●古田敬二
ブルダバに冬の燈映り旅終わる★★★
冬の旅見知らぬ街の燈下に見て★★★
大陸の冬の眠りの燈の上を★★★
●小口泰與
夕照のひと筋道や小白鳥★★★
雨上がり枯草の彩さわにして★★★
上州のお国訛りや空っ風★★★
●佃 康水
満天の星の霜夜にジャム煮ゆる★★★
思い出を置いて子ら発つ四日かな★★★
児を交え遊び句会や初笑い★★★
●小川和子
焚木積まれ切り口白き淑気かな★★★
「道産子」を詠みし一句の賀状来る★★★
古里は雪に雪積む日々らしも★★★
和子さんの故郷は北国と聞いている。雪が積んだ上にさらに雪が降り積もる。そのことを知って、故郷で過ごした懐かしく思い起した。「らしも」にその気持ちがでている。(高橋正子)
●桑本栄太郎
参拝の杜の息吹や初松籟★★★
二日はや散歩がてらの買物へ★★★
夫婦ともテレビゲームの三日かな★★★
●小口泰與
鎖場も顕なりけり冬妙義★★★
冬花火湖より生まれ湖へ散る★★★★
花火は夏に限らず、祝祭に打ち上げられる。寒気の中、湖から揚がった花火が、湖へ散る様子は澄み切った花火の色が特に美しいことであろう。(高橋正子)
空風や荒き口調の国訛★★★
●古田敬二
尖塔のライトアップに雪斜め★★★★
高く伸びた尖塔から投げかけれるライトに、降る雪が浮かび上がる。雪は斜めにしきりに降ってくる。斜めに降る雪に高揚した気持ちが伝わる。(高橋正子)
旅終わる夜のプラハは雪もよい★★★
旅終わる朝冷えプラハの石畳★★★
●多田有花
晴れやかな景色が揃う初暦★★★★
どの暦も、1月の暦の景色は晴れやかだ。晴れやかな暦の景色に取り囲まれ、新年は良い気分である。(高橋正子)
三が日過ぎ寒風の戻り来る★★★
本陣跡キツネに出会う四日かな★★★
●桑本栄太郎
<山口にて孫の初正月>
新しきうからと祝う今朝の春★★★
元朝の山口線の汽笛かな★★★★
山口線は、新山口駅から益田までの路線で一部の区間ではSLが走っている。山口から津和野までこのSLに乗ったことがあるが、蒸気機関車は汽笛さえも力強く旅情を書き立てられる。元朝の朝が力強く始まる。(高橋正子)
、
<山口大神宮へ>
並び待つ列も厳かや初詣★★★
●小西 宏
枯枝に凧垂れている日の温さ★★★
楠の枝ひろがる影や冬夕日★★★★
残り物膳にちりばめ四日かな★★★
●川名ますみ
正月の凧三つ四つ多摩川へ★★★
男子四人鯛焼買って立ちどまる★★★
凧揚の空に続く多摩川の空★★★★
多摩川の河原は、野球場やテニスコート、広場などがある。広場には風もあって、凧揚げには格好の場所。揚がる凧には、そこの空だけでなく、多摩川の空の続きがある。(高橋正子)
●小口泰與
三日はや朝の散歩の一時間★★★
三日はや箸置きふたつ夕餉かな★★★
白昼や東にあらわ冬の月★★★
●黒谷光子
二日はや御下がりの餅切り分ける★★★
鏡餅切る包丁の大きかり★★★。
三日目の朝日射しこむ厨窓★★★★
厨に立つと、朝日が窓から差し込んで、気持ちのよい三日の朝となった。三日になると正月にも余裕が出てくる。(高橋正子)
●川名ますみ
病牀に掌ほどの松飾る★★★
あの頃と変わらぬ住所賀状書く★★★
お元日寝衣寝具をまっさらに★★★★
新年を迎えて、タオルひとつ新しくなるのも新鮮なことだが、ベッドで療養されている作者には、寝具や寝衣までもがすっかり新しくなることは、自分の世界が新しくなるような気分ではないかと察せられる。(高橋正子)
●多田有花
よく晴れし二日の山を歩き初め★★★★
二日はもう山を歩き初めに。正月の山は、晴れ晴れと健やかな気分になれて、いいものだろうと思う。特によく晴れた二日は。(高橋正子)
古戦場跡にたたずみ三日の陽★★★
暖かき晴れ賜りぬ三が日★★★
●高橋秀之
煌々と明るく三日の繁華街★★★
曾祖母が手渡す年玉両の手で★★★
初売りの服早速に着て出かけ★★★
1月2日
●小口泰與
二日はや雪の赤城の明け鴉★★★
大らかな雪の浅間の二日かな★★★★
よい天気続きの正月。二日も雪を冠った浅間山が大らかに坐っている。浅間山を「大らか」と捉えた度量がよい。(高橋正子)
寒鯉や道も途絶えし分教場★★★
●多田有花
海よりの長き石段初詣★★★★
海の近くの寺社。寺社への長い石段は海から続き、海はいかにも穏やかである。長い石段の上からの眺めも素晴らしいことだろう。よい初詣。(高橋正子)
初凪の海辺の道を歩きけり★★★
注連見上げ唐琴通りをそぞろゆく★★★
●高橋秀之
大空は曇れど今は二日の朝★★★
初売りの列まっすぐに朝日差す★★★★
お目当ての初売りの列に並ぶと、朝日がまっすぐに差してくる。朝日を眩しみながら待っているのだろう。「まっすぐに差す」で正月らしい光景となった。(高橋正子)
正月の食卓みかんは二つ盛り★★★
1月1日
●小口泰與
元旦や風なき里の明け鴉★★★
あけぼのの雲なき浅間御慶かな★★★
歯ブラシの癖も無かりし初明かり★★★
●古田敬二
霧氷林縫って列車の疾走す★★★
霜の坂ドボルザークに会いに行く★★★
たくましきドボルザーク像霜かぶる★★★
●小西 宏
新しき箸もて家族お元日★★★★
新年は、なにか一つ新しいもので迎えると、すがすがしい気持ちになる。新しい箸に家族揃ってのお元日が清々しく、和やかである。
∞プラス一なる去年今年★★★
陽の中に新芽小さき松飾★★★★
●高橋秀之
もっそりと寝ぼけ眼の初笑★★★
獅子舞に頭を向けて走り寄る★★★★
獅子舞の獅子に頭を噛んでもらうと元気な子になるとか。恐ろしい獅子に向かって走り寄るのは、果敢で愉快な男の子。(高橋正子)
無造作に積まれて籠の冬りんご★★★
※明けまして、おめでとうございます。今年もご投句をお待ちしています。よろしくお願いいたします。(高橋正子)
12月31日
●小口泰與
歳晩や木々を賑わす風の神★★★★
うたた寝の夢のうたかた師走かな★★★
行く年や上り下りの峠道★★★
●桑本栄太郎
<孫のいる山口の新家族訪問>
年尽くる旅のはじめや新幹線★★★
瀬戸内の冬日きらめく明石かな★★★
徳山の煙突けぶり年暮れぬ★★★
●古田敬二
ボヘミアの霜の森から子らの声★★★★
カラフルな帽子が動く霧氷林★★★
霜の林映してブルダバ川静か★★★
12月30日
●小口泰與
山風にあまなう木々や桜鍋★★★
はたはたと古し暖簾やおでん鍋★★★
雪吊や雲版叩く僧の昼★★★★
雪深いところの禅寺を訪ねると、雪吊がしてあり、僧は雲版を叩いて昼の時を知らせる。辺りに雲版の音が響く、墨絵のような雪景色が想像できる。(高橋正子)
●多田有花
天水桶氷の下の緋鯉かな★★★
県外のナンバー増えし小晦日★★★
一年の歩き納めや小晦日★★★★
「歩き納め」というのが、面白い。しかも、大晦日ではなく小晦日を。普段は増位山に難なく登って楽しんおられ、トレッキングはお手の物。大晦日は、一年の最後の日を大切にとっておかれるのだろう。
●桑本栄太郎
エンジンの噴かして長き冬の朝★★★★
冷え込んだ霜の朝など、自動車のエンジンがかかりにくい。しばらく噴かしているのも、冬の朝の光景として目にするが、句にしたのは読んだことがない。(高橋正子)
ちりちりと白く粧い山眠る★★★
日翳れば峰に仄かに雪の山★★★
●小口泰與
夕映えの雲のあふらる枯葉かな★★★
風呂吹や赤城を出づる風の神★★★
天ざかる里に住みおり空っ風★★★
●古田敬二
ドボルザーク生家 ネラホゼベス
段々に霜深くなる村に着く★★★
霜平原遠くに動くトラクター★★★
霜の降る林を縫って鉄路伸び★★★
●多田有花
毛糸編む母晩年の楽しさに★★★★
毛糸を編む楽しさは、それが少しずつ出来上がってゆくところにある。そして自分ひとり座る場所があれば、どこでもできること。外国の老婦人が椅子に腰掛けてレース編みをしている絵や写真をよく見るが、晩年の楽しみはささやかで、美しく、楽しいものができるのがいい。(高橋正子)
年の暮二つの峰をたどりゆく★★★
広峯神社迎春準備の活気かな★★★
●桑本栄太郎
初雪やうつすら白き峡の底★★★
年の瀬の階段走る宅急便★★★
数え日やひと日暮れゆく青き空★★★
●小川和子
磨きあぐ玻璃に映れる庭水仙★★★
冬麗の富士の真白よ気高さよ★★★
車窓より忽然と見ゆ雪の富士★★★
●小西 宏
冬日青く輝く朝の窓磨き★★★
窓ガラス磨き明るき冬木立★★★★
磨いた窓ガラスを通して見える冬木立が凛々しく鮮明だ。(高橋正子)
拳骨の古き裸木百日紅★★★
●川名ますみ
玄関にりんご置きましたとメール★★★★
りんごを送っていただいたのか。玄関にりんごを飾って、出入りのたびにたのしみ、来客にも楽しんでいただく。明るいりんごの色や形になごむ。そのことをうれしくてメールした。(高橋正子)
やや蒼きローリエを入れ冬うらら★★★
てっちりに兄妹湯気も分けあいぬ★★★
●古田敬二
霜溶けてブドウ畑のきらきらと★★★★
白樺の枯木の中から鐘の音★★★
連結電車霜置く坂を登り来る★★★
●小口泰與
冬凪や荒れ田にぎわす明烏★★★
風に乗る数多の鳶や年の暮★★★★
鳶がやたら多く空に舞うときがある。それぞれが自在に風に乗って、地上の年の暮を見ているかのような景だ。(高橋正子)
烈風に馴染みし庭の枯木かな★★★
●迫田和代
願いあり土手道に咲く冬桜★★★★
晩秋から冬にかけて咲く冬桜。か細い枝に花もはかなげに咲いている。それは、作者の願いを表しているようでもある。(高橋正子)
咳三つ残して走る寒い朝★★★
どちらかと言えば寒さに力あり★★★
●祝恵子
冬菜につく青虫の温さつまむ★★★
賀状に添ゆ子らそれぞれに言葉入れ★★★
時雨るるよ短き髪となり街へ★★★★
美容室で髪を切ってもらって外へでると、時雨が降って、首筋あたりがぞっと寒くなる。さっぱりとなったが、時雨の冷たさに襲われた。一抹のわびしさ。(高橋正子)
●桑本栄太郎
張替えの終えて明るき白障子★★★
そうじ終え窓の暮れゆく日短★★★
蕪村忌の水色空の暮れゆけり★★★★
蕪村忌は12月25日。蕪村は画家でもあり、句柄にも抒情があるので、年の瀬となった水色の空は、蕪村の忌日にふさわしく思える。(高橋正子)
●多田有花
雪積んで北より車の来たりけり★★★
樒入る墓前の花筒初氷★★★
数え日や祖父母の墓に水注ぐ★★★★
今年も残るところ少なくなった。正月を前に祖父母の墓をきれいに掃除し、水を注ぐ。遠い祖先ではなく、祖父母の墓なので、水を注ぐ思いに現実感がある。(高橋正子)
●黒谷光子
山々も村も隠して雪しまく★★★
靴跡にわが靴を置く雪の道★★★★
雪深い湖北にお住いの作者。雪道を歩くのに、先に歩いた人の靴跡に靴を置いて歩く。その靴跡も次に歩く人にはすでに道なのだ。雪は用心して、歩くにこしたことはない。(高橋正子)
地場野菜買う歳晩の道の駅★★★
●川名ますみ
外套を叩き芝居の雪一枚★★★★
外套を叩き軽く外出の埃を払うと、芝居のときに振りまかれた雪の一片がはらりと舞い落ちた。芝居の雪が作者のコートに降ったわけだ。
観客も芝居の中に取り込まれた格好で、さぞやよい舞台であったろう。(高橋正子)
コートから十年前の紙吹雪★★★
ブーツにも忠臣蔵の雪紛る★★★
●小口泰與
冬凪や赤城のすそ野とびの舞う★★★
虎落笛耳はりづめの小犬かな★★★
底冷えや鶏の足跡おちこちに★★★
●河野啓一
鳥声優し今日は天皇誕生日★★★★
今生天皇は12月23日が誕生日。うららかな日を賜り、小鳥の声も優しい。天皇のお人柄がしのばれもする。(高橋正子)
年納め近付きつつも小春かな★★★
庭雀氷雨のなかの朝餉かな★★★
●古田敬二
(ブルダバ=モルダウ)
ブルダバの冬霧の中陽が昇る★★★
霜真っ白陽が射し来るまでの街の色★★★★
「陽が射し来るまでの街の色」がいい。特に「街の色」で止めたので、句の情景が鮮明になった。(高橋正子)
プラハ城霜の斜面の丘の上★★★
●多田有花
ワイパーににじむ年の瀬の光★★★
頂の切り払われし年の暮★★★★
頂きの神社やお寺だろうか。いただきが切り払われさっぱりとし、見晴らしもよくなった。年迎えの用意が済んだ年の暮のすがすがしさがよい。(高橋正子)
手をつなぐ母子歳暮の交差点★★★
●桑本栄太郎
冬晴れの掃除日和の朝かな★★★
段取りの手間もひとつや年用意★★★★
なにごとも、準備や段取りが必要。この手間も年用意の仕事の一つである。これをしっかりすれば、手際よく用意ができるというもの。(高橋正子)
手拭いを被り意気立つ煤払い★★★
●川名ますみ
てっちりのゆげ兄妹を行き交えり★★★
不器用に雑炊よそう妹へ★★★
雑炊を伯父によそわれている母★★★
●小西 宏
山茶花の白土に敷きまた蕾★★★
ぶらんこの揺れぬ鎖や冬の雨★★★
ほの赤くけぶる桜の枯木立★★★
●小口泰與
釣竿を磨きながむや日脚伸ぶ★★★
空風や番茶と飴を卓上に★★★★
空風の吹く寒い日、テーブルには番茶と飴が置かれている。寒い日は飴を一つほおばって、お茶でも暖を取りたくなる。(高橋正子)
米を炊く水のやわしや冬落暉★★★
●祝恵子
浮かべ入れ香りと遊ぶ柚子の風呂★★★★
「香りと遊ぶ」がいい。湯に浮かんだ柚子wあちこちやりながら、その香りをたのしむ。楽しむより香りで遊ぶ。きれいな柚子風呂。(高橋正子)
クリスマス久しぶりに聞く子らの声★★★
冬野菜漬物講座の掲示板★★★
●桑本栄太郎
冬ざれの竹林透かし風抜ける★★★
夕暮れの絮の灯かりや枯尾花★★★★
夕暮れの枯尾花が、ほうっと灯りが点ったように浮き上がって見える。幻想的な風景。(高橋正子)
行く年のつなぐ縁(えにし)や賀状書く★★★
●多田有花
椿咲き初め快晴のクリスマス★★★★
快晴の空の下に、椿がくっきりと咲き始めた。折しもクリスマス。日本のクリスマスは椿の咲き始めで迎えられることも。(高橋正子)
ばりばりと壁より剥がす古暦★★★
数え日の河原を濡らす静かな雨★★★
●小口泰與
朝霜や畑を横切る孕み犬★★★
冬草や伊香保の街は磴の街★★★
白波をあやつる風や切炬燵★★★
●高橋秀之
ネクタイを締める指先悴んで★★★
息白し目覚めて初めの深呼吸★★★
冬木立空の青さが見え隠れ★★★
●多田有花
青空は冬六甲の上にあり★★★
泉州も阿波も一望冬の晴れ★★★
門松の松採り戻る人と会う★★★★
門松用に青々とした松を採って帰る人に会うと、現実正月がすぐそこに来ていることを知らされる。松の勢いに正月を迎える気持ちも昂る。(高橋正子)
●桑本栄太郎
医科大の構内めぐる冬木かな★★★★
医科大学をしんと取り囲む冬木である。冬木のりんとした力強さをさっぱりと詠んでいる。(高橋正子)
<桂川・鴨川・木津川>
三川の集う中洲や枯野原★★★
それぞれの顔としぐさや賀状書く★★★
●小西 宏
冬すずめ庭の小さな水に触れ★★★
杜深き神楽の笛も年用意★★★★
杜の奥から聞こえる神楽の笛。耳をそばだてれば、これも神社の年用意の一つと納得する。正月もそこまで来ている。(高橋正子)
枯枝と木の葉色なす日の残り★★★
●古田敬二
(ボヘミヤ平原をバスで)
ボヘミヤの森赤々と冬落輝★★★★
ボヘミアの森に落ちる夕日が赤々と燃える景色に、力強く温かな抒情がある。「ボヘミアの森」が効いている。(高橋正子)
白樺の幹を照らして冬落輝★★★
ボヘミヤの夕暮れ池に薄氷★★★