7月11日(水)

★蕗の灰汁つきたる指のきしみがち  正子
蕗を料理するために下ごしらえをされました。灰汁というのは簡単には落ちません。調理が終わったあと、手を洗っても、その後しばらく何かをするたびに指先の感触に「きしみ」を感じられる、手ずから調理された方ならではの感触です。 (多田有花)

○今日の俳句
梅雨明けを待ちつつ髪を切りにけり/多田有花
梅雨の間は特に髪が重いと感じるのだが、梅雨明けのさっぱりした気持を思いつつ、髪を切る。これで気持ちの中では一足先に梅雨が明けそうだ。(高橋正子)

○今週の秀句(7月1日ー7日)を7句選ぶ。発表は、月間賞と同じところ。
http://blog.goo.ne.jp/npo_suien105/

○金魚草

[金魚草/横浜日吉本町]

★金魚草よその子すぐに育ちけり/成瀬櫻桃子
★裏庭の色を集めて金魚草/稲畑汀子
★金魚草風に溺るることのあり/行方克巳

「金魚草」と聞くだけで、金魚を想像して、かわいらしく、涼しい思いになる。パフスリーブの夏服を着た小学2.3年生の女の子のようだとも思う。ビロードがかった口唇形の花の色も赤、白、黄色などシンプルだし。夏の花壇をかざってくれる、子ども時代の私にとっては、夏休みの花である。夏休みのもろもろを思い出す。絵日記、植物採集、夏休みちょう、海水浴、昼寝、アイスキャンデー、西瓜、まくわうり、井戸水、日向水、打ち水、縁側拭きなど。江戸末期に渡来したようだが、当時はハイカラな花だったに違いない。

★裏庭に洗濯物干し金魚草/高橋正子
★金魚草金魚鉢には金魚いて/高橋正子

キンギョソウ(金魚草 Antirrhinum majus)はゴマノハグサ科(APG分類体系ではオオバコ科に入れる)キンギョソウ属の植物。南ヨーロッパと北アフリカの地中海沿岸部を産地とする。その名の通り金魚のような花を穂状に数多く咲かせる。花の色は赤・桃 ・白 ・橙 ・黄 ・複色。種は微細だが性質は強健で、こぼれ種でよく殖える。一般的には秋蒔きの一年草で、寒冷地では春蒔きにする。本来は多年草の植物であり、年月が経つにつれて茎が木質化する。金魚の養殖で有名な愛知県弥富市の市の花にもなっている。

◇生活する花たち「立葵・蛍袋・紅かんぞう」(横浜・四季の森公園)

7月10日(火)

 鎌倉街道
★竹林に夏の真青な水打たれ  正子
禅寺の境内にある竹林の小道をゆくと、飛び飛びに続く敷石に打ち水がなされ、しっとりと濡れています。真青な竹の葉や幹を透して届く夏の明るい光によって、その敷石や土までもが緑がかって揺らめいています。色も水も、そして静けさもみな瑞々しく、涼しげに感じられます。 (小西 宏)

○今日の俳句
向日葵の黄がひろびろと丘をなす/小西 宏
丘一面に広がるひまわり畑。向日葵の黄の色が空に触れるまでにひろびろと丘をなしている外国のような風景が鮮やかだ。(高橋正子)

○紅蜀葵(こうしょっき・もみじあおい)

[紅蜀葵(もみじあおい)/横浜日吉本町]

★紅蜀葵肘まだとがり乙女達/中村草田男
★沖の帆にいつも日の照り紅蜀葵/中村汀女
★黄蜀葵花雪崩れ咲き亡びし村/加藤楸邨

 
アメリカ芙蓉という花がある。芙蓉に似て、大ぶり赤い花色が華やかだ。芙蓉に少し似た紅蜀葵もその赤さは、日本の花ではないなと思わせる。調べると北米原産とあるから、さもありなん。近所では、市営アパートのわずかの空地に住人が植えたものがある。通りすがりにちらっと見て、紅蜀葵が咲いているな思うわけであるが、植えた人は昭和を生きた人であろうと想像する。

★市民アパート誰が咲かすか紅蜀葵

モミジアオイ(紅葉葵、学名:Hibiscus coccineus)は、アオイ科の宿根草。別名は、紅蜀葵(こうしょっき)。北米原産。背丈は1.5~2mくらいで、ハイビスカスのような花を夏に咲かせる。茎は、ほぼ直立する。触ると白い粉が付き、木の様に硬い。同じ科のフヨウに似るが、花弁が離れているところがフヨウと違うところ。和名のモミジアオイは、葉がモミジのような形であることから。
トロロアオイ(黄蜀葵、学名:Abelmoschu manihot )は、アオイ科トロロアオイ属の植物。オクラに似た花を咲かせることから花オクラとも呼ばれる。原産地は中国。この植物から採取される粘液はネリと呼ばれ、和紙作りのほか、蒲鉾や蕎麦のつなぎ、漢方薬の成形などに利用される。花の色は淡黄からやや白に近く、濃紫色の模様を花びらの中心につける。花は綿の花に似た形状をしており、花弁は5つで、朝に咲いて夕方にしぼみ、夜になると地面に落ちる。花びらは横の方向を向いて咲くため、側近盞花(そっきんさんか)とも呼ばれる。

◇生活する花たち「ヤブカンゾウ・ノカンゾウ・マリーゴールド」(横浜・四季の森公園)

7月9日(月)

 愛媛・久万中学校
★教室の窓に夏嶺の高々と  正子
久万高原の自然の風光に富んだ、木の香りのする校舎の久万中学校。校舎の窓より仰ぐ夏嶺が実に清々しく、恵まれた緑の環境と相まって、より一層子どもたちの豊かな心を育んでくれるようです。日々子どもたちの成長を見守り、励ましてくれる、悠然と聳える夏嶺です。(藤田洋子)

○今日の俳句
雨雲の山を離れて合歓の花/藤田洋子
合歓の花を的確に捉えている。愛媛の久万高原などに出かけると、垂れていた雨雲が山を離れていって、合歓の花があきらかに浮かびあがってくるが、このようなところに合歓は自生する。(高橋正子)

○第14回(七夕)フェイスブック句会入賞発表

【金賞】
★山の湯へ七夕笹を潜り入る/佃 康水
七夕飾りをしてある山の湯。七夕飾りをさらさら鳴らして湯に入るという、抒情ゆたかな七夕が詠まれている。(高橋正子)
【銀賞】
★梅雨明けを待ちつつ髪を切りにけり/多田有花
梅雨の間は特に髪が重いと感じるのだが、梅雨明けのさっぱりした気持を思いつつ、髪を切る。これで気持ちの中では一足先に梅雨が明けそうだ。(高橋正子)
【銅賞】
★梅雨の森また静やかに葉を鳴らす/小西 宏
梅雨の森は青葉が茂りしんとして緑の奥深さを感じる。風に鳴り止んだ葉が、またも静かに葉を鳴らす。なんと、ひそけく「静やか」なことであろう。深い明るさがある。(高橋正子)
★嵐去り蜻蛉生れ​て田の上に/井上治代
嵐が去ると、さっそく生まれ出た蜻蛉が田の上を勢いよく自在に飛んでいる。田の緑、蜻蛉のすずやかさに、生き生きとした爽やかさ季節が読みとれる。(高橋正子)

※その他の入賞作品:
http://blog.goo.ne.jp/kakan02d

○のうぜんかずら

[凌霄の花(のうぜんかずら)/横浜市港北区箕輪町]

★家毎に凌霄咲ける温泉(いでゆ)かな/正岡子規
★のうぜんの花を数へて幾日影/夏目漱石
★凌霄や長者のあとのやれ築土/芥川龍之介
★のうぜんの暮れて色なし山の家/臼田亞浪
★噴井あり凌霄これを暗くせり/富安風生
★凌霄花落ちてかかるや松の上/山口青邨
★凌霄のかづらをかむり咲きにけり/後藤夜半
★凌霄花や子は道の上に絵をかける/星野立子
★のうぜんや海近ければ手狭でも/阿部みどり女
★凌霄花の朱に散り浮く草むらに/杉田久女
★塵とりて凌霄の花と塵すこし/高野素十
★凌霄に井戸替すみし夕日影/西島麦南
★松高き限りを凌霄咲きのぼる/橋本多佳子
★凌霄花や問ふべくもなき門つづき/中村汀女
★今日の日の凌霄花にまで傾きし/中村汀女
★凌霄は妻恋ふ真昼のシヤンデリヤ/中村草田男
★のうぜんや眞白き函の地震計/日野草城
★凌霄花に沈みて上るはね釣瓶/星野立子
★凌霄花の咲き垂れし門父母います/加藤楸邨

のうぜんかずらを初めて知ったのは、大学2年生の夏。島根県へ注ぐ江川が流れる広島県三次盆地の高台のお寺に咲いていた。当時所属していた松山の俳句結社の吟行に参加させてもらったときのこと。真夏の煙るような空に曙色の大ぶりな花が魅力的だった。
砥部の家にも植木屋さんが持ってきてくれたが、できつつある庭の雰囲気にあわなかったので、お隣にあげたら見事に花を咲かせて、それを楽しませてもらっていた。その花を向かいの方が植えたがり、隣の方が分けてあげて、向かいの家にもそののうぜんかずらが玄関脇を覆うほど花を咲かせた。夏が来ると、隣と向かいののうぜんの花を我が家の花のごとく楽しんだものである。

★凌霄花の朝(あした)の花と目が合いぬ/高橋正子

ノウゼンカズラ(凌霄花、紫葳、Campsis grandiflora)はノウゼンカズラ科のつる性木本。夏から秋にかけ橙色あるいは赤色の大きな美しい花をつけ、るつる性の落葉樹。気根を出して樹木や壁などの他物に付着してつるを延ばす。花冠は漏斗状。結実はまれである。日本で栽培されるノウゼンカズラは中国原産で平安時代に渡来したといわれる。ノウゼンというのは凌霄の字音によるといわれる。古くはノウセウカズラと読まれ、これがなまってノウゼンカズラとなった。霄は「空」「雲」の意味があり、空に向かって高く咲く花の姿を表している。夏の暑い時期は花木が少なく、枝を延ばした樹木全体に、ハッとするような鮮やかな色の花を付け、日に日に咲き変るので、よく目立つ。茎の先に房状花序をつける。花冠はラッパ型で先が5片に裂けて開く。葉は奇数羽状複葉。つるは気根を出し固着すしながら伸びる。幹はフジと同じように太くなる。樹勢が非常に強く丈夫な花木であり、地下茎を延ばしひこばえを周囲に芽生えさせ、繁殖する。落花すると、蜜がたれ周りを湿らすほど。その蜜に、メジロが目ざとく感知して集まってくる。蜂も姿を現す。その蜜は毒性があるといわれるが、根拠のない俗説・風評である。花や樹皮は漢方薬では利尿や通経に使われる。園芸品種が複数存在し、ピンクや黄色などの花色もある。新梢に房となって花が枝元から次々に咲き、花は毎日のようにすぐに散る。花が終わった新梢をそのままにしておくと、樹の姿が乱れ、樹勢が衰えるので適切な剪定が必要。ノウゼンカズラ属はノウゼンカズラと、アメリカ合衆国南東部原産のアメリカノウゼンカズラ(C. radicans)、およびこれらの雑種C. x tagliabuana からなる。アメリカノウゼンカズラの花は中国系ノウゼンカズラより小ぶりで細長く、濃い赤橙色。送粉の仕方に特色があり、世界でもっとも小さい鳥といわれるハチドリが空中をホバリングしながら嘴を花の中にさし込んで蜜を吸う。花の形がラッパに似ていることから英語では「トランペット・フラワー」、「トランペット・ヴァイン」あるいは「トランペット・クリーパー」と呼ばれる。

◇生活する花たち「カンナ・半夏生・夾竹桃」(横浜日吉本町)

7月8日(日)

★子が去りしことも静かや夏の歯朶  正子
子どもが来て、にぎやかに過ごしていましたが、やがて去っていき、あたりはしんとして静かな空気が漂っています。夏風に歯朶が揺れ一抹の寂しさを感じます。 (井上治代)

○今日の俳句
何かしら飛び出て楽し草取りも/井上治代
夏になると草が生い茂る。草取りの作業もたいへんだが、バッタが​ぴょんと飛び出したり、天道虫が飛び立ったりする。それが案外楽​しいのだ。(高橋正子)

○第14回七夕フェイスブック句会投句
小さき街の七夕飾りはすぐ尽きぬ/正子
七夕飾りを通り抜ければ山が見ゆ/〃
なでしこの苗に花あり風があり/〃

○句美子がお菓子教室で「リンツァートルテ」というオーストリアの伝統菓子を作ってきてくれた。フランボワーズ(ラズベリー)ジャムをタルト生地に載せた素朴な味わい。お茶はアールグレイで。

○夏あざみ

◇のあざみ/群馬・尾瀬ヶ原 2010年8月28日◇

★埃りだつ野路の雨あし夏薊/飯田蛇笏
★牛の背の海真青なり夏薊/手島靖一
★断崖の引き寄す怒濤夏薊/大見川久代
★辰雄忌の乳鉢くもる夏薊/徳田千鶴子

夏薊と、わざわざ薊に夏がついていると、いつも思う。薊は春の季語。私にとっては、なぜかむしろ夏の花なのである。この感覚のずれは、どこからきているのかよくわからい。田舎で暮らした子ども時代だが、薊を春に見ることはなかった。夏の朝、家で飼っていた山羊の草を刈りに出た小さな野原にあった。露に濡れた草を刈る中に、たまにあったぐらいだが、緑の草のなかで紫がかったピンクのボンボンのような花はかわいらしく思えた。しかし、棘を恐れて遠巻きに見るか、思い切って指を草に突っ込んで茎を折り取るか迷う花であった。折り取って家に持ち帰っても、すぐにクタッとなった。自分では気づいていないが、娘に言わせれば、私は薊の花が好きらしい。四国カルストの大野が原に愛媛コープの夏の旅行企画で参加したときも薊の花が印象に残っている。子どもたち二人が高原を歩いている写真が残っているが、薊は映っていないものの薊の花がどこかに咲いているような感じがする。

★夏薊草に溺るる花なりき/高橋正子

◇生活する花たち「エンジェルトランペット・百合・ビョウヤナギ」(横浜日吉本町)

7月7日(土)

★学生食堂ひとりの顔に夏日あり  正子
賑わしい学生食堂も、夏休みになり、少し落ち着いてきました。その中に、考えごとでもしているのでしょうか、厳しい陽射しに臆することなく、顔を上げている「ひとり」がいます。夏日を受けて憚らない、その強さを応援したくなります。(川名ますみ)

○今日の俳句
★パステルをやや強く押し青葉の絵/川名ますみ
パステルで絵を描く。青葉の絵だ。青葉の勢いを描こうとすれば、自然パステルを強く押しつけるようになる。いきいきとした句だ。(高橋正子)

○夕菅(ゆうすげ)

[夕菅/大船植物園]

★天が下万のきすげは我をつつむ/阿波野青畝
★夕菅は胸の高さに遠き日も/川崎展宏
★厩までユフスゲの黄のとびとびに/大野林火
★遠きほど夕菅の黄の満つる色/広瀬直人
★夕菅は實になってゐし花野かな/上野一考
★坪庭の暮れのはじめを花黄菅/本田日出登
★ゆうすげに月まだ淡くありにけり/高橋正子

 「ゆうすげ」という名前に惹かれる人も多い。夏のまだ明るい夕方の空を背景に開花する黄色いの花は、人を少なからずロマンティックな想いにさせる。花の姿が野かんぞうにも似ているが、野かんぞうの赤みがかった黄色ではなく、レモンに近い黄色である。遠くまで、はかなげなレモン色のゆうすげが咲く高原は、乙女でなくとも魅惑的な風景と思う。

夕菅(ゆうすげ)は、ユリ科ワスレグサ属の種の一つ。山野などに生える。夏の夕方に開花し、翌朝にしぼむ。くっきりしたきれいなレモン色の花。香りあり。別名、黄菅(きすげ)。学名(Hemerocallis citrina var. vespertina)の由来は、Hemerocallisは、ワスレグサ属(ヘメロカリス属)、citrinaは、レモン色、vespertinaは、夕方の、西の、Hemerocallis(ヘメロカリス)は、ギリシャ語の「hemera(一日)+ callos(美)」が語源で、美しい花が一日でしぼむところから、といわれる。

◇生活する花たち「凌宵かづら・百合・青ぶどう」(横浜日吉本町)

7月6日(金)

★明け易き時をラジオのミサ合唱  正子
そういえば朝の早い時間は宗教関連の放送がありました。早い明け方、しののめの光を感じながら聞くミサの合唱曲、曙の時間にふさわしいものと感じられます。 (多田有花)

○今日の俳句
★子を抱いて浴衣の父の祭かな/多田有花(姫路ゆかたまつり)
男の祭でも、村の祭でもない「父の祭」がいい。子を抱き、浴衣に寛いでささやかな祭を楽しんでいる父の姿さっぱりとして、涼しそうだ。(高橋正子)

○夏萩

[夏萩/東京・関口芭蕉庵 2011年6月12日撮影]

★夏萩の咲きひろがりぬ影の上/谷野予志
★夏萩や山越ゆる雲かろやかに/石原絹江
  東京・関口芭蕉庵
★芭蕉居しと夏萩の紅明らかに/高橋信之
★夏萩にもっとも似合うのシャツ白/高橋正子

 萩と言えば、秋の七草のひとつで、多くの方がご存じ。万葉集に詠まれ、日本画、着物などの柄、日常の種々のものにも描かれて、馴染み深い花となっている。秋が来るのを待たず咲いているのに出会うと、「もう萩が。」と汗が引く思いで足を止めて見る。夏萩は、夏の終わりから秋の初めにさく南天萩、四業萩、猫萩、夏開花する野萩、めどはぎ、犬萩、藪萩などを指すしている。六月に関口芭蕉庵を訪ねたことがあったが、瓢箪池のふちに夏萩が枝をのばして紅紫の可憐な花を付けていた。「古池や」の句碑も立っているが、池水のにごりに映えて静かな雰囲気を醸していた。関口芭蕉庵から椿山荘へ場所を移すと、椿山荘にも露を置く草の中に数本の枝が倒れて紅紫の花をほちほちと草に散るように咲いていた。一足はやい秋の訪れを垣間見る思いだ。

 俳人・正岡子規も愛した“萩の寺”、大阪府豊中市の曹洞宗東光院(村山廣甫住職)で、ナツハギが6月初旬~中旬くらいまでが見頃で、かれんな花が参拝客らの目を楽しませている。参道には、秋に見頃を迎えるマルバハギなど約10種3千株にまじり、ナツハギ約30株が植えられており、今年は例年より早く赤紫の花が房状に咲き始めたという。東光院は、奈良時代の天平7(735)年に僧の行基(668~749年)が現在の大阪市北区に薬師如来像を自作し、薬師堂を建立したのが始まりとされる。行基が死者の霊を慰めるために当時、淀川に群生していたハギを供えたことから境内にもハギが植えられ、「萩の寺」として親しまれるようになった。子規や高浜虚子ら多くの俳人が好んで訪れ、子規はハギが咲き誇る風情を「ほろほろと石にこぼれぬ萩の露」と詠んだという。同院は「ハギの群生美は、日本らしい『和』の民族性を表しているよう。1度花を咲かせたあと、さらに茎を伸ばし花を咲かせる姿は、私たちに希望を与えてくれる」と話している。
 ハギ(萩)とは、マメ科ハギ属の総称。落葉低木。秋の七草のひとつで、花期は7月から10月。分布は種類にもよるが、日本のほぼ全域。古くから日本人に親しまれ、『万葉集』で最もよく詠まれる花でもある。秋ハギと牡鹿のペアの歌が多い。別名:芽子・生芽(ハギ)。背の低い落葉低木ではあるが、木本とは言い難い面もある。茎は木質化して固くなるが、年々太くなって伸びるようなことはなく、根本から新しい芽が毎年出る。直立せず、先端はややしだれる。葉は3出複葉、秋に枝の先端から多数の花枝を出し、赤紫の花の房をつける。果実は種子を1つだけ含み、楕円形で扁平。荒れ地に生えるパイオニア植物で、放牧地や山火事跡などに一面に生えることがある。

◇生活する花たち「睡蓮・すかし百合・すかし百合」(フラワーセンター大船植物園)

7月5日(木)

★青田みな青嶺へ靡き吹かれける  正子 
そよぎ出した青田は見た目も涼しげなもの、その青田が青嶺に向かって吹き、みななびいている姿。ほっとする日本の風景です。(祝恵子)

○今日の俳句
★水路さらさら音をさせ植田へと/祝恵子
「水路さらさら」が快い。それが流れて植田まで入り込むのである​から、植田の苗も大喜びであろう。(高橋正子)

○百日草

[百日草/横浜・四季の森公園]

★物陰や百日草の今もさく/正岡子規
★百日草ごうごう海は鳴くばかり/三橋鷹女
★心濁りて何もせぬ日の百日草/草間時彦
★百日草芯よごれたり凡詩人/草間時彦
★ああ今日が百日草の一日目/櫂未知子
★あかあかと百日草が百日を/高橋信之

百日草は百日も咲き続けるという意味だが、夏の間中咲き続いている。キク科の花なので、切り花にしても真夏の暑さに負けず花もちがいい。仏壇に立てる花がないとき、庭の百日草を立てていたが、花色もたくさんあって、全く庶民的な花だと思う。最近は花壇用に、丈が低く、小ぶりな花を付けるものが作成されている。そういう花は、呼び方もジニアと呼ばれることが多いが、私はあえてそれも「百日草」と呼んでいる。昔懐かしんだ花の呼び方がそうそう変えられてたまるか、という気持ちなのだ。向日葵、朝顔、松葉牡丹などと並んで百日草も誰でもが知っている夏の代表的な花が今も健在であるのがうれしい。

★供花に切る百日草の五六本/高橋正子

ヒャクニチソウ属(ヒャクニチソウぞく、学名:Zinnia)は、キク科の属。学名よりジニアとも呼ばれる。分布の中心はメキシコ。1769年にスペインのマドリードのマドリード植物園にもたらされたのがヨーロッパでの最初の紹介であった。この時には淡紫の一重咲きの花がついた。その後1829年に赤が、1832年に白が開花した。八重咲きはフランスで作り出された。一代交配種が作られたのは1963年にアメリカで作られた品種「ファイアー・クラッカー」が最初。属の学名はドイツ・ゲッティンゲン大学の植物学教授だったヨハン・ゴットフリート・ツィン(Johann Gottfried Xinn、1727 – 1759)に因んだものである。同属植物は20種近くあり、一年草・多年草と亜灌木のものがあるが、日本で作られているものは総て一年草である。草丈はヒャクニチソウでは60cmから1mくらいになるが、ホソバヒャクニチソウでは30cm足らずである。茎は直立し、葉は紡錘形で対生する。頭花は単生し、花色は非常に豊富で、赤・オレンジ・黄色・白・ピンク・藤色などがあり、複色花もある。

◇生活する花たち「睡蓮・布袋葵・すかし百合」(フラワーセンター大船植物園)

7月4日(水)

★蜜豆に夜の会話の間がありぬ  正子
よく冷えた賽の目の寒天、あずき餡、果物などを盛り合わせた、見た目も涼しそうな蜜豆。夏の夜のデザートとして愉しいものですね。会話もしばらく間が空いて、みんな黙ってスプーンを動かすひとときです。健康で和やかな暮らしが思われる納涼の一句かと存じました。(河野啓一)

○今日の俳句
隣家の窓に今朝より青簾/河野啓一
隣家の窓を見ると、今朝からは、青簾がかかって目にも涼しげ。隣家も夏支度が整って、夏本番を迎える。(高橋正子)

○松葉牡丹

[松葉牡丹/大船植物園]

★おのずから松葉牡丹に道はあり/高浜虚子
★松葉牡丹玄関勉強腹這ひに/中村草田男

松葉牡丹は、夏にはどこの家にも植えてあった。朝顔、向日葵と並んで家庭に植える夏の花の定番だった。一重が多かったが、そのうちに八重の花も見られるようになった。花色も白、赤、黄色、ピンクなどはっきりしていて明るさを振りまいてくれる。茎を摘んで土に挿しておくと根が出て増やすことができるのも楽しみの一つだ。
松葉牡丹で思い出すのは、句美子が2歳ぐらいのときの話である。そのころは、前庭裏庭とあっって、裏庭では鶏や兎を飼ったりり、野菜畑にトマトを作ったり、夏になるとにビニールプールを置いて子どもたちを遊ばせた。花壇も少々作って松葉牡丹を植えた。裏庭で句美子を遊ばせながら洗濯物を干し、おとなしく遊んでいるので大丈夫と思って前庭の植木に水遣りをしてもどってみると、花壇ンの松葉牡丹をひとつのこらず丹念に摘んで大喜びしていた。あたりは松葉牡丹の花が一面に。一つ一つの花を摘む根気強さにおどろいて、呆れてしまった、とこういう話である。

★松葉牡丹その色明るく子が摘みぬ/高橋正子

マツバボタン(松葉牡丹、学名Portulaca grandiflora)とはスベリヒユ科の植物の一種。ヒメマツバボタン(P. pilosa)の亜種(P. pilosa subsp. grandiflora)とされることもある。学名のポルチュラーカはラテン語で門を意味するポルチュラに由来する。花が昼に開き、夜に閉じる様が門を彷彿とさせることからこの名がついたと解釈されている。日本ではホロビンソウ(不亡草)とも呼ばれ、年々種が零れて新たな花が生えだしてくるのでこう呼ばれている。南アメリカ原産の一年草。アルゼンチン、ブラジル南部、ウルグアイに自然分布する。葉は多肉で、高温と乾燥に対して非常に強い。世話のほとんど不要なくらい丈夫である。種子は非常に細かく、こぼれ種でもよく繁殖する。開花期は6~9月頃。美しい花を観賞するためによく栽培される。花弁の色は白、黄、赤、オレンジ、ピンクなどで、八重咲きの品種も作出されている。

◇生活する花たち「半夏生・紫陽花・釣鐘草」(横浜日吉本町)

7月3日(火)

★長き柄に団扇の風のぱっさぱっさ  正子
竹の骨に丸く紙を張って長い柄で大きく仰ぐと風もばっさばっさと大きな音を立てて、仰ぎ手に応えてくれますね。文明の利器とは違いとっても趣がありますね。 (小口泰與)

○今日の俳句
噴煙を賜わる古里青林檎/小口泰與
古里浅間山の噴煙と青林檎に象徴させて詠んだ。「青林檎」には古里への感傷が、「噴煙」には雄雄しく生きよと励まされる思いが読み取れた。(高橋正子)

○月見草(待宵草)

[待宵草/横浜日吉本町]

★月見草灯よりも白し蛾をさそふ/竹下しづの女
★待宵草の黄花を空へくっきりと/高橋信之
★月見草の大きな花にさよならを/高橋正子

「月見草」と「待宵草」は、本来違うものであるが、俳句では、いずれも季語「月見草」として詠まれてきた。最近の歳時記では、季語「月見草」の傍題に「待宵草」を取り上げている。「月見草」は、3、4歳上の上級生からその名をよく聞いた。上級生は小学校の高学年から中学1,2年生だったから、竹下夢二のような少女らしいものに憧れる年齢だったのだろうと今思う。しかし、「待宵草」や「宵待草」は上級生の口からは聞かなかったと思う。そして上級生から「月見草」と教えてもらったものは、「大待宵草」ではなかったかと思う。もともとの月見草が白い花であるということは、調べて知った。植物学上の名前と、俳句の季語とは同じではない。俳句の季語にはこうしたものが結構ある。竹下夢二の「宵待草」は、「待宵草」のこと。

 マツヨイグサ属には黄色以外の白、紫、ピンク、赤といった花を咲かせる種もある。標準和名では、黄花を咲かせる系統は「マツヨイグサ」(待宵草)、白花を咲かせる系統は「ツキミソウ」(月見草)と呼び、赤花を咲かせる系統は「ユウゲショウ」(夕化粧)などと呼んで区別しているが、一般にはあまり浸透しておらず、黄花系統種もよくツキミソウと呼ばれる。しかし黄花以外の系統がマツヨイグサの名で呼ばれることはまずない。なお黄花以外の種は園芸植物として栽培されているものが多い。開花時間帯についても、ヒルザキツキミソウなどはその名のとおり昼間に咲く。英語では夜咲き種は evening primerose、昼咲き種を sundrops と呼び区別している。黄花系統種のうち、マツヨイグサ O. stricta やコマツヨイグサは、花が萎むと赤く変色するが、オオマツヨイグサやメマツヨイグサはそれほど赤くはならないので、こういった点でも種を区別できる。
 ツキミソウ(月見草、Oenothera tetraptera、つきみぐさ)は、アカバナ科マツヨイグサ属に属する多年草である。メキシコ原産で江戸時代に鑑賞用として渡来した。花期は6 – 9月ごろで、花は夕方の咲き始めは白色であるが、翌朝のしぼむ頃には薄いピンク色となる。同属種であるオオマツヨイグサ、マツヨイグサ、メマツヨイグサなどのことを「月見草」と呼ぶこともある。また、「月見草油」というサプリメントが流通しているが、ほとんどの場合、本種ではなくマツヨイグサかメマツヨイグサ由来である。
 マツヨイグサ(待宵草)は、アカバナ科マツヨイグサ属の一年生または多年生草本植物で、この語は主にマツヨイグサ属に含まれる植物について種を特定しないで呼ぶ場合に使用される。標準和名マツヨイグサは学名 Oenothera odorata で呼ばれる種を指すが、こうした用法では滅多に使用されない。マツヨイグサ属にはおよそ125の種が含まれており、14節が構成される。どの種も南北アメリカ大陸原産であり他地域には産しない。日本も例外ではなく、野生のものは帰化植物か、逸出した園芸植物のいずれかである。原産地では種により海辺や平野から高山に至るまで幅広く分布するが、パイオニア植物なので、自然状態では平地では河原、砂浜や砂漠、山ではガレ場や、山火事の跡などの荒地や痩せ地に、人為的にかく乱された環境下では鉄道路線沿いや路肩、耕作放棄された畑や休耕田のような場所に生え、他の植物が成長してくると姿を消す。日本では造成中の土地や未舗装の駐車場でもよく見かける。本属植物は、メキシコ北東部からアメリカ合衆国のテキサス州にかけての地域が発祥の地と考えられている。
 種としてのマツヨイグサ O. stricta も、原産地はチリやアルゼンチンといった南米で、嘉永年間(1848年〜1853年)に日本にもたらされ、当初観賞用として植えられていたものが逸出し、昭和30年代に同属のオオマツヨイグサ O. erythrosepala とともに空き地などに大群落を形成した。しかし近年はこれも同属のメマツヨイグサ O. biennis に押され、姿を見る機会は減った。草丈は種により異なり、チャボツキミソウのような高山植物では高さ10cm程度、低地産の O. stubbei では3mにまで成長する。葉は開花軸に対して螺旋形に付き、鋸歯を持つか、または深く裂ける(羽状中裂)。花は多くの種において黄色い四弁花で、どの種も雌しべの先端が4つに割れる特徴を有する。一日花であり、多くの種が夕刻に開花し夜間咲きつづけ、翌朝には萎む。これが「月見草」や「待宵草」の名の由来である。

◇生活する花たち
「すかし百合①・すかし百合②・ルピナスとすかし百合」(大船植物園)

7月2日(月)

★鎌倉へ合歓の一樹の花盛り  正子

○今日の俳句
白山の寸時雄姿を梅雨晴れ間/佃 康水
梅雨が晴れたほんの少しの間、白山の雄姿に会え、感動しきり。梅雨に隠れた神秘的な白山が暗に示されている。(高橋正子)

○夾竹桃

[夾竹桃/横浜日吉本町]

★引き寄せし記憶夾竹桃咲きぬ/稲畑汀子
★安房の海夾竹桃の燃ゆる上に/瀧春一
★何か炒める音して夾竹桃咲けり/岡本眸
★夾竹桃散る三叉路に雀の子/松崎鉄之介
★夾竹桃爆風めける風受けて/片山由美子
★持ち前の強さ明るさ夾竹桃/小澤克己
★夾竹桃高きに白し仰ぎ見る/高橋信之

 じりじりとした暑さがやってくる。海を見ればどぼんと飛び込んで泳ぎたくなる。ちりんちりんと鐘を鳴らしてアイスキャンデー売りが自転車にアイスボックスを載せてやってくる。ボンネットバスが埃を巻きあげて通る。夏休みに精一杯遊んでいると、夾竹桃が校庭の隅で赤い花を咲かせる。ブランコの鎖の鉄の匂いが汗ばんだ手に移る。そうこうするうちに原爆忌やお盆が来る。戦没兵士の慰霊祭が校庭でとり行われる。夾竹桃はそのころ必ず咲いている。6月ごろからぽつぽつ咲き始め、9月、夏休みの宿題を抱えて登校するころまで咲く。 その葉で笹舟のように舟をつくったこともあるが、水に浮くわけではない。一花一花は可愛いが、強靭な花である。夾竹桃と言えば、暑さときらめく海と戦死者たちを思うのが私の常だ。

★わたくしのぶらんこ夾竹桃にふれ/高橋正子

キョウチクトウ(夾竹桃、学名: Nerium oleander var. indicum)とは、キョウチクトウ科キョウチクトウ属の常緑低木もしくは常緑小高木である。和名は、葉がタケに似ていること、花がモモに似ていることから。インド原産。日本へは、中国を経て江戸時代中期に伝来したという。葉は長楕円形で、両端がとがった形。やや薄くて固い。葉の裏面には細かいくぼみがあり、気孔はその内側に開く。花は、およそ6月より残暑の頃である9月まで開花する。花弁は基部が筒状、その先端で平らに開いて五弁に分かれ、それぞれがややプロペラ状に曲がる。ピンク、黄色、白など多数の園芸品種があり、八重咲き種もある。日本では適切な花粉媒介者がいなかったり、挿し木で繁殖したクローンばかりということもあって、受粉に成功して果実が実ることはあまりないが、ごくまれに果実が実る。果実は細長いツノ状で、熟すると縦に割れ、中からは長い褐色の綿毛を持った種子が出てくる。

◇生活する花たち「睡蓮・紫陽花・すかし百合」(フラワーセンター大船植物園)