4月24日(水)

●小口泰與
外つ国の人も交りて花莚★★★
雪解けの山襞迫り指呼の間に★★★★
竹秋や利根の流れの滔々と★★★

●黒谷光子
山門へ溢るる馬酔木見上げつつ★★★
九体佛御座す明るき春障子★★★★
傍らに木椅子おかれて藤の花★★★

●小西 宏
我が家にも蜜蜂の来て躑躅突く★★★
景借りし隣家の庭に春惜しむ★★★
花韮の薄き青ゆれ夏近し★★★★
韮の花は、白く初秋に咲くが、花韮は韮に似た葉ではあるが、花は星型をして春に咲く。白い花もあれば、薄い青色の花もある。花韮が咲き満ち、風に揺れると夏も近いと感じる。光と風はもう夏めいているのだ。(高橋正子)

●河野啓一
樟若葉見上げて高きうす茜★★★
送迎車緑の雨の中を行く★★★
青竹に鯉泳がせし頃のこと★★★

●多田有花
噴水がとどく青空夏近し★★★
鍋で炊く春筍のご飯かな★★★
春荒の部屋で読みつぐ探検記★★★

●桑本栄太郎
さえずりの北京語めける梢かな★★★
饒舌は吾の十八番よ揚ひばり★★★
夕暮れの赤の哀しきすいばの穂★★★

●下地鉄
微かなる泰山木の花落ちて★★★
風吹けば花のかおりの泰山木★★★
卯波はや遠くに海の蒼さかな★★★

4月23日(火)

●小口泰與
廃校の庭に咲きたる桜かな★★★
桜鯛夕映えのせし水面かな★★★
電柱の天辺占むや鴉の巣★★★

●迫田和代
天からの流れるように藤の花★★★
夏近しピッチの芝に水を撒く★★★
雲もなし漆のよるの朧月★★★

●河野啓一
創造の歓び葉桜並木かな★★★★
樟大樹長者の風情若葉して★★★
里山の夕陽にゆれて柿若葉★★★

●桑本栄太郎
ぼつてりと雨に散りけり八重桜★★★
濃く淡く峰の谷間や山笑ふ★★★
平らかに又あでやかに花みずき★★★

●小西 宏
スカイビルに姿映して金盞花★★★
口腔に軽き音立て春キャベツ★★★
未来へか濁世へか孫入学す★★★

●黒谷光子
三椏の花の天蓋磨崖仏★★★★
三椏の黄色い花と形は、仏との取合せで、曼荼羅図を飾る花のようにも思える。早春の花、三椏の花を天蓋として飾られた磨崖仏に親しみがもてる。(高橋正子)

磨崖仏めぐる鶯の声の中★★★
水音の絶えぬ山路や磨崖仏★★★

4月22日(月)

●小口泰與
雨後の朝川辺明るき柳かな★★★
老松の空へ鬨声緑立つ★★★
つちふるや雨後の芝生の青々と★★★

●河野啓一
葉桜の葉の増え来たる並木道★★★★
「葉の増え来る」は、実際感じているところだが、言葉に表したのは手柄であろう。桜が散り、葉桜の影が次第に大きくなって初夏を向かえる。気持ちも前へと向く。(高橋正子)

咲きはじむ平戸つつじは校庭に★★★
雲二つ重なり浮かび春は行く★★★

●多田有花
光また差して翳りて若楓★★★
青空へすっくと立ちぬチューリップ★★★
鞄より首出す犬やチューリップ★★★

●桑本栄太郎
春風や足なが募金の高校生★★★
川床の春の落葉や高瀬川★★★
秘めごとの吾にありしや著莪の花★★★

●古田敬二
ほかほかと筍飯の塩加減★★★
夕暮れて山蔭白くしゃがの花★★★
分け入りて水湧く淵のサイタズマ★★★★

●下地鉄
百万の百合花に埋まる小島かな★★★
菜の花や一両電車音残し★★★
一碧の水平線の雨の中★★★★
煙る雨の中に、「一碧の水平線」が印象深く、象徴化された日本画の世界を感じる。(高橋正子)

●高橋秀之
立山に未だ残雪白き峰★★★
ホタルイカまず人数分を注文す★★★
チューリップ揺らして唸るディーゼル音★★★

4月21日(日)

●小口泰與
夕さりの雨を弾きし白蘇枋★★★
そよ風や雨後の水田の花筏★★★
山桜妙義の奇岩指呼の間に★★★

●河野啓一
ぎっしりと予定のありて花水木★★★
新緑の煌めき夜来の雨上がる★★★★
新緑がとくに美しく輝くのは朝の雨上がり。柔らかの緑の爽やかさが素晴らしい。(高橋正子)

水玉は葉桜の陰雨のあと★★★

●下地鉄
翡翠カズラ風を揺らして重く垂れ★★★
サーファーの前髪美しき飛沫かな★★★
サーファーは女性であろうか。前髪に飛沫がかかり、健康な笑顔が見える。健やかな若者像。(高橋正子)

岩影に咲いて涼しき雪の下★★★

●高橋秀之
残雪の頂上白く飛騨山脈★★★
線路沿い白く黄色く水仙咲く★★★
さるぼぼを照らす薄日は春の空★★★

●祝恵子
藤の花帰りにも寄る房の前★★★★
見事な藤の花房。一度見て去るには惜しく、帰りにもう一度眺める。花好きな者には、うれしく、豊かな花である。(高橋正子)

直立の時期すぎ撓むチューリップ★★★
土再生植え込む春の苗色いろ★★★

●多田有花
桜蘂降るや冷たき雨の中★★★
山若葉風に応えて沸き立ちぬ
泉州の山まで見えて若葉風★★★

●桑本栄太郎
すでに早や若葉寒むとはさりながら★★★
雨後と云う丈を競いぬ春筍★★★
掘る人に日差し届かず竹の秋★★★

4月20日(土)

●藤田裕子
朝晴れし稜線宙に山霞む★★★
鍋に入れ緑うるわし生若布★★★
山風の街筋やさしつつじ咲く★★★

●小口泰與
爆ぜ菓子や蘇枋ふくらむ夕まぐれ★★★
青空へ鬨声あげし名の木の芽★★★
摘みてきて蕨三和土にひろげあり★★★★
三和土(たたき)に広げられた蕨にこの時期のほどよい「湿り」を感じる。三和土のある家の薄暗がり、蕨の色とその湿り具合は、日本の湿潤な古くからの暮らしの象徴のようだ。(高橋正子)

●河野啓一
春は行く川の流れのそのように★★★
朝の日に背中のぬくみ春惜しむ★★★
夏隣り艶めいて今樹々の色★★★

●桑本栄太郎
菜の花の天井川の黄明かりに★★★
白壁の土塀つらなり柿若葉★★★
暮れ残る夕日に高きすいばかな★★★
夕日が斜めから差して、すっくと伸びた、赤いすいばの花を染めている。すいばの花が郷愁を感じさせて、やさしく詠まれている。(高橋正子)

4月19日(金)

●藤田洋子
陽を返す色一面の山躑躅★★★
山の日がまぶし躑躅の葉に花に★★★
展望台の陽射し広げて躑躅咲く★★★
展望台からの眺めに解放感があって、躑躅の花が輝き、初夏という季節の強さを思う。(高橋正子)

●小口泰與
もみじ咲く見上ぐる空は万華鏡★★★
チューリップ名残の花を挿しにけり★★★
老木のこぶに咲きたる桜かな★★★

●河野啓一
藤棚の房まだ上に向き★★★
気がつけば豊かにたれし藤の花★★★
そよ風の藤棚いつしか人去りて★★★

●迫田和代
何処(いずこ)より川面に揺れる花筏★★★
静かなり川土手の桜も葉桜に★★★★
満開の桜もよいが、花が散り、花蕊が降ってしまった後の葉桜には、安堵感や安らぎがある。川土手の葉桜の静けさにいい日常がある。(高橋正子)

青い空梨園に溢れる白い花 ★★★

●多田有花
うららかや小さき石橋を渡る★★★
春昼の池の蛙が鳴いており★★★
丘は晴れ霞桜のぽつぽつと★★★

●佃 康水
燕飛ぶ朱の廻廊へ婚の列★★★★
廻廊の朱と、燕に黒の強いコントラストが印象に残る。その華やかさと厳かさに婚儀の列が加わって、華やかさと厳かさが一層増した。(高橋正子)

能果てし帰船の入日よなぐもり★★★
少年ら雁木へ荷を置き磯遊び★★★

●桑本栄太郎
菜園の生垣めぐる新芽かな★★★
サンシェード下ろす車窓の春暑し★★★
秘めごとの吾にありしや著莪の花★★★

4月18日(木)

●小口泰與
夕映えを清流に乗せ花筏★★★
見下ろすや池をおおいし花の雲★★★
雄雉の忽と咫尺を飛びにけり★★★

●古田敬二
陽が落ちる芽吹きの梢に陽を残し★★★★
芽吹きの梢に夕陽が最後まで残って静かなかがやきとなっている。芽吹きの梢の細やかさが一日の最後まで美しい。(高橋正子)
葉桜となりて森の落ち着きぬ★★★
カラタチの花咲くその奥夕暮れて★★★

●河野啓一
夏近しシャツ一枚でペダル漕ぐ★★★
春は行く野山を青く染めあげて★★★
わらび餅購い帰る鄙の里★★★

●多田有花
野のみどり山のみどりや春暑し★★★
山吹も揺れることなし山の午後★★★
ゆっくりと躑躅咲く坂母とゆく★★★

●桑本栄太郎
用水の花菜明かりの中洲かな★★★
医科大の樟の大樹や新芽立つ★★★
花水木こころの痛むことばかり★★★

●黒谷光子
長閑さに訪ねる江戸の長屋門★★★
名園を巡り椿の八重一重★★★
乗り降りに傾く春の屋形船★★★
屋形舟は、花見の舟か。また新緑を楽しみながら下る川下りの舟か。乗り降りに傾いて危ういが、それも屋形舟の興趣。(高橋正子)

●小西 宏
鶯の鍵盤右へふと左へ★★★
空襲に斃れし人の竹の秋★★★
タンポポの綿毛競える夕明かり★★★

●佃 康水
 宮島桃花祭御神能祭
太郎冠者のらりくらりに山笑う★★★
春風を袖に孕みて能舞えり★★★★
厳島神社の能舞台は特別なもの。海を渡ってきた春風が能舞台を吹く。能衣装の袖に孕む風が風雅に動きのある新鮮さを呼んでいる。(高橋正子)

能笛の漏るる参道緑立つ★★★

4月17日(水)

●小口泰與
雲もなき空へ白鳥帰りけり★★★
白鳥が空の青に染まらず帰ってゆく光景。白鳥の白、春空の青、ともに寂しい。(高橋正子)

さえずりや花屋いろどる花の数★★★
春深し小布施の町の水明り★★★

●河野啓一
園児らの声風に乗りゲンゲ畑★★★★
げんげ畑で遊ぶ園児たちが、うれしそうな声をあげ、吹く風に声が乗ってくる。牧草のような匂いがする牧歌的な句だ。(高橋正子)

畦道の向こう遥かに蓮華草★★★
うすピンク色に透けて今年の紫雲英かな★★★

●多田有花
霞桜すでに汗ばむころとなり★★
曇天に重たく咲いて八重桜★★★
チューリップヘッドライトに口閉じて★★

●桑本栄太郎
教師らの校門チェックや花は葉に★★★
子雀の地上の一尺翔ぶばかり★★★
暮れかねる畑の陽を透き柿若葉★★★

●小西 宏
花楓啄ばんで鳥陽を揺らす★★★
麗らかや少し色づく春紫苑★★★
たんぽぽの綿茎高く立ち空へ★★★

4月16日(火)

●小口泰與
風荒き郷にほぐれし牡丹の芽★★★
種袋振るや鳥達高く鳴く★★★
野ざらしの猫車あり鳥帰る★★★★
猫車はもう使われなくなったのか、野ざらしにされている。野畑には、若草が萌え出ているだろう。空高く鳥が帰ってゆく。さびしさの中にも、野は春の明るさを秘めている。(高橋正子)

●黒谷光子
購いて流しに小鮎跳ねさせる★★★★
獲れたばかりの小鮎を買う。流しに置くとまだぴんぴん跳ねる。山椒の葉や実と飴煮されるのだろうか。湖のほとりの暮らしが鄙びていながら風雅。(高橋正子)

飴色に煮ても小鮎の耀ける★★★
小鮎煮て明日の客へのもてなしに★★★

●多田有花
左右より来て春の川合流す★★★
九十九折れ木の芽の山の麓まで★★★
春筍鶴嘴を手に掘りにゆく★★★

●河野啓一
人の波牡丹桜のその下に★★★
重そうな色して牡丹桜かな★★★
散り初めと云えど嬉しき八重桜★★★

●桑本栄太郎
静もれる路地の狭庭や花蘇芳★★★
生垣の赤き芽吹きや古民家の★★★
乙訓の嶺から里へ花菜風★★★

●小西 宏
麗しきもの移りゆく春愁★★★
花蘂敷く道濃く淡く蝶の影★★★
薄日差す紫重し藤の棚★★★

4月15日(月)

●小口泰與
千本の桜の蕾弾けたり★★★
野蒜摘む畦の十字に日の当たり★★★
山独活や山に囲まる風の郷★★★

●河野啓一
芽柳のきららと青み街明かり★★★★
街の芽柳は、街を明るくしてくれる。しなやかに垂れて揺れる若緑の枝は、「街明かり」というほど。街に芽柳はよく似合う。(高橋正子)

風吹けばステップ踏むよ柿若葉★★★
丘青し泳ぎゆくかな鯉二匹★★★

●桑本栄太郎
からし菜の土堤の一面花菜風★★★
天ゆ降る神の声とも揚雲雀★★★
山麓に赤き屋根見え山笑う★★★

●黒谷光子
山に入る金縷梅の黄を目じるしに★★★
谷川の小石光りて花馬酔木★★★
供花切りに入る山路や花馬酔木★★★

●多田有花
湯の音に鶯の声露天風呂★★★
ふるさとの家の庭には桃の花★★★
はくれんや陽にハンカチを振るごとく★★★

●小西 宏
八重桜風に揉まるる花も葉も★★★
雲流る険しき崖の藤の花★★★
春光の漏れ来る梢鳩高らか★★★