7月27日(土)

★初蝉は一蝉遠く鳴いて止む  正子
初蝉の他の蝉はまだ羽化していないのでしょう。遠くで一蝉が鳴いて、そのまま止んでしまう。夏の始まりの光景を感じます。(高橋秀之)

○今日の俳句
子らに買うバナナを袋いっぱいに/高橋秀之
袋の詰められたバナナの黄色に元気がある。子供たちへの格好の土産となったバナナであるが、夏にあって楽しい。(高橋正子)

○グラジオラス

[グラジオラス/横浜日吉本町]

★グラジオラス妻は愛憎鮮烈に/日野草城
★グラジオラスゆるるは誰か来るごとし/永田耕一郎
★グラジオラス揺れておのおの席につく/下田実花
★刃のごとくグラジオラスの反りにけり/佐久間慧子

 花にも流行り廃れがあるが、私の記憶では、昭和30年代から40年代の初めごろ、グラジオラスは、ダリアと並んで人気の花だったと思う。葉が菖蒲のようで、花が連なって咲く。ヒメヒオウギズイセンに似たマジェンダ色のグラジオラスが一般的だったころ、生家にもあった。それから花がずいぶん華やかに豪華になった。グラジオラスは、ガラスの花器に活けたい。茎を水に透かせて、豪華な花の暑苦しさから解放されたい。そうすれば随分涼しい花となる。連なった花は根元から先へと咲く。最後の蕾まで咲き切らすのは意外と難しい。
 グラジオラス (Gladiolus) は、アヤメ科グラジオラス属の植物の総称。日本には自生種はなく、園芸植物として植えられている。別名、トウショウブ(唐菖蒲)、オランダショウブ(阿蘭陀菖蒲)。名前は古代ローマの剣であるグラディウスに由来し、葉が剣に類似していることが根拠と言われる。日本では明治時代に輸入され、栽培が開始された。根は湿布薬の材料に使われる。原産地は、アフリカ・地中海沿岸など。赤、黄、橙、白などの花を開花する。葉(一説には花が咲く前の一連のつぼみ)が剣のようなのでGladius(ラテン語で「剣」)にちなんで名づけられた。春に球根(球茎)を植え、夏の7 – 8月にかけて開花する春植え球根として流通しているものが一般的である。一部の原種には秋植え球根で、春に開花するものもある。花言葉には勝利・密会・用心などがある。

◇生活する花たち「蓮の花・ひまわり・百日紅(さるすべり)」(フラワーセンター大船植物園)

7月27日(土)


●祝恵子
紅蓮にトンボ小さく彩をつけ★★★
空入れて蓮池水面に花の影★★★
池の風届く高さに泰山木★★★★

●迫田和代
蝉しぐれこぼさず立ちし大樹かな★★★★
大樹は桜の大樹であろうか。蝉しぐれがその木からこぼれ出ない。それほどにしっかりと蝉の声を包みこんだ大樹の風格はすばらしく、どっしりとした人間を見るようだ。(高橋正子)

朝日浴び鳩が空飛ぶ原爆忌★★★
被爆しただのに青々青桐や★★★

●小口泰與
千曲川鮎の長竿かがよえり★★★★
川風に銀鱗はねし簗場かな★★★
凌霄や赤城の空のいぶし銀★★★

●桑本栄太郎
靴濡らし朝の田道や露涼し★★★
青いちじく朝の田道の香りけり★★★
あいさつを交わす田道や朝涼し★★★★

●佃 康水
巨船ゆく沖へはだかる雲の峰★★★
日覆いを上げて目高の様子見る★★★
罅割れし青田へ田水染みわたる★★★★

●川名ますみ
うす紅も編まれし母の夏帽子★★★★
母にまだある若さと可愛さをほほえましく、ある意味母親的まなざしで思う娘である。明るいうす紅が涼しさを呼んでくれる。(高橋正子)

遠花火さがせば広き窓の外★★★
空蝉やビルの垣根の小さき葉に★★★

●古田敬二
大木によれば涼風うまれけり★★★★  
森静か遠くに蝉の音聞くばかり★★★
蚊帳釣り草一人で裂くはさびしかり★★★

●高橋秀之
この視線浴びて一息浮き袋★★★
顔つけてバタ足させてプールの子★★★
子を追うて潜るプールは水浅し★★★★

7月26日(金)

●小口泰與
あけぼのの空やダリアの雨しずく★★★★
雲の湧く浅間のすそ野田水沸く★★★
山に沿い夏雲沸くや佐久平★★★

●藤田裕子
蝉の声はたと止む午後風とおる★★★
ごちそうは茄子の漬け物白ごはん★★★★
星もなく熱帯夜の街鎮もれり★★★

●桑本栄太郎
 神戸六甲アイランドへ
夏潮の耀く眼下やモノレール★★★★
眼下に夏潮が耀いているのを眼のあたりにした爽快感がよい。また、モノレールという乗り物の特徴で、眼下というより、夏潮の真上にいる愉快があってよい。(高橋正子)

出港の二隻の白波夏の潮★★★
夏霞はるか高みに臨海線★★★

●多田有花
明け方の夢より醒めて蝉涼し★★★
紅白が交互に植わり百日紅★★★★
大辛のカレー一皿夏の昼★★★

5月25日(木)


●小口泰與
八方へ水打ちにけり鳥の声★★★★
八方に水を打ち、あたりは静まり涼しくなった。鳥の声が降って来る。気持ちが爽やかになる。(高橋正子)

白靴の先の濡るるや朝まだき★★★
田水沸く音ひとつ無き里の午後★★★

●佃 康水
 宮島管弦祭
神事果て夏満月の海となる★★★★
厳島神社の管弦祭の神事が終わり、海はなにか改まったように小さな波音を立てている。それを夏の満月が照らして安らかさが広がっている。(高橋正子)

大太鼓町へ轟く管弦祭★★★
曳き船の男(おのこ)ら踊る管弦祭★★★

●多田有花
朝食の窓辺に沸き立つ蝉の声★★★
蓮池に蜻蛉すいすい夏の朝★★★
朝曇去り木の陰のくっきりと★★★★

●桑本栄太郎
空蝉のまなこ哀しく語りけり★★★
いつせいに鳴き止む黙や蝉しぐれ★★★
炎熱のコンテナ赤き貨物基地★★★★

●古田敬二
妻の留守自分ひとりに胡瓜揉む★★★
朝粥に梅干し一つ光明寺★★★
陽の温み残したままの梅漬ける★★★★

7月26日(金)

★白すぎて花おおらかに泰山木  正子
いつも見る梅雨空は、雨が降り星が見えません。今日見る梅雨空には、星が瞬いています。じめじめしたうっとおしい日が続く梅雨の季節、ひとときほっとされ、明日の晴天を期待しながら眠りに就かれました。(藤田裕子)

○今日の俳句
朝を歩く吾にポピーの揺れやさし/藤田裕子
何かの用事で、朝、戸外を歩くことがあった。歩く傍にはポピーがそよ風を受けてやさしく揺れている。日常の中にもふっとした小さな詩の世界がある。(高橋正子)

○クィーン・ネックレス

[クィーン・ネックレス/横浜日吉本町]

★夕涼に行き遇うクィーン・ネックレス/高橋正子

 「クィーン・ネックレス」という花がある。「女王様の首飾り」。女王様は、エリザベス女王以外には考えられない。わざわざ「クィーン」がつくところが、メルヘン的。この花のピンクが英国女王に似合っているようにも思う。蔓性の花、案外丈夫で、いったん咲いて、剪定して、また咲いてを、しばらく繰り返しているようだ。ちょうど角の家にあるし、ピンクの小花がネックレスのように10センチほど連なっていて、珍しいので、通る人がよく名前を尋ねるらしい。
 クイーンネックレスは、タデ科アンティゴノン属で、学名はAntigonon leptopus。メキシコ原産の熱帯つる性で、7月~10月にかけて、ピンク色の花を咲かす。耐暑性はあるが、耐寒性(5度以上)は弱い。日あたりのよい場所、また水はけ、水もちのよい土で育て、フェンス・トレリス等に這わせ、ベランダからも垂らしたりする。別名をアサヒカズラ、アンティゴノン、ニトベカズラという。

◇生活する花たち「月見草・大賀蓮・のうぜんかずら」(横浜・四季の森公園)

7月24日(水)

●小口泰與
嘴で羽根を掻きけり通し鴨★★★
た走るや横谷渓谷乙女滝★★★
野を分けて利根迸る夕立かな★★★★

●多田有花
段ボール畳んで捨てる大暑の日★★★
蓮の葉の裏より蜻蛉生まれけり★★★
午後の部屋通り抜けたる大南風★★★★

●桑本栄太郎
昇降機を降りてひぐらし鳴き初むる★★★★
ビルの高層階では聞こえなかったひぐらしの声が、地上階で昇降機を下りると、とたんに聞こえ始めた。 気密的なビルも地上に通じればひぐらしの声も聞こえるのだ。(高橋正子)

空蝉の虚空の果てを見つめけり★★★
池の辺の風をさえぎり蘆茂る★★★

●祝恵子
家裏に立てかけられてゴムプール★★★★
カラフルなゴムプールが、ひっそりとした家裏に立てかけられて、目に楽しく映る。家裏が涼しそうである。(高橋正子)

オクラ採る少しぬめりを感じつつ★★★
子かまきり夏日に足を揺り踏み出す★★★

7月25日(木)

★枇杷の実のあかるさ葉ごと買いにけり  正子
厚手の緑葉の中にかたまって生る輝くような枇杷の実。その姿そのままに買い帰られたのでしょうね。帰路の軽い足取りが目に見えるようです。(小西 宏)

○今日の俳句
金蚊の仰向いて脚生きんとす/小西 宏
金蚊が何かにぶち当たってひっくり返った。起き上がろうとしてか、必死に脚を動かしている。作者はその様子を「生きんとす」と捉えた。金蚊の命を直視しているのがよい。(高橋正子)

○鬼百合

[鬼百合/東京・新宿御苑]          [鬼百合/大船植物園]

★亭寂寞薊鬼百合なんど咲く/夏目漱石
★望岳のころの鬼百合おいらん草/和知喜八
★鬼百合も写ってしまう心電図/岸本マチ子
★鬼百合を闘志の花として残す/柴田悦子
★鬼百合あれは出征前夜の父/石倉夏生
★鬼百合に負けてはならじとぞ思う/高橋正子

オニユリ(鬼百合・学名Lilium lancifolium)とは、ユリ科ユリ属の植物。グアム東部、中国、朝鮮半島、日本に自生する。日本では北海道から九州の平地から低山で普通に見られ、一説には中国からの渡来種と言われている。変種に対馬に自生するオウゴンオニユリ(Lilium lancifolium var. flaviflorum)がある。草丈は1~2m程となる大型のユリ。葉は互生し、小さめの披針形で先端はゆるく尖る。茎は紫褐色で細かい斑点がある。花季は7月から8月で、花弁はオレンジ色、濃褐色で暗紫色の斑点を生じる。花弁は強く反り返る。種子は作らないが、葉の付け根に暗紫色のムカゴを作る。鱗茎はヤマユリと同様、食用となる。 花言葉は「賢者」「愉快」「華麗」「陽気」など。

◇生活する花たち「あさざ・野萱草(のかんぞう)・山百合」(東京白金台・自然教育園)

7月23日(火)

●小口泰與
枝ごとにあふるるほどの百日紅★★★★
百日紅は炎暑にも負けず盛んに花を咲かせる。枝先に「あふるるほど」の花だ。「あふるるほど」の花が百日紅の花の特徴
を言いえている。(高橋正子)

夕さりの風の重さや雨蛙★★★
走り根の雁字搦めや蜘蛛の網★★★

●迫田和代
涼風や中に花咲く氷柱を★★★
朝風に日影を明るく百日紅★★★
白波にぶつかっていく日焼けの子★★★★

●桑本栄太郎
こころなきものの哀れや蝉の殻★★★
つきものの落つや鳴き止む蝉しぐれ★★★
もの影の色濃くなりぬ大暑かな★★★★

●藤田裕子
門しずか夏月丸く鈍く照り★★★
遠目にも百日紅燃ゆ枝先を★★★★
大暑の日家居たのしむ人となり★★★

7月24日(水)

★ゆうすげに月まだ淡くありにけり  正子

○今日の俳句
青葡萄白磁の皿の静かさに/河野啓一
静物画のような静謐な雰囲気がある。マスカットのような青い葡萄と白い皿を思う。(高橋正子)

○蒲の花(蒲の穂)

[蒲の花(穂の下部は雌花、穂の上部は雄花)/日吉本町]

★蒲の穂は剪るべくなりぬ盆の前/水原秋桜子
★蒲の穂に緋の絨緞の見ゆる家/飯田蛇笏
★蒲の穂やはだしのままに子の育つ/池内たけし
★蒲の穂を捧げ自転車向うから/中 ひろし

 蒲の穂に初めて接したのはお花を習っていたとき。はたしてそれが栽培されているものか、水辺に生えているものかあまり考えたこともなかった。面白い形状の花材ではあるが。松山城より西にある衣山に住んだときに蒲が生い茂る湿地があった。近くにある考古館の傍の池にも蒲があった。身近にあることに驚いたが、こどものころは一度も見たことがなく、因幡の白さぎの話で知って、どんなものかと思っていた。
赤茶色の雌蕊の部分とその上に突き出た細い棒状の雄蕊の部分が蒲の特徴であろう。秋になると穂絮が風に千切れて吹かれているのを見るが、国生みのころを想像して、淋しさを感じる。横浜では、四季の森公園の池の辺にある。写真に撮ればそれなりに雰囲気のある写真になるがやはり暗さと淋しさがある。

★蒲の花遊ぶ子どもを透かしたり/高橋正子

 ガマ(蒲、香蒲、学名:Typha latifolia L.)は、ガマ科ガマ属の多年草の抽水植物である。北半球の温暖な地域やオーストラリアと日本の北海道から九州の広範囲に分布する。池や沼などの水辺に生える。葉は高さ1-2 mで、水中の泥の中に地下茎をのばす。夏に茎を伸ばし、円柱形の穂をつける。穂の下部は赤褐色で太く、雌花の集まりでありソーセージに似た形状である。穂の上半分は細く、雄花が集まり、開花時には黄色い葯が一面に出る。風媒花である。雄花も雌花も花びらなどはなく、ごく単純な構造になっている。雌花は結実後は、綿クズのような冠毛を持つ微小な果実になる。この果実は風によって飛散し、水面に落ちると速やかに種子が実から放出されて水底に沈み、そこで発芽する。 また、強い衝撃によって、種が飛び散ることもある。花粉は生薬としては「蒲黄」(ほおう)と呼ばれる。雌花の熟したものは綿状(毛の密生した棒様のブラシ状)になり、これを穂綿と呼ぶ。日本神話の因幡の白兎の説話では、毛をむしり取られた兎に対して大国主は蒲黄を体につけるように助言している。しかし、唱歌の「大黒さま」の中ではそれが「がまのほわた」となっており、両者は混同されていたことがわかる(もっとも、摘みたての「がまのほ」に触ると大量の黄色い花粉がつく)。

◇生活する花たち「蛍袋・時計草・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

7月23日(火)

★睡蓮の花のひとつが離れ浮き  正子
睡蓮の花のひとつのありのままの描写に、水面に咲く睡蓮の全体のたたずまいまでもが見えてきます。水面に浮かぶ睡蓮の清楚な美しさに心惹かれ、ひとときの涼しさを感じさせていただきました。(藤田洋子)

○今日の俳句
青田から青田をつなぐ水の音/藤田洋子
青田に流れ込む水は、水源から小川へ、そして、それぞれの田へ分けれた水。「つなぐ」が的確で、どの田も青々と育っている。(高橋正子)

○カサブランカ

[カサブランカ/横浜日吉本町]

★カサブランカ咲き特別な日々となる/山崎 杏
★今年またカサブランカの紅の蕊/稲森如風
★風そよぎカサブランカの薫りあり/中居秀童
★カサブランカに風あり白いと思う朝/高橋信之

 カサブランカがブームになって、田舎都市の松山でも愛好者が増えた。大変美しく豪華な百合であると知ったし、花屋でもまず目についた。それを自分で咲かせてみようと思ったのは、加入しているコープのパンフレットでカサブランカの球根の案内があったから。試しに注文して球根が届いた。秋に鉢植えにして花を楽しみにしていた。普通の百合のように芽がでるものとおもっていたが、筍ようような切っ先が伸びてきて驚いた。なんの手入れもなく、カサブランカの花を楽しんだ。翌年は咲かせようとはおもわなかったので、私が咲かせたカサブランカはこのときだけになっている。
 横浜・四季の森公園で山百合を見て、カサブランカほどの大きさだと思ったが、カサブランカのもとは日本の山百合であることを後で知った。私の大きさの認識については間違っていなかったということだろう。

  松山・衣山
★カサブランカ海をうしろに咲く今朝よ/高橋正子

 カサブランカの原産地は北半球の日本を含む亜熱帯~亜寒帯である。ユリ属のうちヤマユリ、タモトユリなどを原種とするオリエンタルハイブリッドの一品種。開花時期は7~8月。1970年代にオランダで作出され、世界的なブームを呼んだ。純白の大輪の花を咲かせ「ユリの女王」と言われる。結婚式の際のブーケをはじめ、主に贈り物の花束として喜ばれる花である。オリエンタル・ハイブリッドは、ヤマユリやカノコユリ、タモトユリなど森林のユリを交配して作られた品種群で、その中の「カサブランカ」が有名であるが、カサブランカを生み出す交配で主要な役割を果たしたトカラ列島口之島原産のタモトユリは、皮肉なことに自然状態ではほぼ絶滅してしまっている。なおカサブランカはモロッコの都市の一つ。なお、映画『カサブランカ(英語: Casablanca)』は、第二次世界大戦にアメリカが参戦した1942年に製作が開始され、同年11月26日に公開されたアメリカ映画で、フランス領モロッコのカサブランカを舞台にした。ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンが出演しており、映画スターベスト100(1999年)の男性1位にハンフリー・ボガート、女性4位にイングリッド・バーグマンが選ばれている。

◇生活する花たち「月見草・大賀蓮・のうぜんかずら」(横浜・四季の森公園)