★たっぷりと雲湧く台風過ぎしより 正子
台風が去り、また青空が戻ってきた。夏の名残の力強くかがやく雲を伴って。(小西 宏)
○今日の俳句
露ころぶキャベツ外葉の濃き緑/小西 宏
キャベツの濃い緑の外葉にころがる露に、力がある。丸く、収れんした露の力と輝きは秋の朝のすがすがしさ。(高橋正子)
○あざみ
[野薊/横浜・四季の森公園] [野薊/群馬・尾瀬ヶ原]
★野薊の野に散らばりて自由得し/高橋信之
★野あざみの棘に刺さるは秋さびし/高橋正子
野あざみは、春の季語だが、まれに10月まで咲いているものもあり、この句は、そういった「野あざみ」を詠んだ。下五の「秋さびし」が効いた。作者の主情がいい。(高橋信之)
ノアザミ(野薊、学名: Cirsium japonicum)はキク科アザミ属の多年草。茎の高さは0.5-1mになる。葉は羽状に中裂し、縁にとげがある。茎葉の基部は茎を抱く。花期にも根生葉は残っている。花期は5-8月で、アザミ属の中では春咲きの特徴をもつが、まれに10月まで咲いているものも見られる。花(頭状花序)は筒状花のみで構成されており、直径は4-5cm。花の色は紫色であるが、まれに白色のものもある。花を刺激すると花粉が出てくる。総苞はよく粘る。アザミ属は、分布域が比較的広いものと極端に狭い地域固有種がある。ノアザミの分布域は広く、日本の本州、四国、九州の草原や河川敷に見られ、アジア大陸にも変種が分布する。
◇生活する花たち「桔梗・風船かずら・芹の花」(横浜都筑区ふじやとの道)

●下地鉄
冷めやらぬ朝の涼気に秋を知る★★★
梯梧落ち萎む姿の晩夏かな★★★
日に数度厠通いで夏を了え★★★
●小口泰與
よちよちと紺の法被の踊かな★★★
踊の輪おなじしぐさの双子かな★★★
桐一葉落ちてしじまを深くせり★★★
●古田敬二
秋の夜のお酒の早く減ることよ★★★
木曽駒ケ岳(きそこま)から流れて白し秋の水★★★★
関所跡
くぐり門通る朝風涼しけり★★★
●桑本栄太郎
ひるがえる木々の葉裏や野分吹く★★ ★
軽やかな雲の高さよ野分晴れ★★★★
野分が過ぎ去ったあと、爽やかさも一度に押し寄せる。雲も高く軽やかに浮いて爽涼の気を楽しんでいる。(高橋正子)
外に出でて子等の遊びや野分晴れ★★★
●黒谷光子
葛の花竹一本を巻き昇る★★★★
歩数計捗らぬ日の秋暑し★★★
蜻蛉の過ぎる一瞬目の高さ★★★
●多田有花
秋涼の山路を軽く走りけり★★★
山仰ぐそのうえにあり鱗雲★★★★
山を仰ぐ。その視線を伸ばすと鰯雲が行儀よくならんでいる。まさに秋なのだ。(高橋正子)
虫の音に包まれ夕餉の箸をとる★★★
●高橋秀之
路地裏に漂う香り焼き茄子★★★
出張日夜明けに朝顔ひとつ咲く★★★★
法師蝉木々の向こうに法師蝉★★★
★揺れもせず夕日当れる青稲穂 正子
田園風景を思い浮かべています。夕日に稲田の青が風もなく、揺れもせず、広がっています。懐かしい風景です。(祝恵子)
○今日の俳句
畑の井戸囲んでおりぬ稲の花/祝恵子
畑の井戸は旱のときの灌漑用であろう。旱の続きの猛暑の夏も終わり、無事稲が花をつけている。いよいよ、稲は実をつけ、熟れよて実りのときを迎えるのだ。(高橋正子)
○このところ、竜巻だの雷雨だのとひどい天気が続いている。4日水曜日に北八朔・センター北へ出かけた。電車に乗る時は激しい雨。20分ほど乗ると雨はあがった。川和町の駅近くで草花の写真を撮る。コムラサキ、鶏頭、数珠玉、へくそかずらの花など。また雨が降るといけないので、センター北へ引き返す。本屋アカディミアに立ち寄る。「風姿花伝・三道」(世阿弥/角川ソフィア)と「心より心に伝ふる花」(観世寿夫/角川ソフィア)を買う。本屋から出てすぐ近くのJA横浜の産直売り場へ行く。産直であるが、正直決して安いとは言えない。しかし珍しいものがあるのが魅力だ。山の芋、生ピーナツ、甘長ししとう、すだち、むかごを買った。これで2000円。山の芋は、千六本にしたものとすりおろしたものを海苔で巻いて揚げた。ピーナツは塩ゆで。山芋は大変おいしい。次は水菜とサラダにしてみよう。むかごはむかご飯に。夕食はまさに秋の献立となった。
むかご飯一気に秋の深みたり/高橋正子
山芋を肩に掛けもつ電車内/高橋正子
○烏瓜の花

[烏瓜の凋んだ花/横浜日吉本町] [烏瓜の花/ネットより]
★ふはふはと泡かと咲けり烏瓜/松本たかし
★烏瓜咲く一穢なき妖しさに/水原春郎
★烏瓜の花におどろく通夜帰り/松崎鉄之介
★烏瓜の花に逢はせむ話など/宮津昭彦
★去るものは去らして烏瓜の花/神蔵器
★雨音の明るし烏瓜の花/下田恭子
★青々と暮れて烏瓜の花/北畠明子
★烏瓜の花咲き誰もゐない駅/藤井英子
★夜の闇の深くてからすうりの花/中村洋子
★蔓切れてはね上りたる烏瓜/高浜虚子
烏瓜の朱色の実を見つけると、手繰り寄せて採りたくなる。蔓は雑木などに絡まっているので、蔓をひっぱっても、易々と手元には来ない。蔓が切れて、引っ張った力の反動で「はね上がる」。「はね上がる」が面白い。はね上がった実が揺れ、悔しがるものが居る。(高橋正子)
★烏瓜映る水あり藪の中/松本たかし
★をどりつつたぐられて来る烏瓜/下村梅子
烏瓜の花はレースのようであるとは、知っていた。朱色の実が思わぬところに熟れているのをよく見けるが、実の生る前に花があることを思うことはなかった。ところが、8月の終わりだったか、信之先生が早朝の散歩で、烏瓜の花の凋んだところを写真に撮ってきた。烏瓜の花とは思うが、確かとは言えないので、ネットで烏瓜の花の写真をいろいろと見て、間違いないだろうと結論づけた。烏瓜の花は夕方6時半ごろから2時間ほどかけて完全に咲くので、咲いたところを見たくなった。レースのような花なので見たくてたまらない。夜なので、一人は危ない。また危ないところに烏瓜がある。翌晩にでも行きたかったが、いろいろ用事があってすぐ行けない。5日ほどたって花があった場所に二人で懐中電灯をもって出かけた。それらしきを写したが、どうも新しい葉のようだった。昼間蕾を確かめておかねばならなかった。ここ日吉本町辺りは、今年は花の時期は過ぎたかもしれない。
★闇暑し烏瓜の花はどこ/高橋正子
★烏瓜の花の凋みしは悔し/〃
カラスウリ(烏瓜、Trichosanthes cucumeroides)はウリ科の植物で、つる性の多年草。朱色の果実と、夜間だけ開く花で知られる。 地下には塊根を有する。原産地は中国・日本で、日本では本州・四国・九州に自生する。林や藪の草木にからみついて成長する。葉はハート型で表面は短い毛で覆われる。雌雄異株で、ひとつの株には雄花か雌花かのいずれかのみがつく。別名:玉章(たまずさ)・ツチウリ・キツネノマクラ・ヤマウリ。
4月~6月にかけて塊根から発芽、あるいは実生する。花期は夏で、7月~9月にかけての日没後から開花する。雄花の花芽は一ヶ所から複数つき、数日間連続して開花する。対して雌花の花芽は、おおむね単独でつくが、固体によっては複数つく場合もある。花弁は白色で主に5弁(4弁、6弁もある)で、やや後部に反り返り、縁部が無数の白く細いひも状になって伸び、直径7~10cm程度の網あるいはレース状に広がる。花は翌朝、日の出前には萎む。 こうした目立つ花になった理由は、受粉のため夜行性のガを引き寄せるためであると考えられており、ポリネーターは大型のスズメガである。カラスウリの花筒は非常に長く、スズメガ級の長い口吻を持ったガでなければ花の奥の蜜には到達することはできず、結果として送粉できないためである。雌花の咲く雌株にのみ果実をつける。
果実は直径5~7cmの卵型形状で、形状は楕円形や丸いものなど様々。熟する前は縦の線が通った緑色をしており光沢がある。10月から11月末に熟し、オレンジ色ないし朱色になり、冬に枯れたつるにぶらさがった姿がポツンと目立つ。鮮やかな色の薄い果皮を破ると、内部には胎座由来の黄色の果肉にくるまれた、カマキリの頭部に似た特異な形状をした黒褐色の種子がある。この果肉はヒトの舌には舐めると一瞬甘みを感じるものの非常に苦く、人間の食用には適さない。鳥がこの果肉を摂食し、同時に種子を飲み込んで運ぶ場合もある。しかし名前と異なり、特にカラスの好物という観察例はほとんどない。地下にはデンプンやタンパク質をふんだんに含んだ芋状の塊根が発達しており、これで越冬する。夏の間に延びた地上の蔓は、秋になると地面に向かって延び、先端が地表に触れるとそこから根を出し、ここにも新しい塊根を形成して栄養繁殖を行う。
開花後落花した雄花にはミバエ科のハエであるミスジミバエ Zeugodacus scutellatus (Hendel, 1912) の雌が飛来し、産卵する。落花した雄花はミバエの幼虫1個体を養うだけの食物量でしかないが、ミスジミバエの1齢幼虫の口鉤(こうこう:ハエの幼虫独特の口器で、大顎の変化した1対の鉤状の器官)は非常に鋭く発達しており、他の雌が産みつけた卵から孵化した1齢幼虫と争って口鉤で刺し殺し、餌を独占する。
種子はその形から打ち出の小槌にも喩えられる。そのため財布に入れて携帯すると富みに通じる縁起物として扱われることもある。かつては、しもやけの薬として実から取れるエキスが使用された。 若い実は漬物にするほか、中身を取り出し穴をあけてランタンにする遊びに使われる。近年ではインテリアなどの用途として栽培もされており、一部ではカラスウリの雌雄両株を出荷する農園も存在する。
◇生活する花たち「葛の花①・葛の花②・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

●小口泰與
ひぐらしの鳴き終わりたるしじまかな★★★
雨降りてことに朝顔終の花★★★
そば咲くや板張りホーム無人駅★★★★
●下地鉄
里山の地を這い飛ぶや初とんぼ★★★
ようやく見かけるようになったとんぼ。初とんぼは軽やかに空を飛ぶに至らず、地面近くを飛んでいる。身近に初とんぼを見たうれしさ。(高橋正子)
新聞紙吹かれる音の涼気かな★★★
蕎麦の花伸びれば覗く空の数★★★
●古田敬二
天狗茄子大きく実り地に届く★★★★
立秋の朝の空気に目覚めけり★★★
コオロギが飛びこむ朝の野菜籠★★★
●桑本栄太郎
風吹けば野辺の明かりや女郎花★★★
うそ寒や肩にレースのバスの客★★★
雨雲のにぶき茜や秋入日★★★
●多田有花
濁流を背後に秋の蝉の鳴く★★★
播磨灘沖ははるかに野分晴れ★★★★
ことごとく朽木倒れて野分あと★★★
●小西 宏
ひぐらしの杜を背に聞く西の雲★★★
猛き雲去りし夜の虫はげしく聞く★★★
道産の玉蜀黍の白甘し★★★
●佃 康水
秋耕や末成り瓜を巻き込みて★★★
葛咲いて名札を貰う薬草園★★★
久々に晴れて媼は大根撒く★★★
●黒谷光子
木より降り土より湧きて虫の声★★★★
虫の声が木から降ることを、私は横浜に来て初めて経験したが、作者のところもそうである。草むらの底の土から、こんもり茂った木から虫の音が聞こえる。力強い虫音の世界。(高橋正子)
虫の音に囲まれている夜の居間★★★
鈴なりの熟れて落つのみ棗の実★★★
★娘の秋扇たたまれ青き色の見ゆ 正子
お嬢様とご一緒された時、机の上にたたまれた秋扇子をご覧になられているのでしょう。「娘の秋扇」から母親の優しい眼差しが伝ってきます。また「たたまれ」にお嬢さまの静かな佇まいが見えそして「青き色」に若さと爽やかな雰囲気が漂って来ます。畳まれて見えている青は何の絵柄だろう?と想像が拡がります。 (佃 康水)
○今日の俳句
韮の花浸す野川の音澄むへ/佃 康水
韮の花は新涼の季節に先駆けて咲く。摘んだ韮の花は野川に浸すと涼やかな花となる。「澄む」は写生であっても作者の深い内面が出る。(高橋正子)
○射干、檜扇(ヒオウギ)

[射干(ヒオウギ)/東京・向島百花園]
○射干、檜扇(ヒオウギ)
[射干(ヒオウギ)/東京・向島百花園]
★射干のまはりびつしより水打つて/波多野爽波
★水打つて射干の起ち上がるあり/波多野爽波
★射干の前をときどき笑ひ過ぐ/岡井省二
★射干の咲く川岸に風立ちぬ/當麻幸子
★射干や海に出る道石多し/鈴木多枝子
★満願の朝や射干実をはじく/飯田はるみ
★仏谷出て射干の朱にまみゆ/淵脇護
★射干や人欺かず蔑まず/小澤克己
★射干や薪積む軒の深庇/生田喬也
檜扇の花の印象はとてもクラッシックだということ。朱色の花は貴族階級の女の子のような雰囲気だ。栽培しているものも最近ではめったに見ることがなくなった。向島百花園でかろうじて咲き残るのを見たくらいだ。昭和30年ぐらいまでだろうか。夏休みの八月の庭に植えてあるのを見たことがある。そのずっと後、生け花に活けたのを床の間で拝見することもあった。葉が檜扇のようなのでこの名前がついているのだが、檜扇の連想からいつも古典的な花と思う。手書きの生花の本のような。
★檜扇を活けし鋏がまだそこに/高橋正子
★檜扇の花を揚羽が飛びゆけり/高橋正子
ヒオウギ(檜扇、学名:Iris domestica)はアヤメ科アヤメ属の多年草である。従来はヒオウギ属(Belamcanda)に属するとされ、B. chinensisの学名を与えられていたが、2005年になって分子生物学によるDNA解析の結果からアヤメ属に編入され、現在の学名となった。ヒオウギは山野の草地や海岸に自生する多年草である。高さ60 – 120センチ・メートル程度。名前が示すように葉は長く扇状に広がる。花は8月ごろ咲き、直径5 – 6センチ・メートル程度。花被片はオレンジ色で赤い斑点があり放射状に開く。午前中に咲き夕方にはしぼむ一日花である。種子は5ミリ・メートル程度で黒く艶がある。本州・四国・九州に分布する。花が美しいためしばしば栽培され、生花店でも販売される。特に京都では祇園祭に欠かせない花として愛好されている。黒い種子は俗に「ぬば玉」と呼ばれ、和歌では「黒」や「夜」にかかる枕詞としても知られる。
◇生活する花たち「犬蓼・吾亦紅・チカラシバ」(横浜下田町・松の川緑道)

●小口泰與
指先を包む冷気の初秋かな★★★
湖風に乗りくる香り藤袴★★★
龍之介の愛でし赤城や秋気澄む★★★
●多田有花
秋の雨まだ降り飽きず降り続く★★★
ひやひやと昼の雷雨を聞いている★★★
轟いて泥水流る野分あと★★★
●桑本栄太郎
雲切れて雨の九月の青空に★★★
水滴の光りつぶらや葛の花★★★
秋雨の降るや彼方に青空も★★★★
●小西 宏
病院の玄関に待つゴーヤ棚★★★
とんぼうの列なして行く空かろし★★★★
とんぼうが列を作って飛んでゆく楽しい空となった。すいすいと飛んでゆくとんぼうに空まで軽くなった感じだ。(高橋正子)
虫の音のビルの暗きに星見上ぐ★★★
●古田敬二
木曽福島宿
露載せて草茂りいる番所跡★★★
初秋の丸き木漏れ日歩きけり★★★★
「夜明け前」の筆跡古び秋の宿★★★
★朝は深し露草の青が育ち 正子
暑熱が去り、日毎に咲き増える露草の鮮やかな青が目にしみ、涼やかな気持ちになれます。露草の朝の清々しさに、迅速に秋の気配が深まる思いがいたします。(藤田洋子)
○今日の俳句
皿洗う秋夜の白と白重ね/藤田洋子
家族の明るい生活から生まれた佳句が多い。日々の生活に詩を見つけ、それを句にしている。(高橋正子)
○野菊
[野菊/横浜・四季の森公園] [野菊/横浜市港北区松の川緑道]
★撫子の暑さ忘るる野菊かな 芭蕉
★名もしらぬ小草花咲く野菊かな 素堂
★重箱に花なき時の野菊哉 其角
★朝見えて痩たる岸の野菊哉 支考
★なつかしきしをにがもとの野菊哉 蕪村
★足元に日のおちかかる野菊かな 一茶
★湯壷から首丈出せば野菊かな 夏目漱石
★蝶々のおどろき発つや野菊の香 前田普羅
★頂上や殊に野菊の吹かれをり 原石鼎
★かがみ折る野菊つゆけし都府楼址 杉田久女
横浜日吉・慶大グランド
★サッカーの練習熱帯ぶ野菊咲き/高橋正子
横浜市港北区の東急日吉駅の近くから下田町の街並みに添って「松の川緑道」がある。慶大グランドを抜けて行く緑道だ。句美子が慶大の学生時代にここで体育の授業を受けた。せせらぎに添う緑道には、水引、犬蓼、溝蕎麦、野菊などが自由に育ち、無理のない空間を作っている。緑道散策の途中、サッカーの練習風景を見るのも楽しい。ときにはグランドの学生が網の塀越しに挨拶ををしてくれる。大学教授退官の身であれば、昔を懐かしく思い出す。野菊も昔懐かしい秋の野草である。可憐だが、逞しい路傍の野草である。(高橋信之)
野菊(のぎく)とは、野生の菊のことである。よく似た多くの種があり、地域によってもさまざまな種がある。一般に栽培されている菊は、和名をキク(キク科キク属 Dendranthema grandiflorum (Ramatuelle) Kitam.)と言い、野生のものは存在せず、中国で作出されたものが伝来したと考えられている。したがって、菊の野生種というものはない。しかしながら、日本にはキクに似た花を咲かせるものは多数あり、野菊というのはそのような植物の総称として使われている。辞典などにはヨメナの別称と記している場合もあるが、植物図鑑等ではノギクをヨメナの別名とは見なしていない。現在では最も身近に見られる野菊のひとつがヨメナであるが、近似種と区別するのは簡単ではなく、一般には複数種が混同されている。キク科の植物は日本に約350種の野生種があり、帰化種、栽培種も多い。多くのものが何々ギクの名を持ち、その中で菊らしく見えるものもかなりの属にわたって存在する。
野菊は、野生の植物でキクに見えるもののことである。キクはキク科の植物であるが、この類の花には大きな特徴がある。菊の花と一般に言われているものは、実際には多数の小さい花の集合体であり、これを頭状花序と言う。頭状花序を構成する花には大きく2つの形があり、1つはサジ型に1枚の花弁が発達する舌状花、もう1つは花弁が小さく5つに割れる管状花である。キクの花の場合、外側にはサジ型の舌状花が並び、内側には黄色い管状花が密生するのが基本であるが、栽培種には形の変わったものもある。このような特徴のキク科植物は、非常に多い。ガーベラやヒマワリ、コスモスもそうである。しかしこれらの花が野生で存在しても野菊とは呼ばない。草の形で言えば、ヒマワリは大きすぎる。タンポポやガーベラのような、根出葉がロゼット状にあり、茎には葉がないものもそれらしく見えない。したがって、あまり背が高くならず、茎に葉がついた姿のものに限られる。また、アキノキリンソウのように頭花が小さいものもそれらしく見えない。さらに、菊と言えば秋の花であるから、秋に咲くものをこう呼ぶことが多い。
一般に野菊と呼ばれるのは以下のようなものと思われる。キク属 Dendranthema キクと同属のものは日本に15種ばかりある。舌状花を持たない菊らしくない花もあるが、多くは野菊と言えるものである。株立ちになり、茎は立ち、あるいは斜めに伸び、葉を互生する。葉は丸みのある概形で、大きな鋸歯があったり、やや深く裂けるものが多い。どれも管状花は黄色、舌状花は白のものと黄色のものがある。 代表的なのは山野に生えるものでは白い花のリュウノウギク D. japonicum、黄色い花のシマカンギク D. indicum 、キクタニギク D. boleare 、海岸に生える白い花のノジギク D. occidentali-japonense 、コハマギク D. arcticum subsp. maekawanum などがあるが、特に最初の二つが標準的な野菊らしいものである。この属のものはキクと同属なだけに、菊らしいものが多いが、イソギク D. pacificum など、舌状花のない花をつけるものもある。さらに、種間の雑種も知られるのでややこしい。
◇生活する花たち「藻の花・萩・藪蘭」(鎌倉・宝戒寺)

●小口泰與
かげろうに瀞の魚の夕まずめ★★★
きちこうや山の紫紺と湖の紺★★★
ひぐらしや同胞(はらから)集う大広間★★★
●桑本栄太郎
追い越して秋の野を往く新幹線★★★
秋雷の降るとも見えず曇りけり★★★
秋驟雨わが家の上の空だけに★★★
●多田有花
迷い込みし蝶逃がしやる秋の朝★★★
川に水重々しかり秋黴雨★★★
秋雨の時おり激し夜に入る★★★
●古田敬二
輝けり木曽の棚田に夕日射す★★★
露地奥に揺れるコスモス宿場町★★★
葛の花旧国道の壁に咲く★★★
●高橋秀之
長雨の途切れし空に秋夕焼け★★★
食卓に弁当ふたつ休暇明け★★★★
休暇が明け、今日からは、いつもの秩序で学校や業務が始まる。弁当が二つ、きりりと包
まれて食卓に置かれて、気分もあらたに出発である。(高橋正子)
軒先に雀の鳴き声秋の朝★★★
★草は花を娘の誕生日の空の下 正子
句美子さんのお誕生日は9月3日。おめでとうございます。「花冠」誕生の二日後のことで、信之先生が「女児誕生白萩の白咲ける日に」と詠んでおられます。(多田有花)
○今日の俳句
日々すべきことをなしつつ新涼に/多田有花
作者が、モンブランへ発つ直前の句であるから、その準備のための、「日々すべきこと」であろう。用意周到な計画と準備があって、初めて登頂は成功する。日々成し終えていく内に、季節も新涼へと移り変わっていった感慨がおおきい。(高橋正子)
○秋桜(コスモス)

[秋桜/横浜・四季の森公園]
★コスモスの花に蚊帳乾す田家かな 鬼城
★日曜の空とコスモスと晴れにけり 万太郎
★コスモスの相搏つ影や壁の午後 泊雲
★コスモスや二戸相倚れる柿葺 青畝
★コスモスの花咲きしなひ立もどり 虚子
★コスモスや墓名に彫りし愛の文字 風生
★コスモスを離れし蝶に谿深し 秋櫻子
★コスモスの乱れふし居り月の下 石鼎
★コスモスにみんな薄翅を立てし虫 かな女
★コスモスをうまごに折りて我も愉し 亞浪
★コスモスくらし雲の中ゆく月の暈 久女
★コスモスの月夜月光に消ゆる花も 青邨
★コスモスの花のとびとび葭の中 素十
★コスモスに藍濃き衣を好み著る 鷹女
★コスモスや鐵條網に雨が降る 汀女
★望郷や土塀コスモス咲き乱れ 立子
★満月光地上に高きコスモスに/高橋正子
★裏庭にコスモス咲かす自由さあり/〃
コスモス(英語: Cosmos、学名:Cosmos)は、キク科コスモス属の総称。また、種としてのオオハルシャギク Cosmos bipinnatus を指す場合もある。アキザクラ(秋桜)とも言う。秋に桃色・白・赤などの花を咲かせる。花は本来一重咲きだが、舌状花が丸まったものや、八重咲きなどの品種が作り出されている。本来は短日植物だが、6月から咲く早生品種もある。原産地はメキシコの高原地帯。18世紀末にスペインマドリードの植物園に送られ、コスモスと名づけられた。日本には明治20年頃に渡来したと言われる。秋の季語としても用いられる。日当たりと水はけが良ければ、やせた土地でもよく生育する。景観植物としての利用例が多く、河原や休耕田、スキー場などに植えられたコスモスの花畑が観光資源として活用されている。ただし、河川敷の様な野外へ外来種を植栽するのは在来の自然植生の攪乱であり、一種の自然破壊であるとの批判がある。
オオハルシャギク Cosmos bipinnatus Cav. 一般的なコスモスといえばこれを指す。高さ1 – 2m、茎は太く、葉は細かく切れ込む。 キバナコスモス Cosmos sulphureus Cav. 大正時代に渡来。オオハルシャギクに比べて暑さに強い。花は黄色・オレンジが中心。 チョコレートコスモス Cosmos atrosanguineus (Hook.) Voss 大正時代に渡来。黒紫色の花を付け、チョコレートの香りがする。多年草で、耐寒性がある。花言葉は少女の純真、真心。「コスモス」とはラテン語で星座の世界=秩序をもつ完結した世界体系としての宇宙の事である。
◇生活する花たち「あさざ・露草・うばゆり」(東京白金台・自然教育園)

●小口泰與
見え揃う稲穂の垂れし朝かな★★★
吹き降りに朝顔の蔓乱舞かな★★★
湯の町のとっぷり暮れて酔芙蓉★★★
●古田敬二
鍬の柄に憩えば足元ちちろ鳴く★★★
秋灯に三日まとめて書く日記★★★
茄子胡瓜袋に凸凹畦を踏む★★★★
茄子や胡瓜を収穫して袋に詰め、足元も危うい凸凹の畦道を踏んでもどってくる。いかにも手作りの茄子や胡瓜である。(高橋正子)
●桑本栄太郎
秋雷を屋根に聞ききつつ讃美せり★
小説の筋を追い居る秋夜かな★★★
雨音に目覚め窓閉む夜半の秋★★★