◆今日の秀句/5月1日~10日◆

◆今日の秀句/5月1日~10日◆

[5月10日]
★森行けば卯月の風の葉裏かな/小西 宏
「葉裏」が印象的なのは、さわやかさ、涼しさを求めるころ。卯月という古風な呼び名にも拘わらず、新鮮な句だ。(高橋正子)

[5月9日]
★竹皮を脱ぐや一途に青空へ/桑本栄太郎
「一途に」に若竹のぐんぐんと伸びる様子が作者の感嘆の気持ちを添えて、よく表現されている。皮を脱ぎ、一晩で、1、2メートルも伸びる竹が青空へ向かう様子には目を瞠る。(高橋正子)

[5月8日]
★青空の今朝の輝き桐の花/多田有花
今朝の青空の輝き。これほど素晴らしいものはないと見れば、そこに高々と桐の花。薄紫の釣り鐘型の房様の花は、やはり古風な品があって遠目にもよくわかる。(高橋正子)

[5月7日]
★頂の優しき風へ黒揚羽/多田有花
風が心地よく吹く頂で、黒揚羽がしなやかに飛んでいる。自然界は今優しい時だ。(高橋正子)

[5月6日]
★朴の花見上げ葉影に憩いけり/桑本栄太郎
朴の花は高いところに咲くので、下からは見上げるだけ。しかし、その大いなる葉影で憩うときの心静かに涼しいこと。(高橋正子)

[5月5日]
★汁椀にますます蒼し山椒の芽/川名ますみ
山椒の芽、木の芽は香りがなんといってもよいが、その葉の緑も香りと合わせて楽しめる。汁椀に浮かぶと蒼さが引き立つ。(高橋正子)

[5月4日]
★木漏れ日の眩しさの中蝶々舞う/高橋秀之
木漏れ日のちらちらする中にまぎれるように飛ぶ蝶々。すずやかな光景だ。(高橋正子)

[5月3日]
★リュック置き若葉の丘へ子ら散りぬ/佃 康水
遠足の子どもたちであろう。リュックを置き、一目散に若葉の丘へ散っている。子どもたちも自由で、若葉もまぶしい。(高橋正子)

[5月2日]
★茶畑も八十八夜青々と/河野啓一
八十八夜の茶摘みは唱歌にも歌われて、茶摘みの景色が思い浮かぶ。八十八夜の茶畑が青々として、いよいよ茶摘みのシーズンを迎えて、心地よい5月の風景だ。(高橋正子)

[5月1日]
★新しき五月や白きハナミズキ/小西 宏
「新しき五月」が、いかにも新鮮。これは「聖五月」と表現される感覚かもしれないが、自分の感じ取った感覚を吟味している。白いミズキが、光を反射して、「新しき」を印象付けている。(高橋正子)

5月7日~10日

5月10日

●小口泰與
籐椅子やうすき靄刷く赤城山★★★★
縁側に持ち出した籐椅子だろうか。籐椅子に座り赤城山を眺めるとうすく靄が刷かれている。靄を「刷く」と捉えたところに、気持ちの優雅さが読める。(高橋正子)

日を乗せてはしる車窓の清和かな★★★
老鶯やぬか漬樽の古色なる★★★

●黒谷光子
野の花や庭の花あり花御堂★★★
甘茶仏花いっぱいの屋根重き★★★★
花御堂ところどころに造花など★★★  

●小西 宏
森行けば卯月の風の葉裏かな★★★★
「葉裏」が印象的なのは、さわやかさ、涼しさを求めるころ。卯月という古風な呼び名にも拘わらず、新鮮な句だ。(高橋正子)

坂道を紗の羽織着て黒日傘★★★
髪長き少女投球風薫る★★★

●桑本栄太郎
遠近の水田鏡や五月晴れ★★★
さざ波の代田の水のにごりけり★★★
風薫る村の辻名は南茶屋★★★★

●高橋秀之
夏風邪の床から見える青き空★★★
衣替え黒から白に部屋の中★★★★
葉桜の続く川沿い道長く★★★

5月9日

●河野啓一
緑陰を風吹きぬける昼下がり★★★
遅咲きもまた良し白いチューリップ★★★★
古池に目高群れおり輪になって★★★

●小口泰與
北軽の高原駆けるむぎわら帽★★★
波音と風のはこびし皐月かな★★★
新築のお披露目つどう若楓★★★★

●上島祥子
千切りを高く盛り付け春キャベツ★★★
千切りの響き高らか春キャベツ★★★
夏立つ日水をたたえて用水路★★★★
水がうれしい季節になった。用水路に水が満々と流れ、夏立つ日を実感させられる。初夏の明るさ、涼やかさのある句。(高橋正子)

●桑本栄太郎
<洛西の田園散策>
夏ひばり田水の天に歌いけり★★★
まんまんとさざ波湛え代田かな★★★
竹皮を脱ぐや一途に青空へ★★★★
「一途に」に若竹のぐんぐんと伸びる様子が作者の感嘆の気持ちを添えて、よく表現されている。皮を脱ぎ、一晩で、1、2メートルも伸びる竹が青空へ向かう様子には目を瞠る。(高橋正子)

●多田有花
青空へ楓若葉を透かし見る★★★
夏浅き夜の雷雨のなか帰る★★★
葉桜の青々と身を揺すりけり★★★★

5月8日

●小口泰與
五分刈りの坊主頭や風かおる★★★★
風薫る丸太橋見ゆ露天風呂★★★
新緑や山路の雨のしめやかに★★★

●古田敬二
うすみどり揺れてアカシア香りけり★★★★
ブロンズ像若葉の揺らめき空見上げ★★★
夏来る子どもあふれし乳母車★★★

●多田有花
風香る頂の木陰に座る★★★
青空の今朝の輝き桐の花★★★★
今朝の青空の輝き。これほど素晴らしいものはないと見れば、そこに高々と桐の花。薄紫の釣り鐘型の房様の花は、やはり古風な品があって遠目にもよくわかる。(高橋正子)

信号はすべてススメに青嵐★★★

●桑本栄太郎
蔓ばらの園の歌声高らかに★★★★
野の風の淡きピンクや姫女苑★★★
一畝に蝶を狂わせ葱坊主★★★

●河野啓一
瀬戸内に夏潮満ちて日暮れどき★★★
夏潮をひとまたぎして淡路島★★★
伊予水軍夏潮分けしその昔★★★★
夏潮の流れるさまを見れば、その昔、この夏潮を分けて伊予水軍が活躍したことが偲ばれる。とうとうとした夏潮の流れである。(高橋正子)

●黒谷光子
葦の間を流れ来る水清ら★★★★
豌豆の初採りほんの一握り★★★
踊子草地蔵の祠を囲むかに★★★

5月7日

●小口泰與
はっか飴舌にのせたる涼しさよ★★★
鳴きやみて忽と消えたるひばりかな★★★★
悠久の目路の榛名や夏の色★★★

●河野啓一
流れ来る調べや窓は新緑に★★★★
青柿のいと小さきが葉の陰に★★★
みどり背に真っ赤な小さいバラの花★★★

●多田有花
頂の優しき風へ黒揚羽★★★★
風が心地よく吹く頂で、黒揚羽がしなやかに飛んでいる。自然界は今優しい時だ。(高橋正子)

森渡る五月の風へ耳を澄ます★★★
若楓美しかりし人の影★★★

●桑本栄太郎
<初夏の洛西散策>
垂れ下がる虫の糸曳く聖五月★★★
新緑の木洩れ日こぼれ花の寺★★★★
ほいほいと村中よぎる五月かな★★★

●古田敬二
ヨシキリ鳴く池の夕波光る時★★★★
ヨシキリと光る夕波は、写真にも撮りたい風景だ。「夕波光る時」でこの句が引き締まった。(高橋正子)

葉桜を行けば池に水の音★★★
葉桜の覆いかぶさる東海道★★★

5月4日~6日

5月6日

●小口泰與
同胞としばらく会わず春の雷★★★★
春の暮榛名は紺をしぼりけり★★★
夕映えのしみ入る浅間雪消かな★★★

●小西 宏
新緑の欅並木の三車線★★★
地に青き葉の影の揺れ夏初め★★★★
池五月花くっきりと寒枯藺(かんがれい)★★★

●佃 康水
抜きん出て早や陽を弾く今年竹★★★★
  ひろしまフラワーフェスティバル2句
真っ直ぐな若葉の街を鼓笛隊★★★
新緑や流し踊りの連なりて★★★

●多田有花
釣竿を持つ少年の夏近し★★★★
釣竿を持っている少年を見ると、夏が来たことを実感させられる。少年の釣りは水遊びの気持ちがある。(高橋正子)

夏来る緑へ静かな雨連れて★★★
飛行機雲新緑の山の彼方より★★★

●河野啓一
初夏の朝陽さわやか晴れ渡る★★★
軽やかに鳥新緑をくぐり抜け★★★★
鳥もよほどうれしいのだろう。新緑をくぐるときの「軽やか」な身のこなし。新緑のやわらかさのが鳥喜ばせている。おりしも愛鳥週間。(高橋正子)

菊挿して鉢並べたる人の居て★★★

●桑本栄太郎
朴の花見上げ葉影に憩いけり★★★★
朴の花は高いところに咲くので、下からは見上げるだけ。しかし、その大いなる葉影で憩うときの心静かに涼しいこと。(高橋正子)

日を透けば崩れそうなるチューリップ★★★
漫々と日を集めたる浮葉かな★★★

●高橋秀之
新緑の隙間の向こうに大空が★★★
新緑と大空の色だけが見え★★★★
夏来るおはようの声も元気よく★★★

●古田敬二
風の道白くざわめく若葉山★★★
葉桜のざわめきの空明日は晴れ★★★
赤目樫夕日射し来て透き通る★★★★

5月5日

●小口泰與
行く春やしどろに作る小鳥小屋★★★
しなやかに風にしないし柳かな★★★
白波のしばしば起つや緑立つ★★★

●河野啓一
陽を受けて新樹は風にそよぎおり★★★★
蜂が飛び蝶もひらひら昼下がり★★★
鯛釣りの釣果ぞ白き刺身かな★★★

●祝恵子
土準備すれば増えおり春の苗★★★
ふっと揺れ団地に風抜け牡丹咲く★★★
鉄線花おしゃべりする児の愛らしさ★★★★

●小西 宏
子供らのままごと語りハナミズキ★★★
棘少し柵に覗かせ花蜜柑★★★★
蕗焚いて色やわらかき香り噛む★★★

●小川和子
無垢の児の日毎健やか菖蒲の日★★★★
卯の花の真白よ全き容以て★★★
夏近し百合の木新葉濃くなりぬ★★★

●桑本栄太郎
みどり濃き雨の山河や夏は来ぬ★★★
父母ありし頃の想い出こどもの日★★★
乙訓の山すそ火照り竹の秋★★★

●古田敬二
白皿に薄紅色もある春野菜★★★
風来れば葉に見え隠れ豆の花★★★★
忘れ鍬一本立てりネギ坊主★★★

●高橋秀之
銭湯の大きな湯船菖蒲の湯★★★★
銭湯の菖蒲湯はたっぷりとお湯があり、いい気分なものだ。この日は子どもたちもお湯をどぼどぼとかき混ぜたり、まさか泳ぐものはいないだろうか、賑やかであったことだろう。(高橋正子)

軒下の一竿小さな鯉のぼり★★★
葉をめくり手につく香り柏餅★★★

●川名ますみ
あす立夏山椒の苗を植え付ける★★★
汁椀にますます蒼し山椒の芽★★★★
山椒の芽、木の芽は香りがなんといってもよいが、その葉の緑も香りと合わせて楽しめる。汁椀に浮かぶと蒼さが引き立つ。(高橋正子)

青天に一条の影つばくらめ★★★

5月4日

●小口泰與
白藤や今朝の浅間は斑なり★★★★
里山の古木静けき落花かな★★★
山の日の定かに沈む桐の花★★★

●小西 宏
柔らかな五月の風に白躑躅★★★
葉擦れして風香しき薄暑かな★★★
水音の静かに聞こえ若楓★★★★

●多田有花
藤の花下がりし下を女学生★★★★
窓開けてお昼ごはんや夏隣★★★
オートバイ集団でゆく黄金週間★★★

●桑本栄太郎
木洩れ日の大き葉影や朴の花★★★★
降りつもるものの数多の暮春かな★★★
新月の朧となりて雲の影★★★

●高橋秀之
木漏れ日の眩しさの中蝶々舞う★★★★
木漏れ日のちらちらする中にまぎれるように飛ぶ蝶々。すずやかな光景だ。(高橋正子)

店先は花いっぱいの商店街★★★
散歩道葉桜の陰で一休み★★★

●黒谷光子
山峡の茶わん祭りにバスの列★★★
新緑を映す渓流光りつつ★★★★
一瞬の光り残して初燕★★★

●古田敬二
今年竹夕日が当たる高さまで★★★
俎板に新玉ねぎは水こぼす★★★★
ズミの花夕べの風に白く揺れ★★★

●佃 康水
摘みし葉の光り溢るる茶籠かな★★★★
茶籠いっぱいに摘まれた若いお茶の葉はつやつやとして、光を溢れるように反射させる。まぶしいばかりの茶葉の光に接すると気持ちが明るくなる。(高橋正子)

絣の子揉む新茶の香園に満ち★★★
お手植えの菩提樹放つ若葉光★★★

5月1日~3日

5月3日

●小口泰與
入口は連翹明かりの隧道ぞ★★★★
隧道を抜けると青葉若葉かな★★★
門前にしたたか散りし蘇芳かな★★★

●迫田和代
春日傘たたんで木陰の人となる★★★★
日傘がいるような春の日は、初夏のような陽気。木陰に入ればほっとする。一読、さわやかな風が吹く心地。(高橋正子)

目の前の光を裂いた初燕★★★
雨やんで新緑鮮やか森の道★★★

●佃 康水
リュック置き若葉の丘へ子ら散りぬ★★★★
遠足の子どもたちであろう。リュックを置き、一目散に若葉の丘へ散っている。子どもたちも自由で、若葉もまぶしい。(高橋正子)

螺旋坂彩とりどりに躑躅燃ゆ★★★
ハンカチの花や夕日へ揺れ止まず★★★

●黒谷光子
風の出て飛び立ちそうに花豌豆★★★
風の午後花豌豆の揺れどおし★★★
細き蔓宙に巻き上げ貝母百合★★★★

●多田有花
遠足の小学生に風光る★★★★
八十八夜大阪のビルの眩し★★★
急がずに行くことの良し春惜しむ★★★

●桑本栄太郎
木洩れ日の風のみどりや聖五月★★★
葉の裏の白き風ぬけ五月来る★★★
みどり為す山河憲法記念の日★★★★

●河野啓一
初夏のよき日生まれし法(のり)の日ぞ★★★★
日本国憲法が施行された日は5月3日の風薫る初夏のよき日。この日を憲法記念日として祝える日本国民は、幸せである。(高橋正子)

湯上りの団扇なつかし頃となる★★★
干し河豚をあぶり思うは旅のこと★★★

●小西 宏
艶やかに草匂いする薄暑かな★★★
ひとすじの青すがすがし韮の花★★★★
葉桜に一直線の空がある★★★

●古田敬二
アカシアの棘まだやわらかき若葉(信之添削)★★★★
ワサワサと枝ごと揺れる柿若葉★★★
夕暮れの低きに広がるウマゴヤシ★★★

5月2日

●小口泰與
花ふぶき天竜川の満々と★★★
諏訪湖より発する川や桜魚★★★★
鳥鳴くや水田にはゆる桃の花★★★

●河野啓一
茶畑も八十八夜青々と★★★★
八十八夜の茶摘みは唱歌にも歌われて、茶摘みの景色が思い浮かぶ。八十八夜の茶畑が青々として、いよいよ茶摘みのシーズンを迎えて、心地よい5月の風景だ。(高橋正子)

柿若葉透かしてそそぐ陽の光★★★
柿若葉カシューナッツもねじれおり★★★

●祝恵子
藤の花棚にまつわり空青し★★★
店舗みな藤鉢花を咲かせおり★★★
春深し土産に抹茶入りの酒★★★★

●川名ますみ
壕向こう白詰草にけぶる芝★★★★
次の角今年もきっと鯉幟★★★
青空に水木の花の白浮ける★★★

●桑本栄太郎
こでまりの花の小枝や丘の風★★★
見上げれば葉影となりぬ朴の花★★★
赤き穂の高く日当たる酸葉かな★★★★

●小西 宏
裏崖の茂みに明かし藤の花★★★
野良猫の首に躑躅の花飾り★★★

水に立つ緑明るし黄の菖蒲★★★★
黄菖蒲は花菖蒲とはまた別のもので、水から抜け出て立つ葉は、一段と明るい緑だ。そこに単純に黄色の花が咲く。涼しい感じの句だ。(高橋正子)

●古田敬二
半分に分ければ香る蓬餅★★★
ネギ坊主高低ありて風に揺れ★★★
蓬の香強き香りの餅を食う★★★★
蓬餅で一番うれしいのは、やはり蓬の香り。蓬のしっかりと匂う蓬餅は、季節の餅を味わったという満足感がある。その気持ちを正直に詠んでいる。(高橋正子)

5月1日

●小口泰與
あけぼのの野川に沿いし黄水仙★★★
笛の音やみつばつつじの池明かり★★★★
竹林に古木一本八重桜★★★

●多田有花
絵具箱に色のとりどり春深し★★★★
絵具箱にあるとりどりの色は、明るい日差しや光にその色が印象付けられる。「春深し」絵具箱が絵になった。(高橋正子)

空映す川は海へと春惜しむ★★★
パンケーキに蜂蜜とろり暮の春★★★

●桑本栄太郎
駅ごとにつつじ燃えおり阪急線★★★★
八重なれど溝に散り敷く花の屑★★★
軒端まで土堤の明かりの花菜かな★★★

●黒谷光子
青空の光り受け止め花水木★★★
花水木薄紅を刷き空へ向く★★★★
ながながと藤房土手の一木に★★★

●小西 宏
軒潜るツバメ円弧の雨上がり★★★
老農の結びたる棚豆の花★★★
新しき五月や白きハナミズキ★★★★
「新しき五月」が、いかにも新鮮。これは「聖五月」と表現される感覚かもしれないが、自分の感じ取った感覚を吟味している。白いミズキが、光を反射して、「新しき」を印象付けている。(高橋正子)

4月30日

●小口泰與
利根の水まさるや田畑つばくらめ★★★★
うぐいすや靄のおおとつ梓川★★★
黄帝の絆をつぐや鳥雲に★★★★

●祝恵子
チューリップ小雨は森に去りました★★★★
森の近くのチューリップ畑。あまりにもかわいらしいチューリップに雨は少しだけ降って森へ去っていった。ここにメルヘンが生まれた。(高橋正子)

春紫苑ゆっくり水は田に流れ★★★
ポピー揺る丘一周を囲み咲き★★★

●古田敬二
山からの水音聞きつつ摘む蕨★★★★
持ち帰る香る山菜籠いっぱい★★★
山吹に触れて旅ゆく美濃路かな★★★

●黒谷光子
八重桜辻の地蔵の天蓋に★★★★
筍の包まれ湿る新聞紙★★★
到来の春の筍みずみずし★★★

●桑本栄太郎
木洩れ日の葉影に憩い花楓★★★
草むらのからすの豌豆うすき莢★★★
想い出の走り過ぎ往き四月果つ★★★★

●川名ますみ
こでまりの団地にあふれ風白き★★★★
木の芽いろ銀杏並木のどの枝も★★★
川岸に吹き揃いたる銀杏の芽★★★

●河野啓一
雨上がり水滴らせ新樹かな★★★★
ハナミズキ白花ことに輝ける★★★
四月尽リハビリ体操ままならず★★★

4月29日

●小口泰與
さえずりや醜草ふゆる花時計★★★
林泉に群鳥あそぶ花蘇芳★★★
ちょうちょうや棚田に水のまんまんと★★★★

●河野啓一
葉桜の並木つややか風の道★★★★
アイリスの今年もおだやか咲き上る★★★
チャールストン躍るごとくにバラの花★★★

●古田敬二
初蛙田んぼは美濃の山映す★★★★
桜散る一日三度来るバスに★★★
筍のごつりと当たる靴裏に★★★

●上島祥子
鯉のぼり仲良く泳ぐ水鏡★★★★
田水が張られ、その近くに民家があるのか。ま鯉、ひ鯉、子供の鯉とそろって吹かれている様が水に映って気持ちよさそうだ。(高橋正子)

春コートクレープ食べるテラス席★★★
ガレットの焼ける香りや春盛り★★★

●桑本栄太郎
みどり為す雨の山河や昭和の日★★★★
雨音のひと日暮れゆき春惜しむ★★★
黄金週間おとこ厨の留守居かな★★★

●佃 康水
筍を茹でつつ糠を噴き零す★★★★
筍を茹でるとき油断すると灰汁を抜き、柔らかくするために加えた糠が吹きこぼれる。鍋や釜の縁に吹きこぼれた糠がこびりつくこともある。しかし、こういう事に季節の暮らしがある。(高橋正子)

足場組むパイプの音や若葉寺★★★
膨れ寄す波へこぞりて松の芯★★★★

●小西 宏
マンションの庭に鶯こだまする★★★
水の音に小さく揺れて春紫苑★★★
雨雲の垂れ来て躑躅紅の濃し★★★★

●多田有花
にぎやかにラーメンすする春の山★★★
山下りて春の夕べの薬草風呂★★★
緑いきいき晩春の雨上がり★★★★

●高橋秀之
電車待つ夜の駅舎に初燕★★★★
初燕を見かけるのは、たいてい空の下だが、作者はたまたま電車を待っている夜の駅舎で見かけた。さっそうと飛ぶ燕ではないが、駅舎の灯に照らされた燕も初燕である。(高橋正子)

とんとんと窓を打つ音春の雨★★★
春寒し小雨の通夜の帰り道★★★

●黒谷光子
仰向けもうつ伏せもあり落椿★★★
足止める三つ葉躑躅の花に葉に★★★
久に繰る古きアルバム春の夜★★★

4月28日

●古田敬二
蕨摘む朝露繁き野に入りて★★★★
蕨採りもそれに詳しい人は、朝露がびっしりと降りた時間帯に摘み取るのだろう。蕨には初夏のすがすがしさがある。(高橋正子)

蕨すくっと馬頭観音苔むして★★★
朝露をこぼして蕨手折りけり★★★

●小口泰與
初つばめ浅間雪解となりにけり★★★
高嶺雪映す水田や桃の花★★★★
百千鳥捨てかねている座椅子かな★★★

●河野啓一
朝採りのレタスサラダも新緑に★★★★
街角を曲がれば眩し花ミズキ★★★
春雨の窓辺に持ち出す碁盤かな★★★

●桑本栄太郎
歌声の園の垣根や木香薔薇★★★★
木香薔薇の垣根をめぐらす園。その園から聞こえる歌声が木香に越えてきて、優しくきよらかだ。(高橋正子)

藤色の風を浴び居り藤の棚★★★
すかんぽの想い出つなぐ赤き穂よ★★★

●黒谷光子
椿落つ戦国城主の自刃の地★★★
古戦場眼下に霞む竹生島★★★
のどけしや水車の廻る宿場町★★★

●祝恵子
牡丹咲く雑木林を抜けた寺★★★
朝は粥窓辺に二本のチューリップ★★★★
鯉のぼり空も水面も泳ぎおり★★★

4月27日

●高橋秀之
尾びれ張り生簀に一尾桜鯛★★★★
一陣の風とともに草芳しく★★★
春の草踏んでも踏んでもやわらかく★★★

●小口泰與
花よりも土にしたしき里人よ★★★
したたかに池に落ちたる椿かな★★★
青空に七堂伽藍初つばめ★★★★

●上島祥子
咲き始む牡丹置るる誕生会★★★★
牡丹の季節に生まれた人の誕生日。牡丹の似合う年齢の人だろう。華やぎと落ち着きのある誕生会。(高橋正子)

アネモネのうきうき揺れる代休日★★★
八重桜花びら散り散り坂の先 ★★★

●桑本栄太郎
陸橋の下はバス道胡桃咲く★★★★
陸橋に上れば、胡桃の花がすぐそばに見える。バス通りの並木の胡桃だろうが、洒落た街並みだ。(高橋正子)

木洩れ日の揺れる葉影や夏隣★★★
生垣の日蔭となりぬ著我の花★★★

●多田有花
遠き田に水の光りし遅桜★★★
頂まで日陰躑躅のトンネルを★★★
チューリップいつも日差しの真ん中に★★★★

●黒谷光子
雑木山芽吹きの時をはなやかに★★★★
前栽の名なき草の芽毟らるる★★★
娘の家の近づき背の山笑う★★★

●小西 宏
坂道に色替え躑躅咲き満つる★★★★
大開の躑躅にもぐる蜂の尻★★★
春風の糸に青虫腰屈む★★★

4月26日

●小口泰與
うぐいすや山を賜わる水鏡★★★
蘇芳咲くしじまの中の羽音かな★★★★
おちこちの畑に人居る百千鳥★★★

●迫田和代
春潮や終生想う馬関の海★★★
山道の花御堂前花少し★★★
遠くから春風吹いて波静か★★★★

●黒谷光子
湖よりの風野漆の低きにも★★★★ 野漆は、漆のように木ではなく草。湿り加減の土地に群生して育つ。花は若葉のような黄緑色で花よりも葉のような印象を受ける。湖の色を分けてもらったような野漆の花が風のそよぐ、湖のほとりの光景。(高橋正子)

野漆の触れてはならぬ黄のいとし★★★
野漆の湖辺の森のここかしこ★★★

●桑本栄太郎
降りつもるものの数多や春惜しむ★★★
竹筒の花壇に五色やチューリップ★★★
春暑し午後の始業のチャイムかな★★★

●河野啓一
四月尽季の過ぎゆくを惜しむかな★★★
葱坊主葉先にそれぞれ宿るとは★★★
蛍烏賊ざっと煮汁に投げ入れて★★★★

4月25日

●小口泰與
花楓彼方の山のうす霞★★★
日を透かす柿の若葉の朝かな★★★★
青柳や風やわらかき諏訪湖畔★★★

●祝恵子
蓮華草少女ら手を振り返しおり★★★★
蓮華草と少女という明るい素材が詠まれていて、日本の少女たち手を振り返し、生き生きと輝いている。(高橋正子)

藤つぼむ長き花先目の前に★★★
春花をつまみ持ちゆく友の家★★★

●河野啓一
カモミールかたまり揺れる白い風★★★★
カモミールの白い小花が咲き乱れると、風までも白く柔らかくなる。カモミールの葉のやさしさも思われる。(高橋正子)

夏隣木々の梢に力満つ★★★
古池や若草ばかり背が伸びて★★★

●上島祥子
満開を伝える藤の香寺の昼★★★★
昼間の静かなお寺に踏み入れば、藤の花の豊かな香り。これほど匂うのだから、満開なのだ。(高橋正子)

蒲公英の大地に広がる葉のとがり★★★
アネモネの飛びだす三色植木鉢★★★

●桑本栄太郎
青き葉の乾ぶ歩道や春落葉★★★
花虻の羽音に時の止まりけり★★★
校門を閉ざす垣根やつつじ燃ゆ★★★★

●多田有花
縦列駐車八重の桜の花陰に★★★★
湧き起こる花吹雪の中通り過ぎ★★★
針葉樹の緑濃きかな風光る★★★

●川名ますみ
てのひらを新樹の幹に女学生★★★★
女学生と新樹がまぶしい。女学生の柔らかなてのひらが、傷つくのもいとわないのだろうか、新樹の幹に触れている。(高橋正子)

女子大生若葉の幹にふれ歩む★★★
藤棚のあたり艶めく小学校★★★

●黒谷光子
ゆるやかに池に沿う道芝青む★★★
農道を行き突当り土筆群る★★★★
牡丹を供花とし仏前明るかり★★★

●古田敬二
春雨に二本足の傘登校児★★★
どの角を曲がれどわが街ハナミズキ★★★
玉ねぎの土盛り上げて太りいる★★★★