4月28日

●古田敬二
蕨摘む朝露繁き野に入りて★★★★
蕨採りもそれに詳しい人は、朝露がびっしりと降りた時間帯に摘み取るのだろう。蕨には初夏のすがすがしさがある。(高橋正子)

蕨すくっと馬頭観音苔むして★★★
朝露をこぼして蕨手折りけり★★★

●小口泰與
初つばめ浅間雪解となりにけり★★★
高嶺雪映す水田や桃の花★★★★
百千鳥捨てかねている座椅子かな★★★

●河野啓一
朝採りのレタスサラダも新緑に★★★★
街角を曲がれば眩し花ミズキ★★★
春雨の窓辺に持ち出す碁盤かな★★★

●桑本栄太郎
歌声の園の垣根や木香薔薇★★★★
木香薔薇の垣根をめぐらす園。その園から聞こえる歌声が木香に越えてきて、優しくきよらかだ。(高橋正子)

藤色の風を浴び居り藤の棚★★★
すかんぽの想い出つなぐ赤き穂よ★★★

●黒谷光子
椿落つ戦国城主の自刃の地★★★
古戦場眼下に霞む竹生島★★★
のどけしや水車の廻る宿場町★★★

●祝恵子
牡丹咲く雑木林を抜けた寺★★★
朝は粥窓辺に二本のチューリップ★★★★
鯉のぼり空も水面も泳ぎおり★★★

4月27日

●高橋秀之
尾びれ張り生簀に一尾桜鯛★★★★
一陣の風とともに草芳しく★★★
春の草踏んでも踏んでもやわらかく★★★

●小口泰與
花よりも土にしたしき里人よ★★★
したたかに池に落ちたる椿かな★★★
青空に七堂伽藍初つばめ★★★★

●上島祥子
咲き始む牡丹置るる誕生会★★★★
牡丹の季節に生まれた人の誕生日。牡丹の似合う年齢の人だろう。華やぎと落ち着きのある誕生会。(高橋正子)

アネモネのうきうき揺れる代休日★★★
八重桜花びら散り散り坂の先 ★★★

●桑本栄太郎
陸橋の下はバス道胡桃咲く★★★★
陸橋に上れば、胡桃の花がすぐそばに見える。バス通りの並木の胡桃だろうが、洒落た街並みだ。(高橋正子)

木洩れ日の揺れる葉影や夏隣★★★
生垣の日蔭となりぬ著我の花★★★

●多田有花
遠き田に水の光りし遅桜★★★
頂まで日陰躑躅のトンネルを★★★
チューリップいつも日差しの真ん中に★★★★

●黒谷光子
雑木山芽吹きの時をはなやかに★★★★
前栽の名なき草の芽毟らるる★★★
娘の家の近づき背の山笑う★★★

●小西 宏
坂道に色替え躑躅咲き満つる★★★★
大開の躑躅にもぐる蜂の尻★★★
春風の糸に青虫腰屈む★★★

4月26日

●小口泰與
うぐいすや山を賜わる水鏡★★★
蘇芳咲くしじまの中の羽音かな★★★★
おちこちの畑に人居る百千鳥★★★

●迫田和代
春潮や終生想う馬関の海★★★
山道の花御堂前花少し★★★
遠くから春風吹いて波静か★★★★

●黒谷光子
湖よりの風野漆の低きにも★★★★ 野漆は、漆のように木ではなく草。湿り加減の土地に群生して育つ。花は若葉のような黄緑色で花よりも葉のような印象を受ける。湖の色を分けてもらったような野漆の花が風のそよぐ、湖のほとりの光景。(高橋正子)

野漆の触れてはならぬ黄のいとし★★★
野漆の湖辺の森のここかしこ★★★

●桑本栄太郎
降りつもるものの数多や春惜しむ★★★
竹筒の花壇に五色やチューリップ★★★
春暑し午後の始業のチャイムかな★★★

●河野啓一
四月尽季の過ぎゆくを惜しむかな★★★
葱坊主葉先にそれぞれ宿るとは★★★
蛍烏賊ざっと煮汁に投げ入れて★★★★

4月25日

●小口泰與
花楓彼方の山のうす霞★★★
日を透かす柿の若葉の朝かな★★★★
青柳や風やわらかき諏訪湖畔★★★

●祝恵子
蓮華草少女ら手を振り返しおり★★★★
蓮華草と少女という明るい素材が詠まれていて、日本の少女たち手を振り返し、生き生きと輝いている。(高橋正子)

藤つぼむ長き花先目の前に★★★
春花をつまみ持ちゆく友の家★★★

●河野啓一
カモミールかたまり揺れる白い風★★★★
カモミールの白い小花が咲き乱れると、風までも白く柔らかくなる。カモミールの葉のやさしさも思われる。(高橋正子)

夏隣木々の梢に力満つ★★★
古池や若草ばかり背が伸びて★★★

●上島祥子
満開を伝える藤の香寺の昼★★★★
昼間の静かなお寺に踏み入れば、藤の花の豊かな香り。これほど匂うのだから、満開なのだ。(高橋正子)

蒲公英の大地に広がる葉のとがり★★★
アネモネの飛びだす三色植木鉢★★★

●桑本栄太郎
青き葉の乾ぶ歩道や春落葉★★★
花虻の羽音に時の止まりけり★★★
校門を閉ざす垣根やつつじ燃ゆ★★★★

●多田有花
縦列駐車八重の桜の花陰に★★★★
湧き起こる花吹雪の中通り過ぎ★★★
針葉樹の緑濃きかな風光る★★★

●川名ますみ
てのひらを新樹の幹に女学生★★★★
女学生と新樹がまぶしい。女学生の柔らかなてのひらが、傷つくのもいとわないのだろうか、新樹の幹に触れている。(高橋正子)

女子大生若葉の幹にふれ歩む★★★
藤棚のあたり艶めく小学校★★★

●黒谷光子
ゆるやかに池に沿う道芝青む★★★
農道を行き突当り土筆群る★★★★
牡丹を供花とし仏前明るかり★★★

●古田敬二
春雨に二本足の傘登校児★★★
どの角を曲がれどわが街ハナミズキ★★★
玉ねぎの土盛り上げて太りいる★★★★

4月24日

●小口泰與
菜の花や水田に映ゆる白き山★★★
雛菊や黄帽子の列手をつなぎ★★★★
若芝や二匹の子犬あがないて★★★

●河野啓一
大通り茜に染めて楠若葉★★★★
楠の若葉は赤茶色で、その勢いは燃えるような感じさえする。啓一さんは、大通りを「茜に染めて」と感じ取った。「染める」という語が、楠若葉の柔らかさを出している。(高橋正子)

端々に朝日湛えて柿若葉★★★
若さとは幼きものよ柿若葉★★★

●桑本栄太郎
<セウォル号海難事故追悼>
永き日の海風哀しと想いけり★★★
遅き日の夕日を悼む珍島沖★★★
照明の波間に哀し春の夜★★★★

●黒谷光子
蒲公英の黄は芝草のそこここに★★★
池に向く木椅子一脚葦の角★★★★
満開に水面へ撓う遅桜★★★

●小西 宏
鶯の谷戸に沢水ころぶ音★★★★
「鶯の谷戸」は、鶯がよく鳴く谷戸である。その谷戸に入り込めば、沢水がころころと音を立てて流れている。鶯の声、沢水の転がる音は、だれにも心地よい自然を感じさせてくれる。(高橋正子)

春雨のまだ地に残り草緑★★★
春紫�惷訪ねる蜂の黒き尻★★★

4月23日

●祝恵子
走り根を囲むタンポポ色深し★★★★
タンポポは、野原にも、こういった走り根を囲んで咲いている。「色深し」は、また春の深さを表している。(高橋正子)

雑木林山のツツジは高く咲く★★★
春雨や登山談義を聞いており★★★

●小口泰與
産土の風音しかと雪柳★★★★
夕映えの落花せかせる疾風かな★★★
尾を巻きて小犬のしざる木の芽時★★★

●河野啓一
楠若葉朝日を浴びて街並木★★★
緑なす森の辺縫いて車行く★★★★
摘むべきか摘まざるべきやチューリップ★★★

●多田有花
肉じゃがを作る夕べや春深し★★★
たんぽぽやいつも面をあげている★★★★
縁側に座して見上げる八重桜★★★

●桑本栄太郎
豌豆のボウルにひびき豆をむく★★★★
豌豆を莢からボールなどに剥くと、ポンポンと元気よく音をたてるが、元気な男の子が弾けているようなかわいさがある。(高橋正子)

部活子のおらぶ声聞く遅日かな★★★
豆飯の魚も焼き添え夕餉摂る★★★

●小西 宏
囀りに小楢の花の降るを踏む★★★★
蒲公英の綿毛半分残りあり★★★
家並ぶ向かいの丘の春の木々★★★

●黒谷光子
よく晴れて耕す人のおちこちに★★★★
一葉とて残さず畑の法蓮草★★★
二人には足る一掴み法蓮草★★★

4月22日

●小口泰與
見晴るかす桃咲く里やうす曇★★★★
連翹や真白き富士を眼間に★★★★
桃咲くや甲斐の山々薄き靄★★★

●桑本栄太郎
幼等のくつ脱ぎ走る野遊びに★★★★
うぐいすの池に木魂す谷渡り★★★
登校の花菜明かりや通学路★★★

●河野啓一
街並みに薄紅見えて躑躅咲く★★★★
光が次第に強くなった街並みがいっそう初夏らしく輝くのは、薄紅のつつじの色の所為だ。とりわけ鮮やかではない色が初夏の光によく馴染み、街並みに溶けている。(高橋正子)

小さき手を広げ箕面の若楓★★★
春深し生あたたかき曇り空★★★

●黒谷光子
またの日と言うて別るる春の夜★★★★
また会える日を思っての別れの句であるが「春の夜」がしっとりとした抒情で別れを包んでいる。(高橋正子)

夜の窓に篝火の浮く春の湖★★★
送る人送らる人の春の宴★★★

●小西 宏
春の鴨水音高く池に着く★★★★
「春の鴨」は、春深くなっても北に帰らない鴨のことを言うが、残されたり、残った意識もないのだろう。「水音高く」には、水も鴨も生き生きとしている様子が表現されている。

雲垂れて日の永き街ほの暗し★★★
ベランダに満天星躑躅夜を照らす★★★

4月21日

●小口泰與
露天湯に次々落花とどきおり★★★★
露天湯につかり、落花を浴びる至福の時。「とどきおり」という表現で、湯に落ちた一枚一枚の落花がリアルに息づいた。(高橋正子)

遠山は未だ白きよ桃の花★★★
わに塚の桜や彼方白き山★★★

●河野啓一
小豆島遠くかすみて春の潮★★★
木蓮の散り果て淋し空仰ぐ★★★★
新入生選びしサークル探検部★★★

●迫田和代
今日あした明後日も共に花の下★★★
寺の屋根勾配の美としだれ桜★★★
浜遊び遠くの島の茜雲★★★★

●桑本栄太郎
登校のグループあるらし花は葉に★★★
昇降機降りてこうめの花散りぬ★★★
遅き日やつがいすずめの跳ね歩む★★★

4月20日

●小口泰與
チューリップほぐれて七色明かりかな★★★
たんぽぽや井出に鳥鳴く夕まぐれ★★★
一村を紅に染めたり桃の花 ★★★★

●祝恵子
溢れる花溢れる花人通り抜け★★★★
「通り抜け」は、大阪造幣局前の桜並木の通り抜けで、桜が咲くころは花見の人で溢れる。花見の人はみんな「花人」。「溢れる花人」がいい。(高橋正子)

学生も立ち寄り投句花の下★★★
春風や二人で歩く水の街★★★

●桑本栄太郎
トンネルを抜けて高槻げんげ田に★★★★
乗り換えの駅のホームや躑躅咲く★★★
何処より来たり留むや花の塵★★★

●多田有花
おにぎりをもらう燕飛ぶ頂で★★★★
塩むすびのように、さっぱりとした句だ。燕の飛ぶ山の頂は、新緑が燃え、心地よい風が吹く。その上、眺望もよいことだあろう。(高橋正子)

吹く風を愛でし残花の花見かな★★★
ショー終わり春の夜道を戻りけり★★★

●小西 宏
ベランダに躑躅の揺れる朝の光★★★
池底に蠢めく黒き蝌蚪の群れ★★★
眠き眼に照る昼の色八重桜★★★

●高橋秀之
風に揺れ消えては次のしゃぼん玉★★★★
「次のしゃぼん玉」がいい。しゃぼん玉を吹く子は、やたら吹くのではなく、しゃぼん玉の行方を見ながら吹いている。吹きだされたしゃぼん玉が心地よい風に輝いている。(高橋正子)

うっすらと虹色光るしゃぼん玉★★★
しゃぼん玉吹いて追いかけまた吹いて★★★

●小川和子
豌豆の蔓のび白蝶舞うごとし★★★
草笛の聴こえ来るかに麦青む★★★
復活祭共にゆたかに愛餐す★★★

●古田敬二
谷深しおちこち鶯鳴き交わす★★★★
今落ちし椿に木漏れ日届きけり★★★
山路来れば一株なれど濃き菫★★★