3月25日(月)

●古田敬二
畑への斜面に瞬くイヌフグリ★★★
青春の山々丸くかすみおり★★★
春の風竹の中から聞こえけり★★★

●河野啓一
木蓮は空の青さを受けて咲き(原句)
空の青受けて咲きたる紫木蓮(正子添削)★★★
元の句の「木蓮は」の「は」が問題で、メージが弱いので印象強くなるように添削した。紫木蓮としたが、空の青を受けて咲く木蓮の紫は深い色合いである。(高橋正子)

桜散る決意新たに受験生★★★
曇空に溶け込むごとく白木蓮★★★

●小口泰與
つばくらや菓子の倉庫の深庇★★★
鳥達の木伝(こづた)う声の春意かな★★★
駘蕩の朝寝の我と小犬かな★★★

●小川和子
高々と花満つ校舎の外窓へ★★★★
校舎の高い窓に触れて桜が咲き満ちている。窓の内から見れば窓は桜に埋め尽くされている。今年は早い桜であるが、卒業や入学に重なる桜の花は、生徒たちの胸にいろんな思い出を残すことだろう。(高橋正子)

深空より囀り喜々とバスを待つ★★★
自転車の児の口遊む卒園歌★★★

●多田有花
谷の風梅の香りを運び来る★★★
はくれんの開きし先に昼の月★★★
理髪屋の軒先かすめ初燕★★★

●桑本栄太郎
菜の花や畑の一隅黄明かりに★★★
気ままとは微風に揺るる雪やなぎ★★★
囀りのつがい飛び交い蜜を吸う★★★

●小西 宏
せせらぎの仄かに届く花明かり(原句)
せせらぎの微かに届く花明かり(正子添削)★★★★
「仄か」が問題なので添削した。桜が咲き満ちる明かりに、せせらぎの音がかすかに聞こえてくる。どこか近くにせせらぎがあるのだと思うと、花明かりに音が加わり、俄然句が生きてくる。(高橋正子)

曇天を明るく照らし花の山★★★
軒ごとに桜広げる丘の家★★★

3月24日(日)

●小口泰與
人影に稚鮎いっきに反転す★★★
紅梅の花の数だけ雫かな★★★
旧道の山家にひさぐわらび餅★★★

●古田敬二
蟻出ずる見つけて止まる三輪車★★★
やや濁り雪解の木曽川光りけり★★★
着地点探して舞うよ春の雪★★★

●藤田洋子
ひと雨に山がふくらむ彼岸明け★★★★
彼岸が明けると、寒さから解放されたように、ひと雨に足りて木々が芽吹き、山がふくらむ。「ひと雨」「彼岸明け」の季節の微妙な変化をよく捉えて秀句となった。(高橋正子)

春の雨ときに寺領の鵯が鳴く★★★
竹林に彼岸の雨の音を聞く★★★

●多田有花
初桜いつもの嶺のいつもの木★★★
<妙見富士登山二句>
円墳の連なる彼方春の山★★★
満天星の花咲く道を頂へ★★★★

●河野啓一
千秋楽夕陽を受けて木瓜の花★★★
箕面川流れ聞きつつ葱坊主★★★
麦青む頃となりけり畝傍山★★★

●小西 宏
鳥は陽を揺らして啼けり花盛り★★★★
むちむちと赤子の足のごとき花★★★
風少し吹いて桜の川堤★★★

●桑本栄太郎
芽柳の揺れて青空ゆるぎなし★★★
手を打てば翔び出しそうな花豌豆★★★
山崎の駅のホームや連翹黄 ★★★

●高橋秀之
八朔柑おまけの一つがこぼれ落ち★★★
桜咲く子連れの母が一休み★★★
走り寄る子の両の手に風車★★★★

3月23日(土)

●小口泰與
精悍な雉の走りや朝ぼらけ★★★
熊蜂の威嚇や利根の瀞制す★★★
種袋振るや箱庭ほほえみし★★★

●迫田和代
山桜遠くに沈む青い海★★★
初燕ふるさとの祖母想うてか★★★
時雨降り外出やめた車椅子★★★

●黒谷光子
髪カットして春風の湖辺まで★★★★
すっきりと髪を切った項を春風が通りすぎる。気持ちも爽やかに、足もついつい湖のほとりまで延びた。春風の湖辺がロマンティック。(高橋正子)

湖近き街の軒並み木瓜の花★★★
三月の婚へ列車の時刻表★★★

●河野啓一
街角に清らな色や初桜★★★★
街角で、ひときわ清楚な色を放つ桜。それも初桜なので、ういういしい清楚さが街も人の気持ちも浄化してくれる。(高橋正子)

花だより心華やぎ小径ゆく★★★
満開も近く大和の山桜★★★

●桑本栄太郎
春潮や風に耀よう波頭★★★
料峭の六甲ライナー海の上★★★
春日さす運河に舫う浚渫船★★★

●小西 宏
坂ゆけば花を過ぎ行く人の影★★★
見上げれば空輝ける花盛り★★★
夕暮の丘膨らませ花満開★★★

●藤田裕子
手の中に蕗の薹の香を包む★★★
黄の色をひらひら浮かせ木々の蝶★★★
歩道にはパンジー安らぎの揺れをもち★★★

●高橋秀之
ぶらんこや二人並んで前後ろ★★★
バイバイの声ぶらんこの揺れ止まる★★★★
初日から誘い合わせて春休み★★★

3月22日(金)

●小口泰與
天と地の響く怒りや春嵐★★
春嵐怒髪天つく榊かな★★★
あけぼのの木々の憤怒や春嵐★★★

●河野啓一
わが町にようやく出合いし初桜★★★
街角に清楚な色やさくら咲く★★★★
門辺にも草花とりどり春が来た★★★

●多田有花
東京はすでに花見と聞く彼岸★★★
梅が香と日差し楽しむ木のベンチ★★★
花前の枝を仰げる午前午後★★★

●祝恵子
途中下車寒緋桜の下におり★★★★
この道を誰かが掃いてさくら咲く★★★
雪柳転々と登り花白し★★★

●桑本栄太郎
川に沿い土手の蛇行や青き踏む★★★
野の梅の峰に抱かれ天王山★★★
鉄橋の土手を跨ぎて草青む★★★

●井上治代
弁当に韮卵そえて子に持たす★★★
春嵐日本列島揺るがしぬ★★★
仲春の正午のチャイムのびやかに★★★

●佃 康水
誕生日2句
スイトピー添えて花籠届けられ★★★
祝われて姉の手染めの春ショール★★★
初ざくら瀬戸のさざなみ煌めけり★★★

●小西 宏
碧き川漕ぎ行く船の若桜★★★
風止めば雨降りきたる桜の夜★★★
木々の葉の生ゆるは見えず朧月★★★

●高橋秀之
一本の桜の先は青き空★★★★
「一本の桜」がよい。大きな木であれ、小さな木であれ、その桜には青い空がある。うれしいことではないか。(高橋正子)

残雪の冠鮮やかこれぞ富士★★★
春の朝の眩しき日差し富士の山★★★

3月21日(木)

●小口泰與
ぜんまいや越後の瀬音聴くばかり★★★
旅も良し陋居もよしや春の宵★★★
山風のげに吹かぬなり君子蘭★★★

●迫田和代
天からのしだれ桜と古寺と★★★
大きな木囀り軽く春の声★★★
車椅子春日まっすぐ心まで★★★

●河野啓一
初桜近きや丘はうすあかね★★★★
あわあわと膨らみ初めて桜美林★★★
転勤の挨拶聞けば四月かな★★★

●桑本栄太郎
囀りの高き梢や空青し★★★★
青空の中に、鳥が囀る梢がそびえている。俗世を抜け出た爽やかで快い風景だ。(高橋正子)

春塵の果てに決まりしコンクラーベ★★★
うす闇の家路に赤き月おぼろ★★★

●黒谷光子
打ち寄せる春の汀の波真白★★★
芽柳の枝垂れて湖の面を撫でる★★★
木の芽道抜けて広がる湖真青★★★★
木々の芽吹きが両側から迫る道を抜けると、視界が開け、真っ青に広がる湖に出た。 木の芽道と、湖の広さが対比され、どちらもの良さが強調されて、早春の息吹を感じる。(高橋正子)

●上島祥子
日の丸を飾る家有り春分の日★★★
こでまりの花房全て咲きそろう★★★
春禽の雨に輝く翼かな★★★

●小西 宏
風に触れ空に紅差す花蕾★★★
風凪いで三分咲きなる花見茣蓙★★★
共に生う葉の清清し山桜★★★★

●高橋秀之
寒戻る夜明け間近の街路灯★★★
春暁に歩く人影犬を連れ★★★
涙目の女性の瞳は花粉症★★★

3月20日(水)

●小口泰與
うららかや和紙に包まる京和菓子★★★
摘みてきし蕨ひろごる三和土(たたき)かな★★★
言いさして忽と桜をほめにけり★★★

●河野啓一
耕して今日蒔く種は蓮華草★★★★
水草生う狭庭の池に水多少★★★
朝空の雲まろやかに春彼岸★★★

●佃 康水
溢れ咲く白木蓮へ空の青★★★
洗い桶きしきし剥がす春キャベツ★★★
声かけて枝に餌を挿す春の朝★★★

●下地鉄
踏まれてもいとしき花のすみれかな★★★
春分の娘と旅の打ち合わせ★★★
囀りの臥所に残るしずけさよ★★★★

●黒谷光子
小鮎鍋のぞきて煮汁確かめる★★★
小鮎煮て西と東の娘の家に★★★
あたたかや行く度娘の家近くなる★★★

●多田有花
梅の咲く坂を上りて墓参り★★★
鶯の声を間近に墓参り★★★
お彼岸や墓参の後のきな粉餅★★★

●川名ますみ
春宵の窓より未だ子らの声★★★
ランナーら辛夷の樹下に休憩す★★★
花辛夷ランナー一人ずつ休み★★★

●高橋秀之
新芽吹く全てが上へ空へ向く★★★
★「新芽吹く」は季語となりません。秋でも春でも、新芽が芽吹きます。「芽吹く」は春の季語です。

満開の桃の花並ぶ週回路★★★★
水洗いしてまな板へ春野菜★★★

●桑本栄太郎
駒返る草のみどりや朝の土手★★★
庭石へ供花のごとくや落つばき★★★
すくすくと空に伸び居り花梨芽木★★★

●小西 宏
彼岸の坂花束膝に車椅子★★★
たんぽぽを見つけたと児の知らせくる★★★
春分やピザを買い来て焼き直す★★★

※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。

3月19日(火)

●小口泰與
川筋をしだき上手へ諸子釣★★★
残雪や土間の隅ずみ風棲める★★★★
年古るもいまだ青春桜餅★★★

●多田有花
午後の陽を受け藪椿高く咲く★★★★
薮椿に、午後の日が巡って来て花を赤く照らしている。午後の陽の独特な感じを薮椿の花がよく捉えている。(高橋正子)

沖霞み海きらきらと須磨明石★★★
嵐去り囀り戻る朝かな★★★

●河野啓一
春風と云えども荒き春一番★★★
蒼空に吾も浮きたし鳥雲に★★★
野の味や土佐から来る春大根★★★★

●小西 宏
春の鴨ひとり叫べる石の上★★★
棚までも蔓伸びぬ間の豆の花★★★
崖藪に椿大輪紅放つ★★★

●桑本栄太郎
春光の野山ほんのり遠く見ゆ★★★
カーテンを開けて嶺の端遠霞★★★
春きざす部活の声のグランドに★★★

3月18日(月)

●小口泰與
梅万朶あまたのつぼみふふみおり★★★
たらの芽や瀬音山路を離れざる★★★
春光や落人部落の露天風呂★★★

●河野啓一
名も知らぬ鳥歩きおり春の庭★★★
うららかな春の庭。名を知らぬ鳥が歩いている。なんの鳥だろうと思いつつ動きを眺める。不思議な国にいるような楽しみ。(高橋正子)

つちふるや西の国から客人が★★★
彼岸過ぎ野球いよいよ峠道★★★

●桑本栄太郎
村人の畑に背中や青き踏む★★★
山里の甍かがやき春の昼★★★
春耕のエンジン遠く聞こえけり★★★

●多田有花
五重塔東播磨の春の野に★★★
春の野や新幹線は西へ西へ★★★
ほのぼのと明石海峡春霞★★★

●小西 宏
ジョギングに百合の木芽ぐむお堀端★★★
耐えて咲きし梅の別れや花ふぶき★★★
風やさし灯台躑躅(どうだんつつじ)花咲けば★★★★

3月17日(日)

●祝恵子
白椿橋に二人の托鉢僧★★★
格子模様庭の砂地の春の院★★★
校庭の大縄跳びよ春日和★★★

●小口泰與
たらの芽や瀬尻に向かい毛鉤打つ★★★★
渓流の濁り初めるや山椒の芽★★★
淡雪を帽子に被く山路かな★★★

●河野啓一
草も木もきらきら光る春の朝★★★
青空に薄塗りされし春の雲★★★
春の江に釣り糸垂れてもの思う★★★

●小西 宏
蒼天をゆく旅客機に花辛夷★★★★
蒼天をゆく旅客機はきらりと銀色に輝いている。地上では、白い辛夷の花が柔らかに咲いている。その色彩的な対比、物質的な対比に詩情がある。(高橋正子)

雲の丘に紅朦朧と梅の苑★★★
いつも来て花にぶらんこメジロの目★★★

●上島祥子
幾重にも花を重ねり枝垂れ梅★★★
母の手に抱かれて赤子の梅見かな★★★
春は曙富士の山際赤々と(始発の新幹線より)★★★

●黒谷光子
麦青む風に応えぬ丈ながら★★★
残りしかはた残されしか鴨数羽★★★
戯れる父と子湖岸の芝青む★★★

●桑本栄太郎
鷹鳩と化して乙訓うす曇り★★★
日の潤み風に音なく霞みけり★★★

●下地鉄
霞はれ水平線のくっきりと★★★
遠海に水脈曳く船や彼岸入り★★★
歳寄るも寄る人のなき彼岸かな★★
※これは川柳です。

●多田有花
朝晴れて空桃色に彼岸入り★★★
春の野を東へ向かう電車ゆく★★★
家々の庭先それぞれ梅の咲く★★★

●川名ますみ
芽の色にさみどり掛かり花咲かむ★★★
さくら咲く前夜つぼみにみどり色★★★
木の家の建つ音高く春天へ★★★★

3月16日(土)

●小口泰與
うぐいすの音色つむぐや偕楽園★★★
露天湯の春光ゆるる大あくび★★
春暖炉竹百幹のうねりかな★★★

●多田有花
春耕の音高らかに野に響く★★★★
春耕は、鍬を振るう耕しもあるが、この句は、耕運機。野に高らかにエンジンの音を響かせ、田を耕してゆく。耕運機にも生き生きとした働きがある。(高橋正子)

心地よき疲れの後の朝寝かな★★★
夕暮れの光に染まり梅林★★★

●河野啓一
土匂う花苗植えてふんわりと★★★
お手前のみどりの香たち春の午後★★★
桜便り東と西より来るらし★★★

●桑本栄太郎
春愁や夢の中まで仕事せる★★★
妻留守のラーメン啜る春の風邪★★★
春一日ラジオ聴きつつ眠りけり★★★

●小川和子
枝先まで小花連ねて雪やなぎ★★★
丘陵へ日は麗かに影を差す★★★
丘陵の四方へ春の香かすかなり★★

●小西 宏
雨吸って黒き球場芝萌える★★★
池の泥掻いて昼餉の雪柳★★★
夕暮れの逆光淡し梅の苑★★★

●川名ますみ
初ざくら写してポケットにしまう★★★★
「しまう」がいい。写し撮った初ざくらをうれしく、また大切に思う気持ちが一読伝わってくる。瀟洒な句だ。(高橋正子)

ケイタイに一輪だけの初ざくら★★★
歩き出す撮ったさくらをポケットに★★★