10月8日

●小口泰與
はんなりと十頭身の曼珠沙華★★★
あけぼのや二手に群れ起つ稲雀★★★★
塊て雀の羽音刈田かな★★★

●多田有花
秋の陽を背に受け頂の食事★★★
秋晴れやすでに登りし山を指す★★★
澄む水を渡りたどりて山下りぬ★★★★
沢の流れを伝い、また橋を渡って山を下った。沢の水はどこも澄んでいる。秋の山のひんやりとした空気も合わせて感じられる。(高橋正子)

●古田敬二
妻と食む子を想いつつ衣被★★★
約束のつぼみ膨らむ杜鵑草★★★★
見つめれば我を見つめる赤とんぼ★★★

●小西 宏
石段に寝たる木通の蒼さかな★★★
石段に落ちて木通の蒼さかな★★★★(信之添削)
山手の石段だろうか。台風にゆすられてか、まだ青い木通の実が落ちている。青いまま落ちた木通の生々しさが目を引く。(高橋正子)

池端に散りぢり紅き彼岸花★★★
裏庭に肩ゆすりあう花芒★★★

10月7日

●川名ますみ
秋風の通っていたり吾が床に★★★
さらさらと西瓜切る音芳しく★★★
梨の荷を積みトラックの走りゆく★★★★

●小口泰與
コスモスの雫もたばね剪りにけり★★★★
コスモスに残る雨の雫か、置く露の雫か、その雫ごと剪りとった。雫のついたコスモスもあるがままでよいものだ。(高橋正子)

唐黍の刈られし後や鳥の数★★★
利根川の白波光り渡り鳥★★★

●河野啓一
やわらかき秋光受けて森の中★★★
北国の秋を綾なすダケカンバ★★★
秋の雲色も形もさまざまに★★★

●多田有花
山頂の木に紅葉の始まりぬ★★★
山霧のたちまちに消え天高し★★★★
重畳と秋の山並み連なれり★★★

●佃 康水
入日透く桜紅葉や厳島★★★
布巾干す間にも木犀匂いくる★★★
稲刈機噴き出す藁の薄みどり★★★★
稲刈機が稲を刈り進む。まだ薄緑の稲藁を吹き出しながら刈り進むのだ。まだ命の通った薄黄みどりの稲藁は、それ自体が魅力だ。(高橋正子)

●小西 宏
吊り橋をくぐり湾上鱗雲★★★
息弾む柿満天の坂の道★★★

佳き人の忌日の便り菊生ける★★★★
「佳き人」の忌日を知らせる便りが届いた。菊の花の咲くよき日に旅立たれたのだ。菊を生けてふと生前が思われる。(高橋正子)

10月6日

●河野啓一
マスカット輝く波の山陽路★★★
古里の秋果積み上げ道の駅★★★
秋雨のそぼ降る中に古家かな★★★

●小口泰與
揺れ動く幾重の影や秋桜★★★★
秋風に揺れて、日差しの中に群れ咲くコスモスを、その影をとらえて上手く表現している。写真に見るような手法が効果的。(高橋正子)

田一枚ここのみ倒る稲穂かな★★★
緑なす赤城の肌や野分晴★★★

●高橋秀之
赤とんぼ後を追いかけ追いつかず★★★★
赤とんぼは人に親しく飛んでくるかと思えば、すっと先へ飛んで行ってしまう。追いかけるけれど、追いつけない。自由に飛ぶ赤とんぼと人のふれあいに、妙味がある。(高橋正子)

赤とんぼ目線の先をすっと飛ぶ★★★
羽ばたきもゆったりして飛ぶ秋の蝶★★★

●黒谷光子
秋草に浮きて沈みて蝶二つ★★★
縺れつつ野川を渡る秋の蝶★★★
秋蝶の黄の小さきは低く飛ぶ★★★★

●佃 康水
檀の実爆ぜて夕日へ色深む★★★
壺の中爆ぜて華やぐ檀の実★★★
稲掛けに弾む家族へ空青し★★★★

●小西 宏
柿の実の空は今年もとても広い★★★★
雨冷えの浅草あたり縄のれん★★★
澄める夜の酒や秋刀魚の一夜干★★★

10月5日

●小西 宏
森奥の土に茸の白静か★★★★
静かな森奥に生えた白い茸の辺りは、ほんのり明るくて静か。メルヘンチックな森の奥である。(高橋正子)

風さわぐ芝生に紅き小さき茸★★★
霧雨の眼鏡に当たる街明かり★★★

●小口泰與
初紅葉聞かばや志賀の峠道★★★
遠山の襞くっきりや野分晴★★★
木の実落つあぎとう鯉の目のやさし★★★

●迫田和代
祖母くれた和代は昭和の淡い月★★★
十六夜を仰ぎ坂道駈け上る★★★
青い海月明かりにて白波を★★★

●多田有花
走る人歩く人あり秋山路★★★
頂へ続く秋萩垂れる道★★★★
初物のりんごを齧る雨の午後★★★

●黒谷光子
自転車で行くすすき穂の揺らぐ道★★★
すすき道一叢ごとの穂の光り★★★
追い風にペダル軽々すすき道★★★

●井上治代
咲く花も枯れゆく花も彼岸花★★★
風唸り変幻自在に秋の雲★★★
新涼や樹間の空の青深し★★★★
新涼の季節、空をゆっくりと眺めることができるようになり、早も青が深くなった。空の青に魅了される新涼である。(高橋正子)

10月4日

●小口泰與
一本の花鶏頭や門前に★★★
草刈機撥ねて飛ばせし曼珠沙華★★★
秋草のいよよ野放図長けりけり★★★

●佃 康水
球場の真っ赤に染まり天高し★★★
檀の実弾け夕日の色増しぬ★★★
紫苑咲く塀の高さへ見え隠れ★★★ 

●多田有花
街道に辻に秋祭りの幟★★★★
朝夕肌寒くなると、秋祭りが近づく。街道や辻に祭りの幟がはためき、祭りが近いことが嬉しくなる。(高橋正子)

透き通る空の青さへ鵙高音★★★
信号を待てば金木犀の香り★★★

●古田敬二
天高しパン屋の香りの中を行く★★★
信号を渡る御所から虫の声★★★
石垣は古びてこぼす虫の声★★★

10月3日

●小口泰與
曇天の庭に咲きたる鶏頭花★★★★
曇天の下の鶏頭は、晴天の鶏頭よりも陰影に富んで、日本画的な絵になる素材だ。それに目を付けたのがよい。(高橋正子)

先駆けて山にひろごる茸かな★★★
秋の山靄の帳に隠れけり★★★

●河野啓一 
秋涼し朝の窓辺に箕面山★★★
左右から手をひかれ幼子貝割菜★★★
シップ薬放せぬ脚ぞちちろ虫★★★

●小西 宏
桜葉に紅ひそひそと秋深し★★★
天辺を欠いて切り立つ秋の虹★★★
午後四時のひとり鳴きいる法師蝉★★★

●黒谷光子
さわやかにオリオン朝の鐘を撞く★★★★ 
朝の鐘を撞くとき、暁に空にはまだオリオン座が輝いている。「さわやかに」輝いているのだ。秋暁のさわやかさが読み手の心にも沁みこんでくる。(高橋正子)

紅葉の向うに青空澄み渡る★★★
紅葉のひときわ濃きへ床几置き★★★

●川名ますみ
台風過川の上流から青天★★★
多摩川の上手にひかり台風過★★★
朝顔の隙なきほどの門前へ★★★

9月30日-10月2日

10月2日

●小口泰與
あかあかと燃え出づ日差しすすきかな★★★★
曼珠沙華今朝の赤城は紫紺なり★★★
灘酒に片や越後の濁り酒★★★

●河野啓一
ボタン植う植穴大きく堆肥入れ★★★
芋の露青空映し転がりぬ★★★★
無花果や裂けて豊かな種の見え★★★

●古田敬二
ポケットにごつごつ栗を拾いけり★★★★
「ごつごつ」がいい。「ポケットにごつごつ」とした、副詞「ごつごつ」の働きがいいのだ。情景がリアルで、作者の姿が見えてくる。(高橋信之)

コスモスを手折りて妻へ土産とす★★★
縁側へごろごろ転がす秋野菜★★★

●黒谷光子
萩の庭向こうに連なる峰三つ★★★★
句碑二つ読みあぐみおり紅葉寺★★★
紅葉に茶室幾棟光悦寺★★★

10月1日

●小口泰與
咲き満ちて鶏頭の花や青き空★★★★
この時季の時をたがえず鉦叩★★★
コスモスや山肌駆ける影迅し★★★

●河野啓一
苅田広き明日香村なる棚田かな★★★★
奈良、明日香村も稲刈りがほとんど済んで刈田が広がっている。棚田のある村に古代より繋いできた人々のゆかしい暮らしが見える。(高橋正子)

九月尽歩行練習積み重ね★★★
月招く穂芒風の吹くままに★★★

9月30日

●小口泰與
虫の音や今朝の赤城の彫り深し★★★
山肌に影流れゆく秋気かな★★★
受けつぎし杖の重さや秋の空★★★

●祝恵子
秋夕焼け飛行機雲も包まれて★★★★
夕焼けの中に延びる飛行機雲。その飛行機雲までも夕焼けにすっぽり包まれて茜色に染まっている。秋夕焼けに染まる空を見れば、温かい思いになる。(高橋正子)

芙蓉咲くこの先ゆけばお風呂屋さん★★★
五重塔水煙まぶし秋天に★★★
※俳句添削教室に、添削句を載せました。ご覧ください。

●黒谷光子
穂すすきを目じるしとして山に入る★★★
供花を切る山に団栗つややかに★★★
秋蝉のかしましき山供花を切る★★★

9月29日

●河野啓一
しらうおの便りを聞けば湖国は秋★★★★
涼新らたせせらぎの音聞きおれば★★★
草刈機ぶんぶん回れる秋の午後★★★

●小口泰與
口笛の吸い込まれゆく秋の空★★★★
秋のうららかな日。口笛を吹けば、口笛は秋の空に吸い込まれていくように鳴る。一人吹く口笛も楽しいだろう。(高橋正子)

鶺鴒や波と打ちあう舫い舟★★★
稲雀水を干したる田んぼかな★★★

●佃 康水
蓮の実の飛ぶ農道の一直線★★★★
合わせ柿甘味程よく出来上がる★★★
稲雀追われ母屋の屋根の上★★★

●桑本栄太郎
ざわざわと風を巻きおり蘆の花★★★★
花をつけた蘆原。風を巻き込むように、ざわざわと吹かれてなる。蘆の花を吹く風のわびしさが「風を巻きおり」によく表現されている。(高橋正子)

足裏に木の実踏みつつ池のふち★★★
蚯蚓鳴く闇のしじまや明日入院★★★

●多田有花
秋麗の山路静かになりにけり★★★
青空に風の音して木の実落つ★★★
秋の陽を透かし浅葱斑飛ぶ★★★

●川名ますみ
次々と梨積まれゆく荷台かな★★★
※添削教室に添削しました。ご覧ください。

梨を積みトラックやおら走りゆく★★★
富士山がようやく見えて秋の空★★★

●黒谷光子
母の忌に集う故郷萩の風★★★
はらからの話は尽きず萩の庭★★★
飛び石を伝い歩きて水引草★★★

●高橋秀之
大空の広さと競うダリヤ園★★★★
ダリアのたくましさには、広々と広がる空が似合う。大空があり、ダリアの咲き乱れる園がある。大空の力、ダリアの力が競いあっているのだ。(高橋正子)

秋空の遠くに伸びる飛行雲★★★
秋夕焼け稜線の下も染めあげる★★★