4月14日(日)

●小口泰與
初蝶や和紙のハガキの桜色★★★
永き日や今日は新聞休刊日★★★
青麦や午後を制する山の風★★★

●桑本栄太郎
葉陰より目のにらみおり豆の花★★★
堰堤の先は青空八重桜★★★
天を占めどつと降りくる揚ひばり★★★

●黒谷光子
自転車を止め次を待つ初音かな★★★
大川に沿いし竹林初音聞く★★★
届けらる切り口新し春の蕗★★★★
届けられたものが、採りたてであるのは特にうれしい。切り口が新しい,みずみずしい蕗の茎、匂いは、この季節ならではのもの。(高橋正子)

4月13日(土)

●小口泰與
逆らいて逆らいつつも揚雲雀★★★
白波の今日も起たぬや蝶の昼★★★
青空や岩を削りし雪解水 ★★★

●桑本栄太郎
それぞれの丈に陽を透きチューリップ★★★★
今年はいつまでも肌寒い日がつづくせいか、朝日に透けた葉や花だけでなく、昼の陽にも透けている。「それぞれの丈に」には、正確な観察と言えて、いつまでも春寒い空気感や日の光の感じがよく捉えられている。(高橋正子)

近づけば何か飛び込み蘆の角★★★
竹林の楽となり居り春の風★★★

●小西 宏
ふんわりと空に膨らむ八重桜★★★
芽吹きありてメタセコイアの白雲まで★★★
大の字に寝て雲やわらかや馬肥★★★

●黒谷光子
春の地震ためらいつつも京へ発つ★★★
春の能牛若丸の愛らしき★★★
駅を出て仰げば細き春の月★★★

4月12日(金)

●川名ますみ
春日傘ひかりを飛ばしくるくるり★★★
「ひかりを飛ばし」は、春日傘らしい。柔らかいようだが、日傘のいる日には光は強い。それが「飛ばし」となって、くるくる回して楽しむ余裕もある。(高橋正子)

いざ行かん芽ぐむ銀杏の並木道★★★
散る桜より雨粒の多くなり★★

●古田敬二
菜花摘む蝶の寄り来て吾に親し★★★
それぞれの丈持て葦の芽吹きけり★★★

水底へその影伸ばし葦芽吹く★★★★
葦の芽吹きは、その水と芽の緑との出会いが美しい。早春の芽吹きの中でも、水からの芽吹きはまた一味違って、きらめくものがある。水底へ影が伸びるのを確認できるほど、澄んでいる水もよい。(高橋正子)

●小口泰與
そよ風や春竜胆のしべ定か★★★
川速し杏の花の今日も散る★★★
牧の牛つつじの根もとたもとおる★★

●河野啓一
若葉風きらめく朝の狭庭かな★★★
街を出て蓮華の花を探し行く★★★
クローバの上に寝転び転がる子★★★★

●桑本栄太郎
昇降機降りて散り敷くにはざくら★★★
下校子のやや疲れおり葱坊主★★★
早すでに苗代ぐみの熟れ色に★★★

●多田有花
新入生みな制服のやや大き★★★
歩み入る桜天蓋の下へ★★★
増位山春三日月を戴きぬ★★★

●黒谷光子
土手上がり枝垂れ桜の紅濃きへ★★★★
土手の上の紅の濃い枝垂れ桜を遠くから眺めて、あの近くに行きたいと思う。土手を上って近づく艶やかな桜を近くで再び堪能する。「濃き紅」がいい。(高橋正子)

湖の青きに向きて花見茣蓙★★★
紅桜大きくしだれ地に届く★★★

●小西 宏
唐土の詩や遥遥と黄砂来る★★★
春陽気ベンチに上着丸められ★★★
たらの芽を天麩羅にして愁いあり★★★★
たらの芽の天麩羅は、山菜の天麩羅のなかでも一品。「愁いあり」は、春愁か。(高橋正子)

4月11日(木)

●川名ますみ
春愁小さき拳をこんこんと★★★
両岸に八重桜満つ夕の川★★★
陽を飛ばしみて春日傘くるくるり★★★

●小口泰與
吟行の人も見かけし花見かな★★★
花薺道は峠に続きけり★★★★
なずなの花の咲く道がずっと峠まで続いている。ただそれだけのことなのだが、なんと柔らかな気持ちになれることだろう。心情がいい。(高橋正子)

山吹の三ひらひとひら瀞に散る★★★

●多田有花
山笑う腹からトラック吐き出して★★★
春しぐれホットケーキを焼く窓に★★★
長距離ランナー飛花舞う下を駆け抜ける★★★★

●河野啓一
メタセコイヤ鮮やかに立つ若葉して★★★
残花はや芽吹きの森に遮られ★★★
遅さくら見んと出かける奥妙見★★★

●桑本栄太郎
花冷えの蘂の明かりや坂の道★★★
ひこばえや妻は赤子の手伝いへ★★★
学び舎の授業の声や花は葉に★★★

●小西 宏
どの石も塞がってます亀の春★★★
陽の溢れ花弁自由にチューリップ★★★
噴き出でて膨らむ紅の山躑躅★★★

4月10日(水)

●小口泰與
山葵田や水隅ずみへ行き渡り★★★★
春嵐地震の如くに家揺れし★★★
葱坊主部活ぶかつの春休★★★

●小西 宏
春休み終われば青き新世界★★★
球の来ぬ外野なずなの花咲けり★★★★
球が飛んで来ない外野。目をやれば、なずなの花が踏まれることもなく柔らかに咲いている。生き生きと動き、活躍するところの端に、「ほっとしたところ」があるのはいいことだ。(高橋正子)

尾を回し犬タンポポの野を駆ける★★★

●桑本栄太郎
さみどりも朱色もありぬ新芽立つ★★★
制服のどこか決まらず新入生★★★
坂道のしべの明かりや花は葉に★★★★
坂道には桜の大樹がある。桜の並木かもしれないが、蕊が降り敷いて紅色に染まっている。「しべの明かり」と思うほど。「花は葉に」なるころ、次の季節はそこまで来ている。(高橋正子)

●多田有花
木の大きければ花吹雪の大き★★★
花筏日差しを載せて浮かびおり★★★
花屑を踏みテニスコートに入る★★★

●河野啓一
都踊り銀杏並木のいっせいに★★
愛惜の念ひとしおに残花かな★★
この花に埋もれたきかな吉野山★★★

●上島祥子
ゆっくりと花を味わう嵐前★★★
日の丸の勢いそのまま新入生★★★
青嵐カードゲームの声高し★★

●黒谷光子
先客の傍を奥へと花見茣蓙★★★
湖北路の花見の梯子茣蓙積んで★★★
ほつほつと帰路の遠見の山桜★★★

4月9日(火)

●小口泰與
菜の花や飯山線の一両車★★★
大根の花や紫紺の赤城山★★★
榛名湖も煙霞(えんか)なりけり花楓★★★

●多田有花
ひとつ咲きひとつ落ちては藪椿★★★
枝の間に青空を抱き山桜★★★★
山桜風のある日は風に添い★★★

●桑本栄太郎
しべのみの残る明かりや花の冷え★★★
青空を仰ぎ鎮座す落つばき★★★
おもかげの母は遠くに紫木蓮★★★

●黒谷光子
蒲公英の散らばっている造成地★★★
アネモネの真っ赤数本青草に★★★
楓の芽紅のほぐれて薄緑★★★★
楓の芽は大変やわらかな紅色。その芽がほぐれると、薄緑に変わる。紅から薄緑への変化の妙。どちらの色もそれぞれに美しい。(高橋正子)

●佃 康水
紅つぼみ開きて真白花りんご★★★
打ち靡く紅まんさくの庭明かり★★★
初蝶の野川越えしを見とどけり★★★★
初蝶を見たうれしさ。初蝶の危うそうな飛び方に、野川を越えてゆくまでを見届けるやさしさがこの句にはある。(高橋正子)

●増田泰造
春陰や棺の友と相別る★★★
妻歩く支えし杖や春日影★★
乳さがす子猫へ親の寝そべりや★★

●河野啓一
仏生会古木の花は散り終えず★★★
色浅き花や老樹の耐えて咲く★★
チューリップ私を見てよと咲いている★★

●古田敬二
鎌の先撥を鳴らして薺刈る★★★
花の名を一つ覚えし春句会★★
すかんぽの薄紅すくっと畦に伸び★★★

4月8日(月)

●小口泰與
摘みてきし一輪草を供花とせり★★★
枝垂れ梅見事ですねと声掛かる★★★
青柳や利根の瀬頭波高し★★★

●河野啓一
雨上がり百合の芽伸びる速さかな★★★
名も知らぬ苗木の育つ庭の先★★★
陽のひかり若葉青葉の朝が来る★★★

●増田泰造
母やなし増毛の浜の春の潮★★
鰊群来見たさに銭函来つるかな★★
厩出しいななく主は栗毛色★★

●多田有花
時雨くる中を燕の旋回す★★★
ガレージに等間隔に燕の巣★★★
山桜いま満開の昼下がり★★★

●祝恵子
先頭を行く子はだあれチューリップ★★★
山吹の枝垂れて森の水の上★★★
大道芸子も手伝いて花吹雪く★★★★

●桑本栄太郎
イベントの台車の上や花の塵★★★
散り敷ける坂の艶めき花の冷え★★★
道野辺の片方(かたへ)に集い花の塵★★★

●小西 宏
低き雲ありて速きや夏蜜柑★★★
陽の眩し三葉躑躅の山の道★★★
残されし蕪(かぶら)の花の群れ咲けり★★★

●高橋秀之
チューリップ真っ直ぐ天へ赤々と★★★★
チューリップを代表する色はやはり赤。その赤色のチューリップが真っ直ぐに、新入生のように背筋をのばしている。迷いがなくすがすがしい。(高橋正子)

真っ白な靴で歩みゆく新学期★★★
若草に一筋の道河川敷★★★

●藤田洋子
売り声の丘を巡れり植木市★★★
さわさわと和紙の音して雛納む★★★★
雛納めんは、幾分寂しさがつきまとうが、この句はそうではなく、「さわさわと」した気持ちで雛を納めている。雛は美しいままに、次に飾られる日を待つであろう。(高橋正子)

水の面に落花一片ずつの色★★★

4月7日(日)

●小口泰與
渓流の音の蛇行や初わらび★★★★
「音」が蛇行するというのは、渓流の遠くの音までが微妙に違って聞こえてくること。その中にわらびが萌え出て、早春の若々しさがうれしい。(高橋正子)

あけぼのや雉の鋭声と犬の声★★★
笊下げて小川へ下りし花菜かな★★★

●河野啓一
一斉に芽吹いて街の銀杏かな★★★
欅若葉みどりは枝の先端に★★★
花韮のうすむらさきに揺れており★★★

●多田有花
嵐の夜明けて山野に木の芽の色★★★
一陣の風に放ちぬ花吹雪★★★
花屑を残し嵐の東へ去る★★★

●桑本栄太郎
花に酔ひ花の命を惜しみけり★★★
重なれば並木色濃き花の影★★★
菜種梅雨ときに嵐となることも★★★

●小西 宏
青空へまるく葉を巻き楢芽吹く★★★★
一木の下(もと)宴あり遅桜★★★
笛習う人の集うて花馬酔木★★★

●高橋秀之
嵐すぎ桜花びら真っ直ぐに★★★
石垣の上に枝垂桜咲く★★★
彦根城堀に桜と空映る★★★

●黒谷光子
朝よりの雨に煙りて花の土手★★★
たまさかに過ぎる公園花の雨★★★
近道をして春泥を避けられず★★★

●下地鉄
花園はサンバのりずむ春嵐★★★
サルビアの咲き揃いてや空の青★★★
春雲や明日帰郷する孫の顔★★★

4月6日(土)

●迫田和代
散らばって土手の土筆を摘んでる子★★★★
「散らばって」が楽しい。土筆があちこちに生え、子たちも互いに間隔をとって土筆取りに夢中。いい写生だ。(高橋正子)

今通る桜を散らす雨と風★★★
白きもの少し混じった春の空★★★

●小口泰與
松籟や丘をいろどる黄水仙★★★
黄水仙海へ海へとなだれ咲く★★★
そよ風や下へしたへと枝垂れ梅★★★

●下地鉄
行く春の雨だれ音のひびきかな★★
春の海驟雨の中の青さかな★★★
直立し向きをそろえてグラジオラ★★★★
グラジオラスが咲きそろった感じがそのまま素直に表現されて、涼しげである。(高橋正子)

●多田有花
花やいま咲き満ちたりし一点に★★★
嵐来る前に桜を見に行かん★★★
花びらの舞い来る中を山へゆく★★★

●小西 宏
乳搾り紋白蝶の揺れ纏う★★★
丘なべて黄となり空へ菜花畑★★★
海苔粗朶の影波に立ち夕日落つ★★★

●河野啓一
柿若葉はや朝空に陽を透かし★★★★
柿若葉の緑は、空の青さに溶け込むように、光を透かしている。ほかの若葉に先駆けて若葉の美しさを見せてくれる。(高橋正子)
桜散る風強ければ宙を舞う★★★
春嵐来ぬ間のデイの花見かな★★★

●桑本栄太郎
桜桃のうすき花びらかく散りぬ★★★
連なれば鈴やみどりの土佐みづき★★★
辛夷散る丘をまあるく白く染め★★★

4月5日(金)

●祝恵子
流れゆく流れに乗りて残り鴨★★★
青饅は私の味にワケギ切る★★★
菜の花の摘みしばかりを前かごに★★★★
摘んだばかりの菜の花が自転車の前かごに風を受けて、生き生きとしている。自転車に乗る人もうららかな気持ちになる。(高橋正子)

●河野啓一
紅かなめ萌え出で鄙の春深し★★★
雪柳わが世の春を謳うごと★★★
春眠の覚めてメジロの飛び交う朝★★★

●下地鉄
長き日の夢のつづきの叉寝かな★★★
舞姫の舞いかろやかに春の風★★★
残る世は何して生きむ梅の花★★★

●黒谷光子
物干して見遣る堤の朝桜★★★
嫋やかにうねる遠見の花の道★★★
畑仕事休みては見る桜かな★★★

●多田有花
夜桜や薄むらさきに照らさるる★★★
満開の桜の上に朝の月★★★
清明の光と風にシャツを干す★★★

●桑本栄太郎
うす曇る嶺に陽射しや黄沙降る★★★★
吹き上げる風を待ちいる落花かな★★★
春灯の橋を来る人帰るひと★★★

●小西 宏
タンカーの空へ消えゆく春霞★★★
雲も人もみな菜の花の中にいる★★★★
「雲も人も」を同列に配して意表をついているようだが、大きな視野で見れば自然なこと。やわらかさに包まれた春の景色。(高橋正子)

水張られ田に春光の耀けり★★★