今日の秀句/4月1日~4月10日

4月10日(1句)

★蕗の花どの花よりも土に触れ/弓削和人
蕗の花は雌雄異株で花は雄株が黄色っぽく、雌株は白っぽい花を咲かせる。蕗のとうと呼ばれているのは、蕗の花の蕾をさし、日蔭や、湿った場所を好んで生える。茎から伸びた花は土につくことはほとんどないが、蕗のとうは、土に親しい。そのことをこの句は言っているのだと思う。蕗の花の素朴な印象が野を思わせてくれる。(髙橋正子)
4月9日(1句)
★みちのくの陽光ひさし朝寝かな/弓削和人
雪が解けて、みちのくにも陽光がさす日がある。春の日差しの気持ち良さに朝寝となった。長い冬を経て感じる春の明るさがある。(髙橋正子)

4月8日(2句)

★午後の陽の惜しみなくありたんぽぽへ/多田有花
道野辺や、原っぱにたんぽぽは太陽の日差しを受けて花を開く。花の黄色は明るく、太陽のようなイメージだ。日永の午後の陽が惜しみなくたんぽぽに射し、太陽のおおらかさを感じる。(髙橋正子)

  大中寺
★境内の花摘み供す灌仏会/土橋みよ
大中寺の灌仏会に行かれた。花御堂は、境内にいろどりどりに咲いている花を摘んで飾ってある。愛媛に住んでいたころ近所のお寺の花御堂を子供たちと一緒に飾ったが、境内の椿や、田んぼの紫雲英なども摘んできて、花御堂を飾った思い出ある。身近な花で飾るという、その気持ちが美しい。(髙橋正子)

4月7日(1句)

★少し風あるのも良けれ山桜/多田有花
少しの風に吹かれる山桜はまたいいものだ。「良けれ」がその微妙な感じを言い表わしている。すがすがしさと、かなしみを併せ持つ山桜だ。(髙橋正子)

4月6日(3句)

★花樒仏心ここにひそやかに/多田有花
樒の花は目立たないがこの季節に咲き、仏前や墓前に供花として使われる。ひそやかに咲き、花とも言えない花である。それがよけい「仏心」を感じさせるのかもしれない。(髙橋正子)

★鳥雲に入りて浅間のうらかなし/小口泰與
帰る鳥が、浅間山の上の雲に入り見えなくなってしまった。別れを惜しむ気持ちが浅間を「うらかなし」と思わせたのだろう。(髙橋正子)
★さくら散りさざ波寄するにわたづみ/桑本栄太郎(追加発表)
さくらが散るころになると、季節が一歩進み、少し風が吹くようになる。にわたずみにもその風が「さざ波寄する」と、池や川であるかのような風情とみせる。(髙橋正子)

4月5日(1句)

★山裾の家取り囲み山桜/多田有花
山裾の家を取り囲んで山桜が咲いている、日本の懐かしい風景。その景色をさらりと詠み取った清々しさがいい。(髙橋正子)

4月4日(2句)

★我が庭や杏子の花にうもれたる/小口泰與
桜より少し早く杏が咲き始める。その杏が庭に咲き満ちて、のどかな里の風景となっている。その景色が素晴らしい。(髙橋正子)

★囀りやこの木と見ればあちらにも/廣田洋一

小鳥の囀りが聞こえる。この木で鳴いているのかと思い見あげると、あちらの木でも鳴いている。思わず、楽しい気持ちになる。(髙橋正子)
4月3日(4句)
★車椅子カラカラ鳴らし花冷へ /川名ますみ(追加発表)
元の句は「ガラガラ」でした。「カラカラ」の私の提案に、実際の音に近いということだったので掲句になった。音が綺麗になり、詩情が生まれたと思う。花冷えの奥へと響いている感じになっている。(髙橋正子)

★花疲れ熟睡の部屋の四畳半/小口泰與
こじんまりした四畳半の部屋で、花疲れで熟睡してしまった。熟睡のお陰で花疲れもとれたことであろう。(髙橋正子)

★菜の花の向こうに見ゆる海の青/廣田洋一
一面の菜の花の黄色と、海の青の対比の鮮やかさは、いつ見ても、だれが見てもいい景色だ。似た光景を詠んだ俳句もあるだろうが、自分は自分の俳句をしっかり詠むのがいいと思う。(髙橋正子)

★鳥たちの啄み翔ちぬ花万朶/桑本栄太郎
鳥も花を喜んでいるのだろう。満開の桜に鳥たちが止り、花を啄んでは、飛び立つ。私もこの春、野生化したインコが桜を啄んでは落としているのに出会った。これは何のために啄んでいるのだろう。花で遊んでいるようにも見えるのだが。(髙橋正子)
4月2日(2句)
 <エアープラント>
★春光浴び赤い蕾の青皿に/土橋みよ
青皿に赤い蕾のエアブラントが春の光を浴びている。青と赤の色彩の輝きに、
生き生きとした歓びをもらう。(髙橋正子)

★猫の背にとまるひとひら花ふぶき/川名ますみ
花ふぶきの中を潜った猫の背中に、ひとひらの花びらが付いている。猫は花びらが付いているとも知らずにいる。人も猫もこの桜の季節のたのしみを知らずわかちあっている。(髙橋正子)

4月1日(2句)

★朝日さす峰の桜の清しさへ/多田有花
桜の清々しさが率直にその情景のまま詠まれた句。それを読むとその景色の通りに清しさを感じる。(髙橋正子)

★雪柳意思あるように弾みけり/上島祥子
雪柳の枝には小花が房のように咲いて、風が吹けば枝が、「意思があるように」に弾む。風の意思ではなく、雪柳の意思であるのがユニーク。(髙橋正子)

4月1日~4月10日

4月10日(5名)
弓削和人
蕗の薹雀のいまや翔び立ちぬ★★★
ふきの芽の雌雄を分かち並びおり★★★
蕗の花どの花よりも土に触れ★★★★

廣田洋一
杉菜生ゆ放置されたる黒き畑★★★
梨棚の白く光りて花盛り★★★
一筋の花弁流れ街の川★★★

小口泰與
花時の媼の装いこざっぱり★★★
大沼という器の中の花うぐい★★★
榛名湖の沖より起こる春の虹★★★

桑本栄太郎
チューリップ園の花壇は赤多く★★★
しべ赤く花の極まり散るかまえ★★★
散り敷きて襤褸なれども落つばき★★★

多田有花
その前は銀の馬車道紫木蓮★★★
穴を出し蛇のんびりと陽を浴びる★★★
蛇の目は花の大地を映しおり★★★
 
4月9日(3名)
小口泰與
ビードロの器の中の春の魚★★★
杏子の枝花の終わりて葉をうみし★★★
運と言う儚きものに蜃気楼★★★

弓削和人
亀鳴くや畦田の盛土新たなり★★★
咳ひとつ湖面は揺れぬ放哉忌★★★
みちのくの陽光ひさし朝寝かな★★★★

廣田洋一
ポケットに句帳忍ばせ春惜しむ★★★
のどけしや雀の遊ぶ潦★★★
シャボン玉追いかけ走る女の子★★★

4月8日(6名)
小口泰與
チューリップ楽しみだけが待っている
はや四月読まぬ鳥類辞典此処★★★
句を作り有為転変も春の夢★★★

多田有花
午後の陽の惜しみなくありたんぽぽへ★★★★
うららかや川鵜日差しへ翼干す★★★
花の上昼半月の掛かりおり★★★

廣田洋一
俳句手帳片手に参る虚子忌かな★★★
長閑さや砂場に遊ぶ園児たち★★★
寿福寺の墓道下り春惜しむ★★★

桑本栄太郎
あおぞらの山間なりぬ花の雲
「あおぞらの山間なりぬ」と「花の雲」の関係、あるいは、句意をご説明ください。(髙橋正子)

堰水の光りきらめく春の空★★★
虚子の忌や記念樹ありぬ校門に★★★

土橋みよ
  大中寺
境内の花摘み供す灌仏会★★★★
花まつり甘茶にケーキ母子連れ★★★
花の下昔話の友ふたり★★★

4月7日(4名)
小口泰與
霾るや有為天変は世の習い★★★
釣師たち春の利根川云云す★★★
花杏すでに盛や風の中★★★
多田有花
囀りの上にありけり昼の月★★★
少女らの自転車ゆくよ燕飛ぶ★★★
少し風あるのも良けれ山桜★★★★
廣田洋一
のどけしや客待顔の人力車★★★
道端の薄紅色や春惜しむ★★★
杉菜から始まりたるや土手の道★★★
桑本栄太郎
トランプのジョーカーばかり四月馬鹿★★★
西山のぽっとピンクや花の雲★★★
缶蹴りのあそびに暮るる遅日かな ★★★
4月6日(4名)
廣田洋一
花片と挨拶交わす散歩道★★★★
「散歩道」が惜しいです。(髙橋正子)
休耕の畑に蔓延る杉菜かな★★★
遠目にもくっきり赤き紫荊★★★

多田有花
山桜見上げて川を渡りけり★★★
花樒仏心ここにひそやかに★★★★
このままでもいいですが、もう少しすっきりさせるなら、以下の添削句のようにしてもよいと思います。(髙橋正子)
仏心のひそけくここに花樒(正子添削例)
斑入り椿よ遺伝子かウイルスか★★★

小口泰與
ほつほつと白梅咲けり蒼き空★★★
鳥雲に入りて浅間のうらかなし★★★★
うららかに亀と散歩の婆と孫★★★

桑本栄太郎
エレベータ―を降りて咲き満つにわざくら★★★
花の雨あがり峰の端青き空★★★
さくら散りさざ波寄するにわたづみ★★★★
4月5日(4名)
小口泰與
冴返る鳥も動かず軒下へ★★★
朝日浴びほぐれほぐれて楓の芽★★★★
白梅の咲きて美空の青青と★★★

廣田洋一
花弁の白く光れる潦★★★★
朝日浴びチョンチョン跳ねる雀の子★★★
友の顔次々浮かぶ桜かな★★★

多田有花
うららかに家紋をつけて鯱並ぶ★★★
山裾の家取り囲み山桜★★★★
喇叭水仙いかなる調べを奏でおり★★★

桑本栄太郎
清明の朝の玻璃戸や空の青★★★
咲き満つることなく散りぬ花あはれ ★★★
おちこちの峰にあらわる花の雲★★★★

4月4日(4名)

小口泰與
我が庭や杏子の花にうもれたる★★★★
ほぐれたる牡丹の新芽丸きかな★★★
はくれんにうやうやしくも朝日さす★★★

廣田洋一
屋上の風呂につかりて長閑なる★★★
川べりの雪崩咲きたる桜かな★★★
囀りやこの木と見ればあちらにも★★★★

多田有花
春日影河馬のんびりと昼寝する★★★
山羊座して春陽のもとに草を待つ★★★
幼子からライオンの話きく春昼★★★

桑本栄太郎
遠山の雲影走る春の峰★★★
ぎらぎらと甍きらめく春の里★★★
ならび咲き花と見まごう花海棠★★★
 
4月3日(6名)
小口泰與
花疲れ熟睡の部屋は四畳半(原句)
「部屋は」の「は」は限定を意味しますので、四畳半が強く印象付けられます。花疲れのあとの熟睡のこじんまりした部屋の印象がいいのではと思い、添削のようにしました。(髙橋正子)
花疲れ熟睡の部屋の四畳半(髙橋正子)

旨酒にほろ酔いなりし春の昼★★★
梅咲きて燕みる日も近かりし★★★

廣田洋一
シーソーの親子で遊び長閑なる★★★
菜の花の向こうに見ゆる海の青★★★★
細波と共に揺れたる川柳★★★

多田有花
白亜の櫓枝垂桜の幼き木★★★
染井吉野古木と苗木並び咲く★★★
桜咲く動物園より城仰ぐ★★★

土橋みよ
雨の鳥居凭れししだれ桜あり★★★
<ラングミュア循環>
空っ風渡良瀬川に泡の筋★★★

桑本栄太郎
鳥たちの啄み翔びぬ花万朶(原句)
「翔」を「翔つ(たつ)」と読むことがあります。これは俳句や短歌など伝統的文学で、漢字の意味から派生した読みかたとして受け入れられています。飛び立つの意味です。この句では、「翔つ」のほうが情景ははっきりするのではないでしょうか。(髙橋正子)
鳥たちの啄み翔ちぬ花万朶(正子添削)

大木の根方草地や犬ふぐり★★★
段堰をきらめき落つや春の川★★★

川名ますみ
車椅子ガラガラ鳴らし花冷へ★★★★
「ガラガラ」を「カラカラ」としたら、どんな感じでしょうか。実際とはちがうかもしれませんが、軽やかな気持ちが出て、詩的になる感じですけれど。(髙橋正子)
車椅子ガラガラ鳴らし花冷へ(正子添削)
4月3日の秀句にあげましたので、ご確認ください。(髙橋正子)

花冷の公園に鳴る車椅子★★★
〈夢見ヶ崎動物公園〉
花の雨大樹を仰ぐラマ二頭★★★

4月2日(6名)
小口泰與
産土の沼に舞い来る百千鳥★★★
魚逃げる沼へ落ちたる椿かな★★★
三山のそれぞれ違う別れ霜★★★

廣田洋一
恋人を待つかの如く花を待つ★★★
行きずりに触れる柳や銀座の灯★★★
菜の花や長々並ぶ線路沿い★★★

多田有花
花見弁当並べて食す濠のうえ★★★
濠をゆく手漕ぎ舟より花見かな★★★
風やんで櫓の上の春の空★★★

桑本栄太郎
春雨や望郷つのる吾の日々★★★
吾が行けば道の出来おり連翹忌★★★
母の夢見ていて目覚む花の冷え★★★

土橋みよ
春湿り葉毛伸ばして蕾む朝(原句)
エアプラントが蕾を付けたことがうれしいのですね。このことに絞って一句にまとめます。俳句は一つの事だけを言うつもりで、まとめてみてください。
いい俳句は多く意味をもっているように思うかもしれませんが、それは読者側が思うことで、作る側は、はっきりと一つを言います。このことから初めてみてください。(髙橋正子)
春湿る朝の蕾をエアプラント(正子添削)
エアプラントの姿は読者に想像させます。エアプラントの細かい種類までは知らなくても、だいたいエアプラントを知っている読者はいろいろ想像するでしょう。(髙橋正子)
 
 <エアープラント二句>
春光浴び赤い蕾の青皿に★★★★
春の皿苺のごとき蕾あり★★★★

川名ますみ
猫の背にとまるひとひら花ふぶき★★★★
小さき背に落花を載せて猫ゆけり★★★
おひたしに求めし菜花のつぼみ活く★★★★ 

4月1日(6名)

小口泰與
重く揺れ雨を含みし雪柳★★★
戸を開くや春の疾風の飛び込みし★★★
自ずから崩れる膝や朧月★★★

多田有花
朝日さす峰の桜の清しさへ★★★★
快晴に城の桜は三分咲き★★★
花は桜城は姫路よ皆来たれ★★★

廣田洋一
春の土テニスコートの音軽し★★★
開花後に薄く色づく桜かな★★★
川の鯉口開けて見る桜かな★★★

桑本栄太郎
はぼたんの茎立来たる花菜かな★★★
植込みの確と仕切りや連翹黄★★★
日の本の山桜咲く野山かな★★★
土橋みよ
大鳥居枝垂れ桜に雨打ちて★★★
大鳥居と枝垂れ桜はどんな関係なのでしょう。それが分かるといいですね。(髙橋正子)
藤のトンネル遅い芽吹きの中にいて★★★
青皿にT.ストリクタの花苺 ★★★
T.ストリクタ はエアプラントの一種と思いますが、大方の人に理解できるでしょうか。その場合、どうすればよいか、工夫がいります。「花苺」は、苺の花のことですが、この句ではどうなのでしょうか。(髙橋正子)
上島祥子
春の雲見送る機影は黒点に★★★
雪柳弾む花房意思あるように(原句)
雪柳意思あるように弾みけり(正子添削)
花冷えや窓の景色を見るばかり★★★

自由な投句箱/3月21日~3月31日

※当季雑詠3句(春の句)を<コメント欄>にお書き込みください。
※投句は、一日1回3句に限ります。
※登録のない俳号やペンネームでの投句は、削除いたします。(例:唐辛子など)
※★印の基準について。
「心が動いている」句を良い句として、★印を付けています。 
    
       🍃   🍃   🍃   🍃   🍃   🍃
      今日の俳句『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著)より
   右端に🌸の印が付いている句は、(現)または(元)花冠会員の句
   名前の右端に🍁の印が付いている句は、花冠に縁の深い方の句
3月31日
★春の夢みてゐて瞼ぬれにけり       三橋 鷹女(みつはし たかじょ)
3月30日
★春の雪青菜を茹でていたる間も      細見 綾子(ほそみ あやこ)
3月29日
★梨咲くと葛飾の野はとの曇り       水原 秋櫻子(みずはら しゅうおうし)
3月28日
★わが背丈以上は空や初雲雀        中村 草田男(なかむら くさたお)
3月27日
★イースター青い卵の贈り物        髙橋 句美子(たかはし くみこ)🌸
3月26日
★村中に水流れ出しつばめ来る       澤井  渥(さわい あつし) 🌸
3月25日
★一点より縦横の道卒業す         大石 和堂(おおいし わどう)🌸
3月24日
★産声を待つ部屋の窓白木蓮        高橋 秀之(たかはし ひでゆき)🌸
3月23日
★物の種にぎればいのちひしめける     日野 草城(ひの そうじょう)
3月22
★バスを待ち大路の春をうたがはず     石田 波郷(いしだ はきょう)
3月21日
★チューリップ喜びだけを持ってゐる    細見 綾子(ほそみ あやこ)

今日の秀句/3月21日~3月31日

3月31日(1句)

★白蝶の低く舞いけり庭真中/小口泰與
白蝶が、庭の中心に低く下りて来て、ひらひらと舞っている。庭の中心に浮いたような感じで、舞姿をみせてくれて、なにか伝えているようでもある。(髙橋正子)
3月30日(1句)

★白れんの咲くや人無き校庭に/多田有花
白れんが咲くころは、学校は春休みで校庭に誰もいない。そんな校庭にも白れんは、白い花をみずみずしく咲かせている。周囲に関係なく、自らが精いっぱい花を開く姿に、人の行為を見るような思いになる。(髙橋正子)
3月29日(1句)

★早々と花冷え来たる今朝の空/桑本栄太郎
桜が咲き始めたばかりの今朝の空。日本人の繊細な感受性が「花冷え」と言う美しい季語を生んでいるが、作者も繊細に季節を感じている。「早々」に、季節の移ろいの早やさが読み取れる。(髙橋正子)
3月28日(1句)

★青年にコロンの香り春の宵/多田有花
青年から匂うコロンの香りは、青春の爽やかさやみずみずしさを感じさせてくれる。それが春の宵なので、ロマンティックで、儚い気分にもなる。(髙橋正子)
3月27日(1句)

★白れんの傷つき来たる空の青/桑本栄太郎
「白れんが傷つく」は一般に俳句によく詠まれているが、この句の良さは、「傷づき来たる」と、白れんが傷ついていく経過を詠んでいるところ。毎日見上げていると、なかには傷つくものも出て来る。その経過に「もののあはれ」の心情が働いている。(髙橋正子)
3月26日(1句)

★夕空に黒線引きて鶴帰る/廣田洋一 
地上の鶴が舞い上がり北へ帰るとき、列を作るが、それが高くあがって、ついには、黒い線に見えた。白い鶴も天上たかく影のように黒く見えるところに感慨がある。
私は、最初この句を読んだよき、空に「黒線引きて」で少し不安な不気味な気持ちになり、「一線引きて」ではと提案しました。そうしたら、作者から、「一線」という音感が良いと返事をもらいました。私の添削の主眼はそこ(音感)ではなかったので、考えなおしました。作者の言いたいのは、「黒線」だとわかりました。それで元の句をよし、としました。(髙橋正子)
3月25日(1句)

★うたた寝の夢の中なる大試験/小口泰與
試験は人の心に重荷をかけている。特に大試験ともなれば、その緊張の記憶は、生涯の記憶として残る人もいる。うたた寝にも若き日のその夢を見るとは。(髙橋正子)

★菜の花の黄色よ遠くに輝くは/多田有花
菜の花の黄色は、やさしい色でありながら、遠目にも輝いて印象深い。(髙橋正子)
3月24日(1句)

★散らばりて青き輝きいぬふぐり/多田有花
いぬふぐりは、小さい花が群生しているようで、それぞれの花は散らばったように咲いている。素直にさっぱりと詠んでいて、いぬふぐりの青い色に清潔感がある。(髙橋正子)
3月23日(1句)

★菜の花の高々咲きし空の青/廣田洋一
菜の花が高々と咲いているのが特に目に入ったのだろう。その菜の花は空の青色に染まらず、くっきりとした姿だった。それがとても美しい。(髙橋正子)

3月22日(2句)

★朝日浴ぶ開花の近き山桜/多田有花
朝日は山に一番に届くように思える。染井吉野ができるまでは、古来より詠われたのは山桜である。朝日と山桜のみずみずしい出会いがいい。(髙橋正子)

★春の日の匂いをつけて猫戻る/上島祥子
暖かい春の日のなかで、飼い猫は、自由に遊んだのだろう。帰ってきた猫は、春の日のほっこりした匂いがしている。ほのぼのとした気持ちになる句。(髙橋正子)
3月21日(1句)

★駒返る草のみどりや堰の水/桑本栄太郎
「駒返る草」は、若返る草、枯草の中から、新しい草が芽生えてくる情景を象徴的に言った言葉で春の季語となっている。詩的な情緒を醸す効果があるが、この句でも草のがみどりが生き生きと目に映る。川土手の草であろう、堰の水がかがやいている。(髙橋正子)

3月21日~3月31日

3月31日(3名)
多田有花
夕刻の空に舞いおり初つばめ(原句)
「舞いおり」の部分に、観察したこと、感じたことを入れると、特別な初つばめになります。(髙橋正子)
夕刻の空にいきいき初つばめ(正子添削例)

染井吉野つぼみ綻び初む午後に★★★
折れてなお花は蕾をほころばせ★★★

小口泰與
それぞれの鳴き声盛ん森の春★★★
白蝶の低く舞けり庭真中★★★★
ばらの芽のほぐれて赤き雨の中★★★

桑本栄太郎
送電線の峰より里へ山笑う★★★
校門のさくら七分や式を待つ★★★
さざ波のわらわら走る残り鴨★★★
3月30日(3名)

小口泰與
立ち話言葉奪わる春疾風★★★
白蓮の高貴な色に目を染し★★★
産土の風ういういしくも夜の梅★★★

多田有花
すみれ咲くコンクリートの隙間より★★★
刻々と前山さくらを点しおり★★★
白れんの咲くや人無き校庭に★★★★

桑本栄太郎
とめどなく雲の奔りぬ春疾風★★★
足もとに忽と落ちたる椿かな★★★
廃校となりぬ校門さくら咲く★★★
3月29日(4名)
廣田洋一
どう見ても白く咲きたる桜かな★★★
川沿いの桜のために廻り道★★★
雨の日は口を閉ざしてチューリップ★★★

小口泰與
鳥鳴いて花の噂を届けたり★★★
閉店の噂広まる春嵐★★★
魚跳ねし沼の岸辺の蕗の薹★★★

桑本栄太郎
早々と花冷え来たる今朝の空★★★★
ことさらに空の青さよ春の風★★★
白れんの傷つき散りぬ舗道かな★★★
上島祥子
猫の躰かいても届かず春の蚤★★★
真剣に語るほどの春の蚤★★★
春の雷出迎えの猫戸口まで★★★

3月28日(4名)
小口泰與
納豆を百回交ぜて春の暮★★★
手のひらを台とせるや春山雀★★★
あけぼのの梅の台の風に揺れ★★★

多田有花
青年にコロンの香り春の宵★★★★
道の辺の初ざくら愛で歩きおり★★★
雨あがり今朝咲き初めし山桜★★★

廣田洋一
霾りし木々を洗える雨となり★★★
降る雨に逆らい開く桜かな★★★
雨浴びて半ば閉じたるチューリップ★★★

桑本栄太郎
おだおだと時には強く春の風★★★
急かされて遂に咲き出す桜かな★★★
大風に揺れて躍りぬ雪やなぎ★★★

3月27日(5句)
小口泰與
美しき山のすそ野や春の鴨★★★
霾るや嫌いなものの多かりき★★★
手のひらの餌に舞い来る春山雀★★★

廣田洋一
ようやくに淡紅色の花咲けり★★★
桜咲く葉も青々と開きけり★★★★
チューリップ前へ倣えと赤き色★★★

多田有花
新しきカフェオープンの春なかば★★★
いぬふぐり畔にさざめく小さき星★★★
朗らかに春の小川は流れおり★★★★

桑本栄太郎
石垣に張り付き咲きぬ菫かな★★★
山茱萸の浮かぶようなり青き空★★★
白れんの傷つき来たる空の青★★★★

上島祥子
夕方の光に白増す雪柳★★★
アネモネの香の慎ましく北廊下★★★
蝶番う静けさの勝つ史跡奥★★★★
3月26日(4名)

小口泰與
大太鼓連打したるや春祭★★★
山里の鳥声交る春の川★★★
うちつけに鴉鳴きたり冴返る★★★

廣田洋一
夕空に黒線引きて鶴帰る(原句)
夕空に一線引きて鶴帰る(正子添削例) 
「黒線」ではなく、「一線」ではどうでしょうか。句意から、いわゆる「~と一線を引く」の意味と間違えることはないと思います。(髙橋正子)

紫の躑躅咲きたる庭の隅★★★
桜咲く待ち人の顔ほころびぬ★★★

多田有花
来る燕今宵はいずこの空の下★★★★
清少納言よ春は確かにあけぼのよ★★★
天気と開花比べ花見の計画を★★★

桑本栄太郎
雪やなぎ風の行方の定まらず★★★
ふるさとの遠くをおもう犀星忌★★★
誓子忌の海のあかねや日本海★★★
3月25日(4名)
小口泰與
明け六つの春の寒さに身を切られ★★★
丑三つの犬の遠吠え春の火事★★★
うたた寝の夢の中なる大試験★★★★

廣田洋一
八重椿花弁一つ零しけり★★★
囀りや右に左に並木道★★★
車椅子開花を待ちて停まりおり★★★

多田有花
菜の花の黄色よ遠くに輝くは★★★★
春休み少年らはゆく自転車で★★★
憧れの色春宵の空の色★★★

桑本栄太郎
剥がすよに上衣脱ぎたり春暑し★★★
胡沙降るや母の忌日の近づきぬ★★★
見渡せば在所いずこも霾ぐもり★★★

3月24日(5名)
小口泰與
鳥交るうすすく頃の川の色★★★
足からの寒さ伝わる梅見月★★★
歓声を上げる園児や春の沼★★★

廣田洋一
陽光てふ(ちょう)桜光れる明日かな
「陽光てふ(ちょう)桜光れる朝かな」 でしょうか。

桜の芽大きくふふみて時を待つ★★★
ひっそりと下を向きたる花馬酔木★★★

多田有花
はや日陰選んで歩く彼岸過ぎ★★★
春の昼異国の歌を聴いている★★★

散りばめて青き輝きいぬふぐり(原句)
散らばりて青き輝きいぬふぐり(正子添削)

土橋みよ
春の日を浴びて花芽のこちら向く★★★
オステオを植える彼岸の藤の園★★★
シクラメン花咲く傍に温度計★★★
桑本栄太郎
日輪の滲みて居りぬ霾ぐもり★★★
白れんのにつと微笑み咲き初むる★★★
稚けなきものの哀れやすみれ咲く ★★★
3月23日(4名)
小口泰與
浅間嶺のいよよ雪解や朝の風★★★
残りたる一羽の鴨や沼の淵★★★
残りしか残されしかか鴨一羽★★★

廣田洋一
空の色分けて貰いていぬふぐり★★★
菜の花の高々咲きし空の青★★★★
丹沢の稜線きりり風光る★★★★

多田有花
起床してまず洗濯の彼岸明★★★
春宵にダンスステップ踏みにけり★★★
窓開けて昼餉の用意春暑し★★★

桑本栄太郎
水底の日の斑ゆらぐや蘆の角★★★
咲き分けの梅の花咲く狭庭かな★★★
豆の花ツタンカーメンてう(ちょう)名まえ★★★
3月22日(5名)
桑本栄太郎
まんさくの陽光集め紡ぎ居り★★★★
春の夜やまた読み返す太平記★★★
褒めらるる事のなけれど暖かし★★★

多田有花
快晴の春の窓辺にすずめ来る★★★
朝日浴ぶ開花の近き山桜★★★★
春なれば音楽流し踊りけり★★★

小口泰與
子雀の足を滑らせ水瓶へ★★★★
かたかごの花咲き競う斜面かな★★★★
ひこばえや長き梢に鳥の数★★★

廣田洋一
鮮やかに咲き揃いたるシクラメン★★★
シクラメン鉢より花の溢れおり★★★
雪柳法面白く揺らしおり★★★★
上島祥子
春の日の匂いをつけて猫戻る★★★★
眼薬の手早く点して花粉症★★★
春夕日キャッチボールはリズム良く★★★
3月21日(4名)
小口泰與
大利根の流れい行くは雪解水★★★
色めきて日の出の湖や百千鳥★★★
彩雲の浮かぶ榛名や春の雁★★★

多田有花
春分や豆苗すっと立ち上がる★★★
春寒の中で確かむ開花予想★★★
盛大に花粉流るる彼岸かな★★★

桑本栄太郎
霾天(ばいてん)のうす紫の在所かな★★★
駒返る草のみどりや堰の水★★★★
まんさくの去年の葉あれど結びけり★★★
土橋みよ
        足利フラワーパーク
藤の芽のトンネルくぐる夕陽背に★★★
「魔笛」鳴るチューリップの径軽やかに ★★★

自由な投句箱/3月11日~3月20日

※当季雑詠3句(春の句・冬の句)を<コメント欄>にお書き込みください。
※投句は、一日1回3句に限ります。
※登録のない俳号やペンネームでの投句は、削除いたします。(例:唐辛子など)
※★印の基準について。
「心が動いている」句を良い句として、★印を付けています。 
    
       🍃   🍃   🍃   🍃   🍃   🍃
      今日の俳句『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著)より
   右端に🌸の印が付いている句は、(現)または(元)花冠会員の句
   名前の右端に🍁の印が付いている句は、花冠に縁の深い方の句
3月20日
★町空のつばくらめのみ新しや     中村 草田男(なかむら くさたお)
3月19日
★大佛を写真に撮るや春の山      河東 碧梧桐(かわひがし へきごどう)
3月18日
★生ひじき買うや春潮もろともに    守山 満樹(もりやま みつき)🌸
3月17日
★鉢に土筆数本にして野の様を     川本 臥風(かわもと がふう)🍁
3月16日
★校塔に鳩多き日や卒業す       中村 草田男(なかむら くさたお)
3月15日
★蒲公英の数本は吾が影へあり     祝  恵子(いわい けいこ)🌸
3月14日
★半面に紅刷きふきのとうの球みどり  川本 臥風(かわもと がふう)🍁
3月13日
★紙風船息吹き込めば紙の鳴る     臼井 虹玉(うすい こうぎょく)🌸
3月12日
★囀りをこぼさじと抱く大樹かな    星野 立子(ほしの たつこ)
3月11日
耕せばうごき憩へばしづかな土    中村 草田男(なかむら くさたお)

今日の秀句/3月11日~3月20日

3月20日(1句)

★お彼岸や心の墓に手を合わす/桑本栄太郎
彼岸には先祖を偲び、墓参りをするが、都合で墓参りに行けないこともある。せめて心に思っている先祖の墓に手を合わす。先祖を思うしずかな思いが伝わる。(髙橋正子)
3月19日(2句)

★川べりに残る春田の畔を踏む/廣田洋一
春田の畔には、小さな草がいろいろ萌え出て小さな花をつけているものもあって、たのしい思いになる。川べりなので川の水も音を立てて流れ、明るさに満ちているのがいい。(髙橋正子)

★雪柳芽吹き気長に北の庭/上島祥子
北の庭は日当たりが悪いので、そこにある雪柳の芽吹きが遅いのだ。遅い芽吹きもそれを「遅い」ではなく、「気長に」と待つ心に感心させれる。いずれは芽吹くのだ。(髙橋正子)
3月18日(3句)

★辛夷咲きいきよい強き川の水/小口泰與
辛夷が咲くころは、川は雪解水で増水し、勢いを得て「強き川の水」となる。
(髙橋正子)

★白木蓮高く灯りて街の角/廣田洋一
白木蓮の白は青空に映えて、美しい。街角の家にある高い木なのであろう。「灯る」印象なのだ。(髙橋正子)

★さざ波の立つばかりなり鳥雲に/桑本栄太郎
川や池にさざ波が立つのは風が吹くため。鳥曇りの空の下は、料峭の風にさざ波は立つばかりなのだ。(髙橋正子)
3月17日(1句)
★今さらの如く荒れるよ雪解川/小口泰與(改作)
★今さらの如くに見るよ雪解川/小口泰與
「今さら」に意味があるので、「如くに見るよ」の部分で、雪解川の様子を述べれば、さらにいい句になるのが惜しい。「今さらの(に)〇〇〇〇〇〇〇雪解川」。長く雪解川を見てきたが、今年は今年の雪解川の様子が見て取れる。(髙橋正子)

3月16日(1句)

★ほつほつと山茱黄の花青空へ/小口泰與
春を先駆けて咲く山茱黄の花のは、小さくて、ほつほつと咲く印象の花である。その小さい花は、澄んだ黄色で青空によく映える。(髙橋正子)
3月15日(2句)

★手術終え我が足で行く春の道/土橋みよ
手術という大変な思いをしたけれど、自分の足で、春の麗らかな道を歩けることを幸せに感じている作者の気持ちがよく伝わってくる。(髙橋正子)

★春耕の畝間や水を湛え居り/桑本栄太郎(正子添削)
地味な句だが、味わい深い。耕しの始まる季節はまた雨もよく降る。畝の間に水が溜まり、小さく空を映していることもあり、しずかに春を感じさせてくれる。(髙橋正子)

3月14日(2句)

★春の土腹につけたる負力士/多田有花
大阪で春場所が行われている。負力士は土がついた呼ばれるが、実際そのとおり、腹になまなましく土がついている。それが春の土なのだ。ユーモアも感じられる句。(髙橋正子)

★シャボン玉天目指す一つ風に乗る/上島祥子
シャボン玉を吹いている。壊れやすいシャボン玉の一つが、丸いまま風にのって天までいこうとする。どうか、天までと願いたくなる。(髙橋正子)
3月13日(1句)

★浪花場所力士浮世絵飾られて/多田有花
相撲の四季大会の春場所は浪花、大阪で毎年行われる。力士を描いた浮世絵が飾られて、華やかな雰囲気を醸し、通りゆく人をウキウキさせる。(髙橋正子)
3月12日(1句)

★初音かな洗濯を干すベランダへ/多田有花
鴬の声を初めて聞いたときの、驚きとうれしさ。ベランダで洗濯物を干していたとき、まさかの初音を聞いた。洗濯のあとのすがすがしさと相俟って初音が透き通って聞こえる。(髙橋正子)
3月11日(1句)

★海風に香りを載せて沈丁花/廣田洋一
海からの風が吹くところ、と特別な場所が設定されて、沈丁花に明るさが加わっている。全体が柔らかいリズムで詠まれているので、沈丁花の香りと共に穏やかな気持ちになれる。(髙橋正子)

3月11日~3月20日

3月20日(4名)
小口泰與
枝枝に葉はいまだしや春楓★★★
癒ゆるとは春の青空舞う如し★★★
春日浴び沼はいよいよ大笑い★★★

多田有花
春雨続く中で食後の珈琲を★★★
春分の霜いちめんに輝けり★★★
春分に流れるヨハン・クリスティアン・バッハ★★★

桑本栄太郎
われ行かず孫ら田舎へ彼岸かな★★★
お彼岸や心の墓に手を合わす★★★★
春風の頬を撫で行く田道かな★★★

廣田洋一
久し振り妻の夢見し彼岸かな★★★
強き風頬を打ちたる彼岸入り★★★
春分や建築工事始まりぬ★★★
3月19日(5名)
小口泰與
ほぐれたる牡丹の芽にささら雨★★★
山茱萸の黄のほつほつと蒼き空★★★
愛犬の老いいやまさる暮の春★★★

桑本栄太郎
カーテンを開けて頻りに春の雪★★★
こんもりと枝垂れ梅咲く狭庭かな★★★
ほつほつと小花咲き初む雪やなぎ★★★

土橋みよ
初乗りに新しき靴春日満つ★★★
春光の寺路を行けば鳥の歌★★★
紅菜苔茹でてほぐるる茎の艶★★★

廣田洋一
春の田や先ず雑草を刈り取りし★★★
川べりに残る春田の畔を踏む★★★★
引鶴や次第に列を整えし★★★
上島祥子
スカーフに明るさ求む春の服★★★
雪柳芽吹き気長に北の庭★★★★
夕日照り柊南天咲き揃う★★★

3月18日(3名)

小口泰與
ばらの芽や上州風の強き国★★★
春泥をい行きて森の鳥と遭う★★★
辛夷咲きいきよい強き川の水★★★★

廣田洋一
白木蓮高く灯りて街の角★★★★
おかめてふ桜咲きたる曲がり角★★★
芽柳のゆったり揺れる弁天堂★★★

桑本栄太郎
さざ波の立つばかりなり鳥雲に★★★★
水底に日の斑のゆらぐ春の池★★★
番いごと塊りあうや残り鴨★★★

3月17日(4名)
小口泰與
今さらの如くに見るよ雪解川★★★★
山風をまといて帰る雁の群★★★
いや白き浅間山巓里は春★★★

廣田洋一
初雷に目覚めし朝や闇の中★★★
平原の草青々と春の空★★★
鳶一羽舞い上がりたる春の空★★★

多田有花
桜鯛のかぶと煮甘くしゃぶりけり★★★
彼岸入いまだ寒さの残りおり★★★
春雨の通り過ぎたる街に出る★★★

桑本栄太郎
濡れそぼつ乙女つばきの滴かな★★★
ぼた餅にごくりと喉の入り彼岸★★★
鷹鳩と化して降り来る日照雨かな★★★
 
3月16日(3名)

小口泰與
川囃し帰雁の頃となりにけり★★★
春雷や怯ゆる子犬床の間へ★★★
ほつほつと山茱黄の花青空へ★★★★

土橋みよ
<根室のふのり>
北の磯削りしふのり春届く(原句)
北磯の削りしふのり春届く(正子添削)
春風に香る簾の生ふのり★★★★
春の朝ふのりとろとろ椀の中★★★

多田有花
春の庭二重跳びする女の子★★★★
横転の軽自動車に春陽さす★★★
紅梅を咲かす古民家ランチ店★★★
3月15日(6名)
小口泰與
百千鳥湖畔に家を建てたしよ★★★
春の沼いぶかられおる朝の波★★★
上州は五百重の山に抱かれし★★★

多田有花
化粧廻し春の土俵に揃いけり★★★
春場所の土俵に入りぬ新横綱★★★
春場所やいつしか満員御礼に★★★

土橋みよ
手術終え我が足で行く春の道★★★★
春風に根室のふのり香り立つ
「ふのり」は具体的にどこで香り立っているのでしょうか。干されているとか、お椀の中とか。(髙橋正子)

廣田洋一
青空に咲きあふれたる河津桜★★★
洋一さんのリズムと少し違いますが、添削例のようにも詠めます。
青空に河津桜の咲きあふれ(正子添削例)

土手一面覆いつくせる若き草★★★
畝一つ吾が場所として仏の座★★★

桑本栄太郎
<洛西大原野の田園をバスで行く>
春日さすバスの車内の眩しくて★★★
春耕の畝間に水を湛え居り(原句)
「畝間に…湛え居り」の主語は何でしょうか。(髙橋正子)
菜の花を右に左に路線バス ★★★

上島祥子
春夕日通過列車は三編成★★★
雨音の傘に響いて春の冷え★★★★
 (名古屋の徳川美術館では毎年春に国宝の「初音の調度」の展示が有ります。)
三月や初音の調度の案内板★★★
 
弓削和人
僧房の裏街道や春の泥★★★
陰雪を照らす陽ざしの淡きかな★★★
春寒し蕎麦の香喉をすべりけり★★★
 
3月14日(5名)

小口泰與
梅咲きて北へ向かいし鳥の群(原句)
「向いし」の「し」の意味をよく考えてください。(髙橋正子)
梅咲きて北へ向かえる鳥の群(正子添削)

いぶかりし鳥声近し春の森★★★
今さらの如くに見ゆる斑雪★★★★

廣田洋一
落椿垣根の端を明るくす★★★★
門前を真っ赤に染めし椿かな★★★
潦赤く染めたる落椿★★★

多田有花
三段目の取組進む春の昼★★★
春場所の行司応援横断幕★★★
春の土腹につけたる負力士★★★★

桑本栄太郎
   <京都大原野の丘>
菜の花や畝間に光る春の水(原句)
「菜の花」と「春の水」が詠まれています。これは季重なりになります。

せせらぎの瀬音早きや春の丘★★★
野放図というは狭庭の野梅かな★★★

上島祥子
円描く春禽の軌跡滑らかに★★★★
シャボン玉生まれては消え母子の間に★★★
シャボン玉天目指す一つ風に乗る★★★★
 
3月13日(3名)

廣田洋一
公園の園児の声や青き踏む★★★
行きずりに芽柳撫でる銀座の灯★★★
炉を塞ぐ名残の炭を足しにけり★★★
多田有花
三月や浪花の街を力士ゆく★★★
春雨に四股名の幟立ち並ぶ★★★
浪花場所力士浮世絵飾られて★★★★
桑本栄太郎
稜線のうつすらかすみ霾ぐもり★★★
春北風の頬なぶりゆく田道かな★★★
ポン菓子の圧の爆音春の昼★★★
3月12日(5名)
小口泰與
春の夕もの言いたげな目のありぬ★★★
訝しき墓の荒れよう猫の恋★★★
ぷちぷちとさんしゅうの花にわのすみ★★★

廣田洋一
芽柳や雨にけぶれるお濠端★★★
発雷や保母に駆け寄る園児たち★★★
春の鴨行く手を阻む鯉の群★★★
 
土橋みよ
見上げれば雲間を走る春の月★★★
春光に導かれゆく大中寺
「春光に導かれ」がよくわからないです。(髙橋正子)
春風に旨味膨らむするめいか★★★

桑本栄太郎
ほつほつと芽吹く細枝や雪やなぎ★★★
田道ゆく我にほほ笑む犬ふぐり★★★
空中にとどまるように虻の昼★★★
多田有花
初音かな洗濯を干すベランダへ★★★★
春空を一直線に飛行機雲★★★
春の雨児童の傘の並びゆく★★★
3月11日(3名)
小口泰與
早春の天は青空強き風★★★
磐座を登る朝日や春の風★★★
目ん玉をぐるりと回し春の鯉★★★

廣田洋一
炉を塞ぐ六畳の居間広くなり★★★
海風に香りを載せて沈丁花★★★★
雛菊や日陰に白く光りおり★★★

桑本栄太郎
去年の殻つけし侭なり薮つばき★★★
ぼうぜんとただ眺め居り梅満開★★★
暮れかぬる雲の茜や春の宵★★★

自由な投句箱/3月1日~3月10日

※当季雑詠3句(春の句・冬の句)を<コメント欄>にお書き込みください。
※投句は、一日1回3句に限ります。
※登録のない俳号やペンネームでの投句は、削除いたします。(例:唐辛子など)
※★印の基準について。
「心が動いている」句を良い句として、★印を付けています。 
    
       🍃   🍃   🍃   🍃   🍃   🍃
      今日の俳句『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著)より
   右端に🌸の印が付いている句は、(現)または(元)花冠会員の句
   名前の右端に🍁の印が付いている句は、花冠に縁の深い方の句
3月10日
★雲雀しばらくあるく我等の行く先を  川本 臥風(かわもと がふう)🍁
3月9日
★菜の花や小学校の昼げ時       正岡 子規(まさおか しき)
3月8日
★雲雀落つ谷底の草平らかな      臼田 亞浪 (うすだ あろう)🍁
3月7日
★春寒し水田の上の根なし雲      河東 碧梧桐(かわひがし へきごどう)
3月6日
★鞦韆に腰かけて読む手紙かな     星野 立子(ほしの たつこ)
3月5日
★欅大樹の空をあまさ芽立ちけり    おおにし ひろし🌸
3月4日
★葛飾や桃の籬(まがき)も水田べり  水原 秋櫻子(みずはら しゅうおうし)
3月3日
★真っ青な北をめざして雁帰る     渋谷 洋介(しぶや ようすけ)🌸
3月2日
★蝶追うて春山深く迷ひけり      杉田 久女(すぎた ひさじょ)
3月1日
★ものの芽に風荒々し月替わる     山野 きみ子(やまの きみこ)🌸

今日の秀句/3月1日~3月10日

3月10日(1句)

★あおぞらの視界ぐるりと風光る/桑本栄太郎
冬から春になると青空が急にまぶしくなる。ぐるっと見回すと空気がきらめいて感じられる。すっきりとした句が気持ちよい。(髙橋正子)
3月9日(1句)

★何処からか讃美歌聞こゆ春の朝/桑本栄太郎
春の朝、どこからともなく聞こえてくる讃美歌が、春の美しさそのままのように感じられる。(髙橋正子)
3月8日(1句)

★遅れたる友の姿や陽炎える/廣田洋一
待っていた友が遅れてやってくる。その姿が陽炎に揺らめいている。友の存在の大切さ、交流のあたたかさ、伝わってくる、感情深い句。(髙橋正子)

3月7日(1句)

★いち早く利根の目覚めし春の波/小口泰與
春の兆しがいたるところに見られるようになった。大河、利根川もいち早くはやく春に目覚め波音を立てて急ぎ流れている。新鮮で明るい心持がいい。(髙橋正子)
3月6日(1句)
 
★鳥帰るビニールハウスに雪しぐれ/弓削和人
「鳥帰る」「雪しぐれ」はどちらも意味があって、季重なりのように思えますが、「鳥帰る」が主となるテーマなので、季重なりとはいたしません。気候変動でさまざまな気候の現象が起きますが、冷静に、リアルに句に詠むことも必要で、その場合は何が主たるテーマがはっきりさせておく必要があります。(髙橋正子)
3月5日
該当句無し
3月4日(1句)

★白梅の一枝添える見舞菓子/上島祥子
見舞いの菓子に白梅の一枝を添えるというやさしさに、心温まる。外に出られない病人にとって、季節の花が添えられるのは、慰みになるうれしい贈り物。(髙橋正子)
3月3日(1句)

★ヨーデルの明るき調べ三月に/多田有花
ヨーデルはアルプス山麓の牧童が仲間と呼び交わすため裏声と聞いているが、声が雪崩を起こすのを防ぐ声とも聞く。
ヨーデルの音楽が持つ明るさと、三月の新しい始まりが上手く組み合わさって魅力的な句になっている。(髙橋正子) 
3月2日(2句)

★雛あられ母の遺影に供えけり/廣田洋一
雛祭りを象徴するものとしての雛あられを供え、亡き母を偲ぶ気持ちが十分に表れている。(髙橋正子)

★雲水の作務の手習い雪解くる/弓削和人
雲水(修行僧)の作務(労働)としての「手習い」は、習字や学問に限らず、修行の過程で徐々に身に着けていくことを指すのであろう。厳しいさむさのなかで作務を続けてきた雲水にも雪解けの季節がきたのだ。(髙橋正子)
3月1日(1句)

★河川工事進むや残る鴨のいて/多田有花
ゆったりと泳いでいる残る鴨のすぐそばで、河川工事がどんどん進んでいる。それにもかかわらず、鴨は悠然としている。自然に生きる鴨と、自然に手を加え急ぎ暮らす人間の生きざまが対比されて面白い。(髙橋正子)