NEW花冠1月号散文原稿受付

花冠1月号(No.376)の散文原稿をこちらで受け付けています。コメント欄にご投稿ください。よろしくお願いします。


コメント

  1. 髙橋正子
    2026年11月5日 21:46

    大垣湧水吟行記
    上島祥子

    【大垣八幡宮】

    岐阜県大垣市へ、湧水を汲むために訪れます。大垣は、木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)の豊かな水が地下へ浸透しやすい、自噴帯に位置しています。昔に比べると水量は減っていますが、市内の各所に自噴井戸が設けられ、市民が自由に利用できる湧水文化は今も健在です。

    その中でも大垣八幡宮の「大垣の湧水」は、特に手入れが行き届き、汲みやすい井戸として知られています。ペットボトル二本と水筒を携えて鳥居をくぐると、蝉の声に包まれます。最初に参拝を終えたいので、奥へと進みます。お社の正面には絵馬堂があり、風に揺れて絵馬が、カタカタと乾いた音を立てています。御祭神は、応神天皇・神功皇后・比売神の三柱です。湧水を頂くことを願い出て、静かに手を合わせます。

    参拝を終えて井戸舎に近づくと、湧き出る水音が聞こえてきます。屋根に守られた井戸は、石の井桁の中央が半球状に盛り上がって、水が湧き出しています。一辺がくぼみ、そこから金属の桝へ勢いよく流れ落ち、蝉の声を打ち消すほどの大きな音を立てています。

    豊かな水量に、持参の二リットルのペットボトルは一瞬で白く曇り、二本のボトルと水筒は時をおかずに清水で満たされます。

    名残惜しく、湧水を両手に掬って口をつけると、仄かに甘い香りがします。素朴な清めの気配を感じながら、次に水を汲みに来られる方が現れるまで、湧水の冷たい手触りを愉しみます。

    流れ出た湧水は、八幡宮横の細い水路へ落ちていきます。川淵へ降りられる階段を下りてゆくと、夏木立の影に包まれ、せせらぎと蝉の声だけが響く、地上と切り離されたような世界が広がります。その静けさの中に、羽黒蜻蛉がふわりと姿を見せてくれます。八幡宮の神々から、特別なおもてなしを受けたようです。

    【結びの地】

    『奥の細道』結びの地である大垣市船町湊跡は、地元の人から大切にされ国の名勝地に指定されています。船町湊は、江戸時代から明治にかけて大垣城下と桑名を結ぶ運河「水門川」の川湊で、物資や人の往来の中心として栄え、松尾芭蕉翁もここから桑名へ旅立ちました。

    水門川のほとりの蛤塚には旅立つ芭蕉翁と、見送る大垣の俳人・谷木因の像が建立されています。並木の桜青葉がよく茂り、像の二人に涼をもたらしています。川の対岸には夜間の湊の標識になっていた、高さ八メートルの住吉燈台が復元されています。寄棟造り杉板鎧張で最上部四方油紙障子をはめ込んだ黒褐色の優美な姿です。江戸時代の燈台は 先の大戦で焼失しています。六度にわたる大垣空襲ですべてが焼き払われてしまいましたが、街を取り戻すため水門川沿いに芭蕉翁の句碑を並べ、湧水と先人が遺した俳句の文化を軸に街を復興させる営みは、現在にも引き継がれています。

    【奥の細道むすびの地記念館】

    船町の水門川西岸に、「奥の細道むすびの地記念館」があります。八月の吟行なので、熱中症予防の為にこちらで休憩します。俳句の情報発信と市民の交流の場所として親しまれていて、湧水もあり、夏の吟行の休憩場所として最適です。

    一階にある俳句コーナーには、全国から集められた俳誌が飾られていて、『花冠』の最新号も飾られています。記念館の中に俳句ポストが応募用紙と共に置かれていて、大垣の旅の記念に、誰もが投句することができます。複数選者によって毎月優秀句が発表され、特選句は記念館に短冊が飾られます。

    飾られている特選句はレベルが高く、即興で作った句をポストに入れてもよいのか、迷いましたが、ポストの前で逡巡すること数分、近くにいた紳士から、「是非、投句をして下さい」と声をかけられます。その方は記念館の副館長の大西誠一先生で、大垣俳句ポストの選者の一人であり、大垣の俳句活動に熱心に取り組まれている方です。また愛媛大学時代の正子先生と同時期に俳句部で活動されたという事で、正子先生の弟子と大垣で出会えた偶然を、喜んでいただけたようです。大西先生の前で、どうにか三句を整えて俳句ポストに投函し、吟行を無事に終えました。

    水の秋瀬せらぎ軽く堰を超え

    清流に木漏れ日招く西日かな

    水馬の清水に逆らう波の紋

    令和八年八月二十五日 岐阜県大垣市