6月1日(土)

●小口泰與
おちこちに牧草ロール夏ひばり★★★
子燕や金平糖を育て初め★★★
アカシヤや雲の棚引く赤城山★★★

●桑本栄太郎

六月のこよみめくれる朝餉かな★★★
六月に入った。まだ涼しく、さわやかな、朝ごはんのとき、六月のこよみをめくる。六月は梅雨入りがあり、いよいよ蒸し暑い夏を迎える。行事などをざっと見渡したり。四季のある日本の暮らしのよさであろう。(高橋正子)

カーテンのふくらみ風の窓若葉★★★
裏返る白き葉裏や風薫る★★★

6月1日(土)

★山あじさい辿れる道をふさぎ咲く  正子

○今日の俳句
早苗積み軽トラックゆく真昼かな/多田有花
田に早苗を運んでゆくのだが、「真昼」の出来事として、しらしらと、うすうすと、光に満ちたさわやかな印象を受ける。(高橋正子)

○植田

[植田/横浜緑区北八朔町(2012年5月30日)]_[植田/横浜緑区北八朔町(2013年5月24日)]

★いとけなく植田となりてなびきをり/橋本多佳子
★鶏鳴のあとのしづけさ植田村/鷹羽狩行
★夕明りして千枚の植田寒/岡本眸
★たつぷりと水面の光る植田かな/辺見狐音
★裏は植田前は大きな日本海/坂上香菜
★通勤の今日より植田道となり/村田文一
★合鴨の入りし植田の賑へり/松元末則
★お札所の森の浮べる植田かな/上崎暮潮

 植田は、田植えを終わって間もない田で、苗が整列し、水田に影を映している。やがて苗が伸びて青田となる。
 天皇陛下は5月30日、皇居内の生物学研究所脇にある水田で恒例の田植えをされた。開襟シャツにズボン、長靴姿で水田に入り、もち米のマンゲツモチとうるち米のニホンマサリの苗を、しゃがみながら1本ずつ植えた。苗は皇居内で昨年収穫された種もみから育てた。この日は計100株を植え、31日以降にさらに100株植える。田植えは昭和天皇が農業奨励のために始め、陛下が引き継いだ初夏の行事。秋には稲刈りをし、収穫した米は皇室の神事などに使われる。

 昨年、4月29日に母の見舞いに新横浜から山陽道の福山まで新幹線に乗った。そのときは、<代田見せ列島下る新幹線/正子>という句を作った。5月22日に母が亡くなったのでまた下りの新幹線を福山まで乗った。東海から近江あたりまでは、田圃はすっかり植田に代わっていた。雨の少ない瀬戸内は雨を待って田植えが始まるのがほとんどだろうから植田は、ぼつぼつという感じであった。日本から水田の風景が消えたら、もう日本ではなくなる。車窓から見ても、直に見ても、折々の水田風景は美しいものだ。飛行機に乗って上空から眺めると、日本中が水浸しになったように植田が広がっている。いとけない苗の緑や、青い空や白い雲まで映る植田。雷雨でもきそうになれば、植田の水はくらくかき曇る。
 子どもの頃の田植は、手で植えていたから、15センチか20センチに伸びた苗を、苗代から一本一本抜き取り一握りになったら藁で束ね、田水に浮かせ置く。一定の間隔を取った駒や布の印をつけた綱を田に張り、その印のところに苗を挿す。根元をいためないように、指で苗を包むように添えて、泥に挿す要領で植えていく。このようにして苗が植わった田圃は、きれいに整列した苗と水の比例が美しい。植田を吹きわたる風がさざ波を起こす。植田こそが水田の風景のなかでもっとも美しいと思える。

★近江には近江の植田水ひかり/高橋正子
★植田となりし遥か向こうに田植せり/高橋正子
★山影の植田は山の影映す/高橋正子
★植田道子が落ちないように連れ通る/高橋正子

◇生活する花たち「蛍袋・時計草・紫陽花」(横浜日吉本町)

5月31日(金)

●高橋秀之
早朝の窓から部屋へ若葉風★★★
目覚めれば夜明けの光若葉風★★★
ざわざわと木々の重なり夏の風★★★

●小口泰與
雨粒もあめんぼも跳ね水の昼★★★★
雨粒、あめんぼの小さなものの、生き生きした可愛さがいい。「水の昼」の世界が楽しい。(高橋正子)

あめんぼの硬き水跳ね水の空★★★
聞こゆ来る踏切の音や初夏の朝★★★

●河野啓一
-千里万博自然公園-
緑陰に汝も昼飼か子雀よ★★★★
緑陰で餌を啄ばむ子雀を見ていると、実にかわいらしい。汝もお昼御飯か、と親しさがわく。子雀も小さきわが友なのだ。(高橋正子)

万緑の池の辺に座す昼下がり★★★
緑陰に吾も子雀も憩うかな★★★

●藤田裕子
遠蛙鳥声しずめ鳴き出づる★★★
青梅雨の古道に咲けり白き花★★★
雨後の園色澄ましおり花菖蒲★★★

●迫田和代
朝日浴び新樹のみどり又燃える★★★
少年の胸に明るい薔薇の花★★★
夏の海波弾く岩皆セピア★★★

●多田有花
全天を染めし梅雨の大夕焼け★★★★
風吹けばとりどり崩れ薔薇の園★★★
甘夏食ぶ果汁に指を濡らしつつ★★★

●桑本栄太郎
車窓より万緑空へ天王山★★★
稜線の確と定かや梅雨の晴れ★★★
音立てて雨戸閉めけり五月尽★★★

●小西 宏
糠雨や崖に立ち咲く山法師★★★
道の辺に白き花おき五月ゆく★★★
梅雨の夜に爪切って身の新しく★★★

5月31日(金)

★葛飾は薔薇咲き風の吹くところ  正子
映画の舞台になったこともある隅田川の東部一帯の住宅地、葛飾。街には門ごとに薔薇や草花が植えられていて良い風も通り抜けているのでしょう。読者をして自然に、軽やかで愉快な気分に導いて下さる御句です。 (河野啓一)

○今日の俳句
夏潮の青く広きや船の旅/河野啓一
「夏潮」は青さを特徴とするものであるが、「広き」が加わり、船旅の開放感を詠み手にも味あわせてくれる。(高橋正子)

○南瓜の花

[南瓜の花と実/横浜緑区北八朔町(2012年5月30日)]_[南瓜の花/横浜緑区北八朔町(2013年5月24日)]

★南瓜咲く室戸の雨は湯のごとし/大峯あきら
★貧乏な日本が佳し花南瓜/池田澄子
★黄の濃さよ日の出前なる花南瓜/両角竹舟郎
★朝早き車窓に南瓜の花を見き/高橋正子

南瓜は、ウリ科カボチャ属(学名 Cucurbita)の総称である。特にその果実をいう。原産は南北アメリカ大陸。主要生産地は中国、インド、ウクライナ、アフリカ。果実を食用とし、カロテン、ビタミン類を多く含む緑黄色野菜。 日本における呼称類はこの果菜が、国外から渡来したことに関連するものが多い。一般にはポルトガル語由来であるとされ、通説として「カンボジア」を意味する Camboja (カンボジャ)の転訛であるとされる[3]。 方言では「ぼうぶら」「ボーボラ」などの名を用いる地方もあり、これはやはりポルトガル語で、「カボチャ」や「ウリ類」を意味する abóbora (アボボラ)に由来するとされる。 ほかに「唐茄子(とうなす)」「南京(なんきん)」などの名もある。 漢字表記「南瓜」は中国語: 南瓜 (ナングァ; nánguā)によるもの。英名は pumpkin (パンプキン)であると理解されている場合が少なくないが、実際には、少なくとも北米では、果皮がオレンジ色の種類のみが pumpkin であり、その他のカボチャ類は全て squash (スクウォッシュ)と総称される[4]。 したがって日本のカボチャは、kabocha squash (カボチャ・スクウォッシュ)などと呼ばれている。属名Cucurbita はラテン語で、一般的には「ウリ」と訳される語を転用したもの。

◇生活する花たち「未央柳(びようやなぎ)・釣鐘草・卯の花」(横浜日吉本町)

5月30日(木)

 港の見える丘公園
★薔薇を見しその目に遠き氷川丸  正子

○今日の俳句
かしましき程の田道や揚ひばり/桑本栄太郎
田道は しずかに明るく、雲雀を邪魔するものもない。雲雀が野の明るさを謳歌している。(高橋正子)

○茄子の花

[茄子の花/横浜日吉本町(2010年6月3日)]_[茄子の花/横浜市都筑区川和町(2013年5月21日)]

★この辺でかみ合ふ話茄子の花/稲畑汀子
★ふだん着の俳句大好き茄子の花/上田五千石
★雨あとの土息づくや茄子の花/松本一枝
★茄子の花茄子に映つてをりにけり/木暮陶句郎

 茄子(なす)は、ナス科ナス属の植物。また、その果実のこと。原産地はインドの東部が有力である。その後、ビルマを経由して中国へ渡ったと考えられている。中国では広く栽培され、日本でも1000年以上に渡り栽培されている。温帯では一年生植物であるが、熱帯では多年生植物となる。日本には奈良時代に、奈須比(なすび)として伝わった。土地によっては現在もそう呼ばれることがある。女房言葉により茄子となった。以降日本人にとってなじみのある庶民的な野菜となった。葉とヘタには棘があり、葉には毛が生えている。世界の各地で独自の品種が育てられている。加賀茄子などの一部例外もあるが日本においては南方ほど長実または大長実で、北方ほど小実品種となる。本州の中間地では中間的な中長品種が栽培されてきた。これは寒い地域では栽培期間が短く大きな実を収穫する事が難しい上に、冬季の保存食として小さい実のほうが漬物に加工しやすいからである。しかし食文化の均一化などにより野菜炒めや焼き茄子など、さまざまな料理に利用しやすい中長品種が全国的に流通している。日本で栽培される栽培品種のほとんどは果皮が紫色又は黒紫色である。しかしヨーロッパやアメリカ等では白・黄緑色・明るい紫、さらに縞模様の品種も広く栽培される。果肉は密度が低くスポンジ状である。ヘタの部分には鋭いトゲが生えている場合がある。新鮮な物ほど鋭く、鮮度を見分ける方法の一つとなるが、触った際にトゲが刺さり怪我をすることがある。収穫の作業性向上や実に傷がつくという理由から棘の無い品種も開発されている。品種によってさまざまな食べ方がある。小実品種は漬物、長実品種は焼き茄子、米茄子はソテー。栄養的にはさほど見るべきものはないが、東洋医学では体温を下げる効果があるとされている。また皮の色素ナスニンは抗酸化作用があるアントシアニンの一種である。なかには、「赤ナス」のような観賞用として生け花などにも利用されているもの(熊本県などで「赤ナス」の商品名で栽培されている食用の品種とは別物)もある。赤ナスは食用のナスの台木としても用いられる(観賞用の赤ナスは味などにおいて食用には適さないとされる)。

 茄子の花は野菜の花のなかでも、句に詠まれることが多い。茄子は、濃い紫の茎、紫の色を残した緑の葉、うす紫の花、そして紫の実とその色合いが少しずつ違って一本となっている。その中で茄子の花の芯は一つ黄色で、そのおかげで花が生きている。夕方、野菜畑に水をやるときには、もっとも涼しそうな花である。

★茄子の花葉かげもっとも涼しかり/高橋正子
★茄子の木にもっとも淡し茄子の花/高橋正子

●8月号投句10句
夏来る空に
高橋正子

夏来る空に湧く雲流るる雲
薔薇垣と薔薇のアーチに人の住む
青嵐ふっと真昼の陰りたる
疲れ寝て覚めしところに風薫る
 東京白金台・自然教育園五句
浮葉抜け森の一花のあさざの黄
山あじさい辿れる道をふさぎ咲く
杜若残れる花の草に浮く
飯桐の落花あまたよ道濡れて
木にひたとこげら飛び来て森五月
茄子の木にもっとも淡し茄子の花

◇生活する花たち「紫陽花・カルミア・卯の花」(横浜日吉本町)

5月30日(木)

●川名ますみ
薫風に眠りし人よ雲のべつ★★★
梅雨入の今年は忌日より早く★★★
さくらんぼ炊いて隣にミントティ★★★

●小口泰與
登校の帽子の列や柿若葉★★★
大利根の中洲に降りし青鷺よ★★★
水際をさわに占めけり黒揚羽★★★

●河野啓一
梅雨入りして老いに優しき木々の色★★★
サツキ赤し益々赤し雨の中★★★
カレー食ぶこの蒸し暑さ吹き飛ばせ★★★

●桑本栄太郎
植え終わりすぐにそよぎぬ瓜の苗★★★★
苗物を植えて、すぐに根付いたようにそよぐのは嬉しいものだ。それが、瓜などの夏野菜となれば、涼しさを呼んでなおさらだ。(高橋正子)

水ふふむ風の匂いや梅雨に入る★★★
うす暗きひと日暮れゆく梅雨入りかな★★★

●小西 宏
熟れたるを犬と分け合う桜の実★★★
草刈の匂い沸き立つ日照り雨★★★
【原句】紫陽花の縁より青の広ぎゆく★★★
【正子添削】紫陽花の縁より青の広がりゆく
【正子添削】紫陽花の縁より青を広げゆく

●高橋秀之
早朝の窓から部屋へ若葉風★★★
目覚めれば夜明けの光若葉風★★★
ざわざわと木々の重なり夏の風★★★

5月29日(水)

●小口泰與
岩魚追う獣道をや登りけり★★★
鰻釣る蛇と見紛ううねりかな★★★
我立つと水面に集う目高かな★★★

●佃 康水
草叢の木苺朝の陽を返す★★★★
草叢の木に小さな実をつける木苺。つぶつぶの実が朝日をはね返すと、宝石のように輝く。小さく、フレッシュなものの可愛いさ。(高橋正子)

種々の樹のみな真っ白き花蜜柑★★★
老鶯や木魂のように啼き返す★★★

●桑本栄太郎
それぞれの丈にときめくルピナスよ★★★
医科大の樟の大樹や風薫る★★★
早苗田の山影よぎる車窓かな★★★

●藤田洋子
紫陽花にきれいな山の風が吹く★★★★
梅雨入りしたばかり。ときに、山には涼しく透明な、さらっとした風が吹く。それが「きれいな風。」紫陽花をさわやかに、軽やかにしている。(高橋正子)

見始めの紫陽花一つ大きなる★★★
紫陽花の毬それぞれに朝の色★★★

●小西 宏
草原を母さんと行く藁帽子★★★★
広く、青い草原を麦わら帽子を冠った母と子が行く。草原と母と子のみ。ことさらに何もない世界がいい。(高橋正子)

挨拶は軽鳧の子のこと草の池★★★
五月野を網持ち走るふくらはぎ★★★

●河野啓一
力矯めつぼみ抽き出すアマリリス★★★
アマリリス赤色秘めて伸び出る★★★
碁に負けて口惜しくもありアマリリス★★★

●川名ますみ
聖橋(ひじりばし)
緑蔭の先は明るき聖橋★★★★
聖橋は、お茶の水駅近くの神田川に架かるアーチ型の橋。湯島聖堂とニコライ堂をつなぐ橋という意味で、聖橋と命名されたという。湯島聖堂方面から見た光景が。橋の明るさが緑陰と対比されて、より明るい思いが感じられる。(高橋正子)

御茶ノ水橋の先蔦茂る橋★★★
御茶ノ水橋の向こうに青蔦の橋★★★

5月29日(水)

★朴の花わが身清めて芳しき  正子
朴の花の大きさ、高貴さは見る者の心を震わせて大なるものがあります。その白さ、澄明さには将に「わが身清めて芳しき」の措辞がぴったりです。(小西 宏)

○今日の俳句
段なして植田それぞれ空を持つ/小西 宏
田ごとに空が映つる植田は、目にも涼やかで美しい。早苗の緑と、空の映る田水が段をなしている棚田の風景は、日本の残したい風景。(高橋正子)

○胡瓜の花

[胡瓜の花/横浜市緑区中山町(2012年5月26日)]_[胡瓜の花/横浜市都筑区川和町(2013年5月21日)]

★蝶を追ふ虻の力や瓜の花/正岡子規
★夕鰺を妻が値ぎりて瓜の花/高浜虚子
★生き得たる四十九年や胡瓜咲く/日野草城
★雲ひくし風呂の窓より瓜の花/芥川龍之介
★土蔵もて史蹟としたり瓜の花/富安風生
★瓜咲くや一つになつて村の音/永田耕衣
★肌合いの届くところに胡瓜咲く/成宮颯

胡瓜は、(キュウリ、Cucumis sativus L.)とはウリ科キュウリ属のつる性一年草、およびその果実のことである。かつては熟した実を食用とした事もあったが、甘みが薄いためにあまり好まれず、現在では未熟な実を食用とするようになった。インド北部、ヒマラヤ山麓原産。日本では平安時代から栽培される。胡瓜の「胡」という字は、シルクロードを渡って来たことを意味している。「キュウリ」の呼称は、漢字で「木瓜」または「黄瓜」(きうり)と書いていたことに由来する。上記の通り現代では未熟な実を食べる事からあまり知られていないが、熟した実は黄色くなる。尚、現代では「木瓜」はボケの花を指す。温暖な気候を好むつる性植物。栽培されているキュウリのうち、3分の2は生で食することができる。種子は暗発芽種子である。雌雄異花ではあるが、単為結果を行うため雄花が咲かなくとも結実する。主に黄色く甘い香りのする花を咲かせるが、生育ステージや品種、温度条件により雄花と雌花の比率が異なる。概ね、雄花と雌花がそれぞれ対になる形で花を咲かせてゆく。葉は鋸歯状で大きく、果実を直射日光から防御する日よけとしての役割を持つ。長い円形の果実は生長が非常に早く、50cmにまで達する事もある。熟すと苦味が出るため、その前に収穫して食べる。日本では収穫作業が一日に2~3回行われる(これには、日本市場のキュウリの規格が小果であることも一因である)。夏は露地栽培、秋から初春にかけては、ハウスでの栽培がメインとなり、気温によっては暖房を入れて栽培することもある。しかし、2003年から2008年の原油価格の価格高騰により、暖房をかけてまでの栽培を見送る農家も少なくない。果実色は濃緑が一般的だが、淡緑や白のものもある。根の酸素要求量が大きく、過湿により土壌の気相が小さい等、悪条件下では根が土壌上部に集中する。生産高は2004年、2005年は群馬県が第一位であったが、2006年からは宮崎県が第一位である。

◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

5月28日(火)

★竹落葉わが胸中を降るごとし  正子
竹が葉を落とす初夏となりました。はらはらと散るのを眺めながら、一つの季節の節目を胸中に感じられたのでしょうか。 (祝恵子)

○今日の俳句
若葉光手つなぎ歩くいとこ達/祝恵子
若葉の輝く季節、小学生ぐらいのいとこ達であろうか、集まって、行楽にでかけるのであろう。「手つなぎ歩く」には、兄弟姉妹だけよりも、広がりのある身内のたのしさが、若葉の季節を得て、かろやかに詠まれた。(高橋正子)

○栃の花

[紅花栃の木(べにばなとちのき)/横浜市都筑区牛久保]

★栃咲いて浅夜しづかな疲れあり/星野麦丘人
★仰ぎ見る樹齢いくばくぞ栃の花/杉田久女
★山砂の流れとどめて栃咲けり/長谷川かな女
★栃咲くやまぬがれ難き女の身/石田波郷
★墓地の道乾きて冷えぬ栃の花/草間時彦
★裁判所あたりを暗く栃の花/大堀柊花
★あつまれる神ほとけかも橡の花/山崎 聰
★栃の花大志を抱く男居て/谷内 茂
★栃の花日ぐれは逸る水の音/菅井静子

栃の木(トチノキ、学名:Aesculus turbinata)は、トチノキ科(APG植物分類体系ではムクロジ科とする)トチノキ属の落葉広葉樹。近縁種でヨーロッパ産のセイヨウトチノキ (Aesculus hippocastanum) が、フランス語名「マロニエ:marronnier」としてよく知られている。落葉性の高木で、温帯の落葉広葉樹林の重要な構成種の一つ。水気を好み、適度に湿気のある肥沃な土壌で育つ。谷間では、より低い標高から出現することもある。サワグルミなどとともに姿を見せることが多い。木はとても大きくなり高さ25m、太さも1mを越えるものが少なくない。葉も非常に大きく、この区域では最大級の葉である。葉柄は長く、その先に倒卵形の小葉5~7枚を掌状につけ(掌状複葉)、全体の長さは50cmにもなる。葉は枝先に集まって着く。5月から6月にその葉の間から穂状の花序が顔を出す。穂は高く立ち上がり、個々の花と花びらはさほど大きくないが、雄しべが伸び、全体としてはにぎやかで目立つ姿である。花は白~薄い紅色。ツバキのものを大きくしたような丸い果実が熟すと厚い果皮が割れて少数の種子を落とす。種子は大きさ、艶、形ともに、クリのてっぺんのとんがりをなくして丸くしたようなものを想像すれば、ほぼ間違いない。ただし、色はより黒っぽい。日本では東日本を中心に分布、中でも東北地方に顕著に見られる。木材として家具などの材料となる。巨木になるものが多いので、昔はくり抜いて臼を作るのにもよく使われた。最近は乱伐が原因で産出量が減り、主にテーブルなどに使用される。木質は芯が黄金がかった黄色で、周辺は白色調。綺麗な杢目がでることが多い。また真っ直ぐ伸びる木ではないので変化に飛んだ木材となりやすい。比較的乾燥しにくい木材であるが、乾燥が進むと割れやすいのが欠点であるが、21世紀頃にはウォールナットなどと同じ銘木級の高価な木材となっている。デンプンやタンパク質を多く含有する種子は栃の実として渋抜きして食用になる。同様に渋抜きして食用になるコナラやミズナラなどの果実(ドングリ)よりも長期間流水に浸す、大量の灰汁で煮るなど高度な技術が必要で手間がかかるが、かつては米がほとんど取れない山村ではヒエやドングリと共に主食の大きな一角を成し、常食しない地域でも飢饉の際の食料(飢救作物)として重宝された。現在では、渋抜きしたものをもち米と共についた栃餅(とちもち)などとしてあちこちの土産物になっている。そのほか、街路樹に用いられる。パリの街路樹のマロニエは、セイヨウトチノキといわれ実のさやに刺がある。また、マロニエと米国産のアカバナトチノキ (Aesculus pavia) を交配したベニバナトチノキ (Aesculus x carnea) も街路樹として使用される。日本では大正時代から街路樹として採用されるようになった。(フリー百科事典「ウィキペディア」より)

栃の花を若いときに見た記憶はないが、栃の天狗の団扇のような葉はなかなか面白い。立ちあがる花も大木の花らしくおおらかで、どことなく洒落ている。

★栃の木の紅花立てて街路樹に/高橋信之
★高架より見たり栃の花咲くを/高橋正子

◇生活する花たち「紫陽花・姫沙羅・グミ」(横浜日吉本町)

8月28日(火)

●小口泰與
つり橋を渡りて宿や夕河鹿★★★
山風の猛々しきやけしの花★★★
どんどんと蜘蛛の子散らす目高かな★★★

●佃 康水
草刈られ畔の川筋光りけり★★★★
川を覆っていた草がきれいに刈られると、川は水を光らせて流れる。さっぱりとした川の流れがすがすがしい。(高橋正子)

長廊下足裏の湿り梅雨の入り★★★
デパートの梅雨入りグッズやカラフルに★★★

●小西 宏
酢漿の花くび傾げ雨近し★★★
梅雨前の塩辛蜻蛉岩の上★★★
梅雨近し小暗き森の鳥の声★★★

●多田有花
五月の雨並びし子らの傘の色★★★
雲低く山にかかりて走り梅雨★★★
万緑となりぬ風雨に洗われて★★★

●桑本栄太郎
青空の高き葉陰やいかる鳴く★★★
草茂る川の中州や水見えず★★★
緑蔭のつづく車内の阪急線★★★

●河野啓一
万緑に埋もれ活き活き森を行く★★★
苦瓜を植えつけて待つ青簾★★★
走り梅雨なるや夜来の雨の音★★★

●小川和子
風澄めば矢車草の花淡き★★★★
矢車草の色は、風に澄まされたような色をしている。逆に言えば、風が澄むと矢車草の花も淡く清楚に。(高橋正子)

森に聞く声のみ低く青葉木菟★★★
青嵐吹けば吾を呼ぶ母しのぶ★★★

●古田敬二
一列に丸く風受けネギ坊主★★★★
ネギ坊主が一列に整列して、さながら坊主頭の子どものよう。その頭をさらっと風がなでると、行儀のよいかわいい風景となる。(高橋正子)

うつむくはホタルブクロの内気かな★★★
まず一色見せて濡れてる額紫陽花★★★

●川名ますみ
薫風に眠りし人よ雲のべつ★★★
梅雨入の今年は忌日より早く★★★
さくらんぼ炊いて隣にミントティ★★★>