11月26日

●小口泰與
木守や遠の連山はなだ色★★★
火の山の噴煙起つや大根干す★★★★
大根を干すころは、風も寒くなり、温かさが恋しくなる。火の山の噴煙も目に温かさを運ぶ。そういう意味で取り合わせが成功している。(高橋正子)

噴煙の流るる先の木の葉かな★★★

●古田敬二
風が今梢に来たらし欅散る★★★★
風の子どもがいるようだ。梢に来た風の子は欅を散らした。(高橋正子)

昼の陽が上手い具合に柿吊るす★★★
二人して真昼の陽光布団干す★★★

●多田有花
あつあつの大きを頬張る牡蠣フライ★★★★
揚げたてのものはおいしい。牡蠣フライなどはことに揚げたてで大きなものがジューシーでおいしいのだ。寒い季節、あつあつが嬉しい。(高橋正子)

風雨去り窓に静かな冬落暉★★★
山へ向く道たっぷりと木の葉降る★★★

●佃 康水
鐘一打遠のく峡の冬紅葉★★★
【原句】塩むすび桜紅葉へ載せて食み
【添削】塩むすび桜紅葉へ載せて食ぶ★★★★
木の葉に食べ物を載せて食べるのは、風流だ。桜紅葉に白い塩結びが載れば色彩的にも美しい。(高橋正子)

四阿を叩きどんぐり転がり来★★★

●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランドへ>
冬空へ大きく乗り出すモノレール★★★★
「大きく乗り出す」がいい。モノレールが大きくクローズアップされた。(高橋正子)

鉄橋の車行き交う冬の空★★★
クレーンのコンテナ吊りし冬の空★★★

●小西 宏
わが庭はふくら雀のひかり中★★★
遠くまで落葉ぬれたる柔らかさ★★★
冬空に聳ゆソーラー発電機★★★

11月25日

●小口泰與
寒暁のあからむ山の彫り定か★★★★
次第に明けてゆく山容が、すっきりと詠まれている。(高橋正子)

あけぼのや境内かざる冬もみじ★★★
冬ばらのほころぶ力なかりけり★★★

●古田敬二
冬服を鞄にぎっしり旅支度★★★
包丁に昼の陽光らせ柿を剥く★★★★
日向に柿と包丁を持ち出して、日向ぼっこをしながら、干し柿を作ろうとしているのだろう。すると、刃先に太陽が当たって、刃を光らせるのだ。刃物の鋭さと、柿の色がいい取り合わせだ。(高橋正子)

濡れ縁に陽光浴びて柿を剥く★★★

●河野啓一
手向け山古都の紅葉は神のまにまに★★★
枯れ葉舞う斑鳩町の旧家かな★★★
欅もみじ色さまざまに高々と★★★★
欅もみじは、黄色一色ではない。細やかに色の変化がある。そして高々と空に聳える。これがいい。(高橋正子)

●多田有花
頂に青空向いて冬木立★★★
冬紅葉古刹へ車の列続く★★★
冬の雨冬の嵐となりし午後★★★

●桑本栄太郎
冬めくや笑うごとくに鴉啼く★★★
葛の実の風の冷たき葉陰かな★★★
土乾く畝の並びや冬菜畑★★★★
高く作られた畝であろう。寒風にさらされた冬菜の畝が乾いている。それと好対照に、冬菜は青々と茂っているのだ。(高橋正子)
 
●小川和子
みどり児の重み抱き上ぐ小六月★★★
みどり児のこぶし幼く青すだち★★★
音たてて十一月の夜半更けぬ★★★★

●黒谷光子
ふっくらと一輪挿しの冬椿★★★
道いっぱい濡らし除雪車試運転★★★
色極む村の神社の冬紅葉★★★

11月24日

●小口泰與
熱燗や赤むらさきの赤城山★★★
木枯しや榛名の肌の焦げ茶色★★★
蓼科の湯宿の古りし炬燵かな★★★

●桑本栄太郎
光陰の過ぎし習いや芒枯る★★★

下校子の駅へとつづく冬田かな★★★★ 
冬田の中を下校の子がつぎつぎと駅へ向かって歩く。駅も、下校の子たちも冬田との関わり合いでいい生活風景となっている。(高橋正子)

風吹けば彩の舞いおり木の葉飛ぶ★★★

●多田有花
丘の上冬の朝日が当たる家★★★

坂道が冬青空へ抜けてゆく★★★★
坂道のその上は青空へつながる。坂道の魅力はこんなところに大いにある言える。(高橋正子)

冬枯れの川べりをゆくクラシックカー★★★

●佃 康水
 広島 三瀧寺紅葉祭り
冬瀧や朱の葉隠れに音激し★★★
磨崖仏の顔を掠めて散紅葉★★★

日の温み残る欄干紅葉散る★★★★ 
陽だまりの欄干にたたずめば、紅葉が散ってくる。日に照り映える紅葉や日の温みなど、心が温かく癒される思いだ。(高橋正子)

●古田敬二
良き知らせ真っ盛りなる石蕗の花★★★★
石蕗の花の明るさが、良き知らせそのもののようだ。(高橋正子)
逆光に透かして盛りの黄葉樹★★★
ドングリの豊かに膨らみ輝けり★★★

●小西 宏
音遠き落葉の森に日の斜め★★★
落葉掃く八十余歳来し方を★★★
富士の雪うす影にしてひとつ星★★★

11月23日

●小口泰與
寒暁の湖や白波かがよえり★★★
冬雲や待合室の重き黙★★★
四段の飛び箱飛びし小春かな★★★

●迫田和代
縁側で西日厭わず柿を食ぶ★★★
大いなる幸を喜ぶ菊日和★★★
道々で村の祭りや遠出の日★★★

●古田敬二
温き陽の桜紅葉の尾根に出る★★★★
「温き陽の桜紅葉」がよい。尾根の見晴らしのよさ、心地よさが伝わる。(高橋正子)

億年の模様の石ころ冬陽浴び★★★
淡き影まっすぐに立てて冬の竹★★★

●多田有花
順々に枯枝となり陽のあたる★★★
冬の蝶ひらひら日差しの中へ出る★★★★
日差しの中のか弱い冬蝶が、光の精のように思える。(高橋正子)

展望を指差す小春の頂に★★★

●桑本栄太郎
校門の空や桜の冬紅葉★★★★
校門の空と言われれば、そこには大きな空がある。春は満開の桜で新入生を迎えたであろうが、今は冬紅葉となって凋落の前の美しさを見せている。(高橋正子)

踏みしだく落葉さくさく乾きおり★★★
ひと跨ぎほどの川面やつがい鴨★★★

●小西 宏
農夫老い太く真っ赤な薩摩芋★★★
芝草に残る冬日のドッジボール★★★
山の端に日の残りいて冬紅葉★★★

●河野啓一
大通り黄葉落葉の清掃車★★★
川沿いにネオンきらめく冬の街★★★
暖簾越しおでんの湯気は道頓堀★★★

●黒谷光子
空よりも濃き冬の海東尋坊★★★
冬晴れの岸壁を打つ波真白★★★
冬紅葉南北朝の館跡★★★

11月22日

●小口泰與
白壁に二人の影や冬帽子★★★
電柱の影のゆれおる枯野かな★★★
夕映えを湖に収めし白ショール★★★

●黒谷光子
自転車の篭に降り来る紅葉かな★★★★
紅葉の散る季節になった。自転車の篭にも色美しく降ってきている。自転車で出かけようとして、その色合いを楽しんだことだ。ささやかなよろこび。(高橋正子)

陽の燦々桜紅葉の並木出て★★★
木洩れ日の桜紅葉の並木道★★★

●古田敬二
そこだけが今朝から明るし石蕗の花★★★★
石蕗の花は明るい。葉を落とした木や花の少なくなった庭では特にそうである。(高橋正子)
人ごみに男の大根見え隠れ★★★
芒枯れ風の行く道見えにけり★★★

●多田有花
コンビニへ荷物受取り冬の夜★★★
明けてくる小雪の朝鳥の声★★★
シリアルを温め初めし小雪に★★★

●河野啓一
瀬戸の島夕陽の海に浮かびおり★★★
隣家の垣根に顔出す穂芒2本★★★

小粒ですがと柿配りゆく夕べかな★★★★
自宅で取れたものはなんでも嬉しいが、ご近所に配れることもさらに嬉しい。「小粒ですが」も奥ゆかしく暖かい近所づきあいが思われる。(高橋正子)

●桑本栄太郎
堰堤の水の蒼さよ冬の風★★★
丘上に登れば風の冬日照る★★★
青空に風のさざめき木の葉舞う★★★

●川名ますみ
色葉散る空に樟の葉青々と★★★
樟の葉のみどり輝く冬紅葉★★★

【原句】散紅葉少女ばかりが追うて来ぬ
【添削】散紅葉少女ばかりが追うており★★★★
紅葉が散るのを少女ばかりが喜んで追っている。子どもは散る紅葉をも遊びにしてしまう。散る紅葉に少女たちが混じった風景はよいものだ。(高橋正子)

11月21日

●小口泰與
初霜や長き廊下の診療所★★★★
初霜のおりた朝の診療所。寒いせいか、来院の患者も静かにして、幾分かの不安に廊下の長さが目につく。(高橋正子)

きりきりと身の引き締まる寒さかな★★★
上州や赤城颪とあまないて★★★

●多田有花
山寺の皇帝ダリアに冬陽燦★★★★
皇帝ダリアは木立ダリアとも呼ばれ、丈の高いダリアだ。お寺の方は意外とハイカラで新しいものを受け入れておられる。薄桃色の花が冬陽のなかで燦然と輝いている。(高橋正子)

山頂は凩のエアポケット★★★
凩や海と甍は銀色に★★★

●桑本栄太郎
静謐と言うは朴の葉落葉かな★★★★
大きな朴の落葉が地に落ちている様子を「静謐」と呼んだ。たしかに朴があるところは、たとえ森でなくても、空間に静けさが生まれている。落葉の季節なら特に。(高橋正子)

落葉掃く後へあとへと散りにけり★★★
あおぞらに軽き枝垂れや萩枯るる★★★

●河野啓一
春は花秋は紅葉の丘うれし★★★
初冬の空の青さと日の光★★★

篭いっぱい買いこみ帰る新玉葱★★★★
玉葱は、ふつう夏に収穫されるが、最近はこの季節、沖縄などで作られた新玉葱が出回っているようだ。サラダにすれば甘みがあっておいしく、新ものは喜ばれる。篭いっぱいも買いたくなる。(高橋正子)

●小西 宏
落葉焚く匂いわが街子ら多し★★★★
少子化が進む現代といわれるが、落葉焚ができるような地域もマンションが建ち住宅地となって子供が多い。我が家の近辺も住宅地のせいか、子供が多いと感じる。落葉焚と子どものとリ合わせに詩情がある。(高橋正子)

やわらかき柿しゃぶりおり陽だまりに★★★
日の影の野を追われゆく冬の午後★★★
 

11月20日

●小口泰與
茜さす雪の浅間や風ゆたか★★★★
「風ゆたか」が意外であり、この句を特徴づけている。まだ寒くない夕日に染まる浅間山である。(高橋正子)

冬空へ雲版強く叩きけり★★★
あけぼのや顔を打ちゆく北颪★★★

●多田有花
風吹けば赤さ冴えたり実南天★★★
めくや昼の地震が揺らす窓★★★
自転車をこいで去りゆく冬帽子★★★★
なんのことはない。冬帽子を冠った人が自転車を漕いで行ったということ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
青空のあくまで蒼く冬紅葉★★★
冬紅葉峰の奥まで日差しけり★★★★
紅葉すると、天文的にはそういう季節であることなのだが、日差しは斜めに遠くから差し入る。冬紅葉が透明感を増す。(高橋正子)

川べりの風の瀬音や冬紅葉★★★

●川名ますみ
着信は母の写せし散紅葉★★★
目黒川桜紅葉を載せ静か★★★

【原句】川の面に桜紅葉のふれ流る
【添削】川の面の桜紅葉にふれ流る★★★★
桜紅葉の枝が枝垂れて川面に届いている。川の水は桜紅葉をさらうことなく触れては流れている。桜の花の咲くころとは、また違った趣。(高橋正子)

●河野啓一
ポインセチア並ぶ街角明るくて★★★
朝日差す並木の紅葉は桜と銀杏★★★★
桜と銀杏の「もみじ」は、桜は紅葉、銀杏は黄葉と書き分けられる。その色の対比も美しいが、さらに朝日が差して桜紅葉も銀杏黄葉も色があざやかになった。(高橋正子)

山茶花のの苗掘り上げて鉢に植え★★★

11月19日

●小口泰與
帰り花阿吽の朝日昇りけり★★★
山風や瑞枝あえかな冬のばら★★★
息白しうす紫の赤城かな★★★

●河野啓一
箕面山空を分け合う谷紅葉★★★★
谷の紅葉がそれぞれ空に広がり美しさを見せている。「空を分け合う」に、それぞれの紅葉が調和して美しいことが読み取れる。(高橋正子)

初冬の六甲縦走雨の中★★★
鴨群れて子らと距離置く池の端★★★

●多田有花
冬晴れに誘われ髪を切りにゆく★★★★
髪を切って気持ちが爽やかになるときもあれば、また逆に天気のよさに誘われて髪を切りに出かけることもある。「髪を切る」という行為は心のありように左右されていいることが多い。(高橋正子)

風の音初めてストーブをつける★★★
木枯しの吹く窓辺には明るき陽★★★

●桑本栄太郎
神官の水色袴の落葉掃く★★★
手にとれば五色彩なす柿落葉★★★
新駅の高架開通冬田べり★★★★
新駅は田んぼの中に作られることがよくある。駅の高架も冬田べりに堂々とその構造を見せている。高架と冬田は不似合なだけに、新しい変化を印象づけている。(高橋正子)

●小西 宏
浮かぶ葉の小春日和に糸垂れる★★★
しわがれて軽き落葉の坂くだる★★★
冬雲の渦巻くところ群れ鴉★★★

11月18日

●小口泰與
日を乗せて舟のくだるや小六月★★★★
下る舟を鳥瞰した図か。川をながめると、舟が日を乗せて下って行く。まさに小六月の日差しである。(高橋正子)

冬ばらの咲くに力の限りかな★★★
夢覚めて蹠つめたき仏間かな★★★

●小川和子
落葉踏む文学館へと続く道★★★
欅落葉どっと降らせて風去りぬ★★★★
一陣の風が欅の葉をどっと降らせたのだ。そして去って行った。風の又三郎の仕業を思う。見事というほかない。(高橋正子)

影を置くみずきに空の冴えゆけり★★★

●黒谷光子
団栗を踏みつつ山に佛花切る★★★★
光子さんは、仏花を探しに山へよく行かれる。花屋で求められるのではなく、この度は団栗を踏んで花を切った。季節折々の花や木の枝が気持ちを籠められて仏花となる。(高橋正子)

冬晴れの木の間はるかに竹生島★★★
あざやかに赤と黄杜の冬はじめ★★★

●多田有花
鉄塔がつなぐ山々十一月★★★★
冬になると、山々に立つ鉄塔が目につく。送電線が伸びて山々をつなぐ。ただそれだけの景色なのに、十一月の特徴をよく伝えている。(高橋正子)

峪深く金鉱跡や冬紅葉★★★
時雨去る露天のお湯にひとりいる★★★

●桑本栄太郎
散策の歩が伸び遠き冬田かな★★★★
散策も、ついつい予定より遠くへ来てしまった。そこからは、遠くに冬田が見える。望郷の冬田でもあるのだろう。(高橋正子)

冬紅葉どうだんつつじの緋の色に★★★
つわぶきや何処に在りても石の供★★★