今日の秀句/10月1日-10日

[10月10日]
★友ありて栗の旨煮を届らる/河野啓一
栗の旨煮ができたからと届けてくれる友人がいる幸せ。季節のものを差し出してくれる、心遣いと温かさがうれしい。(高橋正子)

[10月9日]
★木犀のひともし頃の香をあびし/小口泰與
木犀が咲くころの「ひともし頃」は、うすら寒さが加わって、人恋しく思うころだ。そんなときに、木犀の甘い香りを浴びて佇むのは、とても人間らしい、よい時間と思える。(高橋正子)

[10月8日]
★十三夜読み残したる書を開く/福田ひろし
十三夜の美しい夜の静かさが、読み残している書を開かせた。読み進む本の一字一句がしっかりと身に沁みこんだことであろう。(高橋正子)

★カットして振り向くときの秋日濃し/川名ますみ
髪をカットすると、気持ちもすっきり、新鮮になる。美容院から外に出て、振り返ると秋日の色さえも、濃く目に映る。読み手には、秋日の濃さと黒髪とが、印象付けられる。(高橋正子)

[10月7日]
★ことごとく刈田となりて嵐待つ/多田有花
稲を刈り取ったあとの刈田には、整然と稲株が並ぶ。どの田も刈田となって、遅がけの台風を神妙に待ち受けている感じだ。(高橋正子)

[10月6日]
★青き香を残して暮るる刈田道/佃 康水
夕暮れの刈田の道を歩くと、稲藁の「青き匂い」がする。青き匂いのする刈田は、たわわに稔った稲穂が刈られて間もない田で、広々と、また、さびしくも思う田だ。夕暮れは、ことに刈田の匂いが心に沁みるものだ。(高橋正子)

★古き事みな懐かしき鰯雲/小西 宏
鰯雲の広がり、流れていく様子を見るにつけ、懐かしく思うことがいろいろと心に浮かぶ。過ぎ去った古いことが。うっすらと懐かしく思えるのは、歳月へのいつくしみの深さでもあるのだろう。(高橋正子)

[10月5日]
★ コスモスは楚々と佇むそれでよし/福田ひろし
コスモスは多くの人に好まれ、それだけ俳句にも多く詠まれているが、このように詠んだ句は、めずらしく潔くて気持ちがよい。「楚々と佇む」だけでよい、のが何よりだ。(高橋正子)

★稲刈りの直後に藁の香り来る/高橋秀之
稲を刈るまではそれほど藁の香りがしないが、稲を刈ると鋭いほど藁の匂いしてくる。紛々と香る藁の匂いはいいものだ。(高橋正子)

[10月4日]
★山葡萄目の前に置き深い空/迫田和代
山葡萄の色は、絵に描きとどめたいほど豊かで、西欧的な色彩だ。青、紫、うすい水色など様々な色合いが美しい。それが目の前にして見る深い秋空がは、山葡萄のよい背景だ。(高橋正子)

★繋がってとんぼう空の彼方へと/内山富佐子
繋がって空を飛んでゆくとんぼを見れば、童話的な世界が広がる。とんぼは繋がって遠くの空へゆく。やさしく、温かく、かわいらしい。そして少し哀しみがある。(高橋正子)

[10月3日]
新美南吉の故郷
★秋晴れの童話の里は花の里/黒谷光子
新美南吉の童話と言えば、「ごんぎつね」を思い出す。童話に限らず、文学作品には作者の育った土地の風景が大きく景況を及ぼしている。その土地を訪ねれば、そこに童話の世界があって、不思議ではない。(高橋正子)

 中宮寺菩薩観音像
★斑鳩のやさしき視線秋の旅/古田敬二
秋の斑鳩はしっとりと落ち着いた印象だろうと思う。そんな雰囲気にあって、中宮寺の弥勒菩薩の微笑みにも似た視線がことにやさしく感じられた。(高橋正子)

[10月2日]
★新走りそば屋ののれん風はらみ/小口泰與
新走りの酒を飲みながら蕎麦をすする。なかなか粋だ。蕎麦屋の暖簾は秋風がはらんで時折膨れる。哀愁もある。(高橋正子)

★紀の国に来て夕焼けの柿を見る/古田敬二
紀の国は、蜜柑でも知られるが、柿もたくさん出荷されている。柿の産地に来て、夕焼けに映えるたくさんの柿の実に、古き良き日本の昔が重なるように思える。(高橋正子)

[10月1日]
★豊漁のしるしや巨き鱗雲/河野啓一
空に大きく広がる鰯雲を見ていると、大海原を泳ぐ鰯にも似て、豊漁が約束されているように思う。明るく、楽しい気持ちにさせてくれる鰯雲だ。(高橋正子)

★秋高し寺の柱の確かさよ/福田ひろし
「秋高し」によって、寺の柱のまっすぐ、ゆるぎなく立っている様子がはっきりとイメージできる。空は高く澄み、寺の柱はどっしりとして「確かな風景」だ。(高橋正子)

10月1日-10日

10月10日(4名)

●河野啓一
友ありて栗の旨煮を届らる★★★★
栗の旨煮ができたからと届けてくれる友人がいる幸せ。季節のものを差し出してくれる、心遣いと温かさがうれしい。(高橋正子)

柿の赤小鳥にまかせ残り福★★★
青空に梢を抜けて百舌鳥の声★★★

●小口泰與
秋ばらや我が大腸の襞の美(は)し★★★
大腸のポリープ二たつ秋の昼★★★
胃カメラのすすっと透り今年酒★★★★

●桑本栄太郎
坂道の土手に風吹き芒の穂★★★★
草の穂や湿りふふみて風の吹く★★★
ひと眠りして起きみれば秋の雨★★★

●福田ひろし
秘境への峠に立てば風冷ゆる★★★
峠道眼下に稔り田輝ける★★★★
秋桜茅葺きの家の床光る★★★

10月9日(3名)

●小口泰與
木犀のひともし頃の香をあびし★★★★
木犀が咲くころの「ひともし頃」は、うすら寒さが加わって、人恋しく思うころだ。そんなときに、木犀の甘い香りを浴びて佇むのは、とても人間らしい、よい時間と思える。(高橋正子)

水澄むや赤むらさきの赤城山★★★
夕紅葉そびら奇岩の妙義山★★★

●桑本栄太郎
中腹の白き十字架秋の嶺★★★
黄金なる田と競いけり泡立草★★★
天心の雲に滲むや十三夜★★★★

●古田敬二
栗笑んで明日にも零れる輝きに★★★★
 円空仏
鉈跡の口元優し秋の旅★★★
句に悩む半跏思惟像秋の旅★★★

10月8日(7名)

●小口泰與
新走り浅間山(あさま)を控う佐久の鯉★★★
密やかに鮎下りける魚道かな★★★★
秋の野の貨物列車の汽笛かな★★★

●福田ひろし
新蕎麦やのぼりを揺らし市電過ぐ★★★

十三夜読み残したる書を開く★★★★
十三夜の美しい夜の静かさが、読み残している書を開かせた。読み進む本の一字一句が新鮮に身に沁みこんだことであろう。(高橋正子)

新蕎麦の老舗の墨痕豊かなり★★★

●小西 宏
水道の水に秋染む東空★★★
風に落ちし泥団栗を手に拭う★★★★
秋の陽の芝生に猫の背のやわし★★★

●河野啓一
秋高し輝く青きダイオード★★★
幟揺れて今日はコスモスフェスタかな★★★★
丘の辺に咲き乱れたる秋桜★★★

●桑本栄太郎
咲き乱れキバナコスモス更に黄を★★★
破蓮となりて拡がる池の空★★★★
うす黄葉家路のバスの迂回かな★★★

●古田敬二
彼岸花古びし土塀に沿いて咲く★★★
秋高し塔の九輪を数え見る★★★★
法隆寺苔の中より彼岸花★★★

●川名ますみ
秋日和指に毛先を巻けば撥ぬ★★★
鰯雲切りし毛先のどこへとも★★★

カットして振り向くときの秋日濃し★★★★
髪をカットすると、気持ちもすっきり、新鮮になる。美容院から外に出て、振り返ると秋日の色さえも、濃く目に映る。読み手には、秋日の濃さと黒髪とが、印象付けられる。(高橋正子)

10月7日(4名)

●多田有花
ことごとく刈田となりて嵐待つ★★★★
稲を刈り取ったあとの刈田には、整然と稲株が並ぶ。どの田も刈田となって、遅がけの台風を神妙に待ち受けている感じだ。(高橋正子)

コスモスを吹き倒してや嵐去る★★★
嵐去り雲無き空に夜半の月★★★

●小口泰與
暖求め葉月の蝶の渡りけり★★★
樫鳥や風を孕みし御神木★★★
竜胆や風の集まる蓼科湖★★★★

●内山富佐子
秋日溜め桜葉紅くなりにけり★★★★
足指の爪を切る音長き夜★★★
今宵またあの蟋蟀が独り鳴く★★★

●桑本栄太郎
干上がりて舟の岸辺や秋の川★★★
アパートの街の田中や案山子翁★★★
飛行機の機影伊丹へ秋入日★★★★

10月6日(7名)

●小口泰與
一閃の風の芒の利根川原★★★★
撫子や漆塗りなる加賀食器★★★
朝冷や棚田の空に鳶の笛★★★

●河野啓一
予報円進路気になる秋台風★★★★
キウイ苗植えんと場所を探しおり★★★
秋深し鄙の寺にも人影が★★★

●佃 康水
選手リレー声援止まぬ運動会★★★
刈る音へ俄に群るる稲雀★★★

青き香を残して暮るる刈田道★★★★
夕暮れの刈田の道を歩くと、稲藁の「青き匂い」がする。青き匂いのする刈田は、たわわに稔った稲穂が刈られて間もない田で、広々と、また、さびしくも思う田だ。夕暮れは、ことに刈田の匂いが心に沁みるものだ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
見上げいる雨の梢や庭紅葉★★★
殻のまま枝に開きし椿の実★★★★
風音の咆哮となり野分来る★★★

●小西 宏
古き事みな懐かしき鰯雲★★★★
鰯雲の広がり、流れていく様子を見るにつけ、懐かしく思うことがいろいろと心に浮かぶ。過ぎ去った古いことが。うっすらと懐かしく思えるのは、歳月へのいつくしみの深さでもあるのだろう。(高橋正子)

台風往きあっけらかんと富士の山★★★
燦然と丘に陽のある枯れ薄★★★ 

●古田敬二
法隆寺静かに秋の始まれり★★★★
講堂を風通り行く彼岸花★★★
彼岸花の直線揺らし列車行く★★★

●福田ひろし
荒天の一気に晴れて城は秋★★★★
一仕事済ませ一息秋高し★★★
老犬や桜紅葉に脚取られ★★★

10月5日

●小口泰與
草紅葉利根の川風秀でけり★★★
朝冷や赤城山(あかぎ)は裾野美しき★★★★
本堂の悟りの窓や曼殊沙華★★★

●桑本栄太郎
錦木の咲くがごとくの紅葉かな★★★
金木犀枝の容に散りにけり★★★
ベランダの蔓の末枯れ天青し★★★★

●黒谷光子
白萩の傾るる庭の石組に★★★
ほのと黄を兆して土手の泡立ち草★★★
川の辺の熟れては落つる棗の実★★★★

●福田ひろし
野分去り床のひんやり心地良し★★★

コスモスは楚々と佇むそれでよし★★★★
コスモスは多くの人に好まれ、それだけ俳句にも多く詠まれているが、このように詠んだ句は、潔くて気持ちのよい。「楚々と佇む」だけでよい、のが何よりだ。(高橋正子)

野分過ぎ季節は二コマ進みけり★★★

●高橋秀之
稲架を組む都会の中の一枚田★★★
稲刈りの単調なれどよきリズム★★★

稲刈りの直後に藁の香り来る★★★★
稲を刈るまではそれほど藁の香りがしないが、稲を刈ると鋭いほど藁の匂いしてくる。紛々と香る藁の匂いはいいものだ。(高橋正子)

10月4日

●小口泰與
あけぼのの稲田の空に鳶の笛★★★★
ばさと落つ熟柿や鴉牛舎へと★★★
カーテンの靡くや浅間山(あさま)さわやかに★★★

●迫田和代
天災の川べりに揺れる芒かな★★★
山葡萄目の前に置き深い空★★★★
山葡萄の色は、絵に描きとどめたいほど豊かで、西欧的な色彩だ。青、紫、うすい水色など様々な色合いが美しい。それが目の前にして見る深い秋空がは、山葡萄のよい背景だ。(高橋正子)

生姜湯で遠い日想ういろいろと★★★

●多田有花
食欲の秋と思いし空腹を★★★
秋雲の上を飛行機西へゆく★★★
アパートの前で秋果を集め売る★★★★

●河野啓一
月包み秋の夕焼けあかあかと★★★★
秋まきの用意終わりしプランター★★★
大和路や柿畑低き背丈低かな★★★

●黒谷光子
乗換えてまた乗換えて秋の旅★★★★
ゆるやかに土手はくねりて彼岸花★★★
彼岸花百万本とう土手を行く★★★

●桑本栄太郎
朴の葉の白く舗道へ秋日照る★★★
木蓮のうすきみどりや秋芽吹く★★★★
彷徨えるように旅立ち穂絮飛ぶ★★★

●内山富佐子
繋がってとんぼう空の彼方へと★★★★
繋がって空を飛んでゆくとんぼを見れば、童話的な世界が広がる。とんぼは繋がって遠くの空へゆく。やさしく、温かく、かわいらしい。そして少し哀しみがある。(高橋正子)

待ち合わせ金木犀の前に立つ★★★
 御嶽山噴火
一瞬の生死の境九月過ぐ★★★

10月3日

●小口泰與
敗荷や赤城山(あかぎ)は風を育みて★★★★
月代やぐい飲みに早酒満たす★★★
夕さりの赤城山(あかぎ)の風の芒かな★★★

●河野啓一
啼けよ啼け灰に埋もれし紅葉かな★★★
紙ヒコーキ秋野に飛ばし山を見る★★★★
栗載せて甘き香りのケーキかな★★★

●桑本栄太郎
十月の梢色づく青天に★★★★
コスモスの野風まかせの夕日かな★★★
彩をなす学校花壇や秋の園★★★

●黒谷光子
新美南吉の故郷
秋晴れの童話の里は花の里★★★★
新美南吉の童話と言えば、「ごんぎつね」を思い出す。童話に限らず、文学作品には作者の育った土地の風景が大きく景況を及ぼしている。その土地を訪ねれば、そこに童話の世界があって、不思議ではない。(高橋正子)

白木槿南吉生家の傍に句碑★★★
彼岸花童話の里の土手埋める★★★

●川名ますみ
うっすらと傷そだており青蜜柑★★★
浅き傷ありてやさしき青蜜柑★★★★
空と雲ばかりを話し青蜜柑★★★

●古田敬二
 中宮寺菩薩観音像
斑鳩のやさしき視線秋の旅★★★★
秋の斑鳩はしっとりと落ち着いた印象だろうと思う。そんな雰囲気にあって、中宮寺の弥勒菩薩の微笑みにも似た視線がことにやさしく感じられた。(高橋正子)

斑鳩の微笑みに会う秋の旅★★★
目に口に微笑み菩薩秋の旅★★★

10月2日

●小口泰與
山の風荒草の露一閃す★★★
新走りそば屋ののれん風はらみ★★★★
新走りの酒を飲みながら蕎麦をすする。なかなか粋だ。蕎麦屋の暖簾は秋風がはらんで時折膨れる。哀愁もある。(高橋正子)

蜻蛉や荒草あふる里の畑★★★

●古田敬二
紀の国に来て夕焼けの柿を見る★★★★
紀の国は、蜜柑でも知られるが、柿もたくさん出荷されている。柿の産地に来て、夕焼けに映えるたくさんの柿の実に、古き良き日本の昔が重なるように思える。(高橋正子)

青空と実りの色と彼岸花★★★
柿畑を抜け来る風にまどろめり★★★

●佃 康水
朝刊を胸に抱きて金木犀★★★
軽トラにつぎつぎ籾を運ばるる★★★★
青き香や刈田一面薄みどり★★★

●桑本栄太郎
青桐の房の実翳す秋日かな★★★
背の高き風の紫苑や丘の畑★★★
鉄柵を越えて揺れけり萩は実に★★★★

●小西 宏
栗毬の空洞なおも輝かし★★★★
庭生りの栗とどけられ渋皮煮★★★
秋の蚊を斬らんと欲す太刀をもて★★★

10月1日

●小口泰與
産土の端山の川や曼珠沙華★★★
あけぼのの浅間定かや稻雀★★★★
我が犬といのち共にや秋の川★★★

●河野啓一
色づきし木の葉舞いおるベンチかな★★★
豊漁のしるしや巨き鱗雲★★★★
空に大きく広がる鰯雲を見ていると、大海原を泳ぐ鰯にも似て、豊漁が約束されているように思う。明るく、楽しい気持ちにさせてくれる鰯雲だ。(高橋正子)

毬栗をそっと拾うて篭に受け★★★

●多田有花
猪の走りゆく音朝の森★★★
酔芙蓉空の青さの極まれり★★★★
名も知らぬ人と挨拶秋うらら★★★

●福田ひろし
金木犀十字十字の落花かな★★★
秋高し寺の柱の確かさよ★★★★
「秋高し」によって、寺の柱のまっすぐ、ゆるぎなく立っている様子がはっきりとイメージできる。空は高く澄み、寺の柱はどっしりとして「確かな風景」だ。(高橋正子)

彼岸花無縁の墓を囲みたり★★★

●桑本栄太郎
見上げいる天に梢や銀杏黄葉★★★
稲架竹の古び仕舞わる土の壁★★★
来て見ればすでに野風の刈田かな★★★★

●小西 宏
池の面に雲ゆるやかや松手入れ★★★
小粒なる木の実を空にハナミズキ★★★★
木にありて金木犀のただ匂う★★★

●古田敬二
栗拾う遠くに汽笛鳴りにけり★★★★
双塔の十字架高しいわし雲★★★
双塔の十字架秋の夕陽指す★★★

●デイリー句会投句箱/9月21日~30日●

※当季雑詠3句(秋の句)を<コメント欄>にお書き込みください。
※投句は、一日1回3句に限ります。
※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。
※お礼などの伝言も<コメント欄>にお書きください。

◆俳句日記/高橋正子◆は、下記のアドレスです。
http://blog.goo.ne.jp/kakan02

今日の秀句/9月21日-30日

[9月30日]
★コスモスの揺れは大きく朝の風/高橋秀之
コスモスを大きく揺らす風は、「朝の風」である。「朝の風」の透明感、爽やかさがコスモスの花の色、花姿の優しさをイメージづけている。たっぷりと吹く朝の風が心地よい。(高橋正子)

[9月29日]
★天空より翳おりてきて秋の蝶/小西 宏
空高くから降りてくる翳に気付き、なんだろうと思うとそれは蝶であったというのだ。「翳」は秋の日差しを飛ぶ「秋の蝶」だからこそ感じ取れたもの。(高橋正子)

★母屋へと重たく寄せる稲穂波/佃 康水
母屋のすぐ傍から田んぼが広がっているところ。どっしりとした母屋へと、稲穂の波が押し寄せる風景に、豊作の嬉しさが見る側にも伝わってくる。(高橋正子)

[9月28日]
★秋高しいざ斑鳩へ出かけなむ/河野啓一
天高くなると、斑鳩の里の空に憧れる。斑鳩は悠久の空が青く広がるところだ。(高橋正子)

[9月27日]
★晴れあがる青空と紫苑と色二つ/迫田和代
晴れあがった高い青空の「青」の色と、紫苑の「薄紫」の色が今二つ眼にある。この二つの色によい色調を感じ取ったのは、作者の色に対しての感な感覚。(高橋正子)

[9月26日]
★ふるさとへ戻り林の鵙高音/桑本栄太郎
ふるさとに戻った安らかさと懐かしさのなかに、鋭い鵙の高音が聞こえる。この鵙の高音こそが、わがふるさとの秋なのだ。(高橋正子)

★城立つや澄みたる沖を背景に/多田有花
山の上から見た景色だろう。きれいな青色に澄んだ沖を背景に凛と城が立つ。白鷺城だろうが、さわやかに凛とした風景。(高橋正子)

[9月25日]
★ハイウェイのはるか眼下に稲田かな/桑本栄太郎
田園地帯を走るハイウェイは、少し高い位置にあって、眼下に稲田が見渡せる。日本の秋の景色は稲田がなければ、全く違ってくるだろう。故郷へ向かう気持ちを晴れやかにしてくれる。(高橋正子)

★桂高く葉色変えつつ秋にあり/小西 宏
桂の黄葉は、銀杏に劣らず見事なものだ。桂は、今、色づき始めている。秋という季節に高々と立っている。「秋にあり」に桂の姿と空の様子が見える。(高橋正子)

[9月24日]
★一群れの集い拡がる稲雀/桑本栄太郎
稲雀は、農家には困りものだが、一群れがやってきてぱっと稲穂に散らばる様子は、稔の秋の象徴だ。稔の稲田を明るく快活にしてくれるものだ。(高橋正子)

★玄関に居間に風立つすすき活け/黒谷光子
土手からすすきを切ってきて、家の玄関や居間に埋けると、野の景色がそのままそこに移されて、さわやかな風までも吹いてくるようだ。 (高橋正子)

[9月23日]
★笛太鼓響くや秋の広き森/河野啓一
万博記念公園では、どこかで鼓笛隊のパレードでもあるのだろう。笛や太鼓の楽しい音楽が森の中まで聞こえてくる。間近で聞くよりもより、うららかなに思える。秋うららかな森の散策。(高橋正子)

[9月22日]
★父のブランデーグラスに桔梗一輪/川名ますみ
ブランデーグラスに桔梗が一輪挿されて、洒落ている。そのことは勿論だが、ブランデーグラスが思い出深い父のもので、深まりゆく秋を、父の懐のように、温かく、深く感じさせてくれる。ブランデーグラスの水と桔梗の色がきらめいている。(高橋正子)

★樫の木に日の残りいて虫の声/小西 宏
この句では、樫に日が残っているが、私は野原に残る日のなかに虫が鳴いているのをよく経験した。そういう情景を樫の木に変えて思うと、残る日にも鳴く虫にも切ないような気持ちが湧く。(高橋正子)

[9月21日]
★噴煙の果たてや蕎麦の花盛/小口泰與
噴煙の昇らない山と花盛りの蕎麦畑の取り合わせによって、静謐な風景が詠まれている。(高橋正子)

★秋空を独り占めして少女の像/内山富佐子
少女のしなやかな肢体、手をしなやかに空に伸ばしているような像が、秋空の青の中に立っている。秋空の青が少女の像をすっきりと浮かび上がらせた印象深い像だ。(高橋正子)

9月21日-30日

9月30日

●黒谷光子
留守うちに届く茗荷の香り立つ★★★
香りくる垣根も庭も金木犀★★★
零さじと挿す一枝の実紫★★★★

●小口泰與
夕映えの雲華やぐや酔芙蓉★★★
芋の葉に日の一閃や風の中★★★★
バンカーへ球飛び込むやいぼむしり★★★

●河野啓一
稲穂波かき分け揺れる案山子かな★★★
九月尽余念なき音植木職★★★★
九月尽御山御嶽さんの怒りかな★★★

●多田有花
天高しホルンを鳴らす人もいて★★★
秋風が森鳴らす音聞き歩く★★★★
真っ黒な小さき秋の蛇と会う★★★

●桑本栄太郎
彼岸花畦に色褪せ日の闌ける★★★
芋の葉の白く巻き居る日暮れかな★★★★
新月の嶺の茜や秋の宵★★★

●高橋秀之
蟋蟀の声もまばらに夜の駅★★★
コスモスの揺れは大きく朝の風★★★★
コスモスを大きく揺らす風は、「朝の風」である。「朝の風」の透明感、爽やかさがコスモスの花の色、花姿の優しさをイメージづけている。たっぷりと吹く朝の風が心地よい。(高橋正子)

コスモスや朝日に光る淡き色★★★

9月29日

●高橋秀之
静寂の夜明けの街は秋の朝★★★
秋の朝雀の鳴き声だけ響く★★★
週初めの朝を秋風吹き抜ける★★★★

●小口泰與
秋蝶の忽と乱舞や人は黙★★★
秋蝶へ花の蜜をやはなむけに★★★
小鳥来る船橋の梨届きけり★★★★

●河野啓一
天高し高速道を一直線★★★★
生駒山トンネル抜けて古都の秋★★★
奈良町を過ぎてそこには萩の寺★★★

●桑本栄太郎
晴れ上がる天に一面金木犀★★★★
うつり香もつれて家路や金木犀★★★
日を透かしうぶ毛きらめく猫じやらし★★★

●佃 康水
母屋へと重たく寄せる稲穂波★★★★
母屋のすぐ傍から田んぼが広がっているところ。どっしりとした母屋へと、稲穂の波が押し寄せる風景に、豊作の嬉しさが見る側にも伝わってくる。(高橋正子)

埋め立ての決まり最後の稲を刈る★★★
普請寺雲竜松の色変えず★★★

●小西 宏
天空より翳おりてきて秋の蝶★★★★
空高くから降りてくる翳に気付き、なんだろうと思うとそれは蝶であったというのだ。「翳」は秋の日差しを飛ぶ「秋の蝶」だからこそ感じ取れたもの。(高橋正子)

台風を撥ね除け青き高気圧★★★
犬引けば日ごとに秋の長き影★★★

●川名ますみ
箱いっぱいの野菜の上に栗二つ★★★
到来の林檎も栗も家族分★★★
曼珠沙華遺しお壕の草苅らる★★★★

9月28日

●河野啓一
秋高しいざ斑鳩へ出かけなむ★★★★
天高くなると、斑鳩の里の空に憧れる。斑鳩は悠久の空が青く広がるところだ。(高橋正子)

柿の実の日ごと太りて色づきて★★★
秋の雲ひと刷きしたし画布の上★★★

●小口泰與
初紅葉信州味噌のとどきけり★★★
暮れ方の利根の白波冷まじき★★★★
遠山へ雲湧きたつや曼珠沙華★★★

●桑本栄太郎
晴れ上がる天に色濃く金木犀★★★
手描きされもへじ顔なり案山子翁★★★
医科大を囲むポプラやうす黄葉★★★★

●小西 宏
秋日和テープを胸に駆け抜ける★★★★
晴れ空に囲を輝かせ秋の蜘蛛★★★
遠峰の影の黒さや秋高し★★★

9月27日

●迫田和代
突然に燃えあがるように曼殊沙華★★★
忘れることも供養かと秋彼岸★★★

晴れあがる青い空と紫苑と色二つ
【添削】晴れあがる青空と紫苑と色二つ★★★★
晴れあがった高い青空の「青」の色と、紫苑の「薄紫」の色が今二つ眼にある。この二つの色によい色調を感じ取ったのは、作者の色に対しての感な感覚。(高橋正子)

●小口泰與
豆菓子をかりっと噛むや秋高し★★★★
おしろいや五目並べの手の止まり★★★
稲雀二三羽もれて立ちにけり★★★

●桑本栄太郎
鳥取から高速バスで京都へ
のけぞつて秋空眺む高速バス★★★
エンジンの音に秋思の家路かな★★★
ふるさとを秋の入り日に託しけり★★★★

●多田有花
走り過ぐ車窓へ金木犀の香り★★★
抱かれいてあくびする子や秋の昼★★★
描き終えたれば窓辺に虫の声★★★★

●黒谷光子
こぼれ萩能楽堂へ急ぐ道★★★
欄干に佇ち川岸の薄もみじ★★★
竜胆の供花新しく辻地蔵★★★★

9月26日

●小口泰與
初紅葉魚眼レンズの塵を掃く★★★
山菜の天ぷら食ぶや虫の声★★★
月白や埴の壷置く食卓に★★★★

●多田有花
城立つや澄みたる沖を背景に★★★★
山の上から見た景色だろう。きれいな青色に澄んだ沖を背景に凛と城が立つ。白鷺城だろうが、さわやかに凛とした風景。(高橋正子)

驚きはひとかたまりの曼珠沙華★★★
階段をとんとん降りる爽やかに★★★

●桑本栄太郎
秋の鳥取へ帰省
海岸に沿いてプロペラ秋の風★★★
ふるさとへ戻り林の鵙高音★★★★
ふるさとに戻った安らかさと懐かしさのなかに、鋭い鵙の高音が聞こえる。この鵙の高音こそが、わがふるさとの秋なのだ。(高橋正子)

くつきりと大山の嶺秋の晴れ★★★

●小西 宏
朝の陽に虫の音のあり切通★★★★
黄葉して少し寂しき桜森★★★
テムジンの孫(そん)また来たる秋相撲★★★

9月25日

●小口泰與
初紅葉到来物に声はずみ★★★
塊りて落下はげしき稲雀★★★★
あけぼのの稲の弾むや雀どち★★★

●多田有花
秋の薔薇軒に昇らせ古き家★★★
食べおさめとなりそうな梨を頬張りぬ★★★★
山際を次々離れ秋の雲★★★

●桑本栄太郎
 秋の鳥取へ帰省
ハイウェイのはるか眼下に稲田かな★★★★
田園地帯を走るハイウェイは、少し高い位置にあって、眼下に稲田が見渡せる。日本の秋の景色は稲田がなければ、全く違ってくるだろう。故郷へ向かう気持ちを晴れやかにしてくれる。(高橋正子)

水平線の群青色や秋の海★★★
名水の天の真名井や秋の空★★★

●河野啓一
野分去りスカイブルーの朝が来る★★★
コスモスの切り絵を貼れる白い壁★★★
正確な生物時計よ曼珠沙華★★★★

●小西 宏
桂高く葉色変えつつ秋にあり★★★★
桂の黄葉は、銀杏に劣らず見事なものだ。桂は、今、色づき始めている。秋という季節に高々と立っている。「秋にあり」に桂の姿と空の様子が見える。(高橋正子)

まだ青き芝に黄葉(もみじ)の重ね置く★★★
静か夜の草むら深き虫の声★★★

9月24日

●小口泰與
唐黍や夕映えの雲浅間山(あさま)へと★★★★
椋鳥や水族館の群鰯★★★
コスモスやげに晴れわたる湖の空★★★

●内山富佐子
秋の暮ふいに飛び立つ番の鴨★★★
紅葉の順番決める日の恵み★★★
ごんぎつねの隠れているか曼珠沙華★★★★

●多田有花
秋分の空の青さを見上げおり★★★★
屋根瓦の清掃をする秋日和★★★
新しき掃除機届く秋彼岸★★★

●河野啓一
知らぬ間に綾加えきて並木道★★★
木漏れ日の嬉しき朝や秋の空★★★★
秋深く南紀の湯の香懐かしむ★★★

●桑本栄太郎
 秋の鳥取帰省
農小屋の傾ぐ辺りに野菊かな★★★
一群れの集い拡がる稲雀★★★★
稲雀は、農家には困りものだが、一群れがやってきてぱっと稲穂に散らばる様子は、稔の秋の象徴だ。稔の稲田を明るく快活にしてくれるものだ。(高橋正子)

畦に沿い哀しき色や曼珠沙華★★★

●小西 宏
萩月の風に流れる黒揚羽★★★★
草の実や狗と我との絆あり★★★
松虫の高鳴る茂み小雨降る★★★

●黒谷光子
説法の庫裡まで届く秋彼岸★★★
すすき切る鋏の音や朝の土手★★★

玄関に居間に風立つすすき活け★★★★
土手から、すすきを切ってきて、家の玄関や居間に埋けると、野の景色がそのままそこに移されて、さわやかな風までも吹いてくるようだ。 (高橋正子)
9月23日

●小口泰與
曼珠沙華忽と跳ねたる沼の鯉★★★
威銃牛舎の牛のひとところ★★★
稲雀塊り飛びて影の濃し★★★★

●古田敬二
さらさらと鞘に音鳴り種を採る★★★★
種を採る鞘からさらさら音させて★★★
種を採るさらさら実りの音させて★★★

●桑本栄太郎
 秋の鳥取へ帰省
ふるさとの野山色づく秋の声★★★
潮の香や吾がふるさとの秋の空★★★★
山陰線駅のホームの真葛原★★★

●河野啓一
 千里万博記念公園
笛太鼓響くや秋の広き森★★★★
万博記念公園では、どこかで鼓笛隊のパレードでもあるのだろう。笛や太鼓の楽しい音楽が森の中まで聞こえてくる。間近で聞くよりもより、うららかなに思える。秋うららかな森の散策。(高橋正子)

秋の森ミュージアムには特別展★★★
夕風に楽を奏でるキリギリス★★★

●小西 宏
秋彼岸石屋忙しき駐車場★★★
秋分の芝生に開く握り飯★★★★
森中に空の開けて曼珠沙華★★★

9月22日

●小口泰與
遠山の端へ日照雨や濃竜胆★★★
白壁へ飛び交う影や稻雀★★★
つんつんと背丈違えて曼珠沙華★★★★

●内山富佐子
葛の蔓空(くう)を掴んで揺れにけり★★★★
日の影に蕊で飾りて曼珠沙華★★★
教室の窓より聞ゆ秋の歌★★★

●多田有花
霊苑に車の列や秋彼岸★★★
秋蝉の声の途絶えし森となる★★★★
秋祭りの幟を立てし男たち★★★

●桑本栄太郎
ひな壇の畦の棚田や彼岸花★★★
秋澄みて隠岐の島影見えにけり★★★★
まほろばの丘の遺跡や秋高し★★★

●福田ひろし
獺祭忌人の縁など思いけり★★★
遠き地の娘を思う秋高し★★★
彼岸花工場の脇に朱を添えし★★★★

●小西 宏
落木に突き出る茸山の道★★★
秋蝶の翅紛れたる地の木の葉★★★

樫の木に日の残りいて虫の声★★★★
この句では、樫に日が残っているが、私は野原に残る日のなかに虫が鳴いているのをよく経験した。そういう情景を樫の木に変えて思うと、残る日にも鳴く虫にも切ないような気持ちが湧く。(高橋正子)

●川名ますみ
カーラジオ古き映画を秋晴に★★★
秋の窓呟くようなトロンボーン★★★

父のブランデーグラスに桔梗一輪★★★★
ブランデーグラスに桔梗が一輪挿されて、洒落ている。そのことは勿論だが、ブランデーグラスが思い出深い父のもので、深まりゆく秋を、父の懐のように、温かく、深く感じさせてくれる。ブランデーグラスの水と桔梗の色がきらめいている。(高橋正子)

9月21日
●小口泰與
噴煙の果たてや蕎麦の花盛★★★★
噴煙の昇らない山と花盛りの蕎麦畑の取り合わせによって、静謐な風景が詠まれている。(高橋正子)

瓢箪や鍋割山に雲一朶★★★
一球を泣くや子規忌の草野球★★★

●内山富佐子
秋空を独り占めして少女の像★★★★
少女のしなやかな肢体、手をしなやかに空に伸ばしているような像が、秋空の青の中に立っている。秋空の青が少女の像をすっきりと浮かび上がらせた。(高橋正子)

秋日和城址の濠の葦の風★★★
昨日より紅く黄色く照り紅葉★★★

●河野啓一
桔梗のごと端然と生きたくて★★★
萩の寺風あわあわと人の群れ★★★★
広々と刈田も空も明るかり★★★

●小西 宏
葉は緑初穂黄金に田を満たす★★★
筋雲に淡き空あり秋彼岸★★★★
秋澄みて赤々と実のハナミズキ★★★

●桑本栄太郎
秋の鳥取帰省
秋高のふるさと訛りや道の駅★★★
コスモスの風の伯耆の遺跡かな★★★
秋潮のはるか遠くに隠岐の島★★★★

今日の秀句/9月11日-20日

[9月20日]
★秋袷化粧落ちした女あり/迫田和代
秋涼の季節に相応しい織や柄の秋袷も着こなしにより雰囲気はいろいろ。隙なく装うより、少し化粧落ちしたところに、秋のさびしさもあって、個性を感じさせる。(高橋正子)

★佛にと届く大束紫苑かな/黒谷光子
紫苑は丈高く伸びて、ひと茎に咲薄紫の花もたくさんだ。その花を抱えるほどの大束にして、佛にとくれた。紫苑の優しい色があふれる。(高橋正子)

[9月19日]
★マンション群抜けて秋野を送迎車/河野啓一
送迎車は、自宅から多少離れたところへ送り迎えをしてくれ、途中の景色も楽しみなもの。マンション群が途切れたところに急に秋の風情ある野原が現れる。都市近郊の開発中のところなどで見られる景色だが、芒や千々の草を眼にすれば、嬉しいものだ。(高橋正子)

[9月18日]
★校庭に子らの飼う馬秋の風/内山富佐子
校庭で馬を飼うのは、人と馬の生活が親密な北国らしいことであると思うが、「天高く馬肥ゆる秋」の季節を迎えた。子供たちが嬉しそうに馬に餌を与えている様子を思う。(高橋正子)

★カンナ咲く角を曲がれば海に出る/多田有花
生活に海がある瀬戸内海。海の色とカンナの強い色が対比され、明快な瀬戸内らしい風景だ。(高橋正子)

[9月17日]
★名月や北へ来て居る旅の夜半/小川和子
名月の北の夜は、季節も一層進んで、月の光も冴えわたっていることだろう。北の夜半の旅愁の名月。(高橋正子)

★太鼓台金糸銀糸を秋の陽に/多田有花
新居浜の太鼓台は、勇壮できらびやかなことで名高い。太鼓台を飾る金糸、銀糸に秋陽があたるとまばゆい。太鼓台をまぶしくさせる「秋の陽」が、祭りに趣を添える。(高橋正子)

★銀漢や海峡の町の路地深く/福田ひろし
海峡のある町の路地の突き当たりは海であることも多いが、その路地の奥深くに天の川の無数の星が見える。海峡の生活の路地にぴったりと嵌った天の川だ。(高橋正子)

[9月16日]
★上流のはるか鞍馬や秋の雲/桑本栄太郎
京都の北、はるか鞍馬山の方を眺めると秋の雲が浮かんでいる。鞍馬寺、鞍馬山などで知られる鞍馬だが、はるか遠い歴史を思いださせるような秋の雲だ。(高橋正子)

[9月15日]
★子らの乗る土管の汽車や秋の風/内山富佐子
秋の風が心地よく吹くようになると、子供たちはいろんなものを見つけて遊ぶようになる。土管を汽車に見立て、土管にまたがって遊んでいる。かわいらしい風景だ。(高橋正子)

★父母を連れ海峡渡る秋高し/福田ひろし
空は高く晴れ渡り、海峡を流れる潮は明るく輝き、父母を連れての旅がよい旅で、親孝行をされた。海峡の素晴らしい景色を読み手も眺めているようだ。(高橋正子)

[9月14日]
★群れ咲きて水引草の赤の濃し/黒谷光子
水引草は、一すじの茎を伸ばし、それに米粒ほどの小さい花を茎に沿ってつける。まばらに茎が伸びていると、花の存在も空気にまぎれてしまうほど。しかし、群れ咲くとその紅色が鮮やかで、水引草の印象も強まる。(高橋正子)

[9月13日]
★数珠玉の川風に添い水に沿う/桑本栄太郎
川沿いの数珠玉を吹く風に馴染み、そこを過ぎれば、川の水の流れに沿って歩く。風に沿い、水に沿う逍遥は、数珠玉があってどこかさびしくなる。(高橋正子)

[9月12日]
★草の実や羽音きびしき群雀/小口泰與
草の実を食べる雀たちは、人が近づいたり物音がすると、一斉に飛び立つ。この時の、音が厳しく空気を切る。草の実を糧に日々命をつなぐ雀たちの厳しさを見た。(高橋正子)

★群れ飛んで夕日眩しき塩蜻蛉/小西 宏
この句では赤とんぼではなく、塩から蜻蛉が詠まれて、少し珍しい光景だ。夕日を翅に反射させる蜻蛉が眩しいのだが、夕日を取り立てて「夕日眩しき」としたのがよい。蜻蛉と夕日が一体化した。(高橋正子)

[9月11日]
★間引菜やあかあかと朝日出づ/小口泰與
朝の露を踏んで菜を間引くと、朝日があかあかと昇る。素晴らしい秋晴れの朝だ。間引菜の稚いみずみずしさと朝日は生まれ出た喜び。(高橋正子)

9月11日-9月20日

9月20日

●小口泰與
菩提寺の堂の柱へ鬼やんま★★★
朝顔の葉末そよぐや黙の中★★★
洋館にはだかる蔦の初紅葉★★★★

●迫田和代
朝の部屋まっすぐ飛び込む秋の風★★★
秋袷化粧落ちした女あり★★★★
秋涼の季節に相応しい織や柄の秋袷も着こなしにより雰囲気はいろいろ。隙なく装うより、少し化粧落ちしたところに、秋のさびしさもあって、個性を感じさせる。(高橋正子)

丸い月ガラクタ照らしつ去って行く★★★

●黒谷光子
松茸の先ずは香りを頂けり★★★
到来の松茸酢橘も添えられて★★★
佛にと届く大束紫苑かな★★★★
紫苑は丈高く伸びて、ひと茎に咲薄紫の花もたくさんだ。その花を抱えるほどの大束にして、佛にとくれた。紫苑の優しい色があふれる。(高橋正子)

●小西 宏
秋の花満ちたる原は子らの畑★★★★
犬枇杷ちょう秋の実犬と分け食べる★★★
ひょろひょろと風に揺れてる秋のバラ★★★

●多田有花
秋曇り英作文の練習中★★★★
真夜中にひいやりとして毛布出す★★★
萩咲くや朝の散歩の彩りに★★★

●桑本栄太郎
おはぐろの椎の実ほぐれ丘の上★★★
一山となりし残土や草の花★★★
母の名は智恵子と云いし秋彼岸★★★★

9月19日

●小口泰與
塊りて影のみだれぬ稲雀★★★★
明け五つ日は激しくもきりぎりす★★★
半月や博徒忠治の墓の石★★★

●河野啓一
カラコロと外湯めぐりや秋深し★★★
裏通り行けば湯けむり湯の香して★★★

マンション群抜けて秋野を送迎車★★★★
送迎車は、自宅から多少離れたところへ送り迎えをしてくれ、途中の景色も楽しみなもの。マンション群が途切れたところに急に秋の風情ある野原が現れる。都市近郊の開発中のところなどで見られる景色だが、芒や千々の草を眼にすれば、嬉しいものだ。(高橋正子)

●小川和子  
 津軽平野
陽に映える稲田貫く車窓かな★★★
四方より雲湧き上がる稲の秋★★★★
林檎樹に紅きりんごの撓わなる★★★

●小西 宏
子規の忌や心にカメラ持ち歩く★★★
波広きススキが原を雲のゆく★★★★
桃の香や遅れて来たるかぶと虫★★★

9月18日

●小川和子
岩風呂の湯の湧く音や秋灯★★★
山荘の夜は花野に更けにけり★★★
朝霧の晴れて岩木の山蒼し★★★★

●内山富佐子
秋風と競い下校の男の子★★★
校庭に子らの飼う馬秋の風★★★★
校庭で馬を飼うのは、人と馬の生活が親密な北国らしいことであると思うが、「天高く馬肥ゆる秋」の季節を迎えた。子供たちが嬉しそうに馬に餌を与えている様子を思う。(高橋正子)

噴水に小さき虹や秋日和★★★

●小口泰與
あけぼのの稲田滂沱の雫かな★★★★
榛名湖の忽と消えけり霧巻きぬ★★★
稲妻やはげしき妙義山(みょうぎ)闇の中★★★

●多田有花
カンナ咲く角を曲がれば海に出る★★★★
生活に海がある瀬戸内海。海の色とカンナの強い色が対比され、明快な瀬戸内らしい風景だ。(高橋正子)

瀬戸渡る秋夕焼けの消えゆく中★★★
頂に残る燕の飛び交いぬ★★★

●黒谷光子
破れ蓮の池に一輪遅れ咲く★★★
白萩の一株紅萩続く路★★★★
秋風に乗り籾殻を燃す煙★★★

9月17日

●小口泰與
懸命に鮎下りけり静寂のみ★★★★
湖の端を襲う木立や鬼やんま★★★
皺の手を見くらぶ顔や残る蝿★★★

●河野啓一
どんぐりを求め並木を散策す★★★★
つくつくし季節を惜しみ枝の先★★★
ゆうパック供物届くや秋彼岸★★★

●小川和子
水差しの秋水旨し岩木山(やま)の宿★★★
岩木山からの秋水喉にしみ透る★★★

名月や北へ来て居る旅の夜半★★★★
名月の北の夜は、季節も一層進んで、月の光も冴えわたっていることだろう。北の夜半の旅愁の名月。(高橋正子)

●桑本栄太郎
大橋を過ぎて祇園へ秋の色★★★
童子かと想う田中の案山子かな★★★
秋蝉のいつしか鳴かず日暮れけり★★★★

●多田有花
<西条市にて>
澄む水の湧き出すところ西条は★★★
<新居浜市にて二句>
澄む秋の沖に連なるしまなみの島★★★

太鼓台金糸銀糸を秋の陽に★★★★
新居浜の太鼓台は、勇壮できらびやかなことで名高い。太鼓台を飾る金糸、銀糸に秋陽があたるとまばゆい。太鼓台をまぶしくさせる「秋の陽」が、祭りに趣を添える。(高橋正子)

●小西 宏
杣道に紫やわき木通(あけび)の実★★★★
そよ風に桜もみじの一葉かな★★★
虫の音にビルの灯遠く瞬ける★★★

●福田ひろし
旅の朝水澄みわたる武家の町★★★
秋の水わが身冷たく癒しけり★★★

銀漢や海峡の町の路地深く★★★★
海峡のある町の路地の突き当たりは海であることも多いが、その路地の奥深くに天の川の無数の星が見える。海峡の生活の路地にぴったりと嵌った天の川だ。(高橋正子)

9月16日

●古田敬二
一歩ごと屈んで木の実拾いけり★★★★
先ず一輪朝陽を受けて彼岸花★★★
コスモスの蕾も花も揺れ優し★★★

●小口泰與
野路暮れて草の陰へと稲雀★★★
あけぼのの畦のおちこちきりぎりす★★★★
里山の雀被ける案山子かな★★★

●黒谷光子
なだらかな反り橋渡る蓮は実に★★★
女郎花切ればほろほろ黄の零れ★★★
澄む水を汲みて仏の花を挿す★★★★

●内山富佐子
影の濃く風の乾きて秋来たる★★★★
青空を掃き清めたる秋の風★★★
青空の模様替えかな秋の風★★★

●桑本栄太郎
<四条大橋~祇園界隈>
上流のはるか鞍馬や秋の雲★★★★
京都の北、はるか鞍馬山の方を眺めると秋の雲が浮かんでいる。鞍馬寺、鞍馬山などで知られる鞍馬だが、はるか遠い歴史を思いださせるような秋の雲だ。(高橋正子)

弁柄の一力茶屋に秋日かな★★★
外つ人の路地をカメラに秋日影★★★

●佃 康水
孫と手を繋ぐ絵届く敬老日★★★
柿たわゝ色の出始め子規忌来る★★★★
白塀に沿い彩れる葉鶏頭★★★

●小西 宏
冠のクヌギどんぐり王の顔★★★★
惜し惜しと森騒ぎあり秋うらら★★★
枝豆を唇に吸い夕の雲★★★

●多田有花
秋の雲流れる高架駅の上★★★★
石鎚に立ち遠望す秋の海★★★
雲の湧く頂に咲き岩桔梗★★★

9月15日

●小口泰與
きらきらと滴はく゜くむ稲田かな★★★★
木道の野末へ伸びし芒かな★★★
浅間山(あさま)へと日の退くや夕化粧★★★

●内山富佐子
九月晴れ夏のなごりの雲残し★★★
今日は北明日はひがしの秋出水★★★
子らの乗る土管の汽車や秋の風★★★★
秋の風が心地よく吹くようになると、子供たちはいろんなものを見つけて遊ぶようになる。土管を汽車に見立て、土管にまたがって遊んでいる。かわいらしい風景だ。(高橋正子)

●黒谷光子
築地塀少し崩れて実むらさき★★★★
石庭の紋様くっきり秋日差し★★★
古刹へは白壁の塀新松子★★★

●桑本栄太郎
天の地を地は天讃え秋気満つ★★★
柿の実のぬつと色づく日差しかな★★★
妻電話の赤子と話す敬老日★★★★

●小西 宏
澄む風に若きススキの硬く立つ★★★★
穂が出たばかりの若いススキが、澄んだ風にしっかりと立っている。「澄む風」「硬く立つ」の表現から、わかわかしい穂ススキの姿が読み取れる。(高橋正子)

その色も木の葉に合わせ秋の蝶★★★
ガラス窓擦(さす)るごとくに虫の声★★★

●福田ひろし
父母を連れ海峡渡る秋高し★★★★
空は高く晴れ渡り、海峡を流れる潮は明るく輝き、父母を連れての旅がよい旅で、親孝行をされた。海峡の素晴らしい景色を読み手も眺めているようだ。(高橋正子)

秋の水柄杓ことりと戻しけり★★★
海峡をまたぎて赤きうろこ雲★★★

9月14日

●小口泰與
榛名富士ねたまし霧の妙義山★★★
おしろいや羽音はげしき群雀★★★★
蔦かずら逃るる如き早き雲★★★

●桑本栄太郎
野分めく風に雄叫ぶ庭の木々★★★
山里は人住まぬかに秋の園★★★
青き網掛けて無花果熟れにけり★★★★

●黒谷光子
飛ぶことをためらっており草の絮★★★
水引草古刹の庭の片隅に★★★

群れ咲きて水引草の赤の濃し★★★★
水引草は、一すじの茎を伸ばし、それに米粒ほどの小さい花を茎に沿ってつける。まばらに茎が伸びていると、花の存在も空気にまぎれてしまうほど。しかし、群れ咲くとその紅色が鮮やかで、水引草の印象も強まる。(高橋正子)

9月13日

●古田敬二
森を行く秋の入日のほうへ行く★★★★
秋入日あれは伊吹の山の形★★★
栗実る夕陽の輝く毬の中★★★

●小口泰與
初紅葉湖は朝日を独り占め★★★
コスモスの風をまとうや川清し★★★★
つんつんと雨を刺したる濃竜胆★★★

●桑本栄太郎
数珠玉の川風に添い水に沿う★★★★
川沿いの数珠玉を吹く風に馴染み、そこを過ぎれば、川の水の流れに沿って歩く。風に沿い、水に沿う逍遥は、数珠玉があってどこかさびしくなる。(高橋正子)

高黍や風吹きすさぶ乙訓に★★★
川べりの木を覆いけり葛の花★★★

9月12日

●小口泰與
草の実や羽音きびしき群雀★★★★
草の実を食べる雀たちは、人が近づいたり物音がすると、一斉に飛び立つ。この時の、音が厳しく空気を切る。草の実を糧に日々命をつなぐ雀たちの厳しさを見た。(高橋正子)

里山の名も無き川や草の花★★★
川岸の桜紅葉のげに散りぬ★★★

●福田ひろし
明月や夜空も蒼きことを知る★★★
群青の夜空にかかる月今宵★★★★
霧の町汽笛のあとは瀬音のみ★★★

●河野啓一
新御堂青葉の陰に銀杏が★★★
笛太鼓聞きつつ歩く秋遍路★★★
鳥渡る野越え丘越え水の辺に★★★★

●桑本栄太郎
轟音の真夜に響けり秋の雷★★★
秋澄むや山河色濃くなりにけり★★★★
蘆原のオ-べーションや池の風★★★

●小西 宏
白雲の木々に眩しき九月晴★★★
柿少し色づき深き葉に重し★★★

群れ飛んで夕日眩しき塩蜻蛉★★★★
この句では赤とんぼではなく、塩から蜻蛉が詠まれて、少し珍しい光景だ。夕日を翅に反射させる蜻蛉が眩しいのだが、夕日を取り立てて「夕日眩しき」としたのがよい。蜻蛉と夕日が一体化した。(高橋正子)

●古田敬二
名月や一句浮かぶまで歩く★★★★
名月や三十八万キロ先にある丸さ★★★
名月やラジオから平家物語★★★

9月11日

●小口泰與
間引菜やあかあかと朝日出づ★★★★
朝の露を踏んで菜を間引くと、朝日があかあかと昇る。素晴らしい秋晴れの朝だ。間引菜の稚いみずみずしさと朝日は生まれ出た喜び。(高橋正子)

水滴に逆光みつる稲田かな★★★
コスモスや紫紺に暮れし赤城山★★★

●桑本栄太郎
朝冷えやコーヒーカップを掌に★★★
新駅の高架通過や稲穂波★★★★
山里はすでに燈灯り秋入日★★★

●高橋信之
秋の野を妻と二人のバスの旅★★★
白芙蓉を咲かせバス終点の村★★★
バス降りてここより歩く秋高し★★★★
バスの窓から見える景色もよいが、バスを降りて、バスの通らない道を歩くものよい。空は頭上に、青く高くあり、歩くには格好の天気だ。(高橋正子)

●高橋正子
咲き垂るる葛の花ある谷の村★★★★
少年の無口に答う葛の花★★★
秋の野に遊びて夜の薬風呂★★★