★ストーブの出されしばかりが炎の清し 正子
○今日の俳句
しなやかに同じ向きして枯れ芒/古田敬二
枯れ芒は、風になびいた形のまま枯れている。枯れているとは言え、「しなやかさ」がある。枯れ芒に「しなやかさ」をよい。見たところがよい。(高橋正子)
○実葛(サネカズラ)

[実葛/ネットより] [実葛/東京白金台・自然教育園]
★葉がくれに現れし実のさねかづら/高浜虚子
★境内か否かを知らずさねかづら/森田 峠
★木洩日や美男葛の葉がくれに/山下渓水
★行きすぎて戻りて美男葛の実/川崎展宏
★悔い多し美男葛の実を数え/小堤香珠
★下心ありやに美男葛の実/阿部寿雄
★人恋し美男葛に風吹けば/大野温子
★雨脚のときをり烈し実葛 しじみ
★真っ赤なる実に驚けば実蔓/高橋正子
実葛(サネカズラ、学名:Kadsura japonica)は、マツブサ科サネカズラ属の常緑つる性木本。別名、ビナンカズラ(美男葛)。葉は長さ数cmでつやがあり互生する。ふつう雌雄異株で、8月頃開く花は径1cmほど、10枚前後の白い花被に包まれ、中央におしべ、めしべがそれぞれ多数らせん状に集まる。雌花の花床は結実とともにふくらみ、キイチゴを大きくしたような真っ赤な丸い集合果をつくる。花は葉の陰に咲くが、果実の柄は伸びて7cmになることもあり、より目につくようになる。単果は径1cmほどで、全体では5cmほどになる。果実は個々に落ちてあとにはやはり真っ赤なふくらんだ花床が残り、冬までよく目立つ。関東地方以西、西日本から中国南部までの照葉樹林によく見られる。庭園に植えることもある。ビナンカズラともいうが、これは昔つるから粘液をとって整髪料に使ったためである。盆栽として栽培もされる。果実を漢方薬の五味子(チョウセンゴミシ)の代わりに使うこともある。
古歌にもしばしば「さねかづら」「さなかづら」として詠まれ、「さ寝」の掛詞として使われる。
名にし負はば 逢坂山のさねかづら 人に知られで くるよしもがな (藤原定方、百人一首25/後撰和歌集)
◇生活する花たち「山茶花・初嵐・花八つ手」(横浜日吉本町)

★山茶花の高垣なればよく匂う 正子
山茶花には優しい香りがあります。冬に入る頃から咲き始め、花の少なくなる時期に咲く山茶花は生垣にも良く使われています。その香りを愛でて歩かれているのでしょうか。(多田有花)
○今日の俳句
小春日の谷あいの湯に母といる/多田有花
鄙びた谷あいの湯はほっかりとした温かさがある。小春日和の暖かさも加わって、母と入る湯は深々としていい湯であっただろう。(高橋正子)
○紫式部

[紫式部の実/東京白金台・自然教育園] [紫式部の花/横浜・四季の森公園]
★渡されし紫式部淋しき実/星野立子
★雨後あまだ雲のたゆたふ実むらさき/能村登四郎
★むらさきしきぶ熟れて野仏やさしかり/河野南畦
★うしろ手に一寸紫式部の実/川崎展宏
★天気地気こぼれそめたる実むらさき/池田澄子
ムラサキシキブ(紫式部、Callicarpa japonica)はクマツヅラ科の落葉低木で、日本各地の林などに自生し、また果実が紫色で美しいので観賞用に栽培される。高さ3m程度に成長する。小枝はやや水平に伸び、葉を対生する。葉は長楕円形、鋭尖頭(先端が少し突き出すこと)、長さ6-13cm。細かい鋸歯がある。葉は黄緑で洋紙質、薄くて表面につやはない。初めは表側に細かい毛があることもある。花は淡紫色の小花が散房花序をつくり葉腋から対になって出て、6月頃咲く。秋に果実が熟すと紫色になる。果実は直径3mmで球形。栽培品種には白実のものもある。名前の由来は平安時代の女性作家「紫式部」。ムラサキシキブ(コムラサキ、シロシキブ)の名所として、京都・嵯峨野の正覚寺が有名である。
砥部の庭にコムラサキがあった。我が家にあったのは園芸種のコムラサキだが、それが紫式部が違う木であるとは、最近まで知らなかった。隣家との境のブロック塀を隠すようにフランスヒイラギの隣に植えていた。 コムラサキとムラサキシキブの違いは、果実の付き方では、ムラサキシキブは比較的疎らに付くが、コムラサキは果実が固まって付く。葉柄と花柄の付く位置では、ムラサキシキブは近接しているが、コムラサキは少し離れて出る。葉の鋸歯は、ムラサキシキブでは全葉にあるが、コムラサキには上半分にしかない。樹高は、ムラサキシキブの方が高く(3~4m)、コムラサキの方が低い(2~3m)。枝垂れでは、ムラサキシキブは枝垂れるが、コムラサキは枝垂れない。 分布では、ムラサキシキブは山野の林に自生し、コムラサキは家庭の庭先に植栽されている。
★小紫揺れてばかりよ鳥が来て/高橋正子
★子がすり抜けコムラサキの実が落ちる/〃
◇生活する花たち「山茶花・蝋梅・楓紅葉」(横浜四季の森公園)
鎌倉報国寺
★冬の水ひたすら澄みて金魚飼う 正子
○今日の俳句
地響きをたてて木の実の時雨かな/桑本栄太郎
凄まじい木の実の降り方に驚く。「地響き」といい「時雨」といい、植物とは思えないほどの生命のありようだ。木の実をすっかり落として冬を越すのだ。(高橋正子)
○桜紅葉

[桜紅葉/東京大学・小石川植物園]
★早咲の得手を桜の紅葉かな/丈草
★霧に影なげてもみづる桜かな/臼田亜浪
★潮風に桜うすうす紅葉かな/稲畑汀子
★桜紅葉のくれなゐ濃きに父想ふ/大橋敦子
★観音の桜紅葉の中に立つ/長谷川幸恵
★桜紅葉これが最後のパスポート/山口紹子
★いつせいに公園の桜紅葉かな 石川元子
★茶畑へ散り込む桜紅葉かな 小川玉泉
★川岸の桜紅葉も終りけり/家塚洋子
★桜木の紅葉し初めてうひうひし/丹生をだまき
桜の紅葉(「旅」2004年11月号/一部抜粋)
紅葉の代名詞になっている楓よりも、どちらかと言えば桜の紅葉に味わい深さを感じる。桜は、春に咲き誇る花はもちろんだが、秋の陽の温もりと朝の冷え込みに少しずつ色づいてゆく葉にもまた、独特の魅力がある。写真とともに、都美女、蕪村、福永耕二、鈴木孝信、玉貫 寛、原 裕らの桜の紅葉を詠った俳句で桜の紅葉を楽しむ。(安田桂之)
桜の紅葉が好きなので、私にとっては、いわゆる桜の名所がそのまま紅葉の名所でもある。よく散歩をする京都の鴨川沿いの桜にしても、秋晴れの日などは、空の青と雲の白に映えて綺麗だし、雨の日のしっとりと濡れた感じもまた何とも言えない。桜の紅葉の色は、黒っぽい赤、真っ赤、赤茶、茶、柿、黄、黄緑、緑、茶っぽい緑など、極めて変化に富んでいながらも落ち着いた調和を保っている。
近年、気候温暖化の影響か、楓の紅葉時期が遅れているという。また、色がくすんでいて、赤茶けて汚いという声も聞かれる。それは、桜の紅葉も例外ではない。だが、私が惹かれる桜の紅葉は元来が楓ほど色鮮やかではなく、むしろくすんでいたり、赤茶けていたりする、その寂びた味わいがいいのだろう。
山桜とちがって、染井吉野は都市の美だ。身近なところで花を愛でるために、さまざまな時代にさまざまな人々の手によって人工的に都市に植えられてきた。だから、クルマやバスに乗って山へ「紅葉狩り」に出かけなくても、桜の紅葉ならいつもの散歩道で日常的に接することができる。
身近な桜は、紅葉の名所の楓のように赤くなったときだけ葉を見るのではない。冬枯れの季節も花の季節も青葉の季節もずっと見てきたその樹が、それこそ紅葉してゆくのを見るからこそ心が動くのである。
秋、朝夕の気温が下がり、昼との寒暖の差が激しくなると、葉枝の付け根に離層という裂け目ができる。すると、通り道を切断された養分が葉にたまり、赤色の色素ができるのだという。そして、さらに気温が下がると緑色の色素が衰え、隠れていた赤や黄、褐色などの色素が見えるようになる。これが紅葉の仕組みだそうだ。裂け目がさらに深くなると水分の通り道もなくなり、いよいよ葉は枯れる―落葉である。
歌の世界では古くから、花と言えば桜を指すように、紅葉と言えば楓を指したという。ただ、銀杏の黄色も含め、紅葉する落葉樹は楓だけではなく、歳時記を紐解くと、桜紅葉、漆紅葉、銀杏紅葉、柿紅葉、梅紅葉、白樺紅葉などの季語が見受けられる。また、紅葉とは元々、緑色の葉が赤色や黄色になることだから、「もみいづる」や「もみづる」というように動詞としても用いられたという。特に、「桜紅葉」は俳人の美意識を刺激するのか、「紅葉」とは別に項を立てて例句を挙げている歳時記もある。その本意は、「楓よりひと足早く紅葉し、散ってしまう」というものだ。
楓に比べれば少ないものの、俳句には桜紅葉を題にとったものがあるのに、写真集や雑誌特集、テレビ番組などにはなぜかない。「桜の一年」を追ったものの一つの季節としてなら稀にあるが、桜紅葉だけをテーマにしたものがないのはどうしたことだろう。
◇生活する花たち「アッサムチヤ・グランサム椿・からたちの実」(東京・小石川植物園)
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★あかるさは林檎の花の帰り咲く 正子
旱天が続いたり、台風などで木が傷めつけられた年におおく咲く帰り花は、小春日和のころ暖かい日が続くと、花の季節が終わってしまった林檎の木にも季節外れの花が咲き、あたりを明るく気持ちよくさせてくれます。(小口泰與)
○今日の俳句
冬霧の覆わる丘の灯しかな/小口泰與
詩情のある句。冬霧に覆われた丘に静かに点る灯が、なお柔らかな灯となっている。冬霧の季語が効いている。(高橋正子)
○白樺黄葉

[白樺黄葉/東京大学・小石川植物園]
★白樺のまれにはななめ秋晴るる/皆吉爽雨
★大鹿の村の白樺黄葉す/小屋番
★正午(ひる)の陽の白樺黄葉快活に/高橋信之
メルヘン街道!八千穂高原白樺林の黄葉(長野の観光・旅行/長野の観光スポット)
八千穂高原の白樺林の広さは東洋一!特に秋の白樺林の紅葉は素晴らしい!その年の気象条件により異なりますが、いい年・いい時期には一斉に色づく「黄金色に輝く白樺林の黄葉」が見られます。(ネットより http://allabout.co.jp/gm/gc/51977/2/)
シラカンバ(白樺、学名:Betula platyphylla)は、カバノキ科カバノキ属の落葉樹の1種。樹皮が白いことからこの名がある。別名はシラカバなど。温帯から亜寒帯地方に多く見られる。基変種であるコウアンシラカンバ Betula platyphylla var. platyphylla とそれにごく近縁にオウシュウシラカンバ Betula pendula は、アジア北東部・シベリア・ヨーロッパの広い範囲に分布する。日本産変種である Betula platyphylla var. japonica は、福井県を西端、静岡県を南端として北海道までの落葉広葉樹林帯と亜高山帯下部に分布する。日本の高原を代表する木の1つである。主に長野県や北海道に多い。
明るい場所を好み、成長が早い。ブナなどの暗い場所を好む樹木にとって代わられて、通常は一代限りで消えていく。高さは20〜30mになる。幹は30cm〜1m程でまっすぐに伸びる。枝は多岐に別れて伸び卵形の樹幹を形成する。外皮は薄く、黄色みを帯びた白色で光沢があり、紙状に剥がれる。葉は対生して生え、卵状菱形もしくは三角状広卵形で周囲は鋸葉状。長さが4〜10cm、幅は3〜6cmほど。秋には黄色く紅葉する。花期は春。雌雄同株で、5cmほどの雄花は長枝の先から尾状に垂れ下がる。雌花は短枝に4cmほどの花穂をつける。
◇生活する花たち「茶の花・茶の実・欅黄葉」(川崎市宮前区野川・影向寺)

★冬泉手にやわらかに旅半ば 正子
冬旅の半ばに澄みきった泉に出会った。そっと手を水に触れれば、やわらかに身に染みてくる。旅に出た喜びも感じられるようです。(祝恵子)
○今日の俳句
楽しみは湯葉と湯豆腐京歩き/祝恵子
湯葉と湯豆腐はいちばん京都らしい料理。丁寧にこまやかな心配りの行き届いた湯葉と湯豆腐の料理は、心が和むもの。それを楽しみにというのもほのかな温もりが感じられる句。(高橋正子)
○キウイフルーツ
[キウイ/川崎市高津区子母口] [キウイ/横浜市緑区北八朔]
★右往して左往する蔓キウイかな/たかを
★子のつくるカナッペキウイのせてあり/中島美也
キウイフルーツ(kiwifruit、学名:Actinidia deliciosa あるいは Actinidia chinensis)とは、マタタビ科マタタビ属の雌雄異株の落葉蔓性植物、またはその果実。名称はニュージーランドのシンボルである鳥の「kiwi(キーウィ)」が語源であり、果実に似ていることに由来する。主に東アジアに自生するサルナシ(マタタビ科)の内、「シナサルナシ」という中国原産の植物を、1906年にヨーロッパ経由でニュージーランドに種子が持ち込まれた後、品種改良され1934年頃から商業栽培が始まり、世界各国で食べられるようになった果物である。日本における花期は5月頃。「キーウィーフルーツ」「キーウィフルーツ」「キウィフルーツ」などの表記も使用される。耐寒性があり冬期の最低気温-10℃程度の地域でも栽培が可能である。産地は温帯から亜熱帯で、熱帯果実ではない。
普通のキウイフルーツ(ヘイワード種グリーンキウイ)の果肉は緑色を呈し、白色の果心の周囲に胡麻粒ほどの黒い種子が放射状に並んでいる。味は甘味と爽やかな酸味がある。生食 – 熟した果実の皮を剥くか、半分に切りスプーンなどで中を抉り、食用にする。サラダ、デザートなどへの利用もされる。
ゼリー – ゼラチン使用の場合は生のままの使用は、固まらず不向きである。ジャム – 砂糖を加えて煮て作る。もっと煮詰めて羊羹のような菓子にする例もある。乾燥品 – スライスして凍結乾燥させた食品もある。酒 – 醸造原料として利用しワインなどが作られている。
◇生活する花たち「十両(やぶこうじ)・万両・白文字(しろもじ)」(東京白金台・国立自然教育園)

広島福山
★亥の子の子らまた坂道を上の家へ 正子
亥の子は陰暦十月初めの亥の日に行うそうですが、私の住んでいる所では、「わらすぼ」という藁で作った棒を叩きながら、亥の子歌を歌います。田舎の方では坂道を上がったり、下りたりしながら各家庭を回り、家内安全、無病息災、家の繁盛などを祈ってくれます。そのような様子がよく伝わりました。(井上治代)
○今日の俳句
背丈ほどの鍬振り上げて冬耕す/井上治代
鍬を使うは、大変な力仕事である。自分の背丈と同じほどの鍬を振上げ、よろめかぬように、力一杯振り下ろす。冬耕の土に向けた力が快い。(高橋正子)
○茶の実

[茶の実/川崎市宮前区野川・影向寺] [茶の花/川崎市宮前区野川・影向寺]
★茶の花や白にも黄にもおぼつかな 蕪村
★茶の花に隠れんぼする雀かな 一茶
★茶の花や利休の像を床の上 子規
★茶の花や洛陽見ゆる寺の門 碧梧桐
★茶の花に暖き日のしまひかな 虚子
★散るは柿の葉咲くは茶の花ざかり 山頭火
★古茶の木ちるさかりとてあらざりき 蛇笏
★茶の花に富士かくれなき端山かな 秋櫻子
茶の花は9月から11月にかけて咲きます。昆虫などによって花粉受粉し、ほぼ1年後の秋に種子が熟し、地面に落ちます。1つの実の中に1粒から5粒くらいの種子が入っています。翌年の春に発芽しますが、種子が乾きすぎると発芽しにくくなります。種子が落下した後、すぐに取り、直まきにするのが簡単です(秋まき)。なお、現在では茶の繁殖は、ほとんどが挿木によって行われています。
昔は茶の種子から油を採り、食用や洗髪に利用していた地域がありました。また、家紋としてデザインされ、40種類以上の茶の実紋が生み出されるなど、茶の実は、日本人の生活と密接に関わってきました。(埼玉県ホームページ/農林総合研究センター茶業研究所)
チャノキ(茶の木、学名:Camellia sinensis)は、ツバキ科ツバキ属で、中国や日本で栽培される1m前後の常緑樹である。チャの木、あるいは茶樹とも記される。単にチャ(茶)と呼ぶこともある。原産地は中国南部とされているが確かなことはわかっていない。
中国や日本で栽培される1m前後の常緑低木(学名 : Camellia sinensis)。
幹はその株からもよく分枝して、枝が混み合うが、古くなるとさらにその基部からも芽を出す。葉は枝に互生する。長楕円状被針形、先端は鈍いかわずかに尖り、縁には細かくて背の低い鋸歯が並ぶ。表面は独特で、葉脈に沿ってくぼむ一方、その間の面は上面に丸く盛り上がり、全体にはっきり波打つ。花は10-11月頃に咲く。花は枝の途中の葉柄基部から1つずつつき、短い柄でぶら下がるように下を向く。花冠は白く、径2-2.5cm、ツバキの花に似るが、花弁が抱え込むように丸っこく開く。
果実は花と同じくらいの大きさにふくらむ。普通は2-3室を含み、それぞれに1個ずつの種子を含む。果実の形はこれらの種子の数だけ外側にふくらみを持っている。日本の地図記号で茶畑を表す記号はこの果実を図案化したものである
◇生活する花たち「秋ばら・山茶花・楓紅葉」(東京調布・神代植物園)

★水鳥を見ていて一つが潜りけり 正子
この時期になると海や河口そして公園の池には水鳥が渡って来てそれぞれの仕草をとても愛らしく眺める事が出来ます。ふとその中の一羽が急に潜ってしまいました。餌を見つけて潜ったのか、遊びの行動なのか。作者は水鳥たちと同じ目線に立って臨場感有るユーモラスな詠みに思わず笑みがこぼれてしまいました。 (佃 康水)
○今日の俳句
牡蠣揚がる瀬戸の潮を零しつつ/佃康水
広島は、牡蠣の産地として知られていますが、牡蠣の水揚げを間近に見て詠んだ句があります。潮を零しながら、しかも瀬戸の、と具体的な詠みに情景がくっきりと浮かび上がっています。(高橋正子)
○影向寺吟行
影向寺は川崎市宮前区野川にある天台宗の古刹。「影向」は、「ようごう」と読み、意味は「仏が仮の姿でこのなか世に現れること」とある。はじめこの寺の存在を知ったのは、川崎市の発行するパンフレットであった。一度訪ねてみたいものと思っていた。信之先生の案内と私の勘を頼りの吟行である。私の住いのある港北区日吉本町から、市営地下鉄グリーンラインに乗れば次の駅「高田」で下車し、路線バスを使う。高田駅前から「子母口」までバスに乗り、そこより綱島子母口街道を歩き、当初の目的ではなかったが、20分ほど歩いて中原街道に出た。中原街道をしばらく歩き、「影向寺」とうバス停を見つけた。そこより山がかりの坂道を上った。道案内に、「この道を道なりにまっすぐ行き右奥に影向寺がある。」とある。言われた道を道なりに行けども行けどもお寺のある気配は全くしない。非常に心細い。山を拓いてこまごまと民家が建ち畑もあり工場もある。頂上あたりで、工場の若い技術者のような方がおられ声をかけると150メートルほど先にあるという。安心して歩く。今度は150メートルもいかないうちに、驚くほど立派なお寺が出現した。寺の歴史は資料がなくなってはっきりしないとのことであるが、行基が開祖のようだ。本尊は薬師如来。「稲毛薬師」とも呼ばれる。境内は欅や銀杏、桜、百日紅の巨木が立ち並ぶ。欅が紅葉し、境内を圧していた。
鐘楼も欅黄葉もはや日暮/正子
境内には芭蕉の句碑、西脇順三郎の詩碑が立ち、意外さに驚く。洗心と小さく書かれた水口から落ちる水が日の光を入れて透明に輝いている
水底に光透りて浮く落葉/正子
花は、山茶花、茶、石蕗、実はお茶、柚子、千両、万両。建物は聖徳太子堂、鐘楼、薬師堂などがある。1時間半くらいいただろうか。その間、人影をみることは一切なかった。なのに、御手洗の水といい、庭といい、事務所といい、手入れが行き届いている。次は、百日紅の巨木が花を咲かせるときに来てみたい。
お茶の実の割れて向き合う実がふたつ/正子
○地縛 (じ縛り)

[地縛/横浜日吉本町]
地縛 (じしばり、学名 Ixeris stolonifera)は、キク科ニガナ属の多年草。日当たりの良い山野や田の畦などに自生する。名前の由来は、茎が地面を這っている様子が、地面を縛っているように見えることから。4-7月にタンポポに似た花を咲かせる。花茎の先に2cm程の黄色の頭花を1-3個つける。葉は1-3cmの卵円形。よく似るオオジシバリとの見分けは葉の形が、ジシバリは丸い卵形、オオジシバリの葉は細長い楕円形。別名の「岩苦菜(いわにがな)」は、岩場にも生え、茎葉は苦いことから。
ジシバリ(地縛り)の花は、雨の日や曇りの日には開かず、太陽が昇ってくると開き始め、夕方になると萎んでしまうという睡眠運動を繰り返す。茎を折ると白い乳液が出て手につくとべとべとし、やがて黒く変色する。原産地(原生地)は、日本、朝鮮半島、中国。花言葉は人知れぬ努力、忍耐である。
★じしばりの黄花に秋の陽が高し/高橋信之
◇生活する花たち「茶の花・茶の実・欅黄葉」(川崎市宮前区野川・影向寺)

★咳こぼし青年ふたり歩み去る 正子
青年とはいえ、常に頑強ではありません。殊に冬は喉をいため、咳をこぼしがち。足早に歩むほど丈夫ではあるけれど、今は風邪気味のふたりが、まるで挨拶のように空咳を交わしながら傍らを過ぎる。視界から消えてもコンコンと咳が響き、乾燥した街の人の往き来が、胸に沁みます。(川名ますみ)
○今日の俳句
一棟をきらきらと越す落葉風/川名ますみ
落葉を連れて風がマンションの一棟を越えていった。きらきら光るのは、落葉も、風も。明るく、高みのある句だ。(高橋正子)
○百日紅の実

[百日紅の実/横浜日吉本町] [百日紅の花/横浜日吉本町]
★武家屋敷めきて宿屋や百日紅 虚子
★百日紅乙女の一身またたく間に 草田男
★朝雲の故なくかなし百日紅 秋櫻子
★百日紅われら初老のさわやかに 鷹女
★いつの世も祷りは切や百日紅 汀女
★女来と帯纏き出づる百日紅 波郷
サルスベリ(百日紅=ヒャクジツコウ、Lagerstroemia indica)は、ミソハギ科の落葉中高木。葉は通常2対互生(コクサギ型葉序)、対生になることもある。花は紅の濃淡色または白色で、円錐花序になり、がくは筒状で6裂、花弁は6枚で縮れている。8月頃咲く。
本年枝の先に円錐花序を付ける。花弁はほぼ円形だが、不規則に縮れ、基部に長い柄のようなもの(爪)がある。独特の花冠になる。雄しべは多数あるが、特に6本長いものがある。1つの花は1日花(実際には数日)だが、次々に花が開くため、長い間咲いているように見える。実は球形の果。熟すと6裂し、翼のある種子が出てくる。
さるすべりには、白、赤、ピンクの花がある。赤とピンクの色は、微妙に違った花が見られる。夏の間、夾竹桃と並んで咲き継ぐのが「さるすべり」。幹がつるつるして木登り上手な猿が滑り落ちるから、こんな名がついたのか。四国松山に住んでいた頃、わが家の庭の真ん中にあったのが、薄紫に近いピンク。風が吹けばフリルのような花がこぼれる。真っ青な空も、炎昼の煙るような空にも似合う。さるすべりには、古木も多く、日吉の金蔵寺には、幹の半分以上がなくなっているが、残った幹がよく水を通わせるのか花を相次いで咲かせている。県の名木に指定されている。
◇生活する花たち「椿・野葡萄・くこ」(横浜市都筑区東山田)


★水鳥を見ていて一つが潜りけり 正子
冬の水辺の澄んだ空気の中、水鳥たちの情景がありありと目に浮かびます。ゆったりと水辺に浮かぶ水鳥と潜る水鳥との、静と動の対比、「一つ」の水鳥の一瞬の光景が見事に印象付けられます。 (藤田洋子)
ペダル踏む籠に落葉とフランスパン/藤田洋子
専業主婦としての日常生活を詠んで、読み手も楽しませてくれる。季語「落葉」が効いて、生活の実感を伝えてくれる。(高橋正子)
○枸杞(くこ)

[枸杞の実/横浜市都筑区東山田] [枸杞の花/横浜市都筑区東山田]
クコ(枸杞、学名:Lycium chinense)は、中国原産のナス科の落葉低木。食用や薬用に利用される。日本や朝鮮半島、台湾、北アメリカなどにも移入され、分布を広げている外来種でもある。枝は長さ1m以上、太さは数mm-1cmほどで、細くしなやかである。地上部は束状で、上向きに多くの枝が伸びる。枝には2-5cm程度の葉と1-2cm程度の棘が互生するが、枝分かれは少ない。垂直方向以外に地上にも匍匐茎を伸ばし、同様の株を次々と作って繁茂する。海岸、河原、田畑の畦、空き地の周囲など、人の手が加わりやすく、高木が生えきれない環境によく生える。ある程度湿り気のある水辺の砂地を好む。
性質は丈夫であり、しばしばハムシの一種トホシクビボソハムシ(Lema decempunctata)の成虫や幼虫が葉を強く食害したり、何種類かのフシダニが寄生して虫癭だらけになったりするが、それでもよく耐えて成長し、乾燥にも比較的強い。一旦定着すると匍匐茎を伸ばして増え続け、数年後にはまとまった群落となることが多い。開花期は夏-初秋で、直径1cmほどの小さな薄紫色の花が咲く。果実は長径1-1.5cmほどの楕円形で、赤く熟す。
果実は酒に漬けこんでクコ酒にする他、生食やドライフルーツでも利用される。薬膳として粥の具にもされる。また、柔らかい若葉も食用にされる。クコの果実、根皮、葉は、それぞれ枸杞子(くこし)、地骨皮(じこっぴ)、枸杞葉(くこよう)という生薬である。ナガバクコ(学名: Lycium barbarum)も同様に生薬にされる。月経促進や人工中絶薬の作用をする成分(ベタイン)が含有されているため、「妊婦あるいは授乳中の摂取は避けたほうがよい」[1]との情報がある。 ワルファリンとの相互作用が報告されている[2]。食品素材として利用する場合のヒトでの安全性・有効性については、信頼できるデータが見当たらない。
◇生活する花たち「皇帝ダリア・柚子・檸檬(れもん」(川崎市高津区子母口)
★眩しかり渚に並ぶゆりかもめ 正子
眩しいほどの陽のひかりを浴びて、渚に列をなしてぷかぷかと浮かぶ「ゆりかもめ」の姿が目に爽やかです。季節は進み、はや北の国から渡ってきた冬鳥、ゆりかもめ、です。 (小川和子)
○今日の俳句
小春日の芝生へ児ら吹くシャボン玉/小川和子
芝生で遊ぶ児がしきりにシャボン玉を吹いている。小春日のうららかさが、シャボン玉を吹く児を通してよく詠まれている。(高橋正子)
○レモン

[レモン/川崎市高津区子母口]
レモン(檸檬、英語: lemon、学名: Citrus limon)は、ミカン科ミカン属の常緑低木、またはその果実のこと。柑橘類のひとつである。レモンの近縁種の一つ、シトロンの別名がクエン(枸櫞)で、クエン酸の名はこれに由来する。
原産地はインド北部(ヒマラヤ)。樹高は3mほどになる。枝には棘がある。葉には厚みがあり菱形、もしくは楕円形で縁は鋸歯状。紫色の蕾を付け、白ないしピンクで強い香りのする5花弁の花を咲かせる。果実は紡錘形(ラグビーボール形)で、先端に乳頭と呼ばれる突起がある。最初は緑色をしているが、熟すと黄色になり、ライムにもよく似ている。ただし、レモンと名は付いていても他の柑橘類と交雑した品種(マイヤーレモンやサイパンレモンなど)では栽培環境で果実の形が変わり易く球形に近いものや、熟すとオレンジ色になるものもある。
レモンを題材とした作品:梶井基次郎 『檸檬』、主人公が檸檬を爆弾にみたて、丸善を爆破する幻想に駆られる物語。さだまさし 『檸檬』、梶井の小説をヒントにしつつ、舞台を御茶ノ水に置換え、青春時代の恋愛の無常さを描いた楽曲。ヨハン・シュトラウス2世 『レモンの花咲くところ』 (シトロンと訳す場合もあり)。高村光太郎 『レモン哀歌』、妻智恵子との死別を書いた詩。
◇生活する花たち「鶏頭・皇帝ダリア・鈴懸黄葉」(横浜市港北区高田町・早淵川土手)
