●小口泰與
指先を包む冷気の初秋かな★★★
湖風に乗りくる香り藤袴★★★
龍之介の愛でし赤城や秋気澄む★★★
●多田有花
秋の雨まだ降り飽きず降り続く★★★
ひやひやと昼の雷雨を聞いている★★★
轟いて泥水流る野分あと★★★
●桑本栄太郎
雲切れて雨の九月の青空に★★★
水滴の光りつぶらや葛の花★★★
秋雨の降るや彼方に青空も★★★★
●小西 宏
病院の玄関に待つゴーヤ棚★★★
とんぼうの列なして行く空かろし★★★★
とんぼうが列を作って飛んでゆく楽しい空となった。すいすいと飛んでゆくとんぼうに空まで軽くなった感じだ。(高橋正子)
虫の音のビルの暗きに星見上ぐ★★★
●古田敬二
木曽福島宿
露載せて草茂りいる番所跡★★★
初秋の丸き木漏れ日歩きけり★★★★
「夜明け前」の筆跡古び秋の宿★★★
●小口泰與
かげろうに瀞の魚の夕まずめ★★★
きちこうや山の紫紺と湖の紺★★★
ひぐらしや同胞(はらから)集う大広間★★★
●桑本栄太郎
追い越して秋の野を往く新幹線★★★
秋雷の降るとも見えず曇りけり★★★
秋驟雨わが家の上の空だけに★★★
●多田有花
迷い込みし蝶逃がしやる秋の朝★★★
川に水重々しかり秋黴雨★★★
秋雨の時おり激し夜に入る★★★
●古田敬二
輝けり木曽の棚田に夕日射す★★★
露地奥に揺れるコスモス宿場町★★★
葛の花旧国道の壁に咲く★★★
●高橋秀之
長雨の途切れし空に秋夕焼け★★★
食卓に弁当ふたつ休暇明け★★★★
休暇が明け、今日からは、いつもの秩序で学校や業務が始まる。弁当が二つ、きりりと包
まれて食卓に置かれて、気分もあらたに出発である。(高橋正子)
軒先に雀の鳴き声秋の朝★★★
●小口泰與
見え揃う稲穂の垂れし朝かな★★★
吹き降りに朝顔の蔓乱舞かな★★★
湯の町のとっぷり暮れて酔芙蓉★★★
●古田敬二
鍬の柄に憩えば足元ちちろ鳴く★★★
秋灯に三日まとめて書く日記★★★
茄子胡瓜袋に凸凹畦を踏む★★★★
茄子や胡瓜を収穫して袋に詰め、足元も危うい凸凹の畦道を踏んでもどってくる。いかにも手作りの茄子や胡瓜である。(高橋正子)
●桑本栄太郎
秋雷を屋根に聞ききつつ讃美せり★
小説の筋を追い居る秋夜かな★★★
雨音に目覚め窓閉む夜半の秋★★★
●小口泰與
そばの花出そろう畑や日のやさし★★★★
白粉花や赤城は雲を纏いおり★★★
ふた心持ちて浄土や稲の花★★★
●桑本栄太郎
<京都市内、新京極にて映画>
秋澄むや新京極へ映画見に★★★
異国語の流れ案内秋の京★★★
秋涼の香のかおりや新京極★★★
●多田有花
雨あがり秋蝉静かに鳴き始む★★★
秋の田のところどころに稗つんつん★★★
色変えた葉から散り初む桜かな★★★
●下地鉄
潮騒に暮れいく浜の晩夏かな★★★
振り返れば病もいとし秋の風★★★
夏雲のゆたり過ぎ行く空の色★★★
●祝恵子
二学期が始まる頃よかくれんぼ★★★★
水泳や花火、それにお盆などでそれぞれに過ごした夏休みも終わると、子供は自然と集まって、かくれんぼをして楽しむ。思い出せば、かくれんぼは、秋から冬によくしていた。(高橋正子)
学習田秋の燕のまだ残る★★★
尼寺の庭に見つけて酔芙蓉★★★
●古田敬二
夜もすがら木曽川瀬音秋の宿★★★
窓の外雨降り始む木曽の秋★★★
秋の水澄んで白瀬の薄暮かな★★★
●小西 宏
、トンボ待つ小川の傍の半ズボン★★★★
舐め挙げて櫟の幹の秋西日★★★
ひぐらしの蟋蟀となる夕の風★★★
●高橋秀之
秋暑し神社の階段一歩ずつ★★★
横須賀に入港する艦秋暑し★★★
公園に三笠の船形秋日影★★★
●河野啓一
街道に沿うて九月の箕面山★★★
隣人のはや退院したる九月かな★★★
許されて歩行練習窓の秋★★★
許されて歩行訓練窓は秋★★★
深み行く秋空ひろきベッドかな★★★★
入院生活も長くなられ、猛暑の夏を越して秋になった。ベッドから眺める秋空がひろびろと、色深くなってきて、もの思う作者の心境が察せられる。(高橋正子)
温め酒恋しき頃の近づけり★★★
●黒谷光子
手をすすぐ小川の小石の光る秋★★★
訪う家の垣根に紅濃く秋の薔薇★★★
入相に声を限りの秋の蝉★★★
酢に和えてほのぼの紅差す芋茎かな★★★
ほんのりと膳の酢の物赤芋茎★★★
虫の音の四方八方門閉める★★★★
四方八方から聞こえてくる虫の音を惜しむように門を閉める。門の閉める行為で四方八方の虫の音が際立ってくる。(高橋正子)
秋茄子を採れば確かに実のしまる★★★
半分もあれば充分南瓜切る★★★
送り出て秋の夜風の心地よき★★★
登り行く左右ひろびろ大花野★★★★
山風にいよよ紅濃く吾亦紅★★★
伊吹嶺のすっくと秋の青空に★★★
●古田敬二
木曽の入る開きしばかりの花芒★★★★
木曽は、一足季節が先にきている。開いたばかりの芒の穂がみずみずしい。(高橋正子)
白樺にかすかに紅葉始まれり★★★
コスモスを揺らして通る長野行き★★★
父に母に願い事告げ墓洗う★★★
子や孫の幸を祈りて墓洗う★★★
戦死者の苔むす墓を洗う人★★★
※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。
8月31日
●小口泰與
赤城より冷気あまねし水澄めり★★★
高原の秋気くまなく浴びにけり★★★
鳴きあぐる別れ鴉や忠治塚★★★
●迫田和代
土手道の窪みを満たす吾亦紅★★★★
吾亦紅は河原などに見られるが、土手道の窪んだところに、思わぬほど咲いていた。「満たす」は予期せぬ驚きと嬉しさ。(高橋正子)
空も澄み緑豊かな秋の庭★★★
ささやかな音に驚くよなべかな★★★
●小西 宏
不揃いの背丈を風に猫じゃらし★★★★
猫じゃらしは、背丈に注目すれば、意外とく高低さまざまだ。それぞれが風に吹かれる様子は、趣がある。(高橋正子)
山裾までただ平らかに稲の秋★★★
渇水の小河内ダムの赤とんぼ★★★
●桑本栄太郎
ベランダの今朝もほど良き秋すだれ★★★
竹林の仰ぐ高さや秋の空★★★
八月の果てて西空曇り来る★★★
●多田有花
コンサートはね秋雨の街へ出る★★★
台風は低気圧へと八月尽★★★
傷に刃を当て傷物の梨をむく★★★★
傷物の梨を剥こうとすれば、まず傷をとってからが普通の行為だが、「傷に刃を当て」と言われると神経がピリッとする。リアルな句だ。(高橋正子)
8月30日
●祝恵子
稲の花故郷を向くさくら号★★★★
傘に入れ雨の木槿の揺れを止め★★★
秋の田に立ち止まる猫と目を合わす★★★
●小口泰與
単線の天涯に消ゆ尾花かな★★★
退けて赤城離るる秋の雲★★★
とんぼうへ人さし指をまわしけり★★★
●桑本栄太郎
苦瓜の小さく色づきベランダに★★★
南瓜煮る妻のレシピや湯呑み入れ★★★
カーテンの触れる夜風や虫の声★★★
●川名ますみ
秋澄みて橋の向こうの船までも★★★
秋風に洗濯物のやさしい色★★★★
一読、「やさしい色」に納得した。秋風に吹かれる洗濯物が、やわらく、色もやさしい。秋の日差し、風の具合のせいもあるだろう。(高橋正子)
西瓜切る音のさらさらリズミカル★★★
●佃 康水
屈み見て砂より淡き草の花★★★
巡り終えかくもとりどり草の花★★★
草の花それぞれ摘みて束にする★★★★
●小口泰與
暾(ひ)を宿す稲穂の波や群雀★★★
天そそる妙義の奇岩瓢かな★★★
とんぼうへ指を立てけり幼き日★★★★
そういえば、こんなこともしたなあと、思い出す。とんぼうは、田や畑の杭などによく止まっている。指だって棒や杭のようなもの。自然のなかで遊んだ幼い日のことだ。すなおな句がよい。(高橋正子)
●桑本栄太郎
うそ寒や二の腕抱き目覚めおり★★★
雲流れ容ながれて秋高し★★★★
真近なる嶺の蒼さよ秋気満つ★★★
●小西 宏
カーテンの白揺れ雲に秋の蝉★★★
団栗の艶が昨日と同じ道に★★★★
高くまで筋なす秋の茜雲★★★
●佃 康水
韮の花摘み休み田に匂い立つ★★★
韮の花浸す畔川音清ら★★★★
韮の花は、8月も終わり、新涼の9月を迎えるころ盛んに花を咲かせる。地味な花ながら白い可憐な花。清らかな水音を立てて流れる畦川に摘んだ花を浸すと生き生き涼やかになってくる。(高橋正子)
朝ぼらけの窓に溢るる鰯雲★★★