10月5日

●小西 宏
森奥の土に茸の白静か★★★★
静かな森奥に生えた白い茸の辺りは、ほんのり明るくて静か。メルヘンチックな森の奥である。(高橋正子)

風さわぐ芝生に紅き小さき茸★★★
霧雨の眼鏡に当たる街明かり★★★

●小口泰與
初紅葉聞かばや志賀の峠道★★★
遠山の襞くっきりや野分晴★★★
木の実落つあぎとう鯉の目のやさし★★★

●迫田和代
祖母くれた和代は昭和の淡い月★★★
十六夜を仰ぎ坂道駈け上る★★★
青い海月明かりにて白波を★★★

●多田有花
走る人歩く人あり秋山路★★★
頂へ続く秋萩垂れる道★★★★
初物のりんごを齧る雨の午後★★★

●黒谷光子
自転車で行くすすき穂の揺らぐ道★★★
すすき道一叢ごとの穂の光り★★★
追い風にペダル軽々すすき道★★★

●井上治代
咲く花も枯れゆく花も彼岸花★★★
風唸り変幻自在に秋の雲★★★
新涼や樹間の空の青深し★★★★
新涼の季節、空をゆっくりと眺めることができるようになり、早も青が深くなった。空の青に魅了される新涼である。(高橋正子)

10月4日

●小口泰與
一本の花鶏頭や門前に★★★
草刈機撥ねて飛ばせし曼珠沙華★★★
秋草のいよよ野放図長けりけり★★★

●佃 康水
球場の真っ赤に染まり天高し★★★
檀の実弾け夕日の色増しぬ★★★
紫苑咲く塀の高さへ見え隠れ★★★ 

●多田有花
街道に辻に秋祭りの幟★★★★
朝夕肌寒くなると、秋祭りが近づく。街道や辻に祭りの幟がはためき、祭りが近いことが嬉しくなる。(高橋正子)

透き通る空の青さへ鵙高音★★★
信号を待てば金木犀の香り★★★

●古田敬二
天高しパン屋の香りの中を行く★★★
信号を渡る御所から虫の声★★★
石垣は古びてこぼす虫の声★★★

10月3日

●小口泰與
曇天の庭に咲きたる鶏頭花★★★★
曇天の下の鶏頭は、晴天の鶏頭よりも陰影に富んで、日本画的な絵になる素材だ。それに目を付けたのがよい。(高橋正子)

先駆けて山にひろごる茸かな★★★
秋の山靄の帳に隠れけり★★★

●河野啓一 
秋涼し朝の窓辺に箕面山★★★
左右から手をひかれ幼子貝割菜★★★
シップ薬放せぬ脚ぞちちろ虫★★★

●小西 宏
桜葉に紅ひそひそと秋深し★★★
天辺を欠いて切り立つ秋の虹★★★
午後四時のひとり鳴きいる法師蝉★★★

●黒谷光子
さわやかにオリオン朝の鐘を撞く★★★★ 
朝の鐘を撞くとき、暁に空にはまだオリオン座が輝いている。「さわやかに」輝いているのだ。秋暁のさわやかさが読み手の心にも沁みこんでくる。(高橋正子)

紅葉の向うに青空澄み渡る★★★
紅葉のひときわ濃きへ床几置き★★★

●川名ますみ
台風過川の上流から青天★★★
多摩川の上手にひかり台風過★★★
朝顔の隙なきほどの門前へ★★★

9月30日-10月2日

10月2日

●小口泰與
あかあかと燃え出づ日差しすすきかな★★★★
曼珠沙華今朝の赤城は紫紺なり★★★
灘酒に片や越後の濁り酒★★★

●河野啓一
ボタン植う植穴大きく堆肥入れ★★★
芋の露青空映し転がりぬ★★★★
無花果や裂けて豊かな種の見え★★★

●古田敬二
ポケットにごつごつ栗を拾いけり★★★★
「ごつごつ」がいい。「ポケットにごつごつ」とした、副詞「ごつごつ」の働きがいいのだ。情景がリアルで、作者の姿が見えてくる。(高橋信之)

コスモスを手折りて妻へ土産とす★★★
縁側へごろごろ転がす秋野菜★★★

●黒谷光子
萩の庭向こうに連なる峰三つ★★★★
句碑二つ読みあぐみおり紅葉寺★★★
紅葉に茶室幾棟光悦寺★★★

10月1日

●小口泰與
咲き満ちて鶏頭の花や青き空★★★★
この時季の時をたがえず鉦叩★★★
コスモスや山肌駆ける影迅し★★★

●河野啓一
苅田広き明日香村なる棚田かな★★★★
奈良、明日香村も稲刈りがほとんど済んで刈田が広がっている。棚田のある村に古代より繋いできた人々のゆかしい暮らしが見える。(高橋正子)

九月尽歩行練習積み重ね★★★
月招く穂芒風の吹くままに★★★

9月30日

●小口泰與
虫の音や今朝の赤城の彫り深し★★★
山肌に影流れゆく秋気かな★★★
受けつぎし杖の重さや秋の空★★★

●祝恵子
秋夕焼け飛行機雲も包まれて★★★★
夕焼けの中に延びる飛行機雲。その飛行機雲までも夕焼けにすっぽり包まれて茜色に染まっている。秋夕焼けに染まる空を見れば、温かい思いになる。(高橋正子)

芙蓉咲くこの先ゆけばお風呂屋さん★★★
五重塔水煙まぶし秋天に★★★
※俳句添削教室に、添削句を載せました。ご覧ください。

●黒谷光子
穂すすきを目じるしとして山に入る★★★
供花を切る山に団栗つややかに★★★
秋蝉のかしましき山供花を切る★★★

9月29日

●河野啓一
しらうおの便りを聞けば湖国は秋★★★★
涼新らたせせらぎの音聞きおれば★★★
草刈機ぶんぶん回れる秋の午後★★★

●小口泰與
口笛の吸い込まれゆく秋の空★★★★
秋のうららかな日。口笛を吹けば、口笛は秋の空に吸い込まれていくように鳴る。一人吹く口笛も楽しいだろう。(高橋正子)

鶺鴒や波と打ちあう舫い舟★★★
稲雀水を干したる田んぼかな★★★

●佃 康水
蓮の実の飛ぶ農道の一直線★★★★
合わせ柿甘味程よく出来上がる★★★
稲雀追われ母屋の屋根の上★★★

●桑本栄太郎
ざわざわと風を巻きおり蘆の花★★★★
花をつけた蘆原。風を巻き込むように、ざわざわと吹かれてなる。蘆の花を吹く風のわびしさが「風を巻きおり」によく表現されている。(高橋正子)

足裏に木の実踏みつつ池のふち★★★
蚯蚓鳴く闇のしじまや明日入院★★★

●多田有花
秋麗の山路静かになりにけり★★★
青空に風の音して木の実落つ★★★
秋の陽を透かし浅葱斑飛ぶ★★★

●川名ますみ
次々と梨積まれゆく荷台かな★★★
※添削教室に添削しました。ご覧ください。

梨を積みトラックやおら走りゆく★★★
富士山がようやく見えて秋の空★★★

●黒谷光子
母の忌に集う故郷萩の風★★★
はらからの話は尽きず萩の庭★★★
飛び石を伝い歩きて水引草★★★

●高橋秀之
大空の広さと競うダリヤ園★★★★
ダリアのたくましさには、広々と広がる空が似合う。大空があり、ダリアの咲き乱れる園がある。大空の力、ダリアの力が競いあっているのだ。(高橋正子)

秋空の遠くに伸びる飛行雲★★★
秋夕焼け稜線の下も染めあげる★★★

9月28日

●河野啓一
天高くビル街の向こうに生駒山★★★
青空と陽光のカクテル秋清める★★★
豊作の地にありシリアの児ら思う★★★

●祝恵子
冬瓜の重さ測ってみたくなり★★★
冬瓜の二個を転がす厨かな★★★
さっぱりとゴーヤの棚を崩しゆく★★★

●迫田和代
白い雲下に輪を描く赤とんぼ★★★
蓑虫の顔を覗ける愚かさや★★★
しんとして秋の茜の地平線★★★★
「しんとして」に実感があり、この句が真実となった。地平線の秋の茜は、心静かに眺めたい。(高橋正子)

●小口泰與
秋空を余白とせしや吾の写真★★★
餌漁る鴉かしまし秋の暮★★★
あけぼのの稲穂さやぐや群雀★★★

●桑本栄太郎
冷まじくありて途切れし朝し夢★★★
高階のさらに高きに秋の雲★★★
夕日透き苦瓜の実の陽の色に★★★

●多田有花
澄む秋の峰を渡りて歩きけり★★★★
この峰からあの峰へ秋の澄んだ空や空気の中を、見晴らしを楽しみながら歩く。峰歩きの醍醐味。(高橋正子)

樒刈る人と会いけり秋の山★★★
秋麗の拝殿に座し祓受く★★★

●黒谷光子
自転車で行く真正面赤とんぼ★★★★
糠を燃す煙あちこちに秋空へ★★★
新米を炊く新しき炊飯器★★★

●高橋秀之
大皿に三尾の秋刀魚尾頭付き★★★
二階から夕餉の秋刀魚焼く匂い★★★
早い者勝ちで手元へ焼き秋刀魚★★★

9月27日

●小口泰與
菊咲きて誦経の僧の背中(そびら)かな★★★
山霧のまよい起ちけり里の渓★★★
おおかたは流れとともに行く柳★★★

●多田有花
青空へコスモスいっぱい身を揺らす★★★★
「いっぱい」はコスモスがいっぱいでもあるし、身を揺らすのが「大いに」の意味のいっぱいとも解せる。ともかく、たくさんのコスモスが精一杯風に花を揺らせているのだ。その所作がかわいい。(高橋正子)

秋冷の始まる夜のテニスコート★★★
一面の刈田一筋煙たつ★★★

●桑本栄太郎
刻々と雲の変化(へんげ)や野分晴れ★★★
想い出の影のごとくに藤は実に★★★
秋澄みてテニスコートの弾む音★★★

●黒谷光子
山並の分かつは秋の空と湖★★★★
海と空を分かつのが水平線であるのに対し、湖と空を分けているのが、横に伸びる山並。湖の国の秋空が広々として深い。(高橋正子)

秋蝶の湖辺の草に翅たたむ★★★
穏やかな湖見える土手緋のカンナ★★★

●河野啓一
★煮刈りて明るくなりし松手入れ
★天蚕の里に下り来て大きな翅紋★★★
★秋の空白雲包む日の光★★★

9月26日

●小口泰與
竜胆や日を率いたる浅間山★★★

山路きて此処のみ日矢の野菊かな★★★★
山路のなかにスポットライトを当てられたように日が差している野菊が慎ましく、可憐である。(高橋正子)

燕去る里の田畑の和みけり★★★

●河野啓一
写経して色即是空天高し★★★

秋深し街道沿いも黄金色★★★
秋高し汗をぬぐいてシャワー浴★★★

●桑本栄太郎
<京の町家散策>
洋館の京の真中に秋うらら★★★
格子戸の路地の青空さるすべり★★★
寺町の式部の墓所の秋日差し★★★

●祝恵子
路一つ隔てて校舎案山子立つ★★★
束をとき枝豆もぎゆく丹波産★★★

寄りし娘に持たす枝豆ゆでたてを★★★★
ゆでたてのほっくりした枝豆に母のさりげない愛情が読み取れる。立ち寄る娘のさりげなさも、自然体で美しい。(高橋正子)