5月17日-20日

5月20日

●小口泰與
黄牡丹のすなおに散って重なりぬ★★★★
「牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片/蕪村」の句にあるように、牡丹は散って花弁を重ねることが多い。この句の黄牡丹は牡丹らしくない色と言える。それがさりげなく、すなおに散って、やはり、どの牡丹とも同じように花弁を重ねている。(高橋正子)

かるの子や畦の醜草もこもこと★★★
雨さんざすべなき吾の浴衣かな★★★

●河野啓一
夏潮の色あざやかに福江島★★★★
水しぶき子ら次々と夏の川★★★
芝庭に紅い花植え夏舘★★★

●黒谷光子
葉桜を透く陽のきらら水音す★★★★
アイリスの紫溢る畑の隅★★★
アイリスを切り持ち帰る一抱え★★★

●桑本栄太郎
櫟より風に垂れいる毛虫かな★★★
姫女苑の風に抗いむらさきに★★★
蚕豆のコンとボウルに豆をむく★★★★

●小西 宏
動く虫咥えて忙し親燕★★★
紫陽花の花芽の緑雨を待つ★★★
羅(うすもの)やざんばら髪の勝ち名乗り★★★

●古田敬二
万歩計鳴らして歩く若葉風★★★
鍬降れば根を切る音の心地好し★★★
亡き犬の走りし森の若葉風★★★★

5月19日

●小口泰與
郭公や牧草ロールおちこちに★★★★
心地よい夏の牧場の風景。郭公が鳴き、牧草ロールが遠く、近くに点在する。よい時間が流れている。(高橋正子)

単線の線路真直ぐ桐の花★★★
沢蟹や棚田をかけるやわき風★★★

●河野啓一
鳥声も愉し青空バラの苑★★★★
木漏れ日を浴びて耀く赤いバラ★★★
夕べ来て新樹は風にざわめきぬ★★★

●多田有花
谷空木咲く道たどり登山口★★★★
新緑に肺まで染まりぶなの森★★★
樹間よりはるかに五月の日本海★★★

●桑本栄太郎
<大蛇ヶ池公園>
海桐咲く池の木蔭や風の闇★★★
睡蓮の池畔の中に広げ居り★★★
青蘆の吾をいざなう葉風かな★★★

●小西 宏
香に触れて丘にゆたかな樫の花★★★
葉桜の空に眩しき下り坂★★★★
夕暮の風に汗引く散歩道★★★

●古田敬二
どの家も好きな色あり薔薇盛ん★★★★
今年は四月の気温が低く、いろんな種類の薔薇が一度に咲きだした。薔薇を咲かせている家々を見れば、その家好みの色がある。白が好きな家もあれば、ピンクが好きな家もある。また、赤や黄やと。そういう色が合わさって、「薔薇盛ん」なのだ。(高橋正子)

柏餅二つに割りやる妻がいる★★★
歯科医院出て薫風の中大股に★★★

5月18日

●小口泰與
万緑の山懐の葉ずれかな★★★★
万緑の山を外から眺めるのではなく、その懐に入ると緑の木々の葉ずれがさわさわと鳴り、自分を大きく包んでくれる。山懐に抱かれたとき、自然の大きさ深さが思われる。(高橋正子)

水はじく水車や池の糸とんぼ★★★
友釣りの鮎の長竿空をきり★★★

●黒谷光子
空晴れてくっきり伊吹の登山道★★★★
山も野も晴れて緑の色競う★★★
玉葱を引く一本の匂いくる★★★

●河野啓一
立ち止り鳥声聞けば木下闇★★★★
立ち止まって鳥の声に耳を傾けていると、そこは木下闇であることに気づく。涼しい木下と鳥の声が快い。(高橋正子)

ひと休み佇む頃や木下闇★★★
若葉大きくなりて西日受け★★★

●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランドへ>
薫風の空へと走るモノレール★★★★
白波の岸壁つたう卯浪かな★★★
新緑や埋め立て六甲アイランド★★★

●小西 宏
柔らかき若葉はカツラ明るい風★★★★
カツラの若葉はひときわ柔らかく、明るい。カツラは黄葉もほかの黄葉に比べ一段と明るいので、カツラの特性として、若葉のあかるさ、柔らかさが頷ける。(高橋正子)

青草に水の流れの聞こえ来る★★★
ママもぼくも五月の芝に初安打★★★

5月17日

●小口泰與
鯉の泥吐かせし小川若楓★★★
榛名嶺に朝日射しけり桜の実★★★★
浮石に飛び乗る吾や山女釣★★★

●迫田和代
ドーム見え新緑見えて川流れ★★★★
高層の窓からの眺め。ドームの丸い屋根が見え、新緑が見え、そして川が流れている。この景色は具体的には広島の原爆ドーム、平和公園の新緑、元安川の流れだが、戦禍を覆い隠して静かな季節である。(高橋正子)

薄暑の日木陰もいいし水もいい★★★
すぐそばに車椅子あり更衣★★★

●桑本栄太郎
花槐ゆらし吹きおり雨の風★★★★
神苑の杜の深きやいかる鳴く★★★
せせらぎに沿いて歩めば山法師★★★

●河野啓一
しゃがの花白くひっそり瀬のほとり★★★
囀りを空にちりばめ今朝の風★★★★
朝顔の苗植え竹を立ててやり★★★

●古田敬二
緑陰に入れば優しき心地なる★★★
句会終え緑陰優しき道帰る★★★

風吹けば若葉の影も柔らか★★★★
風が吹かなければ、若葉の影はどっしりとしているが、風が吹くと風もそよぎ、柔らかな影となる。柔らかな影は見ていて安らぐ。(高橋正子)

●小西 宏
そよ風に葉裏やさしく桜の実★★★★
老農の畑に雛罌粟ほそき揺れ★★★
木漏れ日に鳥聞こえ来て初夏の涼★★★

5月14日~16日

5月16日

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)へしるべ辿りし時鳥★★★
桐の花しるき赤城の彫り深し★★★
牡丹散る清(すが)しき庭の風の道★★★★

●河野啓一
昼下がり揚羽が今日もやって来る★★★★
ヤタ鴉万緑の中ブラジルへ★★★
ヤタ鴉高く舞えよと柿若葉★★★

●桑本栄太郎
つまみ見るだけでは足らず桜の実★★★
竹皮を脱ぐやみどりの腰の丈★★★
ほろほろと雨降る茅花流しかな★★★★

●黒谷光子
夏の旅戒壇めぐりの真暗がり★★★
古刹へと登る石段緑濃き★★★
新緑の山あいを抜け美濃の旅★★★★

●多田有花
昼の陽を真白く返し手毬花★★★
はつ夏の満月雨あがりの空へ★★★★
筍を荷台に載せし軽トラック★★★

●小西 宏
朝の陽に滴る森よ時鳥★★★★
朝の陽が差す森はよく茂り、まだ濡れいている。輝いている。そこへ時鳥の声が聞こえる。麗しい初夏の森だ。(高橋正子)

水輝く五月の風の楓花★★★
三連の蝶舞い昇る花蜜柑★★★

5月15日

●小口泰與
掘り深き赤城や田畑夏浅し★★★★
笹音に振り向く吾や岩魚釣★★★
梅の実の路地一面を奪いけり★★★

●桑本栄太郎
若葉山つづく車窓の阪急線★★★★
槐咲く並木通りの風の闇★★★
黄菖蒲やルアーを手繰る池の畔★★★

●小西 宏
石楠花の身に影深し朝の雨★★★
雨の輪や子を失いし通し鴨★★★

梅の実のまだ小さきに紅を置く★★★★
梅の実がだんだんと太ってきた。まだ小さい実であるけれどほのかに紅色になっている箇所がある。小さいながら収穫ときの梅の様子を見せているのも驚き。(高橋正子)

●古田敬二
句会なる餡透き通るわらび餅★★★
森に座す若葉の陰に撫でられて★★★
紅秘めて薔薇は咲きかけ美しき★★★★

5月14日

●小口泰與
しるき斑を反転せしや山女釣★★★★
釣糸にからまる鰻へびの如★★★
夏蝉や乳を欲しいと泣く赤子★★★

●河野啓一
年毎に赤く咲き出すアマリリス★★★
カーネーションギフトはそっと土に埋め★★★

楠若葉並木一筋通学路★★★★
楠の若葉は盛り上がるように樹を覆う。その若葉が連なり重なる並木を通学する児童や生徒は健康的だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
ひかえめと云う華やぎや花卯木★★★
医科大の樟の大樹や聖五月★★★★
茉莉花の雨の予報に匂いけり★★★

●黒谷光子
夏野菜二人がかりに植え終える★★★★
水を遣り紫紺あざやか茄子の苗★★★
風除けの上から覗く茄子の苗★★★

●小西 宏
風渉る緑に若き桜の実★★★★
クローバーの花咲き満てる広さかな★★★
金柑の花のぞき咲く竹垣に★★★

5月20日(火)

★竹藪にあまりに明るししゃがの花  正子
しゃがの花は少し日蔭となる場所を好み、鄙びてあまり目立つ花ではないものの、群生となれば別ですね。群生するほどの沢山のしゃがの花に出会われ、その時の驚きが想われます。鄙びた花姿の中に、趣きのある素敵な一句です。(桑本栄太郎)

○今日の俳句
竹皮を脱ぐや常なる一幹に/桑本栄太郎
下五の「一幹に」がいい。今年の竹の誕生と成長を言葉の意味でも、また「イッカン」という音の響きでも。(高橋信之)

○朴の花

[朴の花/横浜都筑区ふじやとの道]

★朴散華すなはち知れぬ行方かな/川端茅舎
★朴咲く山家ラヂオ平地の声をして/中村草田男

ホオノキ(朴の木、Magnolia obovata、シノニム:M. hypoleuca)はモクレン科の落葉高木。
大きくなる木で、樹高30m、直径1m以上になるものもある。樹皮は灰白色、きめが細かく、裂け目を生じない。葉は大きく、長さ20cm以上、時に40cmにもなり、葉の大きさではトチノキに並ぶ。葉柄は3-4cmと短い。葉の形は倒卵状楕円形、やや白っぽい明るい緑で、裏面は白い粉を吹く。互生するが、枝先に束生し、輪生状に見える。花も大型で大人の掌に余る白い花が輪生状の葉の真ん中から顔を出し、真上に向かって開花する。白色または淡黄色、6月ごろ咲き芳香がある。ホオノキは花びらの数が多くらせん状に配列し、がく片と花弁の区別が明瞭ではないなど、モクレン科の植物の比較的原始的な特徴を受け継いでいる。果実は袋果で、たくさんの袋がついており、各袋に0 -2個の種子が入っている。葉は芳香があり、殺菌作用があるため食材を包んで、朴葉寿司、朴葉餅などに使われる。また、落ち葉となった後も、比較的火に強いため味噌や他の食材をのせて焼く朴葉味噌、朴葉焼きといった郷土料理の材料として利用される。葉が大きいので古くから食器代わりに食物を盛るのに用いられてきた。6世紀の王塚古墳の発掘時には、玄室の杯にホオノキの葉が敷かれていたのが見つかった。材は堅いので下駄の歯(朴歯下駄)などの細工物に使う。また、水に強く手触りが良いため、和包丁の柄やまな板に利用されたり、ヤニが少なく加工しやすい為、日本刀の鞘にも用いられる。樹皮は厚朴または和厚朴といい、生薬にする。

朴の花を見たのは、一昨年が初めて。横浜市営地下鉄北山田駅を出ると、「ふじやとの道」という緑道がある。行きあたりに池のある徳生公園があり、その公園の小高い丘にある。5月16日には、白い朴の花が咲いていた。花は真っすぐを向いて咲くので、しかも高木なので、梯子をかけてでもないと真上からの花は見えない。ところが運よく、朴の木よりも高く丘に道が付いている。その道を上り、朴の花を見ることができた。花の良い香りもする。これほどまでに匂うとは思わなかった。朴葉寿司、朴葉焼きなど山国の郷土料理であろう。朴のまな板は、台所にあったし、朴の高下駄は、兄なども新制高校だったが、戦後まもないときだったので通学に履いていた。
下駄で思い出すのだが、下駄の生産では日本一とう松永という町が、生家からバス三十分ほど行ったところにあった。塩田は廃止されたが、塩田と下駄で有名で、小さな松永湾には下駄に使う松の木を沢山浮かばせてあった。今でもそうだろう。お盆が来ると田舎の子どもたちは下駄を新調してもらった。下駄の歯がすり減ってなくなるまで履いた。大人になっても、サンダルではなく下駄を愛用したときもあった。日本の夏は、素足に履けば心地よいのは下駄である。

★朴の花栃の花見てゆたけしや/高橋正子
★朴の花わが身清めて芳しき/高橋正子

◇生活する花たち「釣鐘草・薔薇・卯の花」(横浜日吉本町)