7月6日(土)

●小口泰與
きわやかや事に日の出の蓮の花★★★
ねじ花や花にそよぎし低き風★★★
魚止めの滝や朝日を賜わりし★★★

●桑本栄太郎
朽ち居ても香り確かむ夏つばき★★★
眩しさの木洩れ日降りぬ梅雨の晴れ★★★
涼風の立つや忽ち又雨に★★★

●河野啓一
蓮の花競い合うなか朝の風★★★
花南天地に散り敷いて天の星★★★
割り箸でつまむ毛虫よ蝶かもしれず★★★

●多田有花
【原句】夏霧を載せて流れし朝の川
【正子添削】夏霧を載せて流れる朝の川★★★★
夏霧を載せたままに川が流れていく朝の静かでゆったりとした景色がよい。原句の「流れし」の「し」は回想の助動詞「き」の連体形。この句は現在形がよい。(高橋正子)

あの角もこの角ものうぜん花揺れ★★★
梅雨茸一夜に数を増やしおり★★★

●佃 康水    
白南風や下船の一歩立ち尽くす★★★★
梅雨が明けて吹く南の風を白南風というが、下船したとたん、足元の不安定さに、大きく吹く白南風に立ち尽くしてしまった。「立ち尽くす」は、また、陽の強さに目が眩んだせいでもあろう。(高橋正子)

 広島江田島 茶道の師を訪う
翼張る青鷺の空大きかり★★★
 江田島 乗馬場
エンジン音響かせ馬場へ水撒かる★★★

●小西 宏
空に向け伸びす合歓咲く昼下がり★★★
軽鳧の子の羽膨らませ飛ぶ用意★★★
梅雨明けて蝉のそろそろ鳴き初むる★★★

●下地鉄
街の灯のぽつりぽつりと夏暮れる★★★
夏雲や残照やわき海の色★★★
朝凪の浜辺に独り孤老かな★★★

●高橋秀之
夕立に家族そろって雨宿り★★★
夕立を弾く木の葉の瑞々し★★★
一瞬の大雨夕立かばん濡れ★★★

◆今日の秀句/高橋正子選◆

7月5日
★吹き抜けをつらぬくほどに七夕竹/川名ますみ
吹き抜けをつらぬくほどの七夕竹の高さ。竹の高さそのままの青々とし七夕飾りに揺れる様子には感激。(高橋正子)

7月3日
★緑濃き風に吹かれて書道展/小西 宏
緑濃き風が吹き抜け、心地よい会場の書道展。緑濃き風に、墨色もいきいきと浮き上がってくる。(高橋正子)

7月2日
★捕まえて虫籠の少年にやる飛蝗/古田敬二
虫籠を持った少年は、まだなんの虫もとっていないのか、農作業中の作者は飛び出た飛蝗を捕まえて少年に渡した。虫を得た少年の喜びと作者の優しさが読める。(高橋正子)

7月1日/2句
★あるだけの夕餉は採りたて夏野菜/祝恵子
「あるだけの夕餉」は、いい生活だ。「採りたて夏野菜」は、家庭菜園だろうか。身近なところで栽培された新鮮な食材は、美味しい。これもいい生活なのだ。(高橋信之)

★あけぼのの靄の中より新樹光/小口泰與
季語「新樹光」で一句を終えた。終わりを明るく終えたのである。上五の「あけぼの」がいい。中七の「靄の中より」がいい。(高橋信之)

6月29日/2句
★山に向き青田をよぎる道のあり/迫田和代
眺めていると、山に向かって伸びる道があり、それが青田をよぎっている。青田と一本の白い道が絵画のような印象だ。(高橋正子)

★不揃いの三つを篭に初なすび/黒谷光子
初どりの野菜はことに嬉しい。形の不揃いは気にしない。丹精した甲斐があったというもの。これからの収穫がなお楽しみ。(高橋正子)

6月28日
★観音の慈眼へひらく沙羅の花/佃 康水
「観音の慈眼」に「沙羅の花」を取り合わせると、「沙羅双樹(フタバガキ科)」を思って、宗教的になる読み手もあろうが、この句には作者の素直な観察があって読後快い。句のリズムもやさしい。日本での庭木の「沙羅」は、ツバキ科の「沙羅双樹」であり、俳句の季語にある「沙羅の花」も「夏椿の花」のことで、フタバガキ科ではなく、ツバキ科の「沙羅双樹」の花である。(高橋信之)

6月26日
★それぞれの高さに風を花菖蒲/多田有花
花菖蒲は、遠目にはそろって見えるが、それぞれに高さが違う。その一花一花が風をまとって、それぞれが吹かれる様は風情がある。(高橋正子)

6月25日
★鉢ものを見廻る吾や朝涼し/桑本栄太郎
あれこれと植えた鉢物。夏は朝も早く明け、涼しい時間が楽しめる。鉢物を一つひとつ見て回るのも楽しみのひとつ。(高橋正子)

6月24日
★ゆっくりと自転車を漕ぐ青田道/河野啓一
上5の「ゆっくりと」がいい。都会では「青田」を見る機会がないが、少し歩いて郊外に出れば、「青田」に出会うことがある。「青田」の上には広々とした大空あり、いい出会い、いい繋がりの中に出る。すべてが「ゆっくりと」と動き、その中での人間の心も「ゆっくりと」なる。嬉しい句だ。(高橋信之)

6月23日(日)

●小口泰與
若葉食む親子の鹿やいろは坂★★★
花の名も忘るや滝の冷気浴び★★★
榛名湖へ道ありありや立葵★★★

●河野啓一
梅雨晴れ間草木も吾も活き活きと★★★
梅雨晴れ間表六甲ドライブに★★★
まろやかにかたき世なれや枇杷実る★★★

●小西 宏
合歓の花淡し翔けゆく飛行機雲★★★★
儚げな合歓の花と、描かれてまた消える飛行機雲の取り合わせの妙だが、「飛行機雲」が伸びて行く様子を「翔けゆく」と捉えたところが、作者の個性。(高橋正子)

青トマト重し老農編む柵に★★★
野を歩き夏の色花摘まず措く★★★

●桑本栄太郎
暮れかかり仕切りに呼びぬ親つばめ★★★
のうぜんの花に夕闇迫りけり★★★
近道を選ぶ家路や梅雨きのこ★★★

●川名ますみ
真っ白な紫陽花濡るる壕の辺に★★★
どの草も蒼く七変化の真白★★★
車中には燕見たかとそればかり★★★

6月22日(土)

●小口泰與
わたすげや戦場が原雲も無し★★★★
戦場ヶ原は日光の高層湿原。雲もなく晴れた湿原にわたすげが咲き、男体山などの山々が見渡せる高層湿原の清々しい風景。その良さが句となった。(高橋正子)

新緑の龍頭の滝の荒きかな★★★
桷咲くや光徳沼へ牛の声★★★

●迫田和代
梅雨おして訪ねた人の優しさに★★★
海のもの防風探しで浜をゆく★★★
月見草ある人言った富士に合う★★★

●多田有花
夏至の朝三日続きの雨を聞く★★★
売られたる田に夏草の生い茂る★★★
花に深く入りて蜜吸う揚羽蝶★★★

●河野啓一
遺伝子を大事に詰めて枇杷実る★★★
取り出せば大きく堅い枇杷の種★★★
荒梅雨の去りて生駒の山青し★★★

●桑本栄太郎
高きもて天を開くや立葵★★★
見上げいる空せめぎ合い青楓★★★
うたた寝の樂となりけり夏至の雨★★★

●小西 宏
夏至の日のゴールキーパー遠く蹴る★★★
梅雨の朝ひかり差し来る窓の青★★★
旅客機の近づいていく梅雨の月★★★

6月21日(金)


●河野啓一
紫陽花の軒端に雨水たっぷりと★★★★
紫陽花が咲く軒端に雨水がたっぷりと溜まっている。たっぷり溜まった雨水がゆたかで涼しい。(高橋正子)

梅雨寒の庭に雨傘挿して出る★★★
雨受けて葉蔭に育つ青柿一つ★★★

●小口泰與
あけぼのの赤城を映す植田かな★★★
青空の足尾銅山茂りかな★★★
万緑や明智平のロープウェーイ★★★

●藤田裕子
刈り込まれ青葉の輝き街筋を★★★
雨に咲く紫陽花の青無垢の青★★★
視野を越え小さき夏蝶木々に消ゆ★★★

●桑本栄太郎
大阪府三島郡とや青田波★★★
青梅雨や駅のホームの島本町★★★
サントリー大山崎の青嶺かな★★★

6月20日(木)


●小口泰與
じゃがいもの花や赤城は靄の中★★★★
雄々しい赤城の山も靄の中に消え、薄紫のじゃがいもの花が優しく咲く。じゃがいもの花が咲く頃は、雨の後など靄がかかりやすい。季節がよく捉えられている。(高橋正子)

夕映えに包まる雲や桐の花★★★
驟雨にも列を乱さず蟻の列★★★

●祝恵子
厨にはまだ濡れ輝いてミニトマト★★★
風のでて布袋草かすかに揺れる★★★
親来れば子つばめ口となる三羽★★★

●河野啓一
長雨に雨水湛えて合歓の花★★★
百合白く行列したるデイの庭★★★
ようやくにいつものような梅雨となり★★★

●多田有花
梅雨の蚊にしたたか喰われ目覚めけり★★★
雨濡らす梅雨の緑のいきいきと★★★
低山の頂隠し梅雨の雲★★★

●桑本栄太郎
明日ありと希む高さや立葵★★★★
立葵はまっすぐ茎が立って花が咲き昇る。空に咲き昇る花の光景は、「明日がある」と希望をもたせてくれる。(高橋雅子)

雨乞いの滋賀の山並み遠きかな★★★
草叢の被う流れや夏の川★★★

●小西 宏
子らの畑に茄子の実太くぶら下がる★★★
梅雨晴に玉蜀黍の花盛ん★★★
病院の裏手に夏の野の花々★★★

●高橋秀之
店内に立ち込む鮑焼く香り★★★
通勤の鞄が重し梅雨の朝★★★
葉桜の雨に打たれて色映える★★★

6月19日(水)

●小口泰與
石竹や髪をなびかす女学生★★★
青空へとけて声のみ夏ひばり★★★
夕さりや畔の十字の余り苗★★★

●桑本栄太郎
風が吼え木が吼え朝の青嵐★★★
西山の隠れ見えざる白雨かな★★★
坂道をつたい小路の夏出水★★★

●河野啓一
荒梅雨も天の恵みと受け止める★★★
福祉士の笑顔嬉しき梅雨の朝★★★
青簾茂るを夢見てゴーヤ植う★★★

●小西 宏
ベランダの手摺一列燕の子★★★
親鳥に急かされ空へ燕の子★★★
梅雨空に揺れて清しき寒枯藺(かんがれい)★★★

●佃 康水
浴衣着の少女ら駅に待ち合えり★★★★
少女たちは駅で待ち合わせ、夏祭りに出かけるのだろう。浴衣をすがすがしく着て友達が来るのを待っている。楽しそうなこと。(高橋正子)

緑陰の葉擦れの音へ将棋指す★★★
田の隅へ固まりそよぐ余り苗★★★

●川名ますみ
青梅雨を語るひと日よ伯父の来て★★★
葉も枝も裏を見せたる青嵐★★★
青あらし世界の回る音がする★★★

6月18日(火)

●小口泰與
新緑の空を支える巨木かな★★★
幽玄の青葉の影や朝まだき★★★
大瑠璃や朝がゆ急ぎかき込みし★★★

●藤田洋子
平らかに田植の前の水明かり★★★★
田植前の田に水が満たされている。風が渡り、漣が寄せて、水が光を放つ静かな景色。「田水」に「水明かり」を見たのが新鮮。(高橋正子)

新生姜香らせ夕餉整いぬ★★★
まるまると瓶に青梅粒揃う★★★

●河野啓一
信号機しばし待つ間の合歓の花★★★
夏野菜塩胡椒してオリーブ油★★★
信号を待つ間の憩い合歓の花★★★

●桑本栄太郎
緑陰のしばし車内に阪急線★★★★
阪急線も緑陰のある駅に停まる。車内も緑陰の内に。ドアからは、心地よい風が入って来るのだろう。電車に乗ったときの楽しみでもある。(高橋正子)

山影と鉄塔映す植田かな★★★
見上げいる高き青嶺や天王山★★★

●多田有花
梅の実や思いがけないことが良し★★★
夕刻の花菖蒲には細き雨★★★
雨くれば紫陽花の青のさらに澄み★★★

●小西 宏
犬とふたり欅青葉の中に入る★★★
木の杭に所在のあらず通し鴨★★★
曇天の割れ目めがけて黒揚羽★★★

6月17日(月)

●川名ますみ
額の花朝日に映る影きりり★★★
額の花朝日に影を濃く落とし★★★
苑の香よ青葉時雨に包まるる★★★

●小口泰與
せせらぎに沿いて登るや浦島草★★★
代掻きや腰の携帯高らかに★★★
田植機の爆走せしや夏の朝★★★

●小川和子
この辺り山百合咲くと案内さる★★★
滝音のひびく崖道寄らず過ぐ★★★
道標の行く先開け夏野原★★★

●桑本栄太郎
あご髭の痛き想い出父の日よ★★★
バイパスの嶺へとつづく梅雨の晴れ★★★
ベランダの風に身を置き夏の月★★★

●多田有花
【原句】梅雨の晴れ沖に並びしコンビナート
【正子添削】梅雨晴の沖に並びしコンビナート★★★★
梅雨晴の日差しを受けた沖のコンビナート。コンビナートの工場群が遠く銀色に輝く景色は、現代の美の一つであろう。

坂登り暖簾をくぐり夏料理★★★
パラソルに花菖蒲の色見え隠れ★★★

●河野啓一
短夜の明け来て清し鳥の声★★★★
夜が明けるのが楽しみな季節。短夜が開ければ、清らかな朝があり、鳥の声が聞こえる。素晴らしいことだ。(高橋正子)

揚羽蝶隣りの庭と縁つづき★★★
夕立晴妻は何処まで行ったやら★★★

6月16日(日)

●川名ますみ
堂々と咲きのぼるいろ立葵★★★
獣医へと大きな額の花曲がり★★★
獣医へと曲がりし角に額の花★★★

●河野啓一
梅雨の慈雨待ちかね草木も吾も共に★★★
梅雨空に友の平癒を祈るかな★★★
父の日に欲しきものはと問わるれば★★★

●小口泰與
白ばらのほのかに紅のさしにけり★★★
若竹や洋弓の腕あがりたり★★★
梔子の花や華箋の色褪せし★★★

●祝恵子
目の慣れて生まれし目高の数を追う★★★★
目高の子は小さく透き通っているので、目を凝らして見る。しばらく目高のいる水を見て目が慣れてようやく目高の子が見つかる。見つかれば、5匹、6匹と目に見え、その数が増えるのだ。(高橋正子)

またわき芽トマトの青き香り取る★★★
新じゃがの堀あげしまま日に置かれ★★★

●小川和子
声透る夏うぐいすに森深し★★★★
森深く入ると、夏うぐいすも、森の深さに比例するかのように声が澄んでくる。鶯の声のよさは、夏うぐいすが一番であろう。(高橋正子)

万緑の中や白雲映す沼★★★
青葉光降りくる山路湿りたる★★★

●桑本栄太郎
愛おしく行李に仕舞う更衣★★★
辻褄の合わぬ夢見し昼寝覚★★★
山影の黒く彼方や梅雨夕焼★★★

●多田有花
【原句】夏至近くことに眩しき朝の日は
【正子添削】夏至近くことに眩しく朝の日は★★★★

夏燕飛ぶ軽やかに水の上★★★
夏の海青し浮かべる船白し★★★

●佃 康水
匂い立つ実梅に一日梅仕事★★★
味見して合点の煮梅娘へ送る★★★
河骨のすっくと立ちて池明り★★★

●高橋秀之
夏空に遠く突き出す山と山★★★
雨上がり並んでヨット出航す★★★
展望塔前に広がる夏の山★★★

●小西 宏
朝濡らせし雨の涼しき木陰道★★★
一筋に伸び語り合う立葵★★★
紫陽花に光残せる夕日影★★★