5月3日(金)/憲法記念日

★森奥のたんぽぽ大方は絮に  正子
鮮やかに飾っていた黄のたんぽぽが森の奥へ入るともう大方はふわふわっとした絮になって居る。辺りの木々は若葉が輝き、初夏に向う季節の移ろいと森の爽やかな情景が浮んで参ります。 (佃 康水)

○今日の俳句
 宮島桃花祭御神能祭
春風を袖に孕みて能舞えり/佃 康水
厳島神社の能舞台は特別なもの。海を渡ってきた春風が能舞台を吹く。能衣装の袖に孕む風が風雅に動きのある新鮮さを呼んでいる。(高橋正子)

○花にら

[花にら/横浜日吉本町]

★足許にゆふぐれながき韮の花/大野林火
★おもてより裏口親し韮の花/水野節子
★天日を豊かに受けて韮の花/久我達子
★花にらはいつも樹のそば垣のそば/高橋正子

 花にらは、春の季節感があるが、俳句の季語ではない。夏の季語の「韮の花」とは違う。ハナニラ(花韮、学名:Ipheion uniflorum (Lindl.) Raf.)は、APG植物分類体系第3版でヒガンバナ科(APG植物分類体系第2版ではネギ科古い分類のクロンキスト体系ではユリ科)に属するハナニラ属の多年草。イフェイオン、ベツレヘムの星とも呼ばれる。原産地はアルゼンチン。日本では、明治時代に園芸植物(観賞用)に導入され、逸出し帰化している。葉にはニラやネギのような匂いがあり、このことからハナニラの名がある。野菜のニラ(学名Allium tuberosum)とは同じ科の植物であるが、属が違うのであまり近縁とは言えない。球根植物であるが、繁殖が旺盛で植えたままでも広がる。鱗茎から10-25cmのニラに似た葉を数枚出し、さらに数本の花茎を出す。開花期は春で、花径約3cmの白から淡紫色の6弁の花を花茎の頂上に1つ付ける。地上部が見られるのは開花期を含め春だけである。 
 

◇生活する花たち「山躑躅・武蔵野きすげ・あやめ」(東京白金台・自然教育園)

5月2日(木)/八十八夜

★八十八夜のポプラに雀鳴きあそぶ  正子
八十八夜、まさしく陽光あふれ、若葉が目に沁みる頃。ポプラのそよぎ、雀の囀り、その軽やかな明るさ、心楽しさに、春から夏への確かな季節の歩みが快く伝わってきます。(藤田洋子)

○今日の俳句
子が発ちし八十八夜の月明り/藤田洋子
「八十八夜の月明かり」の美しい抒情に、旅立つ子を送り出す母の一抹の寂しさが添えて詠まれた。(高橋正子)

○八十八夜

★磧湯(かわらゆ)の八十八夜星くらし/水原秋桜子
★きらきらと八十八夜の雨墓に/石田波郷
★逢ひにゆく八十八夜の雨の坂/藤田湘子
★旅にて今日八十八夜と言はれけり/及川 貞
★八十八夜都にこころやすからず/鈴木六林男

 八十八夜(はちじゅうはちや)は、雑節のひとつで、立春を起算日(第1日目)として88日目、つまり、立春の87日後の日である。21世紀初頭の現在は平年なら5月2日、閏年なら5月1日である。数十年以上のスパンでは、立春の変動により5月3日の年もある。
 あと3日ほどで立夏だが、「八十八夜の別れ霜」「八十八夜の泣き霜」などといわれるように、遅霜が発生する時期である。一般に霜は八十八夜ごろまでといわれているが、「九十九夜の泣き霜」という言葉もあり、5月半ばごろまで泣いても泣ききれない程の大きな遅霜の被害が発生する地方もある。そのため、農家に対して特に注意を喚起するためにこの雑節が作られた。八十八夜は日本独自の雑節である。
 この日に摘んだ茶は上等なものとされ、この日にお茶を飲むと長生きするともいわれている。茶の産地である埼玉県入間市狭山市・静岡県・京都府宇治市では、新茶のサービス以外に手もみ茶の実演や茶摘みの実演など、一般の人々も参加するイベントが行われる。
 「♪夏も近づく八十八夜…」と茶摘みの様子が文部省唱歌『茶摘み』に歌われている。
昭和7年(1932年)『新訂尋常小学唱歌 第三学年用』

茶摘/文部省唱歌
一、
  夏も近づく八十八夜、
  野にも山にも若葉が茂る。
  「あれに見えるは
  茶摘ぢやないか。
  あかねだすきに菅の笠。」
二、
  日和つづきの今日此の頃を、
  心のどかに摘みつつ歌ふ。
  「摘めよ、摘め摘め、
  摘まねばならぬ、
  摘まにや日本の茶にならぬ。」

○花蘇芳(はなずおう)

[花蘇芳/横浜日吉本町]

★いとしめば紅よどむ蘇芳かな/松根東洋城
★風の日や煤ふりおとす花蘇芳/滝井孝作
★花よりも蘇芳に降りて濃ゆき雨/後藤比奈夫
★街中の水に空ある花すおう/和知喜八
★花すおういつも縁側より見えて/高橋正子

 ハナズオウ(花蘇芳、Cercis chinensis)は中国原産のマメ科ジャケツイバラ亜科の落葉低木で、春に咲く花が美しいためよく栽培される。高さは2-3mになり、葉はハート形でつやがあり、葉柄の両端は少し膨らむ。早春に枝に花芽を多数つけ、3-4月頃葉に先立って開花する。花には花柄がなく、枝から直接に花がついている。花は紅色から赤紫(白花品種もある)で長さ1cmほどの蝶形花。開花後、長さ数cmの豆果をつけ、秋から冬に黒褐色に熟す。和名紫荊はその花の紅紫色が、あたかもスオウ染め汁の色に似ているからである。
 花蘇芳の紅紫色は古典的。よい色である。ハート型の葉も魅力。空の青色に似合う。生家には土塀のそばに一本の蘇芳が咲いた。子どもの目にはその花は少し暗く思えたが、つやつやとした絹地のように映った。
 ハナズオウ属は北半球温帯に数種が分布する。地中海付近原産のセイヨウハナズオウ (C. siliquastrum) は落葉高木で高さ10mほどになり、イスカリオテのユダがこの木で首を吊ったという伝説からユダの木とも呼ばれる。このほかアメリカハナズオウ (C. canadensis) などが栽培される。

◇生活する花たち「三葉躑躅(みつばつつじ)・葱坊主・繁縷(はこべ)」(横浜日吉本町)

5月1日(水)/メーデー

★黄菖蒲に薄き汗かくころとなり  正子
春も終わりに近づき、うっすらと汗ばむこの頃、水辺ではは黄菖蒲が咲き始めました。明治の頃にヨーロッパから入ってきて野生化した花だといわれますが、花菖蒲と違っていかにも薄暑にふさわしい風情です。「黄菖蒲」を配してすっきりとこの季節を詠まれた味わい深い御句と思います。(河野啓一)

○今日の俳句
春深し小枝に小鳥来てとまる/河野啓一
「春」のただなかに身を置いている自分と、小枝に飛んできた小鳥に自分を重ねているような、静かな楽しさがある。「春深し」の実感。(高橋正子)

○錦木の花

[錦木の花/東京深川・芭蕉記念館]

★錦木の花や籬にもたれ見る/高浜虚子
★苔の香や錦木の花散り溜まる/織田烏不関
★川風に錦木の花うすみどり/高橋正子
★新緑の中なる花もうすみどり/高橋正子

 ニシキギ(錦木、学名:Euonymus alatus)とはニシキギ科ニシキギ属の落葉低木。庭木や生垣、盆栽にされることが多い。日本、中国に自生する。紅葉が見事で、モミジ・スズランノキと共に世界三大紅葉樹に数えられる。若い枝では表皮を突き破ってコルク質の2~4枚の翼(ヨク)が伸長するので識別しやすい。なお、翼が出ないもの品種もあり、コマユミ(E. alatus f. ciliatodentatus、シノニムE. alatus f. striatus他)と呼ばれる。
 葉は対生で細かい鋸歯があり、マユミやツリバナよりも小さい。枝葉は密に茂る。 初夏に、緑色で小さな四弁の花が多数つく。あまり目立たない。 果実は楕円形で、熟すと果皮が割れて、中から赤い仮種皮に覆われた小さい種子が露出する。これを果実食の鳥が摂食し、仮種皮を消化吸収したあと、種子を糞として排泄し、種子散布が行われる。紅葉を美しくするために西日を避けた日当たりの良い場所に植える。 剪定は落葉中に行う。よく芽をつける性質なので、生垣の場合は強く剪定してもよい。 栽培は容易。名前の由来は紅葉を錦に例えたことによる。別名ヤハズニシキギ。

○生活する花たち「西洋おだまき・卯の花・錦木の花」(東京深川・芭蕉記念館とその近辺)

4月30日(火)

★聖書繰る野の青麦を思いつつ  正子
作者は青々とそよぐ麦畑を心にうかべつつ聖書を開かれたのでしょう。御句に接し、私もまた、新約聖書.ルカによる福音書.6章1節、などのページを繰りました。(小川和子)

○今日の俳句
青紫蘇を水に放ちてより刻む/小川和子
青紫蘇をしゃっきりと香りよく、細く切るためには、水に放して、いきいきとさせて刻む水と紫蘇の出会いが涼しさを呼び起こしてくれる。(高橋正子)

○母子草(ははこぐさ)

[母子草/東京・深川芭蕉記念館裏の隅田川土手] 

★老いて尚なつかしき名の母子草/高浜虚子
★語らいは遠き日のこと母子草/古市あさ子
★拔け道にしつかり根付く母子草/植木里水
★ほんわりと子を抱くかたち母子草/高橋正子
★ほうこ草ほうこ草と呼びし祖母/高橋正子

 ハハコグサ(母子草、学名: Gnaphalium affine)は、キク科ハハコグサ属の越年草である。春の七草の1つ、「御形(ごぎょう、おぎょう)」でもあり、茎葉の若いものを食用にする。冬は根出葉がややロゼットの状態で育ち、春になると茎を伸ばして花をつける。成長した際の高さは10〜30cm。葉と茎には白い綿毛を生やす。花期は4〜6月で、茎の先端に頭状花序の黄色の花を多数つける。
 中国からインドシナ、マレーシア、インドにまで分布する。日本では全国に見られるが、古い時代に朝鮮半島から伝わったものとも言われる。人里の道端などに普通に見られ、冬の水田にもよく出現する。
 かつては草餅に用いられていた草であった。しかし、「母と子を臼と杵でつくのは縁起が良くない」として、平安時代ごろから蓬に代わったともされているが、実際には、出羽国秋田や丹後国峯山など、地方によっては19世紀でも草餅の材料として用いられている。もっとも、古名はオギョウ、またはホウコである。新芽がやや這うことから「這う子」からなまったのではとの説もある。ハハコグサの全草を採取し細かく裁断して日干しし、お茶にする。咳止めや内臓などに良い健康茶ができる。これには鼠麹草(そきくそう)という生薬名があるが、伝統的な漢方方剤では使わない。

○生活する花たち(新緑の東京隅田川)
「スカイツリー(浅草水上バス乗り場より)・日本橋(水上バス船上より)・清洲橋(水上バス船上より)」

4月29日(月)/昭和の日

★牡丹の百花に寺の午(ひる)しじま  正子

○今日の俳句
水底へその影伸ばし葦芽吹く/古田敬二
葦の芽吹きは、その水と芽の緑との出会いが美しい。早春の芽吹きの中でも、水からの芽吹きはまた一味違って、きらめくものがある。水底へ影が伸びるのを確認できるほど澄んでいる水もよい。(高橋正子)

○町内会
午後2時からの<日吉本町西町会定期総会>に信之先生は出席した。町内会の班長を引き受けているからである。出席者、委任状を合わせ3000名ほどで総会が成立する大きな町内会である。会場は、近くの駒林小学校体育館で、閉会は、午後4時前であった。

○深川の花たち(卯の花、苧環、立浪草)
 4月25日、8月の花冠創刊30年祝賀会の下見に出かけた折に、深川芭蕉記念館の前の民家で、鉢植えの卯の花、苧環、立浪草を写真に撮らせてもらった。細々草花を植えて楽しんでいるが、お役所が鉢植えを置く以外は植物を植えないようにということで、寂しいものだとこぼしていた。歩道のフェンスに蔓バラを絡ませてこの季節にはバラが道路を飾っていたのだが、それもダメで、通りは躑躅がちらほら咲くだけのつまらない通りになったということだ。「でもさ、ほおずきの種がこぼれて生えているけどね。」と笑っていた。買えば一本700円するからねとも。三社祭もそろそろ。やがてほおずき市もあることだろう。深川のよい日和であった。

  深川
★卯の花は白を咲かせて川風に/高橋信之
★深川に日は明るかり白苧環/高橋正子

○空木(うつぎ・卯の花)

[空木(卯の花)/東京深川・芭蕉記念館前] 

★押しあうて又卯の花の咲きこぼれ/正岡子規
★卯の花の夕べの道の谷へ落つ/臼田亜浪
★卯の花や流るるものに花明り/松本たかし
★卯の花曇り定年へあと四年/能村研三
★卯の花のつぼみもありぬつぼみも白/高橋信之
★卯の花の盛りや雷雨呼びそうに/高橋正子

★卯の花の白きを門に置きし家/河野啓一
卯の花の白さを門に配しているのがいい感覚だ。「置きし」は、画を描いているような、絵具を置くような、詠み方で、光景を絵画的にしている。(高橋正子)

 ウツギ(空木、学名:Deutzia crenata)はユキノシタ科の落葉低木で、ウノハナ(卯の花)とも呼ばれる。樹高は2-4mになり、よく分枝する。樹皮は灰褐色で、新しい枝は赤褐色を帯び、星状毛が生える。葉の形は変化が多く、卵形、楕円形、卵状被針形になり、葉柄をもって対生する。花期は5-7月。枝先に円錐花序をつけ、多くの白い花を咲かせる。普通、花弁は5枚で細長いが、八重咲きなどもある。茎が中空のため空木(うつぎ)と呼ばれる。「卯の花」の名は空木の花の意、または卯月(旧暦4月)に咲く花の意ともいう。北海道南部、本州、四国、九州に広く分布し、山野の路傍、崖地など日当たりの良い場所にふつうに生育するほか、畑の生け垣にしたり観賞用に植えたりする。

○生活する花たち
「白おだまき・卯の花・立浪草」(東京深川・芭蕉記念館とその近辺)

4月28日(日)

★やわらかに繁りしはこべを鶏の餌に  正子
子供のころに鶏のえさを取ってきて刻んで与えたことを思い出しました。確かに柔らかく、ひよこ草だと呼んでいたようです。(祝恵子)

○今日の俳句
花主と見上げふさふさ藤の房/祝恵子
「花主」は、風流。原句は、「見上げておりぬ」であったが、藤の房の観察をもう一歩進めて、「ふさふさ」と添削した。ふさふさとした藤房の豊かさが感じられる。(高橋正子)

○新緑の隅田川クルーズ(浅草・日本橋めぐり)
 4月25日、花冠創刊30周年記念大会(祝賀会)の大会会場の芭蕉記念館へ会場費の支払い、宿泊のパールホテル両国、吟行コース(隅田川水上バス、浅草)の下見に出かけた。信之先生、小西宏さんと私の3人。深川の芭蕉記念館で午前11時に小西さんと待ち合わす。今回は、三田線で神保町まで乗り、神保町で新宿線本八幡行で森下までの路線を使った。待ち合わせ時間より早く着いたので会場費の支払いを済ませ隅田川の川土手に出ると、すでに宏さんが散策中だった。ベンチで小休憩後、すぐに水上バスに乗るために両国に移動。両国の水上バス乗り場から浅草(二天門)まで水上バスで移動。運賃300円。浅草の水上バス乗り場からは、川の向こうに東京スカイツリーが麓のあたりから聳える姿が見える。宏さんの話では、パリのエッフェル塔の美しさにはかなわないそうだ。総武線の浅草駅の近くの大衆中華料理店でランチ。美味しくて安い。中華料理店からは浅草寺の伝法院通りが近い。私は二人を店に置いて、伝法院通りの店を見に行った。甘納豆の店、佃煮の店、手ぬぐいや小物の店を見つけた。甘納豆と、燕の模様の手ぬぐいを買った。15分もかからず引き返した。水上バスは13時45分発。かわせみという船。船長は20代の女性。制服の腕に金線が四本入っている。機長さんも四本だそうだ。定刻、水上バスに乗ると、エンジン音の大きいこと。今日のコースは、日本橋を通る。浅草を出発、隅田川の橋やスカイツリーを見ながら下る。いつもの見慣れた景色だが、春の川風がここちよい。隅田川から日本橋川に入る。日本橋川の上は首都高速が走っている。巨大な橋脚や鉄骨、低い橋の下を巧に運転して日本橋の船着場に到着。日本橋と、三越本店が見える。鉄骨ジャングルからは、三越の金色のマークと新緑がまぶしく目に映る。そこを折り返し、隅田川にもどり浜離宮へと川を下る。浜離宮から折り返して両国まで乗った。両国で下船。宏さんとはここで別れ、
パールホテルへ予約の確認に行く。部屋を増やし、シングル12、和室一部屋とした。両国から帰えった。

★卯の花の真白し伝法院通り/高橋正子
★川風にとべらの花の匂いけり/高橋正子
★春の雲浮かべて東京スカイツリー/高橋正子

○とべらの花

[とべら/東京深川・芭蕉記念館裏の隅田川土手]

★沖晴れてとべらの花を叩く雨/藤田あけ烏
★海桐咲く甘き香放つ凪の浜/hanazuki1119
★奄美季語とつとつ知るや花とべら  綾子 
★塩炊きし時代もありき花とべら   凡太
★花とべら海人は半日野良にあり   克彦
★山羊飼女とべらの香り切り落とす  和江
★波立つは海豚のしぶき海桐咲く   末雄
★切崖を生き抜く子山羊花海桐    ゆうと 
★釣り糸の絡みつきたる花海桐    ゆうと
★釣人の分け入る路に花海桐     ゆうと
★川風にとべらの花の匂うなり/高橋正子

 トベラ(扉、海桐、Pittosporum tobira)はトベラ科トベラ属の常緑低木。東北地方南部以南、韓国、台湾、中国南部までの海岸に自生する。主に枝の先に葉が集まって着く。葉は倒卵形、互生、主脈は白っぽく、葉全体はつやのある緑色で、周辺部がやや内に巻くように、葉全体が反っている。5月頃芳香のある白い5弁の花をつける。果実は熟すと3裂し、赤い粘液が付着した種子を多数露出し、これが鳥のくちばしなどに粘着して運ばれるといわれる。
 海岸では海浜植物などの草本につづく海岸性森林の最前線に位置し、低くて密な群集を形成する他、海岸林の中では高木層を形成する場合もある。また、潮風や乾燥に強く、つやのある葉を密生することなどから観賞用あるいは街路樹として道路の分離帯などに栽培される。雌雄異株。
 野生状態ではあまりトベラを食樹とする昆虫は大量発生しないが、都市に植樹されたトベラには、新芽に虫えいをつくるトベラキジラミというキジラミ科の昆虫がしばしば大量発生して、排泄物の甘露にすす病菌が発生しているのを見ることが多い。
 枝葉は切ると悪臭を発するため、節分にイワシの頭などとともに魔よけとして戸口に掲げられた。そのため扉の木と呼ばれ、これがなまってトベラとなった(学名もこれによる)。属名のピットスポルムはPitta(樹脂)とSporos(種子)に由来し、これは上記のように熟した果実から粘液が付着した種子が露出するのが特徴的なことから付けられたものである。

○生活する花たち
「母子草・とべらの花①・とべらの花②」(東京・深川芭蕉記念館裏の隅田川土手)

4月27日(土)

★囀りに子の片言の鳥を呼び  正子
春の喜びの様々な姿の中にも、小鳥たちの囀りの声はとりわけ明るい色を添えてくれます。その声の来る方を必死に探し、天真爛漫に片言で呼びかける幼子の表情は微笑ましい限りです。お子さんの成長のお姿と春到来の輝きが合わせ表現されており、読者の心も豊かに温もります。(小西 宏)

○今日の俳句
蒲公英の花せめぎあい光りあい/小西 宏
蒲公英が明るい日差しの中に、びっしりの咲いている様子。一つ一つの花は可憐でありながら、せめぎあうほどの花の力。せめぐだけでなく、また、互いに光りあっている。確かな目である。(高橋正子)

○新緑

[新緑/東京日本橋・日本橋川、日本橋、首都高速、三越本店(水上バス船上より)] 

★新緑の丘越え白き道一筋/桂信子
★新緑や湖沼三百抱く原/水原春郎
★新緑や階を明るく地下茶房/鷹羽狩行
★新緑を来て教会に突きあたる/小澤克己
★新緑やうつくしかりしひとの老/日野草城
★新緑や濯ぐばかりに肘若し/森 澄雄
★新緑やまなこつむれば紫に/片山由美子
★新緑やたましひぬれて魚あさる/渡辺水巴
★子の皿に塩ふる音もみどりの夜/飯田龍太

新緑(しんりょく)とは、春から初夏にかけて、冬枯れの木々が芽吹き鮮やかな緑色になる現象。木の種類や場所、地域によって異なるが、日本では主に毎年3月から6月にかけて起こる。また、常緑樹でも新緑はあり、落葉樹のそれより約1ヶ月遅く迎える。例えば、お茶の葉は5月あたりに出る新芽が原料である。また紅葉と違い、その年の気候に関係なく素晴らしさが味わえる。

○生活する花たち
「卯の花・おだまき・スカイツリー」(東京浅草・隅田川水上バス乗り場近辺)

4月26日(金)

★明け初めし空の丸さよ柿若葉  正子
だんだんと明るくなり始めた夜明けの空、まろやかに澄んだ空気に包まれて、萌え出た柿の新葉がいっそう柔らかにみずみずしく感じます。やがて訪れる若葉の輝く明るい季節が思われます。(藤田洋子)

○今日の俳句
春光につつまれし身のときめきよ/藤田洋子
この句を読むと、もの静かで明るい若い母親の姿が浮かぶ。うす紫の丸いヨークのセーターが、春光の中で、肩までの黒髪に映えていた。(高橋正子)

○石楠花(しゃくなげ)

[石楠花/横浜日吉本町・金蔵寺]      [石楠花/横浜箕輪町・大聖院]

★石楠花や朝の大気は高嶺より/渡辺水巴
★空の深ささびし石楠花咲きそめぬ/角川源義
★石南花や水櫛あてて髪しなふ/野沢節子
★ほぐれんとして石南花の大蕾/岡田日郎
★石楠花の頃は過ぎたり咲き残り/清崎敏郎
★石楠花の色濃くなりぬ朝の雨/緒方 輝

 シャクナゲ (石楠花、石南花) は、ツツジ科ツツジ属 (Rhododendron) 無鱗片シャクナゲ亜属、無鱗片シャクナゲ節の総称である。主に低木だが、高木になるものもある。また、日本ではその多くのものがツツジと称される有鱗片シャクナゲ亜属のものを欧米では Rhododendron と呼んでいるので注意が必要である。ただし、有鱗片シャクナゲのなかでも、ビレア(マレーシアシャクナゲ)の仲間は、カワカミシャクナゲのように、日本でもシャクナゲと呼んでいる。
 Rhododendron としては主として北半球の亜寒帯から熱帯山地までのきわめて広い範囲に分布し、南限は赤道を越えて南半球のニューギニア・オーストラリアに達する。特にヒマラヤ周辺には非常に多くの種が分布する。いずれも派手で大きな花に特徴がある。花の色は白あるいは赤系統が多いが、黄色の場合もある。
 シャクナゲは葉にロードトキシンことグラヤノトキシンなどのケイレン毒を含む有毒植物である。摂取すると吐き気や下痢、呼吸困難を引き起こすことがある。葉に利尿・強壮の効果があるとして茶の代わりに飲む習慣を持つ人が多く存在するが、これはシャクナゲに「石南花」という字が当てられているため、これを漢方薬の「石南(オオカナメモチ)」と同一のもの(この2つに関連性はない)と勘違いしたためであり、シャクナゲにこのような薬効は存在しない。シャクナゲは常緑広葉樹にもかかわらず寒冷地にまで分布している。寒冷地に分布する種類のなかには、葉の裏側を中にした筒状にして越冬するハクサンシャクナゲなどがある。日本にも数多くの種類のシャクナゲが自生しているが、その多くは変種であり、種のレベルでは4種または6種に集約される。このほか、園芸用品種として数多くの外国産のシャクナゲが日本に導入されており、各地で植栽されている。

○生活する花たち「都忘れ・おだまき・卯の花」(東京浅草)

4月25日(木)

 小石川植物園
★たんぽぽの草の平らに散らばりぬ  正子
草萌え、草青むころは未だ寒さが残って居り、たんぽぽは高く抜きん出て咲いているのでは無く、地へ這う様にして低く咲いています。恰も野に散らばっているかの様に見え、緑と黄のコントラストが美しく活き活きとそして広々とした野の情景が目に浮びます。(佃 康水)

○今日の俳句
初蝶の野川越えしを見とどけり/佃 康水
初蝶を見たうれしさ。初蝶の危うそうな飛び方に、野川を越えてゆくまでを見届けるやさしさがこの句にはある。(高橋正子)

○木香薔薇(もっこうばら)

[もっこうばら/横浜日吉本町]

★夕風や白薔薇の花皆動く/正岡子規
★薔薇深く ぴあの聞ゆる 薄月夜/正岡子規
★朝晴れて木香薔薇に滴あり/819maker
★木香バラ気高く庭を囲いをり/819maker
★黄モッコウお印の所以悟りけり/光賢
★近づいて 木香薔薇の 薫り嗅ぐ/isamu
★棘なしの蔓薔薇咲いて溢るる日/ROSE・MARRY
★手折りしは刺なき薔薇の黄木香/senior21

 モッコウバラ(木香茨、木香薔薇、学名:Rosa banksiae)は、中国原産のバラ。黄モッコウ(ロサ・バンクシア・ルテア)は秋篠宮家第一女子・眞子内親王のお印である。
学名は植物学者ジョゼフ・バンクスの夫人にちなむ(命名はウィリアム・エイトン)。
 常緑つる性低木。枝には棘がないため扱いやすい。花は白か淡い黄色で、それぞれ一重咲と八重咲があり、直径2-3cmの小さな花を咲かせる。開花期は初夏で一期性。黄花の一重や白花には芳香はある。一般的にモッコウバラといった場合には、黄色の八重咲を指す。性質は強健で、病気も普通のバラと比べると少ない。成長も早く、けっこう大きくなるので地植えにはそれなりのスペースが必要とされる。野生種の起源は不明である。ノイバラの台木に接ぎ木してもよいが、挿し芽でも簡単に増やすことができる。花芽の形成時期が8月末までに行われるため、それ以降に剪定をすると、翌年の開花数が少なくなってしまう。基本的には剪定はしない。行灯仕立てで販売されることがあるが、上述のように成長は極めて速く大きくなるので栽培は難しい。また、白花は黄花より開花が若干遅く、芳香性を持ってはいるが黄花ほど多花性は無い、成長も黄花に比べるとやや遅い。
 庭園などで、アーチやフェンスなどに用いる。生育が早く、大量に花をつけるため、大きなモッコウバラの開花時は圧巻である。バラの短所である棘がなく、病気、害虫にも強くバラとして理想的な性質を持っているが、一方、一期咲であること、黄花の八重咲に芳香がないこと、白と黄色しか花色がない事などの短所もある。

◇生活する花たち「藤①・藤②・石楠花」(横浜箕輪町・大聖院)

4月24日(水)

 小石川植物園
★やわらかに足裏に踏んで桜蘂  正子
地面に降り敷いている桜蘂を踏むとふんわりとした絨毯のような感触が足裏につたわります。なんとなくうれしくなるひとときです。(井上治代)

○今日の俳句
チューリップ一万本の赤うれし/井上治代
一万本の赤いチューリップに、思わず微笑みと嬉しさがこみ上げてくる。チュ-リップと言えば、まずは赤、その可愛らしさ、あどけなさを素直に受け止めているのがよい。(高橋正子)

○花水木

[花水木/横浜日吉本町(左:2010年4月27日・右:2012年4月29日)] 

★一つづつ花の夜明けの花みづき/加藤楸邨
★アパートは新装アメリカ花水木/林翔
★松屋通りアメリカ花水木の盛り/宮津昭彦
★花水木街へ海光真直に/有馬朗人
★三郎の忌日埋めゐし花水木/高島茂
★女子寮に皿洗ふ音花水木/皆川盤水
★花水木手を空へ向け深呼吸/中村忠男
★独り居に慣れて明るき花水木/広木婦美
★定年はやがてくるもの花みづき/日下部宵三
★待ち合わす銀座の角の花水木/高橋正子

 ハナミズキ(花水木、学名:Benthamidia florida)はミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属の落葉高木。北アメリカ原産。別名、アメリカヤマボウシ。ハナミズキの名はミズキの仲間で花が目立つことに由来する。また、アメリカヤマボウシの名はアメリカ原産で日本の近縁種のヤマボウシに似ていることから。
 ミズキ科の落葉小高木。樹皮は灰黒色で、葉は楕円形となっている。北アメリカ原産。花期は4月下旬から5月上旬で白や薄いピンクの花をつける。秋につける果実は複合果で赤い。庭木のほか街路樹として利用される。栽培する際には、うどんこ病などに注意する。またアメリカシロヒトリの食害にも遭いやすい。
 日本における植栽は、1912年に当時の東京市長であった尾崎行雄が、アメリカワシントンD.C.へ桜(ソメイヨシノ)を贈った際、1915年にその返礼として贈られたのが始まり。この話は、1981年海底版の日本の中学生向け教科書「NEW PRINCE」中3版でもエピソード的に取り上げられた。なお、2012年に桜の寄贈100周年を記念して、再びハナミズキを日本に送る計画が持ち上がっている。
 ハナミズキの深刻な病害であるハナミズキ炭疽病の感染地域では、感染によってハナミズキの街路樹が枯死すると、ハナミズキ炭疽病に抵抗性があるヤマボウシまたはハナミズキのヤマボウシ交配品種に植え替える病害対策が行われることがある。

◇生活する花たち「いちはつ・藤・梨の花」(横浜市緑区北八朔町)