6月4日-6日

6月6日

●小口泰與
雨湛う土の黒きや茄子の花★★★★
谷蟇(たにくぐ)の湖畔にでんと構えけり★★★
茄子苗の添え木あまたや雨降れり★★★

●河野啓一
額紫陽花水切りをして挿芽して★★★
咲き初めて清らな白き紫陽花よ★★★★
夕まぐれぽっかり白き額紫陽★★★

●古田敬二
手に触れる近さで逃げるヒメホタル★★★★
ヒメホタルの小さなあかりが手に触れるくらいに近づいたと思うと、触れはしないですうっと逃げた。はかなくも美しい一瞬。(高橋正子)

彼岸から揺れ来るようにヒメホタル★★★
ヒメホタル逃げて掴めり藪の闇★★★

●迫田和代
雨の中紫陽花咲ける丘に立つ
【添削】紫陽花の咲ける丘なり雨がふり★★★★
丘一面が紫陽花に覆われ、雨が降っている。紫陽花色の水のなかにいるような気持ちがすてきだ。もとの句は「丘に立つ」ことが強調されて紫陽花のイメージが弱くなっているので添削した。(高橋正子)

向こうから浴衣を着た娘の爽やかさ★★★
黒雲が低く流れて梅雨の空★★★

●桑本栄太郎
雨あがり眼もとぱつちり未央柳★★★
木苺の鉢に熟れたる菓子舗かな★★★★
ほほけ来る穂風の茅花流しかな★★★

●多田有花
音もなく降りだす雨や梅雨に入る★★★★
芒種今日雨の気配が身ほとりに★★★
梅雨時のひと日で伸びし草の丈★★★

6月5日

●小口泰與
ひさびさの雨をたたえし茄子の花★★★★
久々の雨に茄子の枝葉もぴんと張りつめ、いきいきとしている。薄紫の花にもたっぷりと雨滴がかかり、目に涼しさをよぶ。(高橋正子)

梅干の皺の深さに干されけり★★★
雨傘を杖と頼みし七変化★★★

●黒谷光子
蔦も枝分かれして上りゆく★★★★
蚕豆を剥きて嵩張る莢を積む★★★
芍薬の終わりの一花を玄関に★★★

●小西 宏
梔子の花朽ちたるに日は差しおり★★★
紫陽花よさらに膨らめ明日は雨★★★★
紫陽花の色とりどりに梅雨に入る★★★

●佃 康水 
  旧暦5月5日 流鏑馬
真っ先に社務所へ氏子菖蒲葺く★★★★
祭り馬乗せトラックの揺れて着く★★★ 
流鏑馬の通路や戸ごと菖蒲葺く★★★

●桑本栄太郎
みどり濃き窓の山河や梅雨に入る★★★★
梅雨空や部活の子等のブラスの音★★★
吹く風のみどりに湿り梅雨に入る★★★

●祝恵子
葉桜やバケツを垂らし水を汲む★★★★
葉桜とバケツで汲む水が、日本のこの季節の緑のゆたかさ、水のゆたかさを象徴している。葉桜や水の感触がリアルに伝わる。(高橋正子)

七変化公衆電話のある団地★★★
対岸の歩き越し場所夏灯つく★★★

6月4日

●小口泰與
たそがれの滝の飛沫のたち騒ぐ★★★
吾去ればたちまち鳴くよ雨蛙★★★
たなごころ岩魚の滑り伝わりぬ★★★★

●河野啓一
PMも黄砂も梅雨も西の方★★★
残雪の夏山友と山小屋に★★★
遠山に白きも見えて夏の川★★★★

●桑本栄太郎
アーチ型支柱の並び茄子の花★★★
青柿のひそむ葉蔭や昼下がり★★★
不如帰鳴いて夜更けの街灯かり★★★★

●高橋秀之
雨宿りする場に大きく夏木立★★★★
雨宿りする場所のすぐそばに夏木立がある。夏木立に盛んに降る雨がよく見える。夏の雨の力強さ詠まれている。(高橋正子)

折り畳み傘を鞄に梅雨に入る★★★
高層階から見る生駒は緑濃く★★★

6月1日-3日

6月3日

●小口泰與
たたなわる山より大気初夏の朝★★★
郭公のいよよ鳴きけり明けの宿★★★
たたなわる山や新樹の匂いけり★★★★

●祝恵子
トクトクと水入る田のそば花菖蒲★★★
田植する苗の一部は水の中★★★★
祭り旗掲げ曲がりくチンドン屋★★★

●多田有花
あのころの歌が流れる新樹光★★★★
六月の光に白し屋根瓦★★★
午後の雨梅雨の気配を連れて来る★★★

●桑本栄太郎
<高槻平野>
トンネルを抜けて青葉の天王山★★★
枇杷の実のどこか鄙びて熟しけり★★★
もんぺ穿き植田の隅の補植かな★★★★

●小西 宏
十薬の崖深きより水の音★★★★
初夏の塩辛蜻蛉水を行く★★★
銀杏樹の高き緑や梅雨近し★★★

●黒谷光子
かたまって咲けば華やぐ姫女苑★★★
生花にも供花にも遠く姫女苑★★★
新緑の色もさまざま森歩く★★★★

6月2日

●小口泰與
D五一の蒸気たくまし夏木立★★★★
日本でもっとも量産され、主に貨物列車として活躍した蒸気機関車のD五一。力強く貨車をひく姿は多くの日本人の目に焼き付いている。蒸気機関車の時代は終わったが、観光用に残された区間があるのだろう。夏木立に蒸気を吐いて進むD五一を目にして、新たにその勇姿に目を奪われた。(高橋正子)

新緑や絵画たしなむ友の居て★★★
桐咲くや奇岩妙義の佇まい★★★

●河野啓一
風薫る母娘連れ立ち買い物に★★★★
新緑の山路小さき瀬音して★★★
バラの花はや木漏れ日の下となり★★★

●桑本栄太郎
<京都四条大橋界隈>
葉柳や川端通りという風に★★★
彫りふかき僧のひとりや夏の橋★★★★
老犬の舌の長さや夏日さす★★★

●小西 宏
醜草の地に蟻動く朝の道★★★
刻々と暑の積もりくる昼の靄★★★
丘越えて辿り来る音初花火★★★★

6月1日

●小口泰與
茄子苗や雨をたくわう里の畑★★★
桷咲くや八千穂の里の駒出池★★★
桷(ずみ)の花散りて魚のライズかな★★★★

●多田有花
夏の朝森の静けさを歩く★★★
六月の風部屋に入れ本を読む★★★
端はまだくるりと巻いて浮葉かな★★★★
蓮や睡蓮の浮葉は初めは葉の端がまだ巻いている。ものの初めの新鮮さと面白さがある。(高橋正子)

●桑本栄太郎
<京都市内へ>
緑蔭の車中となりぬ阪急線★★★
釣り人の湾処(わんど)をかこむ日傘かな★★★★
緑蔭のせせらぎ光る高瀬川★★★

●佃 康水
水鏡して田植機の音弾む★★★★
畦川に足掛け洗う早苗箱★★★
早苗田に母屋どっしり映さるる★★★★
母屋の傍から田が広がる。田植えが済んだ田には、早苗の影ばかりではなく、母屋のどっしりと建物が映っている。田植えの後の安堵と、秋の実りが約束されている明るさがある。(高橋正子)

◆今日の秀句/5月21日~31日◆

◆今日の秀句◆

[5月31日]
★朝顔の種植え鉢に朝の水/小西 宏
「朝の水」で句に詩情がでた。朝顔の種を植えれば、その後は水やりが日課となる。夕方ではなく、朝のすずやかな水をもらって朝顔も、すぐにも芽が出そうだ。(高橋正子)

[5月30日]
★トントンと葱切る音や夏に入る/井上治代
夏に入ると、まず衣服が軽くなる。部屋も窓が開けられ、風が通るように、日差しも一段とあかるくなって、快活な気分が漂う。まな板で葱を刻む音もトントンと軽やかに弾んでくる。季節が進み夏が来たうれしさが湧く。(高橋正子)

[5月29日]
★玉ねぎの抜きしにおいも持ち帰る/祝恵子
梅雨入り前の、まださわやかな風が吹くころ、新玉ねぎが収穫できる。畑から抜き取るとき、玉ねぎ独特の匂いがするが、その匂いまでもが、収穫のよろこびとなる。(高橋正子)

[5月28日]
★風薫る朝のテラスやミントティー/河野啓一
風薫る朝のさわやかさをテラスで飲むミントティーが象徴している。庭でとれたミントを紅茶に浮かべて飲む至福のお洒落なひとときだ。(高橋正子)

[5月27日]
★玉葱を引く葉の倒る一つから/黒谷光子
玉葱は抜いて見てはじめて大きさが解るのだが、抜いて小さかったからといって植えなおすわけにはいかない。葉の養分が根に移り、根を太らせて倒れる。今年の玉葱を初めて抜くときのちょっとした期待感がいい。(高橋正子)

[5月26日]
★蕗を剥く香り厨に収まらず/黒谷光子
蕗は皮を剥くと独特の香りするが、料理をする台所だけではなく、ほかの部屋までも匂ってくる。生気溢れる蕗の匂いに、初夏という季節が強く印象づけられる。(高橋正子)

[5月25日/2句]
★万緑や大き玻璃戸の美術館/佃 康水
美術館に大きなガラス戸がはめられ周辺の緑がそっくり見えるように設計されている。それがそのまま美術的でもあるが、展示の美術品をひろやかな気持ちになって鑑賞できることもうれしいものだ。(高橋正子)

★そらまめのふつくら炊けて釜の飯/桑本栄太郎
「釜の飯」に家庭のあたたかさが読める。ふっくらと炊けたそらまめご飯は素朴で季節のたのしみなご飯だ。(高橋正子)

[5月24日]
★晴れて今日裸足の季節始まりぬ/多田有花
裸足が気持ちがよいのは少し暑さが加わった晴れた日。今日はちょうどそんな日なので、裸足ですごすことに。「晴れて」裸足の季節が始まるという当たり前のようだが、そこに意外性がある。(高橋正子)

[5月23日]
★青空に溶けることなき青葉の線/川名ますみ
青は多くの色合いを含む。青空の青、葉や草の青など。青空と青葉とは、連なるような色だが、それが截然として空と青葉の間に線が引かれる。はやり、盛り上がるような青葉の勢いのせいであろう。(高橋正子)

[5月22日]
★獅子の舞うそろそろ田水張らる頃/祝恵子
この句の獅子舞は、田植えの始まる前に豊作を願って舞う獅子舞だろう。その獅子舞がくると田水が張られ田植えの準備が始まる。わくわくした気持ちにもなる。故郷の田植えを思いだされたのだろう。(高橋正子)

[5月21日]
★菜の色も海の香もあり冷やしソバ/小西 宏
冷やしソバに、畑の菜もあれば、海の香りのするものも載せてある。海の香りで一度に夏が来た。それを引き立てるのが菜の色だ。涼しさを誘う冷やしソバだ。(高橋正子)

5月27日-31日

5月31日

●小口泰與
赤城より朝の薫風鳥の声★★★★
咲き充ちて白ばらの花よごれたり★★★
百本のばら咲く庭のあかりかな★★★

●迫田和代
土手道の新樹浮かべて河流れ★★★
薄暑の日若い娘(こ)の足綺麗だな★★★
ざあざあと窓うつ雨や梅雨近し★★★

●小西 宏
朝顔の種植え鉢に朝の水★★★★
「朝の水」で句に詩情がでた。朝顔の種を植えれば、その後は水やりが日課となる。夕方ではなく、朝のすずやかな水をもらって朝顔も、すぐにも芽が出そうだ。(高橋正子)

梅の実の膨らむ深き葉の影に★★★
窓という窓開け放ち五月風★★★

●多田有花
風きって自転車降り来る夏の坂★★★
遠く近く森に満ちたり不如帰★★★★
本を読みそのまま昼寝となりにけり★★★

●河野啓一
オリーブの花影白き瀬戸の島★★★★
網戸入れ吹き過ぐ風の心地よさ★★★
マンションの横にも田水引かれたる★★★

●桑本栄太郎
金糸梅かぜの行方の定まらず★★★
天車(標準語:肩車)されて散歩や五月尽★★★
こんもりと古墳の森の青葉かな★★★★

●古田敬二
ジャガイモの畝をはみ出るみのりかな★★★★
ジャガイモが収穫時期を迎えた。太り具合を見にゆけば、畝をはみ出てみずみずしいジャガイモが見える。予想以上の出来に、またそのみずみずしさに嬉しさが湧く。(高橋正子)

土掘ればごつごつジャガイモ当たり来る★★★
畝作る遠くにヨシキリ今日も鳴く★★★

5月30日

●小口泰與
たかむらの闇や一声夏きぎす★★★★
海芋咲き朝の冷気は赤城から★★★
葉がくれのからももの実や雨の中★★★

●河野啓一
薄荷あめ含めば口に若葉風★★★★
そよ風やマーガレットは揺れもせず★★★
路の辺に茂る葉桜陽のひかり★★★

●小川和子
日傘さし小径に入れば花柘榴★★★★
風来るざわめきを乗せ夏落葉★★★
青葉風子らは造れり砂の城★★★

●多田有花
つとよぎる影見上げれば黒揚羽★★★
咲きのぼる構え大きく立葵★★★★
バンダナを結ぶうなじに夏の日差し★★★

●桑本栄太郎
乙訓の里に風吹き柿の花★★★★
青蘆の遮る丈のあおりけり★★★
降るものの舗道散りばめ緑蔭に★★★

●井上治代
トントンと葱切る音や夏に入る★★★★
夏に入ると、まず衣服が軽くなる。部屋も窓が開けられ、風が通るように、日差しも一段とあかるくなって、快活な気分が漂う。まな板で葱を刻む音もトントンと軽やかに弾んでくる。季節が進み夏が来たうれしさが湧く。(高橋正子)

憎きまで畑の中に草茂る★★★
夏霧や里の街灯ぽつねんと★★★

●川名ますみ
迷い来て寺に泰山木の花★★★★
道に迷いようやくたどり着いた寺に、泰山木の大きな白い花が咲いていた。おおらかな、白い花に予期せず迎えられ、うっすらかいた汗もひく思いで、感激も一入だっただろう。予期せぬ花に出会う喜びは大きい。(高橋正子)

梢まで赤咲きのぼる立葵★★★
白き一花迷いし道に泰山木★★★

5月29日

●小口泰與
風薫る朝日をあびし赤城山★★★
黄ばらや通園バスのえんじ達★★★★
たかぶれる噴水空を破りけり★★★

●祝恵子
ルピナスの色とりどりの風をうけ★★★
新緑の森に清しい光あり★★★
艦艇のプラモも走る夏の池★★★★

●古田敬二
葉の影を映して実梅丸丸と★★★★
枝先へうばらの花の咲き上る★★★
のうばらの最後の一花枝先に★★★

●桑本栄太郎
野蒜咲く風の田道の散歩かな★★★
蕗束ねバケツに売らる無人店(だな)★★★★
蚕豆の莢の空向き実りけり★★★

●多田有花
緑陰の途切れるところ頂に★★★★
山の登り始めは木々が茂りあう道から始まる。体も緑に染まりそうなくらいの緑陰となって、延々と道は続くのだが、その緑陰がとぎれるところに出た。そこが頂上だったわけで、頂上を目指すというのではなく、登り至れば頂上だった、というのがさっぱりしている。(高橋正子)

揚羽蝶森の奥より飛び来る★★★
すれ違う人にオーデコロンの香★★★

●高橋秀之
沖合に停泊する船夏日差し★★★★
夏と言えば太陽にかがやく海。沖合に停泊する船が夏の日差しに浮かんでいる。それが夏をいち早く感じさせる景色なのだ。(高橋正子)

紫陽花に当たる朝日と水飛沫★★★
月曜の朝紫陽花の色を見る★★★

●小西 宏
卯の花の垣根に咲ける親しきこと★★★★
梔子の白にあらざる白静か★★★
毒痛みの花泉水の近くあり★★★

●黒谷光子
万歩計つけて今日より夏帽子★★★★
一万歩目指し五月の池巡る★★★
黄菖蒲の池の周りのあちこちに★★★

5月28日

●小口泰與
咲ききって風の中なる庭のばら★★★★
ほろほろと散りし紅ばら香りおり★★★
浴衣着てすずろに歩む繁華街★★★

●河野啓一
風薫る朝のテラスやミントティー★★★★
風薫る朝のさわやかさをテラスで飲むミントティーが象徴している。庭でとれたミントを紅茶に浮かべて飲む至福のお洒落なひとときだ。(高橋正子)
 
薫風やグランドの芝撫でゆきて★★★
屋根裏の空蝉思わる去年の夏★★★

●多田有花
バンダナで額の汗を抑え歩く★★★★
木漏れ日の中渡り来る夏の風★★★
長く長く鳴く夏の鶯★★★

●桑本栄太郎
だれも居ぬ花壇の彩の紫蘭かな★★★
昼顔や彷徨う畦を彩と為し★★★
じゃがいもの花に望郷つのりけり★★★★

●小西 宏
園児バス待つマンションの赤いバラ★★★★
木陰より出でて青野の蛇いちご★★★
蚕豆のよき顔立ちを青く噛む★★★

●祝恵子
玉ねぎの抜きしにおいも持ち帰る★★★★
梅雨入り前の、まださわやかな風が吹くころ、新玉ねぎが収穫できる。畑から抜き取るとき、玉ねぎ独特の匂いがするが、その匂いまでもが、収穫のよろこびとなる。(高橋正子)

水面のバラ花びら少しづつ離なる★★★
すっきりと色花立ちて薄暑なり★★★

●黒谷光子
竹落葉踏み雑木山仏花切る★★★★
供花とする夏菊を買う道の駅★★★
供花はみな新しくして堂涼し★★★

5月27日

●小口泰與
鉄線花赤城の風となりにけり★★★
ばら咲くや色とりどりの登校児★★★★
浅間より絶えず雲出づ蟻の穴★★★

●河野啓一
紫陽花の白き蕾の数かぞえ★★★
あめ玉を口に含みて新緑へ★★★★
房咲きのバラ小さくて賑やかに★★★

●多田有花
幼虫の懸垂下降夏めく森★★★
鋏手に薔薇を切らんと男立つ★★★★
音のみが青葉のなかを流れゆく★★★

●桑本栄太郎
桑の実や遠き日となる母のこと★★★★
桑の実を今の子供たちは食べないだろうが、昔の子供は桑の実の甘さを喜んだ。母の記憶と桑の実を食べた記憶が重なる。それらが「遠き日」となることにさみしさもあるが、思い出す幸せもある。(高橋正子)

姫女苑風の行方を示しけり★★★
山影の映る植田や昏れゆきぬ★★★

●黒谷光子
玉葱を引く葉の倒る一つから★★★★
玉葱は抜いて見てはじめて大きさが解るのだが、抜いて小さかったからといって植えなおすわけにはいかない。葉の養分が根に移り、根を太らせて倒れる。今年の玉葱を初めて抜くときのちょっとした期待感がいい。(高橋正子)

莢豌豆山ほど採れて日本晴れ★★★
夏薊群れ咲き土手の華やげる★★★

●小西 宏
紫陽花の色づき初むる陽の五月★★★★
毒痛みの花群れ咲いて人恋し★★★
睡蓮の花閉じ眠る午後の水辺★★★

5月24日-26日

5月26日

●小口泰與
産土の利根をそびらに花胡桃★★★★
夕暮れの雀騒(ぞめ)くや麦扱機★★★
湖の波染む夕焼けのにぎにぎし★★★

●黒谷光子
蕗を剥く香り厨に収まらず★★★★
蕗は皮を剥くと独特の香りするが、料理をする台所だけではなく、ほかの部屋までも匂ってくる。生気溢れる蕗の匂いに、初夏という季節が強く印象づけられる。(高橋正子)

伽羅蕗を煮詰め色濃し夕厨★★★
菜園の苺の形まちまちに★★★

●多田有花
風薫る堂島川の遊覧船★★★★
水の音親しく聞きし街薄暑★★★
仰ぎ見る高層ビルや天清和★★★

●桑本栄太郎
姫女苑風の行方を示しつつ★★★
桑の実や巨木となりて青空に★★★★
金糸梅部活の子等の下校どき★★★

●小西 宏
夏蝶に魅かれ山葵の沢に入る★★★★
涼しそうな夏蝶の魅力に導かれるように進むと山葵沢に入った。蝶はここへ案内したかったのかとさえ思う。涼しい心境の句。(高橋正子)

初夏の風みどりなる箱根路★★★
青葉影し土匂いする湿り道★★★

●古田敬二
一音階下げて応える牛蛙★★★
若葉風昔バンカラ下駄の街★★★★
玉ねぎを吊るせば香る薄闇に★★★

5月25日

●小口泰與
日照雨去り木々の匂いの聖五月★★★★
夕暮れや浅間を側む二重虹★★★
桐咲くや奇岩聳ゆる妙義山★★★

●佃 康水
万緑や大き玻璃戸の美術館★★★★
美術館に大きなガラス戸がはめられ周辺の緑がそっくり見えるように設計されている。それがそのまま美術的でもあるが、展示の美術品をひろやかな気持ちになって鑑賞できることもうれしいものだ。(高橋正子)

黄菖蒲の根方へ山の水滲む★★★
夕暮れの雲へあわあわ花楝★★★

●桑本栄太郎
あおぞらの窓の額絵や青嵐★★★
ハンガーに晒し掛けおり更衣★★★

そらまめのふつくら炊けて釜の飯★★★★
「釜の飯」に家庭のあたたかさが読める。ふっくらと炊けたそらまめご飯は素朴で季節のたのしみなご飯だ。(高橋正子)

●河野啓一
辿りきて峠越えれば海の青★★★★
アマリリスビロード赤の逞しき★★★
夏場所も果てて熱気の静まりぬ★★★

●小西 宏
十薬の野に置かれざる高貴かな★★★
縁台に休み天城の冷抹茶★★★
谷間(たにあい)の水に早苗の影淡し★★★★

●川名ますみ
青き葉に包まれ紫陽花の莟む★★★
紫陽花の莟めば白のやさしさに★★★★
山法師樹下に次々ランチを広げ★★★

5月24日

●迫田和代
新緑に囲まれている森の奥★★★
初夏になり」木陰もいいし風もいい★★★
流れゆく水音までも初夏の音★★★★

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)に雨そそぎけり柿の花★★★
老鶯の山ふところに鳴きそそり★★★
昇り藤谷川岳の聳てり★★★★

●桑本栄太郎
ひつそりと葉蔭に青く柿の花★★★
さみどりの早もあじさいつぼみけり★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
晴れて今日裸足の季節始まりぬ★★★★
裸足が気持ちがよいのは少し暑さが加わった晴れた日。今日はちょうどそんな日なので、裸足ですごすことに。「晴れて」裸足の季節が始まるという当たり前のようだが、そこに意外性がある。(高橋正子)

少女らの自転車薫風を駆ける★★★
繰り返し森の奥よりほととぎす★★★

●黒谷光子
隣村へどの道行くも姫女苑★★★★
隣村へは、自転車に乗ったり、すぐ近ければ歩いてゆくこともあるのだろう。隣村へ行く道がいろいろあるが、どの道をとっても姫女苑が揺れている。やさしい花の咲くさわやかな道はうれしい。(高橋正子)

堂裏の射干知らぬ間に咲き終わり★★★
蕗を剥き暫く残る手の香り★★★

◆今日の秀句/5月11日~20日◆

◆今日の秀句◆

[5月20日]
★黄牡丹のすなおに散って重なりぬ/小口泰與
「牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片/蕪村」の句にあるように、牡丹は散って花弁を重ねることが多い。この句の黄牡丹は牡丹らしくない色と言える。それがさりげなく、すなおに散って、やはり、どの牡丹とも同じように花弁を重ねている。(高橋正子)

[5月19日]
★郭公や牧草ロールおちこちに/小口泰與
心地よい夏の牧場の風景。郭公が鳴き、牧草ロールが遠く、近くに点在する。よい時間が流れている。(高橋正子)

[5月18日]
★万緑の山懐の葉ずれかな/小口泰與
万緑の山を外から眺めるのではなく、その懐に入ると緑の木々の葉ずれがさわさわと鳴り、自分を大きく包んでくれる。山懐に抱かれたとき、自然の大きさ深さが思われる。(高橋正子)

[5月17日]
★風吹けば若葉の影も柔らかに/古田敬二
風が吹かなければ、若葉の影はどっしりとしているが、風が吹くと風もそよぎ、柔らかな影となる。柔らかな影は見ていて安らぐ。(高橋正子)

[5月16日]
★朝の陽に滴る森よ時鳥/小西 宏
朝の陽が差す森はよく茂り、まだ濡れいている。輝いている。そこへ時鳥の声が聞こえる。麗しい初夏の森だ。(高橋正子)

[5月15日]
★梅の実のまだ小さきに紅を置く/小西 宏
梅の実がだんだんと太ってきた。まだ小さい実であるけれどほのかに紅色になっている箇所がある。小さいながら収穫ときの梅の様子を見せているのも驚き。(高橋正子)

[5月14日]
★楠若葉並木一筋通学路/河野啓一
楠の若葉は盛り上がるように樹を覆う。その若葉が連なり重なる並木を通学する児童や生徒は健康的だ。(高橋正子)

[5月13日]
★山水を集め寺裏菖蒲咲く/佃 康水
背後に山を控えている寺は結構多い。山から湧き流れる水を池などに集めて菖蒲を咲かせている。山水と菖蒲の取り合わせが清冽な趣だ。(高橋正子)

[5月12日]
★とめどなく小石湧きあぐ清水かな/小口泰與
清水が湧きあがる、涼しくきよらかな情景がよい。砂ではなく、小石が湧きあがることで、清水の湧く勢いが見える。(高橋正子)

[5月11日]
★石楠花の中抜け高野山を降りる/多田有花
低地では石楠花の花は終わっているが、高野山では今、石楠花が盛りのようだ。高野山に参詣して、気持ちもすっきりとしたところで、山気漂う中、石楠花の道を下りた。(高橋正子)

5月21日-23日

5月24日

●迫田和代
新緑に囲まれている森の奥★★★
初夏になり」木陰もいいし風もいい★★★
流れゆく水音までも初夏の音★★★★

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)に雨そそぎけり柿の花★★★
老鶯の山ふところに鳴きそそり★★★
昇り藤谷川岳の聳てり★★★★

●桑本栄太郎
ひつそりと葉蔭に青く柿の花★★★
さみどりの早もあじさいつぼみけり★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
晴れて今日裸足の季節始まりぬ★★★★
裸足が気持ちがよいのは少し暑さが加わった晴れた日。今日はちょうどそんな日なので、裸足ですごすことに。「晴れて」裸足の季節が始まるという当たり前のようだが、そこに意外性がある。(高橋正子)

少女らの自転車薫風を駆ける★★★
繰り返し森の奥よりほととぎす★★★

●黒谷光子
隣村へどの道行くも姫女苑★★★★
隣村へは、自転車に乗ったり、すぐ近ければ歩いてゆくこともあるのだろう。隣村へ行く道がいろいろあるが、どの道をとっても姫女苑が揺れている。やさしい花の咲くさわやかな道はうれしい。(高橋正子)

堂裏の射干知らぬ間に咲き終わり★★★
蕗を剥き暫く残る手の香り★★★

5月23日

●小口泰與
柿若葉野川の水のきらきらと★★★★
柿若葉が美しい色を見せるころ、陽は明るく輝き、野川はきらめきながら、そうそうとと流れる。日本のいい風景だ。(高橋正子)

白めだか身をそぐようにたまご産み★★★
雨後の朝そこはかと匂う牡丹かな★★★

●佃 康水
じゃがたらの花段畑に揺れ揃う★★★★
大蘇鉄朽ちし幹より青葉出づ★★★
夏めくや帆を張り替える浜漁師★★★

●河野啓一
万緑や友の便りの嬉しくて★★★
さわさわと鳴りて新樹は日を反し★★★★
池の面に遠き浮草夕まぐれ★★★

●桑本栄太郎
さらさらと白き葉裏や新樹冷ゆ★★★
すかんぽの穂に夕日さす丘の上★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
短夜や朝日が部屋の奥深く★★★
淡路島青葉若葉のその向こう★★★★
きな粉かけヨーグルトかけバナナ食ぶ★★★

●川名ますみ
青空に溶けることなき青葉の線★★★★
青は多くの色合いを含む。青空の青、葉や草の青など。青空と青葉とは、連なるような色だが、それが截然として空と青葉の間に線が引かれる。はやり、盛り上がるような青葉の勢いのせいであろう。(高橋正子)

青天と青葉きりりと画されし★★★
泰山木大きくそちこちに花★★★

5月22日

●小口泰與
朝日受けきわやかなりし柿若葉★★★
石楠花や鳥語人語とあふれおり★★★★
山雨来て野良猫急きし麦の波★★★

●小川和子
バギー押す子と連れ立てる薔薇の昼★★★★
バギーにみどり児を乗せて押していくわが子と連れだって薔薇の咲く昼の道を歩く。なにもかもが幸せに繋がる。(高橋正子)

バギーの児薫風の中眩しげに★★★
ふくいくと薔薇薫りくる聖五月★★★

●祝恵子
獅子の舞うそろそろ田水張らる頃★★★★
この句の獅子舞は、田植えの始まる前に豊作を願って舞う獅子舞だろう。その獅子舞がくると田水が張られ田植えの準備が始まる。わくわくした気持ちにもなる。故郷の田植えを思いだされたのだろう。(高橋正子)

とりどりの花はフエンスにばらは咲く★★★
鉢に添え木夏の野菜の育ちゆく★★★

●桑本栄太郎
実となりし楓若葉の緋色かな★★★
歩みゆく歩道いろどり青嵐★★★★
虫食いの葉裏にありぬ柿の花★★★

●多田有花
夏浅き光のあふれ森の道★★★
寺へいく道をきかれし薄暑かな★★★★
紬着て白日傘ゆく昼下がり★★★

●河野啓一
若葉風高窓開けて招き入れ★★★★
水玉を光らせ若葉照り映える★★★
アマリリス窓辺の風をひとり占め★★★

●小西 宏
初雷の去ればたちまち青い空★★★★
若葉より光漏れくる雨上がり★★★
雷雲の夕日に照るを見ておりぬ★★★

●黒谷光子
濃く薄く森は緑を競い合う★★★
揺れるともなく揺れ池に蓮浮葉★★★
初夏の池廻るそれぞれの歩幅★★★★(信之添削)
初夏の池は心地よい風が吹き、その池を連れだって巡るにも、思い思いに、それぞれの歩幅でめぐる。それぞれが池畔を楽しむ。初夏のさわやかさがあればこそ。(高橋正子)

●高橋秀之
真ん中の牡丹の花は大きくて★★★★
花びらに雨のしずくが白牡丹★★★
歩を進め止まって歩む牡丹園★★★

5月21日

●小口泰與
速やかに溶岩(ラバ)色蜥蜴溶岩を越ゆ★★★★
蜥蜴の動きは滑るように「速やかに」だ。溶岩に入れば溶岩の色になり溶岩を越える。動かねば見付けにくいが、その動きも速い。それをよく捉えた。(高橋正子)

有史より続く火の山麦の秋★★★
草肥や背戸の流れの急(せ)かれしよ★★★

●河野啓一
若楓谷間を埋めて箕面山★★★★
雨上がり水も滴る夏セーター★★★
更衣袖吹き抜ける風さやか★★★

●祝恵子
池の花アイリスの黄をしばし見る★★★
無人店引き返して買う夏の花★★★★
駅出れば催促賑やか子の燕★★★

●多田有花
高らかに森に響きしほととぎす★★★
波白く砕けて沖は初夏の青★★★★
五月の雨あがれば伸びし草の丈★★★

●桑本栄太郎
降り来れば筍流しと想いけり★★★
若楓ゆらぐ葉影の網目かな★★★
杭たどり風にあらがう糸とんぼ★★★★

●小西 宏
菜の色も海の香もあり冷やしソバ★★★★
冷やしソバに、畑の菜もあれば、海の香りのするものも載せてある。海の香りで一度に夏が来た。それを引き立てるのが菜の色だ。涼しさを誘う冷やしソバだ。(高橋正子)

日の影に野良猫眠るバラの花★★★
睡蓮に波少し寄せ鯉の鰭★★★

5月17日-20日

5月20日

●小口泰與
黄牡丹のすなおに散って重なりぬ★★★★
「牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片/蕪村」の句にあるように、牡丹は散って花弁を重ねることが多い。この句の黄牡丹は牡丹らしくない色と言える。それがさりげなく、すなおに散って、やはり、どの牡丹とも同じように花弁を重ねている。(高橋正子)

かるの子や畦の醜草もこもこと★★★
雨さんざすべなき吾の浴衣かな★★★

●河野啓一
夏潮の色あざやかに福江島★★★★
水しぶき子ら次々と夏の川★★★
芝庭に紅い花植え夏舘★★★

●黒谷光子
葉桜を透く陽のきらら水音す★★★★
アイリスの紫溢る畑の隅★★★
アイリスを切り持ち帰る一抱え★★★

●桑本栄太郎
櫟より風に垂れいる毛虫かな★★★
姫女苑の風に抗いむらさきに★★★
蚕豆のコンとボウルに豆をむく★★★★

●小西 宏
動く虫咥えて忙し親燕★★★
紫陽花の花芽の緑雨を待つ★★★
羅(うすもの)やざんばら髪の勝ち名乗り★★★

●古田敬二
万歩計鳴らして歩く若葉風★★★
鍬降れば根を切る音の心地好し★★★
亡き犬の走りし森の若葉風★★★★

5月19日

●小口泰與
郭公や牧草ロールおちこちに★★★★
心地よい夏の牧場の風景。郭公が鳴き、牧草ロールが遠く、近くに点在する。よい時間が流れている。(高橋正子)

単線の線路真直ぐ桐の花★★★
沢蟹や棚田をかけるやわき風★★★

●河野啓一
鳥声も愉し青空バラの苑★★★★
木漏れ日を浴びて耀く赤いバラ★★★
夕べ来て新樹は風にざわめきぬ★★★

●多田有花
谷空木咲く道たどり登山口★★★★
新緑に肺まで染まりぶなの森★★★
樹間よりはるかに五月の日本海★★★

●桑本栄太郎
<大蛇ヶ池公園>
海桐咲く池の木蔭や風の闇★★★
睡蓮の池畔の中に広げ居り★★★
青蘆の吾をいざなう葉風かな★★★

●小西 宏
香に触れて丘にゆたかな樫の花★★★
葉桜の空に眩しき下り坂★★★★
夕暮の風に汗引く散歩道★★★

●古田敬二
どの家も好きな色あり薔薇盛ん★★★★
今年は四月の気温が低く、いろんな種類の薔薇が一度に咲きだした。薔薇を咲かせている家々を見れば、その家好みの色がある。白が好きな家もあれば、ピンクが好きな家もある。また、赤や黄やと。そういう色が合わさって、「薔薇盛ん」なのだ。(高橋正子)

柏餅二つに割りやる妻がいる★★★
歯科医院出て薫風の中大股に★★★

5月18日

●小口泰與
万緑の山懐の葉ずれかな★★★★
万緑の山を外から眺めるのではなく、その懐に入ると緑の木々の葉ずれがさわさわと鳴り、自分を大きく包んでくれる。山懐に抱かれたとき、自然の大きさ深さが思われる。(高橋正子)

水はじく水車や池の糸とんぼ★★★
友釣りの鮎の長竿空をきり★★★

●黒谷光子
空晴れてくっきり伊吹の登山道★★★★
山も野も晴れて緑の色競う★★★
玉葱を引く一本の匂いくる★★★

●河野啓一
立ち止り鳥声聞けば木下闇★★★★
立ち止まって鳥の声に耳を傾けていると、そこは木下闇であることに気づく。涼しい木下と鳥の声が快い。(高橋正子)

ひと休み佇む頃や木下闇★★★
若葉大きくなりて西日受け★★★

●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランドへ>
薫風の空へと走るモノレール★★★★
白波の岸壁つたう卯浪かな★★★
新緑や埋め立て六甲アイランド★★★

●小西 宏
柔らかき若葉はカツラ明るい風★★★★
カツラの若葉はひときわ柔らかく、明るい。カツラは黄葉もほかの黄葉に比べ一段と明るいので、カツラの特性として、若葉のあかるさ、柔らかさが頷ける。(高橋正子)

青草に水の流れの聞こえ来る★★★
ママもぼくも五月の芝に初安打★★★

5月17日

●小口泰與
鯉の泥吐かせし小川若楓★★★
榛名嶺に朝日射しけり桜の実★★★★
浮石に飛び乗る吾や山女釣★★★

●迫田和代
ドーム見え新緑見えて川流れ★★★★
高層の窓からの眺め。ドームの丸い屋根が見え、新緑が見え、そして川が流れている。この景色は具体的には広島の原爆ドーム、平和公園の新緑、元安川の流れだが、戦禍を覆い隠して静かな季節である。(高橋正子)

薄暑の日木陰もいいし水もいい★★★
すぐそばに車椅子あり更衣★★★

●桑本栄太郎
花槐ゆらし吹きおり雨の風★★★★
神苑の杜の深きやいかる鳴く★★★
せせらぎに沿いて歩めば山法師★★★

●河野啓一
しゃがの花白くひっそり瀬のほとり★★★
囀りを空にちりばめ今朝の風★★★★
朝顔の苗植え竹を立ててやり★★★

●古田敬二
緑陰に入れば優しき心地なる★★★
句会終え緑陰優しき道帰る★★★

風吹けば若葉の影も柔らか★★★★
風が吹かなければ、若葉の影はどっしりとしているが、風が吹くと風もそよぎ、柔らかな影となる。柔らかな影は見ていて安らぐ。(高橋正子)

●小西 宏
そよ風に葉裏やさしく桜の実★★★★
老農の畑に雛罌粟ほそき揺れ★★★
木漏れ日に鳥聞こえ来て初夏の涼★★★

5月14日~16日

5月16日

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)へしるべ辿りし時鳥★★★
桐の花しるき赤城の彫り深し★★★
牡丹散る清(すが)しき庭の風の道★★★★

●河野啓一
昼下がり揚羽が今日もやって来る★★★★
ヤタ鴉万緑の中ブラジルへ★★★
ヤタ鴉高く舞えよと柿若葉★★★

●桑本栄太郎
つまみ見るだけでは足らず桜の実★★★
竹皮を脱ぐやみどりの腰の丈★★★
ほろほろと雨降る茅花流しかな★★★★

●黒谷光子
夏の旅戒壇めぐりの真暗がり★★★
古刹へと登る石段緑濃き★★★
新緑の山あいを抜け美濃の旅★★★★

●多田有花
昼の陽を真白く返し手毬花★★★
はつ夏の満月雨あがりの空へ★★★★
筍を荷台に載せし軽トラック★★★

●小西 宏
朝の陽に滴る森よ時鳥★★★★
朝の陽が差す森はよく茂り、まだ濡れいている。輝いている。そこへ時鳥の声が聞こえる。麗しい初夏の森だ。(高橋正子)

水輝く五月の風の楓花★★★
三連の蝶舞い昇る花蜜柑★★★

5月15日

●小口泰與
掘り深き赤城や田畑夏浅し★★★★
笹音に振り向く吾や岩魚釣★★★
梅の実の路地一面を奪いけり★★★

●桑本栄太郎
若葉山つづく車窓の阪急線★★★★
槐咲く並木通りの風の闇★★★
黄菖蒲やルアーを手繰る池の畔★★★

●小西 宏
石楠花の身に影深し朝の雨★★★
雨の輪や子を失いし通し鴨★★★

梅の実のまだ小さきに紅を置く★★★★
梅の実がだんだんと太ってきた。まだ小さい実であるけれどほのかに紅色になっている箇所がある。小さいながら収穫ときの梅の様子を見せているのも驚き。(高橋正子)

●古田敬二
句会なる餡透き通るわらび餅★★★
森に座す若葉の陰に撫でられて★★★
紅秘めて薔薇は咲きかけ美しき★★★★

5月14日

●小口泰與
しるき斑を反転せしや山女釣★★★★
釣糸にからまる鰻へびの如★★★
夏蝉や乳を欲しいと泣く赤子★★★

●河野啓一
年毎に赤く咲き出すアマリリス★★★
カーネーションギフトはそっと土に埋め★★★

楠若葉並木一筋通学路★★★★
楠の若葉は盛り上がるように樹を覆う。その若葉が連なり重なる並木を通学する児童や生徒は健康的だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
ひかえめと云う華やぎや花卯木★★★
医科大の樟の大樹や聖五月★★★★
茉莉花の雨の予報に匂いけり★★★

●黒谷光子
夏野菜二人がかりに植え終える★★★★
水を遣り紫紺あざやか茄子の苗★★★
風除けの上から覗く茄子の苗★★★

●小西 宏
風渉る緑に若き桜の実★★★★
クローバーの花咲き満てる広さかな★★★
金柑の花のぞき咲く竹垣に★★★

5月11日~13日

5月13日

●小口泰與
頭から喰らいつきたる香魚かな★★★
あかあかと浅間を刷きし夕焼けよ★★★★
身ごもりし目高や居間のひとところ★★★

●古田敬二
うすみどりアカシア揺れて不器男の句★★★
薔薇の門咲きかけという美しさ★★★
緑陰という優しきものに潜りゆく★★★

●黒谷光子
城跡の麓の村も夏かすむ★★★
その上の城下を覆う夏霞★★★
夏霞棚引く裾野古戦場★★★★

●多田有花
城下町見下ろし若葉の風の中★★★★
雨に濡れ道の辺のジャーマンアイリス★★★
雨あがる森に響きし夏鶯★★★

●桑本栄太郎
咲くものは咲いて実となる風五月★★★★
五月のさわやかな風に吹かれる葉の蔭には、実がなっているのに気付く。桜の実もそうであるし、
梅や李、柿なども実となっている。うなずかされる。風五月が句に詩情を与えた。(高橋正子)

鴨川に川床の迫り出し整える★★★
大ぶりの葉の一畝や葱坊主★★★

●佃 康水
山水を集め寺裏菖蒲咲く★★★★
背後に山を控えている寺は結構多い。山から湧き流れる水を池などに集めて菖蒲を咲かせている。
山水と菖蒲の取り合わせが清冽な趣だ。(高橋正子)

河骨や大き葉裏を抜きん出で★★★
甘茶寺小花の鉢を賜りぬ★★★

●小西 宏
杜深く生きいる轟き青嵐★★★★
雨止んで梅の実一つ地に青し★★★
やわき黄のバラは零れるように咲き★★★

5月12日

●小口泰與
とめどなく小石湧きあぐ清水かな★★★★
清水が湧きあがる、涼しくきよらかな情景がよい。砂ではなく、小石が湧きあがることで、清水の湧く勢いが見える。(高橋正子)

夕映えを映す水田の緋鯉かな★★★
襲い来ししろがねの滝竜の如★★★

●桑本栄太郎
眼のまえの青き空揺れ窓若葉★★★★
堰堤の流れまぶしく夏は来ぬ★★★
青蘆の風をいざいなそよぎけり★★★

●黒谷光子
豌豆を採る間ときどき山を見て★★★★
たくさんの豌豆を採っているのだろう。手元ばかりを見て収穫するのではなく、ときどき新緑の山を眺めて見たりする。豌豆を収穫する時期は本当によい季節だ。(高橋正子)

手を洗う川のほとりの草茂る★★★
甘藷苗植えし夜更けの雨の音★★★

●小西 宏
バグパイプ木下に鳴らし牛蛙★★★
欅若葉うれしく枝を重くする★★★
泣く児背にアヤメ一列保育園★★★★

●古田敬二
高きよりキリンの見ている花吹雪★★★
抜け殻を背負いて速し天道虫★★★
風の道白くざわめく若葉山★★★★

5月11日

●小口泰與
ジーパンのしるき色なり夏野行く★★★
下闇や石碑に記す大津波★★★★
飛蚊症飛ぶや水別く岩つばめ★★★

●多田有花
石楠花の中抜け高野山を降りる★★★★
低地では石楠花の花は終わっているが、高野山では今、石楠花が盛りのようだ。高野山に参詣して、気持ちもすっきりとしたところで、山気漂う中、石楠花の道を下りた。(高橋正子)

はつ夏の海や小船を散りばめて★★★
薫風の高野山町石道★★★

●桑本栄太郎
生垣の坂道下る新茶かな★★★★
折り返すバスの田中や風薫る★★★
”かあさん”とつぶやきみたり母の日に★★★