12月24日

●小口泰與
侘助や山のあわいに日の沈み★★★
寒林や岩と白波相うてり★★★
突風にあわや飛び立つ寒雀★★★

●桑本栄太郎
蓮枯れの水面耀ようばかりなり★★★
暮れかかる峰に日当たる冬の嶺★★★

水色の空の雲間や冬入日★★★★
穏やかな冬の入日に心が和む。空の水色は冬の季節、うれしい色だ。(高橋正子)

●佃 康水
巨大なる聖樹や夜空瞬かす★★★

子ら来るに布団干しより年用意★★★★
年用意はいろいろある。お天気の良い日が続くとは限らないし、うっかりすると布団干しの日を逃す。まず寝具を気持ちよくして子どもたちを迎えたい。あたたかい心遣い。(高橋正子)

三日目は輪切りに替えて柚子湯かな★★★
 
●多田有花
山と山つなぎ冬至の虹かかる★★★★
日のいちばん短い冬至に虹がかかるのも珍しい。山と山をつないで虹がかかるのも、この日が特別な日だからという思いがする。(高橋正子)

雲晴れて奥山冬至の雪化粧★★★
海近し寒気の雲の端光る★★★

●小西 宏
公園の落葉だまりの水飲み場★★★★
からからと乾いた落葉の吹き溜まり。そんなところの水飲み場は、いつでも水が噴き出しそうで、よい感じだ。(高橋正子)

葦枯れて水面に映る空の青★★★
人込みに買い物を終え紅山茶花★★★

●古田敬二
ボヘミヤを薪積むトラック疾走す★★★
ボヘミヤの平原小さく冬の川★★★
薪積む霜降る村を過ぎにけり★★★

●高橋秀之
瀬戸内のみかん畑は延々と★★★
潮待ちの石灯篭や冬の海★★★

島々を抜けて小船に冬日差す★★★★
島影をゆくときは日もかげる。島影から出れば、小船に穏やかな日が差す。多島海の瀬戸内海は冬ものどかである。(高橋正子)

12月23日

●小口泰與
茶の花や一朶の雲の動かざる★★★★
茶の白い花と冬空にぽっかり浮いた雲。歳末のころころ、しずかに晴れた日がありがたい。(高橋正子)

寒暁や雄鳥の声透き通る★★★
夕暮れの日はあわあわと寒薔薇★★★

●桑本栄太郎
送電塔山の眠りの嶺々に★★★★
「眠りの山」は、「眠る山」よりも表現が新鮮だ。送電線の鉄塔は、冬ざれのなかでは、とくに目立つ存在のように思う。(高橋正子)

芦屋なる庭の茶室や松葉敷く★★★
冬波の岸壁這うや浚渫船★★★

●小西 宏
冬晴れの枝に満ちたる柿の色★★★
木の葉落ち枝払われて欅立つ★★★
落葉道ひと足の歩の陽の温み★★★

●古田敬二
青空を映してウイーンの薄氷★★★★
どんな場所に張っている薄氷がわからないが、ウィーンの薄氷は、ウィーンの青空を映す。クラッシック音楽のジャケットにでもなりそうな光景を想像した。(高橋正子)

冬枯れの白樺貫き旅を行く★★★
(ボヘミヤ平原)
冬耕の終わる平原果てもなし★★★

●高橋秀之
大空と眠る山あり千光寺★★★★
尾道の千光寺ならば、それは、まさに眠る山のなかに立ち、おおらかな空の下で尾道水道の海の眺めを一望にしている。(高橋正子)

冬凪の港夕陽を映し込む★★★
我もあり冬の山あり一人旅★★★

12月22日

●小口泰與
寒月やあらみの刀眺め居る★★★
大いなる人の過失や虎落笛★★★
白鳥やあな夕照の浅間山★★★

●河野啓一
裏六甲耀く氷初氷★★★★
「裏六甲」は、海から離れ山へと入ってゆき、寒さも表側とは違っている。氷が輝くのも新鮮だが、初氷となればなおさら「裏六甲」を感じることだ。(高橋正子)

小春日の空輝かに木の葉揺れ★★★
氷雨降る六甲山の山路かな★★★

●桑本栄太郎
朽野や無尽に走る高速道★★★
武庫川の中洲明かりや蘆枯るる★★★
剪定の切り口白く冬の庭★★★★
剪定された樹木の切り口の鋭さには、はっとさせられる。寒さの中で切り口の白さが目に食い込む。(高橋正子)

●小西 宏
富士澄める冬至の朝に我のあり★★★★
富士山の見えるところに住むものには、富士山は常にその姿が気になる山である。冬至の朝の澄んで張りつめた空気が富士をくっきりと、また我をくっきりとさせてくれた。「我のあり」が作者らしい。(高橋正子)

柚子生って街ゆく風の輝かし★★★
父と子の野球冬至の陽の中に★★★

●佃 康水
降りしきる霙を突いて漁船ゆく★★★★
霙が振り込む海へ出てゆく漁船を温かいまなざしで見送っている。そういう天候の厳しい日も漁業者には漁をする生活がある。(高橋正子)
 
浮寝鴨波に煽られ横滑り★★★
ほくほくの冬至かぼちゃや艶の出で★★★

●多田有花
丘ほどの山に登りてしぐるるや★★★
山を染め冬至の朝日昇り来る★★★

新しき靴で冬至の頂に★★★★
冬至にたまたま新しい登山靴を履いたとしても、夜と昼の長さが変わる冬至に「新しい」ということに新鮮な意味が生まれる。爽やかに晴れ、遠くまで見渡せる冬至の頂であったろうか。(高橋正子)

●高橋秀之
ぷかぷかと一番風呂に浮かぶ柚子★★★★
「ぷかぷかと」が楽しい。一番風呂の特権で、さらの湯、さらの柚子の清潔感と幸福感の享受。(高橋正子)

柚子の実の切れ目が大きく風呂の中★★★
子を叱る声は冬至の夜も響く★★★

●古田敬二
冬晴れのウイーンの街の動き初む★★★
尖塔の冬の木立の向こう側★★★
冬の陽の尖塔に先ず射し来たり★★★

12月21日

●迫田和代
水際を遠くに遠くに枯尾花★★★★
水際を遠くに見せて尾花は枯れ極まっている。水の配置によって、枯尾花の「枯れ」の美しさが際立っている。(高橋正子)

下手くそやすべて忘れる年の暮れ★★★
牡蠣船の灯残し川流れ★★★

●古田敬二
明々と聖樹となれる大ポプラ★★★
X’mas広場ワイン片手に歌を聞く★★★

男声合唱X’mas広場重厚に★★★★
クリスマス広場には、クリスマスの市も立つだろうし、催しに男声合唱がクリスマスソングを歌うこともある。ホットワインを片手に男声合唱に聞き入ったりすれば、寒さの中で歌声はずんと体に染入る。(高橋正子)

●小口泰與
単線の山すそめぐり冬木かな★★★★
単線の走る山裾を巡ると、間近く山の冬木の一本一本の姿が見える。冬木の素朴な温かさ、また侘しさなどがひしと感じられるのだ。(高橋正子)

せせらぎの音の細りて枯木かな★★★
跳炭や手酌の酒の冷めており★★★

●祝恵子
目線はなに同じ向きして冬すずめ★★★
目標を少々先へ冬歩き★★★
鉢植えの花芽伸び出すブロッコリー★★★

●桑本栄太郎
雨の枝の一つ二つや木守柿★★★
雨に濡れ残る紅葉の極めけり★★★
錆び色の冬の雨降る貨物線★★★

12月19日-20日

12月20日

●小口泰與
川筋の細りし利根や冬ひばり★★★
夕照の目路の浅間に笹子かな★★★
寒鯉や山住みの身は山に暮★★★

●古田敬二
 楽友会館
冬の陽のホールにあふれアンダンテ★★★★
冬の陽が溢れるホールで、アンダンテ(歩く速さで)のゆっくりとした音楽に身をゆだねるひと時が、人生のゆったりした時と重なっているようだ。(高橋正子)

ピチカート冬陽が届くウイーンフィル★★★
冬温し指揮者が踊るウイーンフィル★★★

●多田有花
北風つのるほどに輝く播磨灘★★★★
瀬戸内海は、播磨灘もだが、北風が吹けば吹くほど、海面の水が研ぎ澄まされ、太陽をよく反射する。「つのるほどに輝く」が実景をよく映している。

陽光の頂で北の雪を見る★★★
頂に青空見える冬芽かな★★★

●桑本栄太郎
葉を落とし滴つらなる冬木かな★★★
惣菜に添えて鯛焼買いにけり★★★
散紅葉の壁に張り付く昇降機★★★★
戸外から乗り降りできるエレベーターだろう。エレベーターの中までも紅葉が吹き寄せてきて、一枚が壁に張り付いている。「こんなところにも」という驚き。紅葉の散る季節である。(高橋正子)

12月19日

●小口泰與
侘助や赤城の襞の鮮やかに★★★

読みひたる史記の世界や日短し★★★★
司馬遷の書いた史記は、全130巻にも及ぶ壮大なもの。読みやすくまとめられたものもあるとは言え、それも長編である。時の経つのも忘れて、心躍らせて読みひたれば、なおさらのこと、「日短し」を実感する。(高橋正子)

夕映えの雲の褪せたり枯尾花★★★
 。
●多田有花
猪鍋の湯気立つ外は夜の雨★★★★
猪鍋は湯気をたぎらせて、元気なものが集まって食べるのが、いっそう野趣味と言えるかもしれない。夜の雨が加われば、猪鍋にふさわしい状況設定になる。(高橋正子)

つと下ろす炭火の上の自在鍵★★★
楓枯れ夜来の雨を宿しおり★★★

●桑本栄太郎
踏みしだき朽葉張りつく坂の道★★★
冬の雨朝の尾灯のつづきけり★★★
白き実の玉のしずくや冬の雨★★★

●佃 康水
白エプロンひと日徹して報恩講★★★  
車窓より冠雪富士を見て飽かず★★★
 広島尾道にて でべら(出びらかれい)
旗の如屋上揺るるでべびら干し★★★★
海の寒風にさらされて、「でびら」が干されているのを見ると、まさに「尾道の光景」として思い起こされる。(高橋正子)

12月17日-18日

12月18日

●小口泰與
終バスや冬夕焼のあかあかと★★★★
朝戸出の我を襲いし空っ風★★★
参道の銀杏落葉やあさぼらけ★★★

●古田敬二
 ウイーン市庁舎前クリスマスマーケット
ガラス玉に雪の降り来るマーケット★★★★
クリスマスツリーや部屋飾りに使う色んな色や絵の書かれたガラスボールは、オーストリアやドイツのクリスマスを象徴するようなもの。雪の降るクリスマスマーケットが詩的に思える。 (高橋正子)

市庁舎の尖塔聖樹となり高し★★★
旅真中聖樹の下のホットワイン★★★

●小川和子
眼差しを交わし嬰児笑むクリスマス★★★
新しき聖樹光れり児をあやす★★★★
冬空に軌跡描けり飛行機雲★★★

●多田有花
頂に沢庵漬を回す昼★★★
順々に山下りてくる冬帽子★★★★
冬の雨聞きつつどこへもいかぬ日★★★

●祝恵子
客を待つ冬の菜少し摘みながら★★★★
「冬菜摘み」も日常生活のことだが、「客を待つ」であれば、詩となる。「いい生活からいい俳句」が生まれる。 (高橋信之)

冬耕や深めに堀りてくわい畑★★★
冬河原腹這って撮るタンポポ★★★

●桑本栄太郎
冬麗の電車の窓の日射しかな★★★
パソコンを膝に眠る娘(こ)冬うらら★★★
階段を走りバスへとしぐれ雲★★★

12月17日

●小口泰與
夕映えを浴びし我が影冬田かな★★★
水洟や長き地下道土合駅★★★

寒菊や赤むらさきの明けの空★★★★
寒菊も花や葉が寒さに焼けて赤紫を帯びることがある。明けの空も、寒々と赤むらさきになる。菊も雲もである。(高橋正子)

●迫田和代
時ならぬ時雨に濡れし車椅子★★★★
外出の車椅子が、時ならぬ時雨に濡れてしまった。時雨の降り方は時としてこのように、急に降ることがある。時雨の本質をいい得ている。(高橋正子)

枯草の中の緑の生き生きと★★★
白い息吐きつつ歩く山影を★★★

●桑本栄太郎
木枯しや枝の烏の踏ん張りぬ★★★
大鍋の南無息災や大根焚き★★★

冬萌えや高槻平野のさみどりに★★★★
高槻平野は大阪のその地域の平野。生活のある平野である。その平野が冬萌えにさみどり色になり、明るく美しいことである。(高橋正子)

●多田有花
雲低く裏六甲の冬ざるる★★★★
「裏六甲」が珍しく、訪ねてみたい気持ちになる。「裏」と「冬ざるる」が微妙なところで付き過ぎでないのがよい。(高橋正子)

足音に親しく寄り来る緋鳥鴨★★★
山下りて炭火囲炉裏の牡丹鍋★★★
 

12月16日

●小口泰與
甲高き二羽の鶏声冬田かな★★★★
冬田にまで聞こえる鶏声か。二羽が甲高く鳴き合っている。この甲高い鶏の声は、寒い冬を一層寒々とさせる。(高橋正子)

竹林に鳥影ありし暖炉かな★★★
うす雲を透かす落暉や枯尾花★★★

●祝恵子
庭師らは寺に冬苗運び入れ★★★★
何の苗か。正月を迎える葉牡丹などであろうか、あるいは苗木か。庭師が入って寺の庭が年末新たになる。(高橋正子)

冬芽吹く目を凝らして枝見れば★★★
風任せなれど落葉は遠くまで★★★

●多田有花
焚火囲む朝の仕事の始まりに★★★★
建築現場など早朝からの戸外の仕事は、まず、暖を取ってから。木くずなどを燃やして焚火をする光景は、昔から変わっていない。(高橋正子)

一年の長さ短さ忘年会★★★
連山の彼方に雪の降りしきる★★★

●桑本栄太郎
白き実の揺るる並木や風冴ゆる★★★
街をゆく吾を追いかけ木の葉舞う★★★
土乾き冬田ほろほろ日射しけり★★★

●古田敬二
ベートーベン落葉の公園にまみえけり★★★
石畳冷え初む夕べをオペラ座へ★★★
開演を待つ間のウイーンの夜の冷え★★★

●川名ますみ
青々と葉の付きしまま蜜柑着く★★★★
蜜柑の荷を開けると、明るいオレンジ色が目に飛び込んでうれしいものだが、それに青々とした葉がついていれば、色は一層鮮やかになる。送り主の心遣いも忍ばれる。(高橋正子)

聖樹背に笑い損ねし写真かな★★★
葉を捨てて桜にまるき冬木の芽★★★

12月14日-15日


12月15日

●小口泰與
百年の酵母や冬の醤油蔵★★★
木守や酵母あふるる太柱★★★

干大根利根の河原のひろごれり★★★★
干大根の色と冬景色となった河原の色がよくなじんで、風の吹く様、日の照る様が想像できる。(高橋正子)

●古田敬二
色づけり冬のシベリア夕景色★★★

冬の旅動かぬ位置に北極星★★★★
昔、北極星は動かないことから旅をする人の目印であった。今でも旅にあれば方位を確かめるための目印となる。「冬の旅」が荒涼とした星空
を想像させてくれる。(高橋正子)

シベリアを飛ぶ主翼の先の冬の星★★★

●桑本栄太郎
山膚のうすく赤きや冬の朝★★★
新駅の高架ホームや冬田晴れ★★★★
冬田の中の新駅の高架ホームは突如として現れたコンクリートと鉄の塊の趣き。それに対して冬田の上に広がる晴天の空のさっぱりと晴れやかなこと。(高橋正子)

萎れゆく風の窓辺の懸菜かな★★★

●黒谷光子
(永観堂)
冬紅葉見返り佛の堂包む★★★
冬紅葉開山堂へと臥龍廊★★★
見返り佛脇より拝み冬ぬくし★★★

12月14日

●小口泰與
喉飴を口に入れたる小春かな★★★
焙煎の上々に出来小春かな★★★
神の旅浅間は雪を賜わりぬ★★★★

●迫田和代
冬帝に土手道駆ける子に幸を★★★
楽しいな冬日の射す道今日もまた★★★★
「楽しいな」はためらいのない、そのままの気持ち。冬日がぽかぽかと差す道は今日もまた楽しい道となるのだ。(高橋正子)

窓の外風にも負けずに冬の薔薇★★★

●桑本栄太郎
錦木の残る紅葉や剣の先★★★
しぐれつつ青空のぞく嶺の奥★★★
ベランダの窓に小さき干菜影★★★

●古田敬二
機窓から句帳へ冬の陽が明るい★★★★
乗り物の車窓側に乗るとこんな場面によく出合う。句帳のページの白さに気持ちよく句が認められそうだ。(高橋正子)

雲海の果てなきを見る冬の旅★★★
雲海を崩して走る冬の風★★★

12月13日

●古田敬二
シベリアの雪山夕日に色づけり★★★
雪原に人の営み見えず真っ白★★★

シベリアの大地をまっすぐ雪の道★★★★
シベリアの大雪原のまっすぐな道。雪と無音の神秘的なまでの世界。機上からの眺めであろうか。(高橋正子)

●小口泰與
又しても浅間に雪や朝ぼらけ★★★

黙読し見上ぐる空や寒昴★★★★
黙読のあと、自分の世界から翻って空を見上げると、寒昴がくっきりと輝いている。遥かな昴の光が目に刻まれる。(高橋正子)

夕映えの河やマフラー纏わりぬ★★★

●河野啓一
髪白き二人の会釈師走の街★★★
奥丹波山粧いて霧の中★★★
冬空やオーストラリアのような雲★★★

●多田有花
寒風を戻りてあったかいなり寿司★★★
昼済めば日はすでに西日短か★★★
よき夢を見に羽蒲団の中に入る★★★

●桑本栄太郎
切干の乾き縮むや笊ふたつ★★★
山茶花の生垣白く日暮れけり★★★
短日のすでに没日や午後の五時★★★

●小西 宏
山茶花の花びら広く敷く日向★★★★
下五を「日向」で止めたのがよい。山茶花がまぶしいばかりに散り敷いた明るい日向である。(高橋正子)

母と子と手をつなぎ行く落葉道★★★
枯葉赤く小楢の山に夕日照る★★★