今日の秀句/7月1日-10日

[7月10日]
★水の輪の真ん中にいるみずすまし/古田敬二
みずすましが泳ぐとその周りに水の輪ができるが、瞬間を止めれば、みずすましは、水の輪の真ん中にいる。(高橋正子)

[7月9日]
★雉の子の畦に跳び出づ草いきれ/小口泰與
畦に雉の子が迷い出てきて驚くが、夏草に埋没しそうな雉の子の懸命な様子かわいく愛おしい。(高橋正子)

[7月9日]
★雉の子の畦に跳び出づ草いきれ/小口泰與
畦に雉の子が迷い出てきて驚くが、夏草に埋没しそうな雉の子の懸命な様子かわいく愛おしい。(高橋正子)

[7月8日]
★初蝉の不揃いの声響く朝/高橋秀之
おぼつかなく、遠慮がちな鳴き方に、初蝉らしさがある。真夏には、蝉も一斉に鳴きそろって声をあげが、鳴きはじめは、あちこちから、試しに鳴いているようで不揃いなのだ。(高橋正子)

[7月7日]
★到来の菜を香らせ夏座敷/川名ますみ
この句の菜は、おかずや料理のことを指し、「一汁一菜」の「さい」と読みたい。到来物はそれだけでもうれしいが、それがよい香りがすれば、気持ちが清新になって、うれしさも増す。それをいただく夏座敷が涼しげだ。(高橋正子)

[7月6日]
★草刈り機木魂し合える谷間かな/佃 康水
夏草が生い茂り、草刈りに忙しいときだ。谷間のあちこちで使う草刈り機の音が木魂する。谷間の村も生き生きとし、活動的な暮らしがうかがえる。(高橋正子)

[7月5日]
★茄子苗の花の咲きつつ売られけり/桑本栄太郎
茄子の苗が売られているが、はや、紫の花がついて、みずみずしく勢いがある。植えればすぐに根付き、よく実を結ぶそうだ。(高橋正子)

[7月4日]
★赤味さす眉月七月の街に/川名ますみ
赤味を帯びた眉月はやはり夏の月である。街の灯の上に、広い夜空にはかなく、神秘的だ。(高橋正子)

[7月3日]
★さりげなく少しの風を白扇子/高橋秀之
扇ぐともなく扇ぐ扇子を使うしずかな振る舞い。さっぱりとした白扇子が起こすほんの少しの風がさわやかだ。(高橋正子)

[7月2日]
★推敲の窓に入り来る青葉風/桑本栄太郎
推敲に専心しているとき、青葉を吹く風が窓から入り、ふっと緊張が解けて、さらによい境地に達したことであろう。(高橋正子)

[7月1日]
★高原の静寂をやぶる青蛙/小口泰與
青蛙は雨蛙ともいわれ、草や木の葉の上に棲み、夕立の前などにキャクキャク鳴く。高原に夕立が来そうな気配。それを感じて青蛙が一斉に鳴きはじめた。静かな高原も突如静寂が破られ、大夕立に見舞われそうだ。(高橋正子)

7月1日-10日

7月10日

●小口泰與
凌霄花や朝の浅間山(あさま)の定かなる★★★
湖の上ちぢに渡りぬ時鳥★★★★
翠黛の裾野に沿うや夏の雲★★★

●古田敬二
水の輪の真ん中にいるみずすまし★★★★
みずすましが泳ぐとその周りに水の輪ができるが、瞬間を止めれば、みずすましは、水の輪の真ん中にいる。(高橋正子)

みずすましつかの間水輪重なれり★★★
みずすまし流されまいと四肢を掻く★★★

●佃 康水
長き貨車茂れる草を煽り過ぐ★★★★
線路わきには夏草が茂る。そこを延々と貨車を牽いて列車が過ぎる。その間草は緩急はあるけれども煽られ通す。昨日の投句の「延々と貨車のコンテナ梅雨の野に/桑本栄太郎」を重ねて思った。(高橋正子)

みずすましつかの間水輪重なれり★★★
みずすまし流されまいと四肢を掻く★★★

●桑本栄太郎
梅雨晴間遥か鞍馬の峰に雨★★★
特急の電車通過や葛茂る★★★★
ワイパーの激しく振りぬ白雨来る★★★

●小西 宏
七月の雨は緑に山濡らす★★★★
カンナ黄を広き緑に誇り立つ★★★
窓閉じて湿気に浸る夏嵐★★★

●佃 康水
保線区員待機をしては草を刈り★★★
長き貨車茂れる草を煽り過ぐ★★★★
夜の法座闇に鳴き立つ雨蛙★★★

7月9日

●祝恵子
夏露店牡蠣焼く匂い漂わせ★★★★
好きな路地ノウゼンカズラの枝垂れおり★★★
収穫にしぜんと笑みが夏野菜★★★

●小口泰與
雉の子の畦に跳び出づ草いきれ/小口泰與★★★★
畦に雉の子が迷い出てきて驚くが、夏草に埋没しそうな雉の子の懸命な様子かわいく愛おしい。(高橋正子)

山女釣浅間は夕日留めおり★★★
遠雷や太き雨脚忽然と★★★

●河野啓一
のうぜんの朱を敷き詰めて何語る★★★
烏賊釣りの船の支度や宵の内★★★
万緑の静けさ来る風を待つ★★★★

●桑本栄太郎
延々と貨車のコンテナ梅雨の野に★★★★
梅雨が延々と続くように、積み木のような四角なコンテナを貨車が延々と引っ張って行く。ここでは、何事もなくひたすら梅雨が続いている。(高橋正子)

初蝉の鳴き初めすぐに止みにけり★★★
雨脚の峰駆けのぼる白雨かな★★★

●多田有花
雲薄く初蝉の声ひそやかに★★★
梅雨台風近づく気配草を刈る★★★★
冷酒酌むほのかにフルーツの香り★★★

●小西 宏
息継ぎができてバタバタ水泳ぎ★★★★
鳥の声聞きに緑の森深く★★★
四十年(よそとせ)や妻の肩揉む黴の宿★★★

7月8日

●古田敬二
露草の朝の命を輝かせ★★★
半夏生薄暮の庭の白さかな★★★
半夏生薄暮の庭に浮かぶ色★★★★

●小口泰與
毛の国の山河あらぶるはたた神★★★
外に出づや月光さゆる影涼し★★★★
はたた神納戸の隅の小犬かな★★★

●桑本栄太郎
<鴨川、四条大橋界隈>
鴨川の流れ真中や鮎を釣る★★★★
京都の街を流れる鴨川に天然鮎が溯上するのも意外だが、川に魚道が作られて溯上を助けているようだ。街中の川で鮎釣りの風景が楽しむことができ、画中の出来事のようだ。(高橋正子)

鮎掛や銀鱗光り手網(たも)に入る★★★
葉柳や川端通りは風の中★★★

●小西 宏
梅雨晴に青水玉のレインブーツ★★★★
梅雨雲の切れ間に夕日手に眩し★★★
暗がりに零れるひかり岩清水★★★

●高橋秀之
初蝉の不揃いの声響く朝★★★★
おぼつかなく、遠慮がちな鳴き方に、初蝉らしさがある。真夏には、蝉も一斉に鳴きそろって声をあげが、鳴きはじめは、あちこちから、試しに鳴いているようで不揃いなのだ。(高橋正子)

梅雨晴間薄雲の間に差す日差し★★★
冷蔵庫の中に積み上げ水羊羹★★★

7月7日

●小口泰與
バンガロー魚三枚に下ろしたり★★★★
飛ぶ鮎の海無き川の苔を食む★★★
眼間の赤城山(あかぎ)まじかく真夏かな★★★

●桑本栄太郎
みどり濃き山河滴る在所かな★★★
との曇る天の灯りや黐の花★★★★
星合のせめて今夜は晴れ間欲し★★★

●小西 宏
アジサイの花の終わりも糸の雨★★★
雨止んで高き緑の洗われし★★★★
梅雨空に夕星一つ見えたかな★★★

●多田有花
梅雨雲が隠せる山を歩きおり★★★
にわか雨あがりて七夕の宵に★★★
塩糀入れて胡瓜を浅漬けに★★★★

●川名ますみ
到来の菜を香らせ夏座敷★★★★
この句の菜は、おかずや料理のことを指し、「一汁一菜」の「さい」と読みたい。到来物はそれだけでもうれしいが、それがよい香りがすれば、気持ちが清新になって、うれしさも増す。それをいただく夏座敷が涼しげだ。(高橋正子)

到来の野菜の響き夏厨★★★
玉葱のポタージュに匙ひからせて★★★

7月6日

●小口泰與
雪渓を渡るや滝のごうごうと★★★★
雪渓の壮麗な眺めは、夏山の魅力の一つ。その上、雪渓を渡るとき滝がごうごうと体を震わせるように鳴り響き、自然の雄大さを身をもって感じる。(高橋正子)

老鶯や大樹見上げる顔と顔★★★
夏の昼持薬飲むのを忘れたり★★★

●河野啓一
風鈴の響く窓辺に碁石(いし)のおと★★★★
子雀の軒端行き交い賑やかに★★★
雨空に黄色い百合がぽっかりと★★★

●多田有花
梅霖の降る音静か絵を描きぬ★★★★
にわか雨二度来る午後や梅雨曇★★★
貨物列車梅雨の鉄橋を渡る★★★

●桑本栄太郎
川風の微風に応え夏柳★★★
青柿の雨滴したたり太りけり★★★★
うす闇にかざす白さや曼陀羅華★★★

●佃 康水
草刈り機木魂し合える谷間かな★★★★
夏草が生い茂り、草刈りに忙しいときだ。谷間のあちこちで使う草刈り機の音が木魂する。谷間の村も生き生きとし、活動的な暮らしがうかがえる。(高橋正子)

水音や沢紫陽花へ絶え間なく★★★
山陰の沢あじさいや瑞々し★★★

7月5日

●小口泰與
武蔵野を蘇らせし古代蓮★★★
逆光の葉裏を透かすはちすかな★★★★
現世(うつしよ)の喧騒さだか古代蓮★★★

●迫田和代
河沿いの木立ちの陰で草笛を★★★★
どこまでも続く青田に青い風★★★
よき人の願いを結ぶ天の川★★★

●黒谷光子
塩焼きの鮎の尾ぴんと昼の膳★★★
ひろびろと山の傾斜の紫陽花苑★★★★
紫陽花苑行きつ戻りつ時惜しむ★★★

●河野啓一
蜘蛛の糸螺旋階段捲きあげて★★★
せせらぎをついとかすめて糸蜻蛉★★★★
雨もよい花を巡りて揚羽蝶★★★

●桑本栄太郎
茄子苗の花の咲きつつ売られけり★★★★
茄子の苗が売られているが、はや、紫の花がついて、みずみずしく勢いがある。植えればすぐに根付き、よく実を結ぶそうだ。(高橋正子)

小賢しき朱き実となる花柘榴★★★
咲き終えしひとつは零れダチュラ咲く★★★

●小西 宏
雨に雑草(くさ)引く老農の保育園★★★
ジョギングに足蹴る道の緑風★★★
梅雨雲の去りたる西の大き空★★★★

●古田敬二
踏まれるなと草むらに置く蝸牛★★★
夏野菜鍋にあふれてラタトゥーイユ★★★
袋下げ完熟梅の香をこぼし★★★★

●高橋秀之
舞い降りてまた大空へ揚羽蝶★★★★
揚羽蝶は、「舞う」というのにふさわしい飛び方をする。舞い降りてきて、また空へ飛び立つ。その空が「大空」なのがいい。揚羽蝶が鮮明だ。(高橋正子)

朝顔の初めの一輪花開く★★★
食卓に大輪の百合ひとつ挿す★★★

7月4日

●小口泰與
薄もやの赤城や畦の雨蛙
老鶯のこだま定かや空青し★★★
武蔵野の空の明るき古代蓮★★★★

●黒谷光子
吊り橋を渡るその先夏木立★★★★
石垣に迷うことなき蟻の列★★★
渓流の音に応えて合歓の花★★★

●桑本栄太郎
夕涼やゴーヤの棚の整いぬ★★★★
「整いぬ」で涼しさが醸し出された。日除けにもなるゴーヤの棚に葉が茂り、実も育って、真夏へ向けて申し分ない状態。そこに夕風が吹き、涼しさもいっそうだ。(高橋正子)

日の角度見つつ棚組む夏日かな★★★
ふんぷんと蔓のみどりのゴーヤ剪る★★★

●川名ますみ
赤味さす眉月七月の街に★★★★
赤味を帯びた眉月はやはり夏の月である。街の灯の上に、広い夜空にはかなく、神秘的だ。(高橋正子)のうぜんの落ちし路面に雨細く★★★
夏服の少女両手であっかんべ★★★

7月3日

●小西 宏
梅雨の朝胎児のごとく犬眠る★★★
夏燕羽打ち振って雲の間へ★★★
荒れ梅雨の雲紅色に夕迎う★★★★

●小口泰與
夏の暁畦に羽根寄すつがい禽★★★
炎帝に仕う農婦や雲一朶★★★
あじさいや変化にとみし切通し★★★★

●桑本栄太郎
青梅雨の雨雲峰を奔りけり★★★
雨雲の白く覆うや梅雨の山★★★★
雨だれのほかに音なく梅雨寒し★★★

●高橋秀之
さりげなく少しの風を白扇子★★★★
扇ぐともなく扇ぐ扇子を使うしずかな振る舞い。さっぱりとした白扇子が起こすほんの少しの風がさわやかだ。(高橋正子)

冷房の風あたる場所じっと立つ★★★
街灯の照らす白薔薇雨しずく★★★

●高橋信之
梅雨晴の森の空見ゆ遥かな青★★★★
梅雨晴の森。森の上の空は意外に高く青々と力強く広がっている。「遥かな青」をもってそれを表現した。(高橋正子)

萱草の群れ咲くに陽が昇る★★★
紫陽花の花の終わりのすざましき★★★

7月2日

●多田有花
夏朝日苔むす岩に差しにけり★★★
一段落つき七月を迎えおり★★★
短夜やパソコンで聴く深夜放送★★★★

●桑本栄太郎
推敲の窓に入り来る青葉風★★★★
推敲に専心しているとき、青葉を吹く風が窓から入り、ふっと緊張が解けて、さらによい境地に達したことであろう。(高橋正子)

茄子の花支柱あまたの河川畑★★★
夢に見し吾は少年昼寝人★★★

●小口泰與
蟻の陣沛雨に忽と崩れけり★★★★
雷の言の葉わかる小犬かな★★★
夕顔や夕日浅間をつかさどる★★★

●河野啓一
伊吹山お花畑は山頂に★★★★
青葉して六甲山上雲白し★★★
花ぎぼし揺れてゆらゆら人の世も★★★

7月1日

●高橋秀之
梅雨晴間昇る朝日はまん丸く★★★★
朝の陽に照らされ青葉がより青く★★★
始発から見る夏の日眩しくて★★★

●小口泰與
高原の静寂をやぶる青蛙★★★★
青蛙は雨蛙ともいわれ、草や木の葉の上に棲み、夕立の前などにキャクキャク鳴く。高原に夕立が来そうな気配。それを感じて青蛙が一斉に鳴きはじめた。静かな高原も突如静寂が破られ、大夕立に見舞われそうだ。(高橋正子)

夏霧やとっきょとかきょくきりもなし★★★
居間の隅あえぐ小犬のはたた神★★★

●桑本栄太郎
七月の夕風青く暮れゆけり★★★★
湧水の小滝となりぬ池公園★★★
おぼれそうな深き青さや七変化★★★

●河野啓一
夾竹桃紅白ならび仲の良き★★★
花えんじゅ垣根の中場所の良さ★★★★
鵯の仔の巣立ちの速さ人は如何★★★

●高橋正子
箱根登山電車
登山電車きしめば紫陽花さわに揺れ★★★★
涼風大きく登山電車の窓を入り★★★
スウィッチバックの登山電車に山青葉★★★

今日の秀句/6月21日-30日

[6月30日]
★射干の朱を緑陰に散りばめて/河野啓一
射干(ひおうぎ)の花は古典的で気品のある、オレンジ色のかわいい花である。それが緑陰のくらがりに柔らかな朱色で、ぽつぽつ咲いているのは、夏らしい心和む光景だ。(高橋正子)

[6月29日]
★青時雨みるみる濡れる石畳/小川和子
青時雨の潔さ、さっぱりとした感じがよく出ている。言葉の色彩も青時雨の青と、石畳の石の色が、涼しそうだ。(高橋正子)

[6月28日]
★新緑の木陰の中で口笛が/迫田和代
新緑の木陰でだれかが口笛を吹いている。新緑の木陰の心地よさが楽しくて口笛を吹いたのだろう。身も心も軽い季節。(高橋正子)

[6月27日/2句]
★花槐咲きしばかりの碧き白/川名ますみ
槐はマメ科の落葉高木なので、花も豆の花のような蝶形花を円錐花序につける。その花は白いが、作者は咲いたばかりの花に「碧き白」を鋭敏にも感じ取った。(高橋正子)

★行き交える電車の過ぎて蔦の青/小西 宏
電車が行き交っている間は、向こうにあるものに目が届かないが、過ぎた向こうには蔦が青々と茂っているのが目に鮮やかに飛びこむ。行き交う電車にこの蔦は煽られ揺れていたであろうが。(高橋正子)

[6月26日]
★糸蜻蛉水の光りへ紛れけり/佃 康水
糸蜻蛉の体の細さは、注意していなければ、すぐ見失う。ましてや水の光りが輝く中では、蜻蛉か、光か、と見まがうようにも。「水の光り」が涼やかだ。(高橋正子)

[6月25日]
★尾根に出れば風の親しき夏至の山/多田有花
尾根に出れば、それまでの登山道とは違って汗の身に心地よい風が吹く、夏至となれば、完全に夏山の風。身になじんだ親しい風。(高橋正子)

[6月24日]
★風の来て植田に夕焼け広がれり/古田敬二
植田は田の面に水が見え、夕焼けが一面に広がる。それも風が来て広げた夕焼けだ。風が生きている。(高橋正子)

[6月23日]
★梅雨晴れや奔り追い抜く新幹線/桑本栄太郎
重い梅雨の雨も晴れあがり、青空の下を疾駆する新幹線の姿は、すっきりとして格好がよい。(高橋正子)

[6月22日]
★ばらを得て土器は生気を得たりけり/小口泰與
土器は、広義には陶磁器をさすこともあるようだが、この句のイメージからは、粘土を乾燥させて焼いたものと考えられる。縄文、弥生の時代を思わせる土器も、ばらを活けられ、ばらの色に生気をもらって、互いに引き立つようになった。(高橋正子)

[6月21日]
★のうぜんの花に夕日と夕風と/桑本栄太郎
夕日の染めるのうぜんの花は、夕日の色と相和して輝かしく咲いている。そこに夕風が吹き花をそよがせ、しずかにも華やぎのある夕方の景色となっている。「夕日」「夕風」と、「夕」を繰り返したのも、無駄ではない。(高橋正子)

今日の秀句/6月11日-20日

[6月20日]
★緋の色の石榴の花に朝日かな/桑本栄太郎
柘榴の花は、紅一点と詠まれただけに、万緑のなかで際立った色だ。それに朝日があたると、緋色ともなって、透き通るような鮮やか色だ。それを詠んだ。(高橋正子)

[6月19日]
★植田静か吉野の山を逆さまに/古田敬二
「苗田」は、稲の苗を育てる田のことで、季節は春。稲の苗を植えたばかりの田は「植田」という。季節は夏。この句の情景は、吉野の山が逆さまに田面に映っているので、苗田ではなく植田が適切と思う。「吉野の山」がよく効いている。(高橋正子)

[6月18日]
★茄子苗や雨の力を溜むるなり/小口泰與
根付きはじめた茄子の苗に雨滴がたまっている。溜まった雨滴にこそ茄子を育てる力がある。それこそが「雨の力」。(高橋正子)

[6月17日]
★蛍消え木の間の空に星見ゆる/小西 宏
蛍が飛ぶのは夕方。六時ごろから飛びはじめ八時か九時には消えている。蛍と交代するかのように木の間から星が一つ二つと見える。どちらも小さな、輝くものの明かり。(高橋正子)

[6月16日]
★茅の輪くぐる吾らシルバー歩き会/祝恵子
家族それぞれの無病息災を願って茅の輪をくぐるのだけれど、歩き会のシルバー仲間も同じこと。老いを屈託なく受け止めてくぐる青い茅の輪も涼やかだ。(高橋正子)

[6月15日]
★川風を受けて淡きや合歓の花/桑本栄太郎
「風に乗る」は、風に乗って運ばれる、移動するの意味が含まれるので句意がわかりにくい。合歓の淡い花の咲く枝が川風を受け、煽られている様子は、優しさのなかにも合歓の花の強さが見える。(高橋正子)

[6月14日]
★百円を握り園児はアイス買う/高橋秀之
暑い日には、アイスが何よりのたのしみな子どもたち。とくに園児は買い物が自分で出来る喜びも加わるので、アイスを手にした満足感はたかい。嬉しそうな園児の顔が浮かぶ。(高橋正子)

[6月13日]
★郭公や水面にぎわす雲と風/小口泰與
郭公の声があたりに響き、とりどりの形や色の雲が映り、風が起こす漣で水面はにぎやか。そんな静かで明るい景色が素晴らしい。(高橋正子)

[6月12日]
★夏の風本のページをすべて繰る/多田有花
開いておいた本に一陣の涼風が吹き、ページをぱらぱらとめくった。数ページでなく、すべてのページを繰る風の遊び心が面白い。涼しい句だ。(高橋正子)

[6月11日]
★植田まだ青くて深い空映す/迫田和代
田植を終えて一か月ほどは、水田に苗の整然とした影と空が映る。美しい水田の景色だが、すぐにも青田となって、水が見えなくなってくる。「まだ」に植田の美しさを惜しみ、青田の緑を待つ心情が読み取れる。(高橋正子)

今日の秀句/6月1日-10日

◆今日の秀句◆

[6月10日]
★山桑やまだ濡れている朝の道/小西 宏
「山桑」は、季語では山帽子のこと。梅雨にはいってもまだ咲いている山帽子があるが、まだ雨に濡れている朝の道に白い山桑の花を見つけると、湿りのある中にもすがすがしさを思う。(高橋正子)

[6月9日]
★雨粒を含みしばらをきりにけり/小口泰與
雨のかかった薔薇の花は重くなっている。剪りとるときにその意外な重さを感じたことであろう。その気持ちが「きりにけり」の詠嘆となっている。(高橋正子)

[6月8日]
★田植え終えし田植機を洗い清む/多田有花
田植えが終われば、活躍した田植機の泥をきれいさっぱり洗い流す。これですっかり田植えが終わったという安堵となる。(高橋正子)

[6月7日]
★黄熟の匂い立たせて梅漬ける/佃 康水
梅干しに漬ける梅は青梅ではなく、黄色く熟れてやわらくなった梅を用いる。青梅が黄熟する間に放つ梅の甘くかぐわしい匂いは、「梅仕事」を楽しくしてくれる。(高橋正子)

[6月6日]
★手に触れる近さで逃げるヒメホタル/古田敬二
ヒメホタルの小さなあかりが手に触れるくらいに近づいたと思うと、触れはしないですうっと逃げた。はかなくも美しい一瞬。(高橋正子)

[6月5日]
★ひさびさの雨をたたえし茄子の花/小口泰與
久々の雨に茄子の枝葉もぴんと張りつめ、いきいきとしている。薄紫の花にもたっぷりと雨滴がかかり、目に涼しさをよぶ。(高橋正子)

[6月4日]
★雨宿りする場に大きく夏木立/高橋秀之
雨宿りする場所のすぐそばに夏木立がある。夏木立に盛んに降る雨がよく見える。夏の雨の力強さ詠まれている。(高橋正子)

[6月3日]
★田植する苗の一部は水の中/祝恵子
おそらく、手植えされる苗であろうが、すぐ植えれるように、束ねて田の水に入れてある。田植えの最中はこういったこともなにか嬉しい気持ちになるものだ。(高橋正子)

[6月2日]
★D五一の蒸気たくまし夏木立/小口泰與
日本でもっとも量産され、主に貨物列車として活躍した蒸気機関車のD五一。力強く貨車をひく姿は多くの日本人の目に焼き付いている。蒸気機関車の時代は終わったが、観光用に残された区間があるのだろう。夏木立に蒸気を吐いて進むD五一を目にして、新たにその勇姿に目を奪われた。(高橋正子)

[6月1日]
★早苗田に母屋どっしり映さるる/佃 康水
母屋の傍から田が広がる。田植えが済んだ田には、早苗の影ばかりではなく、母屋のどっしりと建物が映っている。田植えの後の安堵と、秋の実りが約束されている明るさがある。(高橋正子)

6月21日-30日

6月30日

●河野啓一
射干の朱を緑陰に散りばめて★★★★
射干(ひおうぎ)の花は古典的で気品のある、オレンジ色のかわいい花である。それが緑陰のくらがりに柔らかな朱色で、ぽつぽつ咲いているのは、夏らしい心和む光景だ。(高橋正子)

柿の葉の大きな葉陰に青柿揺れて★★★
荒梅雨やサイレンの音通り過ぐ★★★

●桑本栄太郎
みどり濃き青田となりてビルの影★★★
株の間の一直線や青田晴れ★★★★
晴れ来たる音も明るき梅雨の雷★★★

●多田有花
夜の雨に濡れし山路の涼しさよ★★★
梅天や河内晩柑さっくりむく★★★★
陽の色をたたえて朝ののうぜん花★★★

●小口泰與
牧場の牛を囃すやほととぎす★★★
大沼のしじまを破る時鳥★★★★
あけぼのの白樺牧場ほととぎす★★★

●高橋正子
箱根・大湧谷
噴煙のうすうすのぼり山青葉★★★★
箱根の山白きものは山帽子★★★
夏雲の真白し硫黄の匂いたち★★★

6月29日

●小口泰與
利根川の瀬尻光れり夏帽子★★★★
あけぼのの鍋割山の滴れり★★★
からももや野鳥の声の千々なりし★★★

●多田有花
口笛で夏鶯に答えけり★★★★
夏山に入ると鶯が間近で鳴いている。鶯の声に答えて口笛で鳴き声を真似ると、それに鶯が答えて鳴くことがある。じつに楽しい。私も経験済みで、口笛を吹くと鶯が応えて鳴いてくれたことがある。(高橋正子)

泉北のはるかに見えて梅雨の晴れ★★★
夏燕くるり旋回水の上★★★

●桑本栄太郎
青桐の葉蔭重たき日差しかな★★★★
錐もみとなりてきらめく竹落葉★★★
遮断機の下りて待つ間や灸花★★★

●小川和子
青時雨みるみる濡れる石畳★★★★
青時雨の潔さ、さっぱりとした感じがよく出ている。言葉の色彩も青時雨の青と、石畳の石の色が、涼しそうだ。(高橋正子)

 茨木のり子展
展示さる詩の響きくる涼しさよ★★★
階段は螺旋の館緑さす★★★

●高橋正子
雲はれて日光黄菅の野にひかる★★★★
笹百合の倒れがちなり匂いつつ★★★
湿原のはるかな水に未草★★★

6月28日

●迫田和代
新緑の木陰の中で口笛が★★★★
新緑の木陰でだれかが口笛を吹いている。新緑の木陰の心地よさが楽しくて口笛を吹いたのだろう。身も心も軽い季節。(高橋正子)

淡い色腕(かいな)も白い更衣★★★
短夜や一人の時間あと少し★★★

●小口泰與
雨ふくみ枝垂れこぼるる薔薇(そうび)かな★★★
片陰や利根川(とね)は細りて石あふる★★★
郭公や朝の浅間山(あさま)の揺るぎなし★★★★

●桑本栄太郎
孤高とも見えず地道の蟇蛙★★★
梔子の八重の垣根や甘き香に★★★★
朽ちいても花の容や泰山木★★★

●古田敬二
泰山木東に向かい咲く構え★★★★
けがれ無く泰山木は高く咲く★★★
泰山木堂堂天へ開き切る★★★

●高橋秀之
大口を開いて真っ赤なアマリリス★★★
アマリリス雨のしずくを撥ね退ける★★★★
真っ直ぐに青葉が作る木陰道★★★

●高橋正子
夏布団かるき空気にふくらめり★★★★
夏の夜の家族の安眠を願って、主婦の日常の仕事だ。生活が重くならずに「かるき」ともなれば、家族の働きもいい結果を得ることだろう。(高橋信之)

旅立ちに梅雨の雨音玻璃にあり★★★
西瓜きれば甘き水の匂いせり★★★

6月27日

●古田敬二
行く道の空までまっすぐ夏木立★★★★
夏木立空へまっすぐ伸びるもの★★★
泰山木無垢なる白を誇り咲く★★★

●小口泰與
青柿のさわに落ちたる朝かな★★★★
翠黛の朝の赤城や青蛙★★★
夏の湖置酒高会の親族(うから)かな★★★

●黒谷光子
沙羅の花湖の光りを惜しみなく★★★★
沙羅咲くや数多の蕾を従えて★★★
紫陽花の色とりどりに湖畔まで★★★

●桑本栄太郎
稜線に鉄塔つらなり夏の嶺★★★
白百合の凜と高きや朝の風★★★★
老鶯の声たくましき池の藪★★★

●川名ますみ
花槐咲きしばかりの碧き白★★★★
槐はマメ科の落葉高木なので、花も豆の花のような蝶形花を円錐花序につける。その花は白いが、作者は咲いたばかりの花に「碧き白」を鋭敏にも感じ取った。(高橋正子)

花槐散りくる前のしろきこと★★★
どの路地も槐の花の好きな街★★★

●小西 宏
行き交える電車の過ぎて蔦の青★★★★
電車が行き交っている間は、向こうにあるものに目が届かないが、過ぎた向こうには蔦が青々と茂っているのが目に鮮やかに飛びこむ。行き交う電車にこの蔦は煽られ揺れていたであろうが。(高橋正子)

雨くぐり何処の軒へ夏燕★★★
梅雨晴れの杜や上野にパリ匂う★★★

●高橋正子
やわらかに梅雨の朝日に染まるビル★★★★
朝顔の一輪ひらく網戸越し★★★
日日草千日紅に風うごく★★★

6月26日

●小口泰與
雨含むばらの崩るる朝かな★★★
おうとつの瑠璃より見ゆる茂りかな★★★
三山もしるきや朝の青田風★★★★

●佃 康水
糸蜻蛉水の光りへ紛れけり★★★★
糸蜻蛉の体の細さは、注意していなければ、すぐ見失う。ましてや水の光りが輝く中では、蜻蛉か、光か、と見まがうようにも。「水の光り」が涼やかだ。(高橋正子)

臥す姉へ紅の紫陽花剪り見舞う★★★
山裾に群れて浮き立つ半夏生★★★

●黒谷光子
万緑の山を四方に湖静か★★★★
湖の静かさは、いろいろあるが、四方に万緑の山々があり、湖水に山影が映っているときなどは、特に奥深い静かさを思う。(高橋正子)

さざ波の寄する湖畔や紫陽花苑★★★
はつ夏の湖おだやかに誓子句碑★★★

●桑本栄太郎
天までにもう届きそう立葵★★★
紫陽花の青色吐息の日差しかな★★★
夏萩や淡き風吹く坂の道★★★★

●多田有花
回り道して花菖蒲咲く池のそば★★★
頂に出れば一面夏霞★★★★
河川敷に救難訓練梅雨晴間★★★

●高橋正子
青葉冷ゆ朝のバターのよく香り★★★★
上五の「青葉冷ゆ」がそれに続く「朝のバターのよく香り」という生活にリアリテイーを与えた。季節の言葉は、日常の生活に今という現実を与えてくれる。「青葉冷ゆ」に臨場感があって、詠み手の実感が伝わってくる。(高橋信之)

朝ごとに千日紅の紅が増ゆ★★★
梅雨寒にアガパンサスの薄紫★★★

6月25日

●小口泰與
単線の大曲せり独活の花★★★★
あけぼのや声の千々なる雨蛙★★★
病葉や小魚の甕にごりたり★★★

●多田有花
尾根に出れば風の親しき夏至の山★★★★
尾根に出れば、それまでの登山道とは違って汗の身に心地よい風が吹く、夏至となれば、完全に夏山の風。身になじんだ親しい風。(高橋正子)

梅雨の雷遠くの空の明るくて★★★
青羊歯に朝日輝く道をゆく★★★

●桑本栄太郎
うき草や稲株ふとく育ち居り★★★★
田にうき草が増えてくるころには、稲株もしっかりと太く育ってくる。梅雨の雨に稲はぐんぐんと育つ。タガメなども育って、水田が元気なときだ。(高橋正子)

映画果て街の眩しき夏日かな★★★
梅雨晴れや”ノアの方舟”見し街に★★★

●河野啓一
癒さるる緑の陰に檜扇が★★★
古池に睡蓮ひとつ薄明り★★★
俄かなる大きな雹や梅雨荒れる★★★★

●小西 宏
池離れ草原歩む通し鴨★★★
人遠き崖に水木の花の条(すじ)★★★
素ガラスの飯場の塀の青葡萄★★★★

●高橋秀之
夏蒲団朝は丸まり足元に★★★
網戸から夜風が部屋へ吹き抜ける★★★★
すりガラスに映り込む影揚羽蝶★★★

●古田敬二
夏雲へクレーンゆっくり伸びゆけり★★★
泰山木高きに咲くという誇り★★★
空へ咲く泰山木の色深し★★★★

6月24日

●小口泰與
石垣の模様のちがう苔の花★★★
暁近き浅間や佐久のおとり鮎★★★
端座して四方開けたり時鳥★★★★

●古田敬二
風の来て植田に夕焼け広がれり★★★★
植田は田の面に水が見え、夕焼けが一面に広がる。それも風が来て広げた夕焼けだ。風が生きている。(高橋正子)

麦秋の日暮に色のなお濃くて★★★
日没の麦秋尾灯まっすぐに★★★

●小西 宏
夏富士の糸切れ切れに雪の跡★★★
一株のアジサイ庭を宇宙とす★★★
どろどろと暮れ果ててまで雷の鳴る★★★★

●桑本栄太郎
夏草に埋もれ置かる廃車かな★★★
晴れ上がり雲の峰ともよべぬ雲★★★★
小雀の必死に低く飛び去りぬ★★★

●祝恵子
朝に切るカサブランカは客を待つ★★★★
尺当てて胡瓜の長さ計る朝★★★
梅酒漬け最後のリカーは夫の手に★★★

6月23日

●小口泰與
五月晴れ半身浴の露天かな★★★
若竹や鳴り物入りの新入生★★★★
たおやかに揺れし植田や鳥の朝★★★

●古田敬二
助手席にかぼちゃ転がせ野良帰り★★★★
畑にできたかぼちゃを持ち帰るのに、籠などにいれるのではなく、相棒のように車の助手席に転がして持ち帰った。楽しいことである。(高橋正子)

どの庭も生き生き濡れて梅雨の花★★★
ジャズ聴きに早苗の道を急ぎけり★★★

●桑本栄太郎
梅雨晴れや奔り追い抜く新幹線★★★★
重い梅雨の雨も晴れあがり、青空の下を疾駆する新幹線の姿は、すっきりとして格好がよい。(高橋正子)

夏至の雨晴れて山河のみどりかな★★★
浮かぶとも降るとも知れず梅雨の雲★★★

●小西 宏
夏至今朝の雨上がりたる木々の青★★★
マンションの子ら日曜の草むしり★★★
梅雨の日の砲艦海に動かざる★★★★

●高橋信之
風吹きゆかす花びら薄き花菖蒲★★★
驚きにまた楽しみにカラーの黄★★★
のうぜん咲いて土曜の朝の自由がある★★★★

●高橋正子
きのうより高きに朝顔咲き上る★★★★
朝顔の開きし花を目で数う★★★
青紫蘇を数枚採りて娘にもたす★★★

6月22日

●小口泰與
ばらを得て土器は生気を得たりけり★★★★
土器は、広義には陶磁器をさすこともあるようだが、この句のイメージからは、粘土を乾燥させて焼いたものと考えられる。縄文、弥生の時代を思わせる土器も、ばらを活けられ、ばらの色に生気をもらって、互いに引き立つようになった。(高橋正子)

たっぷりと雨を含みしばらの朝★★★
夏の月心たる日は史記を読み★★★

●桑本栄太郎
乙訓の山河滴る在所かな★★★
谷間に十字架のぞむ梅雨の山★★★
枇杷の実の熟れて久しき空き家かな★★★★

●多田有花
夏の朝森の光の清々し★★★
額の花テニスコートのそばに咲く★★★★
朝の陽の静かに差すや花菖蒲★★★

6月21日

●古田敬二
東山見下ろし膨れる夏の雲★★★
梅雨晴間豆腐屋ラッパ裏小路★★★
 十津川村にて
祈りつつ天空の滝見上げけり★★★★

●小口泰與
たくわえし葉先のしずく雨後のばら★★★
あぜ道を急ぎて渡れ蝸牛★★★
ばらの葉の雨粒忽と消えにけり★★★★

●桑本栄太郎
のうぜんの花に夕日と夕風と★★★★
夕日の染めるのうぜんの花は、夕日の色と相和して輝かしく咲いている。そこに夕風が吹き花をそよがせ、しずかにも華やぎのある夕方の景色となっている。「夕日」「夕風」と、「夕」を繰り返したのも、無駄ではない。(高橋正子)

のぼりつめアンテナ覆い蔦茂る★★★
沙羅の花落ちて矜持の白さかな★★★

●小西 宏
語らいの樹下のベンチに蚊やり焚く★★★★
睡蓮の立つまま眠る緩き午後★★★
山桃の幹のまるさや実の満てる★★★

6月17日-20日

6月20日

●小口泰與
五月雨や赤城の裾野たゆみなし★★★
水替えの目高を桶に通り雨★★★
山道をた走る水や雨蛙★★★★

●桑本栄太郎
蕊ふるえ未央柳の散り初めり★★★
緋の色の石榴の花に朝日かな★★★★
柘榴の花は、紅一点と詠まれただけに、万緑のなかで際立った色だ。それに朝日があたると、緋色ともなって、透き通るような鮮やか色だ。それを詠んだ。(高橋正子)

竹林の闇を風抜け朝涼し★★★

●高橋信之
早咲きの夾竹桃が学校に★★★★
キウイ棚しんとして風吹かぬ朝★★★
紅かんぞう少し離れた草叢に★★★

6月19日

●小口泰與
たのみなき草の生ゆるや青田波★★★
夕顔や浅間に夕日溜めており★★★★
道絶えし杣道の辺に連理草★★★

●桑本栄太郎
夏萩の白きこぼれや朝の路地★★★★
朱色濃き石榴の花に朝日かな★★★
泰山木の花に朽ち色出でにけり★★★

●小西 宏
夕暮に西空大き生ビール
【添削】夕暮の西空大き生ビール★★★★
暑かった日のおわりに飲む生ビールの美味しさは得難い。夕暮れの西の空もまだ明るくひろびろと広がって、解放感と明日へのささやかな希望を感じさせる。(高橋正子)

崖道の小暗に白き草清水★★★
尖る岩に小蟹潜める潮だまり★★★

●古田敬二
苗田静か吉野の山を逆さまに★★★★
【添削】植田静か吉野の山を逆さまに★★★★
「苗田」は、稲の苗を育てる田のことで、季節は春。稲の苗を植えたばかりの田は「植田」という。季節は夏。この句の情景は、吉野の山が逆さまに田面に映っているので、苗田ではなく植田が適切と思う。「吉野の山」がよく効いている。(高橋正子)

方丈の屋根から激し昼の梅雨★★★
白川の流れに触れて柳揺れ★★★

6月18日

●小口泰與
茄子苗や雨の力を溜むるなり★★★★
鮎釣りの辺をたもとおる釣人よ★★★
新築の家も映せし植田かな★★★

●河野啓一
道の駅新玉葱のあちこちに★★★★
島並を行けば広々夏の瀬戸★★★
松生うる浜の入日や詩碑ありて★★★

●祝恵子
道曲がれば西国街道梅雨曇り★★★
せせらぎへ矢印を指す祭り旗★★★
メダカ売る女学生の絵が可愛い★★★★(信之添削)

●多田有花
昼食を終えれば眠し梅雨曇★★★
灰色の守宮静かに壁の隅★★★
曇り空透かして蜘蛛の巣を張りぬ★★★★

●桑本栄太郎
蕊ふるえ未央柳や夕風に★★★
のうぜんの花の夕日に染まりけり★★★★
向日葵の早も標となりしかな★★★

6月17日

●小口泰與
上州の雷をたまわる過客かな★★★
たまゆらの瀬音を聞きし時鳥★★★★
玉の緒の薬にすがる大暑かな★★★

●小川和子
忽と来て縞の涼しき梅雨の蝶★★★
鈴懸の照る葉陰る葉みな青葉★★★
せせらぎに児ら飛沫上ぐ梅雨晴間★★★★

●桑本栄太郎
<四条大橋界隈>
沙羅の花落ちて決まりし建仁寺★★★★
茫洋とはるか鞍馬や夏の嶺★★★
鴨川の風の触れゆく川床座敷★★★

●多田有花
すべて田は植わりて空の色映す★★★★
どの田も植え終わり、田面の水は早苗を映し、空の色をあざやかに映している。日本画にもあるような光景だ。(高橋正子)

山路来てドリンクゼリーを流しこむ★★★
湯あがりの目に真白きは鴨足草★★★

●高橋秀之
風鈴の音が重なる商店街★★★★
商店街のあちこちの店先に風鈴を吊るして売っているのだろう。それらの風鈴の音が重なって、商店街に涼を醸している。(高橋正子)

大皿に四角が浮かぶ冷奴★★★
夏蝶の影が風呂場のすりガラス★★★

●小西 宏
蛍消え木の間の空に星見ゆる★★★★
蛍が飛ぶのは夕方。六時ごろから飛びはじめ八時か九時には消えている。蛍と交代するかのように木の間から星が一つ二つと見える。どちらも小さな、輝くものの明かり。(高橋正子)

子はすぐに大きくなりぬ花空木★★★
三浦より富士ある処梅雨の海★★★

6月14-16日

6月16日

●祝恵子
茅の輪くぐる吾らシルバー歩き会★★★★
家族それぞれの無病息災を願って茅の輪をくぐるのだけれど、歩き会のシルバー仲間も同じこと。老いを屈託なく受け止めてくぐる青い茅の輪も涼やかだ。(高橋正子)

金糸梅神宮の森はすぐそこに★★★
ホタルブクロ遠き思いを包み込む★★★

●小口泰與
鮎釣りの鮎の長竿競いけり★★★
噴煙の北にたふるる植田かな★★★★
玉の汗ぼうだとなりて目覚めけり★★★

●古田敬二
偽りのなき紫に茄子の花★★★
やわらかき棘持て胡瓜ぶら下がる★★★★
引き抜けばバリバリ音して夏の草★★★

●桑本栄太郎
水の無き石の流れや夏の川★★★
白壁の農家田中に青田かな★★★
一つずつ落ちて一途や沙羅の花★★★★

●高橋信之
紫陽花に午前六時の明るい朝★★★★
梅雨も一休みし、紫陽花に午前六時の朝日が差して花を明るくしている。さほど暑くもなく、涼しすぎもしない、清々しい朝だ。(高橋正子)

近づけば顔上ぐ昼咲月見草★★★
薔薇ひらく農の庭なり空の青★★★

6月15日

●小口泰與
風たちて矢車草の乱れあう★★★★
郭公や棚田の水のまんまんと★★★
ねじ花や夕日の影もねじれしか★★★

●桑本栄太郎
川風を受けて淡きや合歓の花★★★★
「風に乗る」は、風に乗って運ばれる、移動するの意味が含まれるので句意がわかりにくい。合歓の淡い花の咲く枝が川風を受け、煽られている様子は、優しさのなかにも合歓の花の強さが見える。

梅雨冷えや葉のひるがえり風の歌★★★
一途なる少年の日よ椎の花★★★

●小西 宏
梅雨晴のひと葉ひと葉に光透く★★★★
青空に焦がれ乾きし蚯蚓かな★★★
蛍飛び人の頭の黒きこと★★★

●多田有花
山行を終えて乾杯生ビール★★★★
山行(さんこう)は、山歩き、山遊び、登山の意味。登山では頂上に至った達成感とそこからの眺望は、得難いもの。登山というほどのものでなくても山を歩き、山に遊び汗を流したあとの乾杯の生ビールの爽やかなこと。さっぱりとした句。(高橋正子)

廃線のトンネルにある涼しさよ★★★
山法師の花びら積もる山路ゆく★★★

●川名ますみ
きらめきはアイスのふくろ熱の床★★★★
枕辺にたべさしのアイスキャンディー★★★
驟雨過ぎ銀杏並木に碧深し★★★

6月14日

●小口泰與
郭公の声響き合う岸辺かな★★★★
郭公のこだま飛び交う駒出池★★★
目覚めたる浅間や佐久の青田道★★★

●桑本栄太郎
ことさらに日差し明るき梅雨晴間★★★
あおき香も音に乗せ来る草刈機★★★★
拠りどころ玉巻く葛の虚空かな★★★

●高橋秀之
百円を握り園児はアイス買う★★★★
暑い日には、アイスが何よりのたのしみな子どもたち。とくに園児は買い物が自分で出来る喜び
も加わるので、アイスを手にした満足感はたかい。嬉しそうな園児の顔が浮かぶ。(高橋正子)

扇風機家族に向けて首を振る★★★
歓声がゴールの度に夏の朝★★★

6月11日-13日

6月13日

●小口泰與
郭公や水面にぎわす雲と風★★★★
郭公の声があたりに響き、とりどりの形や色の雲が映り、風が起こす漣で水面はにぎやか。そんな静かで明るい景色が素晴らしい。(高橋正子)

白樺とみつばつつじや雨後の池★★★
山つつじ囲む白樺林かな★★★

●祝恵子
茹でながら摘みきし紫蘇を刻みおり★★★
初なりの胡瓜まずは吾手のひら★★★★
挨拶をすれば持たされ花菖蒲★★★

●桑本栄太郎
帰り来て木蔭の風に涼みけり★★★
吹き抜ける風のささやく木下闇★★★
暮れなずむ闇に明るき沙羅の花★★★★

●多田有花
夕立の雲に夕日の当たりけり★★★
梅雨満月雲より出でて光増す★★★★
山々のくっきり青し梅雨晴間★★★

●佃 康水
朝の陽へ白光放つ沙羅の花★★★
舟待たせ鶴亀島の草を刈る★★★★
花田牛角にたっぷり清め塩★★★

●河野啓一
木下闇ゆれ動くものありヒヨの巣か★★★
緑陰に鳥の巣ありて子が二匹★★★★
同病の友に会いたり梅雨晴間★★★

●小西 宏
この叢(むら)に遊びし昨夜(よべ)の蛍かな★★★
夕方の濃き太陽の翠蔭★★★
家壁に夕日の淡し梅雨晴間★★★★

●川名ますみ
高架走り植田に映る空と雲★★★★
高架となっている道路を走っていると植田に出会う。植田には空と雲が映り、晴々とした眺め。高架より一望できる植田の眺めは、遠く見渡せまた格別。(高橋正子)

迷わずに常磐木落葉壕へ散る★★★
夏落葉さらさらさらり壕へ散る★★★

6月12日

●小口泰與
衣ぬぐ浅間や佐久の青田波★★★
万緑や八千穂高原つくも折★★★
谷蟇や浅間は夕日近づけず★★★★

●多田有花
夏の風本のページをすべて繰る★★★★
開いておいた本に一陣の涼風が吹き、ページをぱらぱらとめくった。数ページでなく、すべてのページを繰る風の遊び心が面白い。涼しい句だ。(高橋正子)

はや雲の影に失せたり梅雨の月★★★
夏の蝶無数に乱舞森の道★★★

●桑本栄太郎
のうぜんの花や垣根に今年又★★★
沙羅の花部活帰りの女子高生★★★★
艶めいて深き眠りや合歓の花★★★

●小西 宏
雨止んで頂き照れる椎の花★★★★
雨があがると椎の花の咲く頂が明るく照っている。ことに頂に日があたって、柔らかな椎の花を見せている。「照る」がいい。(高橋正子)

夜の風に車の音す網戸より★★★
谷戸深き己が光や額の花★★★

●川名ますみ
風薫る丘より木々の揺れはじめ★★★
額の花中学校の開校日★★★
鉄線の雨をふくみし濃紫★★★★

6月11日

●小口泰與
雷鳴や小犬扉に爪をたて★★★
十薬や眠りの覚めし浅間山★★★
代掻きや利根本流の滔々と★★★★

●河野啓一
夏潮を一またぎして淡路島★★★
夏草を分けて釣舟こぎ出でぬ★★★★
鮎の宿四万十川の沈下橋★★★

●迫田和代
植田まだ青くて深い空映す★★★★
田植を終えて一か月ほどは、水田に苗の整然とした影と空が映る。美しい水田の景色だが、すぐにも青田となって、水が見えなくなってくる。「まだ」に植田の美しさを惜しみ、青田の緑を待つ心情が読み取れる。(高橋正子)

梅雨晴れに水の溜りに子ら集う★★★
山陰に沿う道のあり菫咲く★★★

●桑本栄太郎
梅雨闇やみどりときめくバス通り★★★★
梅雨闇のほの暗さに、バス通りの街路樹が生き生きと明るい緑を見せている。その思いがけぬ明るさに「みどりときめく」気持ちとなった。梅雨の曇りがちな気持ちが一度に明るくなる緑だ。(高橋正子)

夏蝶のためらい渡る車道かな★★★
朽ち来れば坂を散りばめ山法師★★★

●祝恵子
茄子・トマト地場産売りに群がりぬ★★★★
イベントに集まる市民猛暑なり★★★
ボート待つ救命具付け子の体験★★★

●小西 宏
声もなく烏飛びゆく梅雨曇り★★★★
紫陽花の遠きより照る崖の陰★★★
雨の輪に睡蓮の黄の光りあり★★★

●黒谷光子
紀の国は木の国車窓に緑さす★★★
海の辺の街は湯の街風涼し★★★★
集い来て受講す涼しき大広間★★★

●高橋秀之
夏木立を横目に走る高架線★★★
雲間から差す陽に蒼き夏の海★★★★
夏の日の下に遠くの山がある★★★

6月7日-10日

6月10日

●小口泰與
噴水や風の中なる落ち処★★★
噴煙の西にたふるる薄暑かな★★★
渓流の妙なる瀬音夏わらび★★★★

●桑本栄太郎
ほどけ来て風をいざなう小判草★★★★
梅雨闇の街道西へ曲がりけり★★★
まだらなる影かみどりか夏の嶺★★★

●小西 宏
山桑やまだ濡れている朝の道★★★★
「山桑」は、季語では山帽子のこと。梅雨にはいってもまだ咲いている山帽子があるが、まだ雨に濡れている朝の道に白い山桑の花を見つけると、湿りのある中にもすがすがしさを思う。(高橋正子)

梅雨の夜の静かに飯を食う音よ★★★
杏子熟れ転がってくる坂の街★★★

●高橋信之
紫陽花の静かな色が団地の朝★★★
梅雨晴れの朝の散歩を楽しみに★★★
菖蒲田の花のちらほら咲き始む★★★★

●高橋正子
ゆうすげに月まだ淡くありにけり★★★
睡蓮の花いろいろに水を出る★★★
ほうたるの火が飛ぶ風が吹き起こり★★★★

6月9日

●小口泰與
雨粒を含みしばらをきりにけり★★★★
雨のかかった薔薇の花は重くなっている。剪りとるときにその意外な重さを感じたことであろう。その気持ちが「きりにけり」の詠嘆となっている。(高橋正子)

全身に雨たばしりて薔薇を剪る★★★
雨蛙草にたわむれ吹かれおり★★★

●桑本栄太郎
軽トラックの行商ひらく梅雨晴間★★★
飛び乗れば汗の噴き出る家路かな★★★
父と子のサッカー遊びや沙羅の花★★★★

●高橋正子
睡蓮を揺らす水音とぎれずに★★★★
雲行かす山ゆり朱の蕊を立て★★★
夏椿葉かげ葉かげの白い花★★★

6月8日

●小口泰與
一夜にて城壁築く蟻の国★★★★
じわじわと田に水進む夏ひばり★★★
野良猫をたばかる甕の目高かな★★★

●桑本栄太郎
うす色の男日傘の家路かな★★★
万緑の山並み仰ぐ天王山★★★
吹く風の素通り出来ず金糸梅★★★★

●小西 宏
梅雨入りの音絶え間なく軒伝う★★★
洗われし木々の緑や梅雨晴間★★★
雨止めばザリガニ探る子供たち★★★★

●多田有花
田植え終えし田植機を洗い清む★★★★
田植えが終われば、活躍した田植機の泥をきれいさっぱり洗い流す。これですっかり田植えが終わったという安堵となる。(高橋正子)

早苗田の揺れる水面に苗小さく★★★
墓石に積もれる竹落葉を掃く★★★

●高橋秀之
新しい水に金魚は動き出す★★★★
水を換えると不思議と金魚は生き生きと動く。透明な水に金魚がひらひら泳ぐのが涼しそうだ。(高橋正子)

ベランダが所狭しと梅雨晴間★★★
出目金が尾びれ広げて大水槽★★★

6月7日

●小口泰與
郭公や赤城の裾野たのもしく★★★★
郭公が切れ目をもって鳴く。その声が赤城山の裾野に響くと裾野がたのもしく思える。郭公が来て鳴く夏は弾むような季節だ。(高橋正子)

木漏れ日を水面に映し九輪草★★★
おうとつの山のしるきや甲虫★★★

●佃 康水
黄熟の匂い立たせて梅漬ける★★★★
梅干しに漬ける梅は青梅ではなく、黄色く熟れてやわらくなった梅を用いる。青梅が黄熟する間に放つ梅の甘くかぐわしい匂いは、「梅仕事」を楽しくしてくれる。(高橋正子)

降る雨にに白さ際立つ半夏生★★★
田の隅に今を勢う余り苗★★★

●桑本栄太郎
未央柳蕊の煌めき雨あがる★★★
雨音に飛び跳ね起きる午睡かな★★★
豌豆をむけば弾めり床の音★★★★

●高橋秀之
濡れ帰るそれもありかな六月の雨★★★
雨上がりの日差しを浴びて緑濃く★★★
雨の中を唸るエンジン耕運機★★★★

●高橋信之
卯の花のつぼみもありぬつぼみも白★★★★
咲けば白をあふれさせる卯の花。まだ咲かない蕾も、よく見れば白い。卯の花は白をもって意を通す。(高橋正子)

丘に咲き風吹く中の立葵★★★
郁子咲くを森の高きに写し撮る★★★