3月23日(土)/彼岸明け

★雪割草のひらく時きて日があふる  正子
雪割草は雪国の春の初めに咲く花。雪の中から日の目を見ようと咲き出る小さな花。1cmくらいの白または淡い紅色をしている。暖かな時を待っていた花たちへおしみなく陽光が降り注ぐ。花たちと一緒の気持ちになって春の到来喜ぶ感じが表現されている。 (古田敬二)

○今日の俳句
御岳の遠望さんしゅゆ開く日に/古田敬二
木曽の御岳が遠望され、ここに早春の花のさんしゅゆが開き始めた。御岳はまだ雪を冠っているだろう。雪の白さ、山の青さに、さんしゅゆの黄色が澄んであざやか。早春ここにあり。(高橋正子)

○横浜四季の森公園①
2012年3月23日の日記より
 昨日22日、「フェイスブック俳句コンテスト」の相談を兼ねて、小西宏さんをお誘いして四季の森公園を信之先生ともども3人で散策。この日は、早春の予期せぬ花がたくさん咲いていた。おまけに翡翠まで池のとまり木に止まってくれた。片栗の花は、アマチュアカメラマンが咲いているところへ案内してくれた。この方は、毎週四季の森に来ているとのこと。
 咲いていた花:さんんしゅゆ・みつまた、まんさく、かたくり、雪割り草、ふくじゅそう、キクザキイチゲ、葵葉すみれ、おおいぬのふぐり、猫柳、白梅、紅梅、藪椿、馬酔木、ヒイラギ南天、土筆、なずな、はこべ、ヒメ踊り子草など。芽柳も枝垂れてみどりが美しい。昨年同じ時期開いていたこぶしは、花芽がまだまだ固い。一か月以上も遅れているか。

★かたくりに山の正午の日が差しぬ/高橋正子
★かたくりの三々五々に日がほのと/高橋正子

○四季の森公園②
2013年3月21日の日記より
このところの気温の上昇で、桜が開花した。今朝は、きのうより10度低い気温ながら、朝から晴天。四季の森公園に10時半頃出かけた。中山駅からはバスで中山中学校前までゆき、そこより四季の森公園に入った。さくらの谷がすぐあり、紅枝垂桜がよく咲いている。染井吉野も開花。さくらの谷を出て、ワークセンターから再び四季の森に入る。木五倍子(きぶし)の花がちょうど見頃。里山の道から見えるところにあちこちにある。薄緑がかった黄色いかんざしのような花。木五倍子のあとは、片栗の花を見る。片栗の群生地にゆくと、ちょうど見頃。晴れていいるせいで、花びらはすべて反っていて、可憐な姿を見せてくれた。
片栗のあとは、キクザキイチゲの花を見る。カタクリも混ぜて植えてある。山桜の大木が満開。咲き満ちて白っぽい。そのあとは、菜の花畑へ。三椏の花と、さんしゅゆの花はそろそろ終わり。公園の芝地には、紅枝垂桜が見頃。菜の花畑の辺には、ほとけのざ、ヒメオドリコソウ、オオイヌノフグリがよく咲いている。葦原にゆく手前に諸葛菜(花大根)が咲き、林が開けたところには、すみれが群生。葦原は葦の角が出ている。スギナ、土筆も。蛙がコロコロと鳴いて、「蛙」は春の季語だと、実感させられた。のどかである。林の縁のニワトコはまだ蕾であった。遠目に連翹が咲いているのが目にはいったが、見に行かなかった。帰り、四季の森公園のプロムナードは、辛夷が真っ盛り。いい匂いがしている。去年、この辛夷の並木はほとんど花をつけなかったが、今年は無数の蕾が付いて、花の匂いが漂っている。どこか夢の辛夷並木を歩いているようだった。素晴らしい辛夷であった。

★片栗に日は透明をかぎりなく/高橋正子★
★山桜雲を呼びつつ咲き満つる/高橋正子★
★葦の角水面かがやき通しけり/高橋正子★

○木五倍子(キブシ)の花

[木五倍子の花/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]

★谷かけて木五倍子の花の擦れ咲/飯島晴子
★山淋し木五倍子がいくら咲いたとて/後藤比奈夫
★雨ながら十々里が原の花きぶし/古館曹人
★源流はもとより一縷木五倍子咲く/大岳水一路
★身心を山に置いたる花木五倍子/各務耐子
★木五倍子咲く地図には載らぬ道祖神/北澤瑞史

★木五倍子の花風あるかぎり揺れており/高橋正子
★里山の目を遣るところ木五倍子咲く/高橋正子

キブシ(木五倍子、学名:Stachyurus praecox)は、キブシ科キブシ属に属する雌雄異株の落葉低木。別名、キフジともいう。樹高は3m、ときに7mに達するものもある。3-5月の葉が伸びる前に淡黄色の花を総状花序につける。長さ3-10cmになる花茎は前年枝の葉腋から出て垂れ下がり、それに一面に花がつくので、まだ花の少ない時期だけによく目立つ。花には長さ0.5mmの短い花柄があり、花は長さ7-9mmの鐘形になる。萼片は4個で内側の2個は大きく花弁状、花弁は4個で花時にも開出せず直立する。雄花は淡黄色、雌花はやや緑色を帯びる。雌花、雄花とも雄蕊は8個、雌蕊は1個あるが、雌花の雄蕊は小さく退化している。葉には長さ1-3cmの葉柄があり、互生する。葉は長さ6-12cm、幅3-5cm、葉身は楕円形または卵形で、先端は鋭形または鋭尖形、基部は円形、切形または浅心形になり、縁には鋸歯がある。果実は径7-12mmになる広楕円形、卵形または球形で、緑色から熟すと黄褐色になる。和名は、果実を染料の原料である五倍子(ふし)の代用として使ったことによる。
 日本固有種で、北海道(西南部)、本州、四国、九州、小笠原に分布し、山地の明るい場所に生える。成長が早く、一年で2mくらいは伸びる。先駆植物的な木本で、荒れ地にもよく出現する。生育環境は幅広く、海岸線から内陸の川沿いまで見られる。

◇生活する花たち「桃の花・菫(すみれ)・桜」(横浜日吉本町)

3月23日(土)

●小口泰與
精悍な雉の走りや朝ぼらけ★★★
熊蜂の威嚇や利根の瀞制す★★★
種袋振るや箱庭ほほえみし★★★

●迫田和代
山桜遠くに沈む青い海★★★
初燕ふるさとの祖母想うてか★★★
時雨降り外出やめた車椅子★★★

●黒谷光子
髪カットして春風の湖辺まで★★★★
すっきりと髪を切った項を春風が通りすぎる。気持ちも爽やかに、足もついつい湖のほとりまで延びた。春風の湖辺がロマンティック。(高橋正子)

湖近き街の軒並み木瓜の花★★★
三月の婚へ列車の時刻表★★★

●河野啓一
街角に清らな色や初桜★★★★
街角で、ひときわ清楚な色を放つ桜。それも初桜なので、ういういしい清楚さが街も人の気持ちも浄化してくれる。(高橋正子)

花だより心華やぎ小径ゆく★★★
満開も近く大和の山桜★★★

●桑本栄太郎
春潮や風に耀よう波頭★★★
料峭の六甲ライナー海の上★★★
春日さす運河に舫う浚渫船★★★

●小西 宏
坂ゆけば花を過ぎ行く人の影★★★
見上げれば空輝ける花盛り★★★
夕暮の丘膨らませ花満開★★★

●藤田裕子
手の中に蕗の薹の香を包む★★★
黄の色をひらひら浮かせ木々の蝶★★★
歩道にはパンジー安らぎの揺れをもち★★★

●高橋秀之
ぶらんこや二人並んで前後ろ★★★
バイバイの声ぶらんこの揺れ止まる★★★★
初日から誘い合わせて春休み★★★

3月22日(金)/放送記念日

★水菜洗う長い時間を水流し  正子
鍋もの、漬物、煮物にも重宝される水菜は別名「京菜」とも言われ、少し葉にぎざぎざの特徴があることで知られ、春先に良く食される野菜である。長い時間をかけて丁寧に水洗いで洗われ、漸く水ぬるむ春の喜びを感じる好きな句です。(桑本栄太郎)

○今日の俳句
乙訓は風吹く丘ぞ菜花咲く/桑本栄太郎
乙訓は、長岡京があったところとして知られるが、丘に菜花が咲きやわらかな起伏を彩っている。風もやわらかに菜花をなでてゆく。「乙訓」がよく効いている。(高橋正子)

○彼岸のぼたもち
 日本で彼岸に供え物として作られる「ぼたもち」と「おはぎ」は同じもので、炊いた米を軽くついてまとめ、分厚く餡で包んだ10cm弱の菓子として作られるのが一般的である。これらの名は、彼岸の頃に咲く牡丹(春)と萩(秋)に由来すると言われる。
 私は、子供のころから「おはぎ」と呼んできた。「ぼたもち」は、民話などで覚えた言葉である。秋の彼岸も春の彼岸も、母が晒餡ときなこのおはぎを作った。お寺の位牌にお供えしてもらうために、重箱に入れ風呂敷に包んでお寺に持ってゆくのは、祖母と私であった。お寺に集まるおはぎの量を見て、お供えのおはぎの行方を心配したりもした。おはぎはもち米とうるち米と半々まぜて、一升炊いていたのではと思う。
 結婚してからは、お寺にもってゆくのではなくて、自家用に作った。晒餡ではなく、粒あんのおはぎ。松山に住んでいた頃は、近くにお家のある藤田洋子さんが手作りのおはぎをもってくれた。お姑さんから教わったらしく、粒あんの大ぶりのおはぎで絶品。「頬が落ちる」とは最近は聞かないが、まさにそれ。甘いものをあまり食べない信之先生が、洋子さんのおはぎは特別楽しみにしていた。「おはぎ」と言おうが、「ぼたもち」と言おうが、花に因んだ、ほのぼのとした供物である。

★供うまでぼたもち作り余念なし/高橋正子

○彼岸(2012年3月18日の日記より)
★兄妹の相睦みけり彼岸過/石田波郷
★竹の芽も茜さしたる彼岸かな/芥川龍之介
★線香の燃え速し彼岸の風に吹かれ/高橋信之

俳句の季語では、「彼岸」と言えば、春の彼岸で、秋の彼岸の季語は「秋彼岸」という。季語「彼岸」は、春分の日をはさんだ3月18日から24日までの七日間だが、今年の彼岸は、3月17日から23日までの七日間。寺では彼岸会を修し、先祖の墓参りをする。「暑さ寒さも彼岸まで」というように、このころから春暖の気が定まる。「彼岸前」「彼岸過」「中日」も季語として扱われ、いずれも春の季語である。信之先生の彼岸六句を紹介。

   松山持田、臥風先生句碑2句
 わが坐り師の句碑坐り彼岸の土
 彼岸の風吹きゆき句碑の石乾く

 信之先生は、松山にいたころ、彼岸となると恩師の川本臥風先生の句碑を訪ねることが多かった。
 城山が見えている風の猫柳 臥風
 松山の旧制松山高校のグランドの隅に建っている句碑である。旧制松山高校は、松山市持田にあったが、今は愛媛大学付属小中学校となっている。私が大学に入学した時は、旧制松山高校時代の木造校舎が残され、そこでも講義があった。信之先生はそこの教授であった。

○片栗の花

[片栗の花/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]

★片栗の一つの花の花盛り/高野素十
★片栗の花を見しより旅心/稻畑汀子
★西行の出家の寺に片栗咲く/松崎鉄之介
★かたくりの明日ひらく花虔しき/石田あき子
★山の風山を出るまで片栗に/古川忠利
★片栗の一群に日の留まりぬ/橋本順子
★里山にかたくりの咲く頃となる/家塚洋子

★片栗に日は透明をかぎりなく/高橋正子
★片栗の花と光とせめぎあう/高橋正子

 カタクリ(片栗、学名:Erythronium japonicum Decne.)は、ユリ科カタクリ属に属する多年草。古語では「堅香子(かたかご)」と呼ばれていた。雪解け後に落葉樹林の林床で真っ先にカタクリやニリンソウなどが葉と茎を伸ばし花を咲かせる。その後枯れて地上部の姿が消える。
 早春に10 cm程の花茎を伸ばし、薄紫から桃色の花を先端に一つ下向きに咲かせる。蕾をもった個体は芽が地上に出てから10日程で開花する。花茎の下部に通常2枚の葉があり、幅2.5-6.5 cm程の長楕円形の葉には暗紫色の模様がある。地域によっては模様がないものもある。開花時期は4-6月で、花被片と雄しべは6個。雄蕊は長短3本ずつあり、葯は暗紫色。長い雄蕊の葯は短いものより外側にあり、先に成熟して裂開する。雌蕊の花柱はわずかに3裂している。地上に葉を展開すると同時に開花する。日中に花に日が当たると、花被片が開き反り返る。日差しがない日は終日花が閉じたままである。開花後は3室からなる果実ができ、各室には数個-20程の胚珠ができる。平均で60%程の胚珠が種子となる。胚珠は長さ2 mmほどの長楕円形である。
 早春に地上部に展開し、その後葉や茎は枯れてしまう。地上に姿を現す期間は4-5週間程度で、群落での開花期間は2週間程と短い。このため、ニリンソウなど同様の植物とともに「スプリング・エフェメラル」(春の妖精)と呼ばれている。種子にはアリが好む薄黄色のエライオソームという物質が付いており、アリに拾われることによって生育地を広げている(同様の例はスミレなどにも見られる)。

◇生活する花たち「桜・諸葛菜(花大根)・葦の角」(横浜・四季の森公園)

3月22日(金)

●小口泰與
天と地の響く怒りや春嵐★★
春嵐怒髪天つく榊かな★★★
あけぼのの木々の憤怒や春嵐★★★

●河野啓一
わが町にようやく出合いし初桜★★★
街角に清楚な色やさくら咲く★★★★
門辺にも草花とりどり春が来た★★★

●多田有花
東京はすでに花見と聞く彼岸★★★
梅が香と日差し楽しむ木のベンチ★★★
花前の枝を仰げる午前午後★★★

●祝恵子
途中下車寒緋桜の下におり★★★★
この道を誰かが掃いてさくら咲く★★★
雪柳転々と登り花白し★★★

●桑本栄太郎
川に沿い土手の蛇行や青き踏む★★★
野の梅の峰に抱かれ天王山★★★
鉄橋の土手を跨ぎて草青む★★★

●井上治代
弁当に韮卵そえて子に持たす★★★
春嵐日本列島揺るがしぬ★★★
仲春の正午のチャイムのびやかに★★★

●佃 康水
誕生日2句
スイトピー添えて花籠届けられ★★★
祝われて姉の手染めの春ショール★★★
初ざくら瀬戸のさざなみ煌めけり★★★

●小西 宏
碧き川漕ぎ行く船の若桜★★★
風止めば雨降りきたる桜の夜★★★
木々の葉の生ゆるは見えず朧月★★★

●高橋秀之
一本の桜の先は青き空★★★★
「一本の桜」がよい。大きな木であれ、小さな木であれ、その桜には青い空がある。うれしいことではないか。(高橋正子)

残雪の冠鮮やかこれぞ富士★★★
春の朝の眩しき日差し富士の山★★★

3月21日(木)

★はつらつとまたかがやかにヒアシンス   正子
私にとっては、ヒアシンスは子供の頃から水栽培のものとして印象づけられていました。ところが何年か前、吟行で先生方のお宅の近くを歩いた際に正子先生に教えていただいた、土に顔を出すヒアシンスの芽の純真な緑に感銘を受けたことを思い出します。爾来、他家の庭においてではありますけれど、将に「はつらつとまたかがやかに」芽を伸ばし花を咲かせる清らかな姿を毎年楽しませていただいております。(小西 宏)

○今日の俳句
青き残雪マトリョーシカの露天市/小西 宏
マトリョーシカは、ロシアの入れ子人形。「青き残雪」は、露天市の残雪の色でもあろうが、同時にロシア女性の瞳や湖を思い起こさせてくれる。毛皮にくるまってマトリョーシカの露天市を見て歩くのが、ロシアらしい。(高橋正子)

○四季の森公園
このところの気温の上昇で、桜が開花した。今朝は、きのうより10度低い気温ながら、朝から晴天。四季の森公園に10時半頃出かけた。中山駅からはバスで中山中学校前までゆき、そこより四季の森公園に入った。さくらの谷がすぐあり、紅枝垂桜がよく咲いている。染井吉野も開花。さくらの谷を出て、ワークセンターから再び四季の森に入る。木五倍子(きぶし)の花がちょうど見頃。里山の道から見えるところにあちこちにある。薄緑がかった黄色いかんざしのような花。木五倍子のあとは、片栗の花を見る。片栗の群生地にゆくと、ちょうど見頃。晴れていいるせいで、花びらはすべて反っていて、可憐な姿を見せてくれた。
片栗のあとは、キクザキイチゲの花を見る。カタクリも混ぜて植えてある。山桜の大木が満開。咲き満ちて白っぽい。そのあとは、菜の花畑へ。三椏の花と、さんしゅゆの花はそろそろ終わり。公園の芝地には、紅枝垂桜が見頃。菜の花畑の辺には、ほとけのざ、ヒメオドリコソウ、オオイヌノフグリがよく咲いている。葦原にゆく手前に諸葛菜(花大根)が咲き、林が開けたところには、すみれが群生。葦原は葦の角が出ている。スギナ、土筆も。蛙がコロコロと鳴いて、「蛙」は春の季語だと、実感させられた。のどかである。林の縁のニワトコはまだ蕾であった。遠目に連翹が咲いているのが目にはいったが、見に行かなかった。帰り、四季の森公園のプロムナードは、辛夷が真っ盛り。いい匂いがしている。去年、この辛夷の並木はほとんど花をつけなかったが、今年は無数の蕾が付いて、花の匂いが漂っている。どこか夢の辛夷並木を歩いているようだった。素晴らしい辛夷であった。

○ゆすら(桜桃)の花

[ゆすらの花/横浜日吉本町]

★万両にゆすらの花の白き散る/正岡子規
★風のみの夜に咲きふえしゆすら花/片岡砂丘艸
★二人連れ多き道なり花ゆすら/819maker

★花ゆすら築地土塀のくずれたる/高橋正子

 桜桃 (ゆすらうめ・ゆすら、学名:Prunus tomentosa)は、バラ科サクラ属の落葉低木の果樹。サクランボに似た赤い小さな実をつける。俗名をユスラゴともいう。
中国原産。3~4月頃、白かピンク色の花が咲く。6月頃に赤い実がなり、食べられる。樹皮は不規則にはがれ、葉っぱには毛がいっぱい。全国で広く植栽されている。
朝鮮語の「移徒楽(いさら)」がなまって「ゆすら」になった、といわれている。「梅桃」とも書く。この「桜桃」は「おうとう」とも読むが、太宰治(だざいおさむ)の命日の「桜桃忌(おうとうき)」の「桜桃」はさくらんぼの別名の「桜桃」を指す。実は、「庭梅」によく似ている。性質は強健で、耐寒性・耐暑性ともに強く、病害虫にも強い。用土は過湿を嫌うので、水はけの良い土に植える。
 現在では『サクラ』を意味する漢字『櫻』は元々はユスラウメを指す字であった。ユスラウメの実が実っている様子を首飾りを付けた女性に見立てて出来た字である。果実は薄甘くて酸味が少なく、サクランボに似た味がする。そのままでの生食、あるいは果実酒などに利用される。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

3月21日(木)

●小口泰與
ぜんまいや越後の瀬音聴くばかり★★★
旅も良し陋居もよしや春の宵★★★
山風のげに吹かぬなり君子蘭★★★

●迫田和代
天からのしだれ桜と古寺と★★★
大きな木囀り軽く春の声★★★
車椅子春日まっすぐ心まで★★★

●河野啓一
初桜近きや丘はうすあかね★★★★
あわあわと膨らみ初めて桜美林★★★
転勤の挨拶聞けば四月かな★★★

●桑本栄太郎
囀りの高き梢や空青し★★★★
青空の中に、鳥が囀る梢がそびえている。俗世を抜け出た爽やかで快い風景だ。(高橋正子)

春塵の果てに決まりしコンクラーベ★★★
うす闇の家路に赤き月おぼろ★★★

●黒谷光子
打ち寄せる春の汀の波真白★★★
芽柳の枝垂れて湖の面を撫でる★★★
木の芽道抜けて広がる湖真青★★★★
木々の芽吹きが両側から迫る道を抜けると、視界が開け、真っ青に広がる湖に出た。 木の芽道と、湖の広さが対比され、どちらもの良さが強調されて、早春の息吹を感じる。(高橋正子)

●上島祥子
日の丸を飾る家有り春分の日★★★
こでまりの花房全て咲きそろう★★★
春禽の雨に輝く翼かな★★★

●小西 宏
風に触れ空に紅差す花蕾★★★
風凪いで三分咲きなる花見茣蓙★★★
共に生う葉の清清し山桜★★★★

●高橋秀之
寒戻る夜明け間近の街路灯★★★
春暁に歩く人影犬を連れ★★★
涙目の女性の瞳は花粉症★★★

3月20日(水)/春分の日・彼岸中日

★流れ寄りまた離れゆき春の鴨   正子
私のときどき立ち寄る長浜の琵琶湖岸の情景を思い浮かべました。冬の間はたくさんいた鴨も少なくなり寄り添ったり離れたりしながら発つ時を待ちながら、名残りを惜しんでいるようです。(黒谷光子)

○今日の俳句
鐘の音に児ら寄ってくる春の夕/黒谷光子
春の夕べ、まだ外で遊んでいた幼い子たちが鐘の音に不思議そうに、もの珍しげに寄ってくる。鐘を撞く人と幼い子のほのぼのとした世界が童画を見るようだ。(高橋正子)

○春分
★春分の日をやはらかくひとりかな/山田みづえ
★春分の日切株が野に光る/安養白翠
★春分の田の涯にある雪の寺/皆川盤水

 春分(しゅんぶん)は、二十四節気の第4。二月中(旧暦2月内)。現在広まっている定気法では、太陽が春分点を通過した瞬間、すなわち太陽黄経が0度となったときで、3月21日ごろだが、今年は3月20日。暦ではそれが起こる日だが、天文学ではその瞬間とする。
 春分の日(しゅんぶんのひ)は、春分が起こる日である。しばしば、「昼と夜の長さが同じになる。」といわれるが、実際は昼の方が長い。春分の日は、日本の国民の祝日の一つである。祝日法第2条では「自然をたたえ、生物をいつくしむ」ことを趣旨としている。仏教各派ではこの日「春季彼岸会」が行われ、宗派問わず墓参りをする人も多い。

★春分の日といい空に飛行機音 正子

○ミツバツツジ

[ミツバツツジ/横浜日吉本町]

★死ぬものは死にゆく躑躅燃えてをり/臼田亞浪
★日の暮れてこの家の躑躅いやな色/三橋鷹女
★真白き船の浮める躑躅かな/中村汀女
★ままごとふと躑躅の底えきえてゆきぬ/渋谷 道
★開かんとして躑躅たち真くれなゐ/中川栄淵
★平和なりミツバツツジが光り燃え/ケイスケ

★ミツバツツジが竹垣に沿い紫を/高橋信之
★ミツバツツジその紫にやや汗す/高橋正子

ミツバツツジ(三葉躑躅 Rhododendron dilatatum)はツツジ科ツツジ属の落葉低木。また、近縁のミツバツツジ類の総称でもある。 関東地方から近畿地方東部の太平洋側に分布し、主にやせた尾根や岩場、里山の雑木林などに生育する。他のミツバツツジ類の多くは雄しべが10本なのに対し、本種は5本であることが大きな特徴。古くから庭木としても植えられるが、盗掘の影響もあるせいか野生の個体数は決して多くない。
ミツバツツジ類は、4-5月頃に咲く紅紫色の花が美しい。花が終わってから葉が出てくる。枝先に三枚の葉がつくことからこの名がついた。ミツバツツジの変種には、トサノミツバツツジ、ハヤトミツバツツジ、ヒダカミツバツツジなどがある。日本に自生するその他のミツバツツジ類には、トウゴクミツバツツジやサイコクミツバツツジ、コバノミツバツツジ、ダイセンミツバツツジ、ユキグニミツバツツジ、キヨスミミツバツツジなどがある。

◇生活する花たち「シナマンサク・マンサク・ハヤザキマンサク」(東大・小石川植物園)

3月20日(水)

●小口泰與
うららかや和紙に包まる京和菓子★★★
摘みてきし蕨ひろごる三和土(たたき)かな★★★
言いさして忽と桜をほめにけり★★★

●河野啓一
耕して今日蒔く種は蓮華草★★★★
水草生う狭庭の池に水多少★★★
朝空の雲まろやかに春彼岸★★★

●佃 康水
溢れ咲く白木蓮へ空の青★★★
洗い桶きしきし剥がす春キャベツ★★★
声かけて枝に餌を挿す春の朝★★★

●下地鉄
踏まれてもいとしき花のすみれかな★★★
春分の娘と旅の打ち合わせ★★★
囀りの臥所に残るしずけさよ★★★★

●黒谷光子
小鮎鍋のぞきて煮汁確かめる★★★
小鮎煮て西と東の娘の家に★★★
あたたかや行く度娘の家近くなる★★★

●多田有花
梅の咲く坂を上りて墓参り★★★
鶯の声を間近に墓参り★★★
お彼岸や墓参の後のきな粉餅★★★

●川名ますみ
春宵の窓より未だ子らの声★★★
ランナーら辛夷の樹下に休憩す★★★
花辛夷ランナー一人ずつ休み★★★

●高橋秀之
新芽吹く全てが上へ空へ向く★★★
★「新芽吹く」は季語となりません。秋でも春でも、新芽が芽吹きます。「芽吹く」は春の季語です。

満開の桃の花並ぶ週回路★★★★
水洗いしてまな板へ春野菜★★★

●桑本栄太郎
駒返る草のみどりや朝の土手★★★
庭石へ供花のごとくや落つばき★★★
すくすくと空に伸び居り花梨芽木★★★

●小西 宏
彼岸の坂花束膝に車椅子★★★
たんぽぽを見つけたと児の知らせくる★★★
春分やピザを買い来て焼き直す★★★

※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。

3月19日(火)

★花すもも散るや夜道の片側に   正子
桃の花より遅れて、2つ3つと集まって花を咲かせるすももの花。そのすももの白い花がおぼろの柔らかな光の夜の道の片側に散り、より一層艶めかせている。素敵な春の夜の景ですね。(小口泰與)

○今日の俳句
榛名嶺の彫の豊かや揚雲雀/小口 泰與
日ごと強くなってゆく春の日に榛名山の山襞が陰影深くなる。雲雀が空高く揚がり、意気揚々の様。春の日差しに充ちた句。(高橋正子)

○桜開花

[桜開花/横浜日吉本町(2013年3月18日)]

★さまざまの事おもひ出す桜かな/松尾芭蕉
★寐て聞けば上野は花のさわぎ哉 子規
★雀来て障子にうごく花の影 漱石
★朝日さす杉間の花を数えけり 碧梧桐
★一片の落花見送る静かな 虚子
★花散るや耳ふつて馬のおとなしき 鬼城
★闇の空よりちらちらと花散り来たり 亞浪
★一めんの落花の水に蛙の眼 風生
★西方に没る日は古風花堤 蛇笏

★さくらさくらさくらさくらてのひらに/高橋信之
★花淡し寺の甍がかがやけば/高橋正子
★多摩川の奥へと桜咲き連らぬ/高橋正子
★子らあそばす丘の平地の桃さくら/高橋正子
★煽られて花のゆるるは大いなる/高橋正子
★浅間山真向いにして花を待つ/小口泰與
★店先の竹筒に挿し早桜/祝恵子
★朝日はや照らして峰の山桜/多田有花
★朝桜ふれたき空はうすき青/川名ますみ

 サクラ(桜)は、バラ科サクラ属サクラ亜属 Prunus subg. Cerasus (またはサクラ属 Cerasus に分類)の樹木の総称である。日本においてはサクラは開花が話題となる点において、他の植物とは一線を画す存在である。現在ではメディアなどで俗に、単に「桜」と言うと、桜の中で極端に多く植えられている品種のソメイヨシノの事を指すことも多い。
 さくら開花予想2013【3月16日更新】
 今年の桜は、『早く』咲く所が多くなるでしょう。全体的に開花が平年より遅れた『去年よりは大幅に早く咲く』見込みです。13日には九州で開花が始まり、宮崎・大分・鹿児島など各地で過去最早記録となっています。東京でも16日に過去最早タイで開花しました。
 この冬は寒さが続いたため、桜の花芽がスムーズに休眠から覚めた地域が多いと考えられます。
 3月初めまでは気温が低く出遅れていたものの、3月6日ごろからは平年を大幅に上回る気温の日が続き、この先も寒の戻りは少ないとみられます。このため、桜の開花は早めの所が多くなりそうです。(ウェザーマップ「さくら開花予想2013」より)

◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)

3月19日(火)

●小口泰與
川筋をしだき上手へ諸子釣★★★
残雪や土間の隅ずみ風棲める★★★★
年古るもいまだ青春桜餅★★★

●多田有花
午後の陽を受け藪椿高く咲く★★★★
薮椿に、午後の日が巡って来て花を赤く照らしている。午後の陽の独特な感じを薮椿の花がよく捉えている。(高橋正子)

沖霞み海きらきらと須磨明石★★★
嵐去り囀り戻る朝かな★★★

●河野啓一
春風と云えども荒き春一番★★★
蒼空に吾も浮きたし鳥雲に★★★
野の味や土佐から来る春大根★★★★

●小西 宏
春の鴨ひとり叫べる石の上★★★
棚までも蔓伸びぬ間の豆の花★★★
崖藪に椿大輪紅放つ★★★

●桑本栄太郎
春光の野山ほんのり遠く見ゆ★★★
カーテンを開けて嶺の端遠霞★★★
春きざす部活の声のグランドに★★★