3月6日(水)


●小口泰與
朝の陽の雲に映えけり梅の花★★★
木の間より日矢いつぱいのクロッカス★★★
夕映えや朱の交じりいる猫柳★★★

●小川和子
畦を占む草あおあおと紫雲英咲く★★★
三月の息吹みなぎる桜の枝★★★
毛氈に座し紅梅を振り仰ぐ★★★

●多田有花
啓蟄の山一息に巡りけり★★★
豪快に地球の上でぶらんこを★★★
ラジコンカー春の広場を旋回す★★★

●下地鉄 
リハビリに一念発起龍の玉★★★
わが影にくつろぐ今日の春日かな★★★★
「わが影にくつろぐ」が楽しい。わが影の映る春の日は、ほんとうにのどかな気持ちになる。(高橋正子)

潮風にうたれてつよし芝桜 ★★★

●河野啓一
啓蟄を過ぎてようやく街に出る★★★
杖つきて吾も出たきや虫のごと★★★
紅梅の満開なるを知らざりし★★★

●桑本栄太郎
春塵のままに市バスの車窓かな★★★
古家と云えど風情や梅屋敷★★★
春日さすバスの車窓の空の青★★★

3月5日(火)

●小口泰與
目配せで枝のうぐいす知らせけり★★
春浅しビルの狭間の風迅し★★★
つんつんと土を割りをるチューリップ★★★

●河野啓一
孫娘顔見せるとや春うらら★★★
麗らかに鳥声を聞く散歩道★★★
豊漁の船帰り来る春の海★★★

●小川和子
靴裏に下萌の岸やわらかし★★★
河面射す日の眩しさよ春の岸★★★

春耕のまだ始まらぬ田の広き★★★★
裏作やあるいは冬の間手入れをしないでいた田畑は、だだっ広く思える。しかし、耕しが始まるころになると、田畑も息づいてくる。その広さを感じとったのがよい。

●佃 康水
母と子の手波を添えて雛流す★★★
切り鋏音を弾ませ菰外し★★★
啓蟄や錆付く鋏磨き込む★★★

●桑本栄太郎
朝日さす在所の嶺の霞みけり★★★
さくさくと終えて家路や納税期★★★
お~い雲よ吾も連れゆけ春きざす★★★★

●黒谷光子
啓蟄の菰巻解かる城の松★★★
菰巻を解かれ蘇鉄の奔放に★★★
プリムラの鉢届けらる誕生日★★★

※好きな句の選とコメントを下の<コメント欄>にお書き込みください。

●添削3月①●

[3月1日~4日]

▼3/4

●河野啓一
鳥声もひときわ高く三月に★★★★
「ひときわ高く」に春が来うれしさがよく出ている。鳥の声もはつらつとして生命感があるのが嬉しい。(高橋正子)

旧友の訃報も遠し春浅し★★★
受験子をを囲碁の相手に誘いけり★★★

●佃 康水    
広島県大竹市雛流し3句
晴れ着の児袂持たれて雛送る★★★
見返るが如く向き変え流し雛★★★
小さき手で折敷に添える雛あられ★★★

●迫田和代
丁寧にきちんと並べる古い雛★★★
はんなりと淡く柔らか雛あられ★★★
蔵の中広くて可愛い吊るし雛★★★

●小口 泰與
たらの芽や支流溢れてごうごうと★★★
花林糖かりっと噛むやうららけし★★★
春風や一糸乱れぬ庭の木々★★★

●黒谷光子
冴え返る伊吹おろしに真向かいて★★★
雪残る湖北を囲む山並に★★★
残雪の伊吹連なる山々★★★

●多田有花
カーテンを開ければ春暁むらさきに★★★
黙々と春の山ゆく楽しさよ★★★
高枝を鳴き交わしつつ四十雀★★★

●桑本栄太郎
ひし形の雛寿司弁当買いにけり★★★
一片の雲無き朝や冴返る★★★★
葦焼きの再開なりし宇治河原★★★

●川名ますみ
水仙の低きに咲くを見つけたり★★★★
この句の生命は「低きに咲く」にある。低いところは、木の下か、道の下か、幾分の湿りもあるだろう。そういったところに咲く水仙には、日向の水仙よりも陰影を帯びた魅力がある。(高橋正子)

春雨に人の差し出す傘大き★★★
運転手大きな傘を春雨へ★★★

▼3/3

●古田 敬二
はくれんの光を纏う蕾かな★★★
出勤の子へ春の陽の高くなる★★★
咲きかけの蕾や畔のイヌフグリ★★★

●多田有花
春寒の森に響きしチェーンソー★★★
まずわが家指差す春の頂で★★★
播磨富士七合目まで春の雪★★★

●高橋秀之
春風にすっきり近し生駒山★★★
店内に幾度も流れる雛まつり★★★
友の雛飾りいくつもネット見る★★★

●桑本栄太郎
冴返るとは云え陽射しの輝きぬ★★★

鷹揚に目鼻の容や土ひひな★★★★
土雛の素朴さの魅力である。鷹揚な目鼻の容に、親しみとあたたかさを感じる。(高橋正子)

眼差しの遠き追憶古ひひな★★★

●小西 宏
自転車を漕ぐまで育ち雛祭★★★
春緋鯉ゆれ陽の満てる街の川★★★
孫帰り雛壇に菓子あった場所★★★

●河野 啓一
娘の声に想い出したる雛祭り★★★
ラディッシュの葉を喰う鳥よ春浅し★★★
春潮の寄せて播磨は須磨の浦★★★

●小口 泰與
蝋梅のほろほろ散るや雨の中★★★
春の日やばらの新芽のあえかなる★★★
榛名湖の耀う波や風光る★★★

▼3/2

●高橋 秀之
雨の夜明けて大気は冴え返る★★★
早朝の雨の滴や梅一輪★★★
春寒し白む夜空と街路灯★★★

●河野 啓一
箕面より下りきて春の小川かな★★★
つくし摘む土手の下草すべすべと★★★
ひな祭り散らし寿司かなデイの昼★★★

●桑本 栄太郎
白そろい紅の綻ぶ丘の梅★★★
梅白し午後から雨の気配かな★★★
丘上の吾の独りや梅の園★★★

●小西 宏
池底を亀這って泥春めけり★★★
梅蕾はじけて一つ花の白★★★
雲の間に青空淡し梅の花★★★

●多田 有花
朝の窓描きおりなば雉の声★★★★
描いていると、朝の窓から雉の声が聞こえた。まだまだ寒いと思っていながらも野山の雉の声を聞くとまさに春を感じる。(高橋正子)

春北風に檜の木立軋みあう★★★
白梅に次々目白渡り来る★★★

●古田 敬二
夕餉には咲きかけ菜花をお浸しに★★★★
菜花がよく出回るようになった。蕾のものが一番よいというが、少し咲きかけて黄色い花の色が見えるのお総菜なら美味しく楽しめる。心安らかな夕餉。(高橋正子)

芋植える準備の畝の平行線★★★
薄氷を揺らす触れ合う音かすか★★★

●迫田 和代
春になり鳥の囀り軽やかに★★★
低く咲く足もとにパッと春の花★★★
梅が咲き蕾のむこう青い空★★★

●小口 泰與
うすうすと梅の蕾のほぐれしか★★★
滔々の利根や奥利根春の鳥★★★
山風や大内宿の風車★★★

▼3/1

●高橋 秀之
左胸に花を挿したる卒業生★★★★
卒業生の左胸を飾る花。卒業を祝う花を一人一人が付けてもらって、誇らしく卒業してゆく。皆の祝意の籠った花だ。(高橋正子)

涙あと残し電車に卒業生★★★
大小の浅蜊取り出す一つずつ★★★

●藤田裕子
和紙とりて雛のやさしき目と逢いぬ★★★★
雛を取り出して飾るとき、お顔を覆っていた和紙の薄紙を取り外すと、雛のやさしい目と逢った。しばし、お顔を眺めたであろうが、雛を飾る嬉しさもこんなところにあるのかもしれない。(高橋正子)

軸の雛桃色淡く寄り添える★★★
春一番伊予路弾ませ到来す★★★

●桑本 栄太郎
剪定の枝先匂い春めける★★★★
春になると、空気が暖かくなるせいか匂いが立ちやすくなる。剪定した枝先からも木の良い香りが立って、春めいた思いになる。(高橋正子)

刻々と雨の気配や暖かし★★★
三月や噛む音哀しく義歯入れる★★★

●佃 康水
川底に光りあまねき水草生う★★★★
水草生い流れのままに靡きけり★★★
船笛の鳴り交う瀬戸や大霞★★★

●小西 宏
かろやかに小川せせらぎいぬふぐり★★★
竹の葉に空見上げれば春の光★★★
うっすらとして白梅の芽の緑★★★

●多田 有花
春日傘横断歩道を渡りゆく★★★
春荒れに身体傾け少年は★★★
三月やパステルカラーのラグを買う★★★

●河野 啓一
賑やかに一筋春の小川かな★★★
雨上がり芽出し愉しきチューリップ★★★
白梅のようやく咲きし庭の隅★★★

●小口 泰與
芥菜や山風強き里の朝★★★
青ぬたや信濃の里へ墓参り★★★
あけぼのの磁器の冷たき春火鉢★★★

※好きな句の選とコメントを下の<コメント欄>にお書き込みください。

●添削2月④●

[2月24日~28日]

▼2/28

●桑本 栄太郎
春めきて襟足すっきり髪を切る★★★★
春宵となりしねぐらへ群れ鴉★★
夕日落つ嶺の茜や二月尽★★★

●小西 宏
早春のさくら木々立つまるい空★★★★
やわらかに竹の音する春うらら★★★
肌なでるかぜ陽光よ梅蕾★★★

●河野 啓一
池の面のきらきら揺れて二月尽★★★
芽柳に触れつつ行く日池巡る★★★
寒き日の吾旅なりき二月尽★★★

●井上 治代
採りたてのほうれん草の甘さかな★★★
水温む小川で鍬を洗いおり★★★
サラダにとレタス切る音春めきぬ★★★

●黒谷 光子
春の月まどかに上がり松の上★★★
時おりは背筋伸ばして青き踏む★★★
入相の鐘の余韻や二月尽く★★★

●多田 有花
蔓を刈る人のありけり春日和★★★
東屋に梅を眺めつ笛吹く人★★★
暖かと言い合いそのまま別れけり★★★

●祝 恵子
ぬかるみの道を通りて梅まつり★★★
花三椏曲がれば水車まわす水★★★★
二人してよもやま話竹の秋★★★

●小口 泰與
山風をたばねて赤城冴返る★★★
たんぽぽや風の中なる山上湖★★★
青麦の同じ方へと波打てり★★★

●高橋 秀之
沖待ちの船を隠すは春霞★★★
穏やかに寄りつき引いて春の波★★★
海峡を染める大空春夕焼け★★★

▼2/27

●川名ますみ
鉢の梅やさしき影を絨毯に★★★
一輪のことりと落ちて梅に音★★★
花のいろ芽のいろ揺らし春ショール★★★

●河野 啓一
流氷の岸辺に寄せてオホーツク★★★
薄氷解けたる池の魚の影★★★
ヒヤシンス雨上がりたる街の明るさに★★★

●小西 宏
蹴る足に水したたらせ鴨の春★★★
陽の谷(やつ)に入りて知りけり梅一樹★★★
丘高き畑に雲浮き梅の影★★★

●古田 敬二
濡れた目で遠くに菜の花見てる牛★★★
春昼やホルスタインの背の黒光★★★
はくれんの蕾や天にざわめけり★★★★
はくれんの蕾や天にざわめける(正子添削)
はくれんの数多の蕾が膨らんできた。空の中でざわめいている感じだ。静かなものも、花の季節は落ち着かない。(高橋正子)

●桑本 栄太郎
天窓の春日こぼれし広場かな★★★
ごみ袋持ちて散歩や春きざす★★★
紅梅の丸くふくらみつぼみけり★★★

●多田 有花
紅白梅そろい咲きたる谷となる★★★★
紅梅も白梅も咲き揃う谷が、のどかで明るい。特に「谷」という地形が詩情を生んでいる。(高橋正子)

雨上がり日の差す谷に初音して★★★
ドライブウェイ下りつつ停め梅見かな★★★

●黒谷 光子
生垣の根方蕾める黄水仙★★★
春の靄山の麓の村覆う★★★
※俳句では「春の靄」のことを「霞」といい、「秋の靄」のことを「霧」と言います。(高橋正子)

盆梅に賑わう街へ小買物★★★

●小口 泰與
朝日射す田水や芹を摘む人よ★★★
遠嶺の彫の定かや凍返る★★★
落椿堰にとどまる日暮かな★★★

▼2/26

●小西 宏
ベランダの春や雀の水くぐる★★★★
ベランダの小さな水鉢であろうか、雀が水をくぐる。その所作は眺めて楽しいものだが、そこに春を感じ取ったのは、俳句の目。(高橋正子)

陽だまりの窪地に梅のつぼみ愛ず★★★
森奥より囀り漏れる明るい日★★★

●桑本 栄太郎
生駒嶺の彼方に遠く春の雪★★★
高槻の畝間に水の風光る★★★
丘上の一木のみや梅白し★★★

●河野 啓一
パン屑をつつく雀ら春浅し★★★
春セーター誕生祝いの嬉しさに★★★
褒められし春帽子嫁の見立てかな★★★

●多田 有花
春めくや初めて求む油彩額★★★
森に差す陽に三月の近きかな★★★
春の陽や夕べは雨になる気配★★★

●小川 和子
持ち物を芽木に掛け子らボール蹴る★★★
ふらここの児の背を大き掌の押せり★★★
ふらここのチェーンに日射煌けり★★★

●古田 敬二
白梅の五弁に雄蕊の影薄く★★★
春野菜優しく袋を膨らます★★★
手折るには程よき長さ菜花摘む★★★

●小口 泰與
夕映えの沼や梅の香ひろごれり★★★
春浅し満天の星美しや★★★
雪の間の丘の傾斜や座禅草★★★

▼2/25

●古田 敬二
咲きかけの白梅花弁に丸みあり★★★
風花やふるさと遠く思いけり★★★
蝌蚪の紐待つ山の池光けり★★★

●藤田 洋子
下萌に自転車を立て岸の風★★★★
きらめいて川は二月の空映す★★★
川うすく濁りて午後の二月光★★★

●小西 宏
春の夜の外の面厳しき風の音★★★
笹竹の朝日に震う春の冷え★★★
早春の風遮れば陽の満てる★★★

●桑本 栄太郎
春日さす天窓明るきオフィスかな★★★
春雪の橋を往く間にふぶきけり★★★
梅が香の空にふくらみ紅かざす★★★

●多田 有花
空色の絵具数本買いし春★★★★
納税を済ませ早春の街へ★★★
伊予柑食ぶ果汁に指を濡らしつつ★★★

●小川 和子
春浅き芝生へ子らの声翔ける★★★
バラ園の枝に赤味の差す新芽★★★
ひいふうみい白梅数えるほどひらく★★★

●小口 泰與
蓬摘む榛名富士より雲一朶★★★
山風を身に溢れさせ蓬摘む★★★
葉を浮かせ渦まく瀞やうららなり★★★

▼2/24

●桑本 栄太郎
大阪府三島郡とや梅の花★★★
天王山春の夕日に染まりけり★★★
西を向く民家の土塀や春夕焼★★★

●多田 有花
春光やがたんごとんと列車音★★★
車きれいに洗われて春の陽に★★★
梅三分咲き真っ黒な犬がゆく★★★

●河野 啓一
苗作り乙女椿の挿し穂採る★★★
夕霞み生駒山麓まで昏し★★★
梅一樹紅色淡く香を放ち★★★

●小口 泰與
釣竿の手元飛びかう虻二匹★★★
熊蜂の貌に手足に花粉かな★★★
飛び交いて花粉を被ずく小花蜂★★★

●添削2月③●

[2月17日~23日]

▼2/23

●藤田裕子
夕闇をほっと灯せり紅椿★★★
紅椿陽に向き蕊の金色に★★★
秒針音余寒の部屋を刻みおり★★★

●桑本 栄太郎
登校の列の影為し凍返る★★★★
遅霜の屋根に連なる駐車場★★★
芽柳の仄かに青み土手の風★★★

●多田 有花
ジョギングの人紅梅の坂のぼる★★★
ある山はその影にあり春の雲★★★
頂に吹く風確かに春の風★★★

●古田 敬二
春耕やそこだけ地球は柔らかし★★★
地に落ちるまでの長さよ春の雪★★★
たちまちに地に姿消す春の雪★★★

●迫田 和代
陽を浴びて庭石の傍蕗の薹★★★
瀬戸内の汐切り泳ぐ細魚かな★★★
隅っこに汚れた雪の明るい田★★★

●小口 泰與
山風に逆らいつつも揚雲雀★★★
野良猫や雉の鋭声の高らかに★★★
榛名嶺の彫の豊かや揚雲雀★★★★
日ごと強くなってゆく春の日に榛名山の山襞が陰影深くなる。雲雀が空高く揚がり、意気揚々の様。春の日差しに充ちた句。(高橋正子)

▼2/22

●桑本 栄太郎
<神戸港>
クレーンの船に荷降ろす春の潮★★★
春潮や水面輝きふくらみぬ★★★★
瀬戸内海の春潮は、水面がゆったりと膨らんで寄せてくる感じがするのは事実。このやわらかな膨らみに日の輝きが加わると「春潮」も実にゆたかな潮となる。(高橋正子)

春潮の船の起重機神戸港★★★

●佃 康水
夫婦して一樹撮り合う梅赤し★★★ 
草萌えの土手へ子犬の息弾む★★★ 
水底に青き藻の透け春の川★★★

●小西 宏
駅に立てば遠き甍の梅霞★★★
春の雲浮かんで丸き昼の月★★★
黒犬がピンクの服で春歩く★★★

●多田 有花
春の曙遠ざかる救急車の音★★★
かさこそと二月の森の白腹は★★★
事故現場供えられたる内裏雛★★★

●黒谷 光子
春の川村の真中を光りつつ★★★★
のどかなで平和な村。村の真ん中を緩やかに光りながら流れる春の川は、皆の生活の中に愛される川。「村の真中」であるのがいい。(高橋正子)

堰越える春水光りつ奏でつつ★★★
一村を潤し何処へ春の川★★★

●小口 泰與
さえずりや喉をうるおす五色飴★★★
雪の間の畝に鳶の急降下★★★
春嵐餌を争う鴉かな★★★

●河野 啓一
枯れ枝に三々五々と春の鳥★★★
黄水仙つぼみは上を花伏し目★★★
春雪の消えし箕面の山であり★★★

▼2/21

●古田 敬二
菜花摘む昼餉のパスタに足るほどに★★★★
一人か二人の昼餉であろう。少しあれば足りる菜花である。茹でられて色鮮やかな菜花は春の彩りとして楽しめる。「足るほど」の慎ましさがいい。(高橋正子)

春蘭を見れば楽しき日となりぬ★★★
芽吹き待つ木立の向こう人の声★★★

●小西 宏
浅春の夜の沈沈と肩に触るる★★★
早春の帽子に眠る乳母車★★★
春の風やがて収まり鳥の声★★★

●高橋 秀之
大空の星の輝き春浅し★★★
春の月周りに輝く星数多★★★
歩き行く夜の帰宅路春寒し★★★

●桑本 栄太郎
春きざすポイント五倍の商店街★★★
カーテンの外は日溜まり春きざす★★★
青空につづく茜や春の宵★★★

●佃 康水
広島元安川とその周辺
橋桁へ淡き藻草や水温む★★★
囀りや川へ伸びゆく太き枝★★★
学徒碑へ枝飛び交いて囀れり★★★  

●祝 恵子
二ン月や桜盛られし美容室★★★
雲雀鳴く芝養生の土手傾斜★★★
ただ今芝の養生中の土手。芝はまだらに芽生えつつあるのか。土手の傾斜に空から囀りをこぼす雲雀。風はまだ冷たいが、気持ちはのびやか。(高橋正子)

霞む山川舟音させ波を連れ★★★

●多田 有花
梅開く遠目に紅く見ゆるほど★★★
陽の中で見る遠山の春の雪★★★
淡雪がふわりふわりと針葉樹★★★

●黒谷 光子
降るほどに積もらぬことも春の雪★★★
春雪を見るに時おり寄る窓辺★★★
雪の多い湖北。春の雪が積もるか積もらないか。降りざまを時に窓辺に寄って見る。はらはらと降る雪も、颯々と降る雪も、雪の降る様をついつい見てみたくなるのも俳句の心というものか。(高橋正子)

春雪の続く予報や豆を煮る★★★

●小口 泰與
梅林のつづく堤や家遠し★★★
数隻の舟を舫いし風光る★★★
榛名嶺の霞被きぬ里は晴★★★

▼2/20

●小西 宏
淡雪の深みに浮かぶ梅の苑★★★
休耕の畑の白さや春の雪★★★
里山の崖なだらかに斑雪★★★

●桑本 栄太郎
買物の妻を待つ間や春眠し★★★
柔らかに嶺の連なり春の宵★★★
枝先の茜に影や春の宵★★★

●黒谷 光子
うっすらと木々の装い春の雪★★★
小督読む平家の講座春の雪★★★
春雪の夜を飛機の音くぐもれる★★★

●多田 有花
遠山のくっきりと見え冴返る★★★★
山向こう摂津丹波の冴返る★★★
傾ける日に梅が枝を差し伸べて★★★

●河野 啓一
早朝の梅林小鳥と青空と★★★
梅林につぼみ膨らみ天守閣★★★
白と黄に咲いてさざめく庭水仙★★★

●古田 敬二
薄氷を翳せば光零れけり★★★
梅開くひいふうみいよう数えけり★★★
開花待つ春蘭蕾丈揃え★★★

●迫田 和代
菜の花を橋を渡って摘み帰る★★★★
菜の花は、橋を渡った向こう岸に咲いている。普段自宅の窓から見えている菜の花かもしれない。摘みとった菜の花は身近に活けて楽しまれたことであろう。(高橋正子)

空仰ぎ前と違った春の空★★★
並木道春芽膨らみみどり増し★★★

●小口 泰與
春の風木道天へ続きけり★★★
春なれや利根の川風変わりいて★★★
ほつほつとばらの新芽のいでにけり★★★

▼2/19

●佃 康水
新パソコン来てより苦戦山笑う★★★
前撮りの花嫁白梅(うめ)へ歩み寄る★★★
虎杖の芽吹き野川の水豊か★★★

●黒谷 光子
ことことと玻璃戸の鳴りて春浅し★★★
大枝を剪り壺に挿す紅椿★★★
壺に挿す紅き椿の蕾がち★★★

●桑本 栄太郎
芽吹く枝の赤く艶めく今朝の雨★★★
枝先の朱色滲みし雨水かな★★★
階段の川と流るる春の雨★★★

●古田 敬二
指先に痛み走れり余寒かな★★★
咲きかけの花弁震える余寒かな★★★
両端のとんがる月や冴え返る★★★

●河野 啓一
芯黒く白磁に溢れ金盞花★★★

明るくて黄水仙生きる喜びに★★★★
黄水仙は、白い水仙に遅れて早春に咲きだす。その鮮やかな黄色い色が元気をくれて、生きる喜びになっている。素晴らしいことだ。(高橋正子)

すさまじき隕石春の衝撃波★★★

●多田 有花
春雪を戴く六甲山仰ぐ★★★
雨あがり春北風鳴らす明けの窓★★★
街の音消して降り来る春の雪★★★

●小口 泰與
山風の柔くなりたり厩出し★★★
雪の間の初々しきや蕗の薹★★★
榛名嶺の空に春星あふれ出で★★★

▼2/18

●高橋 秀之
春時雨霞む沖には貨物船★★★
早春の雨に包まれ遠き山★★★
夕暮れて梅の蕾に雨が落つ★★★

●桑本 栄太郎
西山の春の驟雨にけぶりけり★★★
丘に沿い傾ぐ竹笹春の雨★★★
坂道の瀬波となりぬ春驟雨★★★

●多田 有花
軽鴨や集いて春眠楽しめり★★★
春寒に新駅ビルの立ち上がる★★★
早春の大阪湾に船数多★★★

●河野 啓一
賑わいて人工ゲレンデ春の雪★★★
春霖の温かき風運び来る★★★
梅の香を閉じ込めるごと朝の雨★★★

●祝 恵子
春の雪まつ毛にふわりまたふわり★★★
のどかなるお宮参りや鈴のなる★★★
竹を風さわさわ音させ春来たる★★★★
春風が竹をそよがす音が「さわさわ」である。竹の葉が触れあいそよぐ、「やわらかさ」の感覚が春をうまく表している。(高橋正子)

●小口 泰與
石投げて湖狭くせる日永かな★★★
渓流の瀞に日影や春の雲★★★
春霞ほこと湧きけり湖の奥★★★

▼2/17

●高橋 秀之
大空に薄く下弦の春の月★★★
紅梅のひとつふたつと枝の先★★★
対岸に船の灯火冴え返る★★★

●川名ますみ
しだれ梅なれど空指す一輪に★★★
浅春の客人を待ち煮染め炊く★★★
おにしめに莢隠元のみどりの香★★★

●小西 宏
春のかげ曇天近く漂える★★★
柔らかに桃色ひろげ梅蕾★★★
どんぐりの殻割れ土に白い角★★★

●桑本 栄太郎
春北風の四条大橋日差しけり★★★
珈琲館へ連れの舞子の春めける★★★
堰堤に沿い鴨川の春北風★★★

●藤田裕子
椿祭りの今朝春雪の手に消ゆる★★★
梅ひらく米寿の母の笑み零れ★★★
猫柳光り膨らむ川べりを★★★

●黒谷 光子
芽柳の枝垂れゆたかに池の辺に★★★
春雪の舞う神宮の朱の鳥居★★★
能楽堂出て浅春の風の中★★★★
能を鑑賞して外に出れば、春まだ浅い風が吹く。肌寒い風に能の余韻はほっこりと心を占めている。(高橋正子)

●河野 啓一
冴え返る給湯管も用なさず★★★
早春の海見下ろして六甲山★★★
春浅し鳥影も見ず野の池に★★★

●小口 泰與
春光やあわき色あい変り玉★★★★
永き日や日矢を浴びたる牧の牛★★★
一分の診療を待つ日永かな★★★

●添削2月②●

[2月10日~16日]

▼2/16

●黒谷 光子
苔むしし古寺の石垣春の雪★★★
墨塗らる門院の御影冴え返る★★★
泉水を臨み手かざす春火鉢★★

●佃 康水
残雪の光りへ杉の長き影★★★
ゆったりと四肢伸ぶ亀へ水温む★★★
新駅の普請の音へ春の雪★★★★

●小西 宏
ひと雨の土艶やかや梅の苑★★★
笹吹かれ青天深き春の寒★★★
春風の池かがやかせ寄せ来たる★★★

●河野 啓一
風花の舞うや朝日にきらきらと★★★
春寒し日差しの中に杖突きて★★★
けなげなる子持雀の太さかな★★★

●桑本 栄太郎
突風の嶺から里へ春の雪★★★
ワイパーに刷かれしずくや春の雪★★★
竹林の笹に春雪しづりけり★★★

●多田 有花
快晴の余寒の朝へ干し物を★★★★
春雪に姿隠して北の山★★★
早春やカリフォルニアの柘榴食ぶ★★★

●迫田 和代
我儘に朝湯を浴びる春の風邪★★
咲いて香り散って香れる梅日和★★★
春が来て窓からの音ゆったりと★★★

●小口 泰與
うららかに和紙に包まる和菓子かな★★★★(正子添削)
ほのかに透ける和紙に和菓子が包まれ、うららかな春そのもの。透けるものの美しさは、日本的な美であろう。(高橋正子)

空を見よ春のあけぼの赫に染め★★★
思うこと春朝焼けの紅の色★★★

▼2/15

●古田 敬二
土を掻けば団栗湿りて芽吹きけり★★★
梅林の一角先駆け咲く気配★★★
梅一輪咲き初む風の緩き日に★★★

●桑本 栄太郎
陽光のぱつと厨へ春きざす★★★
ワイパーの時折傾ぎ春しぐれ★★★
遅き日や雑木林の陽を背負い★★★

●多田 有花
春の雨春をすすめる雨の降る★★★
カラフルに並ぶ門先春雨傘★★★
雨の日の増えし播磨の春めきぬ★★★

●川名ますみ
川縁のしらうめ雨に耀きぬ★★★
白梅に川面に雨の降り注ぐ★★★
多摩川の流れて岸に梅真白★★★★
多摩川の流れと白梅の清潔さが、早春らしさを醸している。(高橋正子)

●河野 啓一
-熊本へ小旅行続-
高原の宿春空の広さかな★★★
春雨のつれづれ肥後の手毬唄★★★
春霖にけむる一望草千里★★★

●小口 泰與
摘草やきらら耀う水掬い★★★
春の日や金平糖の色さやか★★★
春暁や西に満月煌々と★★★

▼2/14

●小西 宏
木々の芽の日に日に太し明るさに★★★
薄っすらと蕾みどりに梅の苑★★★
土塊に緑まるまる蕗の薹★★★

●桑本 栄太郎
青空のうす雲ながれ丘の梅★★★
山茶花の地に花びらの囲みけり★★★
春北風や忽ち雨の降りきたる★★★

●多田 有花
春の眠り暁のころに目覚めけり★★★
春なれや播州平野を囲む山★★★
宅配で食材届く春の昼★★★

●古田 敬二
咲いたねと声掛け屈むいぬふぐり★★★
切り株に座して春の句を探す★★★
頬に優し樹間を縫って春の風★★★

●小口 泰與
利根川の流れ耀う春の朝★★★
うららなる漆細工の食器かな★★★
嬬恋の山や春星かぎりなし★★★★
嬬恋の名が、「春星かぎりなし」に効果的に働いている。嬬恋村の春星の夜が潤み情感豊か。(高橋正子)

▼2/13

●小西 宏
はち切れて白生まれんと梅蕾★★★
風吹くといえども野辺の麗らかや★★★
児の遊ぶ日差しに芝の青芽ぐむ★★★★
「青芽ぐむ」が、児の可愛らしさとよくマッチして芽ぐむ季節が楽しくなっている。(高橋正子)

●桑本 栄太郎
春北風にシャトル流るるバトミントン★★★
まんさくの空に綻び散らしけり★★★
竹林の千々に傾ぐや春北風★★★

●河野 啓一
阿蘇熊本へ一泊旅行
遠霞み窓覗き合うバスの旅★★★
春雨や九重連山阿蘇五岳★★★
花の頃また訪ねたき肥後の国★★★

●多田 有花
雨あがり空の青さの春めけり★★★
紅梅のしべにゆうべの雨しずく★★★
見上げれば青き空へと梅ひらく★★★

●迫田 和代
テーブルの白磁の花瓶菜の花を★★★
春の雨紫にけぶる道を行く★★★
春の海霞んだ沖から船の影★★★

●小口 泰與
早春の湖やわらかく耀へり★★★
蕗味噌をたっぷり腹へ魚焼く★★★
産土の赤城榛名と雪解かな★★★

▼2/12

●桑本 栄太郎
竹林の節々白く冴え返る★★★★
ほつほつとものの芽青む朝日かな★★★
蘂堅く風に香りて梅ひらく★★★

●古田 敬二
合格のベル鳴る春の陽の眩し★★★
忘れられし野良着に跳ねる春霰★★★
鳥多し春を探しに森に入る★★★

●佃 康水
(広島三原の達磨市・植木市)2月8~10日   
芽吹き山そびらに満の達磨売る★★★★  
植木市道へ蕾の枝張れる★★★
暮れ遅し魚網繕う船留まり★★★

●多田 有花
<鎌倉山行者道を歩く>
磨崖仏二月の日差しを正面に★★★★
春泥の獣の跡を踏んでゆく★★★★
<札幌ナンバーのライダーを目撃>
旅人は北の国から春淡し★★★

●川名ますみ
朝食の席にひかりと梅の香と★★★★
テーブルに朝陽の来たり梅が香も★★★
スプーンを置けば梅の香あたらしき★★★

●黒谷 光子
紅梅の枝を差し交す空は青★★★
紅梅の枝も蕾も紅の濃き★★★
薄氷のままに蹲踞黄昏るる★★★

●小口 泰與
うららかやボートの色の新たなり★★★
利根川の波荒ぶるや蕗の薹★★★
雪間より日の出の紅や春炬燵★★★

▼2/11

●古田 敬二
梅一輪見知らぬ人と愛でにけり★★★
逢いたくて来た道帰る梅一輪★★★

耕せし畑に踊る春霰★★★★
耕し終えた畑に、急に春の霰が降ってきて、土の凹凸に当たってか、跳ねて踊る。「踊る」霰の様子が見える。(高橋正子)

●桑本 栄太郎
天地(あめつち)の日差しうらうら建国日★★★
風止みてよりの陽射しや春の雲★★★
雲ながれ天に流るる春の星★★★

●多田 有花
<加西市鎌倉山登山>
石仏を辿り早春行者道★★★★
小さき山連なる先の海霞む★★★
風花や法起菩薩の頂に★★★

●小口 泰與
嬬恋の川の流れも春べかな★★★
春光や山麓の牧ひろびろと★★★
忽然と風音変わり凍返る★★★

▼2/10

●古田 敬二
どの枝も膨らむ蕾目覚めけり★★★
野良をゆくしなやかな黒恋の猫★★★
あぜ道の小さき星よイヌフグリ★★★

●小西 宏
竹林の青深く揺れ春の風★★★
浅き春ひよどりの声空に流る★★★
丹沢の春霞なる青き峰★★★

●桑本 栄太郎
横風の陽射しの中を春の雪★★★
朝日射し枝に花咲く春の雪★★★
ほつほつとほほに春雪夜の家路★★★

●多田 有花
川を生む山の重なり春初め★★★
啄木鳥の奏でし音に春動く★★★

汲まれたる桶それぞれの薄氷★★★★
木桶に汲まれた水であろう。どの桶にも桶の木肌を透かして薄く氷が張っている。一つの桶でなく、「それぞれ」の桶があってリズミカルな面白さがある。(高橋正子)

●河野 啓一
雲二つ結べる春の飛行機雲★★★
冴え返る長き歴史や建国日★★★
縁薄いバレンタインの贈りもの★★★

●小口 泰與
春めくや越後駄菓子のはっか糖★★★
名にし負う会津駄菓子やうららけし★★★
長閑さや飴の中から当りくじ★★★

●添削2月①●

[2月1日~9日]

▼2/9

●高橋 秀之
一皿に三尾並んで目刺かな★★★
春寒し友と集いの夜の宴★★★
春となって、友と集い楽しい夜の宴であるが、体のどこか寒い。うすら寒い春の夜、なんとはなしの人の悲哀がある。(高橋正子)

声もなく目を閉じ電車の受験生★★★

●佃 康水
はらからと再会約す梅の寺★★★
集いゆく車窓へ瀬戸の春霞★★★
海光へ熟れし八朔日を弾く★★★

●桑本 栄太郎
目覚むればうすき明かりや春障子★★★
街角のビルに風巻く余寒かな★★★
春雪と云えど遠嶺の陽射しけり★★★

●多田 有花
いつまでもたどり着けない春の夢★★★
青竹の切り口揃う余寒かな★★★
日当たりのよき斜面から梅開く★★★

●黒谷 光子
春雪に日裏日表くっきりと★★★
靴跡の先ず土を見せ春の雪★★★
春雪に日差し明るき厨窓★★★

●小口 泰與
山風に逆らいつつも麦を踏む★★★
雪の間のほうれん草へ朝日かな★★★
公魚やセシウム出でてどっちらけ★★

▼2/8

●古田 敬二
走り根の大地へ太く春立てり★★★★
春立ちて木立の影も濃くなりぬ★★★
ほつほつと白きもの見え梅林★★★

●小西 宏
白梅の蕾みどりに枝の直(なお)★★★
一木に梅咲いて風なお寒し★★★
浅春の風寒ければ大き富士★★★

●桑本 栄太郎
梅ひらくつぼみ眺めつ空仰ぐ★★★
枝ごとの艶めき芽吹く雪やなぎ★★★
春の雪傘をさす間に陽射しけり★★★

●藤田裕子
遠き日も透くことうれし葛湯掻く★★★
遠山に春雪かがやき街始動★★★
畑に群れ菜の花ひといろ黄の淡し★★★

●多田 有花
風花の彼方に海の光りけり★★★★
風花は晴れていながら舞う雪片のことであるが、風花の舞う日の天候をそのまま描写して、景色が鮮明である。このところの冷え込みに風花が舞う日となったが、海の明るさに「春遠からじ」と思える。(高橋正子)

まだ咲かぬ梅林歩く冴返る★★★
風やんで寒のもどりを残しゆく★★★

●河野 啓一
冬菜サラダ妻の自慢の自家栽培★★★
冴え返る陽のみ明るき朝の刻★★★
春浅き浜辺望めば海光る★★★

●迫田 和代
何となくいいことの予感春を待つ★★★
土を噛むごと野に咲くタンポポや★★★
瀬戸内の細魚の刺身ガラス器に★★★

●上島 祥子
スケート場常に前行く小学生★★★
ゆっくりとリンクを回る母娘かな★★★
スケーター踏み出す一歩に迷いなし★★★

●小口 泰與
あわあわと淡雪解けし棚田かな★★★
懐かしき会津駄菓子や春兆す★★★
利根川の流れ耀う春の朝★★★

▼2/7

●川名ますみ
療苑に伸び続けたる枯木立★★★
土近きよりひらき初む枝垂梅★★★
春来る大き役者のゆきし朝★★★

●桑本 栄太郎
春浅し梢つんつん青空に★★★
枝揺らし雨滴はらえり春の鳥★★★
うつすらと嶺に春雪雲去りぬ★★★

●小西 宏
雪解けの庭に皮靴並べ干す★★★
春風吹き池面はげしく輝けり★★★
鴉群れ乱れ吹き飛ぶ春の風★★★

●黒谷 光子
春寒の日差しの中を三輪車★★★

鐘の音に児ら寄ってくる春の夕★★★★
春の夕べ、まだ外で遊んでいた幼い子たちが鐘の音に不思議そうに、もの珍しげに寄ってくる。鐘を撞く人と幼い子のほのぼのとした世界が童画を見るようだ。(高橋正子)

春浅し両手に包む小さき手★★★

●多田 有花
白梅の一枝置きし昼の膳★★★
紅梅の南に向いてまず開く★★★
春光をきらきら返し池の水★★★

●河野 啓一
早春の光纏いて鳥は樹に★★★
丘に立ち港望めば春の潮★★★
春雨に濡れてきらきら庭の樹々★★★

●小口 泰與
山風に勢い勝る畦火かな★★★
ためらいて犬小屋みすう芝火かな★★★
今年また公魚釣の出来ぬかや★★★

▼2/6

●川名ますみ
朝澄みて枝垂れし先に梅一輪★★★
玻璃越しに梅の香どつと近寄れば★★★
近寄れば梅の香どつと玻璃を越え★★★

●高橋 秀之
水鳥の羽ばたきの音春空へ★★★★
冬の間も生きいきと暮らしていた水鳥が、北へ帰る日も近いのか、羽を広げ羽ばたきの音をさせる。春空へ向けて力強い羽ばたきである。(高橋正子)

春雨のライトに光る御堂筋★★★
大根の熱き味噌汁椀一杯★★★

●多田 有花
春の雨濡らす香住へ蟹食べに★★★
春早し大きな蟹に迎えられ★★★
春雨は沖よりあがり日本海★★★

●桑本 栄太郎
春迎へ光り耀く里の屋根★★★
鴨川の堰の耀き春迎ふ★★★
たちまちに春泥なりし今朝の雨★★★

●上島 祥子
暖かな夜明けの光厨窓★★★
飼い猫の膝に合わせて丸くなり★★★
スケートや吾子のようにままならず★★★

●河野 啓一
春雨や街の車も濡れながら★★★
雨もよい門辺に芽吹く黄水仙★★★
雨を得て芽も緩みくるチューリップ★★★

●黒谷 光子
春雪の予報に畑のもの囲う★★★
葱を煮て白根甘しを言い合えり★★★
春炬燵玻璃に日の差し雨上がる★★★

●井上 治代
山茶花の花びら数多散り敷きぬ★★★
霜焼けの耳たぶ少しあたたかし★★★

早も咲ける菜の花の丈低かりし★★★★
春も暦ばかりと思えるのに、早も菜の花が咲いて黄色い光を返している。先駆けの菜の花らしく「丈低かりし」であって、実在感がある花となっている。(高橋正子)

●小口 泰與
赤城嶺の彫の深さや犬ふぐり★★★
片栗の花や越後の空のどか★★★
雪の間に巨大な影やクロッカス★★★

▼2/5

●河野 啓一
数えれば愛しきつぼみ庭椿★★★
春浅き庭の鳥声烏鷺囲む★★★
チューリップ芽生え可愛いや雨もよい★★★

●川名ますみ
どの枝も伸び続けたる枯木立★★★
山茶花の散つて明るき家路なり★★★

春隣窓辺のパセリ少し摘む★★★★
窓辺のパセリは、まだまだ小さく縮こまっているが、春の兆しを感じて少し育ってきているように思える。少しだけ摘んた。小さな収穫の喜びと春がそこまで着ている嬉しさが読みとれる。(高橋正子)

●桑本 栄太郎
立春の湾処に人の釣りの輪に★★★
川浪のきらきら耀き寒明ける★★★
嶺の背にぽつかり雲の春立てり★★★

●小西 宏
火の気なき炬燵に座り戦後史読む★★★
艶やかに木の芽ぬれおり温き雨★★★
ゆきやなぎ花芽みどりの霞なす★★★

●多田 有花
立春の塩味まんじゅう緑茶かな★★★
ストーブを点けたり消したり寒明ける★★★
頂に薄き日差しや春寒し★★★

●小口 泰與
榛名嶺に淡き夕映えミモザかな★★★
まんさくや浅間南面斑なり★★★★
浅間山の南面は雪が解け始めたところもあるのだろう、斑になっている。その山を背景に春を先駆けるまんさくが咲いている。色彩的にも美しい早春の景色である。(高橋正子)

下萌えの河原の寒き夕べかな★★★

▼2/2

●古田 敬二
一閃の光となりてメジロ来る★★★
指先に快音折り取るブロッコリー★★★
葉に霜を載せて咲きかけイヌフグリ★★★
霜がまだ葉に固く置いているのに、もうイヌフグリが咲きかけた。霜の置いた小さな葉と青い小さな花が健気にも可憐だ。(高橋正子)

●川名ますみ
人参の剥く皮の香を語りけり★★★
挨拶は梅のつぼみの膨らみに★★★
母の指す先に一輪梅咲けり★★★

●小西 宏
紅梅の蕾の雨に色浮かぶ★★★
空の色春めき淡き峰の影★★★
水仙の断崖に海ひかり一筋★★★

●桑本 栄太郎
枝先の雨滴艶めき春近し★★★
二ン月の哀しくなりぬ今朝の雨★★★
スケボーの技を競いぬ春隣り★★★

●多田 有花
金色に塗りしキャンバス冬終わる★★★
摩尼車静かに回り冬尽きぬ★★★
鍵失くしありがたきかな寒ぬくし★★★

●下地 鉄
窓にみる街の灯びはや睦月★★★  
ミモザ咲く空の青さに色を染め★★★      
春菊の香りも味の一つかな★★★

●小口 泰與
薄氷の風に割られて離れけり★★★
日溜りのあちらこちらに冬芽かな★★★
隼の風を味方や利根河原★★★

▼2/1

●小西 宏
沼涸れて緑明るき竹林★★★
枯れ果てて蒲の穂綿の吹き積もる★★★
冬木の芽小雨滴たる暖かさ★★★

●黒谷 光子
菰巻の大松池に影落とす★★★★
菰が巻かれた大松。池に落とすその影も堂々とゆるぎない。堂々としたものの、普遍的な良さ。(高橋正子)

餌を撒かれ素早き動き鴨の群★★★
鴨群れる中の一羽は瑠璃光る★★★

●多田 有花
蝋梅に誘われ坂を下りにけり★★★
涸池に二羽の家鴨が水を飲む★★★
菜の花のはや開きおる春隣★★★

●桑本 栄太郎
カーテンを開けて玻璃透き寒緩む★★★
丘上の朝日燦々ニン月に★★★
中庭に声弾む子等日脚伸ぶ★★★

●小口 泰與
碧天や雪煙り起つ浅間山★★★
柿の蔕数多のこりし枯木かな★★★
山風に瀬頭荒れし氷柱かな★★★

●添削1月④●

[1月20日~31日]

▼1/31

●藤田 洋子
山の日を弾く一輪梅早し★★★
梅早し街空広く澄みいたる★★★★
生活する街に、青空が広がる暖かい日だったのだろう。早くも梅がほころんだ。澄んだ空の色と真っ白な梅の花がきよらかな風景となっている。(高橋正子)

膝の上たたむ干し物日脚伸ぶ★★★

●小西 宏
白過ぎ行く枯枝を鷺ゆうるりと★★★
小鳥肥え谷戸の林を探梅す★★★
西空に富士探す日や春近し★★★

●桑本 栄太郎
寒禽の声やモールス信号と★★★
つぼみより笑みこぼれ居り梅早し★★★
足もとの鳩の動ぜず日脚伸ぶ★★★

●多田 有花
明け初めし紺青の空月冴ゆる★★★
一月の逝くや明るき光充つ★★★
日脚伸ぶ夕空紫紺のグラデーション★★★

●河野 啓一
咲き遅れひっそり白き花八手★★★
寒木瓜の木陰に紅い花を着け★★★
UFOを見たとのうわさ春近し★★★

●黒谷 光子
冬日向どこかの子猫うずくまる★★★
眩しくて鴨の着水見損なう★★★
湖青く対岸を消す冬霞★★★

●小口 泰與
日脚伸ぶ梢も揺れぬひと日かな★★★
良寛の無心の詠や春を待つ★★★
いかんせん老いの一徹春を待つ★★★

▼1/30

●川名ますみ
寒禽の腹の丸さの耀けり★★★
眩しさの二重に三重に寒の月★★★
雪のいろ富士の手前の連山に★★★

●下地 鉄
潮風に吹かれて淋し蕗の薹★★★  
波音を追う波音の島の春★★★
青芝に寝てみる空の広さかな★★★
      
●黒谷 光子
雪の田をいっせいに発つ村雀★★★★
竹林の奥のざわめく冬の土手★★★
友の声なつかし冬の夜の電話★★★

●桑本 栄太郎
探梅や堅きつぼみのかたき風★★★
探梅や堅きつぼみにかたき風(正子添削)
堅いつぼみを吹く風が、また「かたさ」を持っている。「かたさ」の繰り返しのようであるが、「かたき風」に実感がある。(高橋正子)

寒つばき嶺から丘へ風強し★★★
嬌声のグランドゴルフや春隣り★★★

●多田 有花
竹林を飛び立つ鳥や春隣★★★
六甲も淡路も隠し寒霞★★★
門先で大縄跳びの家族かな★★★★
どこかで、かって見たことのある風景で、特に珍しいことでもないが、快い風景だ。この快さがいい。(高橋信之)

●河野 啓一
待春の木々の梢や展望台★★★
レース越し朝日煌めき春近し★★★
日脚伸ぶ大川に長し橋の影★★★

●古田 敬二
冬耕の畝はまっすぐ森へ伸び★★★
風吹くも梢は柔らか春隣り★★★
森に鳴く鳥声増えて春隣り★★★

●迫田 和代
濁りつつ雪解け水の川流れ★★★
川沿いの道歩く人頬寒し★★★
春近く木々の命よ立ちあがれ★★★

●小口 泰與
こみあげる咳に震えし髪膚かな★★
迫りくる激しき咳やしぶき雨★★★
大根の土付きたるを提げて来し★★★

▼1/29

●古田 敬二
マンサクや幼子よちよち走りくる★★★
冬木立揺れて巣箱は主を待つ★★★
風花の庭へ遠き鈴鹿嶺より★★★

●小西 宏
寝転んで空何もなし冬の窓★★★
澄む空に枝尖りたり冬の麗★★★
梅探る鳥の騒ぎを見上げつつ★★★

●黒谷 光子
雪の門閂はずす音軋む★★★
雪原の行く手の道はくろぐろと★★★
暖房を出でてしばしの心地よき★★★

●桑本 栄太郎
探梅や堅きつぼみの揺れもせず★★★
弾けたるつぼみ真白く梅早し★★★
山茶花や鳥の宴を樹下に聞く★★★

●河野 啓一
冬滝の流れ静かに箕面山★★★
枯蔦に捉えられたる柿落葉★★★
寒明けを待ちて離せぬちゃんちゃんこ★★★

●多田 有花
遠山にかかる雪雲寒日和★★★
ナビの声確認しつつ日脚伸ぶ★★★

霜の朝通学の列の短さよ★★★★
霜の置く朝は、通学の列が短い。風邪で休む子がいるのか、寒いので、二、三人が集まったら出発するのか、よい季節とは違って短い通学の列である。俳句でこそ表現できる内容であろう。(高橋正子)

●小口 泰與
蝋梅や山風浴びぬ日もありぬ★★★
水仙や眼間に起つ妙義山★★★
寒紅を刷きたる如き地平線★★★

▼1/28

●古田 敬二
吾子遠しピアノは鳴らず冷えており★★★
鈴鹿嶺の風花庭に舞う朝★★★
山茶花へメジロを待ちて蜜柑刺す★★★

●下地 鉄
老いてなおセーターは赤を選びおり★★★  
長々と居座る寒の面の皮★★  
妹逝っていまやうからの独りかな

●佃 康水
起き抜けの窓に耀う松の雪★★★
踏ん張って歩むも滑る慣れぬ雪★★★ 
からだ毎反らし浚える寒蜆★★★

●多田 有花
追儺会の支度に竹を伐り出しぬ★★★★
社寺で行われる追儺会の豆撒きのためであろうか。具体的には何に使われる竹がよくわからないが、「追儺会」と「伐り出した竹」の取り合わせがよい。冬が終わり春を迎える行事に使われる竹に、快い生命感がある。(高橋正子)

寒の陽を浴びつオープンカーを駆る★★★
しずしずと車の進む雪の朝★★★

●桑本 栄太郎
寒禽の声高らかに今朝の晴れ★★★
極上の空の青さや寒土用★★★
音消えて鎮もる街よ雪の朝★★★

●黒谷 光子
除雪車の音響きくる夜明け前★★★
鐘撞きに長靴一歩づつ雪へ★★★
鐘を撞く合図のように雪起し★★★

●河野 啓一
庭草の形のままに今朝の雪★★★
寒中の日光瞳を射る如く★★★
受験子よ進め三寒四温かな★★★

●小口 泰與
探梅や濁り初めたる川の水★★★
春近し洋間の魚拓躍動す★★★
噴煙の西に伸びけり日脚伸ぶ★★★

▼1/27

●古田 敬二
どっしりと大地をつかんで冬木立★★★
ふかふかの産毛膨らむ春のひな★★★
ふかふかと産毛寄りあう春のひな★★★

●小西 宏
丸餅のごとく手水の厚氷★★★
空の青陽の明るさに枯木立★★★
風和む日向の声や寒雀★★★

●高橋 秀之
大空の晴れ間に風花ゆらり舞う★★★★
おでん鍋ふたつありしの昨日今日★★★
太陽を浴びて冬芽は上を向く★★★

●川名ますみ
梅冬芽一つ花弁の色を見せ★★★
垂直に冬芽の割れて梅の色★★★
しだれ梅冬芽開きて紅いつそう★★★

●桑本 栄太郎
飛び来れば吾に寄り添う冬の虻★★★
ひと時の晴れのち曇り寒土用★★★
天辺の青の欠け落ち風花す★★★

●黒谷 光子
新雪に足跡をおき門開ける★★★★
門前の道は広くと雪を掻く★★★
午後よりの陽射しの力雪解ける★★★

●祝 恵子
おでん食ぶマラソン待つ間の温もりに★★★
走者待つ時折雪の舞いおりぬ★★★★
駅伝の応援だろう。走る者も応援する者も、時折雪が舞う寒さを享けて楽しんでいる。日本人らしい明るさがあると思う。(高橋正子)

冬ざくら恥らいそうな色を持ち★★★

●多田 有花
寒風に応えて揺れし竹百幹★★★
幹直立寒の日差しを受け止めて★★★
風やめば寒暁さらに深まりぬ★★★

●河野 啓一
真白なる雪屋根照らし朝日かな★★★
ジュリアンも門辺に雪をかぶりたり★★★
寒禽のすがた絵本に見当たらず★★★

●小口 泰與
雪浅間一朶の影を映しおり★★★
しののめの汽笛定かや冬深し★★★
自転車の女(ヒト)や北風まむかえり★★★

▼1/26

●古田 敬二
東天紅鳴かず寒気に鋭き眼★★★
柵に寄る牛の鼻先濡れて寒★★★
鳥小屋の土に転がる寒卵★★★

●高橋 秀之
熱燗の銚子を包む両の手に★★★
ただいまの声高らかに日脚伸ぶ★★★★
一月も終わり近くなると、「日脚伸ぶ」を実感するころ。外から帰る子どもの「ただいま」の声も元気よく大きい。「日脚伸ぶ」気配に、楽しく元気に活動した証拠だ。(高橋正子)

大根に隠し包丁柔らかし★★★

●小西 宏
北風に丹沢迫り黒き襞★★★
冬蒼し飛行機雲の大き円弧★★★★
白線の頬刺すしじま寒の月★★★

●下地 鉄
青芝を啄む鳩に春日かな★★
薄雲のいすわる空や春隣り★★★
ごっくりと水飲む音や暖房器★★★

●桑本 栄太郎
ラジオ聞き夢にも倦みぬ風邪寝かな★★
”また後で”下校の子等に春近し★★★
子供等の呼び合い遊び日脚伸ぶ★★★

●河野 啓一
朝空に鳥声止まず春隣★★★
春隣人との出会い積み重ね★★★
枯木道辿ればそこに青き芽も★★★

●黒谷 光子
入相を撞く冬月のしらじらと★★★
北側は雪を貼り付け木々の幹★★★
蹲踞の指で動かす薄氷★★★

●小口 泰與
背をまるめ寒鯉釣りの動かざる★★★
山風や鳶を襲いし寒鴉★★★
赤城より空風出でて吹き行けり★★★

●迫田 和代
空青く雪道青く映すよう★★★
句集手に外は静かな風花や★★★
近くから遠い嶺まで冬の虹★★★

▼1/25

●小西 宏
陽を受けて双葉小さき冬の畑★★★
寒林を透けて白濃き昼の月★★★
夕富士や雪吹き捲ける季節風★★★

●桑本 栄太郎
障子戸の明暗しきりや春隣り★★★★
障子のある部屋に籠れば、一日にいくども変わる空の照り曇りがそのまま障子戸を通してわかる。その明るさ暗さに春が近いことが感じられる。春隣を受け止めた感覚がよい。(高橋正子)

虚ろなる夢にまどろみ風邪籠り★★★
病癒え窓を開ければ寒の晴れ★★★

●多田 有花
冬深しノンカフェイン茶の身につきぬ★★★
陽はさらに明るし寒風つのれども★★★
ぎいぎいと木々を軋ませ北風つのる★★★

●黒谷 光子
苞割って白を覗かせ枇杷の花★★★
隣りとの境界ひそと枇杷の花★★★
庭履きをつっかけ裏へ枇杷の花★★★

●下地 鉄
寒風に小花の揺れて訃のしらせ★★★
島跨ぎやがて消えゆく寒の虹★★★
干し物の春日にゆれるビルの窓★★★

●祝 恵子
寒日和川舟下る真昼時★★★
丸大根抜きしばかりを届けらる★★★
厨には冬菜青々横たわる★★★
青々と冬菜厨に横たわる(正子添削)

●河野 啓一
近づけばみどり溢れて冬菜畑★★★
ランチには冬菜サラダをひとつまみ★★★
風一陣木々きらめかす冬日かな★★★

●小口 泰與
浅間山冬青空へ悠然と★★★
遠山の雪嶺定か鳶の笛★★★
山風や肥料に応う冬の薔薇★★★

▼1/24

●古田 敬二
歳時記のページへ光日脚伸ぶ★★★
おひたしに鮮やか菜の花黄と緑★★★
残業の子へ湯たんぽの湯を沸かす★★★

●河野 啓一
野の池に来たり遊べるコハクチョウ★★★
苑の池鴨の集いいて波静か★★★
梢みな夕日を受けて春近し★★★★

●多田 有花
寒朝日まず照らしおり丘の家★★★
霜踏んで今日の工事の始まりぬ★★★★
土木工事に携わる人たちは、霜がまだ固い内に仕事を始める。バリバリと霜を踏み工事に取り掛かる様子が力強い。その時間帯に現場に来るには、まだ薄暗いうちに家を出たのであろうと思うとなおさらだ。(高橋正子)

身の内に綻ぶものや寒ぬくし★★★

●桑本 栄太郎
青空に筋目競いぬ枯木立★★★
雪をんな出会いしよりの熱高し★★
ひと部屋にひねもす臥しぬ流行風邪★★★

●藤田裕子
朝晴れて寒椿まぶし花も葉も★★★
姿なく寒禽高き声放つ★★★
枝先まで日差し含めり梅冬芽★★★

●黒谷 光子
堰音を聞きに冬野へ万歩計★★★
白鷺の降りれば狭き冬の川★★★
時報鳴る厨に冬日の差す正午★★★

●小口 泰與
身の締まる赤城颪や露天風呂★★★
ごうごうと北風吹くや利根河原★★★
日脚伸ぶ開く新書の香りかな★★★

▼1/23

●高橋 秀之
雑炊の湯気に眼鏡は真っ白に★★★
風邪の子や母は優しく頭なで★★★
大空に翼端灯と冬の星★★★

●多田 有花
湯あがりに一息に飲む寒の水★★★
寒茜ホットケーキにキウイジャム★★★★
詰め物がとれて歯医者へ寒の内★★★

●佃 康水
初春や空を真澄に句集成る★★★ 
大寒や安芸路疾駆の脚光る★★★ 
花びら餅仕上げ懐紙に盛り分ける★★★

●河野 啓一
校庭に陽光注ぐ霜の朝★★★
にび色の雲分けて飛ぶ寒烏★★★
竹造り巳を象れる冬花壇★★★

●桑本 栄太郎
故郷の夢みるばかり風邪寝かな★★★
寒つばき沖の白波途切れざる★★★

焼藷を子等分け合いて秘密基地★★★
秘密基地は子どもの世界。焼芋を分けあって、仲よしの子どもたちが嬉しそうにしている。こんな光景が、今も昔と変わらずあってよいことだと思う。(高橋正子)

●小口 泰與
尺もある氷柱朝日を弾きけり★★★★
ひと筋の轍の跡や霜畳★★★
今朝も来し二羽の鶯忽と翔つ★★★

▼1/22

●古田 敬二
竹林の影の一つに冬の我★★★
陽の温し独り枯れ木に寄り添えば★★★
北風に抗して枯木は青空に★★★

●小西 宏
冬枯の池に動かぬ鯉の紅★★★
冬かすみ池より立てる鴨の群★★★
氷雨止み霞に沈む街景色★★★

●河野 啓一
冬暁や空紺青に染まりいて(原句)
寒暁や空紺青に染まりいて★★★★(正子添削)
寒暁は夜明け。日の出前の空の緊張感と透明感が「紺青」でよく表現され、大変美しい空となっている。(高橋正子)

寒禽の舞うや晴れたる丘の上★★★
初場所や櫓太鼓が風に乗り★★★

●黒谷 光子
蹲いに水輪の交差冬の雨★★★
音もなく降りてひねもす寒の雨★★★
木蓮の冬芽きっぱり天を指す★★★

●桑本 栄太郎
ひたすらに風に問い居り枯尾花★★★
雪雲の嶺を去りゆき銀世界★★★
凍滝や筋道通す吾が半生★★★

●小口 泰與
水仙の花のふるえや水迅し★★★
あけぼのの郷に降りたる軽き雪★★★
上州の冷たき風を浴びにけり★★★

●迫田 和代
尖ってるあたりに響く牡蠣打ちや★★★
ガラス戸に差し込む陽ざし冬ぬくし★★★
川波に揺れる牡蠣船橋近く★★★

▼1/21

●藤田裕子
大寒の静けさにある夕月よ★★★
霜の夜句集の温もり手に残る★★★
寒暁を裂き鳴りつづくサイレン音★★★

●佃 康水
砂利鳴らす禰宜の木沓や淑気満つ★★★★ 
弓始木沓滑らせ矢を絞る★★★ 
向き変える渡船へ渦巻く寒の潮★★★

●小西 宏
長靴を履いてわざわざ雪を踏む★★★
冬木みな枝先まるき芽を空に★★★★
鳥遊ぶ冬芽の枝を啄ばみつつ★★★

●多田 有花
梅が枝のまっすぐに指す寒の空★★★
冬帽子その下にあるつけまつげ★★★
寒禽の羽根の散らばる森の道★★★

●桑本 栄太郎
干菜吊る母屋の軒の深さかな★★★★
ぽつくりの雪に二の字の立ち往生★★★
海鳴りを聞きつ眠ればすきま風★★★

●河野 啓一
霜の朝窓に陽光温かき★★★
土佐沖で獲れしと云うや目刺買う★★★
和歌山の国産レモン紅茶にと★★★

●古田 敬二
梅林はつぼみの色に広がれり★★★
やや白く割れて万朶の梅つぼみ★★★★
寒中の寒さに堪えて咲く梅であるが、咲く兆しが見えると非常に嬉しい。白梅の蕾に白が認められる。しかも万朶の蕾に。待春の気持ちが明るくてよい。(高橋正子)

さんしゅゆの陽にまだ固きつぼみかな★★★

●小口 泰與
しんしんと蹠に沁みる寒さかな★★★
日脚伸ぶ薄むらさきの赤城かな★★★★
浅間から榛名に冬日移りけり★★★

▼1/20

●川名 麻澄
優しさは鉢へ積もれる初雪に★★★
玻璃窓に吹雪のあとの珠模様★★★
車椅子掻かれし雪の間を往きぬ★★★★

●小西 宏
雪屋根より水の滴り光り散る★★★★
凛と空に桜冬木の紅く照る★★★
球追って駆ける子の影日脚伸ぶ★★★★

●黒谷 光子
畑の葱洗い白根の光り合う★★★★
「光り合う」は、何気ない表現ながら、葱のかがやく白さ、瑞々しさをよく表現している。夕餉の美味しい一品となったことであろう。(高橋正子)

葱一把ぬた和えにして夕餉膳★★★
ストーブに小豆ことこと躍り出す★★★

●多田 有花
大寒の空へ立ちたり時計塔★★★
大寒の街へ電車は影落とし★★★★
大寒の河川敷を走る人★★★

●桑本 栄太郎
竹林の笹を撥ね上げしづり雪★★★
にび色の日輪ありて風花す★★★
淀川の湾処あまたや蘆枯るる★★★

●河野 啓一
陽光に明るき力寒の朝★★★
受験子はさぞ寒かろう大寒に★★★
寒明けはあと旬日と空を見る★★★

●小口 泰與
山風の畦や底冷えさとりたり★★★
黒雲を湖面に乗せし寒さかな★★★
利根川の風や底冷え身に覚ゆ★★★

●添削1月③●

[1月13日~19日]

▼1/19

●古田 敬二
穏やかに花の香溜めて枇杷畑★★★
青空へ花の香放つ枇杷畑★★★
西の風枯れ葦原のまっ平ら★★★

●小西 宏
亀島の松雪こぼす鳥の声★★★
雪道に雀降り来て餌のあるや★★★
鶺鴒の黒駆け抜ける池氷★★★
この句に詠まれたのは背黒鶺鴒で留鳥である。薄く氷の張った池を背黒鶺鴒がつつつつっと走り抜けた。池の氷と鶺鴒の走り方に、「薄く、軽やかな」感覚を感じる。(高橋正子)

●桑本 栄太郎
やわらかく信貴や生駒嶺冬がすみ★★★
十字架の峰に白きや山眠る★★★
ハイウェイの朝や日差しの寒ともし★★★

●河野 啓一
六甲の雪道はるか神戸港★★★
名湯へ辿りゆく道霜の道★★★
枯れ葎林を囲み風に揺れ★★★

●小口 泰與
十州に囲まる国や桜鍋★★★
ふたまわり靴も大きく冬休★★★★
丑三つに起きるや霜夜覚ゆなり★★★

●迫田 和代
霜焼けの手をこすりつつ走る人★★★
土手道の木々の冬芽に動きあり★★★
雲も無く冬の夕焼遠山や★★★

●多田 有花
たなごころ天に向けたり六花★★★★
雪の舞う頂に立てば光る海★★★
寄鍋をつつけば学生時代なり★★★

▼1/18

●藤田 洋子
寒禽の丘高々と広々と★★★★
高々と、また広々としているのは、寒禽の丘。寒禽がよく鳴き、自由に飛ぶ丘が想像できる。鳥たちの自由な世界は、作者ののびやかな心の証と言える。

枯芝の丘踏みしめて日の匂い★★★
丘晴れて桜冬芽の枝の張り★★★

●佃 康水
掬い揚ぐ鋤簾へ光る寒蜆★★★ 
寒風に吹かれて傾ぐ蜆舟★★★ 
日の光り抱き咲き満つ寒桜★★★

●桑本 栄太郎
雲上がる嶺はうつすら雪の山★★★
トンネルを出でて京菜の冬の畑★★★
降り止みてよりの茜や寒夕焼け★★★

●河野 啓一
風寒し風花は地を転びゆく★★★
雪花の舞えば箕面の山暗し★★★
寒苺ハウスでぬくぬく育てられ★★

●小口 泰與
金星を支えし日の出霜柱★★
我が里へ風花放つ遠嶺かな★★★★
朽舟の風に揺れけり綿氷★★★

●多田 有花
ケータイ変更待春の街に出る★★★
室咲きは名札をつけて並びおり★★★
(阪神淡路大震災忌日)
灯火を集めて祈る厳寒に★★★

▼1/17

●祝 恵子
裂けし樹に見事に咲いて冬ざくら★★★
山茶花やおみくじ白くしろく結い★★★
なで牛の黒ぐろと坐しどんどの火★★★

●桑本 栄太郎
寒晴れの車窓広がり睡魔来る★★★
青々と家並みに近し葱畑★★★
高階の寒拆遠き夜更かな★★★

●黒谷 光子
店先に選る花春を先駆けて★★★
街に出て雪の伊吹の真正面★★★★
伊吹山はがっしりとした男性的な山で、日本百名山の一つに挙げられる霊峰。世界一の積雪を記録した豪雪地帯とも聞く。街に出ると、真正面に伊吹山が捉えられる。深く雪を冠った霊峰に真向かったとき、心に大きくわき立つものがある。(高橋正子)

留守うちのポストに句集冬ぬくし★★★

●河野 啓一
歌会の声朗々と小正月★★★
寒林を映し野の池鳥集う★★★★
冬灯し昆陽池(こやいけ)巡る震災忌★★★

●古田 敬二
冬耕す草は深きへ根を伸ばす★★★★
霜解けて畑に光りうまれけり★★★★
向かい風赤き尖りの薔薇冬芽★★★

●小口 泰與
寒暁の空いっぱいを紅に染め★★★
ラガー等の影の長きや利根河原★★★★
ラガー等の広場狭しと長き影★★★

▼1/16

●小西 宏
池凍り小鷺寄せ合う丸い肩★★★
白菜の鉢巻ならぶ雪の畑★★★
雪原に深深と影桜木々★★★

●佃 康水
手造りを惜しみ放りぬ飾り焚き★★★ 
青竹の爆ぜて傾げりとんど焚き★★★★
青竹が組まれて立っていたのが、燃えて爆ぜ、節の力をなくして傾ぐ。つやつやとした青竹さえも崩れる淋しさ。正月もすっかり終わり、歳月は新しく進む。(高橋正子)

牛の背に止まりて啼きぬ寒鴉★★★ 

●桑本 栄太郎
追い越して枯野過ぎ行く新幹線★★★
くだら野や三川集い淀川に★★★
まだ蒼き空に尖りし寒の月★★★

●河野 啓一
黄昏の小道を二人日脚伸ぶ★★★
冬空を見やる明るく白きかな★★★
寒椿照り葉の陰に蕾見ゆ★★★

●古田 敬二
靴底へごつごつ当たる霜の土★★★
手袋の指先攻め来る霜の土★★★
凍て土をつかんで雑草緑濃し★★★

●多田 有花
寒月がテニスコートにかかりけり★★★
午後八時寒気一段強くなり★★★
熱々のシリアルを食ぶ寒暁に★★★

●藤田裕子
紅茶の香やさしき夜の寒の雨★★★
朝の空気山茶花の白を色濃くし★★★
小正月午後は美容院の人の和に★★★

●小口 泰與
熱燗や山風荒き松林★★★
青空へ入日の紅や寒紅梅★★★
湯豆腐や山風荒き里に住み★★★

▼1/15

●古田 敬二
黒々と優しき土よ冬耕す★★★
冬眠のミミズを起こす畝作り★★★
白き根が土掴みいる葱を抜く★★★★

●川名ますみ
次々と花芽は雪を弾きけり★★★★
寒さのなか、花をつけるものはしっかりと花芽をつけている。降る雪を花芽は弾いて、花芽に積もることはない。花芽の尖り、花芽の力を思う。(高橋正子)

初雪を光らせ黒し梅の枝★★★
初雪を載せし花芽のまるまると★★★

●河野 啓一
奥丹波山また山の雪なれば★★★
水音の低く箕面の山眠る★★★
どんど焼き鄙の社の賑わいに★★★

●桑本 栄太郎
ハウス戸を開けて寒肥畑の昼★★★
鉄柱を叩く金具や冬の風★★★
塊まつて緋を誇りけりピラカンサ★★

●多田 有花
トルコより届きし絨毯やわらかく★★★
この冬はストーブひとつで過ぎにけり★★★
雲晴れて遠嶺は雪の化粧かな★★

●小西 宏
夜となれば雪想うだけ窓明り★★★
雪掻きの手のほこほこと温みくる★★★
光るもの鈍(にび)なるものもみな冬芽★★★★
光の当たる冬芽はよく光っている。一方光りの当らない冬芽は鈍い光を放っている。それらは、どちらも冬芽で、日向にも、日陰にも、冬芽が「今」をしっかりと育っている。(高橋正子)

●迫田 和代
古戦場無縁仏に冬日さし★★★
窓近くつぎつぎ咲ける春の花★★★
何処までも広くて澄んだ冬の空★★★

●小口 泰與
雲ひとつ無き空に聳ゆる雪浅間(原句)
雪浅間聳ゆ雲一つ無き空に★★★★(信之添削)
白鳥の羽根いっぱいに入日かな★★★
白鳥の荒れ起つ波へ夕日射す★★★

▼1/14

●古田 敬二
眼の隈の見える近さに冬目白★★★
豊かなる胸の丸さや冬目白★★★
寒禽の寄りくる心静まれば★★★★
「心静まれば」がよい。静かなところ、穏やかなところに、鳥たちは安心して寄ってくる。厳しい寒さの中を生きていれば、なおさらのことと思う。(高橋正子)

●高橋 秀之
ネットから成人の日の晴れ姿★★★ 
冬木立向こうは大空薄日差す★★★ 
膨らんで餅を片手に持ちきれず★★★

●多田 有花
瀬戸内の冬山霞をまといけり★★★
ステンレスマグの温か寒の雨★★★
画材買い寒夕焼けを見て帰る★★★

●小西 宏
軽やかに雲つぎつぎと寒椿★★★★
里山の薄墨影や雪の薙ぐ★★★
雪載せて屋根黄昏に沈みゆく★★★

●桑本 栄太郎
寒晴や早も花菜の無人店(だな)★★★
ゆさゆさと風に起さる枇杷の花★★★
枯草の刈られし畦の風のまま★★★

●河野 啓一
枯れ枝のしとどに濡れて春を待つ★★★
雨止むや柿の古木に鳥の影★★★
一輪の小さきバラの開き初め★★★

●小口 泰與
枯芝に影を伸ばせし大廂★★★
郷住みは風を友とす冬菫★★★
冬麗や赤城の松の深みどり★★★

●藤田 洋子
葉牡丹の雨後のきらめき朝始まる★★★
水仙の揺れるがままに香りくる★★★
一月におろす俎板木の香り★★★★

▼1/13

●桑本 栄太郎
剪定の瘤跡白き冬の庭★★★
南天の黄色もありぬ冬館★★★
溜まりいる水のさざ波冬田晴れ★★★

●川名ますみ
俎板に林檎さりさり切られけり★★★★
「さりさり」が林檎の本質をよく表している。俎板に薄く切られた林檎は、色も香も爽やかである。(高橋正子)

林檎煮てバニラエッセンスの甘さ★★★
とろとろと杓文字に混ざる林檎ジャム★★★

●多田 有花
頂に車座餅入りラーメンを★★★
殻つきの牡蠣なら三日は大丈夫★★★
寒入日ヨットハーバー照らしおり★★★

●河野 啓一
窓開けて飛びこむ朝日春隣★★★
日脚伸ぶ古木の幹も肌色に★★★
冬ぬくし餅焼く網の光りいて★★★

●小口 泰與
葱畑の畝の深さや猫の道★★★
寒暁の三日月紅の帯に浮く★★
湖の風低きを流れ年流る★★★

●添削1月②●


[1月6日~12日]

▼1/12

●小西 宏
散り残る枯葉の高き空であり★★★
俊敏の百舌鳴き去りて枯林★★★
枝高く欅の紅し冬日和★★★

●川名ますみ
寒晴へクレーン昇り枝を伐る★★★
枝を伐るゴンドラ広き寒晴へ★★★
クレーンの伸び寒晴の深き青★★★

●多田 有花
島影の淡さや春の遠からじ★★★
寒ぬくし相生湾より船の音★★★
日脚伸ぶ海を間近に露天の湯★★★

●桑本 栄太郎
南天の葉の色たたえ冬日和★★★

耳よぎる風に音なき枯野かな★★★★
風はものに当たって音を立てる。広い枯野に立てば、風は耳元をよぎるだけで、音は聞こえない。枯野の広さ、さびしさが
自然と一体となって詠まれている。(高橋正子)

山風にしきりに傾ぎ芒枯る★★★

●河野 啓一
よせ鍋の湯気に笑顔のデイの午後★★★
冬旱切り株の水呑み去れる小鳥かな★★★
水仙の花芽おずおず伸び出でし★★★

●古田 敬二
新築の槌音遠くに寒の入り★★★
黒土を強くつかめり冬の草★★★★
冬の草除けば優しき土となる★★★

●迫田 和代
遠くより水仙の香や風と共に★★★
寒の内たたけば響くような空★★★
暮れていく冬空仰ぎ星数を★★★

●小口 泰與
葉牡丹へえくぼの日差し差しにけり★★★
大廂ぎいと揺れけり虎落笛★★★
白菜をうず高く積み山隠す★★★

▼1/11

●古田 敬二
白き根が土こぼしけり葱を抜く★★★★
冬耕す土へ真昼の陽の眩し★★★
冬耕の鍬を休んで句を記す★★★

●佃 康水
陽射し背に牧への坂の梅探る★★★ 
冬晴れや一直線の飛行雲★★★ (広島魚市場) 
潮の香の溢るる露地へ風花す★★★

●小西 宏
枯れて立つメタセコイアの広い空★★★★
枯れ枝に富士透け見える西明かり★★★
湯豆腐の湯気のぼり行く灯りまで★★★

●桑本 栄太郎
たたずみて峰を退かざり冬がすみ★★★
樋つたう水の音冴ゆる山田かな★★★
吹きぬける風の一途や冬田晴れ★★★

●多田 有花
寒の川静かに夜明けを映しおり★★★
寒禽の次々に来る柿の枝★★★
並ぶ雲明るく照らし日脚伸ぶ★★★

●河野 啓一
雨戸繰る冬日の歓が窓いっぱい★★★
待春の並木車窓に眺め行く★★★
凍蝶のそろりそろりと日溜まりに★★★

●小口 泰與
朝日受けみどり艶増す冬菜かな★★★
赤蕪を抜きて浅間を仰ぎけり★★★
麦の芽や日の良く当る幼稚園★★★★
対象の把握が大きく、「麦の芽」も「日のよく当たる」「幼稚園」に、優しい心情が読みとれる。(高橋正子)

▼1/10

●高橋 秀之
さくさくと踏みしむ雪は異国の地★★★ 
吐く息の全てが白き旅の朝★★★ 
展望棟街の明かりと冬の星★★★

●小西 宏
風邪熱に骨から寒し夜の目覚め★★★
枯れ果てて白き芒の日向かな★★★
煙突の煙冬日にゆるり伸ぶ★★★

●河野 啓一
霜柱踏みてバリバリ子の駆ける★★★★
霜柱をばりばりと踏んで、寒さもなんのその、駆けてゆく子が頼もしい。子どもが活発で、健康で明るいのは見ていてもよいものだ。それを言葉を飾ることなく率直に詠んだところがよい。(高橋正子)

寒中と云えど雑木の薄き色★★★
蝋梅を求めさすらう苑の中★★★

●黒谷 光子
謡初め白髪の佳き人と和す★★★
観劇のついで参りの初恵比寿★★★
福笹を持つ人四条の雑踏に★★★

●桑本 栄太郎
歩むほど身体緩むや寒日和★★★
人住まぬごとく鎮もり冬の村★★★
如才なくつぼみ群れおり寒つばき★★★

●多田 有花
寒中の日ごと明るき山路かな★★★
枯れきって播州平野に雲の影★★★
寒落暉夕餉の支度の窓に差す★★★

●祝 恵子
寒の朝まな板の音よく響く★★★★
七草の白き肌持ち皮をむく★★★
丁寧に七草の根を切ってゆく★★★

●藤田 裕子
一月の空は声なく晴れ渡り★★★★
あおあおと七草菜占め店先を★★★
松過ぎの花器へたっぷり水注ぐ★★★

●小口 泰與
雲割れて日をこぼしけり冬の薔薇★★★
葉牡丹へ淡き午後の日急ぎけり★★★
手袋を通す痛さや朝ぼらけ★★★

▼1/9

●下地 鉄
裏白の縮みて白く盆にある★★★                          
寒空に刈られて並ぶ木トポロチ★★★
衰えて絵の現れてくる独楽回し★★★

●桑本 栄太郎
北側の蔽いてありぬ冬菜畑★★★
青空に身を晒しおり枯芙蓉★★★
寒菊の葉の衰えど色褪せず★★★

●古田 敬二
花枇杷の香りよ遠き故郷よ★★★★
来る時も帰る時にも枇杷の花★★★
花枇杷の香に癒されて森をゆく★★★

●多田 有花
初打ちのゲームに勝ちて心地よし★★★
寒の陽がよちよち歩きの子に優し★★★
日のあたる寒の坂道下りゆく★★★

●河野 啓一
枯れ落葉掃き清めあり教会の門★★★
実南天ほどよく剪って松に添え★★★
火事伝う記事痛ましく飛ばし読む★★★

●小口 泰與
夕づくと何時もの事ぞ虎落笛★★★
霜枯れて咲くに咲かずや冬の薔薇★★★
浅間へとこぞりて向ける冬芽かな★★★

●迫田 和代
瀬戸内の海を区切るか牡蠣筏(原句)
瀬戸海を区切りて冬の牡蠣筏(正子添削)★★★★
穏やかな瀬戸内海ではあるが、冬は寒々として黒く浮かぶ牡蠣筏が力強く印象的である。その様子が、瀬戸海を「区切りて」となる。もとの句は、「区切るか」と疑問の「か」を用いているが、俳句では、率直に自分の気持ちを述べるのがよい。(高橋正子)

風を受け大空高く凧揚げや★★★
寒い道行き着く先の幸せを★★★

●小川 和子
航跡や正月の富士近付けり★★★
寒茜濃くなり港に灯の滲む★★★
柔かき寒の湯に四肢とき放つ★★★

▼1/8

●古田 敬二
うれしきは今年も輝く龍の玉★★★
薮柑子低きに赤き実を隠す★★★
寒禽の樹間飛ぶとき翅光る★★★

●下地 鉄
あらたまの娘と祝うバースデイ★★★ 
ストーブの今日の訃報のうす灯り★★★  
侘助のかすかな揺れや妻の顔★★★

●桑本 栄太郎
竹林の黒く影為し寒夕焼け★★★★
寒夕焼けは、しばしの間、竹林を影として黒く浮き立たせた。そしてたちまちに消えるのである。寒夕焼けの本質を力強く捉えている。(高橋正子)

橋の灯の眼下につづく寒ともし★★★
暗闇の空に真白き冬木かな★★★

●多田 有花
霜踏んで通学の子らが通りけり★★★
晩冬やきっちりたたむダンボール★★★
一月を逃さぬように心して★★★

●河野 啓一
万象の凍てつく朝の白い息★★★
空晴れて今日は初出の診察日★★★
枯れ枝に鵯来り日向ぼこ★★★

●小川 和子
新春の竹林に瀬の音絶えず★★★
寒桜空へ花芽のほの紅く★★★
七草粥芹のみどりの香りけり★★★

●小口 泰與
しののめの尖る妙義や霜柱★★★★
寒暁の尖る妙義と尖る波★★
あけぼのの手足冷たき散歩かな★★★

▼1/7

●小西 宏
枝細く小さき紅の梅蕾★★★
枯野駆け犬振り返る夕日影★★★
狼星の地に在る凍てに大望す★★★

●桑本 栄太郎
凍晴やうす雲遠き嶺の奥★★★
遠嶺の更に遠のき冬がすみ★★★
七日早や電気ドリルの工事音★★★

●下地 鉄
遠海の礁に光る初日の出★★★  
朝湯して初詣するやまおかな★★★
大音響の初湯に揃うなじみ顔★★★

●多田 有花
温室にカトレアいっぱい咲く新春★★★
寒晴れに木々の伸びやか枝広げ★★★
人日のくまなく晴れて暖かし★★★

●古田 敬二
子に持たす野菜掘りけり霜の畝★★★
鉛筆と句帳をつかむ懐手★★★
霜の道森へまっすぐ伸び光る★★★★

●藤田 洋子
初みくじ結ぶ小枝に風そよぐ★★★★
初詣で引いたおみくじは、なんと出たのであろうか。そっと見て折りたたんで小枝に結ぶ。境内には風がそよぎ、穏やかないいお正月である。(高橋正子)

川浅く水の寒さの透けている★★★
雨溜めて葉牡丹の渦幾重にも★★★

●佃 康水
袴着で真芯に放つ弓始め★★★  
寒梅の紅差す蕾みな空へ★★★ 
陽を浴びて中洲へ鴨の同じ向き★★★

●河野 啓一
冬麗ら碁仇迎え打初める★★★
湯気ほのか七草粥の朝食(あさげ)かな★★★
自家製の七草粥や香り佳し★★★

●小口 泰與
またひとり母家の縁へ日向ぼこ★★★
中腹の寒燈消ゆる露天の湯★★★
あけぼのの赤城颪ぞ何物ぞ★★★

▼1/6

●桑本 栄太郎
きらきらと日差し眩しく寒に入る★★★
山茶花の公園通りや朝の路地★★★
ストーブの蒸気噴上げ句を推敲★★★

●多田 有花
護摩焚きの太鼓の音や松の内★★★★
火を清浄なもとのして護摩が焚かれる。煩悩が火と共に天へと昇華され、また願いなどが叶うことを祈るようであるが、太鼓の音に火の勢いが増し、まして、松の内なので、めでたい。(高橋正子)

山歩き六日の日差し楽しめり★★★
買初にひとつ手に取る福袋★★★

●小西 宏
集い来て手水に遊ぶ寒雀★★★
寒入の芝生を駆けて凧を引く★★★
白帯の縁まだ硬き初稽古★★★

●河野 啓一
初旅や京の都の雪の空★★★
焼蟹の身の白さ愛で宴かな★★★
大吉の御籤うれしき鄙社★★★

●藤田裕子
あかあかと万年青の実燃え子ら発てり★★★★
冬星座きりりと光り施錠の時★★★
数の子を噛む母笑顔多くなり★★★

●小口 泰與
政変わるや否や虎落笛★★★
空っ風日の射しこみし茶の間かな★★★
犬の毛も掃かるる朝の暖炉かな★★★