★花通草みどり透きたる葉のなかに 正子
正子先生の鮮明な花通草の写真に、目にする機会が少ない花通草の可憐な美しさを再認識しました。濃紫色の雌花と淡紫色の雄花の素朴な花弁に心ひかれます。「みどり透きたる葉」に、いっそう紫の花びらが映え、春の明るい日差しのなかで咲く花通草の優しさを思います。(藤田洋子)
○今日の俳句
山辛夷一気に空の青へ咲く/藤田洋子
「一気に」が野生である山の辛夷らしい。待ちこがれたように噴き出して咲く。辛夷の見方に元気があり新しい。(高橋正子)
○句美子句集『手袋の色』が届く。
昨日から風雨が強い。花を散らす雨ともなっているが、毎日毎日雨ばかり。昨夕、句美子の句集『手袋の色』が文學の森から届いた。代理発送をお願いした残りの320冊。花冠同人の皆さんには、近々文学の森から発送される。
○花楓

[花楓/横浜日吉本町(左:2013年4月1日・右:2011年4月13日)]
★楓咲きまだこぼれねば石すがし/水原秋櫻子
★花楓こまかこぼるる又こまか/皆吉爽雨
★花楓数へて小さき旅にあり/岡本眸
★花嫁にそそぐ日と風花楓/西宮舞
★日ごと読む詩の一書あり花楓/永見嘉敏
★境内に少女の合唱花楓/大信田梢月
★花楓昼間静かに学生寮/高橋正子
★凝らし見て色はくれない花楓/高橋正子
○花楓
楓の若葉が開くころ、 すでに深紅の楓の花がちらちらと咲いているのに気づく。若緑と深紅が空にそよぐとなかなかいい風情。日吉本町2丁目の丘に慶応大学のゲストハウスか、あるいは中高校生の寮らしい建物がある。その庭に大きな楓があり、四月の新学期を迎えて、辺りはフレッシュな空気が漂う。反対側の民家にも楓があり、ちょうどトンネルのようになって潜り抜けると気分爽快。メイン道路なんてものもなく、気ままに歩くと出くわす花楓である。
カエデ(槭、槭樹、楓)とはカエデ科(APG植物分類体系ではムクロジ科に含める)カエデ属 (Acer) の木の総称。モミジ(紅葉、椛)とも呼ばれるが、その場合は様々な樹木の紅葉を総称している場合もある。主に童謡などで愛でられるものはそれである。赤・黄・緑など様々な色合いを持つ為、童謡では色を錦と表現している。
日本のカエデとして代表されるのは、イロハモミジ (A. palmatum) である。福島県以南の山野に自生しているほか、古くから栽培も行われている。園芸種として複数の栽培品種があり、葉が緑色から赤に紅葉するものや最初から紫色に近い葉を持ったものもある。一般に高木になる。落葉樹が多く落葉広葉樹林の主要構成種であるが、沖縄に自生するクスノハカエデのように常緑樹もある。葉は対生し、葉の形は掌状に切れ込んだものが多く、カエデの名称もこれに由来する(下記参照)。しかし、三出複葉(メグスリノキ)や単葉(ヒトツバカエデ、チドリノキ、クスノハカエデ)のものもある。花は風媒花で、花弁は目立たなく小さい。果実は二つの種子が密着した姿で、それぞれから翼が伸びる翼果である。脱落するときは翼があるので、風に乗ってくるくる回って落ちる。
日本では鮮やかな紅葉が観賞の対象とされ、庭木、盆栽に利用するために種の選抜および、品種改良が行われた。諸外国では木材や砂糖の採取、薬用に利用されるのみであったが、明治時代以後に西洋に日本のカエデが紹介されると、ガーデニング素材として人気を博し、西洋の美意識による品種も作られ、日本に「西洋カエデ」として逆輸入されている。
◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

★来るまでを辛夷のひかり見て待てる 正子
よいお天気の温かい日に辛夷の木の傍でどなたかと待ち合わせをされたのでしょう。「辛夷のひかり」にその後も素敵な時を過ごされたことと思われます。(黒谷光子)
○今日の俳句
鐘の音に児ら寄ってくる春の夕/黒谷光子
春の夕べ、まだ外で遊んでいた幼い子たちが鐘の音に不思議そうに、もの珍しげに寄ってくる。鐘を撞く人と幼い子のほのぼのとした世界が童画を見るようだ。(高橋正子)
○鈴蘭水仙(すずらんずいせん)

[鈴蘭水仙/横浜日吉本町・金蔵寺]
★花散る大待雪のつれもつれ/秋村
★夜静寂スズラン水仙の仄灯り/かずえ
★まだ寒し鈴蘭水仙うつむき咲き/高橋正子
鈴蘭水仙(すずらんずいせん、学名:Leucojum aestivum)は、ヒガンバナ科スノーフレーク属の植物の1つ。クロンキスト体系ではユリ科。和名はオオマツユキソウ(大待雪草)、別名はスノーフレーク。
ヨーロッバ中南部原産。多年草。花期は春で白いスズランのような花が咲く。花弁の先端には緑の斑点がある。秋植の球根草であるが、数年くらいは植えたままでも差し支えない。本種と名前の似たスノードロップ(マツユキソウ) (Galanthus nivalis) という球根草もあり、これと混同しないよう注意が必要である。
開花時期は、 3/ 5 ~ 4/末頃。地中海沿岸原産。垂れ下がったようすがおもしろい。鈴蘭のようで、水仙のようなので、うまいネーミングといえる。3月28日の誕生花。花言葉は「皆をひきつける魅力」。
◇生活する花たち「花桃・通草の雄花・桜」(横浜日吉本町)

★煽られて花のゆるるは大いなる 正子
見事に咲いた桜の樹が春風に煽られて枝を揺らせている。しかし花吹雪になるほどでもなく、今や春爛漫の候、しっかりと花をつけて動じない。自然の精妙さと大きさがおのずから体感されるるような素敵な御句と思います。(河野啓一)
○今日の俳句
高々と蝶越え来しや伊吹嶺/河野啓一
初蝶であろうか。目の前に現れた蝶は、あの伊吹嶺を高々と越えて来たに違いない。蝶に寄せる新鮮な思いがよく読まれている。(高橋正子)
○樒(しきみ)の花

[樒の花/横浜日吉本町]
★ゆかしさよ樒花咲く雨の中/与謝蕪村
★山住も樒の花をみる日かな 雲舎
★樒咲く山の空き家のすみに咲く うらら
★老婆らの元気な声や花樒 819maker
樒(シキミ、櫁、梻、学名:Illicium religiosum Illicium anisatum)はシキミ科シキミ属の常緑高木である。「しきび」とも読む。有毒。仏事に用いるため寺院に植栽される。常緑樹で、高さは10メートル程度、胸高直径は30センチ・メートルとなる。樹皮は暗い灰褐色になり、老木になると縦の裂け目を生じる。若枝は緑色。葉は、枝の先端に集まってつき、短い葉柄を持つ楕円形から倒卵形を帯で、長さ5 – 10センチ・メートル、深緑色でつやがある。葉の質はやや厚く、何となく波打ったようになることが多い。葉の先端は急に突き出して鈍端。花は葉の付け根から一つずつ出て春に咲く。花びらは淡黄色で細長く、ややねじれたようになる。果実は扁平で周囲に8本の突起が出ている。上面が裂開し種子が出る。種子は褐色でつやがあり、小さいドングリを押しつぶしたような形をしている。
日本では本州中部以南、四国、九州、琉球に分布し、中国にも分布する。
樒(シキミ・シキビ)は俗にハナノキ・ハナシバ・コウシバ・佛前草という。弘法大師が青蓮華の代用として密教の御修法にお使いになられた。青蓮花は天竺の無熱池にあるとされその華に似ているので御佛前の供養用に使われた。なにより四季に美しく年中継続して手に入れやすいので我国では俗古来よりこの枝葉を佛前墓前に供えている。古代にはサカキと同様に神社でも用いられたといわれるが、神式での榊(=サカキ)のように梻と書いた。(木偏に佛、「佛」は仏の旧字体)という国字もある。現在でも京都市の愛宕神社などの神事には榊でなく、シキミが使われている。シキミを挿した水は、腐りにくいのである。
◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

●多田 有花
朝桜嶺の日の出に匂い立つ★★★★
嶺の桜には、真っ先に日が昇る。日の出の澄みきった日の光に桜も匂い立つのだ。潔くすっきりとした句。(高橋正子)
見渡せる山のいずこも山桜★★★
谷へ向き枝垂桜の枝伸ばす★★★
●小西 宏
花冷えや小鳥はげしく鳴き交わす★★★
幹くねり枝おどらせて桃の花★★★
窓暮れゆく桜明かりを残しつつ ★★★
●小口泰與
山風を恐るる庭の桜草★★★
今朝も来し二羽の目白や庭の木に★★★
あけぼのや榛名の裾野梅香る★★★
●河野啓一
筑紫野の春をゆたかに次郎かな★★★
仲春の川面に低く鳶舞う★★★
【原句】水郷や柳芽青く船下り
【正子添削】水郷の柳芽青し船下り★★★
「水郷や」とすれば、「水郷」が句のテーマとなって、中七、下五と切れすぎるので添削。
青く芽吹く柳を見ながら船下りは、気持ちが明るく和んで冬から春へ移った喜びがある。(高橋正子)
●桑本栄太郎
休日なれば卵享くべき復活祭★★★
夕暮れのしだれ桜よ紅の濃し★★★
大橋の暮れて灯燈す弥生尽★★★★
暮れて橋に燈る灯に、人はなにがしか哀愁を覚える。「弥生尽」は春が終わる意味でもあるので感慨が湧く。(高橋正子)
●川名ますみ
竹垣に透けし壕辺の土手青む★★★
野の花の向こうお壕と花の雲★★★
空へ触る工場の跡の花こぶし★★★
●小口泰與
快活な鳥語や我は春炬燵★★
春雨を吸い込む芝や草野球★★★
久々のメール着信春休★★★
●小西 宏
池泥に蝌蚪尾を揺らし地を移さず★★★
花屑を髪に置くまま振り返る★★★★
雪柳手に触れて地に雪の敷く★★
●河野啓一
真珠貝のかがやき春の大村湾★★★
筑紫野の春を豊かに次郎かな★★★
ムツゴロウ跳ねて隠れて有明海★★★
●井上治代
スムーズに家事捗りて春楽し★★★
うららかや幼子鳩と戯れる★★★
どこからも春の匂いの散歩道★★★
●下地鉄
雪洞の置かれて和む花の冷え★★★
一片の花こそ美しき小川かな★★★
処かえリュウマチ痛む余寒かな★★★
●多田有花
うすぐもり微風の中に三月尽く★★★
桜色満ち山ざくら開かんと★★★
サイクリスト山桜咲く道登る★★★
●黒谷光子
牡丹の花芽数える昼下がり★★★
乗り降りに見上ぐる駅の濃紅梅★★★
木蓮の蕾みて色は苞の内★★★
●桑本栄太郎
吹き上げる風に散り初め花の冷え★★★
一本のライトアップや花の宿★★★
若人のラップダンスや春ともし★★★
●川名ますみ
野の花の先にお壕と花の雲★★★
竹垣に透けし壕辺の土手青む★★★
空へ触る工場の跡の花こぶし★★★
工場跡の殺風で、物質的なところに、やわらかに辛夷の花が空に咲いている。その対照的な様子に、互いがその個性を強めながら、空を配置することで、ひとつのまとまりある世界を作っている。(高橋正子)
★沈丁の香の澄む中に新聞取る 正子
インクの色も清々しい配達されたばかりの新聞。それを新聞受けから取るとき、沈丁花の香りが漂ってきました。よき日々の生活が思われます。 (多田有花)
○今日の俳句
新刊の図書を抱きて春風に/多田有花
新刊の図書には、本の匂いがして、これから読もうとする気持を高めてくれる。買い求めた新刊書をもって、春風のなかにいることは知的なよろこび。(高橋正子)
○繁縷(はこべ)

[はこべ/横浜日吉本町]
★カナリアの餌に束ねたるはこべかな/正岡子規
★籠の鶏に子の呉れてゆくはこべかな/富田木歩
★はこべ挿す模型の小鳥慰めて/堀口星眠
★はこべらや乗降あらず無人駅/島田菊美
★やわらかに繁りしはこべを鶏の餌に/高橋正子
★繁りたるはこべを抜けば手が湿り/高橋正子
ハコベ(繁縷、蘩蔞)とは、ナデシコ科ハコベ属(Stellaria)の総称のこと。単にハコベというときは、ハコベ属の1種であるコハコベのことを指す場合が多い。コハコベは越年草。ハコベラとも呼ぶ。春の七草のひとつ。
背の低い草本で、一年草、越年草または多年草。茎は株状になるか1本立ちになり、よく枝分かれして密集した群落を作る。茎には節があり、節ごとに葉を互生する。葉は扁平で、茎の下部に葉柄があるものと無いものがある。花は集散花序か茎先や葉腋に単生する。萼片は5個。花弁は白色まれに緑色で5弁であるが、根元近くまで深く2裂するものがあるため、一見では10弁に見える。まれに花弁が退化して無いものもある。雄蕊はふつう10個。花柱はふつう3個。果実は果でふつう6裂する。
世界に約120種あり、日本には約18種ある。
◇生活する花たち「花桃・菫(すみれ)・桜」(横浜日吉本町)

★春雷のいなづま明かりを胸に受く 正子
ハッとするような春のいなずま、明るさだけを見られたのですね。寒さからの春の訪れです。 (祝恵子)
○今日の俳句
竹を風さわさわ音させ春来たる/祝 恵子
春風が竹をそよがす音が「さわさわ」である。竹の葉が触れあいそよぐ、「やわらかさ」の感覚が春をうまく表している。(高橋正子)
○木蓮

[木蓮/横浜日吉本町(左:2013年3月24日・右:2012年4月12日)]
★木蓮の花許りなる空を瞻る/夏目漱石
★うつうつと雨のはくれむ弁をとづ/臼田亜浪
★木蓮に日強くて風定まらず/飯田蛇笏
★白木蓮の散るべく風にさからへる/中村汀女
★木蓮のつぼみのひかり立ちそろふ/長谷川素逝
★木蓮に大風のやまぬ日なりけり/木下夕爾
★葉がでて木蓮妻の齢もその頃ほひ/森 澄雄
★木蓮や母の声音の若さ憂し/草間時彦
★白木蓮に純白という翳りあり/能村登四郎
★白木蓮そこから先が夜の服/小野裕三
★廃屋をのぞき込むかに紫木蓮/竹あき
木蓮(モクレン、木蘭、学名:Magnolia quinquepeta もしくは Magnolia liliiflora)は、モクレン科モクレン属の落葉低木。花が紫色であることから、シモクレン(紫木蓮)の別名もある。ハネズ、モクレンゲと呼ばれることもある。昔は「木蘭(もくらん)」と呼ばれていたこともあるが、これは花がランに似ていることに由来する。今日では、ランよりもハスの花に似ているとして「木蓮(もくれん)」と呼ばれるようになった。中国では、「辛夷」と表記する。
中国南西部(雲南省、四川省)が原産地である。英語圏に紹介された際に、Japanese magnolia と呼ばれたため、日本が原産国だと誤解されている場合がある。
小型で樹高3-5m程度。葉は互生で、広卵型、長さ8-10cm、先は尖る。花期は春(4-5月頃)。花は濃い紅色から桃色で、花弁は6枚、がくは3枚、雄しべと雌しべは多数が螺旋状につく。上品な強い芳香を放つ。ハクモクレンとは異なり、花びらは舌状で長い。実は赤い。
庭木、公園樹として中国、日本だけでなく、北米やヨーロッパ諸国で広く栽培されている。移植は困難であり、株分けによって殖やす。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)では国花に指定されている。
ハクモクレン(白木蓮、白れん、学名:Magnolia heptapeta、シノニム:Magnolia denudata)は、モクレンの仲間で白色の花をつける。しばしば、「モクレン」と混同され、そう呼ばれることがある。モクレン属の中では大型の種類で樹高は10-15m程度まで成長する、春、葉に先立って大形で白色の花が開く。
◇生活する花たち「花桃・通草の雄花・桜」(横浜日吉本町)

●川名ますみ
新雪を踏む心地して花の塵★★★
飛花の道ゆくは新雪踏むごとし★★★
花昏く杉の古木の尚青し★★★
●迫田和代
【原句】逞しく木の芽が芽吹くちから見て
【正子添削】逞しく木の芽が芽吹くちから見し★★★
木の芽が、噴き出すように芽吹くのを見ると、木のちから、木の逞しさを目の当たりに実感する。(高橋正子)
【原句】上げ潮に乗りし桜よ空に舞う
【正子添削】上げ潮に桜の花びら空に舞う★★★★
原句では、「上げ潮に乗りし桜」が「空に舞う」に疑問を持つ。桜の花びらは、満開を過ぎると散り始めるが、上げ潮の勢いに風も多少上昇するのであろうか、花を空に舞わせる。「上げ潮に舞う桜」が絵画的で美しい。(高橋正子)
夕焼の空に北へと帰る雁 ★★★
●小西 宏
軽きかぜ桜花びら地を撫でる★★★
信号のフロントガラスに花ふぶき★★★
花待てよ孫はもうすぐ一年生★★★
●小口泰與
紅梅に百幹の竹奏でけり★★★
産土の山風荒き花こぶし★★★
ゼリー菓子増ゆる倉庫や花盛り★★★
●藤田裕子
心地よき風連翹の黄を揺らし★★★
桜若木いちりんにりん花を生み★★★
花びらの染める石段花の下★★★
●多田有花
花開く仰げば空のなお青し★★★★
花の中正午の鐘の鳴り渡る★★★
山々に花の姿の定まれり★★★
●桑本栄太郎
風白く詠い居りけり雪やなぎ★★★
ほつほつと畑に黄明かり茎立ちぬ★★★
地ならしの進む畑地や春の雨★★★
●古田敬二
咲き初めし春蘭花弁の透き通る★★★
腰高に揺れて春蘭咲き初めり★★★
花の香の満る山路に入りけり★★★
●高橋秀之
真っ直ぐに桜並木が道作る★★★
満開の桜を見上げ立ち止まる★★★
花冷えの夜明けにわが子送り出す★★★
●河野啓一
長崎へ一泊旅行
チューリップ光と色のファンタジー★★★
揃い咲き彩と光のチューリップ★★★
春霞さざ波も見え大村湾★★
★山桜雲を呼びつつ咲き満つる 正子
○今日の俳句
残る鴨みずから生みし輪の芯に/川名ますみ
「残る鴨」なので、みずからが生んだ輪の中心にいるという事実が生きる。温んだ水が、しずかに輪を描き、その中心にいる鴨に、独りでいる意思が読み取れる。(高橋正子)
○山吹
[八重山吹/横浜緑区北八朔] [白山吹/横浜日吉本町]
★ほろほろと山吹ちるか瀧の音/松尾芭蕉
★濃山吹墨をすりつゝ流し目に/松本たかし
★山吹や根雪の上の飛騨の径/前田普羅
★眼帯の朝一眼の濃山吹/桂 信子
★山吹や川よりあがる雫かな/斯波園女
★ちぎり捨てあり山吹の花と葉と/波多野爽波
★歩かねば山吹の黄に近づけず/酒井弘司
ヤマブキ(山吹、学名:Kerria japonica)はバラ科ヤマブキ属(本種のみの一属一種)の落葉低木。黄色の花をつける。春の季語。低山の明るい林の木陰などに群生する。樹木ではあるが、茎は細く、柔らかい。背丈は1mから、せいぜい2m、立ち上がるが、先端はやや傾き、往々にして山腹では麓側に垂れる。地下に茎を横に伸ばし、群生する。葉は鋸歯がはっきりしていて、薄い。晩春に明るい黄色の花を多数つける。多数の雄蕊と5~8個の離生心皮がある。心皮は熟して分果になる。
北海道から九州まで分布し、国外では中国に産する。古くから親しまれた花で、庭に栽培される。花は一重のものと八重のものがあり、特に八重咲き品種(K. japonica f. plena)が好まれ、よく栽培される。一重のものは花弁は5枚。
シロヤマブキ(Rhodotypos scandens (Thumb.) Makino)もあるが別属である。日本では岡山県にのみ自生しているが、花木として庭で栽培される事が珍しくない。こちらは花弁は4枚。
古歌にも好んで詠まれ、しばしば蛙(かはず)とともに詠み合わせられる。太田道灌と八重山吹の話はよく知られている。山吹色といえば、オレンジ色と黄色の中間色のことである。往々にして小判の色をこれにたとえる。(山吹色のお菓子・・小判の隠語)
◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

●小口泰與
紅梅やシャッター音の蒼天へ★★★
春の炉や視界奪いし土埃★★★
青空へ薄紅梅の文目かな★★
●佃 康水
第二音戸大橋(愛称 日招き大橋)開通 2句
日招きの大橋春の海へ耀る★★★
島結ぶ丹の大橋へ花盛り★★★
旅立ちの夢語る子へ春満月★★★★
●多田有花
花曇割る半熟のゆで卵★★★★
花曇とゆで卵は相通じるところがある。花の頃の高い曇り空と、白身に黄身が優しい丸を作るゆで卵。はっきりしないが、体に親しく馴染んでくるものだ。(高橋正子)
宅配のトラック止まる花の下★★★
護摩堂にうすむらさきの馬酔木咲く★★★
●桑本栄太郎
さみどりの坂の地道や春落葉★★★
春雨や角の畑地は分譲へ★★★
ジャージーの走る校庭花の雨★★★