2月10日(1句)
★木々の枝の剪り口白く春寒し/桑本栄太郎
剪定したばかりの木々の切り口が白い。白い切り口を見れば、まだまだ春ながら、寒そうだ。(髙橋正子)
2月9日(1句)
★投函の新聞かんと春浅し/弓削和人
「春浅し」と「かん」と言う音がよく響き合って、早春の空気の感じが伝わる。余計な表現がなく、すっきりしていい。(髙橋正子)
2月8日(1句)
★雲海に聳ゆる富士や春の旅/廣田洋一
春の旅の麗らかさがよく詠めている。雲海に聳える富士は雪を冠っているだろうが、その雄姿を眺めての春の旅。(髙橋正子)
2月7日(1句)
★北方に白き山見ゆ春景色/多田有花
在所は梅が咲きはじめたり、草が萌えたり春らしくなってきているのに、北方は冠雪の山々が見えている。冬と春が行きつ戻りつするのが、春の訪れと言える。それが春景色。(髙橋正子)
2月6日(3句)
★雪に濡れさくらの枝のほの赤き/川名ますみ
雪に濡れた桜の枝は、ほんのり赤らんでいる。咲くときが近づくと桜はほの赤い樹液が巡るという。人の指が冷たさで赤らんだように、桜もほの赤くなっていると思える。(髙橋正子)
★戸に出づや溢れ迫りし雪の量/小口泰與
上州は大雪に見舞われたようだ。戸を開けて出ると、目の前には雪が迫ってくるように高々と積もっている。その迫力に圧倒される。(髙橋正子)
★木の実植う狭庭の隅に子の未来/廣田洋一
木の実を植えたのは子供であろう。家の庭の隅に踏まれないように木の実を植えた。春がくると木の実は芽生え、子供の未来と重なるように、次第に生長していく。それが子の未来。(髙橋正子)
2月5日(3句)
★冬空に負けぬ青色るりびたき/小口泰與
「負けぬ」が力強い。冬空の力強い青さにも負けない、るりびたきの青い羽の色。冬空の青とるりびたきの青。せめぎ合って美しい。(髙橋正子)
★夕日受け在処知らせる桜貝/廣田洋一
砂浜に転がっている桜貝。夕日が差すまでは、桜貝かどうかわかない単なる石のような感じだったが、夕日が差すと、はっきりと明るく桜貝が浮かび上がった。(髙橋正子)
★早春の田の一画に供養塔/多田有花
供養塔は、災害などで亡くなった人たちや、遠い昔に亡くなった人たちを供養する塔。早春の田の一画に供養塔があるのは、かつて洪水などがあったのかと想像するが、多くの命が消えたあとの早春の田には、新しい春の息吹さえ感じられる。(髙橋正子)
2月4日(1句)
★立春の遠出をおもう陽射しかな/桑本栄太郎
立春の日差しに遠出したい思いが湧く。暦の上だけでなく、立春の日差しが実際うららかに差したのだ。暖冬と言われているが、それを頷かせる立春の日差しだったのだ。(髙橋正子)
2月3日(1句)
★塩釜の湯気立ち昇り寒椿/廣田洋一
「塩釜」は、魚などを塩に包み、蒸し焼きにする釜のこと。塩釜は野外の小屋などで焚かれることがあるが、湯気が立ち昇っている塩釜の近くに寒椿がほっこりと咲いている。寒いなかにも暖かさを思うとき。塩や湯気の白、椿の赤のイメージが重なって色彩的にも美しい。(髙橋正子)
2月2日(2句)
★眦に鳥は居りけり冬入日/小口泰與
「眦」は「まなじり」と読む。眼の耳に近い方の端。めじり。
入日が今日最後の輝きを放って落ちようとしている。その落暉のかがやきのなか、眼の端のどこかにいつも鳥が見えているというのだ。うまい詠みぶり。(髙橋正子)
★節分の妻の出掛ける壬生寺に/桑本栄太郎
京都の壬生寺は節分会で有名。壬生狂言も行われる。妻はそれを楽しみに、いそいそと壬生寺へ出かけた。(髙橋正子)
2月1日(1句)
★午後からは一月送る雨となる/多田有花
午後から雨になって、静かに一月を振り返りつつ送る思いになった。一月は往に、二月は逃げると言われているが、寒い寒いと言っている間に月日が過ぎていく。(髙橋正子)