2月11日-12日

2月12日

●小口泰與
春昼や缶ドロップの音かろし★★★★
ドロップといえば、缶に入った七色のサクマドロップを思い出す。ドロップの缶を降れば軽く音がして夢が出てきそう。うららかな春の昼である。(高橋正子)

春塵や牛舎の牛の塊りて★★★
露天湯ののどけし煙り明けの鳥★★★

●多田有花
青空に斑雪の山の光りあう★★★★
「光りあう」が、早春をよく表現している。少しずつ強くなってゆく日差しに、青空も斑雪の山も輝いている。(高橋正子)

梅の花咲いてきたねと言いあいて★★★
さざなみを乗せて蛇行す二月の川★★★

●桑本栄太郎
土手草の黒き途切れや野焼川★★★
吹きさらす野面吹きぬけ余寒風★★★
たんぽぽや白髪の母の寄りそいて★★★

●小西 宏
万作の咲く青空の冷たさよ★★★★
「青空の冷たさ」が、万作の咲く季節をよく物語っている。空は青く晴れやかであるが、しんとして冷たい。そこに黄色い万作が咲いて春の訪れが確かとなる。(高橋正子)

淡雪の残るがごとく枝の梅★★★
雪解けのはだら道なる楢林★★★

●河野啓一
早朝の鳥声うれし建国日★★★★
建国記念日は、神話の世界が今も続いているようで、寒いながらも長閑けさのある日だ。早朝から鳥が囀り、国の生まれた日を祝う。(高橋正子)

建国日歴史を励ます日章旗★★★
八重椿紅き蕾の重なりて★★★

2月11日

●小口泰與
蕗の芽やちょうちん釣りの渓の魚★★★

辞令受く重さと期待風光る★★★★
重責ながらも遣り甲斐のある仕事に期待が膨らむ辞令を受けて、身の引き締まる思いと明るさが、風光る季節にふさわしい。(高橋正子)

一度会う顔と名詞の朧かな★★★

●河野啓一
民族の歴史や今日は建国日★★★
早春の朝日レースに鳥影が★★★

雪消えて餌箱架ける昼下がり★★★★
雪の積むあいだ、小鳥たちは餌をどうしていたのか。小鳥たちを思いやって、雪が消えるのを待ってさっそく餌箱を取り付けた。 慈しみのある句。(高橋正子)

●多田有花
殉教に向う歴史書冴返る★★★
春遅し踏みしめてゆく硬き土★★★
鬼追いの寺を包める余寒かな★★★

●桑本栄太郎
烈風の見よ蒼天の建国日★★★
歳時記をめくり栞の春北風(はるならい)★★★
追い越して余寒厳しき新幹線★★★

2月10日

●小口泰與
あけぼのの日の良く伸ぶや黄水仙★★★★
「日の良く伸ぶ」に爽やかな実感がある。黄水仙が春の訪れを感じさせて明るく、生き生きしている。(高橋正子)

春めくや和菓子芝舟届きたり★★★
大鉈を振るいし今朝や冴返る★★★

●下地鉄
丁子咲く一株もって墓参かな★★★
きりもなく干し綱ゆれる春嵐★★★
花辛夷見上げるほどに妻の顔★★★

●多田有花
残雪にぽつりぽつりと梅咲きぬ★★★
かたまりし雪でぬぐえる春の泥★★★
春の声ききし日よりの寒さかな★★★

●桑本栄太郎
嶺を越え峰を覆いて春の雪★★★
斑雪野や路面耀く朝のバス★★★
竹林の風梳き通る斑雪かな★★★★

●佃 康水
靄深き島へ微睡む春の鹿★★★
冠木松の雪解雫を眩しめり★★★

早春の野を通り過ぐ黄の列車★★★★
黄色の列車はいろんなところを走っているようだが、偶然出会ったのだろう。早春の野を走る黄色い車両は、幸せを運んでくるような印象だ。(高橋正子)

●高橋秀之
永き日の公園子らがまた明日★★★★
日が永くなり、公園では遅くまで遊ぶ子が増えた。「また明日」と言って別れる麗らかさがいい。明日もきっと楽しく遊べるだろう。(高橋正子)

春暁の大空広く薄き青★★★
春浅し妻と並んで歩く道★★★

●川名ますみ
春雪も雲も真白に空の青★★★★
青空へ雲と春雪ましろなり★★★
気懸かりを踏む春雪を踏む様に★★★

●古田敬二
春耕す我が濃き影を野に映し★★★★
春なのだ。日差し次第に強くなり、耕している自分の影が濃く映る。耕す我に、我と同じに動く影という友がいる。(高橋正子)

梢には芽吹き促す風のあり★★★★
一ミリのつぼみも持てり春の色★★★

●小西 宏
薄氷(うすらひ)の遍く白き池の面(おも)★★★★
満天星の芽のぴんと跳ね雪景色★★★
雪解けの坂光り濡れ淡き湯気★★★

2月9日

●小口泰與
春雪や小犬まろびて鼻白き★★★
春雪の尺の嵩越ゆ小犬かな★★★
春雪に鳥影映す朝かな★★★

●下地鉄
日に透きて高みにそよぐミモザかな★★★★
夕日伸びゆたりゆたりと春の海★★★
波の穂の吹かれて飛沫く春嵐★★★

●河野啓一
冴え返る列島すっぽり雪景色★★★
早春の鳥越漏れ来る木々の枝★★★
早春の歓び朝のコーヒーに★★★

●多田有花
何かしら華やぐ心地春の大雪★★★
早春の雪野を鉄路は伸びゆけり★★★★
春淡し雪の甍の連なりて★★★

●桑本栄太郎
野と空の境目見えず春の雪★★★
ほつほつと頬に降りいて風花す★★★
<故郷の追憶より>
引き潮の寄せて遠のき磯菜摘む★★★★

●古田敬二
春の花舗赤橙黄緑青藍紫★★★
春の雪米寿を祝いに行くときに★★★
春の雪大洋へゆっくり長良川★★★

●小西 宏
音消えて人ひとり行く雪の朝★★★
雪を掻く青き光をもろ共に★★★★
雪橇に子ら雪だらけ春の土手★★★

●高橋秀之
春浅し小鳥の声で目が覚める★★★
真っ白な雲を纏いて春の富士★★★

薄氷踏みしめ歩く子らの列★★★★

●川名ますみ
陽も風も去りけり春の粉雪に★★★

仰臥してカーテン越しの雪明り★★★★
室内に届く雪明りは意外と明るいもの。雪明りが届けば、仰臥にも心が弾む。(高橋正子)

室内に届く雪明りは、意外に明るいもの。

帰りには二個に増えたる雪だるま★★★

2月8日

●小口泰與
おおらかな朝の日輪春の湖★★★
利根川の波おらびけりしみ返る★★★
がはと起く四更の地震や冴返る★★★

●迫田和代
野火走り青空の隅を汚しけり★★★
代かわり海苔の風味の無くなって★★★
陽もあたり風も優しく野梅咲く★★★

●桑本栄太郎
雲去れば峰に現わる斑雪かな★★★
くいくいと天に反りおり桜芽木★★★★
三茱萸の赤き実乾ぶ余寒かな★★★

●小川和子
雪積る紅色に咲く椿へも★★★
こんもりと春雪被り暮るる★★★★
こんもりと春雪を被った街が暮れて、民話のような、柔らかく、静かな世界が眼前にあらわれた。その感動。(高橋正子)

春の雪軋ませ深く踏みしめる★★★★

●小西 宏
窓ガラス密かに叩き牡丹雪★★★
春吹雪わたしの街を流れゆく★★★

雪風や五右衛門風呂の小さき窓★★★★
鄙びた家の五右衛門風呂。風呂の窓も小さく風呂に入ればほっこりとした気分。外の雪風を耳に聞けばなおさらのこと、湯のあたたかさが肌身にしみる。(高橋正子)

2月7日

●小口泰與
渓流の魚の魚拓や春浅し★★★
春めくや大きく動くチワワの尾★★★
春めくや榛名の嶺に雲流る★★★

●下地鉄
花椿落ちて咲きいる重さかな★★★
うっすらと濡れるほどに蕗の薹★★★

吹く風に茅花の揺れ従わず★★★★
茅花は晩春のころ花穂をつけるが、沖縄の今はそんな気候かと思いつつ読んだ。丈の低い茅花は、風の方向に靡くとも限らない。それぞれに揺れる白くふんわりした茅花が魅力だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
風花の青にゆだねる乱舞かな★★★
ものの芽の青き枝先のびにけり★★★
声そろえ部活少女や寒戻る★★★

●多田有花
森歩く早春の雪降る中を★★★
飛行機雲余寒の空へ鮮やかに★★★★
背景は若草色に冴返る★★★

●佃 康水
春雪や朱の回廊の屋根清め★★★

黄をふふみ三椏銀の蕾解く★★★★
早春の花である三椏は銀色の蕾をつけてから開くまでが長い。蕾がはじけると黄色い手毬のような可憐な花となる。今蕾にその黄色が見えた。
春の便りでもあり、うれしいことだ。(高橋正子)

抜糸終え試歩へゆく友草萌ゆる★★★

●小西 宏
竹の葉の触れ合う音や春浅し★★★★
竹の葉の触れ合う音は春寒い風の音をよく感じさせてくれる。陽射しは明るくなったものの、吹く風はまだ冷たい。春は名のみ。(高橋正子)

早春の空に張る枝鳥の声★★★
早春を走る身体を温めつつ★★★

●古田敬二
冴え返る西空に月尖りおり★★★
カレンダーに大きな赤丸今日立春★★★
ポケットから手を出し歩く今日立春★★★

2月5日-6日

2月6日

●小口泰與
下萌や牧舎の牛の高き声★★★★
蕗の芽や利根の支流に毛鉤打つ★★★★
蕗の芽が出はじめ、利根川の支流の愛着の川だろうが、春を待ちかねて毛鉤を打った。川の水にも蕗の芽にもある早春の息吹が何よりも嬉しい。(高橋正子)

早春の風を呼びたる黒き雲★★★

●多田有花
春早しブログ始めて十周年★★★
春の雪日当たりながら降ってくる★★★★
寒戻る冷たき頬に触れてみる★★★

●河野啓一
雪山に遊ぶ雷鳥銀世界★★★
北摂の野を飾りたる牡丹雪★★★★
「北摂」を静かで明るい眼差しで詠んでいる。北摂に降る牡丹雪がはなやかだ。(高橋正子)

霜の下芽生え逞し春田かな★★★

●桑本栄太郎
雨だれの紅のしずくや梅一輪★★★
西山の峰の雲晴れ春の虹★★★

土手に群れ線路華やぐ野水仙★★★★
野水仙の咲き乱れる土手に線路が通っている。線路も、電車も、その乗客も野水仙に飾られて絵になっている。楚々とした中にも華やぎが
ある。(高橋正子)

●小西 宏
ほつほつと梅開きいて谷戸澄めり★★★★
「谷戸澄めり」に実感があって、読み手にも景色が鮮明に浮かぶ。梅の開きはじめは、あたりの空気も冷たさのなかに清潔さが感じられる。(高橋正子)

紅梅と白梅並ぶ畑の道★★★
迷子猫探すポスター春浅し★★★

2月5日

●小口泰與
春時雨農婦に道問う夕べかな★★★

春なれやシャッター音の快し★★★★
シャッターを上げ下げする音も、春の暖かさで滑りがよくなったのか、快い音を立てる。生活のこんなところも春が来ている。(高橋正子)

菜の花や羽音高らか群雀★★★

●多田有花
早春の霰の中へ歩きだす★★★★
灰色の雲飛ぶ空よ冴返る★★★
春北風に木の軋みあう音響く★★★

●桑本栄太郎
春雪の山河一気に覆いけり★★★

【原句】風花の日射す青空ちりばめて
【添削】青空に風花ちりばめ日射したり★★★★
元の句は、「ちりばめ」(他動詞)の使い方に問題があります。

ひるがえる干し物入れるしまき雲★★★

●古田敬二
五弁という約束守りて梅開花★★★
梅開花花弁に薄き蕊の影★★★
数えられる程の開花や白梅林★★★

2月3日-4日

2月4日

●小口泰與
荒ぶれる坂東太郎太郎月★★★★
太郎月は1月の異称。長男は太郎と名付けられるが、1月も最初の月だから太郎月と呼ばれて、人間味を帯びてくる。利根川の坂東太郎も坂東の雄者ぶってくる。繰り返す「太郎」によいリズムが生まれている。(高橋正子)

蕗の芽や利根の支流のごうごうと★★★
病院の暗き廊下や春嵐★★★

●下地鉄
しっかりと親子の絆郁子の花★★★★
郁子の花は、古風で品のある感じだ。そこからも優しさや「親子の絆」の麗しさが思われる。(高橋正子)

他に早く森を彩る島桜★★★★
梅園より野に咲くそれの色香かな★★★

●多田有花
立春の東の空の明けてくる★★★
立春の冷たき風の中歩く★★★立春の青空に風ごうごうと★★★

●桑本栄太郎
スキップして少女散歩の春隣り★★★★
土堤に沿い黒きうねりや畦火跡★★★
ちろちろと土管の音の春の水★★★

●小西 宏
クレヨンで面太く描き鬼は外★★★★
クレヨンでぐいぐいと太い線で描かれた鬼の面は愉快で強そうだ。「鬼は外」の声も高らかで鬼も即刻退散したであろう。

熱き湯を注ぎ立春のミルクティー★★★
立春の雨まだ寒き楢林★★★

2月3日

●小口泰與
大いなる雪の浅間や風の道★★★★
どっしりと坐った雪の浅間山。その浅間山に向かい行けば、浅間山から風が吹き下ろす。それを「風の道」と解釈した。(高橋正子)

寒明けやチワワ食卓とび降りし★★★
起重機の春満月を上げにけり★★★

●多田有花
頂に立つ春近き靄の中★★★★
気温の上昇で、靄が立ち込めた日であったが、山の頂の靄はなおさら濃く立ち込めたことであろう。春がそこまで来ているのだ。(高橋正子)

山靴で電車に揺られ冬尽きぬ★★★
節分の午後は静かに雨となり★★★

●桑本栄太郎
馥郁と枇杷の花咲く垣根坂★★★★
垣根の続く坂沿いを歩いていて不意に枇杷の花に出会ったのだろう。冬の引き締まった空気のなかに、枇杷の花の香り高い匂いには惹かれる。
ちなみに枇杷は、バラ科である。(高橋正子)

寒ゆるむ南茶屋とや辻看板★★★
一羽翔び皆とび去りぬ寒すずめ★★★

2月1日-2日

2月2日

●小口泰與
友去りて居間の広さや春隣★★★
電線に等間隔や寒雀★★★
白鳥の舞い下る影や夕日影★★★

●河野啓一
青空に一輪紅き蔓バラや★★★★
黄水仙大杯掲げ咲き初める★★★
春浅きキウイの輪切り口に入れ★★★

●桑本栄太郎
蒼天の楽譜となりぬ冬芽かな★★★

ぱつちりと土手にちりばめ犬ふぐり★★★★
この句の問題点は、「ちりばめ」の主語が何かということ。犬ふぐりが主語なら、「ちりばめられ」、「ちらばり」になる。
犬ふぐりの花は、ぱっちりと開いた小さな青い瞳のようだ。土手に散らばって咲く姿がまた可憐である。(高橋正子)

末黒野と言うにほどなき土手の跡★★★

●下地鉄
春宵や止めた喫煙欲しくなり★★★

囀りの止まり足音また聞こえ★★★★
囀っている鳥が足音を聞きつけたのか、ぴたりと鳴き止んだ。するとその静寂に足音がまた聞こえる。「また聞こえ」に鳥と人間の関わり読み取れて面白味がある。(高橋正子)

すたすたと足取り軽く春の風★★★

2月1日

●小口泰與
白菜や黒雲かずく榛名富士★★★

寒暁の鴇色の空禽の声★★★★
寒の終わりが近づくと、寒暁の空が鴇色の美しい色に染まるときがある。それに禽の声が加わって、春の間近さが思われる。(高橋正子)

寒暁の夥しけれ明烏★★★

●多田有花
新しきレインウェアに春隣★★★★
晴れ晴れと神前結婚春隣★★★
漆喰の白きに山茶花の赤し★★★

●下地鉄
春立つや空の青さに海の色★★★★
「春立つ」の声を聞けば、空の色、海の色に春らしい明るさを感じるのも人の心。春は空の色、海の色から始まる。(高橋正子)

麗らかや老いも若きも軽やかに★★★
料峭や老婦の急ぐ帰り道★★★

●桑本栄太郎
<洛西、正法寺の梅林>
琴の音の寺苑に流れ寒ゆるむ★★★
探梅や堅きつぼみの風の谷★★★
ほころびの一つ二つや梅二月★★★

1月31日

●小口泰與
風花や群より遅る鳩一羽★★★
砂時計返す露天湯北颪★★★

手袋の中の拳や星の朝★★★★
星の出ている朝は寒く冷たい。手袋をはめていても、手袋の中のがちがちの冷たい拳を意識するのだ。(高橋正子)

●多田有花
寒茜一番星の光りだす★★★
生けられて壷の蝋梅香を開く★★★
頂に春の近さを語りあう★★★★

●桑本栄太郎
ゆらり揺れ梢の影の寒ゆるむ★★★
寒禽の翔べばぱらぱら種の音★★★

学び舎のチャイム鳴りおり寒ゆるむ★★★★
学校のチャイムは、ゆっくりした時代のなごりなのか、いつでもゆっくり鳴る。学校という場を思い出すせいもあるが、のどかな気持ちになり、寒もゆるむ。(高橋正子)

●小西 宏
北風の空を斜めに鳥流る★★★
空晴れて辛夷冬芽の枝の揺れ★★★★
釣り人の石に古亀日向ぼこ★★★