今日の秀句/2月8日~18日

[2月18日]
★走りつつ凧ふり返る大野原小西 宏
「凧揚げ」は新年の季語となっているが、単に「凧」と言えば春の季語。凧揚げは地方の行事でもあったので、地方行事として四月や五月に行うところも多い。そういった行事とは別に、遊びで、広い野原で凧の糸をもって走りつつ揚げると、凧は風に乗って、ぐんぐん糸を伸ばしてゆく。凧の上がり具合をふり返りながら走るのは、やはり小学生の中・高学年ぐらいであろう。凧揚げの少年を活写。(高橋正子)

[2月17日]
★菜の花や信濃川(しなの)の流れほんわかと/小口泰與
日本一長い信濃川。流域の雪解水を集めて延々と流れる。その雄大な信濃川も菜の花に彩られれば、ほんわかとやさしい流れに変わる。信濃川の水と菜の花の親和力が素晴らしい。(高橋正子)

[2月16日]
★春浅き笹薮にふと動くもの/小西 宏
春浅いころ笹薮を通りすがると、動くものがいることに気付く。小鳥であろう。雀か、鶯か。小さな音、小さな影に、カサカサと動くものを認めた。いかにも、早春の笹薮らしい。(高橋正子)

[2月15日]
★春きざす快晴の阿蘇正面に/多田有花
快晴の空の下で阿蘇と向き合う。その姿に対峙すれば、胸を張るような気分だ。阿蘇の草原らしき所に心なし緑が見える。自然の素晴らしさだ。(高橋正子)

[2月14日]
★白梅の花と香りと青い空/迫田和代
青空を背景に咲く白梅は、花の姿がくっきりと見え、清潔感があって、香りが気高い。それを表すように、句がシンプルなのがよい。「青空」と「白梅」の二つがあれば十分だ。(高橋正子)

★菜園の早やもときめき豆の花/桑本栄太郎
豆の花が咲くと「春はすでに」という気持ちになるものだ。菜園は冬野菜も終わりに近いが、豆の花が咲くと菜園はうきうきと、ときめいてくる。(高橋正子)

[2月13日]
★エンジン始動白波立てて春の旅/古田敬二
エンジンを始動させ、エンジン音も快調に海へ乗り出してゆく。春寒いころは、このエンジンの音がよく響き、船も白波を立てて軽やかに進んで行く。楽しい春の旅。(高橋正子)

[2月12日]
★日を浴びて雪合戦の砦跡/内山富佐子
雪合戦の踏みしだかれた砦の跡が、きらきらと日を浴びている。存分に戦った雪合戦の跡が明るくて、子どもたちへのあたたかい眼差しが読み取れる。(高橋正子)

★雲雀野を些事に憂いて行き過ぎし/福田ひろし
空からは雲雀の声がほがらかに降ってくる野だというのに、些細なことに気が病んで、それを心底楽しむことができないで行き過ぎた。世の中些事に、心は常に動いて揺れる。それにしても、雲雀野の明るいことよ。(高橋正子)

[2月11日]
★礼拝を終えて隣家の梅見かな/桑本栄太郎
礼拝を終え、さやかな気持ちで隣家の梅の花を楽しむ。遠出の梅見でなはく、日常生活のなかでの梅見に、梅により親しい気持ちが寄せられている。(高橋正子)

★蕗の薹摘み採る土の温さかな/佃 康水
蕗の薹を摘み採るとき土に触れた手が、思わず土の温かさを感じ取った。日当たりのよいところに出た蕗の薹であろう。この柔らかな日が蕗の薹を育てたと思える。(高橋正子)

[2月10日]
★早春の朝日鉢花いきいきと/河野啓一
鉢植えの花に朝日が刺すと、花は一度に輝く。早春の朝日となれば、空気は冷たくても、光の明るさは増して人の気持ちまで明るくしてくれる。花々の表情が見えるようだ。(高橋正子)

★おはようの声も大きく今日受験/高橋秀之
子どもの受験には、親は子ども以上に心配かもしれない。受験の日、元気よく「おはよう」の声が聞けたことは、体調もよくて、緊張しすぎていないと、安心だ。よい結果が待っているのは確か。(高橋正子)

[2月9日]
★二月来る庭の光りの濃くなりぬ/古田敬二
二月は暦の上だは春。気温が低いけれど、日の光は真冬よりも明るく強くなって「春」を真っ先に思わせてくれる。「光の濃さ」が思われる。この句の問題は、「二月来る」と「濃くなりぬ」と一句に切れが2か所にあること。これは解消していただきたい。(高橋正子)

★残雪の凹凸に影松林/川名ますみ
松林の残雪が美しいイメージで詠まれている。急に小動物が出てきそうで、楽しい雰囲気がある。(高橋正子)

[2月8日]
★膨れくる潮や河口に春の鴨/佃 康水
「膨れくる潮」が春らしい。河口や港に立っていると、穏やかな日には、潮が膨れるように満ちてくるのがわかる。河口にはまだ帰らない鴨が生き生きと泳いでいる。春への期待が高まる。(高橋正子)

★今朝赤城山(あかぎ)良く見え畦の犬ふぐり (小口泰與)
遠くに赤城山、足元を見れば小さな紫、いぬふぐり。私の畑の畔にも2~3週間前からいぬふぐりが咲き始めています。間違いなく春が近づいています。(古田敬二)


コメント

  1. 佃 康水
    2015年2月9日 21:53

    御礼
    高橋信之先生 高橋正子先生
    「春の鴨」を今日の秀句にお選びくださり、素敵な句評を賜り大変嬉しく感謝申し上げます。体調も大分整い近くの海や畑また市内の庭園など出かけています。鴨は春潮が満ちて来ると河口にまで上りこころなしか伸びやかに浮いています。帰って行くのももう間近いかもしれません。

  2. 河野啓一
    2015年2月11日 9:44

    御礼
    高橋正子先生
    ★早春の朝日鉢花いきいきと の句を2/10の秀句におとり下され、すばらしいコメントを賜りまして厚く御礼申し上げます。今後ともどうぞ宜しくご指導の程お願いいたします。

  3. 川名ますみ
    2015年2月12日 17:03

    お礼
    信之先生、正子先生、日々の温かいご指導に感謝いたします。
    この度、正子先生には「残雪の凹凸に影松林」の句へ、すてきなご講評を頂きまして、嬉しく存じます。拙く綴った景色が、明るくひらかれるようなお言葉、ありがとうございます。
    先日、郊外の広い霊園へ、祖母の納骨に参りました。松林にはまだ雪が残っており、そのでこぼこな表面に濃い影を映していました。「もう春の陽射しだね」と眺めた次第です。

  4. 桑本栄太郎
    2015年2月12日 18:03

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    2月11日の今日の秀句に「礼拝を終えて隣家の梅見かな」
    の句をお選び頂き、嬉しくも温かいご句評も賜り、大変有難うございます。やはり礼拝に訪れます大阪高槻は京都洛西より少し暖かいのか、教会の隣家の紅梅が三分咲きとなっていました。礼拝を終えて、同じ方向へ帰るご夫婦と一緒にしばらく梅見を楽しんでから帰りました。

  5. 佃 康水
    2015年2月12日 20:03

    御礼
    高橋信之先生 高橋正子先生
    2月11日の秀句に「蕗の薹」の句をお選び頂き、又正子先生には素敵な句評を賜り励みになります。以前、菜園を借りて居た場所の山斜面に今年も蕗の薹が顔を出しました。先生の仰る様に山斜面に日が当たり,蕗の薹を堀起こした時の土の思わぬ温かさが意外でした。

  6. 福田ひろし
    2015年2月13日 16:26

    御礼
    高橋信之先生 正子先生

    「雲雀野を」を秀句に選んでいただき、ご丁寧なコメントをいただき、ありがとうございます。春は新年度に向けいろんな動きがあり、なにかと憂鬱になりがちです。休日、田舎道を散歩していて、ふと、雲雀の囀りに気づきました。一年とは早いものだなと実感しました。

  7. 迫田和代
    2015年2月15日 11:04

    御礼
    信之先生
    正子先生
    2/14の白梅の花と香りと青い空を 今日の秀句 にお選びいただきとても嬉しいです。正子先生の素適なコメント心に響きます。白梅の香りは、いいですね。これからもご指導をお願い致します。

  8. 桑本栄太郎
    2015年2月15日 18:37

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    2月14日の今日の秀句に「菜園の早やもときめき豆の花」の句をお選び頂き、嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難うございます。先日の午前中、明るい日射しに誘われ、春探しの散策に出掛けました。日射しはぎらぎらと明るいものの、風が未だまだ冷たい当地、洛西です。それでも菜園の一画の一列の蚕豆はまだ背丈も低いままながら、うす紫の花を下の方につけていました。冷たい風の中ながらも、何かほっと心の和む光景でした。

  9. 小西 宏
    2015年2月17日 15:08

    お礼
    高橋正子先生
    「春浅き笹薮にふと動くもの」を「今日の秀句」にお加え下さり、たいへん有難うございました。微かにカサコソと枯葉を踏む音、チチッと小さく鳴く声、そしてふと、影のように小さなものがよぎる気配。その正体はわかりませんでした。

  10. 多田有花
    2015年2月17日 20:16

    お礼
    信之先生、正子先生、
    「春きざす快晴の阿蘇正面に」を2月15日の秀句にお選びいただきありがとうございます。
    前日は雪模様でしたが、この日はよく晴れ、真っ青な空の下に噴煙をあげる阿蘇が見えました。
    広々として、何かこう気持ちも大きくなるような景色でした。

  11. 小口泰與
    2015年2月19日 7:24

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    2月17日の「菜の花」の句を秀句にお取り上げいただき、その上、正子先生には素晴らしい句評をたまわり厚く御礼申し上げます。今後ともよろしくお願い申し上げます。

  12. 小西 宏
    2015年2月19日 20:08

    お礼
    高橋正子先生
    「走りつつ凧ふり返る大野原」を「今日の秀句」にお加え下さり、たいへん有難うございました。穏やかな風に、走れば凧はすぐに空に揚がります。子供たちは誇らしげに振り返り、確かめつつ、なお走り続けていました。