H23 1月号投句とメモ

鶺鴒
高橋正子

芒の穂中洲にひらきみな若し 
鴨泳ぐ速き流れに乗りつつも
秋の野の黄蝶白蝶こまごまと
秋風の鳥小屋インコの羽四色
 治代さんから芋炊セット
水郷のごぼう里芋鍋に炊き
欅もみじはや夕暮れが来ておりぬ
十二夜の月にふらんす砂糖菓子
 鶴見川・鳥山川
秋川の出会いの水ののびやかに
落ちそうで落ちず鶺鴒飛ぶときは
すすきより後れて葦の穂が真白
 
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 横浜スタジアム
秋天に強靭なるものスタジアム
剥かれたる芋の白さを煮て保つ
残業の子にあたためて芋煮鍋
里芋の畑にとなり芋を売る
晩稲田の刈らるるまでをそよぎけり
晩稲田の祭りすぎたるさびしさよ  
龍の口より落ちたる水の澄みていし
境内の秋澄み銀杏まだ青し
境内の崖をしばりて蔦紅葉
二丁目の丘に芒の穂の若し
酔芙蓉はれやかなるは八重であり
野ぼたんの紫あれば庭が澄み
湯上りの肌に星より来る寒さ
きょうからは色が見え出す菊蕾
ジンジャーの花の香に足る十三夜
おのこらが合唱して来る秋の坂
一鉢の小菊の色のたのしけれ
球根を植えて文化の日の晴天
秋天の青全きや指の傷

H22花冠12月号

水澄んで
高橋正子

山の端へ星を配りて天の川
おそがけのふるさとの葡萄つめたかり
日にいちばん耀くものに菊蕾 
 駒林神社三句
おみららの囃して吹ける祭笛
祭笛獅子を寝かせる子守唄
祭笛風が運んで強弱も
大寺の銀木犀は空の香に
大寺の水あるところ水澄んで
足先がふっと蹴りたる青どんぐり
薄紅葉「天狗推参」あるやもし

H22/11月号投句

湿原に
高橋正子

尾瀬行きのバスの秋日のあたたかし  
みなかみの稲穂熟れそむ日和なり   
胡麻の花山の青さをきわだてり    
八月は水芭蕉の葉のおおいなる
ハンゴンソウの黄花真盛り触れもして
木道に沿えば風吹き吾亦紅
 イワショウブ
みはるかす湿原白き花が立ち
湿原に日はかたむかず未草
 弥太郎清水
差し入れし泉の水に手を切られ
山小屋の湯にいて秋の笹の音

10月号投句/22年


稲の花
高橋正子

 家郷
広島のとある岬のひろしま忌
遍路路は稲の花咲く道ならむ
つっと来て赤とんぼうの去らずいし
朝顔の紺の開きて佳き日なり
冬瓜を食す港の見える窓
水遣られもっともいきいき茄子の花
ベランダに晩夏の朝日黄ばみける
市民アパート誰か咲かせて紅蜀葵
盆が来ていよいよ黒く荒布炊く
走り藷蒸けてまばゆき夕日あり

9月号後記/平成22年

後記
★新涼の季節、九月号をお届けします。今月
号も先月号に引き続き、「電子書籍を読む」
について多くの方から感想を寄せていただき
ました。信之先生が電子書籍化された句集へ
のお礼も含め、あたらな気持ちで句集に向き
合われたことなど、ご自分のこととしての感
想に現実味があります。出版各社もようやく
重い腰を上げた感じがします。電子書籍の売
れ行きの伸びと相俟って紙の書籍も売り上げ
を伸ばして、胸をなでおろした様子です。平
成十三年には平成八年の二十倍の電子書籍が
売られると調査会社が報告しています。電子
書籍の時代がくることは間違いないでしょう。
ただ、心配がないわけではありません。出版
不況に陥り、よい本が出版されなくなり、本
当に読みたい本が市場から消えたことも現実
です。電子書籍においても、売れ筋の本ばか
りが出版され、本当に読みたい本が電子書籍
化されないこともありうることでしょう。ま
ず、よい内容の本を早く魅力ある本として電
子書籍化し、読者を逃さないようにしておく
べきでしょう。俳句に関するものもしかり。
そういう意味で、花冠の電子書籍は意義が深
いと思います。電子書籍がもっとの研究され
て、利点が生かされ楽しいものになればよい
と思っています。
★信之先生の俳句鑑賞を毎月違った方に書い
ていただいています。俳句は、一人ではなか
なか的確に読めないもの。鑑賞の参考にして
いただければと思います。「作者の気持ちに
なって」読むのが花冠の伝統的俳句鑑賞の方
法です。私見を優位に置いたものではありま
せんので、きっとお役に立つと思います。
★久しぶりに吟行記の掲載です。加代子さん
のご報告で、五月の秀之さん歓迎吟行句会の
模様です。お楽しみください。夏の吟行で思
い出すのは、鵜飼もあるけれど、気軽な吟行
です。四国札所の奇岩で有名な岩屋寺の吟行
で立ち寄った食堂。お昼に汗して帰ったご主
人が脇のテーブルで食事。われわれの食べた
ものは忘れたが、ご主人の昼食のおいしそう
なこと。大きなひややっこに鰹節を盛って、
もう一皿は、胡瓜を切ったものに醤油をかけ
て。それと白いご飯。吟行にゆけば、こうい
う涼しげな、人間的な体験ができる。涼しく
なったら、吟行句会を予定しています。
★「子どもの俳句」を真っ先に読みますとい
うメールを某俳句雑誌の若い女性編集者から
いただきました。大変うれしいことです。
「子どもの俳句」もよろしくご支援ください。
暑いときですので、お体大切にお過ごしくだ
さい。             (正子)

9月号投句/平成22年

氷菓食ぶ
高橋正子

朴の花見むと花より高く来し
街路樹に栃の花房氷菓食ぶ
蛍火の高きは水のいろを帯ぶ
ほうたるの火が飛ぶ風が吹き起こり
紫陽花の毬るいるいと寺の門
蓮つぼみ青きとがりのまだ無疵
蓮つぼみ抽き出し二本がくれないに
葛の葉の垂れしは涼し揺れており
日々散れる日々草の花を掃く
白粉の花のうしろから暮れる

7月10日 俳句メモ6月11日~7月10日

金蔵寺7句
風吹けば白はまぼろしハンゲショウ
半夏生群れたるここはまぼろしか
青き実に西日差し入る白雲木
蓮つぼみ青きとがりのまだ無疵
蓮つぼみ抽き出し二本がくれないに
紫陽花の毬るいるいと寺の門
葛の葉の垂れしがきれい梅雨の山
 日々ペットボトルの水を飲むにつけ
富士湧水ペットボトルに冷えており
ほうたるの火が飛ぶ風が吹き起こり
ほうたるの五つ六つの渓深し
ほうたるの火が飛ぶ風が吹き起こり
ほうたるの消えしは橋をくぐるとき
大風に額紫陽花の裏がえり
枇杷の実に雨は一日止みもせず 正子
額あじさい雨を受けては海の色 正子
わらびもち電話かかればそのままに 正子
青紫蘇の丈の低きの二枚摘む
 津和野回想
鷺舞の二羽に行き逢う旅の途に
瑠璃鶲・野鶲・駒鳥みな知らず
鯵を焼く藻塩さらさら振りかける
朴の花上より見むと上に来し
街路樹に栃の花咲き氷菓食ぶ

22年1月号投句

冬はじめ
高橋正子

天の日は初冠雪の嶺に照り
冬はじめ富士の裾野の長く長き
刈田ぬくし濃尾平野を行きゆきて
晩秋の水を静かに木曽三川
木曽三川ひとつは鴨がいきいきと
 米原
穂芒の白という色かがやかせ
紺碧の天と対いて刈田あり
近江なり田にコスモスを咲かせけり
東寺の塔たちまち後へ旅晩秋
刈り残る熟田の黄あり瀬戸内は

花冠12月号(21年)投句

浜の月
高橋正子

海の青日々に深まり柘榴の実
ザクロの実イスタンブールを想いけり
雲奥の浜の月なり虹の円
平らかな虫音が千々に月を浴ぶ
朝はまだ木犀の香のつめたかり
近づいてきて佳き音の祭笛
祭太鼓子が打つらしく軽き音
花の色みな澄みにけり鶏頭は
草を出て草へ飛びけりきりぎりす
鳥渡る異郷の空のうすぐもり

俳句メモ9月11日~10月11日

花の色みな澄み今朝の鶏頭は
冷やしおく葡萄に露の吹いており
秋夜電車の灯にみなケイタイ読む
秋芝のキャンパス少し坂の上
黄昏の一気に寄せて虫の声
虫の声鈴音のごときが地にころがり
鶏頭の立ったる土の乾ききる
ほうれん草お菜に茹でて暮れ早し
何事も思わず今夜の秋刀魚買う
秋祭りの近き空気がポストまで
新駅の広場に秋風よく通り
林檎食ぶそのあたたかき皮を剥き
黄花コスモス甍ある家を囲みける
晴れし日は桜が紅葉し始めぬ
楽隊のドリル演奏秋天へ
豆腐屋に秋日斜めに差し来たり
新豆腐すっぱと切りしを買い戻る
小さくも山椒黄葉の始まれり
秋冷に水はあたたかし手を洗う
つづれ鳴く虫音のときに高まるも
学生の頃の空なり鳥渡る
秋雨の暗渠にこぽこぽ澄みし音
秋雨の水輪澄みつつ重なり合い
座布団のごとき柿にてさわし柿
大根を刻めば老いもきらきらと
海の青日々に深まり柘榴の実
柘榴の実割ればこぼるることいつも
柘榴の実もろきガラスのごと割れぬ
雲奥に月のあること虹の円
置き始む露も虫音も銀色に
平らかな虫音も千々に月を浴ぶ
日を負うてバッタのみどりみずみずし
日のバッタ草を飛び出て草へ飛び
月の夜があければ木犀の香が流れ
朝はまだ木犀の香のつめたかり
祭笛はたと途切れぬもの書けば
祭笛佳き音なりて遠のきぬ
祭太鼓子が打つらしく弾みけり