6月17日-20日

6月20日

●小口泰與
五月雨や赤城の裾野たゆみなし★★★
水替えの目高を桶に通り雨★★★
山道をた走る水や雨蛙★★★★

●桑本栄太郎
蕊ふるえ未央柳の散り初めり★★★
緋の色の石榴の花に朝日かな★★★★
柘榴の花は、紅一点と詠まれただけに、万緑のなかで際立った色だ。それに朝日があたると、緋色ともなって、透き通るような鮮やか色だ。それを詠んだ。(高橋正子)

竹林の闇を風抜け朝涼し★★★

●高橋信之
早咲きの夾竹桃が学校に★★★★
キウイ棚しんとして風吹かぬ朝★★★
紅かんぞう少し離れた草叢に★★★

6月19日

●小口泰與
たのみなき草の生ゆるや青田波★★★
夕顔や浅間に夕日溜めており★★★★
道絶えし杣道の辺に連理草★★★

●桑本栄太郎
夏萩の白きこぼれや朝の路地★★★★
朱色濃き石榴の花に朝日かな★★★
泰山木の花に朽ち色出でにけり★★★

●小西 宏
夕暮に西空大き生ビール
【添削】夕暮の西空大き生ビール★★★★
暑かった日のおわりに飲む生ビールの美味しさは得難い。夕暮れの西の空もまだ明るくひろびろと広がって、解放感と明日へのささやかな希望を感じさせる。(高橋正子)

崖道の小暗に白き草清水★★★
尖る岩に小蟹潜める潮だまり★★★

●古田敬二
苗田静か吉野の山を逆さまに★★★★
【添削】植田静か吉野の山を逆さまに★★★★
「苗田」は、稲の苗を育てる田のことで、季節は春。稲の苗を植えたばかりの田は「植田」という。季節は夏。この句の情景は、吉野の山が逆さまに田面に映っているので、苗田ではなく植田が適切と思う。「吉野の山」がよく効いている。(高橋正子)

方丈の屋根から激し昼の梅雨★★★
白川の流れに触れて柳揺れ★★★

6月18日

●小口泰與
茄子苗や雨の力を溜むるなり★★★★
鮎釣りの辺をたもとおる釣人よ★★★
新築の家も映せし植田かな★★★

●河野啓一
道の駅新玉葱のあちこちに★★★★
島並を行けば広々夏の瀬戸★★★
松生うる浜の入日や詩碑ありて★★★

●祝恵子
道曲がれば西国街道梅雨曇り★★★
せせらぎへ矢印を指す祭り旗★★★
メダカ売る女学生の絵が可愛い★★★★(信之添削)

●多田有花
昼食を終えれば眠し梅雨曇★★★
灰色の守宮静かに壁の隅★★★
曇り空透かして蜘蛛の巣を張りぬ★★★★

●桑本栄太郎
蕊ふるえ未央柳や夕風に★★★
のうぜんの花の夕日に染まりけり★★★★
向日葵の早も標となりしかな★★★

6月17日

●小口泰與
上州の雷をたまわる過客かな★★★
たまゆらの瀬音を聞きし時鳥★★★★
玉の緒の薬にすがる大暑かな★★★

●小川和子
忽と来て縞の涼しき梅雨の蝶★★★
鈴懸の照る葉陰る葉みな青葉★★★
せせらぎに児ら飛沫上ぐ梅雨晴間★★★★

●桑本栄太郎
<四条大橋界隈>
沙羅の花落ちて決まりし建仁寺★★★★
茫洋とはるか鞍馬や夏の嶺★★★
鴨川の風の触れゆく川床座敷★★★

●多田有花
すべて田は植わりて空の色映す★★★★
どの田も植え終わり、田面の水は早苗を映し、空の色をあざやかに映している。日本画にもあるような光景だ。(高橋正子)

山路来てドリンクゼリーを流しこむ★★★
湯あがりの目に真白きは鴨足草★★★

●高橋秀之
風鈴の音が重なる商店街★★★★
商店街のあちこちの店先に風鈴を吊るして売っているのだろう。それらの風鈴の音が重なって、商店街に涼を醸している。(高橋正子)

大皿に四角が浮かぶ冷奴★★★
夏蝶の影が風呂場のすりガラス★★★

●小西 宏
蛍消え木の間の空に星見ゆる★★★★
蛍が飛ぶのは夕方。六時ごろから飛びはじめ八時か九時には消えている。蛍と交代するかのように木の間から星が一つ二つと見える。どちらも小さな、輝くものの明かり。(高橋正子)

子はすぐに大きくなりぬ花空木★★★
三浦より富士ある処梅雨の海★★★

6月14-16日

6月16日

●祝恵子
茅の輪くぐる吾らシルバー歩き会★★★★
家族それぞれの無病息災を願って茅の輪をくぐるのだけれど、歩き会のシルバー仲間も同じこと。老いを屈託なく受け止めてくぐる青い茅の輪も涼やかだ。(高橋正子)

金糸梅神宮の森はすぐそこに★★★
ホタルブクロ遠き思いを包み込む★★★

●小口泰與
鮎釣りの鮎の長竿競いけり★★★
噴煙の北にたふるる植田かな★★★★
玉の汗ぼうだとなりて目覚めけり★★★

●古田敬二
偽りのなき紫に茄子の花★★★
やわらかき棘持て胡瓜ぶら下がる★★★★
引き抜けばバリバリ音して夏の草★★★

●桑本栄太郎
水の無き石の流れや夏の川★★★
白壁の農家田中に青田かな★★★
一つずつ落ちて一途や沙羅の花★★★★

●高橋信之
紫陽花に午前六時の明るい朝★★★★
梅雨も一休みし、紫陽花に午前六時の朝日が差して花を明るくしている。さほど暑くもなく、涼しすぎもしない、清々しい朝だ。(高橋正子)

近づけば顔上ぐ昼咲月見草★★★
薔薇ひらく農の庭なり空の青★★★

6月15日

●小口泰與
風たちて矢車草の乱れあう★★★★
郭公や棚田の水のまんまんと★★★
ねじ花や夕日の影もねじれしか★★★

●桑本栄太郎
川風を受けて淡きや合歓の花★★★★
「風に乗る」は、風に乗って運ばれる、移動するの意味が含まれるので句意がわかりにくい。合歓の淡い花の咲く枝が川風を受け、煽られている様子は、優しさのなかにも合歓の花の強さが見える。

梅雨冷えや葉のひるがえり風の歌★★★
一途なる少年の日よ椎の花★★★

●小西 宏
梅雨晴のひと葉ひと葉に光透く★★★★
青空に焦がれ乾きし蚯蚓かな★★★
蛍飛び人の頭の黒きこと★★★

●多田有花
山行を終えて乾杯生ビール★★★★
山行(さんこう)は、山歩き、山遊び、登山の意味。登山では頂上に至った達成感とそこからの眺望は、得難いもの。登山というほどのものでなくても山を歩き、山に遊び汗を流したあとの乾杯の生ビールの爽やかなこと。さっぱりとした句。(高橋正子)

廃線のトンネルにある涼しさよ★★★
山法師の花びら積もる山路ゆく★★★

●川名ますみ
きらめきはアイスのふくろ熱の床★★★★
枕辺にたべさしのアイスキャンディー★★★
驟雨過ぎ銀杏並木に碧深し★★★

6月14日

●小口泰與
郭公の声響き合う岸辺かな★★★★
郭公のこだま飛び交う駒出池★★★
目覚めたる浅間や佐久の青田道★★★

●桑本栄太郎
ことさらに日差し明るき梅雨晴間★★★
あおき香も音に乗せ来る草刈機★★★★
拠りどころ玉巻く葛の虚空かな★★★

●高橋秀之
百円を握り園児はアイス買う★★★★
暑い日には、アイスが何よりのたのしみな子どもたち。とくに園児は買い物が自分で出来る喜び
も加わるので、アイスを手にした満足感はたかい。嬉しそうな園児の顔が浮かぶ。(高橋正子)

扇風機家族に向けて首を振る★★★
歓声がゴールの度に夏の朝★★★

6月11日-13日

6月13日

●小口泰與
郭公や水面にぎわす雲と風★★★★
郭公の声があたりに響き、とりどりの形や色の雲が映り、風が起こす漣で水面はにぎやか。そんな静かで明るい景色が素晴らしい。(高橋正子)

白樺とみつばつつじや雨後の池★★★
山つつじ囲む白樺林かな★★★

●祝恵子
茹でながら摘みきし紫蘇を刻みおり★★★
初なりの胡瓜まずは吾手のひら★★★★
挨拶をすれば持たされ花菖蒲★★★

●桑本栄太郎
帰り来て木蔭の風に涼みけり★★★
吹き抜ける風のささやく木下闇★★★
暮れなずむ闇に明るき沙羅の花★★★★

●多田有花
夕立の雲に夕日の当たりけり★★★
梅雨満月雲より出でて光増す★★★★
山々のくっきり青し梅雨晴間★★★

●佃 康水
朝の陽へ白光放つ沙羅の花★★★
舟待たせ鶴亀島の草を刈る★★★★
花田牛角にたっぷり清め塩★★★

●河野啓一
木下闇ゆれ動くものありヒヨの巣か★★★
緑陰に鳥の巣ありて子が二匹★★★★
同病の友に会いたり梅雨晴間★★★

●小西 宏
この叢(むら)に遊びし昨夜(よべ)の蛍かな★★★
夕方の濃き太陽の翠蔭★★★
家壁に夕日の淡し梅雨晴間★★★★

●川名ますみ
高架走り植田に映る空と雲★★★★
高架となっている道路を走っていると植田に出会う。植田には空と雲が映り、晴々とした眺め。高架より一望できる植田の眺めは、遠く見渡せまた格別。(高橋正子)

迷わずに常磐木落葉壕へ散る★★★
夏落葉さらさらさらり壕へ散る★★★

6月12日

●小口泰與
衣ぬぐ浅間や佐久の青田波★★★
万緑や八千穂高原つくも折★★★
谷蟇や浅間は夕日近づけず★★★★

●多田有花
夏の風本のページをすべて繰る★★★★
開いておいた本に一陣の涼風が吹き、ページをぱらぱらとめくった。数ページでなく、すべてのページを繰る風の遊び心が面白い。涼しい句だ。(高橋正子)

はや雲の影に失せたり梅雨の月★★★
夏の蝶無数に乱舞森の道★★★

●桑本栄太郎
のうぜんの花や垣根に今年又★★★
沙羅の花部活帰りの女子高生★★★★
艶めいて深き眠りや合歓の花★★★

●小西 宏
雨止んで頂き照れる椎の花★★★★
雨があがると椎の花の咲く頂が明るく照っている。ことに頂に日があたって、柔らかな椎の花を見せている。「照る」がいい。(高橋正子)

夜の風に車の音す網戸より★★★
谷戸深き己が光や額の花★★★

●川名ますみ
風薫る丘より木々の揺れはじめ★★★
額の花中学校の開校日★★★
鉄線の雨をふくみし濃紫★★★★

6月11日

●小口泰與
雷鳴や小犬扉に爪をたて★★★
十薬や眠りの覚めし浅間山★★★
代掻きや利根本流の滔々と★★★★

●河野啓一
夏潮を一またぎして淡路島★★★
夏草を分けて釣舟こぎ出でぬ★★★★
鮎の宿四万十川の沈下橋★★★

●迫田和代
植田まだ青くて深い空映す★★★★
田植を終えて一か月ほどは、水田に苗の整然とした影と空が映る。美しい水田の景色だが、すぐにも青田となって、水が見えなくなってくる。「まだ」に植田の美しさを惜しみ、青田の緑を待つ心情が読み取れる。(高橋正子)

梅雨晴れに水の溜りに子ら集う★★★
山陰に沿う道のあり菫咲く★★★

●桑本栄太郎
梅雨闇やみどりときめくバス通り★★★★
梅雨闇のほの暗さに、バス通りの街路樹が生き生きと明るい緑を見せている。その思いがけぬ明るさに「みどりときめく」気持ちとなった。梅雨の曇りがちな気持ちが一度に明るくなる緑だ。(高橋正子)

夏蝶のためらい渡る車道かな★★★
朽ち来れば坂を散りばめ山法師★★★

●祝恵子
茄子・トマト地場産売りに群がりぬ★★★★
イベントに集まる市民猛暑なり★★★
ボート待つ救命具付け子の体験★★★

●小西 宏
声もなく烏飛びゆく梅雨曇り★★★★
紫陽花の遠きより照る崖の陰★★★
雨の輪に睡蓮の黄の光りあり★★★

●黒谷光子
紀の国は木の国車窓に緑さす★★★
海の辺の街は湯の街風涼し★★★★
集い来て受講す涼しき大広間★★★

●高橋秀之
夏木立を横目に走る高架線★★★
雲間から差す陽に蒼き夏の海★★★★
夏の日の下に遠くの山がある★★★

6月7日-10日

6月10日

●小口泰與
噴水や風の中なる落ち処★★★
噴煙の西にたふるる薄暑かな★★★
渓流の妙なる瀬音夏わらび★★★★

●桑本栄太郎
ほどけ来て風をいざなう小判草★★★★
梅雨闇の街道西へ曲がりけり★★★
まだらなる影かみどりか夏の嶺★★★

●小西 宏
山桑やまだ濡れている朝の道★★★★
「山桑」は、季語では山帽子のこと。梅雨にはいってもまだ咲いている山帽子があるが、まだ雨に濡れている朝の道に白い山桑の花を見つけると、湿りのある中にもすがすがしさを思う。(高橋正子)

梅雨の夜の静かに飯を食う音よ★★★
杏子熟れ転がってくる坂の街★★★

●高橋信之
紫陽花の静かな色が団地の朝★★★
梅雨晴れの朝の散歩を楽しみに★★★
菖蒲田の花のちらほら咲き始む★★★★

●高橋正子
ゆうすげに月まだ淡くありにけり★★★
睡蓮の花いろいろに水を出る★★★
ほうたるの火が飛ぶ風が吹き起こり★★★★

6月9日

●小口泰與
雨粒を含みしばらをきりにけり★★★★
雨のかかった薔薇の花は重くなっている。剪りとるときにその意外な重さを感じたことであろう。その気持ちが「きりにけり」の詠嘆となっている。(高橋正子)

全身に雨たばしりて薔薇を剪る★★★
雨蛙草にたわむれ吹かれおり★★★

●桑本栄太郎
軽トラックの行商ひらく梅雨晴間★★★
飛び乗れば汗の噴き出る家路かな★★★
父と子のサッカー遊びや沙羅の花★★★★

●高橋正子
睡蓮を揺らす水音とぎれずに★★★★
雲行かす山ゆり朱の蕊を立て★★★
夏椿葉かげ葉かげの白い花★★★

6月8日

●小口泰與
一夜にて城壁築く蟻の国★★★★
じわじわと田に水進む夏ひばり★★★
野良猫をたばかる甕の目高かな★★★

●桑本栄太郎
うす色の男日傘の家路かな★★★
万緑の山並み仰ぐ天王山★★★
吹く風の素通り出来ず金糸梅★★★★

●小西 宏
梅雨入りの音絶え間なく軒伝う★★★
洗われし木々の緑や梅雨晴間★★★
雨止めばザリガニ探る子供たち★★★★

●多田有花
田植え終えし田植機を洗い清む★★★★
田植えが終われば、活躍した田植機の泥をきれいさっぱり洗い流す。これですっかり田植えが終わったという安堵となる。(高橋正子)

早苗田の揺れる水面に苗小さく★★★
墓石に積もれる竹落葉を掃く★★★

●高橋秀之
新しい水に金魚は動き出す★★★★
水を換えると不思議と金魚は生き生きと動く。透明な水に金魚がひらひら泳ぐのが涼しそうだ。(高橋正子)

ベランダが所狭しと梅雨晴間★★★
出目金が尾びれ広げて大水槽★★★

6月7日

●小口泰與
郭公や赤城の裾野たのもしく★★★★
郭公が切れ目をもって鳴く。その声が赤城山の裾野に響くと裾野がたのもしく思える。郭公が来て鳴く夏は弾むような季節だ。(高橋正子)

木漏れ日を水面に映し九輪草★★★
おうとつの山のしるきや甲虫★★★

●佃 康水
黄熟の匂い立たせて梅漬ける★★★★
梅干しに漬ける梅は青梅ではなく、黄色く熟れてやわらくなった梅を用いる。青梅が黄熟する間に放つ梅の甘くかぐわしい匂いは、「梅仕事」を楽しくしてくれる。(高橋正子)

降る雨にに白さ際立つ半夏生★★★
田の隅に今を勢う余り苗★★★

●桑本栄太郎
未央柳蕊の煌めき雨あがる★★★
雨音に飛び跳ね起きる午睡かな★★★
豌豆をむけば弾めり床の音★★★★

●高橋秀之
濡れ帰るそれもありかな六月の雨★★★
雨上がりの日差しを浴びて緑濃く★★★
雨の中を唸るエンジン耕運機★★★★

●高橋信之
卯の花のつぼみもありぬつぼみも白★★★★
咲けば白をあふれさせる卯の花。まだ咲かない蕾も、よく見れば白い。卯の花は白をもって意を通す。(高橋正子)

丘に咲き風吹く中の立葵★★★
郁子咲くを森の高きに写し撮る★★★

6月4日-6日

6月6日

●小口泰與
雨湛う土の黒きや茄子の花★★★★
谷蟇(たにくぐ)の湖畔にでんと構えけり★★★
茄子苗の添え木あまたや雨降れり★★★

●河野啓一
額紫陽花水切りをして挿芽して★★★
咲き初めて清らな白き紫陽花よ★★★★
夕まぐれぽっかり白き額紫陽★★★

●古田敬二
手に触れる近さで逃げるヒメホタル★★★★
ヒメホタルの小さなあかりが手に触れるくらいに近づいたと思うと、触れはしないですうっと逃げた。はかなくも美しい一瞬。(高橋正子)

彼岸から揺れ来るようにヒメホタル★★★
ヒメホタル逃げて掴めり藪の闇★★★

●迫田和代
雨の中紫陽花咲ける丘に立つ
【添削】紫陽花の咲ける丘なり雨がふり★★★★
丘一面が紫陽花に覆われ、雨が降っている。紫陽花色の水のなかにいるような気持ちがすてきだ。もとの句は「丘に立つ」ことが強調されて紫陽花のイメージが弱くなっているので添削した。(高橋正子)

向こうから浴衣を着た娘の爽やかさ★★★
黒雲が低く流れて梅雨の空★★★

●桑本栄太郎
雨あがり眼もとぱつちり未央柳★★★
木苺の鉢に熟れたる菓子舗かな★★★★
ほほけ来る穂風の茅花流しかな★★★

●多田有花
音もなく降りだす雨や梅雨に入る★★★★
芒種今日雨の気配が身ほとりに★★★
梅雨時のひと日で伸びし草の丈★★★

6月5日

●小口泰與
ひさびさの雨をたたえし茄子の花★★★★
久々の雨に茄子の枝葉もぴんと張りつめ、いきいきとしている。薄紫の花にもたっぷりと雨滴がかかり、目に涼しさをよぶ。(高橋正子)

梅干の皺の深さに干されけり★★★
雨傘を杖と頼みし七変化★★★

●黒谷光子
蔦も枝分かれして上りゆく★★★★
蚕豆を剥きて嵩張る莢を積む★★★
芍薬の終わりの一花を玄関に★★★

●小西 宏
梔子の花朽ちたるに日は差しおり★★★
紫陽花よさらに膨らめ明日は雨★★★★
紫陽花の色とりどりに梅雨に入る★★★

●佃 康水 
  旧暦5月5日 流鏑馬
真っ先に社務所へ氏子菖蒲葺く★★★★
祭り馬乗せトラックの揺れて着く★★★ 
流鏑馬の通路や戸ごと菖蒲葺く★★★

●桑本栄太郎
みどり濃き窓の山河や梅雨に入る★★★★
梅雨空や部活の子等のブラスの音★★★
吹く風のみどりに湿り梅雨に入る★★★

●祝恵子
葉桜やバケツを垂らし水を汲む★★★★
葉桜とバケツで汲む水が、日本のこの季節の緑のゆたかさ、水のゆたかさを象徴している。葉桜や水の感触がリアルに伝わる。(高橋正子)

七変化公衆電話のある団地★★★
対岸の歩き越し場所夏灯つく★★★

6月4日

●小口泰與
たそがれの滝の飛沫のたち騒ぐ★★★
吾去ればたちまち鳴くよ雨蛙★★★
たなごころ岩魚の滑り伝わりぬ★★★★

●河野啓一
PMも黄砂も梅雨も西の方★★★
残雪の夏山友と山小屋に★★★
遠山に白きも見えて夏の川★★★★

●桑本栄太郎
アーチ型支柱の並び茄子の花★★★
青柿のひそむ葉蔭や昼下がり★★★
不如帰鳴いて夜更けの街灯かり★★★★

●高橋秀之
雨宿りする場に大きく夏木立★★★★
雨宿りする場所のすぐそばに夏木立がある。夏木立に盛んに降る雨がよく見える。夏の雨の力強さ詠まれている。(高橋正子)

折り畳み傘を鞄に梅雨に入る★★★
高層階から見る生駒は緑濃く★★★

6月1日-3日

6月3日

●小口泰與
たたなわる山より大気初夏の朝★★★
郭公のいよよ鳴きけり明けの宿★★★
たたなわる山や新樹の匂いけり★★★★

●祝恵子
トクトクと水入る田のそば花菖蒲★★★
田植する苗の一部は水の中★★★★
祭り旗掲げ曲がりくチンドン屋★★★

●多田有花
あのころの歌が流れる新樹光★★★★
六月の光に白し屋根瓦★★★
午後の雨梅雨の気配を連れて来る★★★

●桑本栄太郎
<高槻平野>
トンネルを抜けて青葉の天王山★★★
枇杷の実のどこか鄙びて熟しけり★★★
もんぺ穿き植田の隅の補植かな★★★★

●小西 宏
十薬の崖深きより水の音★★★★
初夏の塩辛蜻蛉水を行く★★★
銀杏樹の高き緑や梅雨近し★★★

●黒谷光子
かたまって咲けば華やぐ姫女苑★★★
生花にも供花にも遠く姫女苑★★★
新緑の色もさまざま森歩く★★★★

6月2日

●小口泰與
D五一の蒸気たくまし夏木立★★★★
日本でもっとも量産され、主に貨物列車として活躍した蒸気機関車のD五一。力強く貨車をひく姿は多くの日本人の目に焼き付いている。蒸気機関車の時代は終わったが、観光用に残された区間があるのだろう。夏木立に蒸気を吐いて進むD五一を目にして、新たにその勇姿に目を奪われた。(高橋正子)

新緑や絵画たしなむ友の居て★★★
桐咲くや奇岩妙義の佇まい★★★

●河野啓一
風薫る母娘連れ立ち買い物に★★★★
新緑の山路小さき瀬音して★★★
バラの花はや木漏れ日の下となり★★★

●桑本栄太郎
<京都四条大橋界隈>
葉柳や川端通りという風に★★★
彫りふかき僧のひとりや夏の橋★★★★
老犬の舌の長さや夏日さす★★★

●小西 宏
醜草の地に蟻動く朝の道★★★
刻々と暑の積もりくる昼の靄★★★
丘越えて辿り来る音初花火★★★★

6月1日

●小口泰與
茄子苗や雨をたくわう里の畑★★★
桷咲くや八千穂の里の駒出池★★★
桷(ずみ)の花散りて魚のライズかな★★★★

●多田有花
夏の朝森の静けさを歩く★★★
六月の風部屋に入れ本を読む★★★
端はまだくるりと巻いて浮葉かな★★★★
蓮や睡蓮の浮葉は初めは葉の端がまだ巻いている。ものの初めの新鮮さと面白さがある。(高橋正子)

●桑本栄太郎
<京都市内へ>
緑蔭の車中となりぬ阪急線★★★
釣り人の湾処(わんど)をかこむ日傘かな★★★★
緑蔭のせせらぎ光る高瀬川★★★

●佃 康水
水鏡して田植機の音弾む★★★★
畦川に足掛け洗う早苗箱★★★
早苗田に母屋どっしり映さるる★★★★
母屋の傍から田が広がる。田植えが済んだ田には、早苗の影ばかりではなく、母屋のどっしりと建物が映っている。田植えの後の安堵と、秋の実りが約束されている明るさがある。(高橋正子)

◆今日の秀句/5月21日~31日◆

◆今日の秀句◆

[5月31日]
★朝顔の種植え鉢に朝の水/小西 宏
「朝の水」で句に詩情がでた。朝顔の種を植えれば、その後は水やりが日課となる。夕方ではなく、朝のすずやかな水をもらって朝顔も、すぐにも芽が出そうだ。(高橋正子)

[5月30日]
★トントンと葱切る音や夏に入る/井上治代
夏に入ると、まず衣服が軽くなる。部屋も窓が開けられ、風が通るように、日差しも一段とあかるくなって、快活な気分が漂う。まな板で葱を刻む音もトントンと軽やかに弾んでくる。季節が進み夏が来たうれしさが湧く。(高橋正子)

[5月29日]
★玉ねぎの抜きしにおいも持ち帰る/祝恵子
梅雨入り前の、まださわやかな風が吹くころ、新玉ねぎが収穫できる。畑から抜き取るとき、玉ねぎ独特の匂いがするが、その匂いまでもが、収穫のよろこびとなる。(高橋正子)

[5月28日]
★風薫る朝のテラスやミントティー/河野啓一
風薫る朝のさわやかさをテラスで飲むミントティーが象徴している。庭でとれたミントを紅茶に浮かべて飲む至福のお洒落なひとときだ。(高橋正子)

[5月27日]
★玉葱を引く葉の倒る一つから/黒谷光子
玉葱は抜いて見てはじめて大きさが解るのだが、抜いて小さかったからといって植えなおすわけにはいかない。葉の養分が根に移り、根を太らせて倒れる。今年の玉葱を初めて抜くときのちょっとした期待感がいい。(高橋正子)

[5月26日]
★蕗を剥く香り厨に収まらず/黒谷光子
蕗は皮を剥くと独特の香りするが、料理をする台所だけではなく、ほかの部屋までも匂ってくる。生気溢れる蕗の匂いに、初夏という季節が強く印象づけられる。(高橋正子)

[5月25日/2句]
★万緑や大き玻璃戸の美術館/佃 康水
美術館に大きなガラス戸がはめられ周辺の緑がそっくり見えるように設計されている。それがそのまま美術的でもあるが、展示の美術品をひろやかな気持ちになって鑑賞できることもうれしいものだ。(高橋正子)

★そらまめのふつくら炊けて釜の飯/桑本栄太郎
「釜の飯」に家庭のあたたかさが読める。ふっくらと炊けたそらまめご飯は素朴で季節のたのしみなご飯だ。(高橋正子)

[5月24日]
★晴れて今日裸足の季節始まりぬ/多田有花
裸足が気持ちがよいのは少し暑さが加わった晴れた日。今日はちょうどそんな日なので、裸足ですごすことに。「晴れて」裸足の季節が始まるという当たり前のようだが、そこに意外性がある。(高橋正子)

[5月23日]
★青空に溶けることなき青葉の線/川名ますみ
青は多くの色合いを含む。青空の青、葉や草の青など。青空と青葉とは、連なるような色だが、それが截然として空と青葉の間に線が引かれる。はやり、盛り上がるような青葉の勢いのせいであろう。(高橋正子)

[5月22日]
★獅子の舞うそろそろ田水張らる頃/祝恵子
この句の獅子舞は、田植えの始まる前に豊作を願って舞う獅子舞だろう。その獅子舞がくると田水が張られ田植えの準備が始まる。わくわくした気持ちにもなる。故郷の田植えを思いだされたのだろう。(高橋正子)

[5月21日]
★菜の色も海の香もあり冷やしソバ/小西 宏
冷やしソバに、畑の菜もあれば、海の香りのするものも載せてある。海の香りで一度に夏が来た。それを引き立てるのが菜の色だ。涼しさを誘う冷やしソバだ。(高橋正子)

5月27日-31日

5月31日

●小口泰與
赤城より朝の薫風鳥の声★★★★
咲き充ちて白ばらの花よごれたり★★★
百本のばら咲く庭のあかりかな★★★

●迫田和代
土手道の新樹浮かべて河流れ★★★
薄暑の日若い娘(こ)の足綺麗だな★★★
ざあざあと窓うつ雨や梅雨近し★★★

●小西 宏
朝顔の種植え鉢に朝の水★★★★
「朝の水」で句に詩情がでた。朝顔の種を植えれば、その後は水やりが日課となる。夕方ではなく、朝のすずやかな水をもらって朝顔も、すぐにも芽が出そうだ。(高橋正子)

梅の実の膨らむ深き葉の影に★★★
窓という窓開け放ち五月風★★★

●多田有花
風きって自転車降り来る夏の坂★★★
遠く近く森に満ちたり不如帰★★★★
本を読みそのまま昼寝となりにけり★★★

●河野啓一
オリーブの花影白き瀬戸の島★★★★
網戸入れ吹き過ぐ風の心地よさ★★★
マンションの横にも田水引かれたる★★★

●桑本栄太郎
金糸梅かぜの行方の定まらず★★★
天車(標準語:肩車)されて散歩や五月尽★★★
こんもりと古墳の森の青葉かな★★★★

●古田敬二
ジャガイモの畝をはみ出るみのりかな★★★★
ジャガイモが収穫時期を迎えた。太り具合を見にゆけば、畝をはみ出てみずみずしいジャガイモが見える。予想以上の出来に、またそのみずみずしさに嬉しさが湧く。(高橋正子)

土掘ればごつごつジャガイモ当たり来る★★★
畝作る遠くにヨシキリ今日も鳴く★★★

5月30日

●小口泰與
たかむらの闇や一声夏きぎす★★★★
海芋咲き朝の冷気は赤城から★★★
葉がくれのからももの実や雨の中★★★

●河野啓一
薄荷あめ含めば口に若葉風★★★★
そよ風やマーガレットは揺れもせず★★★
路の辺に茂る葉桜陽のひかり★★★

●小川和子
日傘さし小径に入れば花柘榴★★★★
風来るざわめきを乗せ夏落葉★★★
青葉風子らは造れり砂の城★★★

●多田有花
つとよぎる影見上げれば黒揚羽★★★
咲きのぼる構え大きく立葵★★★★
バンダナを結ぶうなじに夏の日差し★★★

●桑本栄太郎
乙訓の里に風吹き柿の花★★★★
青蘆の遮る丈のあおりけり★★★
降るものの舗道散りばめ緑蔭に★★★

●井上治代
トントンと葱切る音や夏に入る★★★★
夏に入ると、まず衣服が軽くなる。部屋も窓が開けられ、風が通るように、日差しも一段とあかるくなって、快活な気分が漂う。まな板で葱を刻む音もトントンと軽やかに弾んでくる。季節が進み夏が来たうれしさが湧く。(高橋正子)

憎きまで畑の中に草茂る★★★
夏霧や里の街灯ぽつねんと★★★

●川名ますみ
迷い来て寺に泰山木の花★★★★
道に迷いようやくたどり着いた寺に、泰山木の大きな白い花が咲いていた。おおらかな、白い花に予期せず迎えられ、うっすらかいた汗もひく思いで、感激も一入だっただろう。予期せぬ花に出会う喜びは大きい。(高橋正子)

梢まで赤咲きのぼる立葵★★★
白き一花迷いし道に泰山木★★★

5月29日

●小口泰與
風薫る朝日をあびし赤城山★★★
黄ばらや通園バスのえんじ達★★★★
たかぶれる噴水空を破りけり★★★

●祝恵子
ルピナスの色とりどりの風をうけ★★★
新緑の森に清しい光あり★★★
艦艇のプラモも走る夏の池★★★★

●古田敬二
葉の影を映して実梅丸丸と★★★★
枝先へうばらの花の咲き上る★★★
のうばらの最後の一花枝先に★★★

●桑本栄太郎
野蒜咲く風の田道の散歩かな★★★
蕗束ねバケツに売らる無人店(だな)★★★★
蚕豆の莢の空向き実りけり★★★

●多田有花
緑陰の途切れるところ頂に★★★★
山の登り始めは木々が茂りあう道から始まる。体も緑に染まりそうなくらいの緑陰となって、延々と道は続くのだが、その緑陰がとぎれるところに出た。そこが頂上だったわけで、頂上を目指すというのではなく、登り至れば頂上だった、というのがさっぱりしている。(高橋正子)

揚羽蝶森の奥より飛び来る★★★
すれ違う人にオーデコロンの香★★★

●高橋秀之
沖合に停泊する船夏日差し★★★★
夏と言えば太陽にかがやく海。沖合に停泊する船が夏の日差しに浮かんでいる。それが夏をいち早く感じさせる景色なのだ。(高橋正子)

紫陽花に当たる朝日と水飛沫★★★
月曜の朝紫陽花の色を見る★★★

●小西 宏
卯の花の垣根に咲ける親しきこと★★★★
梔子の白にあらざる白静か★★★
毒痛みの花泉水の近くあり★★★

●黒谷光子
万歩計つけて今日より夏帽子★★★★
一万歩目指し五月の池巡る★★★
黄菖蒲の池の周りのあちこちに★★★

5月28日

●小口泰與
咲ききって風の中なる庭のばら★★★★
ほろほろと散りし紅ばら香りおり★★★
浴衣着てすずろに歩む繁華街★★★

●河野啓一
風薫る朝のテラスやミントティー★★★★
風薫る朝のさわやかさをテラスで飲むミントティーが象徴している。庭でとれたミントを紅茶に浮かべて飲む至福のお洒落なひとときだ。(高橋正子)
 
薫風やグランドの芝撫でゆきて★★★
屋根裏の空蝉思わる去年の夏★★★

●多田有花
バンダナで額の汗を抑え歩く★★★★
木漏れ日の中渡り来る夏の風★★★
長く長く鳴く夏の鶯★★★

●桑本栄太郎
だれも居ぬ花壇の彩の紫蘭かな★★★
昼顔や彷徨う畦を彩と為し★★★
じゃがいもの花に望郷つのりけり★★★★

●小西 宏
園児バス待つマンションの赤いバラ★★★★
木陰より出でて青野の蛇いちご★★★
蚕豆のよき顔立ちを青く噛む★★★

●祝恵子
玉ねぎの抜きしにおいも持ち帰る★★★★
梅雨入り前の、まださわやかな風が吹くころ、新玉ねぎが収穫できる。畑から抜き取るとき、玉ねぎ独特の匂いがするが、その匂いまでもが、収穫のよろこびとなる。(高橋正子)

水面のバラ花びら少しづつ離なる★★★
すっきりと色花立ちて薄暑なり★★★

●黒谷光子
竹落葉踏み雑木山仏花切る★★★★
供花とする夏菊を買う道の駅★★★
供花はみな新しくして堂涼し★★★

5月27日

●小口泰與
鉄線花赤城の風となりにけり★★★
ばら咲くや色とりどりの登校児★★★★
浅間より絶えず雲出づ蟻の穴★★★

●河野啓一
紫陽花の白き蕾の数かぞえ★★★
あめ玉を口に含みて新緑へ★★★★
房咲きのバラ小さくて賑やかに★★★

●多田有花
幼虫の懸垂下降夏めく森★★★
鋏手に薔薇を切らんと男立つ★★★★
音のみが青葉のなかを流れゆく★★★

●桑本栄太郎
桑の実や遠き日となる母のこと★★★★
桑の実を今の子供たちは食べないだろうが、昔の子供は桑の実の甘さを喜んだ。母の記憶と桑の実を食べた記憶が重なる。それらが「遠き日」となることにさみしさもあるが、思い出す幸せもある。(高橋正子)

姫女苑風の行方を示しけり★★★
山影の映る植田や昏れゆきぬ★★★

●黒谷光子
玉葱を引く葉の倒る一つから★★★★
玉葱は抜いて見てはじめて大きさが解るのだが、抜いて小さかったからといって植えなおすわけにはいかない。葉の養分が根に移り、根を太らせて倒れる。今年の玉葱を初めて抜くときのちょっとした期待感がいい。(高橋正子)

莢豌豆山ほど採れて日本晴れ★★★
夏薊群れ咲き土手の華やげる★★★

●小西 宏
紫陽花の色づき初むる陽の五月★★★★
毒痛みの花群れ咲いて人恋し★★★
睡蓮の花閉じ眠る午後の水辺★★★

5月24日-26日

5月26日

●小口泰與
産土の利根をそびらに花胡桃★★★★
夕暮れの雀騒(ぞめ)くや麦扱機★★★
湖の波染む夕焼けのにぎにぎし★★★

●黒谷光子
蕗を剥く香り厨に収まらず★★★★
蕗は皮を剥くと独特の香りするが、料理をする台所だけではなく、ほかの部屋までも匂ってくる。生気溢れる蕗の匂いに、初夏という季節が強く印象づけられる。(高橋正子)

伽羅蕗を煮詰め色濃し夕厨★★★
菜園の苺の形まちまちに★★★

●多田有花
風薫る堂島川の遊覧船★★★★
水の音親しく聞きし街薄暑★★★
仰ぎ見る高層ビルや天清和★★★

●桑本栄太郎
姫女苑風の行方を示しつつ★★★
桑の実や巨木となりて青空に★★★★
金糸梅部活の子等の下校どき★★★

●小西 宏
夏蝶に魅かれ山葵の沢に入る★★★★
涼しそうな夏蝶の魅力に導かれるように進むと山葵沢に入った。蝶はここへ案内したかったのかとさえ思う。涼しい心境の句。(高橋正子)

初夏の風みどりなる箱根路★★★
青葉影し土匂いする湿り道★★★

●古田敬二
一音階下げて応える牛蛙★★★
若葉風昔バンカラ下駄の街★★★★
玉ねぎを吊るせば香る薄闇に★★★

5月25日

●小口泰與
日照雨去り木々の匂いの聖五月★★★★
夕暮れや浅間を側む二重虹★★★
桐咲くや奇岩聳ゆる妙義山★★★

●佃 康水
万緑や大き玻璃戸の美術館★★★★
美術館に大きなガラス戸がはめられ周辺の緑がそっくり見えるように設計されている。それがそのまま美術的でもあるが、展示の美術品をひろやかな気持ちになって鑑賞できることもうれしいものだ。(高橋正子)

黄菖蒲の根方へ山の水滲む★★★
夕暮れの雲へあわあわ花楝★★★

●桑本栄太郎
あおぞらの窓の額絵や青嵐★★★
ハンガーに晒し掛けおり更衣★★★

そらまめのふつくら炊けて釜の飯★★★★
「釜の飯」に家庭のあたたかさが読める。ふっくらと炊けたそらまめご飯は素朴で季節のたのしみなご飯だ。(高橋正子)

●河野啓一
辿りきて峠越えれば海の青★★★★
アマリリスビロード赤の逞しき★★★
夏場所も果てて熱気の静まりぬ★★★

●小西 宏
十薬の野に置かれざる高貴かな★★★
縁台に休み天城の冷抹茶★★★
谷間(たにあい)の水に早苗の影淡し★★★★

●川名ますみ
青き葉に包まれ紫陽花の莟む★★★
紫陽花の莟めば白のやさしさに★★★★
山法師樹下に次々ランチを広げ★★★

5月24日

●迫田和代
新緑に囲まれている森の奥★★★
初夏になり」木陰もいいし風もいい★★★
流れゆく水音までも初夏の音★★★★

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)に雨そそぎけり柿の花★★★
老鶯の山ふところに鳴きそそり★★★
昇り藤谷川岳の聳てり★★★★

●桑本栄太郎
ひつそりと葉蔭に青く柿の花★★★
さみどりの早もあじさいつぼみけり★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
晴れて今日裸足の季節始まりぬ★★★★
裸足が気持ちがよいのは少し暑さが加わった晴れた日。今日はちょうどそんな日なので、裸足ですごすことに。「晴れて」裸足の季節が始まるという当たり前のようだが、そこに意外性がある。(高橋正子)

少女らの自転車薫風を駆ける★★★
繰り返し森の奥よりほととぎす★★★

●黒谷光子
隣村へどの道行くも姫女苑★★★★
隣村へは、自転車に乗ったり、すぐ近ければ歩いてゆくこともあるのだろう。隣村へ行く道がいろいろあるが、どの道をとっても姫女苑が揺れている。やさしい花の咲くさわやかな道はうれしい。(高橋正子)

堂裏の射干知らぬ間に咲き終わり★★★
蕗を剥き暫く残る手の香り★★★

◆今日の秀句/5月11日~20日◆

◆今日の秀句◆

[5月20日]
★黄牡丹のすなおに散って重なりぬ/小口泰與
「牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片/蕪村」の句にあるように、牡丹は散って花弁を重ねることが多い。この句の黄牡丹は牡丹らしくない色と言える。それがさりげなく、すなおに散って、やはり、どの牡丹とも同じように花弁を重ねている。(高橋正子)

[5月19日]
★郭公や牧草ロールおちこちに/小口泰與
心地よい夏の牧場の風景。郭公が鳴き、牧草ロールが遠く、近くに点在する。よい時間が流れている。(高橋正子)

[5月18日]
★万緑の山懐の葉ずれかな/小口泰與
万緑の山を外から眺めるのではなく、その懐に入ると緑の木々の葉ずれがさわさわと鳴り、自分を大きく包んでくれる。山懐に抱かれたとき、自然の大きさ深さが思われる。(高橋正子)

[5月17日]
★風吹けば若葉の影も柔らかに/古田敬二
風が吹かなければ、若葉の影はどっしりとしているが、風が吹くと風もそよぎ、柔らかな影となる。柔らかな影は見ていて安らぐ。(高橋正子)

[5月16日]
★朝の陽に滴る森よ時鳥/小西 宏
朝の陽が差す森はよく茂り、まだ濡れいている。輝いている。そこへ時鳥の声が聞こえる。麗しい初夏の森だ。(高橋正子)

[5月15日]
★梅の実のまだ小さきに紅を置く/小西 宏
梅の実がだんだんと太ってきた。まだ小さい実であるけれどほのかに紅色になっている箇所がある。小さいながら収穫ときの梅の様子を見せているのも驚き。(高橋正子)

[5月14日]
★楠若葉並木一筋通学路/河野啓一
楠の若葉は盛り上がるように樹を覆う。その若葉が連なり重なる並木を通学する児童や生徒は健康的だ。(高橋正子)

[5月13日]
★山水を集め寺裏菖蒲咲く/佃 康水
背後に山を控えている寺は結構多い。山から湧き流れる水を池などに集めて菖蒲を咲かせている。山水と菖蒲の取り合わせが清冽な趣だ。(高橋正子)

[5月12日]
★とめどなく小石湧きあぐ清水かな/小口泰與
清水が湧きあがる、涼しくきよらかな情景がよい。砂ではなく、小石が湧きあがることで、清水の湧く勢いが見える。(高橋正子)

[5月11日]
★石楠花の中抜け高野山を降りる/多田有花
低地では石楠花の花は終わっているが、高野山では今、石楠花が盛りのようだ。高野山に参詣して、気持ちもすっきりとしたところで、山気漂う中、石楠花の道を下りた。(高橋正子)