今日の秀句/11月17日~24日

[11月24日]
★田の道の冬日を抜けて家並みへと/祝恵子
遮るもののない田んぼの道には、冬日がさんさんと降り注ぐ。心地よい冬日を受けて歩くと道は家並へ続く。穏やかに晴れた日の農村を歩く幸せ。(高橋正子)

★冬紅葉の向こうに星の光あり/高橋秀之
立冬を過ぎ、夜間の気温が一段と下がると紅葉がさらに色濃く美しくなる。その紅葉が街灯に照らされているのだろう、向こうにつぶらな星の光が見える。澄んだ大気に、冬紅葉と星の光によい詩情がある。(高橋正子)

[11月23日]
★冬めきて丘の辺の道海光る/河野啓一
冬めくと、寒さ、冷たさが心身にほどよい緊張感をくれる。そんなとき、丘の辺の道を歩くと、光る海が見え、展望がほっと開けるような明るい思いになる。(高橋正子)

[11月22日]
★産土は坂の町なり寒椿/小口泰與
坂の町は変化があって詩情がある。わが産土の坂の町は、今、寒さの中に点るように寒椿が咲いている。(高橋正子)

[11月21日]
★太き枝しならせリンゴは豊作に/古田敬二
豊作のリンゴは、その重さで、太い枝をしならせている。太い枝も赤く熟れたリンゴの重量に耐えて実りを支えている。微笑みのこぼれているようなリンゴの木だ。(高橋正子)

★火を落とし灯油の香る冬の夜/福田ひろし
寝じまいに灯油ストーブの火を消すと、あとに灯油の匂いがつんと残る。灯油の匂いが冬の夜を更に静かに深くする。(高橋正子)

[11月20日]
★大雷一瞬にして冬来たる/内山富佐子
雷が鳴って季節が一変することは多い。大雷が鳴って梅雨が明けることはよく経験する。雪国の生活は知らないが、雪国では大雷が鳴って一瞬にして冬が来ることもあるのだろう。11月20日は横浜も急に冷え込み真冬のようだった。(高橋正子)

[11月19日]
★冬ぬくし京の歩きは山の寺/祝恵子
京の都は、底冷えのする京都盆地を思わせぬ「冬ぬくし」の一日。山の寺へ歩く道も暖かく気持ちがよい。
山の寺に味わいがある。(高橋正子)

★青空のはるか日射しや片時雨/桑本栄太郎
青空の高いところには日射しが見えるのに、時雨がさあっと降ってくる。時雨で知られる京都の冬の天気であるが、こういった天気にも京都の風情が思われる。(高橋正子)

[11月18日]
★生まれたての流れに沿いて冬の谷/多田有花
源流は、下流の川を想像しにくいほど小さい流れだ。その「生まれたての流れ」に沿って川と旅するように、冬枯れの谷を歩くことは、なんと心楽しいことではないか。(高橋正子)

★大漁旗迎える港の柿赤し/福田ひろし
大漁旗を立てて帰る船を迎える港には、柿が日に輝いて赤く熟れている。秋晴れの港が喜びに満ちている。漁港の風景が明らかで、勢いのある句だ。(高橋正子)

[11月17日]
★枯蘆の吾が立つ時に騒ぎけり/桑本栄太郎
離れて眺めていた枯蘆は、静かに立っていたが、傍に寄って立つと、ざわざわと戦ぐ。人に応えたように思える不思議さがある。(高橋正子)

★初冬の銀杏晴れたる大通り/小西 宏
銀杏並木の続く大通りが冬を迎えた。今日は空が晴れ渡り、銀杏黄葉が晴れやかに色を競っている。初冬の晴れ晴れとした句だ。(高橋正子)

★残菊の香りを車に野良がえり/古田敬二
野良の畑の隅に植えている小菊であろう。野良仕事の帰りに、切りとって車に乗せると、菊の良い香りが漂う。無機質な車内も菊の香りに満たされ、うれしい空間となった。(高橋正子)

11月17日~24日

11月24日(7名)

●小口泰與
夕ぐれの風の大地や枇杷の花★★★★
蜜柑もぐ山夕映えに雲一朶★★★
騒ぐ人黙の人居り冬の地震★★★

●河野啓一
冬の午後柿の葉紅く日を透かし★★★★
山茶花の紅色飽かず眺め見る★★★
箕面山紅葉散りゆく流れかな★★★

●佃 康水
封筒に爆ぜて銀杏翡翠色★★★★
夕さりて白く靡くや枯尾花★★★
陽の温み抱え絨毯敷き替える★★★

●祝恵子
田の道の冬日を抜けて家並みへと★★★★
遮るもののない田んぼの道には、冬日がさんさんと降り注ぐ。心地よい冬日を受けて歩くと道は家並へ続く。穏やかに晴れた日の農村を歩く幸せ。(高橋正子)

滝の音重なりおうて冬紅葉★★★
冬晴れて一直線に飛行雲★★★

●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランド埠頭>
入港の船の水脈曳く冬の海★★★
水脈ひろげ埠頭波打つ冬の潮★★★
起重機の街の谷間や冬紅葉★★★★

●多田有花
風吹けば冬の紅葉の舞い散りぬ★★★
よく晴れた枯葉の匂いの中歩く★★★★
雪の無きゲレンデ晴れて静かなり★★★

●高橋秀之
ライトアップに際立つ色彩冬紅葉★★★
冬紅葉の向こうに星の光あり★★★★
立冬を過ぎ、夜間の気温が一段と下がると紅葉がさらに色濃く美しくなる。その紅葉が街灯に照らされているのだろう、向こうにつぶらな星の光が見える。澄んだ大気に、冬紅葉と星の光によい詩情がある。(高橋正子)

鐘の音が冬の夜空へ流れゆく★★★

11月23日(5名)

●小口泰與
あかあかと朝日差したる冬田かな★★★★
着ぶくれて里の台地の乾きたる★★★
ざわざわと寺の竹林長火鉢★★★

●河野啓一
飛騨牛のすき焼きつつき小春かな★★★
山茶花の三つ四つ五つと咲いており★★★

冬めきて丘の辺の道海光る★★★★
冬めくと、寒さ、冷たさが心身にほどよい緊張感をくれる。そんなとき、丘の辺の道を歩くと、光る海が見え、展望がほっと開けるような明るい思いになる。(高橋正子)

●多田有花
柴犬の子犬ころころ小雪に★★★
小雪やはるかに雪待つスキー場★★★
パソコンで絵を描く勤労感謝の日★★★★

●桑本栄太郎
涸川の白きうねりのさざれかな★★★
冬紅葉隘路となりぬ天王山★★★
残りもの集め夕餉や小雪に★★★★

●小西 宏
日差し背に受けて欅の落葉道★★★★
夕暮の寒禽声を森に刺す★★★
燈火低く十一月二十二日(いいふうふのひ)鍋つつく★★★

11月22日(4名)

●小口泰與
山風のみがく石段冬紅葉★★★
夕映えの山や川辺の返り花★★★

産土は坂の町なり寒椿★★★★
坂の町は変化があって詩情がある。わが産土の坂の町は、今、寒さの中に点るように寒椿が咲いている。(高橋正子)

●迫田和代
冬来たり楽しく行こう指切りね★★★★
坂の上丘の野原に冬の花★★★
新酒の名瑞穂大地は日本一★★★

●桑本栄太郎
<阪急京都線沿線>
こんもりと桂離宮や冬の影★★★
高槻の古墳の森や冬紅葉★★★★
橙の夕日受け止めなまこ壁★★★

●多田有花
冬晴れの空まっすぐに飛行機雲★★★★
小雪の山野に彩りのあふれ★★★
若き川はにぎやかなりし冬の谷★★★

11月21日(7名)

●小口泰與
湖の面の冬夕映えや黙の中★★★
雲白き古城にたちて冬浅間山(あさま)★★★
虎落笛利根の白波尖りけり★★★★

●祝恵子
冬の蝶残れる花に辿りつく★★★
冬草の刈られ足場の無き斜面★★★★
小春日やそっと苔に触れてみる★★★

●河野啓一
初冬の空限りなく雲もなし★★★★
朝日差す厨の中や冬ぬくし★★★
ひともとの桜紅葉の風情かな★★★

●古田敬二
太き枝しならせリンゴは豊作に★★★★
豊作のリンゴは、その重さで、太い枝をしならせている。太い枝も赤く熟れたリンゴの重量に耐えて実りを支えている。微笑みのこぼれているようなリンゴの木だ。(高橋正子)

リンゴ太る畑の境をはみ出して★★★
リンゴ光る信濃の昼の畑斜面★★★

●桑本栄太郎
<桂川>
釣り人の湾処(わんど)に黙や枯尾花★★★★
<京都四条通り>
大橋を渡り南座しぐれ来る★★★
香匂う目病み地蔵や冬めける★★★

●多田有花
干し物はすでに乾きぬ初しぐれ★★★
冬麗の朝日に映える山紅葉★★★
大根にきな粉をかけておやつとす★★★★

●福田ひろし
火を落とし灯油の香る冬の夜★★★★
寝じまいに灯油ストーブの火を消すと、あとに灯油の匂いがつんと残る。灯油の匂いが冬の夜を更に静かに深くする。(高橋正子)

冬の海釣り糸の白く輝けり★★★
ハンドルの冷たさ染みる月曜日★★★

11月20日(4名)

●小口泰與
彼の山の初冠雪や冬紅葉★★★
隧道を出ずや眼間冬の靄★★★
面目も新た白樺枯木立★★★★

●内山富佐子
雷墜ちて雪の来る道拓きけり★★★
大雷一瞬にして冬来たる★★★★
雷が鳴って季節が一変することは多い。大雷が鳴って梅雨が明けることはよく経験する。雪国の生活は知らないが、雪国では大雷が鳴って一瞬にして冬が来ることもあるのだろう。11月20日は横浜も急に冷え込み真冬のようだった。(高橋正子)

渦巻きのごとき輪を描き鴨濠に★★★

●多田有花
冬の陽がさらに薄を輝かす★★★
黄葉の一木冬の山里に★★★
前山の冬の紅葉を日ごと見る★★★★

●桑本栄太郎
<初冬の四条大橋界隈>
大橋を渡り南座片しぐれ★★★
冬紅葉何処へ行つても中国語★★★
冬めくや京のつけもの老舗店★★★★

11月19日(5名)

●小口泰與
炉の前の上目ずかいのチワワかな★★★
空堀を見つめる鴉寒の朝★★★
隧道を抜けるや冬の峠道★★★★

●河野啓一
晩秋の街さまざまに木々のいろ★★★
朝日透かしかがやく桜紅葉かな★★★★
送迎車行く先々に紅葉あり★★★

●多田有花
廃屋の目立つ集落冬ざるる★★★
ブロッコリアイスランドの鉢に盛る★★★★
冬めきて日矢が照らせる播磨灘★★★

●祝恵子
冬ぬくし京の歩きは山の寺★★★★
京の都は、底冷えのする京都盆地を思わせぬ「冬ぬくし」の一日。山の寺へ歩く道も暖かく気持ちがよい。
山の寺に味わいがある。(高橋正子)

見はるかす古都の舞台の冬景色★★★
敷石の大小ありて石蕗咲けり★★★

●桑本栄太郎
検診のバスの屋根へと朴落葉★★★
落葉踏み歩きスマホや女子高生★★★

青空のはるか日射しや片時雨★★★★
青空の高いところには日射しが見えるのに、時雨がさあっと降ってくる。時雨で知られる京都の冬の天気であるが、こういった天気にも京都の風情が思われる。(高橋正子)

11月18日(7名)

●河野啓一
初冬のさくらの彩を見上げ行く★★★
百合の木の黄葉ほど良く行列し★★★★
初冬の店先埋めパンジー苗★★★

●多田有花
源流を訪ねて歩く冬はじめ★★★
生まれたての流れに沿いて冬の谷★★★★
源流は、下流の川を想像しにくいほど小さい流れだ。その「生まれたての流れ」に沿って川と旅するように、冬枯れの谷を歩くことは、なんと心楽しいことではないか。(高橋正子)

廃屋に山茶花高く咲いており★★★

●小口泰與
むら雲へ点となり行く寒雀★★★
夕日差す目路の果てなる枯尾花★★★★
白磁愛で白鳥愛ずる夕べかな★★★

●桑本栄太郎
朝日透き名もなき冬の草紅葉★★★★
にほ鳥の辺りうかがい潜きけり★★★
ひつそりと独り夕餉や神の旅★★★

●福田ひろし
鰡釣られどたりどたりと不敵なり★★★
大漁旗迎える港の柿赤し★★★★
大漁旗を立てて帰る船を迎える港には、柿が日に輝いて赤く熟れている。秋晴れの港が喜びに満ちている。漁港の風景が明らかで、勢いのある句だ。(高橋正子)

秋麗の里を見下ろす峠道★★★

●小西 宏
朝の戸を開けば落葉待ち居たり★★★★
芝に浮く落葉に小犬身の軽く★★★
枯れ色のままに散りゆく楓かな★★★

●古田敬二
鰯雲古稀過ぎてからもう五年★★★
紅葉街チェロケースの人の後を行く★★★★
三河路に引退案山子の集いおり★★★

11月17日(7名)

●内山富佐子
破蓮の濠の真中に白き鷺★★★
焼き葱の香りの満つる夕餉かな★★★★
園児らの火の用心の声小春空★★★

●小口泰與
冬利根川(とね)へ対い川風浴びにけり★★★
色紙に睦む子供ら虎落笛★★★★
早や止んで赤城颪の空しかり★★★

●河野啓一
柿を摘む高切り鋏背伸びして★★★★
摘み取りし小さな柿を並べおり★★★
明日にも散らんと桜紅葉かな★★★

●多田有花
山里は初冬の防災訓練中★★★
落葉踏み山見はるかし尾根の道★★★
谷埋める冬の紅葉を見て下る★★★★

●桑本栄太郎
影のごとあまた実の垂れ茄子枯るる★★★
枯色のゑのころさわぐ野風かな★★★

枯蘆の吾が立つ時に騒ぎけり★★★★
離れて眺めていた枯蘆は、静かに立っていたが、傍に寄って立つと、ざわざわと戦ぐ。人に応えたように思える不思議さがある。(高橋正子)

●小西 宏
街はいま桜紅葉や神無月★★★

初冬の銀杏晴れたる大通り★★★★
銀杏並木の続く大通りが冬を迎えた。今日は空が晴れ渡り、銀杏黄葉が晴れやかに色を競っている。初冬の晴れ晴れとした句だ。(高橋正子)

小春日の欅銀杏葉プラタナス★★★

●古田敬二
残菊の香りを車に野良がえり★★★★
野良の畑の隅に植えている小菊であろう。野良仕事の帰りに、切りとって車に乗せると、菊の良い香りが漂う。無機質な車内も菊の香りに満たされ、うれしい空間となった。(高橋正子)

初冬の陽久女旧居の白壁に★★★
きt団栗のひそひそ話集まりて★★★

今日の秀句/11月7日-16日

[11月16日]
★冬紅葉眺めつ山の懐へ/多田有花★★★★
色濃く鮮やかに紅葉した冬紅葉は、見事であるが、その冬紅葉の美しさを次々眺めて行けば、山懐へと入った。仙郷に入っていくような気分だろうか。(高橋正子)

[11月15日]
★境内の森を歩けば焚き火の香/多田有花
紅葉も秋を彩るもの。空に映えればことに美しいが、櫨の実に集う烏にも青空があって、冬へ向かう日々もはれやかだ。(高橋正子)

[11月14日]
★山寺や生垣成してお茶の花/佃 康水
山寺のお茶の垣根はそのたたずまいが、慎ましい。白い茶の花が咲けば、生垣も生き生きとしてくる。お茶の垣根は、実際に茶葉を摘むためだったのだろうが、静かで上品な感じが好もしい。(高橋正子)

★鰯雲妻は五十路に入りけり/福田ひろし
少し年下の妻も五十路に入った。「これからともに五十路を歩みましょう」と、空高く広がる鰯雲を眺めて思う。「鰯雲」がいい。(高橋正子)

[11月13日]
朝霜や朝の挨拶短けれ/小口泰與
朝霜が降りるようになると、人は口をつむりがちになる。朝の挨拶も、寒さの中では、つい短く。しかし、その短い挨拶があたたかい。(高橋正子)

[11月12日]
★青空に夕日集めて柿の赤/河野啓一
日没が急にやってくるまで、空は青く柿の実はあかあかと夕日を受けている。少し昔に帰れたような、暖かい風景だ。(高橋正子)

★有明の潟の海にも冬の雨/福田ひろし
有明海は、潮の干満の差が大きく、干潟が広がって、さまざまな生物を育んでいる。その潟にも寒々と冬の雨が降って眺めを煙らせている。眺めれば気宇の大きくなるような広い景色だ。(高橋正子)

[11月11日]
★蒼天が散らす紅葉の下にいる/古田敬二
頭上高く広がる紅葉の下にいると、紅葉は木が散らすのではなく、蒼天が散らすのだと思える。蒼天から降る紅葉が美しい。(高橋正子)

★雨上がり冬めく朝に日が昇る/高橋秀之
雨のあと、気温が急に下がり冬めいた朝を迎えた。太陽が溌剌と昇ってくるのも、冬を感じさせる景色。冬の太陽の勢いを「日が昇る」と力強く言い切った。(高橋正子)

[11月10日]
★真っ白な小皿に大根おろし盛る/高橋秀之
皿も真っ白、大根おろしも真っ白で、違うものが馴染みあって小さいながら白の世界を作っている。俳句形式は個人の何気ない驚きを表現するのが得意。(高橋正子)

★足弾む落葉の匂い嗅ぎながら/小西 宏
林や山を歩くと落葉の匂いが、歩く楽しさを増してくれる。足が弾みどんどんと歩きたくなる。心身ともに軽やかだ。(高橋正子)

[11月9日]
京都御所観月
★玉砂利を踏みつつ待つや後の月/桑本栄太郎
御所の観月は、さながら平安絵巻のようであろうと思う。さびしくも美しい後の月を玉砂利を踏む音とともに楽しまれた。(高橋正子)

[11月8日]
★白波の岩叩く音冬近し/迫田和代
私たちは、新しい季節の到来をいろんなところで感じる。移ろう季節を感じ取るのが俳句だと言えるが、この句もまさにそんな句。白波が岩を打つ音を聞き、またその様子を見、冬が近づいていることを感じた。(高橋正子)

★初冬の山から近くに琵琶湖見ゆ/高橋秀之
初冬の山に登る。そこの山からの眺めに琵琶湖がすぐ近くに見える。初冬の山のほっこりとした感じや、水を湛えた琵琶湖が間近に見えることは、生活に変化のある新鮮なことだ。(高橋正子)

[11月7日]
★着信がありて立冬の朝/多田有花
少し冷え込む朝、携帯電話の着信音が鳴った。いつもより響く感じで、気づけば今日は立冬ということ。何気ないようだが、周囲の音によって、季節をとらえることもある。(高橋正子)

★やまもみじ空近きより紅葉す/小西 宏
紅葉は、寒暖差のがあればあるほど美しく紅葉する。山もみじは、夜気が当たる天辺、空の近くから紅葉する。空を背景にもみじが映える。(高橋正子)

★秋深し星の明るき帰り道/高橋秀之
秋が深まり、空気もますます澄んできて、夜空の星も明るさを増す。帰宅の道に明るい星が出ていると、一日の疲れも、癒されよう。(高橋正子)

11月7日(立冬)-16日

11月16日(5名)

●小口泰與
耳立てて炉話聞きし小犬かな★★★
仰ぎたる雪の浅間の冥加かな★★★
噴煙の南をさすや冬木立★★★★

●多田有花
小春日の胸の中まで青き空★★★
早朝の電車を待てば息白し★★★

冬紅葉眺めつ山の懐へ★★★★
色濃く鮮やかに紅葉した冬紅葉は、見事であるが、その冬紅葉の美しさを次々眺めて行けば、山懐へと入った。仙郷に入っていくような気分だろうか。(高橋正子)

●桑本栄太郎
校門の灯りとなすや石蕗の花★★★
惜しみつつ踏みゆく桜落葉かな★★★
鳰浮かぶ水面夕空映しけり★★★★

●高橋秀之
天保山桜紅葉の続く道★★★★
一枚の桜落葉を手にかざす★★★
冬の日が照らす波間を小舟ゆく★★★

●小西 宏
日曜の親子ら集い落葉掃く★★★★
さわさわと芝の朝日に敷く落葉★★★
いま街の楓は冬の紅葉かな★★★

11月15日(7名)

●迫田和代
神無月松の落ち葉の散歩道★★★
広島に紅葉紅葉の大通り★★★★
晴れ着なし下着並べる老いの冬★★★

●小口泰與
冬ばらのこうべを下げて暮にけり★★★
寒菊や初冠雪の浅間山★★★
あけぼのの汀おうとつ落葉かな★★★

●桑本栄太郎
送電線野から嶺へと冬の霧★★★
惜しみつつ踏みゆく桜落葉かな★★★
真つ白となりし中洲や枯尾花★★★★

●多田有花
単線の駅舎のそばの冬菜畑★★★
冬紅葉いよいよ鮮やかなりし頃★★★

境内の森を歩けば焚き火の香★★★★
焚き火の香りはいいものだ。境内かどこかで落ち葉を燃やしているのか、焚き火の匂いに、あたたかく、懐かしいものを感じた。(高橋正子)

●河野啓一
空晴れて伯耆大山粧えり★★★
海遠く望みて山の紅葉かな★★★
港町見おろす紅葉六甲山★★★★

●小西 宏
落葉厚く玄関に待つ朝新し★★★
冬薔薇の枝細き先ひとつ赤★★★

櫨の実に集う鴉の青空よ★★★★
櫨の実は、木蝋の原料となるが、また一方、烏など鳥の高カロリーの餌として好まれるらしい。櫨紅葉も秋を彩るもの。空に映えればことに美しいが、櫨の実に集う烏にも青空があって、冬へ向かう日々もはれやかだ。(高橋正子)

●高橋秀之
冬晴れも青空霞む告別式★★★
冬の朝読経と木魚をたたく音★★★
北風の中を出棺掌を合わす★★★★

11月14日(7名)

●小口泰與
小春日のことに鳥語の夕べかな★★★★
冬ばらのあえかな瑞枝風の中★★★
飯田へと今年も参る桜鍋★★★

●多田有花
冬の陽が森へ斜めに差しにけり★★★
ランドセル駆け出す冬の横断歩道★★★
テニスコート張替えられて冬めく日★★★★

●桑本栄太郎
剪定の瘤の白さや冬ざるる★★★
黒き実の垂れて茄子畑枯れにけり★★★
冬菊の括られなおも鮮やかに★★★★

●佃 康水
遊覧船湖面に紅葉散り止まず★★★
巡る湖に小さき水輪や初時雨★★★

山寺や生垣成してお茶の花★★★★
山寺のお茶の垣根はそのたたずまいが、慎ましい。白い茶の花が咲けば、生垣も生き生きとしてくる。お茶の垣根は、実際に茶葉を摘むためだったのだろうが、静かで上品な感じが好もしい。(高橋正子)

●小西 宏
通勤の襟の身支度落葉踏む★★★
満々と陽より欅の落葉する★★★★
落葉積む谷戸に鋭き鳥の声★★★

●黒谷光子
初冬の色扱き混ぜて宮の杜★★★
土手行けば桜紅葉の降りかかる★★★★
村中の防災訓練寒き朝★★★

●福田ひろし
鰯雲妻は五十路に入りけり★★★★
少し年下の妻も五十路に入った。「これからともに五十路を歩みましょう」と、空高く広がる鰯雲を眺めて思う。「鰯雲」がいい。(高橋正子)

十里先冬野の鉄塔陽に光る★★★
一雨ごとに心温もる暮れの秋★★★

11月13日(6名)

●小口泰與
白波のみぎわを刷くや冬紅葉★★★
冬紅葉山を離れて雲迅み★★★

朝霜や朝の挨拶短けれ★★★★
朝霜が降りるようになると、人は口をつむりがちになる。朝の挨拶も、寒さの中では、つい短く。しかし、その短い挨拶があたたかい。(高橋正子)

●多田有花
山茶花に時おり吹いて山の風★★★
薄き陽に皇帝ダリア高く咲く★★★★
風の音電気ストーブを出しぬ★★★

●桑本栄太郎
もの思いしつつ落葉を踏みゆけり★★★★
落葉掃く後からあとへ落葉散る★★★
ひつじ穂のみのり哀しき野風かな★★★

●小西 宏
犬に服着せて落葉の風の中★★★
鈴懸の落葉駆けゆくゲートボール★★★★
冬晴れて高き柿の実仰ぎ見る★★★

●佃 康水
 広島帝釈峡へバスの旅
渦巻きて早瀬をいそぐ落葉かな★★★
峠越え嶺にたなびく冬の霧★★★
大銀杏古刹に黄葉散り敷きぬ★★★★

●古田敬二
芒刈る亡父使いし鎌をもて★★★★
かさこそと音して落ち葉の街路★★★
海の色に塩つけサンマ焼き上がる★★★

11月12日(7名)

●小口泰與
短日や仏壇とじて旅に出づ★★★★
冬天や小出しの星の磨かれし★★★
山風の雲をまろめつ花八手★★★

●河野啓一
青空に夕日集めて柿の赤★★★★
日没が急にやってくるまで、空は青く柿の実はあかあかと夕日を受けている。少し昔に帰れたような、暖かい風景だ。(高橋正子)

丘の辺の畑に無花果もぎし頃★★★
間引き菜を油であえてサラダかな★★★

●福田ひろし
有明の潟の海にも冬の雨★★★★
有明海は、潮の干満の差が大きく、干潟が広がって、さまざまな生物を育んでいる。その潟にも寒々と冬の雨が降って眺めを煙らせている。眺めれば気宇の大きくなるような広い景色だ。(高橋正子)

羽音だけ騒がしき鴨わずか飛ぶ★★★
眠たげな下弦の月はぼってりと★★★

●多田有花
青空に雲を探すや小六月★★★
黄蝶飛ぶ小春日和の中を飛ぶ★★★★
アスファルトを枯葉転がる音がする★★★

●桑本栄太郎
小雨降る在所は冬の紅葉かな★★★
括られて冬菊しとど濡れにけり★★★★
山崎の西国街道しぐれ来る★★★

●小西 宏
初冬の朝街灯の白き冴え★★★
冬日差し銀杏いよいよ黄の茂り★★★
黄昏の天より欅もみじ降る★★★★

●古田敬二
いずこから渡り来たるや鶫鳴く★★★
木洩れ日が届くま白に花八つ手★★★
立冬の陽はあたたかし森を行く★★★★

11月11日(7名)

●古田敬二
遠回りして故里を嗅ぐ枇杷の花★★★
蒼天が散らす紅葉の下にいる★★★★
頭上高く広がる紅葉の下にいると、紅葉は木が散らすのではなく、蒼天が散らすのだと思える。蒼天から降る紅葉が美しい。(高橋正子)

冬鳥の騒ぎし後は風の音★★★

●小口泰與
新築の木槌の音や夕焚火★★★★
白樺の上枝にまれの枯葉かな★★★
我がろう居風のきしみや冬に入る★★★

●黒谷光子
ここかしこ五六本づつ石蕗の花★★★
雪吊りに庭の景色の一変す★★★★
藁の衣と帽子蘇鉄の雪囲い★★★

●多田有花
運やツキやっぱりあるよ冬はじめ★★★
小春日の空の青さに小菊の黄★★★★
六甲も淡路も隠し冬霞★★★

●桑本栄太郎
身ほとりの色濃くなりぬ冬の雨★★★
石垣の雨に色濃き蔦紅葉★★★★
ワイパーの時折り振れる時雨バス★★★

●中野けいこ
曇天をなほ色濃くす寒鴉★★★
冬の日の小さき陽向ねこのやま★★★
秒針と雪降る音が響く夜★★★★

●高橋秀之
雨上がり冬めく朝に日が昇る★★★★
雨のあと、気温が急に下がり冬めいた朝を迎えた。太陽が溌剌と昇ってくるのも、冬を感じさせる景色。冬の太陽の勢いを「日が昇る」と力強く言い切った。(高橋正子)

鳴き声も足音もなく冬の朝★★★
店頭に並ぶポインセチアの赤い列★★★

11月10日(5名)

●小口泰與
夕暮の落葉かけ行く峠かな★★★
佐久鯉や浅間颪の夕間暮れ★★★
山茶花の風とむつみし赤城山(信之添削)★★★★

●多田有花
ベルリンの壁壊れしも初冬なり★★★★
冬浅き森の上ゆく風を聞く★★★
冬の蝶しばらく傍を飛びにけり★★★

●桑本栄太郎
<御所西、烏丸通りの護王神社>
和気公の護王神社や銀杏黄葉★★★
<護王神社境内特別舞台>
冷ややかに琵琶の語りの媼かな★★★
ひらひらと単衣山茶花開きけり★★★★

●高橋秀之
真っ白な小皿に大根おろし盛る★★★★
皿も真っ白、大根おろしも真っ白で、違うものが馴染みあって小さいながら白の世界を作っている。俳句形式は個人の何気ない驚きを表現するのが得意。(高橋正子)

大根の太きところをぶつ切りに★★★
大根の熱き煮物を吹き冷ます★★★

●小西 宏
大根の青首ならぶ黒き畝★★★
まだ少し濡れたる道の楢落葉★★★

足弾む落葉の匂い嗅ぎながら★★★★
林や山を歩くと落葉の匂いが、歩く楽しさを増してくれる。足が弾みどんどんと歩きたくなる。心身ともに軽やかだ。(高橋正子)

11月9日(5名)

●中野けいこ
かけまわる子まきあげる秋の色★★★
七竈見て口紅の色を変え★★★★
こんこんと咳がノックか冬将軍★★★

●小口泰與
冬霧の朝日に透ける山の木々★★★
小春日や木々のおちこち鳥の声★★★
佐久鯉のはねし彼方の冬もみじ★★★★
●河野啓一
箕面川流れの音も秋惜しむ★★★
生駒山風土記の丘や暮の秋★★★
空広く伯耆大山装えり★★★★

●桑本栄太郎
<京都御所観月>
うす闇の御所に色濃く夕紅葉★★★
夕闇を見上げ銀杏の黄葉かな★★★

玉砂利を踏みつつ待つや後の月★★★★
御所の観月は、さながら平安絵巻のようであろうと思う。さびしくも美しい後の月を玉砂利を踏む音とともに楽しまれた。(高橋正子)

●高橋秀之
短日や路面軌道をすれ違う★★★
冬空は薄雲広く隙間なく★★★
鋼索線紅葉の濃さが変わりゆく★★★★

11月8日(7名)

●古田敬二
地に落ちて白山茶花は色変えず★★★
秋の蝶鮮やか過ぎる黄色着て★★★
秋耕の背中へ届く優しき陽★★★★

●迫田和代
山あいの紅葉の上に青い空★★★
川土手の身にしむ寒さ道急ぐ★★★
白波の岩叩く音冬近し★★★★
私たちは、新しい季節の到来をいろんなところで感じる。移ろう季節を感じ取るのが俳句だと言えるが、この句もまさにそんな句。白波が岩を打つ音を聞き、またその様子を見、冬が近づいていることを感じた。(高橋正子)

●小口泰與
夕暮の赤城颪に屋根の揺れ★★★
冬帽や水の矢じりにたじろがず★★★
小春日や和紙に墨痕太き文字★★★★

●桑本栄太郎
<京都御所、後の十三夜>
松籟と月の名残の御苑かな★★★★
末の世は吾無き後の十三夜★★★
御苑なる吾も過客や後の月★★★

●小西 宏
一本の赤四手もみじ陽の明るさ★★★
アパートのベランダに柿干してあり★★★★
暮の秋欅の影を黄昏に★★★

●多田有花
立冬の満月昇る飯を炊く★★★
散りきって頂の木々雪を待つ★★★
渓流の音をたどりて冬紅葉★★★★

●高橋秀之
山門を過ぎれば紅葉の少しある★★★
初冬の山から近くに琵琶湖見ゆ★★★★
初冬の山に登る。そこの山からの眺めに琵琶湖がすぐ近くに見える。初冬の山のほっこりとした感じや、水を湛えた琵琶湖が間近に見えることは、生活に変化のある新鮮なことだ。(高橋正子)

暮れ早し浜大津港に船戻る★★★

11月7日(6名)

●小口泰與
ひつじ田へ数多の雀雨後の朝★★★★
返り花老いを潤おす趣味二つ★★★
山風のまして上州虎落笛★★★

●多田有花
着信がありて立冬の朝★★★★
少し冷え込む朝、携帯電話の着信音が鳴った。いつもより響く感じで、気づけば今日は立冬ということ。何気ないようだが、周囲の音によって、季節をとらえることもある。(高橋正子)

飛行機が冬の紅葉を渡りけり★★★
なだらかな山の連なり冬に入る★★★

●柴田蓮太郎
姪姉妹かわいい盛り秋嵐★★★★
紅葉と雲の切れ間に紫煙吐き★★★
タイヤ換え父に習いし日を想い★★★

●桑本栄太郎
<秋の京都御所開放見学>
菊飾る御車寄せや御所の庭★★★★
ほんものの御所車見し御所の秋★★★
主の在さぬ御常御所とや暮の秋★★★

●小西 宏
団栗を埋めてやわき橡道★★★
やまもみじ空近きより紅葉す★★★★
紅葉は、寒暖差のがあればあるほど美しく紅葉する。山もみじは、夜気が当たる天辺、空の近くから紅葉する。空を背景にもみじが映える。(高橋正子)

崖道の暗がり深く秋椿★★★

●高橋秀之
気が付けば嬉し恥ずかし小菊咲く★★★
陽は南小さい菊も同じ向き★★★

秋深し星の明るき帰り道★★★★
秋が深まり、空気もますます澄んできて、夜空の星も明るさを増す。帰宅の道に明るい星が出ていると、一日の疲れも、癒されよう。(高橋正子)

今日の秀句/11月1日-6日

[11月6日]
★破蓮の濠にあおぞら戻りけり/内山富佐子
破蓮の濠は、曇れば蕭条とした感じに、青空になれば、濠に青空が映りからっとした感じになる。「濠にあおぞら戻り」がうまい。(高橋正子)

★鮃そぎ明日立冬の静かさに/川名ますみ
透明感のある白い鮃の身がそがれ、明日は立冬という日の俎板にある。その存在感。(高橋正子)

[11月5日]
★紅葉の鍋割山(なべわり)も雨貯えし/小口泰與
鍋割山は、神奈川の丹沢山系や群馬県など、日本にいくつかあるようだ。鍋を割って伏せたような山か。その名前に昔話の雰囲気がある。雨が降るたびに季節が進み、紅葉の山となり、落ち葉の重なる沢道を歩けば、水が滲んでくる。「雨貯えし」が句を膨らませた。(高橋正子)

★獅子の舞う稲刈り終えし家の庭/祝恵子
農家の家々を訪ねて獅子舞がくる。稲刈りを終え、収穫への感謝と無病息災を願っての獅子舞であろう。獅子舞が来て一連の農作業が終わり、冬を迎える落ち着いた気持ちが読める。(高橋正子)

[11月4日]
秋高し一朶の雲を探しおり/福田ひろし
雲一つなく高かく晴れた空を見渡し、素晴らしさに感嘆すると同時に、どこかに一朶の雲がぽっかりと浮いているのではと思う。それほどまでに晴れているのだ。私もときにこのようなことがある。(高橋正子)

[11月3日]
★竹の春透けて樹林の明るさよ/祝恵子
周囲が秋色に染まるころ、竹は明るい葉をそよがせる。「竹の春」だ。周囲の樹林を明るくさせ、凋落の季節にほっとする明るさを与えている。(高橋正子)

★蕎麦刈るや山の夕日を巻きこみて/佃 康水
傾斜する山の蕎麦畑には、夕日が一茎一茎に絡むようあたる。蕎麦を刈るときは、「夕日を巻き込みて」、夕日ごと刈る感じだ。丁寧によく観察された句だ。(高橋正子)

[11月2日]
洛西の山里
★溝川の楽を聞き居り石蕗の花/桑本栄太郎
溝川の流れに沿うように石蕗の花が咲いている。流れの音を「楽」と聞き、今花咲くことを楽しんでいる石蕗の花だ。(高橋正子)

[11月1日]
★店々にハロウィンの子ら声高く/内山富佐子
アメリカのハロウィンでは、仮想した子どもたちは、家庭を回ってお菓子などをもらうが、日本では、商店街を回って「トリック オア トリート」と言ってお菓子をもらうようだ。晩秋の楽しい行事だ。(高橋正子)

★名城を丸ごとつつむ空高し/福田ひろし
晴れわたる秋空の中に堂々と聳える名城。空は、名城をすっぽりと包んで高くある。正岡子規にも郷里松山の城を詠んだ句がある。「松山や秋より高き天守閣」(高橋正子)

11月1日-6日

11月6日(8名)

●小口泰與
ひつじ田へ土鳩の群や朝まだき★★★★
朝露やまみえし朝日あかあかと★★★
夕暮の野川の鷺や冬支度★★★

●内山富佐子
破蓮の濠にあおぞら戻りけり★★★★
破蓮の濠は、曇れば蕭条とした感じに、青空になれば、濠に青空が映りからっとした感じになる。「濠にあおぞら戻り」がうまい。(高橋正子)

日の中に桜葉舞いて十一月★★★
お受験に幼キリリと秋麗ら★★★

●福田ひろし
朝寒や部屋に一筋陽の入りて★★★★
まぼろしの白銀の月息白し★★★
秒針のこちこち刻む夜寒かな★★★

●桑本栄太郎
<京都御所開放参観>
色変へぬ松のみどりの御苑かな★★★
すめらぎの在(ま)さぬ御所とや暮の秋★★★
秋日さす緑青あおき紫宸殿★★★★

●中野けいこ
焼き芋やくもりめがねを拭きもせず★★★
負け試合秋の夕日を背に受けて★★★
十三夜単身赴任の夫の背★★★★

●川名ますみ
鮃載せ夜食の飯をかがやかす★★★
潮汁掬うおたまに秋ともし★★★

鮃そぎ明日立冬の静かさに★★★★
透明感のある白い鮃の身がそがれ、明日は立冬という日の俎板にある。その存在感。(高橋正子)

●多田有花
一生に一度の後の十三夜★★★
冬隣る月の明るきテニスコート★★★
姿見を磨いて秋を惜しみけり★★★★

●早瀬鞘
学び舎が銀杏に染まる齢経る★★★
愛し君の林檎のほっぺ冬来たる★★★★
秋の香に憶える檸檬色の恋★★★

11月5日(7名)

●小口泰與
秋の山茜の雲のまつわるる★★★
鶺鴒や川原は風の吹くままに★★★

紅葉の鍋割山(なべわり)も雨貯えし★★★★
鍋割山は、神奈川の丹沢山系や群馬県など、日本にいくつかあるようだ。鍋を割って伏せたような山か。その名前に昔話の雰囲気がある。雨が降るたびに季節が進み、紅葉の山となり、落ち葉の重なる沢道を歩けば、水が滲んでくる。「雨貯えし」が句を膨らませた。(高橋正子)

●桑本栄太郎
 阪急河原町駅
紅葉見の人をはきだす地下出口★★★
 高槻平野~大山崎
秋夕焼け野から山へと送電塔★★★★
十字架の山粧いし天王山★★★

●河野啓一
秋の園幼子たちのかくれんぼ★★★★
黒大豆引いて枝ごと茹でにけり★★★
赤とんぼ止まれや止まれこの指に★★★

●黒谷光子
通る度見上ぐ神社の薄紅葉★★★★
薄もみじ真昼の日差しを零しおり★★★
山茶花の早も散り敷き樹下真白★★★

●多田有花
頂に座る頃なり秋深し★★★
青空と敗荷映す池の面★★★★
免許証更新にゆく冬近し★★★

●祝恵子
獅子の舞う稲刈り終えし家の庭★★★★
農家の家々を訪ねて獅子舞がくる。稲刈りを終え、収穫への感謝と無病息災を願っての獅子舞であろう。獅子舞が来て一連の農作業が終わり、冬を迎える落ち着いた気持ちが読める。(高橋正子)

押し花を選び貼りゆく冬隣★★★
巻き初む白菜続く畑の列★★★

●小西 宏
野葡萄の蔓まだ低く実も生らず★★★
家々の庭に錦秋少しずつ★★★
夫婦して梯子立ち上げ柿收む★★★★

11月4日(6名)

●小口泰與
我を見る犬の眼差し秋の暮★★★
眼間を霧に襲わる山路かな★★★
湯の町を包む朝靄虫の声★★★★

●多田有花
窓鳴らす風の音聞く冬隣★★★
いびつさを剥けば芳醇ラ・フランス★★★
晩秋の静かな日差しの中歩く★★★★

●桑本栄太郎
<河原町~四条大橋>
大橋をわたり南座秋しぐれ★★★
顔見世の早やも看板南座に★★★
せせらぎの底に色葉や高瀬川★★★★

●福田ひろし
秋高し一朶の雲を探しをり★★★★
雲一つなく高かく晴れた空を見渡し、素晴らしさに感嘆すると同時に、どこかに一朶の雲がぽっかりと浮いているのではと思う。それほどまでに晴れているのだ。私もときにこのようなことがある。(高橋正子)

阿蘇の野の社の水のさやかなり★★★
朗々と秋風に乗る祝詞かな★★★

●小西 宏
錦秋の市民公園フラフープ★★★
大欅ここぞとばかり紅葉す★★★★
コンビニのドアに黄菊の棚並ぶ★★★

●川名ますみ
横たわる鮃に秋の灯の一条★★★★
厨房に無言のひらめ暮の秋★★★
秋高し鮃の血抜き跡の紅★★★

11月3日(7名)

●小口泰與
鶺鴒や岩に次々渦纏う★★★★
鯉こくや小諸の城の夕紅葉★★★
見晴るかす靄につつまる夕紅葉★★★

●祝恵子
秋桜ポーズは決まり女学生★★★
竹の春透けて樹林の明るさよ★★★★
周囲が秋色に染まるころ、竹は明るい葉をそよがせる。「竹の春」だ。周囲の樹林を明るくさせ、凋落の季節にほっとする明るさを与えている。(高橋正子)

机上には鉛筆削りと柿ころぶ★★★

●多田有花
初めての動画を作る夜半の秋★★★★
秋深し試行錯誤が面白し★★★
昼間から飲んで街ゆく秋曇★★★

●佃 康水
 廿日市自然観察の森
(紅まんさくは県の天然記念物) 2句
紅葉して紅まんさくのハート型★★★
しろがねの葉裏光りて朴落葉★★★

蕎麦刈るや山の夕日を巻きこみて★★★★
傾斜する山の蕎麦畑には、夕日が一茎一茎に絡むようあたる。蕎麦を刈るときは、「夕日を巻き込みて」、夕日ごと刈る感じだ。丁寧によく観察された句だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
野分めく音に目覚める夜半かな★★★
大風の青き深空や文化の日★★★★
釣り人の湾処(わんど)に黙や鴨来たる★★★

●黒谷光子
秋しぐれ法衣を吊るす衣紋掛★★★
湖北路に文士の講演文化の日★★★
晩秋の両手に包む抹茶碗★★★★

●小西 宏
黄落の桂疎林を柔き風★★★
春は花今は紅葉の桜かな★★★
戦艦の街や南京黄櫨(なんきんはぜ)紅葉(もみじ)★★★★

11月2日(4名)

●小口泰與
白波のほぐれて黙の紅葉かな★★★
大沼の雑魚の群や秋澄めり★★★★
カーテンのほのと揺れたり湖の霧★★★

●河野啓一
天平の古きを偲ぶ秋祭り★★★
宮跡に飾る菊花の香りかな★★★
竿揺れてパクリとパンを運動会★★★★

●小西 宏
隔つ樹に糸を渡して秋の蜘蛛★★★
去年(こぞ)生まれし鴨帰り来て葦の茎★★★★
団栗の音聞きながら雨宿り★★★

●桑本栄太郎
 洛西の山里独り吟行
溝川の楽を聞き居り石蕗の花★★★★
溝川の流れに沿うように石蕗の花が咲いている。流れの音を「楽」と聞き、今花咲くことを楽しんでいる石蕗の花だ。(高橋正子)

人住まぬごとく静もり里の秋★★★
山茶花の坂の垣根の寺苑かな★★★

11月1日(5名)

●内山富佐子
店々にハロウィンの子ら声高く★★★★
アメリカのハロウィンでは、仮想した子どもたちは、家庭を回ってお菓子などをもらうが、日本では、商店街を回って「トリック オア トリート」と言ってお菓子をもらうようだ。晩秋の楽しい行事だ。(高橋正子)

干し柿の秋色カーテン雁木下★★★
新蕎麦を求めゆく道紅葉道★★★

●迫田和代
霧の中飛び込んでいく母の訃に★★★★
散る前の桜紅葉を心根に★★★
青い空赤白揃って渡り鳥★★★

●小口泰與
白樺の林に楓紅葉かな★★★
見晴るかす白樺林秋の空★★★
あけぼのの岸辺の紅葉靄に揺れ★★★★

●福田ひろし
名城を丸ごとつつむ空高し★★★★
晴れわたる秋空の中に堂々と聳える名城。空は、名城をすっぽりと包んで高くある。正岡子規にも郷里松山の城を詠んだ句がある。「松山や秋より高き天守閣」(高橋正子)

雨やみて十一月の町静か★★★
秋出で湯とりわけ太き息を吐く★★★

●桑本栄太郎
秋天の飛行機雲や二本の線★★★
青空にまぶしき銀杏黄葉かな★★★
園児らの花に語るや秋麗ら★★★★

今日の秀句/10月21日-31日

[10月31日]
★溝川の流れ豊かや芋水車/桑本栄太郎
掘りあげた芋を溝川の流れで小さい水車を回して洗うのが芋水車。たくさん獲れた芋を、豊かな溝川の流れで洗うのを見るのもうれしい。静かで豊かな里の風景だ。(高橋正子)

[10月30日]
★生駒嶺の黒きうねりや秋暮れぬ/桑本栄太郎
大阪・奈良市民に親しまれている生駒山。秋の夕暮には、その山容が黒くうねっているように見える。「黒きうねり」が、秋の夕暮をよく描写している。(高橋正子)

[10月29日]
★豆腐屋のラッパ響くや秋暮/内山富佐子
夕方、豆腐屋がラッパを鳴らしてやってくる。スーパーマーケットでなんでも揃う時代に、昔ながらの豆腐売りに、古き良き時代が思われる。(高橋正子)

★大根の田舎みやげは葉付きかな/桑本栄太郎
郷里の土産に、畑で出来た大根などをもらうのは、うれしい。畑から抜いたばかりの大根は、葉がふさふさと茂り、みずみずしくて、一本まるごと料理が楽しめる。(高橋正子)

[10月28日]
★種蒔いて揃い芽生えし朝かな/河野啓一
種を蒔いて数日過ぎた。芽生えを楽しみに待つと、朝のこと、揃って芽生えた双葉の露けきこと。驚きにも似た嬉しさと安堵の気持ち読み取れる。(高橋正子)

[10月27日]
★順番にバチを渡す子秋祭り/祝恵子
秋祭りの担い手に子どもがいる。順番にバチを手渡して、元気よく太鼓を打つのだろう。リズムに乗ってきびきびと動く。秋祭りを楽しむ子らだ。(高橋正子)

★掘り起こす甘藷や畝に赤々と/佃 康水
甘藷の収穫で特に嬉しく思うのは、土から掘り起こした甘藷が鮮やかな紅色であること。畝にその紅色が「赤々と」並び、収穫の喜びが伝わる。(高橋正子)

★蟷螂の路上を這える青きまま/小西 宏
秋になると蟷螂も枯れ色をしたのが眼に付く。ところが、路上に出てきた蟷螂がゆっくりとした動きだが、青きまま。「青きまま」が却ってあわれを誘う。(高橋正子)

[10月26日]
★高熱と医師の静けさ窓の秋/川名ますみ
高熱の作者を見守る医師の静かな態度に、人間的なやさしい慎重さが窺える。病室には秋空を見せる窓があって、これも静かだ。高熱を出しながらも冷静な詠みだ。お大事に。(高橋正子)

★走る間は潮の香りと秋の空/高橋秀之
マラソンなどで走るときは、何も考えず、ひたすら走る。海沿いを走れば潮の香りがしてくる。真っ青な秋の空が広がる。走る苦しさを超えて、爽快な自然が呼吸する体に直に触れてくる。
(高橋正子)

[10月25日]
★ 秋深し絵本に見入る子らの顔/内山富佐子
秋が深まると子どもたちも心が落ち着くのか、絵本を見るにも、見入るように見ている。その面持ちに、絵本の世界が子ども心にインパクトを与えていることを知る。(高橋正子)

★ 秋空や下に牧あり馬はねる/迫田和代
秋空の下に牧場が広がり、そこには馬が跳ねている。健やかで、さわやかな光景だ。(高橋正子)

★新しき街の秋気に仮装して/川名ますみ
「新しき街」は実際に新しく開発された街としたい。「仮装」して歩く人たちは、日本にも広まってきたハロウィンを楽しむ人たちなのだろう。日常から離れ秋気に「仮装」して歩くのも現実世界の中の新しい世界だ。(高橋正子)

[10月24日]
★秋播きの種直線に芽生えけり/古田敬二
播種がゆがむことなく、まっすぐに芽生え、美しい。秋播きなので、あたりの空気も澄み、風景のなかにも緊張感がある。揃って芽生えたことの嬉しさがさわやかに伝わる。(高橋正子)

★夕空にゴーギャンの青秋深し/福田ひろし
秋も深まり空の青さに感嘆することもしばしば。夕空を眺めれば美しい青色。その青を「ゴーギャンの青」と称えた。(高橋正子)

[10月23日]
★合歓の実の莢の白きや川風に/桑本栄太郎
優しい合歓の花が咲いたあとは、合歓の木は忘れられそうになるが、ふと気づくと季節は夏から秋への変わって合歓にも莢がつく。川風に吹かれていた花は今は白っぽい莢だ。川風にも淋しさが混じる。(高橋正子)
(高橋正子)

★栗ご飯湯気と山の香ほぐし盛る/佃 康水
栗ご飯は、まさに季節のご飯。炊き上がって釜の蓋を開ければ、湯気と栗ご飯のにおいが立ち上がる。杓文字でほぐしていただくのだが、栗ご飯の匂いを「山の香」と言ったのは、作者の感動。山から採ってきたばかりの新鮮な栗、都会ではない地方の生活がうかがえる。(高橋正子)

[10月22日]
★鶏頭のほむらや朝に群れて立つ/小口泰與
鶏頭の真っ赤な花が群れて、ほむらのように燃え立って咲いている。秋冷の朝の冷気がなお鶏頭を燃え立たせているのだ。鮮明な句。(高橋正子)

[10月21日]
★星月夜明日はよきこときっとある/内山富佐子
星月夜の美しさは、心を澄ませてくれる。見上げれば、明日はきっとよいことがあると思う。(高橋正子)

★新米の湯気鶏卵の殻堅し/小西 宏
新米の湯気の立つご飯を前にして、卵を割ると、卵の殻がコツンと音を立て固い。卵がいかにも新鮮。新米の香りもよくて、おいしい卵かけご飯に満悦。いい生活句だ。(高橋正子)

★高架路を幾たびまたぐ鰯雲/川名ますみ
高架路を幾たびも通って車が走る。高架路に出るたびに鰯雲の空に近付く。目的地など忘れてしまいそうな鰯雲の広がりだ。(高橋正子)