11月16日

●迫田和代
花柚子の話の渦に故郷を★★★★
「花柚子」は、柚子の花のことではなく、本柚子に対して花の香りを楽しむもので料理の付け合わせやジャムなどに主に利用されるとのこと。花柚子の話題が盛り上がり、故郷の花柚子を思い起こした。話題が自分の心に広がった。(高橋正子)

遠回り桜紅葉の落花避け★★★
秋雨や遠い旅にも別れあり★★★

●小口泰與
小春日や木組み大橋奈良井宿★★★
山茶花のつぼみほころぶ朝かな★★★
帰り花はらから集う法事かな★★★

●多田有花
枯蓮の無残を愛でて池巡る★★★
階段を下りる足音冬の朝★★★
お湯を出て母と眺める冬紅葉★★★

●桑本栄太郎
小雨降る川の真中やつがい鴨★★★
柿灯る雨の明かりの土塀かな★★★

もみづれば在所愛しくありにけり★★★★
もみじすると、いつも住まうあたりも美しくなり、なかなか良いところではないかと改めて思う。(高橋正子)

●黒谷光子
万歩計つけて駅へと冬帽子★★★★
「万歩計」と「冬帽子」とのとりあわせが自然であって、絶妙。防寒に帽子を冠り、しっかりと歩く。心身ともに健やか。(高橋正子)

近道をして通る路地花八つ手★★★
夕映えになお濃く燃えて冬紅葉★★★

●河野啓一
日の中に庭の小菊の咲き乱れ★★★
山茶花の真白に咲けるしおらしさ★★★
冬バラの小さき花のわびしくて★★★

●祝恵子
市場ではマグロの解体呼び物に★★★
イベントに大魚の並ぶ冬始め★★★
水槽の河豚一匹を掬い見せ★★★

●小西 宏
雲がありその影があり雪の富士★★★

【原句】しんとして湖みどりなる冬木立
【添削】しんとして湖(うみ)みどりなり冬木立★★★★
冬木立としんとしずまった湖のみどり。静謐な絵画を見るようだ。そしてまた、洒落た句だ。(高橋正子)

街路樹の枝光りだす冬初め★★★

11月15日

●小口泰與
冬霧の覆わる丘の灯しかな★★★★
詩情のある句。冬霧に覆われた丘に静かに点る灯が、なお柔らかな灯となっている。冬霧の季語が効いている。(高橋正子)

トンネルを出づや目交冬紅葉★★★
素朴なる冬の黄葉や奈良井宿★★★

●河野啓一
柿の葉の実を養えば色褪せず★★★
坂道を下れば浜辺冬の浪★★★
枯れ蓮の残りし池や散歩道★★★

●小西 宏
梯子より上は鴉に柿を干す★★★

子のひとり落葉の中の滑り台★★★★
落葉の積る公園だろうか。ひとりの子どもが滑り台をしている。幾度も幾度も滑っているのだろう。滑り台を楽しむというより、好きで集中している子に面白さ、頼もしさを見る。(高橋正子)

静空の枝に音触れ木の葉ふる★★★

●桑本栄太郎
活き活きと雨の畑の冬菜かな★★★
ワイパーの時折振れて時雨れけり★★★
蔦紅葉バスの家路の坂道に★★★

●多田有花
近隣の銀杏色づき冬の雨★★★
雨あがりすぐに日差しや冬紅葉★★★
昼の陽に蝶の飛び来て冬菜畑★★★

11月14日

●小口泰與
赤城より風にはらりと時雨かな★★★
北颪ビルの谷間を駆け行けり★★★
冬ばらの新芽あえかや風の中★★★

●祝恵子
楽しみは湯葉と湯豆腐京歩き★★★★
湯葉と湯豆腐はいちばん京都らしい料理。丁寧にこまやかな心配りの行き届いた湯葉と湯豆腐の料理は、心が和むもの。それを楽しみにというのもほのかな温もりが感じられる句。(高橋正子)

窓越しに一輪ざしの椿挿し★★★
石蕗の路地を入れば通り雨★★★

●多田有花
ふと思うあのころのこと焚火の香★★★★
最近は焚火で暖をとることもほとんどなくなった。焚火を囲んで温まりながら、焚火の匂いをかぎなら、何か話したり周りで遊んだ。ふとそんなころのことを思う。(高橋正子)

縦横に飛行機雲や冬の空★★★
すぐ消えるものゆえ強し冬夕焼★★★

●河野啓一
桜紅葉を明るく照らす午後の日よ★★★★
冬鴉群れて大きく森を越え★★★
からからと枯れ葉吹き抜け風に舞う★★★

●桑本栄太郎
高黍の高き穂空に仰ぎたり★★★
黒き実となりて茄子の枯れゆけり★★★
もくれんの綿毛まだ無き冬芽かな★★★

11月13日

●小口泰與
あけぼのの湖の畔の冬もみじ★★★
初時雨湖畔に舟のふせてあり★★★
小春日や心の枷をひとつ解き★★★

●多田有花
鬼瓦の上の冬空真青なり★★★★
きりっとした冬の青空が、鬼瓦によってより印象づけられた。鬼瓦の色と青空の対比がよい。(高橋正子)

いま風に揺れおり冬の紅葉かな★★★
蓮池に冬青空の鮮やかに★★★

●桑本栄太郎
踏みゆけば桜落葉の香りけり★★★

地響きをたてて木の実の時雨かな★★★★
凄まじい木の実の降り方に驚く。「地響き」といい「時雨」といい、植物とは思えないほどの生命のありようだ。木の実をすっかり落として冬を越すのだ。(高橋正子)

村中の辻の明かりや石蕗の花★★★

●河野啓一
草刈られ落葉乗せたる散歩道★★★
陽の光風の寒さを包みおり★★★
鳥が種落とした白き山茶花咲く★★★。

●黒谷光子
大杉の根方にひそと実千両★★★
七五三に賑う参道杉木立★★★
冬桜遠州三山拝し終え★★★★
遠州三山は静岡県袋井市にある古刹。ネットの動画で見たかぎりでは、法多山などは、階段でかなり上ったところにあり、境内も広く紅葉も美しい。三山を巡るにもそこそこ移動しなければならない。三山を拝し終えたあとのほっとした目に冬桜が優しく映る。(高橋正子)

●小西 宏
起きぬけの犬椅子下に日向ぼこ★★★
犬と駆け小春の道に汗をかく★★★
遠山の雪に老いの眼癒される★★★

●古田敬二
温き陽を白菜畑が包み込む★★★

しなやかに同じ向きして枯れ芒★★★★
枯れ芒は、風になびいた形のまま枯れている。枯れているとは言え、「しなやかさ」がある。枯れ芒に「しなやかさ」をよい。見たところがよい。(高橋正子)

指先を染めて秋草の実を愛す★★★

11月12日

●河野啓一
水玉を竿に並べて時雨去る★★★★
雨が去ったあと、物干し竿など雨滴が並んでついているのは面白くリズミカルだ。時雨のあとなどは、特に雨滴がすきとおり寒々としたようすになる。(高橋正子)

枝の先取り残したる柿一つ★★★
時雨去り空に揺れおり柿の赤★★★

●小口泰與
山風に下枝(しずえ)はなるる落葉かな★★★
毛の国の風つれなくも小六月★★★
小春日の校庭はやす鳩の群★★★

●古田敬二
遠くにも紅見えてカラスウリ★★★★
カラスウリは、手が届きにくいところによくある。川向こうの藪とか、枝の絡まった茂みとかに。けれどその実の紅さは、それとすぐ分かる紅さなのだ。(高橋正子)

フレームの四角一杯柿紅葉★★★
虫の音の途絶えし野良の静けさよ★★★

●多田有花
冬空へ赤きそよごの実の数多★★★
冬浅き山は彩り増してゆく★★★

梅干をいただく冬の三角点★★★★
三角点は測量のために設置されているが、見晴らしのよい高山の山頂に置かれることも多い。そういった場所で梅干しをいただくとハイキングや登山をしたような気持ちになる。「冬の」からは、三角点の辺りの様子が想像できる。(高橋正子)

●桑本栄太郎
色鳥や紅の葉陰の青空に★★★
葉ぼたんの小さき渦や育苗舎★★★
道の辺に伐られ枯れおり唐辛子★★★

●佃 康水
無患子や振ればころころ音の鳴り★★★
熟睡児の手は夢つかみ花八手★★★
岸辺まで寄る満潮の鴨の群★★★

11月10日-11日

11月11日

●小口泰與
階段の手すり冷たし始発駅★★★★
乗客のまばらな始発駅。その駅の階段の手すりに触れ、思わずその冷たさに驚いた。寒々とした緊張が漂う始発駅の様子が直に伝わる。(高橋正子)

山容を閉ざす冬靄どっしりと★★★
鍋割の襞の定かや冬浅し★★★

●河野啓一
寒椿はや膨らみて蕾着け★★★
柿の実を摘み終え高切り鋏拭く★★★★
柄が長い高切り鋏を柿の木に差し入れて柿の実を摘み取る。たくさん収穫した柿を前に、鋏の汚れをふき取るとき、収穫の喜びと充実感が湧く。(高橋正子)

寒風のなか雄鹿の馳せ回る★★★

●桑本栄太郎
とんとんと下りる坂道お茶の花★★★★
軽快な足取りで下る坂道にお茶の花が咲いている。お茶の花はどこか、そんな気持ちにふさわしい花だ。(高橋正子)

山里の早き瀬音や芋水車★★★
板壁の古ぶ木目や柿すだれ★★★

●多田有花
谷町に白き山茶花咲き初めし★★★
ひっひっと我に挨拶じょうびたき★★★

初時雨連れて山路を歩きけり★★★★
「初時雨」をも友にしてしまう作者。降り出した初時雨とともに山路を歩き下ったのだ。(高橋正子)

●黒谷光子
名刹の紅葉に映える茂吉歌碑★★★

裏山へ続く庭園紅葉寺★★★★
裏山へ続く庭園、裏山を庭園として庭に取り込んだような場所が魅力。山の空気が漂う見事な紅葉の寺であろう。(高橋正子)

紅葉寺自刃の武士の墓碑数多★★★

●小西 宏
朝の扉開き木の葉の来訪者★★★
光なか花散る如く黄葉ふる★★★
逍遥の小道落葉の裏表★★★

●古田敬二
朝の陽は人参畑の根元まで★★★

コゲラ叩く見上げる冬の青い空★★★★
コゲラのドラミングが冬の青空に快活に響いている。そういう空は楽しくなる。(高橋正子)

紅き実を二つこぼして藪柑子★★★

11月10日

●小口泰與
妙義嶺を冬夕焼の染めにけり★★★
雨過ぎて沸きいず雲や息白し★★★
夕暮れの冬田を制す禽一羽★★★

●多田有花
蓮根のしゃきしゃき冬のトマトパスタ★★★

冬灯し高く連ねてパールブリッジ★★★★
パールブリッジは、明石海峡大橋の愛称。明石海峡大橋は世界一長いつり橋で主塔も海面上300メートル近くある。その橋にともる冬の灯は、「高く連ねて」で一層冴え冴えと美しくなった。(高橋正子)

航跡の鮮やかに映え冬落暉★★★

●桑本栄太郎
西山の峰駆け昇る時雨かな★★★★
峰を駆け昇る京都西山の時雨が日本画の筆致を思わせるように動きをもって詠まれている。淡く墨がちな色彩を思う。(高橋正子)

芸大の黒き門扉や蔦紅葉★★★
柿灯る雨のひと日の暮れゆけり★★★

11月9日

●小口泰與
頬を打つ硬き木枯し喰らいけり★★★★
木枯らしを「喰らう」したたかさは見ごと。木枯らしもいよいよ本格的で頬を打つほど。それに負けるどころか喰らってやる意気込み。(高橋正子)

有りうべき似非も方便冬に入る★★★
隠沼にうすうす映す冬もみじ★★★

●桑本栄太郎
柿の籠並べ媼の売り子かな★★★
柿店(かきだな)の柿籠ならぶ柿街道★★★
宅配の幟はためく柿の村★★★

●黒谷光子
茶の花の映ゆ杉垣の中ほどに★★★

柚子届く色と香りを溢れさせ★★★★ 
柚子の色と香りは、晩秋の季節には特にきわだって印象に残る。澄んだ黄色と香りに喜びも「溢れる」思いだ。(高橋正子)

汁物に散らせば馳走に柚子刻む★★★

●多田有花
赤い靴はいて初冬の街へ出る★★★

街に入るひとかたまりの冬田過ぎ★★★★
「ひとかたまりの冬田」が面白い。街にはいるまでは 冬田の景色を楽しむ。それから賑やかな街へだ。(高橋正子)

冬はじめ明石海峡銀色に★★★

●小西 宏
散る桜紅葉となりて坂の道★★★

風に降り地に音擦る落葉かな★★★★
落葉の実態を詠んでいる。風に降ってきた落葉は、地面を擦って音を立てる。落葉とは言え、よく聴けば、様々な音がある。(高橋正子)

氷上の舞い渦解けて風となる★★★

11月8日

●小口泰與
冬耕や風のえぐりし岩襖★★★
北風に対い自転車懸命に★★★
夕暮れや赤城颪に対いゆく★★★

●小川和子
新しき朝よ聖なる山茶花よ★★★★
新しい朝が来て、山茶花が咲く。山茶花のきよらかなこと。季節の新鮮さが山茶花を「聖なる」と呼ばせた。(高橋正子)

風に乗りからからと舞う桜紅葉★★★
絹糸のごとき雨脚冬に入る★★★

●多田有花
よく晴れし冬の窓辺に鳥の声★★★★
気持ちよく晴れた窓辺はそれだけでも嬉しいが、鳥の声が聞こえればなお楽しくなる。鳥も冬晴れの天気を喜んでいる。鳥は友だ。

冬ぬくし薄き上着を脱ぎにけり★★★
冬菊やいま頂点に咲き誇る★★★

●桑本栄太郎
大根の味のしみ込む冬来たる★★★
バスを止め徒歩の家路や冬ぬくし★★★

散り頻る桜紅葉の落葉踏む★★★★
散る紅葉を惜しみつつも、色とりどりの紅葉を踏むちょっとした楽しさ。俳句だから言えるような心の内である。(高橋正子)

●古田敬二
木の実落ち三度踊ってから止まる★★★

落葉道桜欅と続きけり★★★★
落葉の降る道が、桜の紅葉、次に欅の黄葉と続いて、もみじの美しい変化が楽しめる。桜並木、欅並木と続いているのであろうが、はるか遠くへ続く道である。(高橋正子)

筋播きの大根芽生えやや曲がり★★★

●小西 宏
新しき風の匂いや冬初め★★★

篠懸の落葉踏み行き風の澄む★★★★
篠懸の落葉が続く道は瀟洒な風景だ。落葉を踏んでゆけば、風の澄む世界に入る。作者の目が澄まされたのだ。(高橋正子)

初冬の木立に細き夕の月★★★

11月7日

●小口泰與
十州の境ありけり信濃柿★★★

秋ばらの瑞枝立ちけり朝日起つ★★★★
神代植物公園で、秋ばらを見たばかりなので、「瑞枝立ちけり」は、地味ながらよく実感できる。すっくと伸びた瑞枝に朝日が当たると、「朝日起つ」となる。眩しくやわらかな瑞枝である。(高橋正子)

塵泥(ちりひじ)のすそ野巨大やそばの花★★★

●桑本栄太郎
小雨降りはらり眼前や柿紅葉★★★
陸橋の手のうちなりし銀杏黄葉★★★
新駅のホームはずれや藁の塚★★★

●多田有花
立冬の山寺風が吹くばかり★★★

本棚の歳時記入れ替え冬に入る★★★★
歳時記も一冊になったものもあれば、四季分冊になったものもある。立冬の今日、普段よく読み使う歳時記を本棚に入れ替えた。これも冬用意の一つ。(高橋正子)

ランドセルほどの白菜抱え出る★★★

●小西 宏
秋空は高き欅の触れる処★★★★
秋空は高い欅の聳えるところにある。秋空の青さに欅黄葉が触れているのは美しいがそれを見事に詩的表現に変えた。(高橋正子)

立冬の雨に聞こえる園児の歌★★★
よちよちと歩くおつむに落葉ふる★★★

●河野啓一
桜紅葉散り初む小道今朝の冬★★★
桜紅葉色濃くなりて雨もよい★★★
森の辺の時雨群れ行く鴉かな★★★