動きや葉音によって、風の来る位置が感じられたのですね。
4.薄氷や深山に戻る滝の音
滝の音が実際に山奥へ戻るわけではないと思いますが、薄氷の張る寒さと静けさの中で、滝音が遠ざかり、深山の奥深くへ吸い込まれていくように聞こえたということでしょうか。目の前の冬景色と耳に聞こえる滝の音の響き合いが素晴らしいと思いました。
5.青鷺は水の色して立ちにけり
青鷺が水辺に立ち、その羽色が周囲の水と溶け合ってどんなに美しかったことでしょう。「水の色して」という表現は是非真似したいですが、私には難しいです。青鷺が立った瞬間の静かな緊張感を感じました。
6.雨降れば雨の色して冬紅葉
前作に続いて、「雨の色」と捉えられた冬紅葉が、いろいろ想像させてくれており、色や形の具体的なことを言っていないのにとても美しく感じられました。
7.春雪が鏡の中を降りしきる
春雪を窓外の景色として直接詠みたくなるところですが、鏡に映った雪として捉えたことに驚きました。鏡の中に降る雪は現実の雪でありながら、どこか別の空間の出来事にも見えそうです。

どの句も奇抜な言葉を一つも使わず、日常の景色の注意深い観察から、具体的な物によって余情を残すところを是非見習いたいと思いました。


コメント

  1. 髙橋正子
    2026年7月20日 23:44

    (「エッセイと論文」の「多田有花句集 序」 より転記

    上島祥子

    有花様
    「蒼き氷河」の出版おめでとうございます。
    電子書籍ならではの、カラー画像付きの句集というのが斬新ですね。
    まだ読み始めたばかりですので、具体的な感想はまた後日ということで、失礼致します。

  2. 髙橋正子
    2026年7月29日 12:04

    土橋みよ(メールより転記)
    句集「蒼き氷河」のご出版おめでとうございます。歴史的背景や社会的意味を持つ素晴らしい句が多く含まれており感嘆いたしましたが、私には大きな歴史や理念を背負う句は書けないので、私自身がお手本にしたい句をいくつか選び、感想を書きました。

    1.柚子ひとつ置かれて卓の広さかな
    小さな柚子一つによって、卓全体の広さが見えてきました。柚子の色や香りや丸みには何も触れていないのに、目に見えるようです。生活の場を詠みながら、清潔で品のあるこのような句を詠んでみたいと思いました。

    2.花吹雪櫂のしずくに重なりぬ
    最初、「櫂のしずく」から滝廉太郎の「花」を連想しましたが、この俳句はたった17文字で一曲のすべてを表しているように感じました。櫂から落ちる水滴と空から散る花びらの一瞬の重なりが美しいです。花吹雪が単なる美しい景色でなく、身近で起きた出来事になるのが素敵だと感じました。

    3.桐の花その高さより風が吹く
    桐の花の高さを目には見えない風の出どころと感じられるような感性を私も持ちたいと思いました。高いところに咲く桐の花が揺れ、その動きや葉音によって、風の来る位置が感じられたのですね。

    4.薄氷や深山に戻る滝の音
    滝の音が実際に山奥へ戻るわけではないと思いますが、薄氷の張る寒さと静けさの中で、滝音が遠ざかり、深山の奥深くへ吸い込まれていくように聞こえたということでしょうか。目の前の冬景色と耳に聞こえる滝の音の響き合いが素晴らしいと思いました。

    5.青鷺は水の色して立ちにけり
    青鷺が水辺に立ち、その羽色が周囲の水と溶け合ってどんなに美しかったことでしょう。「水の色して」という表現は是非真似したいですが、私には難しいです。青鷺が立った瞬間の静かな緊張感を感じました。

    6.雨降れば雨の色して冬紅葉
    前作に続いて、「雨の色」と捉えられた冬紅葉が、いろいろ想像させてくれており、色や形の具体的なことを言っていないのにとても美しく感じられました。

    7.春雪が鏡の中を降りしきる
    春雪を窓外の景色として直接詠みたくなるところですが、鏡に映った雪として捉えたことに驚きました。鏡の中に降る雪は現実の雪でありながら、どこか別の空間の出来事にも見えそうです。

    どの句も奇抜な言葉を一つも使わず、日常の景色の注意深い観察から、具体的な物によって余情を残すところを是非見習いたいと思いました。

  3. 廣田洋一
    2026年8月25日 14:01

    句集「蒼き氷河」のご出版おめでとうございます。
    月毎に題を付けるのは初めてです。
    気に入ったのはキリマンジャロの句です。
    空風にマント鮮やかマサイ来る
    マサイの特長は、狩猟民族としての長槍です。
    都会では、自転車に乗っていても槍を背負っています。
    この点が詠まれていないのが残念です。

  4. 上島祥子
    2026年8月27日 22:58

    この度は、電子書籍での句集「蒼き氷河」の発表おめでとうございます。
    電子書籍の句集で、1頁に七句を配置する試みが、多作である有花さんらしい 句集の型のように思いました。
    俳句がシャワーのように 降って来る感覚があります。
    読むスピードが、自然に上がりますが、これも有花さんの句を鑑賞するのに、丁度良い速度のように思います。
    通常の紙媒体の句集における空白の余韻という慣習を外す、既存のルールに縛られない考え方の自由さに、感心いたしました。写真が多いのも、早いテンポに置かれた小休止のように、句集のリズムを整えているようです。山、ロード、オートバイ、自転車、植物の画像が、俳句を邪魔をせず置かれていて、巧みな構成だと思いました。

    好きな句
    暖かき七日の空へタオル干す
    松の内の最後の日、穏やな暮らしが戻ってくる安心感があり、歳のスタートがつつがなく始まる喜びが感じられます。

    蹴り上げしボールに先に春日あり
    秋澄むや明日踏む峰を指させり
    爆心にいまふたたびの若葉風
    高速路曲がる先まで冬紅葉

  5. 川名ますみ
    2026年9月3日 19:11

    多田有花さまの句集『蒼き氷河』を、拝読しました。
    俳句も写真も、迷いなく切り取られた、晴れやかな一瞬で、花冠の「明るくて深い」を目指されていることが、確かです。
    写真が俳句を、邪魔しないのはもちろん、説明にもならず、引き立て合っていることにも驚きました。付きすぎも離れもしない関係は、俳句を作るゆえの技術かもしれません。
    旅や登山の俳句からは、あったに違いない険しい道程を敢えて書くことなく、最も大切な発見だけを綴る姿勢に、感嘆いたしました。それは、日頃の生活の御句にも繋がる姿勢で、有花さまがぱっと取り出した景色に、はっとすることがしばしばです。
    下記に好きな句を、思いつくまま、挙げてまいります。

    インラインスケート春の弧を描く
    四半世紀ほど前、若い友人がインラインスケートを楽しんでいました。当時は、検索結果で見るばかりだったその様子を、御句から、くっきりと感じ取ることができました。

    <東北自転車行>
    十和田湖の水の蒼さや蕗のとう
    光る風追い越したくてペダル踏む
    中学校の修学旅行が東北で、十和田湖へも行きました。長い冬の果てに待つ土地の春を、静かに、且つ、明確に感じます。お写真の自転車で回られたのでしょうか。「追い越したくて」ペダルを踏むお気持ちを想像しました。すてきですね。

    畑より両手に熱き真桑瓜
    収穫したばかりの真桑瓜を持ち帰られたのでしょう。「両手に熱き」から、気温の残りだけでなく、成長し熟す、真桑瓜の力を感じます。

    <北八ヶ岳縦走>
    秋澄むや明日踏む峰を指させり
    実際に山を登る人でなければ、詠めない御句と存じます。さらに、母音のAと子音のSが爽やかな響きを成して、澄み渡る景色を映し出しています。

    <大山登山>
    寒晴れや真白き尾根を風が研ぐ
    寒晴れの尾根の白さを「風が研ぐ」と表現されたこと、まさにその通りと感じました。雪を風が研ぎ、あの色と耀きが生まれるのでしょう。

    帰る日の近き真鴨の鳴き交わす
    春先の鴨を「帰る日が近い」と詠む優しさに、ほっとしました。間もなく帰るからこそ、彼らは鳴き交わしているのかもしれません。

    <富士山頂俳句リーディング>
    ・七合目あたり
    雲の峰富士の斜面を立ち上がる
    ・俳句リーディング
    富士山頂風に我が句を唱えけり

    私の「水煙」入会前ですが、富士山頂俳句リーディングには、有花さまの御句とあわせて憧れておりました。雲の峰が「斜面を立ち上がる」様子、山頂で「我が句を唱え」る開放感など、富士山頂俳句リーディングならではの描写が見事です。

    <ケニア山・キリマンジャロ紀行>
    空風にマント鮮やかマサイ来る
    女たち頭上にバナナの房を載せ
    サングラス空と氷河を映しけり
    その場に立たなくては詠めない俳句。冬と夏が混在したような景色も、現地ならではのことと思います。からりとした強い光を感じ、同じ場所に立たせていただいた気分です。

    <シャモニ・モンブラン>
    ブルーベリー摘みつつ高きに登りけり
    氷河より雲湧き出る秋空へ
    登山には、厳しい環境や強い緊張が伴うものと思います。それを踏まえた上で、小さなブルーベリーを摘む楽しみから、氷河と空の繋がりまで、誇張なく捉えていること、感嘆いたします。

    大いなる自由の響き夏休み
    活動的で率直な、有花さまらしい御句と存じます。夏休みの度に思い出して、自由を謳歌したいです。

    聴診器ことりと置いて冴返る
    暖かくなりかけた頃、聴診器を机に「ことりと」置いた小さな音に、寒さの戻りを感じ、心身が透き通るような感覚を得られたのでしょう。静かで確かな描写が、印象に残ります。