7月28日(日)


●小口泰與
梔子の香のおりおりの朝かな★★★
夕さりの赤城をかくす雲の嶺★★★
低く咲くねじ花の風低きかな★★★★

●桑本栄太郎
白粉の花の黄色や朝の辻★★★★
白粉花は、夕方から咲く花であるが、朝まだ早いうちは咲きの残っている。朝の辻に黄色い白粉花を見つけた。赤や白い花ではなく、黄色なので、月の色の名残のようでもある。「朝の辻」が涼しい。(高橋正子)

米の香のほのと乗り来る青田波★★★
菜園の朝のしじまやカンナの黄★★★

●多田有花
ひぐらしの木陰抜け六甲最高峰★★★
額紫陽花夏の終わりの六甲山★★★
六甲の汗を有馬の湯に流す★★★

●高橋秀之
夜が更けてそっと片手に夏帽子★★★
大皿に溢れんばかり冷奴★★★★
風呂上り団扇ふたつで風送る★★★

●古田敬二
一本の曲がるものなき木賊かな★★★
名刹の木賊一本も曲がらずに★★★
蝶舞えり入道雲の伸びる空★★★

7月27日(土)


●祝恵子
紅蓮にトンボ小さく彩をつけ★★★
空入れて蓮池水面に花の影★★★
池の風届く高さに泰山木★★★★

●迫田和代
蝉しぐれこぼさず立ちし大樹かな★★★★
大樹は桜の大樹であろうか。蝉しぐれがその木からこぼれ出ない。それほどにしっかりと蝉の声を包みこんだ大樹の風格はすばらしく、どっしりとした人間を見るようだ。(高橋正子)

朝日浴び鳩が空飛ぶ原爆忌★★★
被爆しただのに青々青桐や★★★

●小口泰與
千曲川鮎の長竿かがよえり★★★★
川風に銀鱗はねし簗場かな★★★
凌霄や赤城の空のいぶし銀★★★

●桑本栄太郎
靴濡らし朝の田道や露涼し★★★
青いちじく朝の田道の香りけり★★★
あいさつを交わす田道や朝涼し★★★★

●佃 康水
巨船ゆく沖へはだかる雲の峰★★★
日覆いを上げて目高の様子見る★★★
罅割れし青田へ田水染みわたる★★★★

●川名ますみ
うす紅も編まれし母の夏帽子★★★★
母にまだある若さと可愛さをほほえましく、ある意味母親的まなざしで思う娘である。明るいうす紅が涼しさを呼んでくれる。(高橋正子)

遠花火さがせば広き窓の外★★★
空蝉やビルの垣根の小さき葉に★★★

●古田敬二
大木によれば涼風うまれけり★★★★  
森静か遠くに蝉の音聞くばかり★★★
蚊帳釣り草一人で裂くはさびしかり★★★

●高橋秀之
この視線浴びて一息浮き袋★★★
顔つけてバタ足させてプールの子★★★
子を追うて潜るプールは水浅し★★★★

7月26日(金)

●小口泰與
あけぼのの空やダリアの雨しずく★★★★
雲の湧く浅間のすそ野田水沸く★★★
山に沿い夏雲沸くや佐久平★★★

●藤田裕子
蝉の声はたと止む午後風とおる★★★
ごちそうは茄子の漬け物白ごはん★★★★
星もなく熱帯夜の街鎮もれり★★★

●桑本栄太郎
 神戸六甲アイランドへ
夏潮の耀く眼下やモノレール★★★★
眼下に夏潮が耀いているのを眼のあたりにした爽快感がよい。また、モノレールという乗り物の特徴で、眼下というより、夏潮の真上にいる愉快があってよい。(高橋正子)

出港の二隻の白波夏の潮★★★
夏霞はるか高みに臨海線★★★

●多田有花
明け方の夢より醒めて蝉涼し★★★
紅白が交互に植わり百日紅★★★★
大辛のカレー一皿夏の昼★★★

5月25日(木)


●小口泰與
八方へ水打ちにけり鳥の声★★★★
八方に水を打ち、あたりは静まり涼しくなった。鳥の声が降って来る。気持ちが爽やかになる。(高橋正子)

白靴の先の濡るるや朝まだき★★★
田水沸く音ひとつ無き里の午後★★★

●佃 康水
 宮島管弦祭
神事果て夏満月の海となる★★★★
厳島神社の管弦祭の神事が終わり、海はなにか改まったように小さな波音を立てている。それを夏の満月が照らして安らかさが広がっている。(高橋正子)

大太鼓町へ轟く管弦祭★★★
曳き船の男(おのこ)ら踊る管弦祭★★★

●多田有花
朝食の窓辺に沸き立つ蝉の声★★★
蓮池に蜻蛉すいすい夏の朝★★★
朝曇去り木の陰のくっきりと★★★★

●桑本栄太郎
空蝉のまなこ哀しく語りけり★★★
いつせいに鳴き止む黙や蝉しぐれ★★★
炎熱のコンテナ赤き貨物基地★★★★

●古田敬二
妻の留守自分ひとりに胡瓜揉む★★★
朝粥に梅干し一つ光明寺★★★
陽の温み残したままの梅漬ける★★★★

7月24日(水)

●小口泰與
嘴で羽根を掻きけり通し鴨★★★
た走るや横谷渓谷乙女滝★★★
野を分けて利根迸る夕立かな★★★★

●多田有花
段ボール畳んで捨てる大暑の日★★★
蓮の葉の裏より蜻蛉生まれけり★★★
午後の部屋通り抜けたる大南風★★★★

●桑本栄太郎
昇降機を降りてひぐらし鳴き初むる★★★★
ビルの高層階では聞こえなかったひぐらしの声が、地上階で昇降機を下りると、とたんに聞こえ始めた。 気密的なビルも地上に通じればひぐらしの声も聞こえるのだ。(高橋正子)

空蝉の虚空の果てを見つめけり★★★
池の辺の風をさえぎり蘆茂る★★★

●祝恵子
家裏に立てかけられてゴムプール★★★★
カラフルなゴムプールが、ひっそりとした家裏に立てかけられて、目に楽しく映る。家裏が涼しそうである。(高橋正子)

オクラ採る少しぬめりを感じつつ★★★
子かまきり夏日に足を揺り踏み出す★★★

7月23日(火)

●小口泰與
枝ごとにあふるるほどの百日紅★★★★
百日紅は炎暑にも負けず盛んに花を咲かせる。枝先に「あふるるほど」の花だ。「あふるるほど」の花が百日紅の花の特徴
を言いえている。(高橋正子)

夕さりの風の重さや雨蛙★★★
走り根の雁字搦めや蜘蛛の網★★★

●迫田和代
涼風や中に花咲く氷柱を★★★
朝風に日影を明るく百日紅★★★
白波にぶつかっていく日焼けの子★★★★

●桑本栄太郎
こころなきものの哀れや蝉の殻★★★
つきものの落つや鳴き止む蝉しぐれ★★★
もの影の色濃くなりぬ大暑かな★★★★

●藤田裕子
門しずか夏月丸く鈍く照り★★★
遠目にも百日紅燃ゆ枝先を★★★★
大暑の日家居たのしむ人となり★★★

◆今日の秀句/高橋正子選◆

7月16日
★ひんがしの日を真っ向の青田かな/小口泰與
朝日が青田に昇ってくる。青田に昇る朝日はまばゆく、意外にも強烈な光である。青田の青、朝日の強さは、夏の朝の潔さ。(高橋正子)

7月17日
 周防灘秋穂(あいお)湾
★あきつ飛ぶ蒼き海辺や秋穂湾/桑本栄太郎
海辺を飛ぶあきつは、海風を受けて、透明でありながらも力強い飛び方をする。「蒼き海辺」があきつを元気にさせている。(高橋正子)

★マンゴーの丸みの残る古新聞/下地鉄
色あでやかなマンゴーを包んでいた古新聞。マンゴーの形のままの丸みを残している。画になる面白みがある。(高橋正子)

7月18日
★月涼し畳に光投げかけて/多田有花
畳の部屋に月光が射しこむ。月の涼しさが心地よい。畳の間が穏やかである。(高橋正子)

7月19日
★碧海の一線今日も乱れなく/下地鉄
沖に引かれた一本の水平線。碧海はやはり沖縄の夏の海でなければいけないであろう。今日も碧海は穏やかにそして広く緊張をもって横たわる。(高橋正子)

★庭先の風の一樹や白槿/藤田裕子(正子添削)
庭先の白槿が咲いた。その一樹を風がよく吹いている。白い槿の花も涼しそうである。「風の一樹」に涼しさが感じられる。(高橋正子)

7月20日
★採りたてを水に浮かべて夏野菜/祝恵子
夏野菜は、茄子、トマト、胡瓜など色も形も楽しい。水に浮かべて、冷やしたり、洗ったり。生き生きとして、楽しいものに触れることはよいものだ。(高橋正子)

7月21日
★夏木立揺れれば青空広々と/高橋秀之
夏木立が風で揺れる。涼しい風は空へ抜けるのか。見上げる青空は広々として爽快だ。(高橋正子)

★さるすべり瓦の上に青空に/桑本栄太郎
高々と花をつける百日紅は、こんな景色によく咲いている。屋根瓦の色にも、青空にも似合う花である。(高橋正子)

7月22日
★雷に打たれし如く入院す/河野啓一
啓一さんが入院された。それも雷に打たれたように、瞬時の出来ごとに、全く不意をつかれてのこと。そんな気持ちが「雷に打たれし如く」に出ている。(高橋正子)

★水遣りの視線へ大き夏の月/佃 康水
一日の暑さもようやく収まりかけたころ、植物に水遣りをする。水を遣りながら、見上げる視線の先に、大きな夏の月が懸っている。大きな夏の月が涼しい。(高橋正子)

◆今日の秀句/高橋正子選◆


7月9日
★今日の夏風さわやかに文机/下地鉄
夏となってしばらく立つ。今日の夏は、文机に座ると風がさわやかに通りに抜ける。かろやかな句。(高橋正子)

7月10日
★森に沿い初蝉すでに大合唱/河野啓一
初蝉の声を聞いたかと思うと、すでに大合唱。夏を謳歌しはじめている。元気な蝉たちである。(高橋正子)

7月11日
★朝涼に洗いし筆を並べおり/多田有花
朝の涼しさに洗った絵筆であろう、並べて置く。きれいな水を含んだ筆が涼しそうだ。(高橋正子)

7月12日
★星まつり色ちりばむるビルとなり/川名ますみ
星まつりの夜、ビルにはいろんな色の灯が点る。五色の短冊を思い浮かべるようなきれいなビルの灯である。(高橋正子)

7月13日
★子らに買うバナナを袋いっぱいに/高橋秀之
袋の詰められたバナナの黄色に元気がある。子供たちへの格好の土産となったバナナであるが、夏にあって楽しい。(高橋正子)

7月14日
★夏ひばり全き碧き赤城かな/小口泰與
「夏ひばり」と「全き蒼き赤城」の二物がせめぎ合う緊張感がよい。夏の赤城山のすばらしい蒼さが想像できる。(高橋正子)

7月15日
★山口の山に山つぐ夏の嶺/桑本栄太郎
瀬戸内に沿い新幹線で走っているとなだらかな山が多く続く。山に山がつながって、夏の嶺となっている。涼しい景色だ。(高橋正子)