9月28日

●河野啓一
天高くビル街の向こうに生駒山★★★
青空と陽光のカクテル秋清める★★★
豊作の地にありシリアの児ら思う★★★

●祝恵子
冬瓜の重さ測ってみたくなり★★★
冬瓜の二個を転がす厨かな★★★
さっぱりとゴーヤの棚を崩しゆく★★★

●迫田和代
白い雲下に輪を描く赤とんぼ★★★
蓑虫の顔を覗ける愚かさや★★★
しんとして秋の茜の地平線★★★★
「しんとして」に実感があり、この句が真実となった。地平線の秋の茜は、心静かに眺めたい。(高橋正子)

●小口泰與
秋空を余白とせしや吾の写真★★★
餌漁る鴉かしまし秋の暮★★★
あけぼのの稲穂さやぐや群雀★★★

●桑本栄太郎
冷まじくありて途切れし朝し夢★★★
高階のさらに高きに秋の雲★★★
夕日透き苦瓜の実の陽の色に★★★

●多田有花
澄む秋の峰を渡りて歩きけり★★★★
この峰からあの峰へ秋の澄んだ空や空気の中を、見晴らしを楽しみながら歩く。峰歩きの醍醐味。(高橋正子)

樒刈る人と会いけり秋の山★★★
秋麗の拝殿に座し祓受く★★★

●黒谷光子
自転車で行く真正面赤とんぼ★★★★
糠を燃す煙あちこちに秋空へ★★★
新米を炊く新しき炊飯器★★★

●高橋秀之
大皿に三尾の秋刀魚尾頭付き★★★
二階から夕餉の秋刀魚焼く匂い★★★
早い者勝ちで手元へ焼き秋刀魚★★★

9月27日

●小口泰與
菊咲きて誦経の僧の背中(そびら)かな★★★
山霧のまよい起ちけり里の渓★★★
おおかたは流れとともに行く柳★★★

●多田有花
青空へコスモスいっぱい身を揺らす★★★★
「いっぱい」はコスモスがいっぱいでもあるし、身を揺らすのが「大いに」の意味のいっぱいとも解せる。ともかく、たくさんのコスモスが精一杯風に花を揺らせているのだ。その所作がかわいい。(高橋正子)

秋冷の始まる夜のテニスコート★★★
一面の刈田一筋煙たつ★★★

●桑本栄太郎
刻々と雲の変化(へんげ)や野分晴れ★★★
想い出の影のごとくに藤は実に★★★
秋澄みてテニスコートの弾む音★★★

●黒谷光子
山並の分かつは秋の空と湖★★★★
海と空を分かつのが水平線であるのに対し、湖と空を分けているのが、横に伸びる山並。湖の国の秋空が広々として深い。(高橋正子)

秋蝶の湖辺の草に翅たたむ★★★
穏やかな湖見える土手緋のカンナ★★★

●河野啓一
★煮刈りて明るくなりし松手入れ
★天蚕の里に下り来て大きな翅紋★★★
★秋の空白雲包む日の光★★★

9月26日

●小口泰與
竜胆や日を率いたる浅間山★★★

山路きて此処のみ日矢の野菊かな★★★★
山路のなかにスポットライトを当てられたように日が差している野菊が慎ましく、可憐である。(高橋正子)

燕去る里の田畑の和みけり★★★

●河野啓一
写経して色即是空天高し★★★

秋深し街道沿いも黄金色★★★
秋高し汗をぬぐいてシャワー浴★★★

●桑本栄太郎
<京の町家散策>
洋館の京の真中に秋うらら★★★
格子戸の路地の青空さるすべり★★★
寺町の式部の墓所の秋日差し★★★

●祝恵子
路一つ隔てて校舎案山子立つ★★★
束をとき枝豆もぎゆく丹波産★★★

寄りし娘に持たす枝豆ゆでたてを★★★★
ゆでたてのほっくりした枝豆に母のさりげない愛情が読み取れる。立ち寄る娘のさりげなさも、自然体で美しい。(高橋正子)

9月25日

●小口泰與
山風に湯気まよい立つあきつかな★★★
ひぐらしや山の湯煙まよい立つ★★★
秋海棠一花とて色あやまたぬ★★★

●河野啓一
天蚕の山野超え来て翅ひろげ★★★★
小鳥来る稔りも近き頃ならむ★★★
アオサギの塑像のごとく何狙う★★★

●桑本栄太郎
<京の路地、町家散策>
坪庭の京の町家よ酔芙蓉★★★
秋日さす路地に張り出し犬矢来★★★
格子戸のつづく家並みや秋日影★★★

●佃 康水
蓮根堀る空の重さよ基地の町★★★★
基地の町は岩国であろう。岩国蓮根はほっくりとしていて有名だ。稲の実りに合わせるように、蓮田では蓮根が太ってくる。うすら寒い鉛色の空の下、軍用機の飛ぶ空の下で蓮根堀の作業がつづく。(高橋正子)

稔田へ夕日とどめて黄金色★★★
破蓮やくの字くの字に折れし尽くし★★★

9月24日

●小口泰與
秋寒や今朝の赤城のあさぎ色★★★
おしろいや暮るる早さの赤城山★★★
黒雲に乗りて吹き降り稲妻よ★★★

●河野啓一
透明で静かな秋の朝が来る★★★★
隣人と交わすおはよう声澄みて★★★
うすもみじの頃近くなりけり箕面山★★★

●祝恵子
花花の中に目立ちて実紫★★★
切り口は段々上へオクラ切る★★★
秋夕焼け釣りする子らの影の濃く★★★

●桑本栄太郎
溜めて来し地熱噴くかに彼岸花★★★

畦刈られ彼岸花のみひと群れに★★★★
畦がきれいさっぱりと刈られた後、彼岸花が固まって咲いている光景は日本の秋という感じだ。蕊を張る赤い花と清潔な畦が好対照。(高橋正子)

キラキラとテープきらめき稲田風★★★

●小西 宏
断崖に黄葉明るき山桜★★★
椎の実の硬きを噛めば土器太し★★★
澄む秋に葉と実を掲げ花水木★★★★

●下地鉄
秋雲のまとめて動く島の空★★★★
「まとめて動く」に島だからこそ感じられる雲の動きが読め、その感じ方、見方に驚いた。秋の島の空がぐっと身近になった。(高橋正子)

蜻蛉の静止のままの飛翔かな★★★
雨雲の去り行く後の今日の月★★★

9月23日

●河野啓一
芒生うる野に野兎の見え隠れ★★★

秋水をたどれば古き水車小屋★★★★
秋水の流れをたどってゆくと、そこに出現したのは古い水車小屋。そういった古い水車小屋が残されているところは、流れもきよらかだと思える。(高橋正子)

柿の実の赤く色づく丘の道★★★

●小口泰與
笠雲をいただく赤城芙蓉咲く★★★
秋せみや上えうええと木を昇り★★★
竹春や嶺々したがえて榛名富士★★★

●桑本栄太郎
雲水の電車降り来る秋彼岸★★★★
電車から雲水が降りてきた。普段ならそういうことがあっても、特に意には止めないだろうが、秋彼岸となれば、電車から降りた雲水に何かしら視線を注いでみるのだ。(高橋正子)

道の辺の供花のごときや曼珠沙華★★★
黒瓦屋根を稲田に家一軒★★★

●多田有花
秋の陽が穏やかに差し彼岸入り★★★

稲穂垂る中を駅まで朝の道★★★★
「朝の道」がすがすがしい。稲穂の垂れる道が駅まで続く。駅までの道に田んぼがあるのがうれしい。秋祭りも近い。(高橋正子)

稲穂の光東播磨の野に満ちて★★★

●小川和子
秋水に朽葉流るる音沿いぬ★★★
芝に飛ぶ赤とんぼうに陽の眩し★★★
踏み歩く遊びごころに木の実降る★★★

●高橋秀之
右に空地左に揺れる稲穂の田★★★★
友がもぎ友が箱詰め梨届く★★★
一周忌皆の笑い声は高き空へ★★★

9月22日

●河野啓一
病室の窓の眺めや秋彼岸★★★
箕面山秋深まりてせせらぎに★★★
澄み渡る大気や富士のご来光★★★

●小口泰與
山風にざわっと走る稲穂かな★★★★
山からの風が稲穂をざわっと走らせる。「ざわっと」に山風らしい、少々の粗さも見える。それが稲穂のある場所をよく想像させてくれる。(高橋正子)

秋の田や暁雲駆ける赤城山★★★
遠山の先のさきなる秋の雲★★★

●小川和子
銀杏の実熟れしが弾みつつ降りぬ★★★★
もう、銀杏の実が熟れて落ちる季節になったのかと思う。「弾みつつ落ちる」には作者のうれしさも込められているのだろう。銀杏の実も熟れて落ちるのがうれしいようだ。(高橋正子)

法師蝉森の空へと鳴き尽くす★★★
群れて咲く一本ずつの彼岸花★★★

●桑本栄太郎
路地を抜け秋の風鈴鳴るを聞く★★★
垣間見る庭の小径やみむらさき★★★
初孫の吾の故郷へ秋彼岸★★★

●佃 康水
煉り塀を越えし紫苑へ蜆蝶★★★ 
山裾へ飛火するかに彼岸花★★★
人参を撒きて袋を畑に挿し★★★

●高橋秀之
星空は明るく遠く秋の夜★★★
秋彼岸供花の水挿し満杯に★★★★
秋の彼岸は、暑さもまだ残る。供花の花入れ、水挿しに、水をなみなみといれる。花も生きいきとし、故人の喜びも一層であろう。(高橋正子)

貨物列車ゆく間鳴きやむ虫の声★★★

9月21日

●迫田和代
朝早く十六夜の月西の空★★★
思いがけず道の向こうの芒かな★★★
ホームには師のない句会女郎花★★★

●小口泰與
秋なすや朝の赤城の紫紺色★★★
雨上がり赤城榛名や秋すみぬ★★★
黄金田へ日のたわむるる里の秋★★★

●桑本栄太郎
ぬすびとと云われ草間や萩の花★★★

垣根越え萩は日差しにこぼれけり★★★★
垣内の萩が垣根を越えて枝垂れる様子は、生活の中にみられるいい風情だ。「日差しにこぼれ」には萩の小さな一花一花をいつくしむ気持ちがよく表れている。」(高橋正子)

散策の路地や垣根の白木槿★★★

9月20日

●小口泰與
あさがおの終の一花のうすき紺★★★★
暑いさかり、涼を呼んで咲いてくれた朝顔も終の花ひとつになった。寂しくも命の終わりのうすい紺色が気品を感じさせてくれる。(高橋正子)

日を受けて雀と和する稲穂かな★★★
たむろする明の鴉や秋の風★★★

●桑本栄太郎
十五夜の向かいの人と窓に会う★★★
十五夜の雲の狼藉なかりけり★★★

月今宵三つ日つづきの明るさに★★★★
今年は、台風のあと落ち着いた天気が続き、三日続いてよい月が昇っている。夜ごと地上を照らしてくれる明るさは嬉しいものだ。「三つ日つづきの明るさ」が新鮮。(高橋正子)

●河野啓一
月愛でる心を盛りしご膳かな★★★

病棟の上に輝く丸い月★★★★
病棟の上に満月を昇らせて眠れる夜は、さぞかし、よい眠りに就かれたことと思う。(高橋正子)

もちをつくウサギ嬉しき月今宵★★★

●小西 宏
薄みな風ななめなり崖の上★★★
子ら駆ける丘に振り子の秋桜★★★
青団栗帽子ずれたるあどけなさ★★★★

●佃 康水
師の快気祝う座敷や満月光★★★
子規句会果てて大きな窓の月★★★
朝の日を弾き煌めく式部の実★★★★  

●黒谷光子
川の水澄むを如雨露に植木鉢★★★

大根の芽畝の歪みを明らかに★★★★
大根が黒々とした畝に芽生えると、畝の歪み具合が明らかになってくる。その通りのことなのだが、歪みは大根の双葉のかわいらしさを印象付けるようだ。(高橋正子)

東は何処の窓も月を入れ★★★

9月19日

●河野啓一
秋野行くよき草花を求めつつ★★★★
秋の野を行く爽やかさは、これまでの暑さを思えば代えがたいもの。よい草花を見つけながらゆく楽しみも加わる。秋の草花はどれも優しい。(高橋正子)

庭隅に植えらる無花果実を結び★★★
曼珠沙華今年は見ざるまぼろしに★★★

●小口泰與
書肆の灯や秋の新刊高々と★★★★
読書の秋を迎え、新刊書を高々と積んだ書肆が明るく灯を点している。新刊書の匂いがこちらまでしてきそうで、読書意欲を誘われる。(高橋正子)

川えびの定かに見ゆる葉月かな★★★
くさのほをうばいあってるあかとんぼ★★★

●桑本栄太郎
秋出水引いて下流へ草の向き★★★
月白や月のまぼろし青空に★★★
待宵の明日も晴れたる夜待ちぬ★★★

●多田有花
タンカーが連なり進む秋の海★★★

播州平野日ごと刈田の増えてゆく★★★★
播州平野も、見渡せば日々刈り入れが進み、刈田の部分が増えている。稔田と刈田のまじり具合が変化するのが面白い。「刈田が増える」の発想が新鮮。(高橋正子)

小窓から乗り出して見る今日の月★★★

●小西 宏
若魚の揺らぐ堤の彼岸花★★★
名月や丘に優しき家灯り★★★

月今宵無地の茶碗の五穀米★★★★
無地の茶碗に盛られた五穀米が古代を思わせる。今宵の月は古代と同じように澄み輝いている。それほどに照り輝く今宵の月である。(高橋正子)