10月11日-12日

10月12日

●河野啓一
きんもくせい町内広く香らせて★★★★
町内のあちこちから金木犀が匂ってくる。「金木犀」に着目すると、まるで一木が町内に広く香りを広げているように感じられる。着目がユニーク。(高橋正子)

椿の実黒光して部活かな★★★
温め酒恋しき夜や病棟に★★★

●小口泰與
ぴいぴいと我が物顔の鵙の群★★★
山路きて数多どんぐり踏みにけり★★★
無残なり破れ葉にからぶ秋なすび★★★

●迫田和代
朝早く窓に映った雁の列★★★
月さやか我が影伸びる帰り道★★★
父母の歳越えた吾の秋彼岸★★★

●多田有花
芽を出すぞというじゃがいもを肉じゃがに★★★
窓開けて風を入れるや秋暑し★★★
稲架並ぶ向こうに色づく晩稲の田★★★

●桑本栄太郎
白花のひとつ残りて萩は実に★★★
解き放つ脇につぼみの椿の実★★★
びつしりと色の深みや実むらさき★★★★
実むらさきは、「びっしりと」と言って決して憚らないほど実をつける。紫色の実は「色の深み」を実感させるのだ。「色の深き」ではなく、「色の深み」と捉えたところが素晴らしい。(高橋正子)

10月11日

●小口泰與
どんぐりのばしっと落つる湖面かな★★★
秋深し眼間せまる山の襞★★★
雀追う鴉ぴょんぴょん刈田かな★★★

●桑本栄太郎
 白内障手術入院の病室より
青空の稜線近き秋の峰★★★
青空に雲の茜や秋入日★★★

眼帯を外し眩しき秋日かな★★★★
眼帯を外したとたん、目にまぶしい秋の日。手術の成功と光りが見え、物の見えるうれしさがこの一瞬にあった。(高橋正子)

●多田有花
ずっしりと袋に重き薩摩芋★★★★
里芋、じゃがいもなどに比べると、ずっしりとした重さを一番感じるのは薩摩芋だろう。形が大きいというだけではなく、実入りの良さを感じるのだ。食べる楽しみもさらに加わってくるのだ。(高橋正子)

嵐去り空に泳ぐや鰯雲★★★
秋の昼河原に響くサクソフォン★★★

●小西 宏
澄む空に大きな梨を食い太る★★★
栗鼠の尾の叫びに高し昼の月★★★
露草と赤のまんまの語り合ひ★★★

10月10日

●小口泰與
晩秋の湖心舟影長きかな★★★
名月や雲ひとつ無き明けの空★★★
朝寒と言葉かわせし庭越しに★★★

●桑本栄太郎
 白内障手術入院より
秋日眩し瞳孔開く点眼液★★★
秋愁や明日の手術を想いおり★★★

手術終え群青紺や秋の宵★★★★
前書きに白内障手術とある一連の句。白内障のためにぼんやり濁って見えた景色が、手術を終え物が鮮明に見えるようになった。なかでも秋の宵の群青紺の空の色は格別美しい。その色が見えて感激である。(高橋正子)

●小西 宏
絹雲に葉の紅極む花水木★★★★
花も可憐で美しい花水木であるが、秋の紅葉した葉も捨てがたい。高層圏にかかる絹雲との対比に紅が際立つ。(高橋正子)

竹揉まれ台風近し寺の奥★★★
振り向けば金木犀の葉隠れに★★★

10月9日(水)


○小口泰與
虫の音にお国訛りのありしかな★★★
夕映えを湖に沈めしななかまど★★★
榛名富士映す湖面や花すすき★★★

○多田有花
やわらかき陽にきらきらと秋の滝★★★
秋高し流れる雲を湯船より★★★
日本海を嵐が進む寒露の夜★★★

○小川和子
風集め風ひきうけて狗尾草★★★
コスモスの濃淡揺れて電車の灯★★★
悠久の空よ層成す鰯雲★★★

○古田敬二
池の傍芒まぶしくウェーブする★★★
視野一杯広がる芒のまぶしかり★★★
落日に芒の原の白ひかり★★★
落日に白く光れる芒原★★★★(正子添削)
いよいよ日が落ちようとすると、芒原が一面に白く輝く。やわらかい、白い光の美しさが侘しさを伴って広がる景色がよい。(高橋正子)

10月8日

●小口泰與
はんなりと十頭身の曼珠沙華★★★
あけぼのや二手に群れ起つ稲雀★★★★
塊て雀の羽音刈田かな★★★

●多田有花
秋の陽を背に受け頂の食事★★★
秋晴れやすでに登りし山を指す★★★
澄む水を渡りたどりて山下りぬ★★★★
沢の流れを伝い、また橋を渡って山を下った。沢の水はどこも澄んでいる。秋の山のひんやりとした空気も合わせて感じられる。(高橋正子)

●古田敬二
妻と食む子を想いつつ衣被★★★
約束のつぼみ膨らむ杜鵑草★★★★
見つめれば我を見つめる赤とんぼ★★★

●小西 宏
石段に寝たる木通の蒼さかな★★★
石段に落ちて木通の蒼さかな★★★★(信之添削)
山手の石段だろうか。台風にゆすられてか、まだ青い木通の実が落ちている。青いまま落ちた木通の生々しさが目を引く。(高橋正子)

池端に散りぢり紅き彼岸花★★★
裏庭に肩ゆすりあう花芒★★★

10月7日

●川名ますみ
秋風の通っていたり吾が床に★★★
さらさらと西瓜切る音芳しく★★★
梨の荷を積みトラックの走りゆく★★★★

●小口泰與
コスモスの雫もたばね剪りにけり★★★★
コスモスに残る雨の雫か、置く露の雫か、その雫ごと剪りとった。雫のついたコスモスもあるがままでよいものだ。(高橋正子)

唐黍の刈られし後や鳥の数★★★
利根川の白波光り渡り鳥★★★

●河野啓一
やわらかき秋光受けて森の中★★★
北国の秋を綾なすダケカンバ★★★
秋の雲色も形もさまざまに★★★

●多田有花
山頂の木に紅葉の始まりぬ★★★
山霧のたちまちに消え天高し★★★★
重畳と秋の山並み連なれり★★★

●佃 康水
入日透く桜紅葉や厳島★★★
布巾干す間にも木犀匂いくる★★★
稲刈機噴き出す藁の薄みどり★★★★
稲刈機が稲を刈り進む。まだ薄緑の稲藁を吹き出しながら刈り進むのだ。まだ命の通った薄黄みどりの稲藁は、それ自体が魅力だ。(高橋正子)

●小西 宏
吊り橋をくぐり湾上鱗雲★★★
息弾む柿満天の坂の道★★★

佳き人の忌日の便り菊生ける★★★★
「佳き人」の忌日を知らせる便りが届いた。菊の花の咲くよき日に旅立たれたのだ。菊を生けてふと生前が思われる。(高橋正子)

10月6日

●河野啓一
マスカット輝く波の山陽路★★★
古里の秋果積み上げ道の駅★★★
秋雨のそぼ降る中に古家かな★★★

●小口泰與
揺れ動く幾重の影や秋桜★★★★
秋風に揺れて、日差しの中に群れ咲くコスモスを、その影をとらえて上手く表現している。写真に見るような手法が効果的。(高橋正子)

田一枚ここのみ倒る稲穂かな★★★
緑なす赤城の肌や野分晴★★★

●高橋秀之
赤とんぼ後を追いかけ追いつかず★★★★
赤とんぼは人に親しく飛んでくるかと思えば、すっと先へ飛んで行ってしまう。追いかけるけれど、追いつけない。自由に飛ぶ赤とんぼと人のふれあいに、妙味がある。(高橋正子)

赤とんぼ目線の先をすっと飛ぶ★★★
羽ばたきもゆったりして飛ぶ秋の蝶★★★

●黒谷光子
秋草に浮きて沈みて蝶二つ★★★
縺れつつ野川を渡る秋の蝶★★★
秋蝶の黄の小さきは低く飛ぶ★★★★

●佃 康水
檀の実爆ぜて夕日へ色深む★★★
壺の中爆ぜて華やぐ檀の実★★★
稲掛けに弾む家族へ空青し★★★★

●小西 宏
柿の実の空は今年もとても広い★★★★
雨冷えの浅草あたり縄のれん★★★
澄める夜の酒や秋刀魚の一夜干★★★

10月5日

●小西 宏
森奥の土に茸の白静か★★★★
静かな森奥に生えた白い茸の辺りは、ほんのり明るくて静か。メルヘンチックな森の奥である。(高橋正子)

風さわぐ芝生に紅き小さき茸★★★
霧雨の眼鏡に当たる街明かり★★★

●小口泰與
初紅葉聞かばや志賀の峠道★★★
遠山の襞くっきりや野分晴★★★
木の実落つあぎとう鯉の目のやさし★★★

●迫田和代
祖母くれた和代は昭和の淡い月★★★
十六夜を仰ぎ坂道駈け上る★★★
青い海月明かりにて白波を★★★

●多田有花
走る人歩く人あり秋山路★★★
頂へ続く秋萩垂れる道★★★★
初物のりんごを齧る雨の午後★★★

●黒谷光子
自転車で行くすすき穂の揺らぐ道★★★
すすき道一叢ごとの穂の光り★★★
追い風にペダル軽々すすき道★★★

●井上治代
咲く花も枯れゆく花も彼岸花★★★
風唸り変幻自在に秋の雲★★★
新涼や樹間の空の青深し★★★★
新涼の季節、空をゆっくりと眺めることができるようになり、早も青が深くなった。空の青に魅了される新涼である。(高橋正子)

10月4日

●小口泰與
一本の花鶏頭や門前に★★★
草刈機撥ねて飛ばせし曼珠沙華★★★
秋草のいよよ野放図長けりけり★★★

●佃 康水
球場の真っ赤に染まり天高し★★★
檀の実弾け夕日の色増しぬ★★★
紫苑咲く塀の高さへ見え隠れ★★★ 

●多田有花
街道に辻に秋祭りの幟★★★★
朝夕肌寒くなると、秋祭りが近づく。街道や辻に祭りの幟がはためき、祭りが近いことが嬉しくなる。(高橋正子)

透き通る空の青さへ鵙高音★★★
信号を待てば金木犀の香り★★★

●古田敬二
天高しパン屋の香りの中を行く★★★
信号を渡る御所から虫の声★★★
石垣は古びてこぼす虫の声★★★

10月3日

●小口泰與
曇天の庭に咲きたる鶏頭花★★★★
曇天の下の鶏頭は、晴天の鶏頭よりも陰影に富んで、日本画的な絵になる素材だ。それに目を付けたのがよい。(高橋正子)

先駆けて山にひろごる茸かな★★★
秋の山靄の帳に隠れけり★★★

●河野啓一 
秋涼し朝の窓辺に箕面山★★★
左右から手をひかれ幼子貝割菜★★★
シップ薬放せぬ脚ぞちちろ虫★★★

●小西 宏
桜葉に紅ひそひそと秋深し★★★
天辺を欠いて切り立つ秋の虹★★★
午後四時のひとり鳴きいる法師蝉★★★

●黒谷光子
さわやかにオリオン朝の鐘を撞く★★★★ 
朝の鐘を撞くとき、暁に空にはまだオリオン座が輝いている。「さわやかに」輝いているのだ。秋暁のさわやかさが読み手の心にも沁みこんでくる。(高橋正子)

紅葉の向うに青空澄み渡る★★★
紅葉のひときわ濃きへ床几置き★★★

●川名ますみ
台風過川の上流から青天★★★
多摩川の上手にひかり台風過★★★
朝顔の隙なきほどの門前へ★★★