5月25日(木)


●小口泰與
八方へ水打ちにけり鳥の声★★★★
八方に水を打ち、あたりは静まり涼しくなった。鳥の声が降って来る。気持ちが爽やかになる。(高橋正子)

白靴の先の濡るるや朝まだき★★★
田水沸く音ひとつ無き里の午後★★★

●佃 康水
 宮島管弦祭
神事果て夏満月の海となる★★★★
厳島神社の管弦祭の神事が終わり、海はなにか改まったように小さな波音を立てている。それを夏の満月が照らして安らかさが広がっている。(高橋正子)

大太鼓町へ轟く管弦祭★★★
曳き船の男(おのこ)ら踊る管弦祭★★★

●多田有花
朝食の窓辺に沸き立つ蝉の声★★★
蓮池に蜻蛉すいすい夏の朝★★★
朝曇去り木の陰のくっきりと★★★★

●桑本栄太郎
空蝉のまなこ哀しく語りけり★★★
いつせいに鳴き止む黙や蝉しぐれ★★★
炎熱のコンテナ赤き貨物基地★★★★

●古田敬二
妻の留守自分ひとりに胡瓜揉む★★★
朝粥に梅干し一つ光明寺★★★
陽の温み残したままの梅漬ける★★★★

7月24日(水)

●小口泰與
嘴で羽根を掻きけり通し鴨★★★
た走るや横谷渓谷乙女滝★★★
野を分けて利根迸る夕立かな★★★★

●多田有花
段ボール畳んで捨てる大暑の日★★★
蓮の葉の裏より蜻蛉生まれけり★★★
午後の部屋通り抜けたる大南風★★★★

●桑本栄太郎
昇降機を降りてひぐらし鳴き初むる★★★★
ビルの高層階では聞こえなかったひぐらしの声が、地上階で昇降機を下りると、とたんに聞こえ始めた。 気密的なビルも地上に通じればひぐらしの声も聞こえるのだ。(高橋正子)

空蝉の虚空の果てを見つめけり★★★
池の辺の風をさえぎり蘆茂る★★★

●祝恵子
家裏に立てかけられてゴムプール★★★★
カラフルなゴムプールが、ひっそりとした家裏に立てかけられて、目に楽しく映る。家裏が涼しそうである。(高橋正子)

オクラ採る少しぬめりを感じつつ★★★
子かまきり夏日に足を揺り踏み出す★★★

7月23日(火)

●小口泰與
枝ごとにあふるるほどの百日紅★★★★
百日紅は炎暑にも負けず盛んに花を咲かせる。枝先に「あふるるほど」の花だ。「あふるるほど」の花が百日紅の花の特徴
を言いえている。(高橋正子)

夕さりの風の重さや雨蛙★★★
走り根の雁字搦めや蜘蛛の網★★★

●迫田和代
涼風や中に花咲く氷柱を★★★
朝風に日影を明るく百日紅★★★
白波にぶつかっていく日焼けの子★★★★

●桑本栄太郎
こころなきものの哀れや蝉の殻★★★
つきものの落つや鳴き止む蝉しぐれ★★★
もの影の色濃くなりぬ大暑かな★★★★

●藤田裕子
門しずか夏月丸く鈍く照り★★★
遠目にも百日紅燃ゆ枝先を★★★★
大暑の日家居たのしむ人となり★★★

◆今日の秀句/高橋正子選◆

7月16日
★ひんがしの日を真っ向の青田かな/小口泰與
朝日が青田に昇ってくる。青田に昇る朝日はまばゆく、意外にも強烈な光である。青田の青、朝日の強さは、夏の朝の潔さ。(高橋正子)

7月17日
 周防灘秋穂(あいお)湾
★あきつ飛ぶ蒼き海辺や秋穂湾/桑本栄太郎
海辺を飛ぶあきつは、海風を受けて、透明でありながらも力強い飛び方をする。「蒼き海辺」があきつを元気にさせている。(高橋正子)

★マンゴーの丸みの残る古新聞/下地鉄
色あでやかなマンゴーを包んでいた古新聞。マンゴーの形のままの丸みを残している。画になる面白みがある。(高橋正子)

7月18日
★月涼し畳に光投げかけて/多田有花
畳の部屋に月光が射しこむ。月の涼しさが心地よい。畳の間が穏やかである。(高橋正子)

7月19日
★碧海の一線今日も乱れなく/下地鉄
沖に引かれた一本の水平線。碧海はやはり沖縄の夏の海でなければいけないであろう。今日も碧海は穏やかにそして広く緊張をもって横たわる。(高橋正子)

★庭先の風の一樹や白槿/藤田裕子(正子添削)
庭先の白槿が咲いた。その一樹を風がよく吹いている。白い槿の花も涼しそうである。「風の一樹」に涼しさが感じられる。(高橋正子)

7月20日
★採りたてを水に浮かべて夏野菜/祝恵子
夏野菜は、茄子、トマト、胡瓜など色も形も楽しい。水に浮かべて、冷やしたり、洗ったり。生き生きとして、楽しいものに触れることはよいものだ。(高橋正子)

7月21日
★夏木立揺れれば青空広々と/高橋秀之
夏木立が風で揺れる。涼しい風は空へ抜けるのか。見上げる青空は広々として爽快だ。(高橋正子)

★さるすべり瓦の上に青空に/桑本栄太郎
高々と花をつける百日紅は、こんな景色によく咲いている。屋根瓦の色にも、青空にも似合う花である。(高橋正子)

7月22日
★雷に打たれし如く入院す/河野啓一
啓一さんが入院された。それも雷に打たれたように、瞬時の出来ごとに、全く不意をつかれてのこと。そんな気持ちが「雷に打たれし如く」に出ている。(高橋正子)

★水遣りの視線へ大き夏の月/佃 康水
一日の暑さもようやく収まりかけたころ、植物に水遣りをする。水を遣りながら、見上げる視線の先に、大きな夏の月が懸っている。大きな夏の月が涼しい。(高橋正子)

◆今日の秀句/高橋正子選◆


7月9日
★今日の夏風さわやかに文机/下地鉄
夏となってしばらく立つ。今日の夏は、文机に座ると風がさわやかに通りに抜ける。かろやかな句。(高橋正子)

7月10日
★森に沿い初蝉すでに大合唱/河野啓一
初蝉の声を聞いたかと思うと、すでに大合唱。夏を謳歌しはじめている。元気な蝉たちである。(高橋正子)

7月11日
★朝涼に洗いし筆を並べおり/多田有花
朝の涼しさに洗った絵筆であろう、並べて置く。きれいな水を含んだ筆が涼しそうだ。(高橋正子)

7月12日
★星まつり色ちりばむるビルとなり/川名ますみ
星まつりの夜、ビルにはいろんな色の灯が点る。五色の短冊を思い浮かべるようなきれいなビルの灯である。(高橋正子)

7月13日
★子らに買うバナナを袋いっぱいに/高橋秀之
袋の詰められたバナナの黄色に元気がある。子供たちへの格好の土産となったバナナであるが、夏にあって楽しい。(高橋正子)

7月14日
★夏ひばり全き碧き赤城かな/小口泰與
「夏ひばり」と「全き蒼き赤城」の二物がせめぎ合う緊張感がよい。夏の赤城山のすばらしい蒼さが想像できる。(高橋正子)

7月15日
★山口の山に山つぐ夏の嶺/桑本栄太郎
瀬戸内に沿い新幹線で走っているとなだらかな山が多く続く。山に山がつながって、夏の嶺となっている。涼しい景色だ。(高橋正子)

7月8日(月)

●小口泰與
野放図に杏実らせ鳥の声★★★
朝日射す縹の赤城青りんご★★★
遠雷に遠まなざしのチワワかな★★★

●佃 康水
大き夢七夕電車載せ走る★★★★
七夕の日の電車。電車に乗っている子どもも、大人もみんな夢や願をもっている。みんなの夢や願が詰まった七夕の電車が大きく膨らむ。(高橋正子)

昼灯しゴーヤ日除けの理髪店★★★
蛍灯に見立てし和菓子目の前へ★★★

●迫田和代
島の空大きく横切る天の川★★★★
島の空に、島よりもはるかに大きくかかる天の川。天の川の果ては海の向こうに。島の空が快く涼しい。(高橋正子)

傍らに静かに咲ける月見草★★★
七夕の願い山ほど竹撓る★★★

●桑本栄太郎
学び舎の赤き煉瓦や炎暑来る★★★
山の背の峰雲育て天王山★★★
梅雨明けと聞けば四条のコンチキチン★★★

●多田有花
炎昼にリヤカーをひく男あり★★★
梅雨明けの部屋開け放ち風入れる★★★
青空へ風は吹きぬけのうぜん花★★★

●河野啓一
朝顔の紫紺の色を筆につけ★★★★
紫紺の朝顔を描こうとして、その色の絵の具を筆に含ませた。水彩画や墨彩画であろう。筆に含んだ紫紺の色が生き生きとして、涼しそうだ。(高橋正子)

烏賊釣りの船に揺られて若狭湾★★★
打ち水をすれば空にも風流る★★★

●小西 宏
梅雨明けて白輝けるビルの列★★★
蜻蛉生まれ白雲高く羽ばたける★★★
軽鳧の子の水面かすめて初飛行★★★

●小川和子
雷一声街を響かせ土砂降りに★★★
ひたひたと泉水河骨に充てり★★★
蓮池を覆う蓮の葉日を透かす★★★

7月7日(日)

●小口泰與
畦道や高さ際だつ立葵★★★
火の山の心音たしか夏木立★★★
ありありと朝の赤城や青ぶどう★★★

●小西 宏
金蚊の仰向いて脚生きんとす★★★★
金蚊が何かにぶち当たってひっくり返った。起き上がろうとしてか、必死に脚を動かしている。作者はその様子を「生きんとす」と捉えた。金蚊の命を直視しているのがよい。(高橋正子)

蝉鳴かぬ日にも網持ち子ら走る★★★
笹竹を手折り短冊五つほど★★★

●河野啓一
銀漢に願い届けよ笹飾る★★★
短冊の揺れて蜻蛉の飛ぶごとく★★★
天の川流れの先は那智の滝★★★

●多田有花
草原の輝きはるか小暑なる★★★
買い物の籠にそれぞれ笹飾り★★★
梅雨明けの近づく空を見上げおり★★★

●黒谷光子
畠より帰りて昼餉冷素麺★★★
冷素麺二筋三筋の色交じる★★★
硝子器に盛れば涼しき夕餉かな★★★

●桑本栄太郎
菜園の朝や数多の麦藁帽★★★★
朝まだ涼しいうちに菜園に出て作業をする人たちが大勢いる。夏野菜の収穫や水やりに、みんな麦藁帽子を冠っている。朝の菜園の涼しさを共有できる。(高橋正子)

炎天や室に入れば暗闇に★★★
街道の山滴りし家並みかな★★★

●下地鉄
蝉しぐれ締めの一声しっかりと★★★
暁闇のしじまを破る蝉しぐれ★★★
潮騒に更けゆく夏の浜辺かな★★★

●高橋秀之
初蝉や並んで歩む親子連れ★★★
風呂上り日焼け背中に薬塗る★★★
日焼けしてそれでもサッカーボール蹴る★★★