6月15日(土)

●小口泰與
繍線菊や日光寺社の遥かなり★★★
雨に雨百日紅咲く朝かな★★★
彼方から来しか水田に通し鴨★★★

●迫田和代
【原句】葉桜の土手道のみどり冴えわたり
【正子添削】葉桜の土手のみどりの冴えわたり★★★

楚々として句集を渡す衣更え★★★
故郷を心に偲び粽解く★★★

●小川和子
金の蘂かがやき未央柳群れ★★★
天に向き合歓の花咲く里の夕★★★
紅々と花を点して合歓やさし★★★

●多田有花
虎尾草や岩攀じ登る男あり★★★★
虎尾草が咲いている岩であるが、攀じ登る男性がいる。ロッククライミングの練習か。何かをとろうとしているのだ。離れて見れば、面白い光景だ。(高橋正子)

六月の夕暮れ藍色長く引く★★★
よく眠り目覚めて静か梅雨の雨★★★

●桑本栄太郎
喜雨来れば窓開け放ち聞きにけり★★★
雨だれの音にまどろむ昼寝かな★★★
夕涼や鳥鳴き風の雨上がる★★★

●河野啓一
釣り上げし魚万緑の中に跳ね★★★★
渓流釣りであろうか。釣り上げた魚がぴちぴち跳ねる。万緑の中なればこそ、いっそう生き生きとしてくる。(高橋正子)

夕凪の瀬戸の浜辺や烏賊焼く煙★★★
釣鐘草やっと咲きたる濃むらさき★★★

●佃 康水
流鏑馬の先触れ受けて菖蒲葺く★★★
平らかな生垣蜘蛛の囲の数多★★★
雨の輪の光溢れる植田かな★★★

●小西 宏
梅雨晴の空は広場の真ん中に★★★★
空が広場の真ん中にあるという着目に驚かされる。雨があがったばかりで、広場に人はいないのかもしれない。たしかに青空は、広場の真ん中に堂々とあるのだ。(高橋正子)

梅雨晴の里山遠く緑眩し★★★
梅雨晴れ間今日一日の暮れゆける★★★

6月14日(金)

●小口泰與
郭公や畔の十字のすっきりと★★★★
田を区切る畔が「十字」となっていることに目をつけたのがよい。きちんと区切られた田が郭公の鳴き声とともに涼しそうだ。(高橋正子)

洋弓の坊主頭の日焼けかな★★★
渓流の瀞に耀う杜鵑花★★★

●下地鉄
サーファーの卯波に握る拳かな★★★★
大きくうねる卯波にサーファーが力を込める握りこぶし。サーファーが力強く、輝くときである。(高橋正子)
青芝に微笑む人の病衣かな★★★
合わす手に香りも白き百合の花★★★

●桑本栄太郎
虹色のつぶや雨問う額の花★★★
あおられし枝の躍るや夏台風★★★
雲の峰とは言えずとも青空に★★★

●小川和子
毬に雨滴り止まず濃紫陽花★★★
ルピナスの多彩に咲きて夏来る★★★
広々と夏蝶寄せるルピナスよ★★★

●小西 宏
紫陽花に細やかな雨降りしきる★★★
長雨に植田水面の静やかに★★★
雨止んで紫陽花ならぶ明るい道★★★

●藤田洋子
青柿の小粒つぶらに空広し★★★★
緑の葉に、まだ紛れるような小さな青柿。その背景に、空はすずやかに広がっている。「青柿」に「空広し」を配したのがよい。(高橋正子)

青柿の一つ二つと見え始む★★★
紫陽花を切る音軽く朝の晴★★★

6月13日(木)

●小口泰與
蜘蛛の囲や縁台将棋歩でつまり★★★
黄ばらの中にも紅を含みけり★★★
満々と田水満たせし通し鴨★★★

●下地鉄
父の日の待ちかねし孫の帰省かな★★★
渡りきて若き夫婦の簾店★★★
薫風やテイッシュの穂の揺れ止まず★★★

●河野啓一
空梅雨に雨待ち望む森の木々★★★
剪られても日々咲き続け忘れ草★★★
夏蝶のひらひら垣根を行き来する★★★

●小西 宏
野に李(すもも)拾い両手に香り立つ★★★★
落ちたばかりの野の李。両手に拾うと李のよい香りがする。ふと出会った野の恵み。(高橋正子)

緑葉を撫で流れゆく皐月雨★★★
差し出せば蛍に灯る掌(たなごころ)★★★

●桑本栄太郎
<朝の祇園界隈>
空梅雨の花見小路やカメラの列★★★
雲水の祇園小路や梅雨の朝★★★
空梅雨や一力茶屋の赤き塀★★★

●高橋秀之
植田風駅の列車に吹き込める★★★★
植田の中の駅に列車が停車しドアが開くと、植田から涼しい緑の風が吹き入る。植田の風を肌を吹き降り立ったような気分。(高橋正子)

山間の植田に光中仙道★★★

中央線車窓に流れる夏の川★★★

6月12日(水)

●小口泰與
柿の花湖に沈みし部落かな★★★★
湖を作るために沈んだ部落がある。そこには、人々の生活があった。柿の花も咲いていただろう。今、柿の花を見て、沈んだ部落の人たちの生活を思う。(高橋正子)

ビー玉の弾き合う音新樹光★★★
むらさきの花を着飾る若葉山★★★

●桑本栄太郎
雨待てる虹色つぶや額の花★★★
走りゆく車内は青葉の闇となる★★★
天と地の詰まる生駒の青嶺かな★★★

●藤田洋子
梅雨晴れの影を広げて丘の木々★★★★
梅雨が晴れて、うれしいのは人々だけだはない。丘の木々もその影を自由に広げて、梅雨晴れの太陽を浴びている。快く、のびのびする風景だ。(高橋正子)

山風に楠のふくらむ梅雨晴間★★★
梅雨晴れの胸を満たしし空の色★★★

●多田有花
梅雨台風逸れ真っ青な空残る★★★★
台風3号が早も接近するかと思ったが、逸れて無事を得た。残されたのは真っ青な梅雨晴れの空。(高橋正子)

笹百合を愛でつつ登る頂へ★★★
岩尾根に立ち見晴るかす植田かな★★★

●高橋秀之
馬籠宿石碑に夏の日が当たる★★★
万緑に包まれ恵那山くっきりと★★★
葛切りを土産に三箱友と旅★★★

●河野啓一
紫陽花のリトマス試験紙丘の道★★★
七変化咲かんとしてや雨を待つ★★★
とりどりの色並べたる紫陽花花壇★★★

6月11日(火)

●川名ますみ
新じゃがのビシソワーズのお陽様色★★★
新じゃがとバターの匂いビシソワーズ★★★
額の花国道沿いに揺れ続く★★★

●小口泰與
あじさいや川のほとりの露天風呂★★★
どんよりと撓む水面や蓮の花★★★
夏川や山の大気を存分に★★★

●桑本栄太郎
自転車に遮断機下りる青田かな★★★★
青田に臨んで線路が通り、電車が走る。自転車で走ると、遮断機が下りて、しばしは青田を眺め、楽しむことになる。突然道を塞ぐ遮断機だが、それも、また良きかな。(高橋正子)

廃屋の白き更地や枇杷実る★★★
車窓より仰ぐ青嶺や天王山★★★

●河野啓一
胡瓜苗葉も実も花も風に揺れ★★★
台風の逸れて箕面の山澄める★★★
七変化浮かぬ顔して雨を待つ★★★

●高橋秀之
万緑を間近に控え妻籠宿★★★
本陣の隣旅籠に燕の子★★★
夏風を頬に歩みて大妻籠★★★

6月10日(月)

●小口泰與
雨を得て和紙のようなり白あやめ★★★
風立つや瀞に渦まくえごの花★★★
そよぎては香り広ごるえごの花★★★

●河野啓一
黒潮の豊かに寄せて青岬★★★★
「黒潮」と「青岬」の取り合わせが絵画的で印象深い。黒潮寄せる、緑滴る岬。涼しさと強さをもった景色だ。(高橋正子)

緑陰に句帳離せぬ車椅子★★★
夏の雲窓開け放したるクールビズ★★★

●古田敬二
ヨシキリを遠くに聞いて鍬を振る★★★★
敬二さんの畑仕事は、周囲を楽しみながらの農作業である。鍬を振れば、ヨシキリが遠くで鳴いてくれる。よき野の友である。(高橋正子)

紫陽花にその色残し陽が沈む★★★
初胡瓜やさしき棘が我を刺す★★★

●桑本栄太郎
万緑を歩み辿れば池のふち★★★
人の世の世事は厭わず枇杷熟るる★★★
来てみればすでに波打つ青田かな★★★

●小西 宏
陽の丘に唐黍の苗縦一列★★★
紫陽花の庭に余りて咲き溢(こぼ)る★★★
ベランダの如露に緑のプチトマト★★★

6月9日(日)

●小口泰與
百合の蘂赤城の風に逆らわず★★★
黒雲の透けて日矢射す矢車草★★★
定かなる鍋割山や立葵 ★★★

●迫田和代
麦秋の色の風吹く墓参り★★★★
麦秋のころの墓参は、お彼岸やお盆の墓参りと違って、故人の命日だったり、あるいは、たまたま思い立っての墓参だったりする。麦秋の色の風がしみじみと、懐かしく故人を思い出させる。(高橋正子)

渓流の鮎釣りの人に鮎の影★★★
ぎらぎらと入日が残す初夏の香を★★★

●河野啓一
夏星の溢れロベリア鉢植えに★★★
緑陰に句帳離せぬ車椅子★★★
アマリリスたくさん咲きし写真撮る★★★

●桑本栄太郎
雨降らぬ日差しうべない山法師★★★
花胡瓜の支柱の丈にまだ足らず★★★
あちこちへ穂がゆれ茅花流しかな★★★

●多田有花
<同窓会>
麦の秋みな過ぎし日を語りつつ★★★★
「麦の秋」は、セピア色となった過ぎし時を思い出させる季節である。セピア色となってゆく学生時代を懐かしみ、集うにはいい季節であろう。(高橋正子)

<星の子館・天文観察会二句>
麦星を仰ぐ街の灯を遠く★★★
梅雨晴れ間土星を覗く望遠鏡★★★

●佃 康水
山鳩のくぐもる声へ緑雨かな★★★
石垣の隙間湧き出る蟻の列★★★
伐り呉し白紫陽花やうす緑★★★

●藤田裕子
古きノートめくれば遠き初夏の詩★★★
青梅の太る日々なり雨なくも★★★
一つまたハイビスカスの黄を咲かせ★★★

6月8(土)

●河野啓一
野萱草日ごとに切られ活けられて★★★★
野萱草は一日で咲き終わり、翌日はまた別の花が開く。日毎新しい花を切って活ける。清潔でいきいきとした一花を大切にする暮らしがいい。(高橋正子)

樹の陰にぽっかり赤い百合の花★★★
梅雨入りして毎日仰ぐ青い空★★★

●小口泰與
郭公や田水満たしてテータイム★★★★
田水も満たして、郭公の声を聞きながらのティータイム。のどかで、涼しく、心豊かなティータイム。(高橋正子)

昼顔や棚田の水のひろごれり★★★
山風に矢車草の綾なせり★★★

●桑本栄太郎
泰山木の花や陽射しのいま西へ★★★★
おおらかな泰山木の白い花に、西に傾く日が斜めに遠く日差している。泰山木の花は西日に少し染まっている。(高橋正子)

塀上の柏葉あじさい風のまま★★★
寄り添うて田の片隅や余り苗★★★

●河野啓一
島影の遠くに見えて瀬戸の夏★★★
緑陰に牛飼の像もあり花時計★★★
忘れ草日ごと摘まれて活き活きと★★★

6月7日(金)

●小口泰與
昼顔の田川を攻めてなだれ咲く★★★
老木を雁字搦めや青蔦ぞ★★★
早朝の山の大気や草いちご★★★

●桑本栄太郎
部活子の少年追い抜き風青し★★★
青柿の葉陰の風にまどろみぬ★★★
人絶えて更地なりしや花うつぎ★★★

●川名ますみ
花槐メトロ出口に降りそそぐ★★★
地下鉄の出口に降るは花槐★★★
据がれきて団地の庭に実梅落つ★★★

●黒谷光子
夏草に座し湖からの風を聞く★★★
卯の花の傾れて湖の面に届く★★★
辻いくつ曲がりて大寺立葵★★★

●小西 宏
サングラス樹下に入り来て音失せり★★★★
サングラスの必要な明るい戸外を歩き、樹下に入ると、樹下はしんとして音もない。明暗の対比でいっそう樹下がしんとする。(高橋正子)

湧き水の闇に毒痛み大き群れ★★★
木道の青葦にある遠い鶯★★★

●古田敬二
芍薬に振れれば散れり潔し★★★
芍薬の薄紅一片残し散る★★★
潔く芍薬散るよ触れるとき★★★