★夜空あり虚々実々の心太 正子
ぷるんとした半透明のところてんを見つめて作者は夜空を想起されたのでしょうしょうか。黒いお椀なのか、ところてんに掛けた黒い蜜なのか、そしてまた黄色のからしが夜空の星或いは夏の月として見立てて居られるのか?と、想像が拡がります。ところてんは海藻を煮詰め固めたものを突き出して素材を活かしたもの。将に虚々実々のところてんです。読み手の方でどの様にでも想像出来て意表を突いた楽しいポエムを感じます。改めてところてんに明るい夜空を想像いたしました。(佃 康水)
○今日の俳句
草叢の木苺朝の陽を返す/佃 康水
草叢の木に小さな実をつける木苺。つぶつぶの実が朝日をはね返すと、宝石のように輝く。小さく、フレッシュなものの可愛いさ。(高橋正子)
○枇杷

[枇杷の実/横浜日吉本町]
★高僧も爺でおはしぬ枇杷を食す 虚子
★青峡の中に一樹の枇杷の鈴 風生
★飼猿を熱愛す枇杷のあるじかな 蛇笏
★枇杷の実の上白みして熟れにけり 石鼎
★降り歇まぬ雨雲低し枇杷熟れる 久女
★枇杷を吸ふをとめまぶしき顔をする 多佳子
★枇杷買ひて夜の深さに枇杷匂ふ 汀女
★枇杷の種赤く吐き出す基地の階 不死男
枇杷(ビワ、学名: Eriobotrya japonica)は、バラ科の常緑高木およびその果実。中国南西部原産。英語の「loquat」は広東語「蘆橘」(ロウクワッ)に由来する。日本には古代に持ち込まれたと考えられている。またインドなどにも広がり、ビワを用いた様々な療法が生まれた。中国系移民がハワイに持ち込んだ他、日本からイスラエルやブラジルに広まった。トルコ、レバノン、ギリシャ、イタリア南部、スペイン、フランス南部、アフリカ北部などでも栽培される。葉は互生し、葉柄は短い。葉の形は20cm前後の長楕円形で厚くて堅く、表面が葉脈ごとに波打つ。縁には波状の鋸歯がある。花期は11~2月、白い地味な花をつける。花弁は5枚。葯には毛が密に生えている。自家受粉が可能で、初夏に卵形をした黄橙色の実をつける。果実は花たくが肥厚した偽果で、全体が薄い産毛に覆われている。長崎県、千葉県、鹿児島県などの温暖な地域での栽培が多いものの若干の耐寒性を持ち、寒冷地でも冬期の最低気温-10℃程度であれば生育・結実可能である。露地成熟は5月~6月。
枇杷の実で思い出すことはいろいろある。昔は田舎には、どの家にもというほどではなかったにしろあちこちに枇杷の木があった。雨がちな季節に灯をともすような明るさを添えていた。晩秋、枇杷の花が匂い、小さな青い実をいつの間にかつけて、この実が熟れるのを待っていた。枇杷が熟れると籠いっぱい葉ごともぎ取っていた。おやつのない時代、子どもは枇杷が大好きで沢山食べたがったが、大人から制裁がかかった。衛生のよくない時代、赤痢や疫痢を恐れてのことであった。サザエさんの漫画にもそんな話がある。枇杷を買ってきて、子どもに内緒で夜、大人だけこっそり食べる話。ところが寝ぼけた子どもが起きてきて、急いで食卓の下に枇杷を隠したものの、結んだ口から枇杷の種がポロリとこぼれ、露見するという話。
もうひとつ、童謡に「枇杷の実が熟れるよ、ねんねこ、ねんねこ、ねんねこよ」「枇杷の木がゆれるよ、ねんねこ、ねんねこ、ねんねこよ」という歌詞があった。灯ともすような枇杷の実の色は、幼子をやすらかな眠りに誘うような色だ。
今は、茂木枇杷など、立派で高価な枇杷が果物屋に宝物のように箱に詰められて並んでいる。
★枇杷の実の熟れいろ雨に滲みたり/高橋正子
◇生活する花たち「紫陽花・カルミア・卯の花」(横浜日吉本町)

★山あじさい辿れる道をふさぎ咲く 正子
○今日の俳句
早苗積み軽トラックゆく真昼かな/多田有花
田に早苗を運んでゆくのだが、「真昼」の出来事として、しらしらと、うすうすと、光に満ちたさわやかな印象を受ける。(高橋正子)
○植田

[植田/横浜緑区北八朔町(2012年5月30日)]_[植田/横浜緑区北八朔町(2013年5月24日)]
★いとけなく植田となりてなびきをり/橋本多佳子
★鶏鳴のあとのしづけさ植田村/鷹羽狩行
★夕明りして千枚の植田寒/岡本眸
★たつぷりと水面の光る植田かな/辺見狐音
★裏は植田前は大きな日本海/坂上香菜
★通勤の今日より植田道となり/村田文一
★合鴨の入りし植田の賑へり/松元末則
★お札所の森の浮べる植田かな/上崎暮潮
植田は、田植えを終わって間もない田で、苗が整列し、水田に影を映している。やがて苗が伸びて青田となる。
天皇陛下は5月30日、皇居内の生物学研究所脇にある水田で恒例の田植えをされた。開襟シャツにズボン、長靴姿で水田に入り、もち米のマンゲツモチとうるち米のニホンマサリの苗を、しゃがみながら1本ずつ植えた。苗は皇居内で昨年収穫された種もみから育てた。この日は計100株を植え、31日以降にさらに100株植える。田植えは昭和天皇が農業奨励のために始め、陛下が引き継いだ初夏の行事。秋には稲刈りをし、収穫した米は皇室の神事などに使われる。
昨年、4月29日に母の見舞いに新横浜から山陽道の福山まで新幹線に乗った。そのときは、<代田見せ列島下る新幹線/正子>という句を作った。5月22日に母が亡くなったのでまた下りの新幹線を福山まで乗った。東海から近江あたりまでは、田圃はすっかり植田に代わっていた。雨の少ない瀬戸内は雨を待って田植えが始まるのがほとんどだろうから植田は、ぼつぼつという感じであった。日本から水田の風景が消えたら、もう日本ではなくなる。車窓から見ても、直に見ても、折々の水田風景は美しいものだ。飛行機に乗って上空から眺めると、日本中が水浸しになったように植田が広がっている。いとけない苗の緑や、青い空や白い雲まで映る植田。雷雨でもきそうになれば、植田の水はくらくかき曇る。
子どもの頃の田植は、手で植えていたから、15センチか20センチに伸びた苗を、苗代から一本一本抜き取り一握りになったら藁で束ね、田水に浮かせ置く。一定の間隔を取った駒や布の印をつけた綱を田に張り、その印のところに苗を挿す。根元をいためないように、指で苗を包むように添えて、泥に挿す要領で植えていく。このようにして苗が植わった田圃は、きれいに整列した苗と水の比例が美しい。植田を吹きわたる風がさざ波を起こす。植田こそが水田の風景のなかでもっとも美しいと思える。
★近江には近江の植田水ひかり/高橋正子
★植田となりし遥か向こうに田植せり/高橋正子
★山影の植田は山の影映す/高橋正子
★植田道子が落ちないように連れ通る/高橋正子
◇生活する花たち「蛍袋・時計草・紫陽花」(横浜日吉本町)

★葛飾は薔薇咲き風の吹くところ 正子
映画の舞台になったこともある隅田川の東部一帯の住宅地、葛飾。街には門ごとに薔薇や草花が植えられていて良い風も通り抜けているのでしょう。読者をして自然に、軽やかで愉快な気分に導いて下さる御句です。 (河野啓一)
○今日の俳句
夏潮の青く広きや船の旅/河野啓一
「夏潮」は青さを特徴とするものであるが、「広き」が加わり、船旅の開放感を詠み手にも味あわせてくれる。(高橋正子)
○南瓜の花

[南瓜の花と実/横浜緑区北八朔町(2012年5月30日)]_[南瓜の花/横浜緑区北八朔町(2013年5月24日)]
★南瓜咲く室戸の雨は湯のごとし/大峯あきら
★貧乏な日本が佳し花南瓜/池田澄子
★黄の濃さよ日の出前なる花南瓜/両角竹舟郎
★朝早き車窓に南瓜の花を見き/高橋正子
南瓜は、ウリ科カボチャ属(学名 Cucurbita)の総称である。特にその果実をいう。原産は南北アメリカ大陸。主要生産地は中国、インド、ウクライナ、アフリカ。果実を食用とし、カロテン、ビタミン類を多く含む緑黄色野菜。 日本における呼称類はこの果菜が、国外から渡来したことに関連するものが多い。一般にはポルトガル語由来であるとされ、通説として「カンボジア」を意味する Camboja (カンボジャ)の転訛であるとされる[3]。 方言では「ぼうぶら」「ボーボラ」などの名を用いる地方もあり、これはやはりポルトガル語で、「カボチャ」や「ウリ類」を意味する abóbora (アボボラ)に由来するとされる。 ほかに「唐茄子(とうなす)」「南京(なんきん)」などの名もある。 漢字表記「南瓜」は中国語: 南瓜 (ナングァ; nánguā)によるもの。英名は pumpkin (パンプキン)であると理解されている場合が少なくないが、実際には、少なくとも北米では、果皮がオレンジ色の種類のみが pumpkin であり、その他のカボチャ類は全て squash (スクウォッシュ)と総称される[4]。 したがって日本のカボチャは、kabocha squash (カボチャ・スクウォッシュ)などと呼ばれている。属名Cucurbita はラテン語で、一般的には「ウリ」と訳される語を転用したもの。
◇生活する花たち「未央柳(びようやなぎ)・釣鐘草・卯の花」(横浜日吉本町)

港の見える丘公園
★薔薇を見しその目に遠き氷川丸 正子
○今日の俳句
かしましき程の田道や揚ひばり/桑本栄太郎
田道は しずかに明るく、雲雀を邪魔するものもない。雲雀が野の明るさを謳歌している。(高橋正子)
○茄子の花

[茄子の花/横浜日吉本町(2010年6月3日)]_[茄子の花/横浜市都筑区川和町(2013年5月21日)]
★この辺でかみ合ふ話茄子の花/稲畑汀子
★ふだん着の俳句大好き茄子の花/上田五千石
★雨あとの土息づくや茄子の花/松本一枝
★茄子の花茄子に映つてをりにけり/木暮陶句郎
茄子(なす)は、ナス科ナス属の植物。また、その果実のこと。原産地はインドの東部が有力である。その後、ビルマを経由して中国へ渡ったと考えられている。中国では広く栽培され、日本でも1000年以上に渡り栽培されている。温帯では一年生植物であるが、熱帯では多年生植物となる。日本には奈良時代に、奈須比(なすび)として伝わった。土地によっては現在もそう呼ばれることがある。女房言葉により茄子となった。以降日本人にとってなじみのある庶民的な野菜となった。葉とヘタには棘があり、葉には毛が生えている。世界の各地で独自の品種が育てられている。加賀茄子などの一部例外もあるが日本においては南方ほど長実または大長実で、北方ほど小実品種となる。本州の中間地では中間的な中長品種が栽培されてきた。これは寒い地域では栽培期間が短く大きな実を収穫する事が難しい上に、冬季の保存食として小さい実のほうが漬物に加工しやすいからである。しかし食文化の均一化などにより野菜炒めや焼き茄子など、さまざまな料理に利用しやすい中長品種が全国的に流通している。日本で栽培される栽培品種のほとんどは果皮が紫色又は黒紫色である。しかしヨーロッパやアメリカ等では白・黄緑色・明るい紫、さらに縞模様の品種も広く栽培される。果肉は密度が低くスポンジ状である。ヘタの部分には鋭いトゲが生えている場合がある。新鮮な物ほど鋭く、鮮度を見分ける方法の一つとなるが、触った際にトゲが刺さり怪我をすることがある。収穫の作業性向上や実に傷がつくという理由から棘の無い品種も開発されている。品種によってさまざまな食べ方がある。小実品種は漬物、長実品種は焼き茄子、米茄子はソテー。栄養的にはさほど見るべきものはないが、東洋医学では体温を下げる効果があるとされている。また皮の色素ナスニンは抗酸化作用があるアントシアニンの一種である。なかには、「赤ナス」のような観賞用として生け花などにも利用されているもの(熊本県などで「赤ナス」の商品名で栽培されている食用の品種とは別物)もある。赤ナスは食用のナスの台木としても用いられる(観賞用の赤ナスは味などにおいて食用には適さないとされる)。
茄子の花は野菜の花のなかでも、句に詠まれることが多い。茄子は、濃い紫の茎、紫の色を残した緑の葉、うす紫の花、そして紫の実とその色合いが少しずつ違って一本となっている。その中で茄子の花の芯は一つ黄色で、そのおかげで花が生きている。夕方、野菜畑に水をやるときには、もっとも涼しそうな花である。
★茄子の花葉かげもっとも涼しかり/高橋正子
★茄子の木にもっとも淡し茄子の花/高橋正子
●8月号投句10句
夏来る空に
高橋正子
夏来る空に湧く雲流るる雲
薔薇垣と薔薇のアーチに人の住む
青嵐ふっと真昼の陰りたる
疲れ寝て覚めしところに風薫る
東京白金台・自然教育園五句
浮葉抜け森の一花のあさざの黄
山あじさい辿れる道をふさぎ咲く
杜若残れる花の草に浮く
飯桐の落花あまたよ道濡れて
木にひたとこげら飛び来て森五月
茄子の木にもっとも淡し茄子の花
◇生活する花たち「紫陽花・カルミア・卯の花」(横浜日吉本町)

★朴の花わが身清めて芳しき 正子
朴の花の大きさ、高貴さは見る者の心を震わせて大なるものがあります。その白さ、澄明さには将に「わが身清めて芳しき」の措辞がぴったりです。(小西 宏)
○今日の俳句
段なして植田それぞれ空を持つ/小西 宏
田ごとに空が映つる植田は、目にも涼やかで美しい。早苗の緑と、空の映る田水が段をなしている棚田の風景は、日本の残したい風景。(高橋正子)
○胡瓜の花

[胡瓜の花/横浜市緑区中山町(2012年5月26日)]_[胡瓜の花/横浜市都筑区川和町(2013年5月21日)]
★蝶を追ふ虻の力や瓜の花/正岡子規
★夕鰺を妻が値ぎりて瓜の花/高浜虚子
★生き得たる四十九年や胡瓜咲く/日野草城
★雲ひくし風呂の窓より瓜の花/芥川龍之介
★土蔵もて史蹟としたり瓜の花/富安風生
★瓜咲くや一つになつて村の音/永田耕衣
★肌合いの届くところに胡瓜咲く/成宮颯
胡瓜は、(キュウリ、Cucumis sativus L.)とはウリ科キュウリ属のつる性一年草、およびその果実のことである。かつては熟した実を食用とした事もあったが、甘みが薄いためにあまり好まれず、現在では未熟な実を食用とするようになった。インド北部、ヒマラヤ山麓原産。日本では平安時代から栽培される。胡瓜の「胡」という字は、シルクロードを渡って来たことを意味している。「キュウリ」の呼称は、漢字で「木瓜」または「黄瓜」(きうり)と書いていたことに由来する。上記の通り現代では未熟な実を食べる事からあまり知られていないが、熟した実は黄色くなる。尚、現代では「木瓜」はボケの花を指す。温暖な気候を好むつる性植物。栽培されているキュウリのうち、3分の2は生で食することができる。種子は暗発芽種子である。雌雄異花ではあるが、単為結果を行うため雄花が咲かなくとも結実する。主に黄色く甘い香りのする花を咲かせるが、生育ステージや品種、温度条件により雄花と雌花の比率が異なる。概ね、雄花と雌花がそれぞれ対になる形で花を咲かせてゆく。葉は鋸歯状で大きく、果実を直射日光から防御する日よけとしての役割を持つ。長い円形の果実は生長が非常に早く、50cmにまで達する事もある。熟すと苦味が出るため、その前に収穫して食べる。日本では収穫作業が一日に2~3回行われる(これには、日本市場のキュウリの規格が小果であることも一因である)。夏は露地栽培、秋から初春にかけては、ハウスでの栽培がメインとなり、気温によっては暖房を入れて栽培することもある。しかし、2003年から2008年の原油価格の価格高騰により、暖房をかけてまでの栽培を見送る農家も少なくない。果実色は濃緑が一般的だが、淡緑や白のものもある。根の酸素要求量が大きく、過湿により土壌の気相が小さい等、悪条件下では根が土壌上部に集中する。生産高は2004年、2005年は群馬県が第一位であったが、2006年からは宮崎県が第一位である。
◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

★竹落葉わが胸中を降るごとし 正子
竹が葉を落とす初夏となりました。はらはらと散るのを眺めながら、一つの季節の節目を胸中に感じられたのでしょうか。 (祝恵子)
○今日の俳句
若葉光手つなぎ歩くいとこ達/祝恵子
若葉の輝く季節、小学生ぐらいのいとこ達であろうか、集まって、行楽にでかけるのであろう。「手つなぎ歩く」には、兄弟姉妹だけよりも、広がりのある身内のたのしさが、若葉の季節を得て、かろやかに詠まれた。(高橋正子)
○栃の花

[紅花栃の木(べにばなとちのき)/横浜市都筑区牛久保]
★栃咲いて浅夜しづかな疲れあり/星野麦丘人
★仰ぎ見る樹齢いくばくぞ栃の花/杉田久女
★山砂の流れとどめて栃咲けり/長谷川かな女
★栃咲くやまぬがれ難き女の身/石田波郷
★墓地の道乾きて冷えぬ栃の花/草間時彦
★裁判所あたりを暗く栃の花/大堀柊花
★あつまれる神ほとけかも橡の花/山崎 聰
★栃の花大志を抱く男居て/谷内 茂
★栃の花日ぐれは逸る水の音/菅井静子
栃の木(トチノキ、学名:Aesculus turbinata)は、トチノキ科(APG植物分類体系ではムクロジ科とする)トチノキ属の落葉広葉樹。近縁種でヨーロッパ産のセイヨウトチノキ (Aesculus hippocastanum) が、フランス語名「マロニエ:marronnier」としてよく知られている。落葉性の高木で、温帯の落葉広葉樹林の重要な構成種の一つ。水気を好み、適度に湿気のある肥沃な土壌で育つ。谷間では、より低い標高から出現することもある。サワグルミなどとともに姿を見せることが多い。木はとても大きくなり高さ25m、太さも1mを越えるものが少なくない。葉も非常に大きく、この区域では最大級の葉である。葉柄は長く、その先に倒卵形の小葉5~7枚を掌状につけ(掌状複葉)、全体の長さは50cmにもなる。葉は枝先に集まって着く。5月から6月にその葉の間から穂状の花序が顔を出す。穂は高く立ち上がり、個々の花と花びらはさほど大きくないが、雄しべが伸び、全体としてはにぎやかで目立つ姿である。花は白~薄い紅色。ツバキのものを大きくしたような丸い果実が熟すと厚い果皮が割れて少数の種子を落とす。種子は大きさ、艶、形ともに、クリのてっぺんのとんがりをなくして丸くしたようなものを想像すれば、ほぼ間違いない。ただし、色はより黒っぽい。日本では東日本を中心に分布、中でも東北地方に顕著に見られる。木材として家具などの材料となる。巨木になるものが多いので、昔はくり抜いて臼を作るのにもよく使われた。最近は乱伐が原因で産出量が減り、主にテーブルなどに使用される。木質は芯が黄金がかった黄色で、周辺は白色調。綺麗な杢目がでることが多い。また真っ直ぐ伸びる木ではないので変化に飛んだ木材となりやすい。比較的乾燥しにくい木材であるが、乾燥が進むと割れやすいのが欠点であるが、21世紀頃にはウォールナットなどと同じ銘木級の高価な木材となっている。デンプンやタンパク質を多く含有する種子は栃の実として渋抜きして食用になる。同様に渋抜きして食用になるコナラやミズナラなどの果実(ドングリ)よりも長期間流水に浸す、大量の灰汁で煮るなど高度な技術が必要で手間がかかるが、かつては米がほとんど取れない山村ではヒエやドングリと共に主食の大きな一角を成し、常食しない地域でも飢饉の際の食料(飢救作物)として重宝された。現在では、渋抜きしたものをもち米と共についた栃餅(とちもち)などとしてあちこちの土産物になっている。そのほか、街路樹に用いられる。パリの街路樹のマロニエは、セイヨウトチノキといわれ実のさやに刺がある。また、マロニエと米国産のアカバナトチノキ (Aesculus pavia) を交配したベニバナトチノキ (Aesculus x carnea) も街路樹として使用される。日本では大正時代から街路樹として採用されるようになった。(フリー百科事典「ウィキペディア」より)
栃の花を若いときに見た記憶はないが、栃の天狗の団扇のような葉はなかなか面白い。立ちあがる花も大木の花らしくおおらかで、どことなく洒落ている。
★栃の木の紅花立てて街路樹に/高橋信之
★高架より見たり栃の花咲くを/高橋正子
◇生活する花たち「紫陽花・姫沙羅・グミ」(横浜日吉本町)

★浜名湖の水の五月を新幹線 正子
五月は月の初めに立夏があり、みずみずしい若葉に包まれた生命感にあふれる麗しい月で、薔薇や牡丹が咲き、薫風が渡る気持の良い浜名湖を見ながら新幹線に乗っている素晴らしい景ですね。 (小口泰與)
○今日の俳句
白雲を支える嶺の新樹かな/小口泰與
白雲と嶺の新樹の緑、嶺の新樹なので、とりわけその色合いが爽やかである。(高橋正子)
○未央柳(びようやなぎ)

[びようやなぎ/横浜日吉本町]
★彼女眉目よし未央柳をむざと折る/高浜虚子
★水辺の未央柳は揺れ易し/清崎敏郎
★傘ひらく未央柳の明るさに/浜田菊代
★モンローの忘れ睫の美女柳/杉本京子
★胡姫の舞おもはす未央柳かな/富岡桐人
未央柳は、キンシバイと同じ時期に咲くから、どちらも知らない人には同じ花と目に映るかもしれない。キンシバイは、花が梅の様だし、蕊が長くない。未央柳は、蕊が金色の糸のように長い。絵に描いた美人の長い睫毛とも見える。私が身近で未央柳を見かけるようになったのは、昭和40年代も終わりのころ。日本の景気が上向いて新興住宅団地が開拓され、庭つきの家が売り出された。庭も簡単に設計されて、樫などの裾を隠すために未央柳が植えられているのをよく目にした。住人が好んで植えたようでもない。日吉本町では、公園や公団、小さいビルの根方に植えられている。低木で花が沢山つくので、設計した庭の植え込みには便利がよいのだろう。水と合わせて植えれば、もっと風情がよくなるだろうといつも思う。
★夕映えは未央柳の蕊にあり/高橋正子
未央柳(ビヨウヤナギ、学名:Hypericum monogynum)はオトギリソウ科の半落葉低木。別名「美女柳(びじょやな)」、「美容柳(びようやなぎ)」、「金線海棠(きんせんかいどう)」。中国原産。唐の長安の宮殿「未央宮」にかかわる名前で、柳の葉に似ていることからだが、これは日本名。中国では金糸桃と呼び、おしべがまさに金の糸。 半常緑性の小低木で、よく栽培されている。花期は6-7月頃で、黄色の5枚の花弁のある花を咲かせる。キンシバイにも似るが、特に雄蕊が長く多数あり、よく目立つ。雄蕊の基部は5つの束になっている。葉は十字対生する。7月14日の誕生花(未央柳、花言葉は「幸い」(未央柳)。
◇生活する花たち「山紫陽花・あさざ・がまずみ」(東京白金台・自然教育園)
★ほととぎす啼きつつゆくも空の中 正子
昼夜を問わず、甲高く啼きながら飛ぶほととぎす。木々のみどりの爽やかな頃、頭上の空に響くほととぎすの声の晴朗さが伝わります。夏の到来を告げてくれるかのような鋭い声が空に豊かに広がります。(藤田洋子)
○今日の俳句
開いては菖蒲の高さ揃いたり/藤田洋子
菖蒲のあでやかな花が印象づけられる。どれも同じ丈に咲きそろう菖蒲の見事さ。(高橋正子)
○スイートピー
[スイートピー/横浜日吉本町]
★スイートピー薩摩切子の藍深く/水原春郎★
★百本のスイトピーとて一握り/稻畑汀子★
★来客を待つ卓上のスイートピー/羽根田和子★
★レントゲン終へてスイートピーの部屋にゐる/田中章子★
★風のあるさまに活けたるスイートピー/塩路隆子★
★スイートピー眠くなるほど束にする/高橋正子
スイートピー (Lathyrus odoratus) は、マメ科レンリソウ属の植物。和名では、ジャコウエンドウ(麝香豌豆)やカオリエンドウ(香豌豆)、ジャコウレンリソウ(麝香連理草)などと呼ばれている。地中海沿岸原産で、日本では主に観賞用として栽培される。品種によって一年草や多年草がある。酸性用土ではうまく育たず、直根性で移植を嫌う。ふつう秋蒔きする。中世までは雑草扱いされていた。園芸植物として栽培されるようになってからも改良のスピードは遅く、本格的に改良、交配が進むのは19世紀後半に至ってからであった。トレヴァー・クラークとヘンリー・エックフォードの尽力により、多彩な品種が誕生した。エドワード朝のアレクサンドラ王妃はスイートピーを愛し、祝いの場では装飾としてスイートピーがふんだんに用いられ、エドワード朝を象徴する花となった。
有毒植物であり、成分は同属の種に広く含まれるアミノプロピオニトリル (β-aminopropionitrile) で、豆と莢に多く含まれる。多食すればヒトの場合、神経性ラチリスム (neurolathyrism) と呼ばれる痙性麻痺を引き起こし、歩行などに影響が出ることがある。他の動物では骨性ラチリスムと呼ばれる骨格異常が生じることがある。
スイートピーを題材とした歌に『赤いスイートピー』があるが、この歌が世に出た1982年1月当時に、赤色の花をつけるスイートピーは存在していなかった。しかし、写真にもあるように、その後、品種改良によって赤色のスイートピーも誕生した。花言葉は「門出・思い出・別離」といわれている。2月15日、3月15日、3月20日、6月9日の誕生花。
◇生活する花たち「紫陽花・カルミア・卯の花」(横浜日吉本町)

★金魚鉢きらめくものを子が飼えり 正子
金魚鉢に金魚が活き活きと煌めいて泳いでいます。それは視覚的なものだけではなく、尊いいのちの輝きでも有ります。「きらめくものを子が飼う」という行為は尊いいのちを慈しみ育てる事で有り、喜んでお世話をされているお子様を温かく見守っていらっしゃるご家族の優しい眼差しも合わせ見えて参ります。(佃 康水)
○今日の俳句
芹の花倒して堰の水速し/佃 康水
堰の下に育っている芹は堰の水に押し倒されながらも、水の流れをやり過ごして咲いている。芹の花を押し倒した水はどんどんと流れる。どちらもがあって、初夏の清流と芹の花が生き生きとなった。(高橋正子)
○飯桐の花
[飯桐の雄花(落花)/東京白金台・自然教育園]_[飯桐の木/東京白金台・自然教育園]
★桐咲くやカステラけむる口中に/原子公平★
★飯桐の落花を見ては木を仰ぐ/高橋信之★
★飯桐の落花あまたよ道濡れて/高橋正子★
イイギリ(飯桐、学名:Idesia polycarpa)は、イイギリ科の落葉高木。和名の由来は、昔、葉で飯を包んだため飯桐といわれる。果実がナンテンに似るためナンテンギリ(南天桐)ともいう。イイギリ属の唯一の種。日本(本州以南)、朝鮮、中国、台湾に分布する。秋から冬に熟す多数の赤い果実が美しいので、栽培もされ、生け花や装飾にも使われる。
雌雄異株。高さは15-20m。葉は互生、枝先に束性し、キリやアカメガシワに似て幅広い。葉柄は長く、先の方に1対の蜜腺がある(アカメガシワもこの点似ているが、蜜腺は葉身の付け根にある)。雄花も雌花も同じように黄緑色で3-5月頃咲き、円錐花序となり垂れ下がる。花弁はなく、萼片の数は5枚前後で一定しない。雄花には多数の雄蕊がある。雌花にも退化した雄蕊があり、子房上位。果実はブドウの房のように垂れ下がる。液果で直径1cmほど。熟すと真っ赤になり、多数の細かい種子を含む。果実は落葉後も長く残り、遠目にも良く目立つ。白実の品種もある。
◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

★青葉木菟湯にとっぷりと子と沈む 正子
一日を終え、お子さまとお湯に入られた静かな夜。青葉木菟の低い声が届きます。親子で「とっぷり」と湯に沈み、深い落ち着きを得られたことでしょう。青葉の頃は、夜の森もいきいきとして、明るいです。(川名ますみ)
○今日の俳句
山峡の一家の植田陽を返す/川名ますみ
山峡なので「一家の植田」に、つつましい田が想像できる。植田に風が渡り、陽をよく返している。陽に恵まれて、これから夏を過ごして、実りの秋へ豊かに稲が育っていくことであろう。単なる写生でなく、植田の一家にも心が及んでいる。(高橋正子)
○蛍袋
[蛍袋/横浜日吉本町]_[蛍袋/横浜・四季の森公園]
★宵月を蛍袋の花で指す/中村草田男
★子を思へば蛍袋が目を掠む/佐野良太
蛍袋は、釣鐘型の形がかわいい。ちょうど蛍が飛ぶときに咲くので、蛍を入れるには恰好の入れ物。朝霧の中でうつむいて咲いている姿から、何を考えているのだろうかと思うときもある。関西には白い蛍袋が多くて、関東には紫がかったものが多いと聞く。事実、横浜あたりで見たのは紫がかったものばかり。たまには白いのも見てみたい。山路へ踏み込んだところや、山を切り開いて作られた新興住宅地など、思わぬところに咲いている。学名は「カンパニュラ・・」と呼ばれる。「カンパネルラ」と間違えそうになる。こちらは、宮沢賢治の銀河鉄道の夜に出てくる少年の名前だが。子どもの絵本に「十四匹のあさごはん」というのがあって、その絵本には、夏の朝の森が涼しそうに描かれていた。そういう時、蛍袋は主役の花である。
★蛍袋霧濃きときは詩を生むや/高橋正子
ホタルブクロ(蛍袋、Campanula punctata Lam.)とは、キキョウ科の多年草。初夏に大きな釣り鐘状の花を咲かせる。開けたやや乾燥した草原や道ばたなどによく見られる草本で、全体に毛が生えている。根出葉は長い柄があり、葉身はハート形。匍匐枝を横に出して増殖する。初夏に花茎を延ばす。高さは、最大80cmくらいにまでなり、数個の釣り鐘型の花を穂状につける。花は柄があって、うつむいて咲く。山間部では人里にも出現する野生植物であるが、美しいので山野草として栽培されることも多い。花色には赤紫のものと白とがあり、関東では赤紫が、関西では白が多い。ヤマホタルブクロ(学名、Campanula punctata Lam. var. hondoensis (Kitam.) Ohwi)は、ホタルブクロの変種で、山地に多く生育する。ほとんど外見は変わらないが、萼片の間が盛り上がっている。一方、ホタルブクロは萼片の間に反り返る付属片がある。園芸植物として親しまれているカンパニュラ(つりがねそう)は、同属植物で、主に地中海沿岸地方原産の植物を改良したものである。
◇生活する花たち「未央柳(びようやなぎ)・釣鐘草・卯の花」(横浜日吉本町)
