★花芭蕉掌にはつつめぬほどの花 正子
芭蕉に咲く花は乳白色の丸いものはよく見かけますがピンク状の花もあるようです。
「掌にはつつめぬほどの」とありますが、高いところ咲く花を作者は掌にとってみたかったのでしょう。手の届くところだったらそっと抱くように掌にとって眺められたことでしょう。 (古田敬二)
○今日の俳句
鮎焼く香大黒柱の黒光り/古田敬二
大黒柱が囲炉裏の油煙で黒光りしている民家であろう。そこに落ち着いて、鮎を火にかざして焼くと香ばしい匂いがして、良い時間が流れる。(高橋正子)
○蓮の花

[蓮の花/横浜市港北区箕輪町・大聖院]
★蓮のかを目にかよはすや面の鼻 芭蕉
★蓮白しもとより水は澄まねども 千代女
★蓮の香や水をはなるる茎二寸 蕪村
★うす縁や蓮に吹かれて夕茶漬 一茶
★昼中の堂静かなり蓮の花 子規
★そり橋の下より見ゆる蓮哉 漱石
今朝、蓮の花を見に天聖院に信之先生と出掛けた。蓮は朝咲いて昼に凋むので早朝が見ごろだ。天聖院に蓮池というほどの池はないが一むら蓮がある。その他にも御手洗のほとり、奥まった山裾あたりには大きめのポリ容器で育てている。散華が蓮の葉にかかっていた。紅蓮ばかりで、大賀蓮ではないようだ。ちょうど新暦のお盆なのだが、特にお寺まいりの人もなく森閑としたなかにさいている。松山市の城北に長建寺という寺があるが、ここの蓮池は立派で、池に突き出た部屋からは、蓮池が良く眺められる。蓮の花を描くという妹について早朝この寺に出かけたが、蚊取り線香が必携であった。岡山の行楽園にも蓮がある。これも見事だ。岡山は祭すしで有名だが、蓮田も多くこの祭すしには蓮根が使われる。鎌倉八幡の源平池の蓮もよく知られている。蓮の風情からいうと、後楽園の方が好きだ。
蓮の花について、一番なつかしいのは、学生時代の夏休みや結婚してからの帰省で予讃線から見た蓮田の景色だ。蓮田は松山から今治に近づくとところどころに見られる。はじめ遠く炎暑で煙る緑の蓮田が近づいてくると蓮の赤い花が見える。今年も蓮の花が咲いていると眺めながら、ディーゼル車のコトコト走る音を聞いた。とてもいい景色だった。
★蓮の葉にあまたかかりて蓮散華/高橋正子
★蓮の葉のそよげる中の蓮の花/〃
★煙りたる空の下なる紅蓮/〃
ハス(蓮、学名:Nelumbo nucifera)は、インド原産のハス科多年性水生植物。古名「はちす」は、花托の形状を蜂の巣に見立てたとするのを通説とする。「はす」はその転訛。 水芙蓉(すいふよう、みずふよう)、もしくは単に芙蓉(ふよう)、不語仙(ふごせん)、池見草(いけみぐさ)、水の花などの異称をもつ。 漢字では「蓮」のほかに「荷」の字をあてる。ハスの花を指して「蓮華」(れんげ)といい、仏教とともに伝来し古くから使われた名である。 また地下茎は「蓮根」(れんこん、はすね)といい、野菜名として通用する。属名 Nelumbo はシンハラ語から。種小名 nucifera はラテン語の形容詞で「ナッツの実のなる」の意。 英名 lotus はギリシア語由来で、元はエジプトに自生するスイレンの一種「タイガー・ロータス」 Nymphaea lotus を指したものという。7月の誕生花であり、夏の季語。 花言葉は「雄弁」。原産地はインド亜大陸とその周辺。地中の地下茎から茎を伸ばし水面に葉を出す。草高は約1m、茎に通気のための穴が通っている。水面よりも高く出る葉もある(スイレンにはない)。葉は円形で葉柄が中央につき、撥水性があって水玉ができる(ロータス効果)。花期は7~8月で白またはピンク色の花を咲かせる。 早朝に咲き昼には閉じる。園芸品種も、小型のチャワンバス(茶碗で育てられるほど小型の意味)のほか、花色の異なるものなど多数ある。
◇生活する花たち「睡蓮・すかし百合・すかし百合」(フラワーセンター大船植物園)

★なでしこの苗に花あり風があり 正子
夏から秋にかけて細く長い茎の上に優しい花を咲かせる川原なでしこを詠まれたのでは、と存じます。苗に花が咲き、その可憐な花が僅かな風にもたおやかに揺れ動く風情が目の前に浮かんできます。(河野啓一)
○今日の俳句
青葡萄白磁の皿の静かさに/河野啓一
静物画のような静謐な雰囲気がある。マスカットのような青い葡萄と白い皿を思う。(高橋正子)
○巴里祭(パリ祭)

[パリ、モントルグイユ通り、1878年6月30日の祭日/クロード・モネ画]
[京都祇園祭/ネットより]
★汝が胸の谷間の汗や巴里祭/楠本憲吉
★パリ祭や手乗り文鳥肩に乗せ/鷹羽狩行
★濡れて来し少女がにほふ巴里祭/能村登四郎
★図書館で借る古今集パリー祭/品川鈴子
★重層の雨の鉄階パリー祭/岡本眸
★星空を怒濤の洗ふ巴里祭/小澤克己
★巴里祭空いつぱいの水しぶき/豊田都峰
★ピザ生地を大きく抛りパリー祭/斉藤和江
★巴里祭とろ火に鍋を預けをり/能村研三
★巴里祭机上の医書は閉ぢしまま/水原春郎
「巴里祭」は、この映画を見た世代によく語られ、また俳句にも詠まれている。バスチーユ監獄襲撃というフランスの革命の記念日が日本で親しまれているのも不思議だが、邦題「巴里祭」の映画に大いによるものだろう。映画旺盛の時代のパリへの憧れもあったでろう。 詠まれている俳句は、それぞれが、それぞれの思いで「私の巴里祭」を詠んでいる句が多い。日本ではちょうど7月1日から1か月も続く京都の祇園祭の宵山が始まる。これに重ねれば、「巴里祭」も文化人たちののゆかしき一日なのかもしれない。
★巴里祭今日の予定に空を見る/高橋正子
パリ祭(ぱりさい)は、フランスで7月14日に設けられている国民の休日(Fête Nationale)。1789年同日に発生しフランス革命の発端となったバスチーユ監獄襲撃および、この事件の一周年を記念して翌年1790年におこなわれた建国記念日(Fête de la Fédération)が起源となっている。なお、フランスでは単に「Quatorze Juillet(7月14日)」と呼ばれ、「パリ祭」は日本だけの呼び名である。これは、映画『QUATORZE JUILLET』が邦題『巴里祭』として公開されヒットしたためで、邦題を考案したのは、この映画を輸入し配給した東和商事社長川喜多長政たちである。読み方について、今日では「ぱりさい」が一般的だが、川喜多かしこは「名付けた者の気持ちとしてはパリまつりでした」と語っている。当時の観客の大半も「パリまつり」と呼んでいたという。荻昌弘もまた「私の感覚では、これはどうあってもパリまつり、だ」と述べている。現在のイベントは、7月14日には、フランス各地で一日中花火が打ちあげられる。午前中にはパリで軍事パレードが開催され、フランス大統領の出席のもとシャンゼリゼ通りを行進する。その後、フランス共和国大統領の演説がおこなわれる。パレード終了後にはエリゼ宮殿において茶会が催される。パリ祭当日にはツール・ド・フランスが開催されている。(フリー百科事典「ウィキペディア」より)
◇生活する花たち
「すかし百合①・すかし百合②・ルピナスとすかし百合」(大船植物園)

★ひまわりの黄色澄みしを供花にもす 正子
太陽に向かって咲いているひまわり、その澄んだ黄色がとても美しくおもわず切って供花にされました。仏様もきっとそのひまわりの美しさを喜ばれたことと思います。 (藤田裕子)
○今日の俳句
飛機の灯も遠のき後は星涼し/藤田裕子
星空を動く飛行機の灯が遠くへ去り、その後は、満天の星が、涼しげに輝く。飛行機の灯があればこそ、永久に輝く星の明かりが美しく心に残る。(高橋正子)
○胡麻の花

[胡麻の花/横浜緑区北八朔]
★胡麻の花濡れしに思ひ至りけり/加藤楸邨
★足音のすずしき朝や胡麻の花/松村蒼石
胡麻の花はうすむらさきである。畑につっと立った胡麻の茎に直接に咲いて、9月ごろ実がなり、葉が枯れると、花の付き具合が一目瞭然となる。農家で畑の隅に自家用の胡麻をほんの数畝植えていた。生家では、さつま芋の隣に落花生、胡麻を植えていた記憶がある。最近では横浜の北八朔で栽培しているのを見た。結構広く植えていたので、自家用ばかりではないのかもしれない。
尾瀬にゆく途中でも山裾の小さい畑に植えてあったが、これは自家用だけと見受けた。
★尾瀬へゆくバスが見せたる胡麻の花/高橋正子
ゴマ(胡麻、学名:Sesamum indicum)は、ゴマ科ゴマ属の一年草。アフリカのサバンナに約30種の野生種が生育しており、ゴマの起源地はサバンナ地帯、スーダン東部であろうというのが有力である。ナイル川流域では5000年以上前から栽培された記録がある。日本列島では縄文時代の遺跡からゴマ種子の出土事例がある。室町時代に日明貿易での再輸入以降、茶と共に日本全国の庶民にも再び広まった。古くから食用とされ、日本には胡(中国西域・シルクロード)を経由して入ったとされる。西日本の暖地の場合、5月から6月頃、畦に二条まきする。発芽適温は20度から30度で、適当な水分と温度とがあれば容易に発芽する。本葉が二枚になり草丈が成長してきたら、2回程度間引きを行い、株間を開ける。収穫は9月頃。日本で使用されるゴマは、その99.9%を輸入に頼っている。財務省貿易統計によると、2006年のゴマの輸入量は約16万トン。一方、国内生産量は、約200トン程度に留まっている。全体の僅か0.1%に相当する国産ゴマのほとんどは鹿児島県喜界島で生産され、8~9月頃の収穫時期には、集落内、周辺にゴマの天日干しの「セサミストリート」(ゴマ道路)が出現する。草丈は約1mになり、葉腋に薄紫色の花をつけ、実の中に多数の種子を含む。旱魃に強く、生育後期の乾燥にはたいへん強い。逆に多雨は生育が悪くなる。鞘の中に入った種子を食用とする。鞘から取り出し、洗って乾燥させた状態(洗いごま)で食用となるが、生のままでは種皮が固く香りも良くないので、通常は炒ったもの(炒りごま)を食べる。また、剥く、切る(切りごま)、すりつぶす(すりごま)などして、料理の材料や薬味として用いられる。また、伝統的にふりかけに用いられることが多い。種皮の色によって黒ゴマ、白ゴマ、金ゴマに分けられるが、欧米では白ゴマしか流通しておらず、アジアは半々。金ゴマは主にトルコでの栽培。
◇生活する花たち「蓮の花・カンナ・みぞはぎ」(横浜市港北区箕輪町)

★ひるがおのこの世に透ける日のひかり 正子
昼顔は散歩の途中でよく見かけます。あまり栽培しているというふうでもなく、道端や空き地の隅に咲いていることが多いような気がします。色も薄く何となくか細げです。そんな風情が「この世に透ける」との措辞によく表わされているように思います。(小西 宏)
○今日の俳句
梅雨の森また静やかに葉を鳴らす/小西 宏
梅雨の森は青葉が茂りしんとして緑の奥深さを感じる。風に鳴り止んだ葉が、またも静かに葉を鳴らす。なんと、ひそけく「静やか」なことであろう。深い明るさがある。(高橋正子)
○花冠9月号校正をお願いします。
下記アドレスのブログをご覧になって、各自ご自分の俳句や原稿を
ご確認ください。訂正がありましたら、下記の<コメント>にお書き込みください。
http://blog.goo.ne.jp/kakan12/
○向日葵(ひまわり)

[向日葵/横浜市港北区箕輪町]
★日まはりの花心がちに大いなり 子規
★葉をかむりつつ向日葵の廻りをり 虚子
★日天やくらくらすなる大向日葵 亞浪
★向日葵や日ざかりの機械休ませてある 山頭火
★向日葵の月に遊ぶや漁師達 普羅
★向日葵やいはれ古りたる時計台 風生
★向日葵もなべて影もつ月夜かな 水巴
★向日葵や月に潮くむ海女の群 麦南
★日を追はぬ大向日葵となりにけり しづの女
★ひまはりのたかだか咲ける憎きかな 万太郎
★キリストに向日葵あげて巷の中 青邨
★向日葵の眼は洞然と西方に 茅舎
★向日葵の空かがやけり波の群 秋櫻子
★向日葵に馳せくる波の礁を超ゆ 秋櫻子
★向日葵に天よりあつき光来る 多佳子
★縋らむとして向日葵もかなしき花 鷹女
★たまたまの日も向日葵の失へる 汀女
★高原の向日葵の影われらの影 三鬼
★向日葵は連山の丈空へ抽く 草田男
★われら栖む家か向日葵夜に立てり 誓子
★向日葵の蓋を見るとき海消えし 不器男
★塀出来て向日葵ばかり見ゆる家 立子
★向日葵や一本の径陰山へ 楸邨
★向日葵にひたむきの顔近づき来 波郷
★向日葵の一茎一花咲きとおす/津田清子
★向日葵を長身佛の華とせる/岡井省二
向日葵といえば、ゴッホの絵がまず浮かぶ。次元は違うが、 ひまわりはチューリップと並んで、子どもがまず描く花だ。それほど花の形、葉の形がはっきりしている。最近は小型の向日葵があるが、戦後、子どものころの向日葵は、たぶんロシア向日葵というのだろうが、一茎に一花咲かせる大きな向日葵だった。夏休みが終わるころ種がぎっしりと出来て花がうつむく。種は縞模様で一花に百粒以上はできるのだろう。
今年初めてミニ向日葵を植えた。思いついて通販で種を買ったのだが、育ちつつある。驚いたことにこの種が大変魅惑的なブルーなのだ。咲くのを楽しみにしている。ヨーロッパやアメリカでは向日葵から油を取るために見渡す限り向日葵をさかせている光景を写真などで見るが、壮観なものである。
★向日葵に日が照るもとを蟻走る/高橋正子
★いくらでも水遣る夕べの向日葵に/高橋正子
ヒマワリ(向日葵、学名:Helianthus annuus)はキク科の一年草である。日回りと表記されることもあり、また、ニチリンソウ(日輪草)と呼ばれることもある。種実を食用や油糧とするため、あるいは花を花卉として観賞するために広く栽培される。ヒマワリは夏の季語である。原産地は北アメリカ。高さ3mくらいまで生長し、夏にかなり大きな黄色の花を咲かせる。大きな1つの花のように見えるが頭状花序と呼ばれ、多数の花が集まって1つの花の形を作っている。これは、キク科の植物に見られる特徴である。外輪に黄色い花びらをつけた花を舌状花、内側の花びらがない花を筒状花と区別して呼ぶ場合がある。和名の由来は、太陽の動きにつれてその方向を追うように花が回るといわれたことから。ただしこの動きは生長に伴うものであるため、実際に太陽を追って動くのは生長が盛んな若い時期だけである。若いヒマワリの茎の上部の葉は太陽に正対になるように動き、朝には東を向いていたのが夕方には西を向く。日没後はまもなく起きあがり、夜明け前にはふたたび東に向く。この運動はつぼみを付ける頃まで続くが、つぼみが大きくなり花が開く頃には生長が止まるため動かなくなる。その過程で日中の西への動きがだんだん小さくなるにもかかわらず夜間に東へ戻る動きは変わらないため、完全に開いた花は基本的に東を向いたままほとんど動かない。なお、これは茎頂に一つだけ花をつける品種が遮るもののない日光を受けた場合のことであり、多数の花をつけるものや日光を遮るものがある場所では必ずしもこうはならない。北海道の標準播種期は5月上旬であり、霜や氷点下の気温にも耐性はある。種は長卵形でやや平たい。種皮色は油料用品種が黒色であり、食用や観賞用品種には長軸方向に黒と白の縞模様がある。
◇生活する花たち「楮(コウゾ)の実・山ぼうしの実・水木の実」(横浜・四季の森公園)

★蕗の灰汁つきたる指のきしみがち 正子
蕗を料理するために下ごしらえをされました。灰汁というのは簡単には落ちません。調理が終わったあと、手を洗っても、その後しばらく何かをするたびに指先の感触に「きしみ」を感じられる、手ずから調理された方ならではの感触です。 (多田有花)
○今日の俳句
梅雨明けを待ちつつ髪を切りにけり/多田有花
梅雨の間は特に髪が重いと感じるのだが、梅雨明けのさっぱりした気持を思いつつ、髪を切る。これで気持ちの中では一足先に梅雨が明けそうだ。(高橋正子)
○今週の秀句(7月1日ー7日)を7句選ぶ。発表は、月間賞と同じところ。
http://blog.goo.ne.jp/npo_suien105/
○金魚草

[金魚草/横浜日吉本町]
★金魚草よその子すぐに育ちけり/成瀬櫻桃子
★裏庭の色を集めて金魚草/稲畑汀子
★金魚草風に溺るることのあり/行方克巳
「金魚草」と聞くだけで、金魚を想像して、かわいらしく、涼しい思いになる。パフスリーブの夏服を着た小学2.3年生の女の子のようだとも思う。ビロードがかった口唇形の花の色も赤、白、黄色などシンプルだし。夏の花壇をかざってくれる、子ども時代の私にとっては、夏休みの花である。夏休みのもろもろを思い出す。絵日記、植物採集、夏休みちょう、海水浴、昼寝、アイスキャンデー、西瓜、まくわうり、井戸水、日向水、打ち水、縁側拭きなど。江戸末期に渡来したようだが、当時はハイカラな花だったに違いない。
★裏庭に洗濯物干し金魚草/高橋正子
★金魚草金魚鉢には金魚いて/高橋正子
キンギョソウ(金魚草 Antirrhinum majus)はゴマノハグサ科(APG分類体系ではオオバコ科に入れる)キンギョソウ属の植物。南ヨーロッパと北アフリカの地中海沿岸部を産地とする。その名の通り金魚のような花を穂状に数多く咲かせる。花の色は赤・桃 ・白 ・橙 ・黄 ・複色。種は微細だが性質は強健で、こぼれ種でよく殖える。一般的には秋蒔きの一年草で、寒冷地では春蒔きにする。本来は多年草の植物であり、年月が経つにつれて茎が木質化する。金魚の養殖で有名な愛知県弥富市の市の花にもなっている。
◇生活する花たち「立葵・蛍袋・紅かんぞう」(横浜・四季の森公園)

鎌倉街道
★竹林に夏の真青な水打たれ 正子
禅寺の境内にある竹林の小道をゆくと、飛び飛びに続く敷石に打ち水がなされ、しっとりと濡れています。真青な竹の葉や幹を透して届く夏の明るい光によって、その敷石や土までもが緑がかって揺らめいています。色も水も、そして静けさもみな瑞々しく、涼しげに感じられます。 (小西 宏)
○今日の俳句
向日葵の黄がひろびろと丘をなす/小西 宏
丘一面に広がるひまわり畑。向日葵の黄の色が空に触れるまでにひろびろと丘をなしている外国のような風景が鮮やかだ。(高橋正子)
○紅蜀葵(こうしょっき・もみじあおい)

[紅蜀葵(もみじあおい)/横浜日吉本町]
★紅蜀葵肘まだとがり乙女達/中村草田男
★沖の帆にいつも日の照り紅蜀葵/中村汀女
★黄蜀葵花雪崩れ咲き亡びし村/加藤楸邨
アメリカ芙蓉という花がある。芙蓉に似て、大ぶり赤い花色が華やかだ。芙蓉に少し似た紅蜀葵もその赤さは、日本の花ではないなと思わせる。調べると北米原産とあるから、さもありなん。近所では、市営アパートのわずかの空地に住人が植えたものがある。通りすがりにちらっと見て、紅蜀葵が咲いているな思うわけであるが、植えた人は昭和を生きた人であろうと想像する。
★市民アパート誰が咲かすか紅蜀葵
モミジアオイ(紅葉葵、学名:Hibiscus coccineus)は、アオイ科の宿根草。別名は、紅蜀葵(こうしょっき)。北米原産。背丈は1.5~2mくらいで、ハイビスカスのような花を夏に咲かせる。茎は、ほぼ直立する。触ると白い粉が付き、木の様に硬い。同じ科のフヨウに似るが、花弁が離れているところがフヨウと違うところ。和名のモミジアオイは、葉がモミジのような形であることから。
トロロアオイ(黄蜀葵、学名:Abelmoschu manihot )は、アオイ科トロロアオイ属の植物。オクラに似た花を咲かせることから花オクラとも呼ばれる。原産地は中国。この植物から採取される粘液はネリと呼ばれ、和紙作りのほか、蒲鉾や蕎麦のつなぎ、漢方薬の成形などに利用される。花の色は淡黄からやや白に近く、濃紫色の模様を花びらの中心につける。花は綿の花に似た形状をしており、花弁は5つで、朝に咲いて夕方にしぼみ、夜になると地面に落ちる。花びらは横の方向を向いて咲くため、側近盞花(そっきんさんか)とも呼ばれる。
◇生活する花たち「ヤブカンゾウ・ノカンゾウ・マリーゴールド」(横浜・四季の森公園)

愛媛・久万中学校
★教室の窓に夏嶺の高々と 正子
久万高原の自然の風光に富んだ、木の香りのする校舎の久万中学校。校舎の窓より仰ぐ夏嶺が実に清々しく、恵まれた緑の環境と相まって、より一層子どもたちの豊かな心を育んでくれるようです。日々子どもたちの成長を見守り、励ましてくれる、悠然と聳える夏嶺です。(藤田洋子)
○今日の俳句
雨雲の山を離れて合歓の花/藤田洋子
合歓の花を的確に捉えている。愛媛の久万高原などに出かけると、垂れていた雨雲が山を離れていって、合歓の花があきらかに浮かびあがってくるが、このようなところに合歓は自生する。(高橋正子)
○第14回(七夕)フェイスブック句会入賞発表
【金賞】
★山の湯へ七夕笹を潜り入る/佃 康水
七夕飾りをしてある山の湯。七夕飾りをさらさら鳴らして湯に入るという、抒情ゆたかな七夕が詠まれている。(高橋正子)
【銀賞】
★梅雨明けを待ちつつ髪を切りにけり/多田有花
梅雨の間は特に髪が重いと感じるのだが、梅雨明けのさっぱりした気持を思いつつ、髪を切る。これで気持ちの中では一足先に梅雨が明けそうだ。(高橋正子)
【銅賞】
★梅雨の森また静やかに葉を鳴らす/小西 宏
梅雨の森は青葉が茂りしんとして緑の奥深さを感じる。風に鳴り止んだ葉が、またも静かに葉を鳴らす。なんと、ひそけく「静やか」なことであろう。深い明るさがある。(高橋正子)
★嵐去り蜻蛉生れて田の上に/井上治代
嵐が去ると、さっそく生まれ出た蜻蛉が田の上を勢いよく自在に飛んでいる。田の緑、蜻蛉のすずやかさに、生き生きとした爽やかさ季節が読みとれる。(高橋正子)
※その他の入賞作品:
http://blog.goo.ne.jp/kakan02d
○のうぜんかずら

[凌霄の花(のうぜんかずら)/横浜市港北区箕輪町]
★家毎に凌霄咲ける温泉(いでゆ)かな/正岡子規
★のうぜんの花を数へて幾日影/夏目漱石
★凌霄や長者のあとのやれ築土/芥川龍之介
★のうぜんの暮れて色なし山の家/臼田亞浪
★噴井あり凌霄これを暗くせり/富安風生
★凌霄花落ちてかかるや松の上/山口青邨
★凌霄のかづらをかむり咲きにけり/後藤夜半
★凌霄花や子は道の上に絵をかける/星野立子
★のうぜんや海近ければ手狭でも/阿部みどり女
★凌霄花の朱に散り浮く草むらに/杉田久女
★塵とりて凌霄の花と塵すこし/高野素十
★凌霄に井戸替すみし夕日影/西島麦南
★松高き限りを凌霄咲きのぼる/橋本多佳子
★凌霄花や問ふべくもなき門つづき/中村汀女
★今日の日の凌霄花にまで傾きし/中村汀女
★凌霄は妻恋ふ真昼のシヤンデリヤ/中村草田男
★のうぜんや眞白き函の地震計/日野草城
★凌霄花に沈みて上るはね釣瓶/星野立子
★凌霄花の咲き垂れし門父母います/加藤楸邨
のうぜんかずらを初めて知ったのは、大学2年生の夏。島根県へ注ぐ江川が流れる広島県三次盆地の高台のお寺に咲いていた。当時所属していた松山の俳句結社の吟行に参加させてもらったときのこと。真夏の煙るような空に曙色の大ぶりな花が魅力的だった。
砥部の家にも植木屋さんが持ってきてくれたが、できつつある庭の雰囲気にあわなかったので、お隣にあげたら見事に花を咲かせて、それを楽しませてもらっていた。その花を向かいの方が植えたがり、隣の方が分けてあげて、向かいの家にもそののうぜんかずらが玄関脇を覆うほど花を咲かせた。夏が来ると、隣と向かいののうぜんの花を我が家の花のごとく楽しんだものである。
★凌霄花の朝(あした)の花と目が合いぬ/高橋正子
ノウゼンカズラ(凌霄花、紫葳、Campsis grandiflora)はノウゼンカズラ科のつる性木本。夏から秋にかけ橙色あるいは赤色の大きな美しい花をつけ、るつる性の落葉樹。気根を出して樹木や壁などの他物に付着してつるを延ばす。花冠は漏斗状。結実はまれである。日本で栽培されるノウゼンカズラは中国原産で平安時代に渡来したといわれる。ノウゼンというのは凌霄の字音によるといわれる。古くはノウセウカズラと読まれ、これがなまってノウゼンカズラとなった。霄は「空」「雲」の意味があり、空に向かって高く咲く花の姿を表している。夏の暑い時期は花木が少なく、枝を延ばした樹木全体に、ハッとするような鮮やかな色の花を付け、日に日に咲き変るので、よく目立つ。茎の先に房状花序をつける。花冠はラッパ型で先が5片に裂けて開く。葉は奇数羽状複葉。つるは気根を出し固着すしながら伸びる。幹はフジと同じように太くなる。樹勢が非常に強く丈夫な花木であり、地下茎を延ばしひこばえを周囲に芽生えさせ、繁殖する。落花すると、蜜がたれ周りを湿らすほど。その蜜に、メジロが目ざとく感知して集まってくる。蜂も姿を現す。その蜜は毒性があるといわれるが、根拠のない俗説・風評である。花や樹皮は漢方薬では利尿や通経に使われる。園芸品種が複数存在し、ピンクや黄色などの花色もある。新梢に房となって花が枝元から次々に咲き、花は毎日のようにすぐに散る。花が終わった新梢をそのままにしておくと、樹の姿が乱れ、樹勢が衰えるので適切な剪定が必要。ノウゼンカズラ属はノウゼンカズラと、アメリカ合衆国南東部原産のアメリカノウゼンカズラ(C. radicans)、およびこれらの雑種C. x tagliabuana からなる。アメリカノウゼンカズラの花は中国系ノウゼンカズラより小ぶりで細長く、濃い赤橙色。送粉の仕方に特色があり、世界でもっとも小さい鳥といわれるハチドリが空中をホバリングしながら嘴を花の中にさし込んで蜜を吸う。花の形がラッパに似ていることから英語では「トランペット・フラワー」、「トランペット・ヴァイン」あるいは「トランペット・クリーパー」と呼ばれる。
◇生活する花たち「カンナ・半夏生・夾竹桃」(横浜日吉本町)

★子が去りしことも静かや夏の歯朶 正子
子どもが来て、にぎやかに過ごしていましたが、やがて去っていき、あたりはしんとして静かな空気が漂っています。夏風に歯朶が揺れ一抹の寂しさを感じます。 (井上治代)
○今日の俳句
何かしら飛び出て楽し草取りも/井上治代
夏になると草が生い茂る。草取りの作業もたいへんだが、バッタがぴょんと飛び出したり、天道虫が飛び立ったりする。それが案外楽しいのだ。(高橋正子)
○第14回七夕フェイスブック句会投句
小さき街の七夕飾りはすぐ尽きぬ/正子
七夕飾りを通り抜ければ山が見ゆ/〃
なでしこの苗に花あり風があり/〃
○句美子がお菓子教室で「リンツァートルテ」というオーストリアの伝統菓子を作ってきてくれた。フランボワーズ(ラズベリー)ジャムをタルト生地に載せた素朴な味わい。お茶はアールグレイで。
○夏あざみ

◇のあざみ/群馬・尾瀬ヶ原 2010年8月28日◇
★埃りだつ野路の雨あし夏薊/飯田蛇笏
★牛の背の海真青なり夏薊/手島靖一
★断崖の引き寄す怒濤夏薊/大見川久代
★辰雄忌の乳鉢くもる夏薊/徳田千鶴子
夏薊と、わざわざ薊に夏がついていると、いつも思う。薊は春の季語。私にとっては、なぜかむしろ夏の花なのである。この感覚のずれは、どこからきているのかよくわからい。田舎で暮らした子ども時代だが、薊を春に見ることはなかった。夏の朝、家で飼っていた山羊の草を刈りに出た小さな野原にあった。露に濡れた草を刈る中に、たまにあったぐらいだが、緑の草のなかで紫がかったピンクのボンボンのような花はかわいらしく思えた。しかし、棘を恐れて遠巻きに見るか、思い切って指を草に突っ込んで茎を折り取るか迷う花であった。折り取って家に持ち帰っても、すぐにクタッとなった。自分では気づいていないが、娘に言わせれば、私は薊の花が好きらしい。四国カルストの大野が原に愛媛コープの夏の旅行企画で参加したときも薊の花が印象に残っている。子どもたち二人が高原を歩いている写真が残っているが、薊は映っていないものの薊の花がどこかに咲いているような感じがする。
★夏薊草に溺るる花なりき/高橋正子
◇生活する花たち「エンジェルトランペット・百合・ビョウヤナギ」(横浜日吉本町)

★学生食堂ひとりの顔に夏日あり 正子
賑わしい学生食堂も、夏休みになり、少し落ち着いてきました。その中に、考えごとでもしているのでしょうか、厳しい陽射しに臆することなく、顔を上げている「ひとり」がいます。夏日を受けて憚らない、その強さを応援したくなります。(川名ますみ)
○今日の俳句
★パステルをやや強く押し青葉の絵/川名ますみ
パステルで絵を描く。青葉の絵だ。青葉の勢いを描こうとすれば、自然パステルを強く押しつけるようになる。いきいきとした句だ。(高橋正子)
○夕菅(ゆうすげ)

[夕菅/大船植物園]
★天が下万のきすげは我をつつむ/阿波野青畝
★夕菅は胸の高さに遠き日も/川崎展宏
★厩までユフスゲの黄のとびとびに/大野林火
★遠きほど夕菅の黄の満つる色/広瀬直人
★夕菅は實になってゐし花野かな/上野一考
★坪庭の暮れのはじめを花黄菅/本田日出登
★ゆうすげに月まだ淡くありにけり/高橋正子
「ゆうすげ」という名前に惹かれる人も多い。夏のまだ明るい夕方の空を背景に開花する黄色いの花は、人を少なからずロマンティックな想いにさせる。花の姿が野かんぞうにも似ているが、野かんぞうの赤みがかった黄色ではなく、レモンに近い黄色である。遠くまで、はかなげなレモン色のゆうすげが咲く高原は、乙女でなくとも魅惑的な風景と思う。
夕菅(ゆうすげ)は、ユリ科ワスレグサ属の種の一つ。山野などに生える。夏の夕方に開花し、翌朝にしぼむ。くっきりしたきれいなレモン色の花。香りあり。別名、黄菅(きすげ)。学名(Hemerocallis citrina var. vespertina)の由来は、Hemerocallisは、ワスレグサ属(ヘメロカリス属)、citrinaは、レモン色、vespertinaは、夕方の、西の、Hemerocallis(ヘメロカリス)は、ギリシャ語の「hemera(一日)+ callos(美)」が語源で、美しい花が一日でしぼむところから、といわれる。
◇生活する花たち「凌宵かづら・百合・青ぶどう」(横浜日吉本町)

★明け易き時をラジオのミサ合唱 正子
そういえば朝の早い時間は宗教関連の放送がありました。早い明け方、しののめの光を感じながら聞くミサの合唱曲、曙の時間にふさわしいものと感じられます。 (多田有花)
○今日の俳句
★子を抱いて浴衣の父の祭かな/多田有花(姫路ゆかたまつり)
男の祭でも、村の祭でもない「父の祭」がいい。子を抱き、浴衣に寛いでささやかな祭を楽しんでいる父の姿さっぱりとして、涼しそうだ。(高橋正子)
○夏萩

[夏萩/東京・関口芭蕉庵 2011年6月12日撮影]
★夏萩の咲きひろがりぬ影の上/谷野予志
★夏萩や山越ゆる雲かろやかに/石原絹江
東京・関口芭蕉庵
★芭蕉居しと夏萩の紅明らかに/高橋信之
★夏萩にもっとも似合うのシャツ白/高橋正子
萩と言えば、秋の七草のひとつで、多くの方がご存じ。万葉集に詠まれ、日本画、着物などの柄、日常の種々のものにも描かれて、馴染み深い花となっている。秋が来るのを待たず咲いているのに出会うと、「もう萩が。」と汗が引く思いで足を止めて見る。夏萩は、夏の終わりから秋の初めにさく南天萩、四業萩、猫萩、夏開花する野萩、めどはぎ、犬萩、藪萩などを指すしている。六月に関口芭蕉庵を訪ねたことがあったが、瓢箪池のふちに夏萩が枝をのばして紅紫の可憐な花を付けていた。「古池や」の句碑も立っているが、池水のにごりに映えて静かな雰囲気を醸していた。関口芭蕉庵から椿山荘へ場所を移すと、椿山荘にも露を置く草の中に数本の枝が倒れて紅紫の花をほちほちと草に散るように咲いていた。一足はやい秋の訪れを垣間見る思いだ。
俳人・正岡子規も愛した“萩の寺”、大阪府豊中市の曹洞宗東光院(村山廣甫住職)で、ナツハギが6月初旬~中旬くらいまでが見頃で、かれんな花が参拝客らの目を楽しませている。参道には、秋に見頃を迎えるマルバハギなど約10種3千株にまじり、ナツハギ約30株が植えられており、今年は例年より早く赤紫の花が房状に咲き始めたという。東光院は、奈良時代の天平7(735)年に僧の行基(668~749年)が現在の大阪市北区に薬師如来像を自作し、薬師堂を建立したのが始まりとされる。行基が死者の霊を慰めるために当時、淀川に群生していたハギを供えたことから境内にもハギが植えられ、「萩の寺」として親しまれるようになった。子規や高浜虚子ら多くの俳人が好んで訪れ、子規はハギが咲き誇る風情を「ほろほろと石にこぼれぬ萩の露」と詠んだという。同院は「ハギの群生美は、日本らしい『和』の民族性を表しているよう。1度花を咲かせたあと、さらに茎を伸ばし花を咲かせる姿は、私たちに希望を与えてくれる」と話している。
ハギ(萩)とは、マメ科ハギ属の総称。落葉低木。秋の七草のひとつで、花期は7月から10月。分布は種類にもよるが、日本のほぼ全域。古くから日本人に親しまれ、『万葉集』で最もよく詠まれる花でもある。秋ハギと牡鹿のペアの歌が多い。別名:芽子・生芽(ハギ)。背の低い落葉低木ではあるが、木本とは言い難い面もある。茎は木質化して固くなるが、年々太くなって伸びるようなことはなく、根本から新しい芽が毎年出る。直立せず、先端はややしだれる。葉は3出複葉、秋に枝の先端から多数の花枝を出し、赤紫の花の房をつける。果実は種子を1つだけ含み、楕円形で扁平。荒れ地に生えるパイオニア植物で、放牧地や山火事跡などに一面に生えることがある。
◇生活する花たち「睡蓮・すかし百合・すかし百合」(フラワーセンター大船植物園)
