12月12日

●小口泰與
冬凪や牧舎の馬の嘶ける★★★★
風の止んだひと時、牧舎の馬の嘶きが辺りによく通る。馬が嘶くとき吐く白い息も見えるようだ。(高橋正子)

寒灯や捨てかねて居る漆箸★★★
外に出づや今朝の浅間は雪も無し★★★

●古田敬二
雪平原蛇行の黒き川の見え★★★
日本を離れる真下冬の雲★★★
機内食シベリア大陸雪景色★★★

●多田有花
きらきらと初雪森に舞い降りる★★★★
いかにもクリスマスシーズンの句。「きらきらと」に初雪に躍る心が表現されている。「森」がヨーロッパ的。(高橋正子)

茹でられて透く大根の白き肌★★★
三角点落葉と日差しに囲まれて★★★

●桑本栄太郎
しらじらと目覚めて暗き冬の朝★★★
切干の笊に日溜まる窓辺かな★★★★
面白いところに目を付けた。笊に干された切干大根。乾いて小さくなったものは、笊の目に詰まっている。窓辺の日あたりが嬉しい。(高橋正子)

窓ぎわの日差し占拠や冬ごもり★★★

●黒谷光子
葉牡丹の渦すき間なく満ちあふれ★★★
葉牡丹の紅白並ぶプランター★★★
実南天一粒づつに日当りて★★★

●川名ますみ
路地曲がり銀杏落葉の一色に★★★★
路地を曲がった途端、銀杏落葉の黄色い世界が広がった。「一色に」に鮮やかな銀杏落葉の世界が驚きをもって表されている。(高橋正子)

銀杏落葉今日がいちばんきれいな日★★★
十二月卓を隔てし声を聞く★★★

●高橋秀之
落葉降る道を北へと真っ直ぐに★★★★
「落葉降る」と「北へ」が作者の心情を表してる。「北へ」は淋しいとういうより「まっすぐな遠さ」を感じさせる。(高橋正子)

小走りに銀杏落葉を踏み締めて★★★
通過待ちの電車の中に落葉舞う★★★

●小西 宏
時雨ゆき木々に小鳥の声しきり★★★
木の葉降るメタセコイアの赤い道★★★
ぬるり噛む鴨南蛮の根深葱★★★

12月11日

●川名ますみ
ドアマンの指の向こうに冬青空★★★
ドアマンの手は冬晴を指しており★★★★
出入口で客の送り迎えをしてくれるドアマンは、印象も心遣いも大事。冬晴れのよい天気を指してくれる心遣いがもうれしい。(高橋正子)

師も友も小春の窓へ笑うたり★★★

●小口泰與
大沼に白波はしる暖炉かな★★★
皹や温泉の沸く水の星★★★
また一人寒鮒釣に加わりぬ★★★★

●多田有花
<姫路城・修理見学施設「天空の白鷺」二句>
菰巻かれ城囲む松冬最中★★★
天空の白鷺に見る冬の虹★★★

風音が山眠らせる子守唄★★★★(信之添削)
風音も子守唄に。山を眠らせるには、このくらい大きく広く吹く風でなければならない。風が歌って山は眠りにつく。(高橋正子)

●桑本栄太郎
日溜まりの猫の親子や漱石忌★★★
しがみつく残る葉ありぬ冬紅葉★★★
冬ざれの鉄塔あまたや天王山★★★★
古跡も残る天王山ではあるが、冬ざれて鉄塔があらわに見える。たくさんの鉄塔が並ぶ様は、また逆に冬ざれを強く感じさせるものである。(高橋正子)

●古田敬二
厚き雲主翼が切り裂き冬の旅★★★
冬雲の間に海の白い波★★★
冠雪の富士山遠く旅の空★★★★
冠雪の富士山を遠くに見て、いよいよ日本を離れる旅の空にいる。海外の旅に出るとき、富士山を目に収めたいのは大方の人であろう。(高橋正子)

12月10日

●小口泰與
枯れかれてなお鶏頭の紅かりし★★★★
鶏頭の紅さは個性的と言える。枯れてもその紅い色が衰えず残る。色に生命が通う。(高橋正子)

切干や父の遺愛の腕時計★★★
我が影のガリファの如き冬田かな★★★

●河野啓一
よこざまに雀飛び来て落つ師走★★★★
雀も飛ぶ鳥であるから、どこから飛んで来ようと自由だが、よこざまに飛んで来られては驚くほかない。そして落ちる。師走は雀も忙しげだ。(高橋正子)

枝の先年越す構え夏蜜柑★★★
海望む山の畑のオリーブよ★★★

●桑本栄太郎
山茶花や日毎に紅の饒舌に★★★★
山茶花がどんどんと日ごと数を増やして咲くようになった。山茶花の咲き盛る様子を饒舌と感じたところが面白い。師走の忙しさに歩調を合わせるように咲く山茶花だ。(高橋正子)

時雨れつつ青空のぞく嶺の奥★★★
踏みしだき道の片方(かたえ)や落葉踏む★★★

●多田有花
暁の窓に轟く冬の雷★★★
<姫路城・修理見学施設二句>
凩の街見る天空の白鷺より★★★
冬桜修理の天守を仰ぎ咲く★★★

●黒谷光子
蹲踞の明かりとなりて石蕗の花★★★
庭石のありて寄り添う石蕗の花★★★
早々と上がり半分冬の月★★★

●古田敬二
昇る陽に初霜の我が街染まり初む★★★★
初霜のきらめきに、我が住む街がきよらさに包まれた。「昇る陽」に勢いがあってあかるい。(高橋正子)

 セントレア空港
冬波のきらめく海から外つ国へ★★★
冬の海に機影走らせ旅に立つ★★★

12月9日

●古田敬二
オリオン座大きい朝に旅に出る★★★★
オリオン座がまだ輝いている早朝の旅立ち。旅への緊張感と楽しみとが入り混じって見上げる朝のオリオン座である。(高橋正子)

東天に三日月寒し旅に出る★★★
初霜を踏んで旅立つ外つ国へ★★★

●小口泰與
寒禽や利根の河原の石数多★★★
せせらぎに風音まじる寝酒かな★★★
夕照に包まる庭のみかんかな★★★

●祝恵子
山茶花の落ちて水鉢数増やす★★★
石蕗の花朱塗りの寺の観音さま★★★
竹馬の並んで園児の遊ぶ声★★★★
竹馬で遊ぶ園児らのあどけない声が冬の空気を暖かくしている。(高橋正子)

●迫田和代
初雪や待ちかねた子供の叫び声★★★
名も知らぬ川面に浮かぶ散紅葉★★★

公園に初雪舞って広さ知る★★★★
公園に初雪が舞うと、公園は静まって、平らかな広さが知れるという。独特のよい捉え方と発見がある。(高橋正子)

●多田有花
十二月八日八十翁と頂に★★★★
山茶花を屋根より高く咲かせおり★★★
今年の葉すべて手放し裸木に★★★

●桑本栄太郎
箒木の赤に冬日の陽射しかな★★★

菜園の語り賑わい冬ぬくし★★★★
収穫や手入れのために菜園に出て、暖かい日差しにそのまま菜園で過ごす。次々そのような人が集まると話が弾むというもの。菜園がいい交流の場となっている。(高橋正子)

吹き溜まる銀杏落葉を踏みゆけり★★★

12月8日

●小口泰與
小春日や飛行機雲のどこまでも★★★★
着ぶくれて人待ち顔や南口★★★
木枯しや薄れはじめし黒インク★★★

●佃 康水
 大隈庭園 2句
師と友とそぞろ歩むや路地小春★★★    

餅搗くや蒸かす匂いの園に満ち★★★★
大隈庭園の芝生の上での餅つきの様子。もち米を蒸かす匂いが温かそうにただよっていることが読め、臨場感がある。(高橋正子)

言祝ぎの句座や聖樹の灯を点し★★★   

●小川和子
黄昏て冬菊いさぎよく薫る★★★★
「いさぎよく」に、冬菊のりんとした姿がある。黄昏の寒さが募るにしたがって冬菊の香が強まる。(高橋正子)

普請の音冬空高く木霊する★★★
賛美歌の調べ満ちくる待降節★★★

●多田有花
大雪の光を返し散らばる池★★★★
高いところからの景色か。大雪の野のなかに、光を返して小さな池が散らばっている。寒いながらものびやかな景色。(高橋正子)

冬霧の丹波の国に入りにけり★★★
仲冬や頂に望む若狭富士★★★

●桑本栄太郎
【原句】散り尽くし桜冬芽の青空に
【添削】散り尽くし桜冬芽を青空に★★★★

冬耕の土乾きいる野風かな★★★
吾を待つかに揺らぎ初め蘆枯るる★★★

●小西 宏
霜の朝瓦にやわき廚の灯★★★
冬晴れの大船観音白き笑み★★★
冬星やサンチョパンサのごとく我★★★

12月6日-7日

12月7日
●古田敬二
坂多きプラハは白き霜の街★★★★
政治の面では「プラハの春」を思い起こすが、この句からプラハは、坂の多い街、厳しく霜が白く置く街と知る。東欧の古都のそういう街に私は憧れる。(高橋正子)

城郭の名残の壁に霜真白★★★
森奥へ霜の白さの伸びており★★★

●小口泰與
神の留守浅間は雪をかずきけり★★★
あけぼのや影の散らばる寒雀★★★
火の山の南面とけし冬芽かな★★★

●桑本栄太郎
採り跡の千々の乱れや冬菜畑★★★

外焚きの風呂の閉ざされ冬日さす★★★★
今は使われなくなった外焚きの風呂が閉ざされて冬日が暖かく差している。子供のころの風呂焚きの思い出も蘇るのだろう。(高橋正子)

大雪の吾にもありぬ秘密保護★★★

●多田有花
啄木鳥や静かに落葉つづく森★★★
やわらかく墓所に降り積む落葉かな★★★★
岩尾根の冬青空の中に立つ★★★

12月6日

●小口泰與
山風に番茶の似合う炬燵かな★★★
山すその寒灯ゆれし風の音★★★
カプチーノ飲み終わりけり北颪★★★

●多田有花
真昼の陽明るく木の葉降りやまず★★★★
「木の葉降りやまず」の景色が、真昼の陽の中であるのがこの句の良さ。透明感に加え、「時の永遠」もあわせて感じさせる。(高橋正子)

山影が冬の霞の中に浮く★★★
いま落ちしばかりの木の葉踏みてゆく★★★

●桑本栄太郎
池の辺の風の素通り蘆枯るる★★★★
枯蘆にかかわるのか、かかわらぬのか、池の辺を風が通り抜ける。素通りする。さらさらと吹く冬の風がよい。(高橋正子)

枯蘆の踊るばかりや風の音★★★
さざ波の岸に久遠や冬の池★★★

12月5日

●小口泰與
ちり鍋や捨てかねている釣道具★★★★
ちり鍋を囲みながらも、思うのは釣り道具。古くなった道具か、また、釣りとは縁を切ろうという思いが逡巡しているのか、捨てかねている。これもふつふつと煮える鍋料理の仕業と思える。(高橋正子)

夕照の浅間や風に乗る木の葉★★★
笹鳴きや置き忘れたるアイフォーン★★★

●桑本栄太郎
もくれんの冬芽しかじか尖りけり★★★★
「しかじか」は、「かように」という意味と解釈。もくれんの芽を一つ一つ見れば、かように尖っている。もくれんの芽を知るひとにはわかること。(高橋正子)

ちりちりと赤き山襞冬の嶺★★★
日が射せど風のおらぶや十二月★★★

●黒谷光子
冬の田を北へと糠を燃す煙★★★
糠の使い道もほどんどなくなったせいか、糠を田で燃やすようだ。糠を燃やす煙とその匂いは北へと靡く。穏やかな日和に風は南寄り。農村の冬の一風景である。(高橋正子)

特急の過ぎしホームの風寒き★★★
同年のよしみと集い忘年会★★★

●多田有花
風吹けば幾千万の落葉降る★★★
あいさつの声冬菊の向こうより★★★★
極月の三日月日々を丁寧に★★★

●小西 宏
盛り高く香を放ちいる葱の畝★★★★
大根の並ぶ葉のさま魔女の髪★★★
小春日や枝に鴉の熟し柿★★★

12月4日

●小口泰與
炉話や和紙に包まる甘納豆★★★★
民話の世界の趣きの句。和紙、甘納豆が温かみを添えている。(高橋正子)

口切や白き波だつ湯檜曽川★★★
北風や焼饅頭の味噌の味★★★

●多田有花
冬うらら浮かぶがごとき航空機★★★
雲ゆっくり北の空ゆく小六月★★★
日ごと散る紅葉や空の透きとおる★★★★

●桑本栄太郎
焼き跡の黒き模様の冬田かな★★★
日溜りの壁に憩えば冬日燦★★★
橙の黄明かり重き土塀かな★★★

●小西 宏
味噌汁に冬日の恵み朝の窓★★★
金星の冬空蒼し峰の影★★★

青深く街の灯定む冬の闇★★★★
冬は大気が澄んで闇の暗さも「青」と捉えらえる。街の灯もくっきりと点るところに「定まる」。クリスマス前の冬の街を詠んで洒落ている。(高橋正子)

●黒谷光子
山茶花の垣根の向こう子らの声★★★★
山茶花は椿よりもさっくばらんな花である。子どもを取り合わせてよく馴染む。山茶花の垣根向こうの子の声が作者に明るく届く。(高橋正子)

自転車の篭に手編みの毛糸帽★★★
庭の木に生りしと蜜柑届けられ★★★

12月3日

●小口泰與
電飾の女神や空に寒昴★★★★
あかあかと日の沈みけり生姜酒★★★
ごつごつの山襞迫り枯芭蕉★★★

●河野啓一
背の痛みふと忘れたる小春かな★★★

鳥飛ぶや大き柿の葉散りにけり★★★★
鳥が飛ぶと、その動きで大きな柿の葉がはらりと散る。なんでもないようなことだが、静かで、平らかな心に刻まれる現象である。(高橋正子)

大和より赤き大きい柿届く★★★

●多田有花
誰も居ぬさらに鮮やか冬紅葉★★★
海へゆく川のみ光り冬霞★★★★
海へゆく川は南へと流れているのだろう。冬霞の中で、光を反射する川のみが光っている。(高橋正子)

冬霧の晴れゆく今朝の快晴に★★★

●桑本栄太郎
枯萩の枝垂れて長き坂の道★★★★
長い坂道に沿って垂れ下がる萩。花の季節には花のたのしみがあった。今は黄葉し、枯れている萩の風情が楽しめる。それぞれがよい。(高橋正子)

山襞の赤の極みや冬の嶺★★★
散り終わり桜冬芽となりしかな★★★

●佃 康水
風立ちて銀杏落葉の路地駆ける★★★
畝ごとに色とりどりの冬菜かな★★★
薄茶待つ古刹の茶屋に初火鉢★★★★ 

●小西 宏
陽の崖の落葉だまりに猫眠る★★★
寒風を蹴り少女らの逆上がり★★★★
くっきりと街の灯定む冬の闇★★★