★てのひらに書を読む梅雨のすずしさに 正子
○今日の俳句
青枇杷の産毛山雨を弾きけり/佃 康水
青枇杷の産毛が弾くのが「山雨」であるのがよい。野性味をおびた青枇杷が生き生きとしている。(高橋正子)
○青葡萄

[青葡萄/横浜日吉本町]
★葉洩日に碧玉透けし葡萄かな/杉田久女
★濁流に日のあたりけり青葡萄/山口誓子
★川を呼び山風を呼び青葡萄/広瀬直人
★青ぶどう夜明けは山のうしろから/鈴木美千代
青葡萄とは、まだ熟さない青々とした難い実の葡萄をいう。この場合は成熟しても緑色をしているマスカットなどの品種のものは指さない。生産は山梨県が最も多く、岡山・長野の両県が続く。花は五、六月果実と同じように房になって集まって咲く。この青葡萄から濃紫黒・紅赤・黄緑色と、それぞれの品種によって色づいてゆく。
ブドウ(葡萄、学名 Vitis spp.)は、ブドウ科 (Vitaceae) のつる性落葉低木である。また、その果実のこと。葉は両側に切れ込みのある15 – 20cmほどの大きさで、穂状の花をつける。野生種は雌雄異株であるが、栽培ブドウは一つの花におしべとめしべがあり、自家受粉する。このため自家結実性があり、他の木がなくとも一本で実をつける。果実は緑または濃紫で、内部は淡緑であり、房状に生る。食用部分は主に熟した果実である。食用となる部分は子房が肥大化した部分であり、いわゆる真果である。外果皮が果皮となり、中果皮と内果皮は果肉となる。果実のタイプとしては漿果に属する。大きさは2 – 8cm程度の物が一般的である。ブドウの果実は枝に近い部分から熟していくため、房の上の部分ほど甘みが強くなり、房の下端部分は熟すのが最も遅いため甘味も弱くなる。皮の紫色は主にアントシアニンによるものである。甘味成分としてはブドウ糖と果糖がほぼ等量含まれている。また、酸味成分として酒石酸とリンゴ酸が、これもほぼ等量含まれる。
ブドウ属の植物は数十種あり、北米、東アジアに多く、インド、中東、南アフリカにも自生種がある。日本の山野に分布する、ヤマブドウ、エビヅル、サンカクヅル(ギョウジャノミズ)もブドウ属の植物である。現在、ワイン用、干しぶどう用または生食用に栽培されているブドウは、ペルシアやカフカスが原産のヴィニフェラ種 (V. vinifera, common grape vine) と、北アメリカのラブルスカ種 (V. labrusca, 英: fox grape)で ある。米がうるち米(食用)・酒米(酒造用)があるように、ブドウにも食用ブドウと酒造用ブドウがあり、食用はテーブルグレープ(table grapes)、酒造用はワイングレープ(wine grapes)と呼ばれている。
◇生活する花たち「蛍袋・時計草・紫陽花」(横浜日吉本町)

★ハム削ぎ切り新玉葱の白を載せ 正子
信之先生手作りの「ドイツ風生ハムマリネ」が思い出されます。削ぎ切りの生ハムに、みずみずしい新玉葱とトマトの旨みたっぷりのお料理でした。御句より、旬の野菜の新玉葱のまぶしいばかりの白が涼感を呼び、季節ならではの味覚と色彩を楽しませていただけます。(藤田洋子)
○今日の俳句
ポケットに鍵のふくらみリラの風/藤田洋子
ポケットにいくつも鍵を入れて出かける主婦の普段の生活。そういう生活にも、リラの咲く風が吹くと、洒落た生活となる。「リラの風」が作者の姿をよく浮き上がらせている。(高橋正子)
○夏茱萸(なつぐみ)

[夏茱萸/横浜日吉本町]_[梅桃(ゆすら)/横浜日吉本町]
★夏茱萸の爛々として墓の上/津沢マサ子
★夏茱萸や妻の居ぬ日はものぐさに/村沢夏風
★夏茱萸や昔は子沢山なりし/青柳志解樹
★夏茱萸を含めば渋き旅愁かな/村岡黎史
★取る人のなき夏茱萸のこぼれ落つ/五十島典子
★小ちさき手に夏ぐみ数個のせて来し/TAKAKO
★降りだしてこの夏茱萸の千の揺れ/茜
夏茱萸(なつぐみ、学名:Elaeagnus multiflora form. orbiculata)は、トウグミと同様にElaeagnus multifloraの変種とされ、日本固有種です。基本種は東アジアに分布しているとされています。高さ2m~4mほどになる落葉低木です。樹皮は褐色で、老木では縦に不規則に剥がれおちます。
春に淡黄褐色の花を葉腋に比較的多くつけます。花はやや下垂し、基部は筒型で先端に4枚のガク片がつきますが、4裂しているように見えます。花径は1cmほどです。葉は、葉先が鋭三角形状の広楕円形で、幅4cm前後、長さ8cm前後で、葉の縁はやや波打ちますが全縁(葉の縁のギザギザはない)です。葉の表面には鱗状毛があり、葉裏には銀色の鱗状毛が密生し、赤褐色の鱗状毛が混じるので、淡褐色に見えます。グミの仲間(グミ属)では普通ですが、葉裏が淡褐色や黄褐色です。果実は、両端が丸い円筒形で長さ1.5cm前後です。初夏に赤く熟して食べられます。北海道南部、福島県から静岡県の太平洋側に分布します。多摩丘陵では、自生のものは稀で、人家周辺に時々植栽されています。
「グミ」の名は、漢名「茱萸子」からきているようです。「茱萸」を日本語読みしたもののようですが、はっきりとはしていないようです。「夏」は、初夏に果実が熟すことからです。
万葉集を始め多くの歌集や文芸等にはその名は現れていないようです。平安時代の「倭名類聚抄」に「和名 久美」として現れているとのことです。江戸時代の「本草綱目啓蒙」などにその名が現れています。
果実は美味しく古くから食用にされています。有毒であるという報告も薬用にするという報告もないようです。
多摩丘陵には、この仲間(グミ属)では、以下のように、落葉樹であるこのナツグミとトウグミ、常緑樹であるナワシログミとツルグミを確認していますが、分布域的には可能性がある落葉のアキグミは未確認です。全て花や果実は似ていて葉裏も淡褐色から黄褐色で似ています。葉には多少の違いがありますが、変異もあるので葉だけでの区別は慣れないと結構困難です。多摩丘陵ではいずれも個体数は少なく、なかなか出会えません。
このナツグミとトウグミは、とてもよく似ていて区別は大変困難です。植物学的にはナツグミでは葉の表面に鱗状毛があるのに対して、トウグミでは(若い)葉に星状毛があることで同定します。一般には、トウグミではナツグミよりも花や実つきがよいことで区別します。トウグミの果実はナツグミよりもやや大きいのですが見た目での判断は困難です。トウグミは、花や実付きがよく、果実もやや大きいので当初は中国などから持ち込まれた種であると考えられたために「唐グミ」と名づけられています。
他の常緑の2種では、葉がやや厚くてやや硬いことで区別できます。また、ナツグミやトウグミでは花期は春ですが、ナワシログミやツルグミでは花期が秋です。果期は、ナワシログミは初夏ですが、ツルグミでは春です。
ナワシログミは、常緑で葉はやや厚くて硬く、小枝がトゲ状になっていることが特徴です。また、葉は葉先が鈍三角形状の長楕円形で葉縁が波打つことでも区別できますが、慣れないと困難です。花期も秋です。
ツルグミは、茎がツル状に長く伸びて他物に寄りかかるようになるのが特徴です。葉は、やや厚くてやや硬く、葉先が長い三角形状です。花期は秋です。
アキグミでは、花期は春ですが、果実が赤熟するのは秋です。また、果実が小さな球形(径7mm前後)なので容易に区別できます。
◇生活する花たち「岩タバコ・雪ノ下・夏萩」(北鎌倉/東慶寺・円覚寺)

★青梅と氷砂糖と瓶に透け/高橋正子
○今日の俳句
ピーマンの分厚く光るを収穫す/祝恵子
よくそだったピーマンの質感をよく捉えている。「分厚く」に納得。(高橋正子)
○繍線菊(しもつけ)

[しもつけ/横浜日吉本町]
★しもつけを地に並べけり植木売/松瀬青々
★繍線菊やあの世へ詫びにゆくつもり/古舘曹人
★しもつけの花を小雨にぬれて折る/成瀬政俊
★しもつけに肩ふれらるる家の角/岡田博允
★繍線菊やえんぴつ書きの母の文/山内八千代
しもつけは、近くの公団の植栽にある。白と赤、それに源平と呼ばれる紅白が混じったもの。泡のような小粒の蕾が集まっているのだが、それが弾けて可憐な花となる。花だけでなく、葉も魅力がある。花も葉もおしゃれな感じがする。こでまりや、ゆきやなぎの仲間なので、茎などはよく似ている。部屋に活けてみたい花だ。白がいいか、赤がいいか。どちらも欲しい。この花だけよりも、なにか他のものと合わせれば、もっといい花となる。
★しもつけの紅花備前に活けてみし/高橋正子
シモツケ(学名:Spiraea japonica)は、バラ科シモツケ属の落葉低木。漢名「繍線花」があてられる。別名、キシモツケ(木下野)とも呼ばれる。アジア原産地で、北海道から九州にかけての日本各地、朝鮮および中国の山野に自生する。成木の樹高は1mほどであり、初夏に小花(集合花)が傘状に群がり、淡紅色又は白色の五弁の花を沢山つける。秋には紅葉する。古くから庭木として親しまれてきた。和名は下野国に産したことに由来するという。同じシモツケ属の仲間にはコデマリ、ユキヤナギがある。 シモツケは富士山にも咲いている。寒さに強く、日当たりを好む。シモツケ(バラ科)花言葉は、いつかわかる真実。
◇生活する花たち「紫陽花」(北鎌倉・東慶寺)

●小口泰與
新緑の空を支える巨木かな★★★
幽玄の青葉の影や朝まだき★★★
大瑠璃や朝がゆ急ぎかき込みし★★★
●藤田洋子
平らかに田植の前の水明かり★★★★
田植前の田に水が満たされている。風が渡り、漣が寄せて、水が光を放つ静かな景色。「田水」に「水明かり」を見たのが新鮮。(高橋正子)
新生姜香らせ夕餉整いぬ★★★
まるまると瓶に青梅粒揃う★★★
●河野啓一
信号機しばし待つ間の合歓の花★★★
夏野菜塩胡椒してオリーブ油★★★
信号を待つ間の憩い合歓の花★★★
●桑本栄太郎
緑陰のしばし車内に阪急線★★★★
阪急線も緑陰のある駅に停まる。車内も緑陰の内に。ドアからは、心地よい風が入って来るのだろう。電車に乗ったときの楽しみでもある。(高橋正子)
山影と鉄塔映す植田かな★★★
見上げいる高き青嶺や天王山★★★
●多田有花
梅の実や思いがけないことが良し★★★
夕刻の花菖蒲には細き雨★★★
雨くれば紫陽花の青のさらに澄み★★★
●小西 宏
犬とふたり欅青葉の中に入る★★★
木の杭に所在のあらず通し鴨★★★
曇天の割れ目めがけて黒揚羽★★★
★沙羅の花みずみずしくて落ちている 正子
白い5弁の花びらそのままの姿で地に落ちている沙羅の花。木に咲いているようにみずみずしく命があるように見えます。落ちてなお清楚な美しさを呈する沙羅の花に感動いたします。(藤田裕子)
○今日の俳句
青梅雨や雨音軽く夜に入る/藤田裕子
青梅雨という言葉が美しい。それと微妙にずれた軽い雨音がして夜に入る。心に浸透するような詩情がある。(高橋正子)
○矢車草

[矢車草/横浜日吉本町]
★矢車草空へ伸びざま吾子逝けり/柴崎左田男
★矢車草の矢車楽し少年に/高橋信之
★矢車草青はもっともドイツの色/高橋正子
矢車草(学名:Rodgersia podophylla)は、ユキノシタ科ヤグルマソウ属の多年草。根出葉は5枚の小葉からなる掌状複葉で、葉柄は50cmに達する。小葉は倒卵形で先端が3-5浅裂する。花茎の高さは1mほどになり、短い葉柄をもった茎葉が数個互生する。花期は6-7月で、先端に円錐状の花序をつける。花弁はなく、花弁にみえる萼裂片は長さ2-4mmで、ふつう5-7個あり、色は紫、赤、白、桃など多様である。雄蕊は長さ3-4mmで8-15個あり、直立する。花柱は長さ1.5-2.5mmになり、2個あり、花時に直立する。果実は狭卵形の果で、長さ5mmになる。和名の由来は、小葉の構成が、端午の節句の鯉のぼりにそえる「矢車」に似ることによる。
矢車草は、私には、ずっと昔からのなじみに花である。近頃は、流行なのかチョコレート色の矢車草もあるが、一番矢車草らし色は青だと思う。この青色は日本の青とちがって、ドイツかスイスの花の青だといつごろからか思うようになった。シュタイフ・ブルーと呼ばれる色がある。帝国の青という意味だが、つまりドイツの色という意味。ドイツの国会の座席は、設計段階では、グレーとしていたが、ドイツ国民によって「シュタイフ・ブルー」になったと聞く。ドイツ国民がこれこそドイツの色としている色であろう。
◇生活する花たち「紫陽花・立葵・百日草」(横浜・四季の森公園)

●川名ますみ
額の花朝日に映る影きりり★★★
額の花朝日に影を濃く落とし★★★
苑の香よ青葉時雨に包まるる★★★
●小口泰與
せせらぎに沿いて登るや浦島草★★★
代掻きや腰の携帯高らかに★★★
田植機の爆走せしや夏の朝★★★
●小川和子
この辺り山百合咲くと案内さる★★★
滝音のひびく崖道寄らず過ぐ★★★
道標の行く先開け夏野原★★★
●桑本栄太郎
あご髭の痛き想い出父の日よ★★★
バイパスの嶺へとつづく梅雨の晴れ★★★
ベランダの風に身を置き夏の月★★★
●多田有花
【原句】梅雨の晴れ沖に並びしコンビナート
【正子添削】梅雨晴の沖に並びしコンビナート★★★★
梅雨晴の日差しを受けた沖のコンビナート。コンビナートの工場群が遠く銀色に輝く景色は、現代の美の一つであろう。
坂登り暖簾をくぐり夏料理★★★
パラソルに花菖蒲の色見え隠れ★★★
●河野啓一
短夜の明け来て清し鳥の声★★★★
夜が明けるのが楽しみな季節。短夜が開ければ、清らかな朝があり、鳥の声が聞こえる。素晴らしいことだ。(高橋正子)
揚羽蝶隣りの庭と縁つづき★★★
夕立晴妻は何処まで行ったやら★★★
★水こぼす水車の音の菖蒲田へ 正子
○今日の俳句
直立に濃く咲き登り立葵/多田有花
立葵の花は、ピンク、白、赤色など様々ある。この句の立葵は、濃い色のもの。可憐な花の姿をしながら、「直立に」「濃く」咲いて、生命力のある花だ。(高橋正子)
○北鎌倉・紫陽花をたのしみに。
昨日6月16日、北鎌倉の東慶寺と円覚寺へ句美子と出かける。紫陽花の
○梔子(くちなし)
[梔子/横浜日吉本町]
★口なしの花さくかたや日にうとき/与謝野蕪村
★薄月夜花くちなしの匂いけり/正岡子規
★口なしの淋しう咲けり水のうへ/松岡青蘿
★山梔子(くちなし)や築地の崩れ咲きかくし/堀麦水
★くちなしの香に夕闇を濃く沈め/武藤あい子
★くちなしの咲き乱れる家にいて/巽三千世
どこからか梔子の花の匂いがする。どこだろうかと、あたりを探すと、ああここかとすぐ見つかるのだが、その木が意外と小さかったり、大きかったり、花が八重だったり、一重だったりする。沈丁花とはまた違う、金木犀とも違う、よく匂う花である。一枝部屋に挿すと、梅雨じめりの中で疲れるほどよく匂う。
梔子には八重と一重があるが、子どものころ生家の庭にあったのは一重であった。風車のような白いの花は、日にちが経つと黄色みを帯びてくる。花が終わると、いつか実を付けている。私はこういった花の傍でいつも遊んだ。どの花も実になるのかと思うほど沢山つく。八重の花は、高貴な人の純白のドレスの布のようだと思う。小さい薔薇のコサージュように咲く。
★梔子の匂いてくれば振り返る/高橋正子
クチナシ(梔子、巵子、支子、学名:Gardenia jasminoides)は、アカネ科クチナシ属の常緑低木である。野生では森林の低木として自生するが、むしろ園芸用として栽培されることが多い。果実が漢方薬の原料(山梔子)となることをはじめ、様々な利用がある。樹高1-3 mほどの低木。葉は対生で、時に三輪生となり、長楕円形、時にやや倒卵形を帯び、長さ5-12 cm、表面に強いつやがある。筒状の托葉をもつ。花期は6-7月で、葉腋から短い柄を出し、一個ずつ花を咲かせる。花弁は基部が筒状で先は大きく6弁に分かれ、開花当初は白色だが、徐々に黄色に変わっていく。花には強い芳香があり、学名の種名「jasminoides」は「ジャスミンのような」という意味がある。10-11月ごろに赤黄色の果実をつける。果実の先端に萼片のなごりが6本、針状についていることが特徴である。また側面にははっきりした稜が突き出る。東アジア(中国、台湾、インドシナ半島等)に広く分布し、日本では本州の静岡県以西、四国、九州、南西諸島の森林に自生する。八潮市、湖西市および橿原市の市の花である。
◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

●川名ますみ
堂々と咲きのぼるいろ立葵★★★
獣医へと大きな額の花曲がり★★★
獣医へと曲がりし角に額の花★★★
●河野啓一
梅雨の慈雨待ちかね草木も吾も共に★★★
梅雨空に友の平癒を祈るかな★★★
父の日に欲しきものはと問わるれば★★★
●小口泰與
白ばらのほのかに紅のさしにけり★★★
若竹や洋弓の腕あがりたり★★★
梔子の花や華箋の色褪せし★★★
●祝恵子
目の慣れて生まれし目高の数を追う★★★★
目高の子は小さく透き通っているので、目を凝らして見る。しばらく目高のいる水を見て目が慣れてようやく目高の子が見つかる。見つかれば、5匹、6匹と目に見え、その数が増えるのだ。(高橋正子)
またわき芽トマトの青き香り取る★★★
新じゃがの堀あげしまま日に置かれ★★★
●小川和子
声透る夏うぐいすに森深し★★★★
森深く入ると、夏うぐいすも、森の深さに比例するかのように声が澄んでくる。鶯の声のよさは、夏うぐいすが一番であろう。(高橋正子)
万緑の中や白雲映す沼★★★
青葉光降りくる山路湿りたる★★★
●桑本栄太郎
愛おしく行李に仕舞う更衣★★★
辻褄の合わぬ夢見し昼寝覚★★★
山影の黒く彼方や梅雨夕焼★★★
●多田有花
【原句】夏至近くことに眩しき朝の日は
【正子添削】夏至近くことに眩しく朝の日は★★★★
夏燕飛ぶ軽やかに水の上★★★
夏の海青し浮かべる船白し★★★
●佃 康水
匂い立つ実梅に一日梅仕事★★★
味見して合点の煮梅娘へ送る★★★
河骨のすっくと立ちて池明り★★★
●高橋秀之
夏空に遠く突き出す山と山★★★
雨上がり並んでヨット出航す★★★
展望塔前に広がる夏の山★★★
●小西 宏
朝濡らせし雨の涼しき木陰道★★★
一筋に伸び語り合う立葵★★★
紫陽花に光残せる夕日影★★★
★松葉牡丹のその色明るし子が摘みぬ 正子
夏らしい明るい色の松葉牡丹と、その花を楽しげに摘む子供の姿が爽やかに描かれていて、読む者の心も華やぎます。(小西 宏)
○今日の俳句
手のひらに蛍あかるき少女かな/小西 宏
手のひらの蛍にほっと照らされた少女の顔が浮かぶ。少女と蛍をさらりとした抒情でうまく詠んでいる。(高橋正子)
○玫瑰(はまなす)

[玫瑰/横浜・港の見える丘公園]
★玫瑰の丘を後にし旅つづく/高浜虚子
★玫瑰や今も沖には未来あり/中村草田男
★搾乳婦来て玫瑰にひざまづく/堀口星眠
★はまなすや裏口に立つ見知らぬ子/中村苑子
★はまなすや人の泳がぬ北の海/橘 昌則
★はまなすや破船に露西亜文字のこり/原 柯城
★はまなすや親潮と知る海の色/及川 貞
はまなすと言えば、草田男の「玫瑰や今も沖には未来あり」がすぐに思い出される。はまなすは夏の花である。この句が詠まれた場所は、どこであろうか。調べたことはないが、足元に咲く薔薇色のはまなすの花に佇って沖を見ると、世の中が変わってきても、やはり、「未来」があると信じられる。沖の水平線とその空のあたりに未来があると思える。
その後「知床旅情」にも歌われた。森繁久弥や加藤登記子の歌声が耳に聞こえるが、遠く海を見ながら、遠くを思いつつ歌っている雰囲気だ。横浜の「港のみえる丘公園」内の薔薇園を外れたところに、玫瑰が咲いていた。園芸種であろうが、そこからも港の海が見える。自生の玫瑰を一度見てみたいと思っている。
★はまなすに躓く先に海がある/高橋正子
ハマナス(浜茄子、浜梨、玫瑰、学名:Rosa rugosa)は、バラ科バラ属の落葉低木。夏に赤い花(まれに白花)を咲かせる。根は染料などに、花はお茶などに、果実はローズヒップとして食用になる。皇太子徳仁親王妃雅子殿下のお印でもある。晩夏の季語。東アジアの温帯から冷帯にかけて分布する。日本では北海道に多く、南は茨城県、島根県まで分布する。主に海岸の砂地に自生する。1-1.5mに成長する低木。5-8月に開花し、8-10月に結実する。現在では浜に自生する野生のものは少なくなり、園芸用に品種改良されたものが育てられている。果実は、親指ほどの大きさで赤く、弱い甘みと酸味がある。芳香は乏しい。ビタミンCが豊富に含まれることから、健康茶などの健康食品として市販される。のど飴など菓子に配合されることも多いが、どういう理由によるものかその場合、緑色の色付けがされることが多い。中国茶には、花のつぼみを乾燥させてお茶として飲む玫瑰茶もある。「ハマナス」の名は、浜(海岸の砂地)に生え、果実がナシに似た形をしていることから「ハマナシ」という名が付けられ、それが訛ったものである。ナス(茄子)に由来するものではない。アイヌ語では果実をマウ(maw)、木の部分をマウニ(mawni)と呼ぶ。バラの一種であり、多くの品種が存在する。北米では観賞用に栽培される他、ニューイングランド地方沿岸に帰化している。イザヨイと呼ばれる園芸品種は八重化(雄蕊、雌蕊ともに花弁化)したものである。ノイバラとの自然交雑種にコハマナスがある。このほかシロバナハマナス、ヤエハマナス、シロバナヤエハマナスなどの品種がある。バラの品種改良に使用された原種の一つで、ハマナスを交配の親に使用した品種群を「ルゴザ系」と謂う。
◇生活する花たち「蛍袋・時計草・紫陽花」(横浜日吉本町)

●小口泰與
繍線菊や日光寺社の遥かなり★★★
雨に雨百日紅咲く朝かな★★★
彼方から来しか水田に通し鴨★★★
●迫田和代
【原句】葉桜の土手道のみどり冴えわたり
【正子添削】葉桜の土手のみどりの冴えわたり★★★
楚々として句集を渡す衣更え★★★
故郷を心に偲び粽解く★★★
●小川和子
金の蘂かがやき未央柳群れ★★★
天に向き合歓の花咲く里の夕★★★
紅々と花を点して合歓やさし★★★
●多田有花
虎尾草や岩攀じ登る男あり★★★★
虎尾草が咲いている岩であるが、攀じ登る男性がいる。ロッククライミングの練習か。何かをとろうとしているのだ。離れて見れば、面白い光景だ。(高橋正子)
六月の夕暮れ藍色長く引く★★★
よく眠り目覚めて静か梅雨の雨★★★
●桑本栄太郎
喜雨来れば窓開け放ち聞きにけり★★★
雨だれの音にまどろむ昼寝かな★★★
夕涼や鳥鳴き風の雨上がる★★★
●河野啓一
釣り上げし魚万緑の中に跳ね★★★★
渓流釣りであろうか。釣り上げた魚がぴちぴち跳ねる。万緑の中なればこそ、いっそう生き生きとしてくる。(高橋正子)
夕凪の瀬戸の浜辺や烏賊焼く煙★★★
釣鐘草やっと咲きたる濃むらさき★★★
●佃 康水
流鏑馬の先触れ受けて菖蒲葺く★★★
平らかな生垣蜘蛛の囲の数多★★★
雨の輪の光溢れる植田かな★★★
●小西 宏
梅雨晴の空は広場の真ん中に★★★★
空が広場の真ん中にあるという着目に驚かされる。雨があがったばかりで、広場に人はいないのかもしれない。たしかに青空は、広場の真ん中に堂々とあるのだ。(高橋正子)
梅雨晴の里山遠く緑眩し★★★
梅雨晴れ間今日一日の暮れゆける★★★