4月4日(木)

●小口泰與
利根川の流れ荒ぶや山桜★★★
はくれんや白磁の花瓶本床に★★★
大木の根方の雪解まんまるよ★★★

●黒谷光子
青空へ枝を広げて白木蓮★★★
畑に採る茎立ち近き法蓮草★★★
葉の奥に花芽を宿し法蓮草★★★

●多田有花
木漏れ日を親しと思う四月かな★★★
見晴るかす嶺に展開山桜★★★
頂を囲みし三葉躑躅かな★★★

●河野啓一
丘染めて桜花朝日に耀けり★★★★
丘を埋めて咲く桜が朝日を受け、曙色に染まり耀くばかり。素晴らしい眺めを呈してくれる。(高橋正子)

野の池にさくらの姿淡く揺れ★★★
うぐいすを捕るとて網を持ちたる児★★★

●桑本栄太郎
花あはれ夜半に嵐の音を聞く★★★
風に舞い風を染め上げ花の塵★★★★
散り敷いた桜の花びらが風に舞い上がるときは、「風を染め上げ」の言葉通り。花の塵さえも美しい。(高橋正子)

花ももの紅白分かち乱れけり★★★

●藤田洋子
街騒の柳の岸に流れくる★★★
柳青みて水に照り水に垂る★★★★
「柳青みて」の上七に力強さがある。以下「水に照り水に垂る」の五・五と続く五音のリズムも力強い。柳はしなやかなものとして詠まれることが多いが、この句は柳を力強く詠んで成功した。(高橋正子)

雨あとの空より落花はじまれる★★★

●小西 宏
旅の途のひとつのけじめ桜散る★★★★
旅の途にあっても、桜が散るときが来て散る。「散る」を「ひとつのけじめ」として受け止めるのも、旅の思い。(高橋正子)

花覆い日々青みゆく楓の芽★★★
蒲公英の日影に咲いて陽の光★★★

●藤田裕子
もどり来し山路ゆかしき山吹よ★★★
静かなり桜は今を咲き誇る★★★
陽の包む山裾やさし朝桜★★★

4月3日(水)

●小口泰與
榛名嶺のはるかに雲や花あんず★★★★
ぽっかりと浮かぶ雲とあんずの花。それに榛名山が配されて、やさしくも、安定感のある春の景色となっている。(高橋正子)

谷川の流光奏づ花辛夷★★★
産土は地震に強きや麦青む★★★

●下地鉄
咲きつづき磯の香匂うアマリリス★★★★
アマリリスが咲いて、磯の香が漂っている。沖縄の早い初夏であるが、「アマリリス」と「磯の香」が不思議にマッチしているのは、生活のリアリティ。(高橋正子)

グラジオラス洋舞にそよぐ襟に似て★★
春展や出店の声の大きかり★★★

●河野啓一
散り敷いて街道沿いのさくらかな★★★
満開の街の桜を探しゆく★★★
シクラメン去年の株に佳き花が★★★

●桑本栄太郎
囀りのこずえを見上げ朝の雨★★★
ぐらんどを占めてゲームや老いの春★★
草丈の伸びて穂の見ゆすいばかな★★★★

●多田有花
早寝すもつい心地よく朝寝する★★
はらはらと花びら風に散り初めし★★★
鉢植えの春蘭を愛で縁側に★★★

●黒谷光子
桜さくら大橋一つ渡りても★★★★
桜が続く。大橋を一つ渡った違う村にも桜。日本には、桜に彩られて一頃生活できる幸せがある。(高橋正子)

自転車の背に花の風花の塵★★★
白椿落ちて野川の清らかに★★★

●佃 康水
長堤の水面揺らめく花の雲★★★
雪洞をひねもす揺らす花の雨★★★
つばくらめ雨の街路へ礫めく★★★

●小西 宏
花惜しむ濡れたる道の嵐後★★★
街中の畑のあぜのチューリップ★★★
木々青む谷戸やわらかや匂鳥★★★★
「匂鳥(においどり)」は、鶯の別名。谷戸のやわらかな雰囲気に、「匂鳥」の語音がしっくりしている。谷戸は鶯がしきりに鳴く季節を迎えた。(高橋正子)

4月2日(火)

●小口泰與
梅挿して此処のみ明り広ごりぬ★★★
梅古木瑞枝立ちけり二輪咲く★★★
霾や穹を篩にかけるごと★★

●祝恵子
展示車に子ら喜びて花筵★★★★
花筵はこの句では散り敷いた桜の花びら。ピカピカのスマートな展示車に子たちは大喜び。展示車には桜の花びらも降りかかっているだろう。みんなが、浮き浮きと楽しいのだ。(高橋正子)

花堤二日続けて今日は晴れ★★★
コンテナの長きを繋ぐ花の冷え★★★

●迫田和代
何となく春の香のする道をゆく★★★
山桜下に立ちたく山道を★★★
祭の夜なにか侘びしい朧月★★★

●多田有花
咲き満ちる桜を濡らす静かな雨★★★★
咲き満ちる桜を静かに濡らし通る雨。満開の姿を保つ花の力とそれを崩さないほどの雨がともに和して、静かな華やかさと強さがある。(高橋正子)

花の雨明るく続く正午かな★★★
はくれんの崩れ落ちるを掃く男★★★

●河野啓一
満開の辛夷辺りを見渡せり★★★
花散らすなかれ今宵の雨模様★★★
花の下レンギョウ苑の彩となり★★

●桑本栄太郎
エイプリル・フールならず初孫産まれけり★★★
鳥たちの歌い交わすよ花の影★★★★
花影に鳥が歌い交わす、明るく穏やかな光景。明るく穏やかな中にも、「花影」にある翳りが日本の叙情。

降りしきる雨にまた散る辛夷かな★★★

●古田敬二
武骨なる指先染めて菜花摘む★★★
いぬふぐりあまねく真昼の陽を受けて★★★
紅椿一輪散歩の妻かえる★★★

4月1日(月)

●多田 有花
朝桜嶺の日の出に匂い立つ★★★★
嶺の桜には、真っ先に日が昇る。日の出の澄みきった日の光に桜も匂い立つのだ。潔くすっきりとした句。(高橋正子)

見渡せる山のいずこも山桜★★★
谷へ向き枝垂桜の枝伸ばす★★★

●小西 宏
花冷えや小鳥はげしく鳴き交わす★★★
幹くねり枝おどらせて桃の花★★★
窓暮れゆく桜明かりを残しつつ ★★★

●小口泰與
山風を恐るる庭の桜草★★★
今朝も来し二羽の目白や庭の木に★★★
あけぼのや榛名の裾野梅香る★★★

●河野啓一
筑紫野の春をゆたかに次郎かな★★★
仲春の川面に低く鳶舞う★★★
【原句】水郷や柳芽青く船下り
【正子添削】水郷の柳芽青し船下り★★★
「水郷や」とすれば、「水郷」が句のテーマとなって、中七、下五と切れすぎるので添削。
青く芽吹く柳を見ながら船下りは、気持ちが明るく和んで冬から春へ移った喜びがある。(高橋正子)

●桑本栄太郎
休日なれば卵享くべき復活祭★★★
夕暮れのしだれ桜よ紅の濃し★★★
大橋の暮れて灯燈す弥生尽★★★★
暮れて橋に燈る灯に、人はなにがしか哀愁を覚える。「弥生尽」は春が終わる意味でもあるので感慨が湧く。(高橋正子)

●川名ますみ
竹垣に透けし壕辺の土手青む★★★
野の花の向こうお壕と花の雲★★★
空へ触る工場の跡の花こぶし★★★

3月31日(日)

●小口泰與
快活な鳥語や我は春炬燵★★
春雨を吸い込む芝や草野球★★★
久々のメール着信春休★★★

●小西 宏
池泥に蝌蚪尾を揺らし地を移さず★★★
花屑を髪に置くまま振り返る★★★★
雪柳手に触れて地に雪の敷く★★

●河野啓一
真珠貝のかがやき春の大村湾★★★
筑紫野の春を豊かに次郎かな★★★
ムツゴロウ跳ねて隠れて有明海★★★

●井上治代
スムーズに家事捗りて春楽し★★★
うららかや幼子鳩と戯れる★★★
どこからも春の匂いの散歩道★★★

●下地鉄
雪洞の置かれて和む花の冷え★★★
一片の花こそ美しき小川かな★★★
処かえリュウマチ痛む余寒かな★★★

●多田有花
うすぐもり微風の中に三月尽く★★★
桜色満ち山ざくら開かんと★★★
サイクリスト山桜咲く道登る★★★

●黒谷光子
牡丹の花芽数える昼下がり★★★
乗り降りに見上ぐる駅の濃紅梅★★★
木蓮の蕾みて色は苞の内★★★

●桑本栄太郎
吹き上げる風に散り初め花の冷え★★★
一本のライトアップや花の宿★★★
若人のラップダンスや春ともし★★★

●川名ますみ
野の花の先にお壕と花の雲★★★
竹垣に透けし壕辺の土手青む★★★
空へ触る工場の跡の花こぶし★★★
工場跡の殺風で、物質的なところに、やわらかに辛夷の花が空に咲いている。その対照的な様子に、互いがその個性を強めながら、空を配置することで、ひとつのまとまりある世界を作っている。(高橋正子)

3月30日(土)

●川名ますみ
新雪を踏む心地して花の塵★★★
飛花の道ゆくは新雪踏むごとし★★★
花昏く杉の古木の尚青し★★★

●迫田和代
【原句】逞しく木の芽が芽吹くちから見て
【正子添削】逞しく木の芽が芽吹くちから見し★★★
木の芽が、噴き出すように芽吹くのを見ると、木のちから、木の逞しさを目の当たりに実感する。(高橋正子)

【原句】上げ潮に乗りし桜よ空に舞う
【正子添削】上げ潮に桜の花びら空に舞う★★★★
原句では、「上げ潮に乗りし桜」が「空に舞う」に疑問を持つ。桜の花びらは、満開を過ぎると散り始めるが、上げ潮の勢いに風も多少上昇するのであろうか、花を空に舞わせる。「上げ潮に舞う桜」が絵画的で美しい。(高橋正子)

夕焼の空に北へと帰る雁 ★★★

●小西 宏
軽きかぜ桜花びら地を撫でる★★★
信号のフロントガラスに花ふぶき★★★
花待てよ孫はもうすぐ一年生★★★

●小口泰與
紅梅に百幹の竹奏でけり★★★
産土の山風荒き花こぶし★★★
ゼリー菓子増ゆる倉庫や花盛り★★★

●藤田裕子
心地よき風連翹の黄を揺らし★★★
桜若木いちりんにりん花を生み★★★
花びらの染める石段花の下★★★

●多田有花
花開く仰げば空のなお青し★★★★
花の中正午の鐘の鳴り渡る★★★
山々に花の姿の定まれり★★★

●桑本栄太郎
風白く詠い居りけり雪やなぎ★★★
ほつほつと畑に黄明かり茎立ちぬ★★★
地ならしの進む畑地や春の雨★★★

●古田敬二
咲き初めし春蘭花弁の透き通る★★★
腰高に揺れて春蘭咲き初めり★★★
花の香の満る山路に入りけり★★★

●高橋秀之
真っ直ぐに桜並木が道作る★★★
満開の桜を見上げ立ち止まる★★★
花冷えの夜明けにわが子送り出す★★★

●河野啓一
長崎へ一泊旅行
チューリップ光と色のファンタジー★★★
揃い咲き彩と光のチューリップ★★★
春霞さざ波も見え大村湾★★

3月29日(金)

●小口泰與
紅梅やシャッター音の蒼天へ★★★
春の炉や視界奪いし土埃★★★
青空へ薄紅梅の文目かな★★

●佃 康水
 第二音戸大橋(愛称 日招き大橋)開通 2句
日招きの大橋春の海へ耀る★★★
島結ぶ丹の大橋へ花盛り★★★
旅立ちの夢語る子へ春満月★★★★

●多田有花
花曇割る半熟のゆで卵★★★★
花曇とゆで卵は相通じるところがある。花の頃の高い曇り空と、白身に黄身が優しい丸を作るゆで卵。はっきりしないが、体に親しく馴染んでくるものだ。(高橋正子)

宅配のトラック止まる花の下★★★
護摩堂にうすむらさきの馬酔木咲く★★★

●桑本栄太郎
さみどりの坂の地道や春落葉★★★
春雨や角の畑地は分譲へ★★★
ジャージーの走る校庭花の雨★★★

3月28日(木)

●小口泰與
春昼の煙霧を喰らう髪膚かな★★★
白梅や余命いくばく模糊として★★★
電線にアグリシートや春嵐★★★

●河野啓一
色づきて丘一面の竹の秋★★★★
春の芽吹きの中で、竹は色づき葉を落とす。竹だけが「秋」となって、丘一面の竹が違う色合いで目立つ。春と秋の混ざる植物の景色。(高橋正子)

せせらぎに色も見えたり春の川★★★
花の色とまどいながら咲き出る★★★

●多田有花
重きほどつらつら椿咲きにけり★★★
芽吹く山芽吹く香りに満ちており★★★
静けさを破りてひとつ落椿★★★

●桑本栄太郎
今年また古巣を慕い初つばめ★★
嬉々として人の言い合う初燕★★★
教会へいざなう道や連翹黄★★★

●黒谷光子
東の空へゆるゆる春の月★★★
薄絹を被りて春の月まどか★★★
春の灯に繕い物の糸通す★★★

●川名ますみ
土の上や窓に望みし芽吹山★★★
木の芽雨動物園の枝くろぐろ★★★
厩より古き桜のぐいと伸ぶ★★★

3月27日(水)


●小口泰與
へら浮子の色彩さやか風光る★★★
春蘭に老若男女顔かさね★★★
あわあわと縹に染まる春の山★★★

●黒谷光子
蜂の巣を落とし閉じ込む皮袋★★★
つくしんぼ小川の縁に犇めける★★★
摘む人も児もなく群れるつくしんぼ★★★

●多田有花
まだ少し欠けているかな朧月★★★
青ぬたや雨音のせぬ雨つづく★★★
膝掛けで豚骨ラーメン花の冷え★★★

●河野啓一
一樹あり真白に咲きし桜花かな★★★
春寒の朝チラホラ花の咲き出る★★★
芝芽ぐむ球児の心弾むごと★★★

●桑本栄太郎
雲浮かべ湾処に空の春の川★★★
ローラーシューズ履いておつかい春休み★★★
うす闇に息をひそめし白木蓮★★★

●小西 宏
芽ぐむ木の丘ただ淡し朧月★★★
せせらぎや人知らずとも花楓★★★
花ひろがる屋内プールの大きな窓★★★★
屋内プールの大窓を覆い尽くして爛漫の花。泳ぎながら花を楽しめるのも現代。さほど混雑していないプールの平らな温水。春の淡い情感がいい。(高橋正子)

●川名ますみ
両輪に花屑つけし車椅子★★★
何気ないふうに桜を過ぎし雨★★★
膝の上に桜にふれし雨雫★★★

●下地鉄
春の湯にゆらりゆらりと逆さ富士★★★
とんび舞う湘南を後に旅の空★★★
青空や赤より赤き梯梧咲き★★★

●古田敬二
ハイカーのおしゃべりに垂れキブシ咲く★★★
一杯に眼(まなこ)開いてイヌフグリ★★★
鮮やかな色はためかせ初黄蝶★★★

3月26日(火)

●下地鉄
観梅や枝ぶりよきをまず選び★★★
料峭や箱根連山暮色なる★★★
春宵や灯りの並ぶ港街★★★

●小口泰與
満願の御朱印帳へ春の日矢★★★
子等を待つ駄菓子売り場のしゃぼん玉★★★
春眠の我が身を起こす明けの地震★★★

●佃 康水
四阿の空へ囀りほしいまま★★★
神島へ渡船に靡く春ショール★★★
木肌より紅艶やかに花の噴く★★★

●多田有花
山桜咲く彼方より新幹線★★★★
新幹線が山桜の咲く彼方から滑るように走ってゆく。これは今、日本を象徴する風景となった。(高橋正子)

咲き初めし三葉つつじの小さきが★★★
花咲ける下に老犬寝そべりぬ★★★

●河野啓一
朝空にあかねのわかばバラ芽伸び
朝空にあかねのわかばバラ芽伸ぶ(正子添削)★★★★
朝空にあかね色のバラの芽が色彩的にすがすがしい。添削は「バラ芽伸ぶ」と終止形にし、句を引き締めた。(高橋正子)

春寒に花躊躇せず咲けよかし★★★
春菊のぐんと伸びたり空晴れて★★★

●桑本栄太郎)
うす闇のうすきピンクや馬酔木咲く★★★
雲浮かべ湾処に空の春の川★★★
平らかにまた青々と畦青む★★★★

●黒谷光子
絶えることなき水の音朧の夜(原句)
水音の絶えることなき朧の夜★★★★(正子添削)
添削は、元の句を整理してイメージをはっきりさせた。ものみな柔らかな朧夜に、水音だけがくっきりと聞こえる。春の水音がやさしい。(高橋正子)

祝婚の宴は春の湖望み★★★
春の月も一度仰ぎ錠をする★★★

●川名ますみ
車椅子地の花屑をよけられず★★★
療苑に常より早き紫木蓮★★★
紫木蓮咲きて患者も医師も樹下★★★

●小西 宏
里山の道の暗きに藪椿★★★
人里を離れて桃の紅に逢う★★★
鶯の声藪奥に響きあう★★★

●古田敬二
今年また会えし菫に跪く★★★
蕉翁も愛でし色して菫咲く★★★
濃き色にも淡き色にも咲く菫★★★

●高橋秀之
退職の花束高く春の宴★★★
若草の色づく埋立地は広し★★★
瞬く間食す菜飯の握り飯★★★