11月12日(火)

★夜は軒陰に白菜星をほしいまま  正子
秋野菜の中でも白菜は漬物にぴったりです。二つ割り、又は四つ割りにして軒陰に乾し、夜になって星空も眺めさせれば、しんなりと美味しい漬物が出来た事でしょう。(桑本栄太郎)

○今日の俳句
青空のあおに木魂す鵙の声/桑本栄太郎
「キチキチキチ」と鋭い鵙が声がするが、その正体はどこかと思うことがある。青空のあおに抜けて行く声であるが、よく聞けば「木魂」している。その声がはね返って、また耳に入るような。(高橋正子)

○八つ手の花

[八つ手の花/横浜市下田町・松の川緑道]  [八つ手の花/横浜日吉本町]

★花八つ手鶏下へ潜り入る/高橋正子
★裏庭を掃きて清まる花八つ手/高橋正子

 八つ手は、手をぱっと開いたような形をして、新しい葉はつやつやとして、梅雨どきには、蝸牛を乗せたり、雨だれを受けたりする。夏が過ぎ秋が来て冬至のころになると、球状に花火が弾けたような白い花を咲かせる。八つ手の花を見ると、冬が来たと思うのだ。瀬戸内の温暖な気候のなかで長く暮らした私は確かに冬が来たと感じてしまうのだ。
 高村光太郎の詩に「冬が来た」がある。厳しくきりもみするような冬だ。そんな冬は、八つ手の花が消えたとき来る。冬をどう感じとるかが、その人の力そのものであるような気がする。

「冬が来た」
      高村光太郎

きっぱりと冬が来た
八つ手の白い花も消え
公孫樹の木も箒(ほうき)になった
 
きりきりともみ込むような冬が来た
人にいやがられる冬
草木に背かれ、虫類に逃げられる冬が来た
 
冬よ
僕に来い、僕に来い
僕は冬の力、冬は僕の餌食だ
 
しみ透れ、つきぬけ
火事を出せ、雪で埋めろ
刃物のような冬が来た

◇生活する花たち「秋ばら・山茶花・楓紅葉」(東京調布・神代植物園)

11月11日(月)

★夜は軒陰に白菜星をほしいまま  正子
日向に干されていた白菜も、夜には軒陰に場所を移されて、欲しいままに星を独り占めしているようです。(祝恵子)

○今日の俳句
大根の白さを今日もまな板に/祝恵子
冬の間の食材として欠かせない大根の白が、目にみずみずしい。また今日の新しい白となって刻まれる。日々の新しさがさわやか。(高橋正子)

○木賊

[木賊/横浜日吉本町]

★ものいはぬ男なりけり木賊刈り/大島蓼太
★笠一ッ動いて行くや木賊刈/正岡子規
★子を負ふて木賊刈る里の女哉/正岡子規
★木の国は義仲育て木賊刈る/坂内康花
★深淵は空にありけり木賊刈る/八田木枯
★悪声の鳥来る木賊刈り頃に/三浦照子
★木賊刈るや雪のにほひの絶縁状/塚本邦雄
★こもれびを受けて木賊の青眩し/大津留公彦

木賊を見るときは、いつも、世の中には、面白い植物もあるものだなと思う。そして、いつも「けんけんぱ」の遊びを思い出す。庭の踏み石の端などに木賊が生えている。その踏み石の配置が、子供には、「けんけんぱ」の遊びに都合よいように思えた。正式の遊びは、地面にロウセキで丸を描いて遊ぶ。時には、薬缶に水を汲んできて、土に水で丸く輪を描いた。水が乾けば、また描きなおすのだ。

★木賊生う秋の日差しは斜めから/高橋正子

 トクサ(砥草、木賊、学名:Equisetum hyemale L.)とは、シダ植物門のトクサ科トクサ属の植物。本州中部から北海道にかけての山間の湿地に自生するが、観賞用などの目的で栽培されることも多い。表皮細胞の細胞壁にケイ酸が蓄積して硬化し、砥石に似て茎でものを研ぐことができることから、砥草の名がある。地下茎があって横に伸び、地上茎を直立させる。茎は直立していて同じトクサ科のスギナやイヌドクサ、ミズドクサの様に枝分かれせず、中空で節がある。茎は触るとザラついた感じがし、引っ張ると節で抜ける。節の部分にはギザギザのはかま状のものがあって、それより上の節の茎がソケットのように収まっているが、このはかま状のぎざぎざが葉に当たる。茎の先端にツクシの頭部のような胞子葉群をつけ、ここに胞子ができる。その姿のおもしろさから、庭で栽培されることもある。
 茎は煮て乾燥させたものを紙ヤスリのようにして研磨の用途に使う。また紙ヤスリが一般的な現代でも高級なつげぐしの歯や漆器の木地加工、木製品の作業工程などの磨き仕上げる工程に使用されていることや、音楽家の滝廉太郎は、身だしなみに気を遣ったため、常々トクサで爪を磨いていたことがよく知られている。クラリネットなどのリード楽器の竹製リードを磨いて調整するのにもトクサが用いられる。干した茎は木賊(もくぞく)と呼ばれる生薬で、その煎液を飲用すると目の充血や涙目に効果があるといわれている。小話に、明治時代の郵便夫が、わらじがあまりにすり減るのを嘆き、すり減らなさそうな材料としてトクサを使う話がある。その結果、足先からすり減って頭だけになった郵便夫は、頭を鞄に片づけて帰ったという落ちである。
 「木賊刈る」は秋の季語。

◇生活する花たち「茶の花・柚香菊・実蔓(さねかずら)」(東京白金台・国立自然教育園)

11月10日(日)

★枯蓮となりつつ水に傾ぎゆき  正子
青々とした大きな蓮の葉は秋の深まりと共に枯れ進み、茎はそれぞれの形に折れ曲がったり突っ立ったりして水に傾いて行きます。枯蓮となった蓮田に寂寥感を覚えると同時に作者の蓮田への慈しまれている眼差しをも合わせて感じます。(佃 康水)

○今日の俳句
浜風に確と結びし新松子/佃 康水
浜辺の松の枝にしっかりと青い松毬(まつかさ)がついた。古い松毬と違って充実している。それを「確と」が言い当てている。浜辺の青松毬のすがすがしさがよい。(高橋正子)

○冬薔薇(ふゆばら、ふゆそうび)

[冬薔薇/横浜いずみ野]

○冬薔薇(ふゆばら、ふゆそうび)

[冬薔薇/横浜いずみ野/カフェ・ド・ダラ]

★フランスの一輪ざしや冬の薔薇/正岡子規
★築地行けば垣根の薔薇や冬の花//正岡子規
★思はずもヒヨコ生れぬ冬薔薇/河東碧梧桐
★冬ばらの蕾の日数重ねをり/星野立子
★冬の薔薇すさまじきまで向うむき/加藤楸邨
★冬薔薇金環蝕ののち開く/黒田杏子
★冬薔薇や海に向け置く椅子二つ/舘岡沙緻
★冬薔薇やっぱり君は君のまま/SUNAO
★見るうちに薔薇たわたわと散り積る 虚子
★手の薔薇に蜂来れば我王の如し 草田男
★ばら薫るマーブルの碑に哀詩あり 久女
★愁ひつつ岡にのぼれば花いばら 蕪村
★花茨白花は楽の通ひ易く 草田男
★花いばら ここの土とならうよ 山頭火
★夕日の中の冬ばらの赤明らかに/高橋信之

 冬薔薇といえば、たいていは、花屋から買ってくるものだ。花瓶に開きかけたものや蕾を挿して開くのを待つのだが、開きかけたものはまだしも、蕾は固く結んで、いよいよ色が濃くなって咲かないうちに枯れてしまう。何とか、蕾を咲かそうと苦心するのが常だ。たまにそよの庭に一、二輪咲いているのを見る。
 昨年、十一月八日、横浜市いずみ野にある、千坪はあるというガーデンに出かけた。立冬を過ぎたばかりのこの日は、心地よい風が少しあって、空は晴れ渡っていた。ガーデンは、冬の初めとあって、咲き残る花、季節はずれなのにきれいに咲いている花。枯れたまま倒れた枝、茨の実などが入り混じっている。細くレンガを敷いた道以外は、何がどこにあるのか、野原よりももっと仕切りがつかない。その中に、ところどころ冬薔薇が咲いている。どれも、れっきとした名前があるのだろうが、それに構わずじっくりと見て歩くと、申し分なくきれいに花開いている。春に咲くアリッサムも元気いっぱいに十分に花を咲かせて、レタスなども瑞々しいところを見ると、土がいいのだろうと察しがつく。冬薔薇なのに瑞々しい。午後の日を浴びて一つの花にも日陰と日向がある。やはりこの寂しい陰りは冬薔薇なのだ。室内の喫茶室にも薔薇がグラスに挿してあったが、オールドローズなのか柔らかによく開いて、窓辺の小寒い夕方の陰りによく匂っていた。

★冬薔薇にいずみ野の空ひろびろと 正子
★冬そうび二輪の匂う板机     〃

バラ(薔薇)は、バラ科バラ属の種(しゅ)の総称。バラ属の植物は、灌木、低木、または木本性のつる植物で、葉や茎に棘があるものが多い。葉は1回奇数羽状複葉。花は5枚の花びらと多数の雄蘂を持つ(ただし、園芸種では大部分が八重咲きである)。北半球の温帯域に広く自生しているが、チベット周辺、中国の雲南省からミャンマーにかけてが主産地でここから中近東、ヨーロッパへ、また極東から北アメリカへと伝播した。南半球にはバラは自生していない。世界に約120種がある。「ばら」の名は和語で、「いばら」の転訛したもの。漢語「薔薇」の字をあてるのが通常だが、この語はまた音読みで「そうび」「しょうび」とも読む。漢語には「玫瑰」(まいかい)の異称もある。 欧米ではラテン語: rosa に由来する名で呼ぶ言語が多く、また同じ語が別義として「ピンク色」の意味をもつことが多い。6月の誕生花である。季語は夏で、「冬薔薇」「ふゆそうび」となると冬の季語になる。なお、一般に「ばら」と呼ぶときは、園芸品種としてのそれを指すことが多い。

◇生活する花たち「山茶花・ユリオプスデージー・綿の実」(横浜日吉本町)

11月9日(土)

★天の日は初冠雪の嶺に照り  正子
天空の日の光が初冠雪の山嶺に照り、神々しいまでの雰囲気です。初冬の大景を思います。 (河野啓一)

○今日の俳句
作品を提げ行く冬の車椅子/河野啓一
「作品」がいい。一つの作品となった画か、書。それを自分で車椅子の膝に載せて、搬入しようとしている。作品は自分自身ともいえる。作品はそうでありたい。(高橋正子)

○ウィンターコスモス

[ウィンターコスモス/横浜いずみ野]    [ウィンターコスモス/神奈川・大船植物園]

★群れ咲きて夕日を弾く冬コスモス/高橋信之

ウィンターコスモス(学名:Bidens laevis)は、キク科センダングサ属の常緑多年草。一年で枯れてしまうものと毎年花を咲かせるものがあり、ウィンターコスモスと呼ばれるものはいくつか種類があり、花茎を立ち上げて花を咲かせるものと、ほふくして咲かせるものに分かれる。一般的には立性のラエヴィス(B_laevis)がよく出回る。ラエヴィスは秋咲きで、株元に広がる羽状の濃緑の葉や花茎がしっかりしていて、コスモスに比べると硬い印象を受ける。その分、茎が丈夫なので倒れたりせず、他の花との寄せ植えにも合う。花時期は秋~初冬にかけてで、寒くなってからも花つきは衰えない。花は、5弁花、色は黄色または、ほとんど白に近い黄色。葉は羽状の濃い緑でやや固めな印象、株は摘心しなかった場合かなり縦に伸びる。中央アメリカ他原産。別名「ビデンス」は 学名から。

◇生活する花たち「たいわんつばき・石蕗の花・小菊」(神奈川・大船植物園)

11月8日(金)

★天の日は初冠雪の嶺に照り  正子
ご自宅から見える富士山の初冠雪でしょう。「天の日」に映える富士の高嶺の白雪、日本を象徴する情景です。(多田有花)

○今日の俳句
茶の花の咲くや羽音に包まれて/多田有花
茶の花は椿に似るが、椿よりもずっと小さい。その蜜を吸いに目白などがくる。姿は見えないが、羽音が聞こえる。茶の花と小鳥がよくマッチしている。(高橋正子)

○茶の花

[茶の花/横浜市港北区松の川緑道]    [茶の花/東京白金台・自然教育園]

★茶の花や白にも黄にもおぼつかな 蕪村
★茶の花に隠れんぼする雀かな 一茶
★茶の花や利休の像を床の上 子規
★茶の花や洛陽見ゆる寺の門 碧梧桐
★茶の花に暖き日のしまひかな 虚子
★散るは柿の葉咲くは茶の花ざかり 山頭火
★古茶の木ちるさかりとてあらざりき 蛇笏
★茶の花に富士かくれなき端山かな 秋櫻子

 チャノキ(茶の木、学名:Camellia sinensis)は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹である。チャの木、あるいは茶樹とも記される。単にチャ(茶)と呼ぶこともある。原産地は中国南部とされているが確かなことはわかっていない。中国や日本で栽培される1m前後の常緑低木(学名 : Camellia sinensis)。インド・スリランカなどで栽培される変種のアッサムチャ(学名 : C. sinensis var. assamica)は8 – 15mにも達する高木になる。栽培では普通は1m以下に刈り込まれるが、野生状態では2mに達する例もある。幹はその株からもよく分枝して、枝が混み合うが、古くなるとさらにその基部からも芽を出す。樹皮は滑らかで幹の内部は堅い。若い枝では樹皮は褐色だが、古くなると灰色になる。葉は枝に互生する。葉には短い葉柄があり、葉身は長さ5-7cm、長楕円状被針形、先端は鈍いかわずかに尖り、縁には細かくて背の低い鋸歯が並ぶ。葉質は薄い革質、ややばりばりと硬くなる。表面は濃緑色でややつやがある。その表面は独特で、葉脈に沿ってくぼむ一方、その間の面は上面に丸く盛り上がり、全体にはっきり波打つ。花は10-11月頃に咲く。花は枝の途中の葉柄基部から1つずつつき、短い柄でぶら下がるように下を向く。花冠は白く、径2-2.5cm、ツバキの花に似るが、花弁が抱え込むように丸っこく開く。果実は花と同じくらいの大きさにふくらむ。普通は2-3室を含み、それぞれに1個ずつの種子を含む。果実の形はこれらの種子の数だけ外側にふくらみを持っている。日本の地図記号で茶畑を表す記号はこの果実を図案化したものである
 日本では、栽培される以外に、山林で見かけることも多い。古くから栽培されているため、逸出している例が多く、山里の人家周辺では、自然林にも多少は入り込んでいる例がある。また、人家が見られないのにチャノキがあった場合、かつてそこに集落があった可能性がある。

◇生活する花たち「秋ばら・山茶花・楓紅葉」(東京調布・神代植物園)

11月7日(木)/立冬

  琵琶湖
平らかな湖水に向きて冬はじめ/高橋正子
お天気に恵まれた湖北吟行での情景と思われます。波一つない平らかな湖の広がりに心も澄みわたるようです。満々と水を湛えた湖面の輝かしさに、心明るく穏やかな冬のはじまりです。(藤田洋子)

○今日の俳句
しんとある鵜船の河畔冬初め/藤田洋子
「しんと」の擬態語がこの句のよさ。鵜飼の季節を終えた鵜舟が置かれている河畔の風景に、初冬に対する作者の気持ちが良く出ている。(高橋正子)

○立冬(冬立つ・冬に入る・冬来る/ふゆきたる・今朝の冬)
★百姓に花瓶売りけり今朝の冬 蕪村
★菊の香や月夜ながらに冬に入る 子規
★蜂の巣のこはれて落ちぬ今朝の冬 鬼城
★立冬やとも枯れしたる藪からし 亞浪
★冬来たる眼みひらきて思ふこと 鷹女

★妻子居て味噌汁うまし今朝の冬/高橋信之
★立冬の洗濯機なりよく回る/高橋正子

○神代植物公園
11月6日、調布市にある神代植物公園へ初めて出かけた。東京都の植物園では、三番目に人が多く訪れる植物園とのこと。三鷹駅からも、調布市のつつじが丘駅からもほぼ二十分ほどバスに乗ったところにあり、そばに深大寺がある。この日の見ごろは秋の薔薇とダリアであり、入り口では、盆栽仕立ての菊花展があった。入り口右手にダリア園があり、園の中央の広い場所に薔薇園がある。初夏の薔薇と違って、やはり、華やかさには欠けるが澄んだ花の色と、咲きほどける様子が美しい。中央に噴水が幾本もあがり、カリヨンの音色が響いている。薔薇園の向こうに大温室がある。水生植物園は、また別のところにある。薔薇園を楽しんだあと、武蔵野の面影の残る雑木林を抜けて、椿・さざんか園へ行く。椿は蕾が固い。山茶花は散ったのもあれば、見ごろのもある。紅葉には少し早い植物園であった。芝生広場には、パンパスグラが白い穂を風にそよがせていた。売店で軽食とアイスクリームを買い昼食とした。
 神代植物園へは自宅からグリーンラインで中山まで行き、JR横浜線に乗り換え八王子まで。八王子から中央線に乗って三鷹駅下車。そこより調布駅北口行のバスにのり、植物園前で下車。帰りは植物園前から京王線のつつじが丘駅までバスでゆき、そこより、京王線の橋本駅行きにのり、京王稲田堤で下車。徒歩五分ほどで南武線稲田堤駅まで。そこから武蔵小杉駅まで乗り、東横線に乗り換えて日吉、それからグリーンラインで日吉本町という行程をとった。朝九時半に出かけ、四時前の帰宅となった。
稲田堤の小さいの和菓子店をのぞき、白小豆の羊羹と、すはまを買った。白小豆は初めて見たが確かに小豆の白いものである。鬼饅頭(蒸しパンにサツマイモの角切りをのせたもの)も売っていて、この店を開いて三年ということであった。どうも、定年退職後の商売であるようだった。

JR横浜線で八王子へ、
★空晴れて穭田の生きいきとみどり/高橋信之
神代植物園三句
★山茶花の気ままに風に吹かれいる/〃
★秋の陽がさんさん白ばらに吾に/〃
★紫の秋ばら今日を静かに咲く/〃
★秋の陽の射し来てダリアの黄が鮮烈/〃

行き
★秋空の車窓はすでに武蔵野へ/高橋正子
★秋の野を下る電車にある速さ/〃

植物園
★カリヨンの響き渡れる秋の薔薇/高橋正子
★月光のうすむらさきの秋の薔薇
★ケネディを称えかなしも白き薔薇
★リンカンに捧ぐは紅濃き秋の薔薇
★秋日差しうすくれないの薔薇咲かす
★日の光あやに畳みて露の薔薇
★秋の日を眩しみ歩む薔薇の園
★武蔵野の林に入れば薄紅葉

帰り
★行けど知らぬ秋の武蔵野駅いくつ
★多摩川を越えて懐かし秋野原

○山茶花(さざんか)

[山茶花/横浜日吉本町]

★山茶花のここを書斎と定めたり 子規
★山茶花や日南に氷る手水桶 碧梧桐
★霜を掃き山茶花を掃くばかりかな 虚子
★山茶花や生れて十日の仔牛立つ 秋櫻子
★山茶花の樹々が真黄に母葬る 多佳子

山茶花が咲き始めると、もう、冬が近いんだぞと思う。冬物の服を早めに出したり、炬燵は、ストーブは、と冬支度が始まる。焚火の煙がうすうすと上って匂ってきたりすると、暖かいところが恋しくなる。椿と山茶花の違いはとよく効かれるが、山茶花は花弁が一枚一枚分かれて、咲き終わると散る。赤や白だけでなく、ほんのりピンクがかったものから、また八重のものまでいろんな花があるようだ。椿ほど改まってなくて、親しみやすい花だ。山茶花の垣根からいい匂いがこぼれると、そこを通るのがうれしい。

★山茶花の一期一会の花と吾/高橋信之
★山茶花にこぼるる目白の声ばかり/高橋正子

サザンカ(山茶花、学名:Camellia sasanqua)は、ツバキ科ツバキ属の常緑広葉樹で、秋の終わりから、冬にかけての寒い時期に、花を咲かせる。野生の個体の花の色は部分的に淡い桃色を交えた白であるのに対し、植栽される園芸品種の花の色は赤や、白や、ピンクなど様々である。童謡「たきび」(作詞:巽聖歌、作曲:渡辺茂)の歌詞に登場することでもよく知られる。漢字表記の山茶花は中国語でツバキ類一般を指す山茶に由来し、サザンカの名は山茶花の本来の読みである「サンサカ」が訛ったものといわれる。
日本では山口県、四国南部から九州中南部、南西諸島(屋久島から西表島)等に、日本国外では台湾、中国、インドネシアなどに分布する。なお、ツバキ科の植物は熱帯から亜熱帯に自生しており、ツバキ、サザンカ、チャは温帯に適応した珍しい種であり、日本は自生地としては北限である。サザンカには多くの栽培品種(園芸品種)があり、花の時期や花形などで3つの群に分けるのが一般的である。サザンカ群以外はツバキとの交雑である。

◇生活する花たち「山茶花(さざんか)」(東京調布・神代植物園)

11月6日(水)

★紺碧の天と対いて刈田あり  正子
刈田跡の広々とした上空には真っ青な秋の空があり、刈田と紺碧の空の間の空間が更に大きく広がって感じる・・・。晩秋の秋晴れの情景が清々しい一句です。(桑本栄太郎)

○今日の俳句
バス待つ間も金木犀の充ち来る香/桑本栄太郎
バスを待っている間にも、待てば待つほど金木犀の香りが濃厚になってくる。香りが溜まってくる。それが「充ち来る」であろうが、そういった感じ方に新しさがある。(高橋正子)

○桂黄葉(かつらもみじ)

[桂黄葉/横浜・四季の森公園]

★桂黄葉の下をくぐって森の公園/高橋信之
★黄葉して桂の一樹しかと立つ/高橋正子

カツラ(桂、学名:Cercidiphyllum japonicum)は、カツラ科カツラ属の落葉高木。日本各地のほか、朝鮮半島、中国にも分布する。街路樹や公園樹に利用され、アメリカなどでも植栽されている。日本で自生するものはブナ林域などの冷温帯の渓流などに多く見られる。高さは30mほど、樹木の直径は2mほどにもなる。葉はハート型に似た円形が特徴的で、秋には黄色く紅葉する。落葉は甘い香り(醤油の良いにおいに似ている)を呈する。成長すると主幹が折れ、株立ちするものが多い。日本においては山形県最上郡最上町にある「権現山の大カツラ」が最も太く、地上から約1.3mの位置での幹周が20m近くにまで成長している。中国の伝説では、「桂」は「月の中にあるという高い理想」を表す木であり、「カツラ(桂)を折る」とも用いられる。しかし中国で言う「桂」はモクセイ(木犀)のことであって、日本と韓国では古くからカツラと混同されている(万葉集でも月にいる「かつらをとこ(桂男)」を歌ったものがある)。用途として、街路樹として植えられるほか、材は香りがよく耐久性があるので、建築、家具、鉛筆などの材料に使われる。また、碁盤、将棋盤にも使われるが、近年は市場への供給が減っており、貴重な木材となりつつある。桂皮(シナモン)は、同じ桂の字を使うがクスノキ科の異種の樹皮である。

◇生活する花たち「茶の花・柚香菊・実蔓(さねかずら)」(東京白金台・国立自然教育園)

11月5日(火)

★紺碧の天と対いて刈田あり  正子
やや黒みをおびた秋空の蒼に対いて、稲を刈り終わったあとの田は面がにわかに広々として、一面に切り株が並ぶ刈田と秋の透き通った蒼空との対比が素晴らしいですね。(小口泰與)

○今日の俳句
ままごとのお椀かろしや赤のまま/小口泰與
「お椀かろし」がいい。作者はたわむれにままごとのお客になったとも思えるが、赤のままをいれたお椀があまりにも軽いこと、そこに感銘がある。(高橋正子)

○黒鉄黐(クロガネモチ)

[黒鉄黐/横浜・四季の森公園]

★赤がうれし黒鉄黐に朝が来て/高橋正子

クロガネモチ(黒鉄黐、学名 Ilex rotunda)は、モチノキ科モチノキ属の常緑高木。高木に分類されるものの、自然状態での成長は普通10m程度にとどまり、あまり高くならない。明るいところを好む。葉は革質で楕円形やや波打つことが多く、深緑色。表面につやがある。若い茎には陵があり、紫っぽく色づくことが多い。春4月に新芽を吹き、葉が交替する。雌雄異株で、花は淡紫色、5月から6月に咲く。たくさんの果実を秋につける。果実は真っ赤な球形で、直径6mmほど。本州(茨城・福井以西)・四国・九州・琉球列島に産し、国外では台湾・中国・インドシナまで分布する。低地の森林に多く、しばしば海岸林にも顔を出す。しばしば庭木として用いられ、比較的都市環境にも耐えることから、公園樹、あるいは街路樹として植えられる。「クロガネモチ」が「金持ち」に通じるから縁起木として庭木として好まれる地域もある。西日本では野鳥が種を運び、庭等に野生えすることがある。材木は農機具の柄としても用いられる。

◇生活する花たち「秋の野芥子・銀木犀・金木犀」(横浜日吉本町)

11月4日(月)

★ポプラ黄葉雲寄り雲のまた流る  正子
ポプラの大きな樹も黄葉になったきた。その黄葉に寄り添うように又、流れるように雲がゆくのが見える。(祝恵子)

○今日の俳句
芒日を透かしておりぬ寺静か/祝恵子
日当たりのよい寺はだれも居ぬようだ。芒が日を透かし、これ以上ないような静けさと、穏やかな明るさが思われる。(高橋正子)

○ナガボノシロワレモコウ

[ナガボノシロワレモコウ/東京白金台・自然教育園]_[吾亦紅(ワレモコウ)/横浜市港北区松の川緑道]

  東京白金台・自然教育園
★吾亦紅の白花を垂れ池近し/高橋信之
  百花園
★吾亦紅スカイツリーのある空に/高橋正子
  松山
★吾亦紅コーヒー店のくらがりに/高橋正子

 吾亦紅をこれでもか、というほど見た。四季の森公園、近所の庭。しかし、白い吾亦紅があるのは、思いもしなかった。ナガボノシロワレモコウというのがあると、自然教育園の写真を見せてくれた。穂が長いので、一見ワレモコウには見えない。

★まぼろしのごとくナガボノワレモコウ/高橋正子

 ナガボノシロワレモコウ(Sanguisorba tenuifolia)は、バラ科ワレモコウ属の多年草で、湿原や湿性の草原に生育する。北海道・関東地方以北の本州、樺太に分布するが、中国地方などにも隔離分布している。湿原に生育する植物は、氷河時代に分布したものが生き残っていることがあり、ナガボノシロワレモコウもその例の1つである。地下に太い根茎があり、8月から10月にかけ、高さ1mほどの茎を出して花を付ける。茎の上部は枝分かれして長さ2~5cm程の花穂を出し、長いものは垂れ下がる。花は先端から咲き始め、花弁はない。萼片は4枚で白色であり、これが花の色となっている。雄しべは4本で長く、黒い葯が目立つ。葉は11~15の小葉からなり、小葉の幅は狭いく、三角形の鋸歯がある。
 ワレモコウ(吾亦紅、吾木香)は、バラ科・ワレモコウ属。日本列島、朝鮮半島、中国大陸、シベリアなどに分布しており、アラスカでは帰化植物として自生している。草地に生える多年生草本。地下茎は太くて短い。根出葉は長い柄があり、羽状複葉、小葉は細長い楕円形、細かい鋸歯がある。秋に茎を伸ばし、その先に穂状の可憐な花をつける。穂は短く楕円形につまり、暗紅色に色づく。「ワレモコウ」の漢字表記には吾亦紅の他に我吾紅、吾木香、我毛紅などがある。このようになったのは諸説があるが、一説によると、「われもこうありたい」とはかない思いをこめて名づけられたという。また、命名するときに、赤黒いこの花はなに色だろうか、と論議があり、その時みなそれぞれに茶色、こげ茶、紫などと言い張った。そのとき、選者に、どこからか「いや、私は断じて紅ですよ」と言うのが聞こえた。選者は「花が自分で言っているのだから間違いない、われも紅とする」で「我亦紅」となったという説もある。

◇生活する花たち「十月桜・白ほととぎす・野葡萄」(横浜・東慶寺)

11月3日(日)

★霧に育ち大根くゆりと葉を反らす  正子
「霧に育ち」で霧の流れてくる山間の大地に活き活きと育っている大根畑が浮かびます。その大地には白い大根の肩が見え、くゆりと反らした葉っぱも青々としています。当に収穫の時期を迎えた証しでしょうか。「大根の白」「葉っぱの青」「冷やかな霧」に初冬の景色のイメージを強く致します。 (佃 康水)

○今日の俳句
 霜降の日松の菰巻き
菰巻きや縄目きりりと立ち揃い/佃 康水
新しい菰で幹を蒔かれ、縄をきりりと結んだ木は、風格が一段と増して見える。冬越しの準備が整い、気持ちが引き締まる思いだ。(高橋正子)

○山鳥兜(ヤマトリカブト、鳥兜・鳥頭・かぶと花)

[ヤマトリカブト/横浜・四季の森公園]    [オクトリカブト/尾瀬ヶ原]

★今生は病む生なりき鳥頭(トリカブト)/石田波郷
★かぶと花手折りて何を恋ひゆくや/石原君代
★鳥兜毒持つことは静かなり/東金夢明
★オキシドール泡立ちており鳥兜/河村まさあき
★国境へ鳥兜の原広がりぬ/久保田慶子
  横浜・四季の森公園
★鳥兜のむらさき優しこの森は/高橋信之
★鳥兜斜めがちにて色淡し/高橋正子

 ヤマトリカブト(山鳥兜、学名:Aconitum japonicum)は、 キンポウゲ科トリカブト属の多年草。トリカブト属の中には、オクトリカブト、ミヤマトリカブト、ハコネトリカブトなどがあり、ヤマトリカブトは、オクトリカブトの変種で、中国原産。花の形が、舞楽のときにかぶる、鳳凰(ほうおう)の頭をかたどった兜に似ていることから「鳥兜」。また、山地に生える鳥兜なので「山~」となった。ふつう、「鳥兜」と呼ぶ場合は、この「山鳥兜」を指すようで、単なる「鳥兜」という名前の花はない。英名の”monkshood”は「僧侶のフード(かぶりもの)」の意。
 トリカブト(鳥兜)の仲間は日本には約30種自生している。沢筋などの比較的湿気の多い場所を好む。花時には草丈90~130cmほどになる。茎は斜上することが多く、稀に直立する。 秋に、花茎の上部にいくつかの青紫色の長さ4cmほどの兜(かぶと)型の花をつける。花の色は紫色の他、白、黄色、ピンク色など。葉は大きさはいろいろあり、径7~12cmほどの偏円形ですが、3~5深裂(葉の基部近くまで裂けている)し、裂片はさらに細かく中~深裂(欠刻状の鋸歯)しているのが特徴で、見た目では全体に細かく裂けているように見える。
 塊根を乾燥させたものは漢方薬や毒として用いられ、烏頭(うず)または附子(生薬名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれる。本来「附子」は、球根の周り着いている「子ども」のぶぶん、中央部の「親」の部分は「烏頭(うず)」、子球のないものを「天雄(てんゆう)」と呼んでいたが、現在は附子以外のことばはほとんど用いられていない。ドクウツギ、ドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされる。ヨーロッパでは、魔術の女神ヘカテーを司る花とされ、庭に埋めてはならないとされる。ギリシア神話では、地獄の番犬といわれるケルベロスのよだれから生まれたともされている。狼男伝説とも関連づけられている。富士山の名の由来には複数の説があり、山麓に多く自生しているトリカブト(附子)からとする説もある。また俗に不美人のことを「ブス」と言うが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もある。10月13日の誕生花(鳥兜)、花言葉は「騎士道、栄光」(鳥兜)。

◇生活する花たち「犬蓼・金木犀・白曼珠沙華」(横浜四季の森公園)