11月7日(立冬)-16日

11月16日(5名)

●小口泰與
耳立てて炉話聞きし小犬かな★★★
仰ぎたる雪の浅間の冥加かな★★★
噴煙の南をさすや冬木立★★★★

●多田有花
小春日の胸の中まで青き空★★★
早朝の電車を待てば息白し★★★

冬紅葉眺めつ山の懐へ★★★★
色濃く鮮やかに紅葉した冬紅葉は、見事であるが、その冬紅葉の美しさを次々眺めて行けば、山懐へと入った。仙郷に入っていくような気分だろうか。(高橋正子)

●桑本栄太郎
校門の灯りとなすや石蕗の花★★★
惜しみつつ踏みゆく桜落葉かな★★★
鳰浮かぶ水面夕空映しけり★★★★

●高橋秀之
天保山桜紅葉の続く道★★★★
一枚の桜落葉を手にかざす★★★
冬の日が照らす波間を小舟ゆく★★★

●小西 宏
日曜の親子ら集い落葉掃く★★★★
さわさわと芝の朝日に敷く落葉★★★
いま街の楓は冬の紅葉かな★★★

11月15日(7名)

●迫田和代
神無月松の落ち葉の散歩道★★★
広島に紅葉紅葉の大通り★★★★
晴れ着なし下着並べる老いの冬★★★

●小口泰與
冬ばらのこうべを下げて暮にけり★★★
寒菊や初冠雪の浅間山★★★
あけぼのの汀おうとつ落葉かな★★★

●桑本栄太郎
送電線野から嶺へと冬の霧★★★
惜しみつつ踏みゆく桜落葉かな★★★
真つ白となりし中洲や枯尾花★★★★

●多田有花
単線の駅舎のそばの冬菜畑★★★
冬紅葉いよいよ鮮やかなりし頃★★★

境内の森を歩けば焚き火の香★★★★
焚き火の香りはいいものだ。境内かどこかで落ち葉を燃やしているのか、焚き火の匂いに、あたたかく、懐かしいものを感じた。(高橋正子)

●河野啓一
空晴れて伯耆大山粧えり★★★
海遠く望みて山の紅葉かな★★★
港町見おろす紅葉六甲山★★★★

●小西 宏
落葉厚く玄関に待つ朝新し★★★
冬薔薇の枝細き先ひとつ赤★★★

櫨の実に集う鴉の青空よ★★★★
櫨の実は、木蝋の原料となるが、また一方、烏など鳥の高カロリーの餌として好まれるらしい。櫨紅葉も秋を彩るもの。空に映えればことに美しいが、櫨の実に集う烏にも青空があって、冬へ向かう日々もはれやかだ。(高橋正子)

●高橋秀之
冬晴れも青空霞む告別式★★★
冬の朝読経と木魚をたたく音★★★
北風の中を出棺掌を合わす★★★★

11月14日(7名)

●小口泰與
小春日のことに鳥語の夕べかな★★★★
冬ばらのあえかな瑞枝風の中★★★
飯田へと今年も参る桜鍋★★★

●多田有花
冬の陽が森へ斜めに差しにけり★★★
ランドセル駆け出す冬の横断歩道★★★
テニスコート張替えられて冬めく日★★★★

●桑本栄太郎
剪定の瘤の白さや冬ざるる★★★
黒き実の垂れて茄子畑枯れにけり★★★
冬菊の括られなおも鮮やかに★★★★

●佃 康水
遊覧船湖面に紅葉散り止まず★★★
巡る湖に小さき水輪や初時雨★★★

山寺や生垣成してお茶の花★★★★
山寺のお茶の垣根はそのたたずまいが、慎ましい。白い茶の花が咲けば、生垣も生き生きとしてくる。お茶の垣根は、実際に茶葉を摘むためだったのだろうが、静かで上品な感じが好もしい。(高橋正子)

●小西 宏
通勤の襟の身支度落葉踏む★★★
満々と陽より欅の落葉する★★★★
落葉積む谷戸に鋭き鳥の声★★★

●黒谷光子
初冬の色扱き混ぜて宮の杜★★★
土手行けば桜紅葉の降りかかる★★★★
村中の防災訓練寒き朝★★★

●福田ひろし
鰯雲妻は五十路に入りけり★★★★
少し年下の妻も五十路に入った。「これからともに五十路を歩みましょう」と、空高く広がる鰯雲を眺めて思う。「鰯雲」がいい。(高橋正子)

十里先冬野の鉄塔陽に光る★★★
一雨ごとに心温もる暮れの秋★★★

11月13日(6名)

●小口泰與
白波のみぎわを刷くや冬紅葉★★★
冬紅葉山を離れて雲迅み★★★

朝霜や朝の挨拶短けれ★★★★
朝霜が降りるようになると、人は口をつむりがちになる。朝の挨拶も、寒さの中では、つい短く。しかし、その短い挨拶があたたかい。(高橋正子)

●多田有花
山茶花に時おり吹いて山の風★★★
薄き陽に皇帝ダリア高く咲く★★★★
風の音電気ストーブを出しぬ★★★

●桑本栄太郎
もの思いしつつ落葉を踏みゆけり★★★★
落葉掃く後からあとへ落葉散る★★★
ひつじ穂のみのり哀しき野風かな★★★

●小西 宏
犬に服着せて落葉の風の中★★★
鈴懸の落葉駆けゆくゲートボール★★★★
冬晴れて高き柿の実仰ぎ見る★★★

●佃 康水
 広島帝釈峡へバスの旅
渦巻きて早瀬をいそぐ落葉かな★★★
峠越え嶺にたなびく冬の霧★★★
大銀杏古刹に黄葉散り敷きぬ★★★★

●古田敬二
芒刈る亡父使いし鎌をもて★★★★
かさこそと音して落ち葉の街路★★★
海の色に塩つけサンマ焼き上がる★★★

11月12日(7名)

●小口泰與
短日や仏壇とじて旅に出づ★★★★
冬天や小出しの星の磨かれし★★★
山風の雲をまろめつ花八手★★★

●河野啓一
青空に夕日集めて柿の赤★★★★
日没が急にやってくるまで、空は青く柿の実はあかあかと夕日を受けている。少し昔に帰れたような、暖かい風景だ。(高橋正子)

丘の辺の畑に無花果もぎし頃★★★
間引き菜を油であえてサラダかな★★★

●福田ひろし
有明の潟の海にも冬の雨★★★★
有明海は、潮の干満の差が大きく、干潟が広がって、さまざまな生物を育んでいる。その潟にも寒々と冬の雨が降って眺めを煙らせている。眺めれば気宇の大きくなるような広い景色だ。(高橋正子)

羽音だけ騒がしき鴨わずか飛ぶ★★★
眠たげな下弦の月はぼってりと★★★

●多田有花
青空に雲を探すや小六月★★★
黄蝶飛ぶ小春日和の中を飛ぶ★★★★
アスファルトを枯葉転がる音がする★★★

●桑本栄太郎
小雨降る在所は冬の紅葉かな★★★
括られて冬菊しとど濡れにけり★★★★
山崎の西国街道しぐれ来る★★★

●小西 宏
初冬の朝街灯の白き冴え★★★
冬日差し銀杏いよいよ黄の茂り★★★
黄昏の天より欅もみじ降る★★★★

●古田敬二
いずこから渡り来たるや鶫鳴く★★★
木洩れ日が届くま白に花八つ手★★★
立冬の陽はあたたかし森を行く★★★★

11月11日(7名)

●古田敬二
遠回りして故里を嗅ぐ枇杷の花★★★
蒼天が散らす紅葉の下にいる★★★★
頭上高く広がる紅葉の下にいると、紅葉は木が散らすのではなく、蒼天が散らすのだと思える。蒼天から降る紅葉が美しい。(高橋正子)

冬鳥の騒ぎし後は風の音★★★

●小口泰與
新築の木槌の音や夕焚火★★★★
白樺の上枝にまれの枯葉かな★★★
我がろう居風のきしみや冬に入る★★★

●黒谷光子
ここかしこ五六本づつ石蕗の花★★★
雪吊りに庭の景色の一変す★★★★
藁の衣と帽子蘇鉄の雪囲い★★★

●多田有花
運やツキやっぱりあるよ冬はじめ★★★
小春日の空の青さに小菊の黄★★★★
六甲も淡路も隠し冬霞★★★

●桑本栄太郎
身ほとりの色濃くなりぬ冬の雨★★★
石垣の雨に色濃き蔦紅葉★★★★
ワイパーの時折り振れる時雨バス★★★

●中野けいこ
曇天をなほ色濃くす寒鴉★★★
冬の日の小さき陽向ねこのやま★★★
秒針と雪降る音が響く夜★★★★

●高橋秀之
雨上がり冬めく朝に日が昇る★★★★
雨のあと、気温が急に下がり冬めいた朝を迎えた。太陽が溌剌と昇ってくるのも、冬を感じさせる景色。冬の太陽の勢いを「日が昇る」と力強く言い切った。(高橋正子)

鳴き声も足音もなく冬の朝★★★
店頭に並ぶポインセチアの赤い列★★★

11月10日(5名)

●小口泰與
夕暮の落葉かけ行く峠かな★★★
佐久鯉や浅間颪の夕間暮れ★★★
山茶花の風とむつみし赤城山(信之添削)★★★★

●多田有花
ベルリンの壁壊れしも初冬なり★★★★
冬浅き森の上ゆく風を聞く★★★
冬の蝶しばらく傍を飛びにけり★★★

●桑本栄太郎
<御所西、烏丸通りの護王神社>
和気公の護王神社や銀杏黄葉★★★
<護王神社境内特別舞台>
冷ややかに琵琶の語りの媼かな★★★
ひらひらと単衣山茶花開きけり★★★★

●高橋秀之
真っ白な小皿に大根おろし盛る★★★★
皿も真っ白、大根おろしも真っ白で、違うものが馴染みあって小さいながら白の世界を作っている。俳句形式は個人の何気ない驚きを表現するのが得意。(高橋正子)

大根の太きところをぶつ切りに★★★
大根の熱き煮物を吹き冷ます★★★

●小西 宏
大根の青首ならぶ黒き畝★★★
まだ少し濡れたる道の楢落葉★★★

足弾む落葉の匂い嗅ぎながら★★★★
林や山を歩くと落葉の匂いが、歩く楽しさを増してくれる。足が弾みどんどんと歩きたくなる。心身ともに軽やかだ。(高橋正子)

11月9日(5名)

●中野けいこ
かけまわる子まきあげる秋の色★★★
七竈見て口紅の色を変え★★★★
こんこんと咳がノックか冬将軍★★★

●小口泰與
冬霧の朝日に透ける山の木々★★★
小春日や木々のおちこち鳥の声★★★
佐久鯉のはねし彼方の冬もみじ★★★★
●河野啓一
箕面川流れの音も秋惜しむ★★★
生駒山風土記の丘や暮の秋★★★
空広く伯耆大山装えり★★★★

●桑本栄太郎
<京都御所観月>
うす闇の御所に色濃く夕紅葉★★★
夕闇を見上げ銀杏の黄葉かな★★★

玉砂利を踏みつつ待つや後の月★★★★
御所の観月は、さながら平安絵巻のようであろうと思う。さびしくも美しい後の月を玉砂利を踏む音とともに楽しまれた。(高橋正子)

●高橋秀之
短日や路面軌道をすれ違う★★★
冬空は薄雲広く隙間なく★★★
鋼索線紅葉の濃さが変わりゆく★★★★

11月8日(7名)

●古田敬二
地に落ちて白山茶花は色変えず★★★
秋の蝶鮮やか過ぎる黄色着て★★★
秋耕の背中へ届く優しき陽★★★★

●迫田和代
山あいの紅葉の上に青い空★★★
川土手の身にしむ寒さ道急ぐ★★★
白波の岩叩く音冬近し★★★★
私たちは、新しい季節の到来をいろんなところで感じる。移ろう季節を感じ取るのが俳句だと言えるが、この句もまさにそんな句。白波が岩を打つ音を聞き、またその様子を見、冬が近づいていることを感じた。(高橋正子)

●小口泰與
夕暮の赤城颪に屋根の揺れ★★★
冬帽や水の矢じりにたじろがず★★★
小春日や和紙に墨痕太き文字★★★★

●桑本栄太郎
<京都御所、後の十三夜>
松籟と月の名残の御苑かな★★★★
末の世は吾無き後の十三夜★★★
御苑なる吾も過客や後の月★★★

●小西 宏
一本の赤四手もみじ陽の明るさ★★★
アパートのベランダに柿干してあり★★★★
暮の秋欅の影を黄昏に★★★

●多田有花
立冬の満月昇る飯を炊く★★★
散りきって頂の木々雪を待つ★★★
渓流の音をたどりて冬紅葉★★★★

●高橋秀之
山門を過ぎれば紅葉の少しある★★★
初冬の山から近くに琵琶湖見ゆ★★★★
初冬の山に登る。そこの山からの眺めに琵琶湖がすぐ近くに見える。初冬の山のほっこりとした感じや、水を湛えた琵琶湖が間近に見えることは、生活に変化のある新鮮なことだ。(高橋正子)

暮れ早し浜大津港に船戻る★★★

11月7日(6名)

●小口泰與
ひつじ田へ数多の雀雨後の朝★★★★
返り花老いを潤おす趣味二つ★★★
山風のまして上州虎落笛★★★

●多田有花
着信がありて立冬の朝★★★★
少し冷え込む朝、携帯電話の着信音が鳴った。いつもより響く感じで、気づけば今日は立冬ということ。何気ないようだが、周囲の音によって、季節をとらえることもある。(高橋正子)

飛行機が冬の紅葉を渡りけり★★★
なだらかな山の連なり冬に入る★★★

●柴田蓮太郎
姪姉妹かわいい盛り秋嵐★★★★
紅葉と雲の切れ間に紫煙吐き★★★
タイヤ換え父に習いし日を想い★★★

●桑本栄太郎
<秋の京都御所開放見学>
菊飾る御車寄せや御所の庭★★★★
ほんものの御所車見し御所の秋★★★
主の在さぬ御常御所とや暮の秋★★★

●小西 宏
団栗を埋めてやわき橡道★★★
やまもみじ空近きより紅葉す★★★★
紅葉は、寒暖差のがあればあるほど美しく紅葉する。山もみじは、夜気が当たる天辺、空の近くから紅葉する。空を背景にもみじが映える。(高橋正子)

崖道の暗がり深く秋椿★★★

●高橋秀之
気が付けば嬉し恥ずかし小菊咲く★★★
陽は南小さい菊も同じ向き★★★

秋深し星の明るき帰り道★★★★
秋が深まり、空気もますます澄んできて、夜空の星も明るさを増す。帰宅の道に明るい星が出ていると、一日の疲れも、癒されよう。(高橋正子)

今日の秀句/11月1日-6日

[11月6日]
★破蓮の濠にあおぞら戻りけり/内山富佐子
破蓮の濠は、曇れば蕭条とした感じに、青空になれば、濠に青空が映りからっとした感じになる。「濠にあおぞら戻り」がうまい。(高橋正子)

★鮃そぎ明日立冬の静かさに/川名ますみ
透明感のある白い鮃の身がそがれ、明日は立冬という日の俎板にある。その存在感。(高橋正子)

[11月5日]
★紅葉の鍋割山(なべわり)も雨貯えし/小口泰與
鍋割山は、神奈川の丹沢山系や群馬県など、日本にいくつかあるようだ。鍋を割って伏せたような山か。その名前に昔話の雰囲気がある。雨が降るたびに季節が進み、紅葉の山となり、落ち葉の重なる沢道を歩けば、水が滲んでくる。「雨貯えし」が句を膨らませた。(高橋正子)

★獅子の舞う稲刈り終えし家の庭/祝恵子
農家の家々を訪ねて獅子舞がくる。稲刈りを終え、収穫への感謝と無病息災を願っての獅子舞であろう。獅子舞が来て一連の農作業が終わり、冬を迎える落ち着いた気持ちが読める。(高橋正子)

[11月4日]
秋高し一朶の雲を探しおり/福田ひろし
雲一つなく高かく晴れた空を見渡し、素晴らしさに感嘆すると同時に、どこかに一朶の雲がぽっかりと浮いているのではと思う。それほどまでに晴れているのだ。私もときにこのようなことがある。(高橋正子)

[11月3日]
★竹の春透けて樹林の明るさよ/祝恵子
周囲が秋色に染まるころ、竹は明るい葉をそよがせる。「竹の春」だ。周囲の樹林を明るくさせ、凋落の季節にほっとする明るさを与えている。(高橋正子)

★蕎麦刈るや山の夕日を巻きこみて/佃 康水
傾斜する山の蕎麦畑には、夕日が一茎一茎に絡むようあたる。蕎麦を刈るときは、「夕日を巻き込みて」、夕日ごと刈る感じだ。丁寧によく観察された句だ。(高橋正子)

[11月2日]
洛西の山里
★溝川の楽を聞き居り石蕗の花/桑本栄太郎
溝川の流れに沿うように石蕗の花が咲いている。流れの音を「楽」と聞き、今花咲くことを楽しんでいる石蕗の花だ。(高橋正子)

[11月1日]
★店々にハロウィンの子ら声高く/内山富佐子
アメリカのハロウィンでは、仮想した子どもたちは、家庭を回ってお菓子などをもらうが、日本では、商店街を回って「トリック オア トリート」と言ってお菓子をもらうようだ。晩秋の楽しい行事だ。(高橋正子)

★名城を丸ごとつつむ空高し/福田ひろし
晴れわたる秋空の中に堂々と聳える名城。空は、名城をすっぽりと包んで高くある。正岡子規にも郷里松山の城を詠んだ句がある。「松山や秋より高き天守閣」(高橋正子)

11月1日-6日

11月6日(8名)

●小口泰與
ひつじ田へ土鳩の群や朝まだき★★★★
朝露やまみえし朝日あかあかと★★★
夕暮の野川の鷺や冬支度★★★

●内山富佐子
破蓮の濠にあおぞら戻りけり★★★★
破蓮の濠は、曇れば蕭条とした感じに、青空になれば、濠に青空が映りからっとした感じになる。「濠にあおぞら戻り」がうまい。(高橋正子)

日の中に桜葉舞いて十一月★★★
お受験に幼キリリと秋麗ら★★★

●福田ひろし
朝寒や部屋に一筋陽の入りて★★★★
まぼろしの白銀の月息白し★★★
秒針のこちこち刻む夜寒かな★★★

●桑本栄太郎
<京都御所開放参観>
色変へぬ松のみどりの御苑かな★★★
すめらぎの在(ま)さぬ御所とや暮の秋★★★
秋日さす緑青あおき紫宸殿★★★★

●中野けいこ
焼き芋やくもりめがねを拭きもせず★★★
負け試合秋の夕日を背に受けて★★★
十三夜単身赴任の夫の背★★★★

●川名ますみ
鮃載せ夜食の飯をかがやかす★★★
潮汁掬うおたまに秋ともし★★★

鮃そぎ明日立冬の静かさに★★★★
透明感のある白い鮃の身がそがれ、明日は立冬という日の俎板にある。その存在感。(高橋正子)

●多田有花
一生に一度の後の十三夜★★★
冬隣る月の明るきテニスコート★★★
姿見を磨いて秋を惜しみけり★★★★

●早瀬鞘
学び舎が銀杏に染まる齢経る★★★
愛し君の林檎のほっぺ冬来たる★★★★
秋の香に憶える檸檬色の恋★★★

11月5日(7名)

●小口泰與
秋の山茜の雲のまつわるる★★★
鶺鴒や川原は風の吹くままに★★★

紅葉の鍋割山(なべわり)も雨貯えし★★★★
鍋割山は、神奈川の丹沢山系や群馬県など、日本にいくつかあるようだ。鍋を割って伏せたような山か。その名前に昔話の雰囲気がある。雨が降るたびに季節が進み、紅葉の山となり、落ち葉の重なる沢道を歩けば、水が滲んでくる。「雨貯えし」が句を膨らませた。(高橋正子)

●桑本栄太郎
 阪急河原町駅
紅葉見の人をはきだす地下出口★★★
 高槻平野~大山崎
秋夕焼け野から山へと送電塔★★★★
十字架の山粧いし天王山★★★

●河野啓一
秋の園幼子たちのかくれんぼ★★★★
黒大豆引いて枝ごと茹でにけり★★★
赤とんぼ止まれや止まれこの指に★★★

●黒谷光子
通る度見上ぐ神社の薄紅葉★★★★
薄もみじ真昼の日差しを零しおり★★★
山茶花の早も散り敷き樹下真白★★★

●多田有花
頂に座る頃なり秋深し★★★
青空と敗荷映す池の面★★★★
免許証更新にゆく冬近し★★★

●祝恵子
獅子の舞う稲刈り終えし家の庭★★★★
農家の家々を訪ねて獅子舞がくる。稲刈りを終え、収穫への感謝と無病息災を願っての獅子舞であろう。獅子舞が来て一連の農作業が終わり、冬を迎える落ち着いた気持ちが読める。(高橋正子)

押し花を選び貼りゆく冬隣★★★
巻き初む白菜続く畑の列★★★

●小西 宏
野葡萄の蔓まだ低く実も生らず★★★
家々の庭に錦秋少しずつ★★★
夫婦して梯子立ち上げ柿收む★★★★

11月4日(6名)

●小口泰與
我を見る犬の眼差し秋の暮★★★
眼間を霧に襲わる山路かな★★★
湯の町を包む朝靄虫の声★★★★

●多田有花
窓鳴らす風の音聞く冬隣★★★
いびつさを剥けば芳醇ラ・フランス★★★
晩秋の静かな日差しの中歩く★★★★

●桑本栄太郎
<河原町~四条大橋>
大橋をわたり南座秋しぐれ★★★
顔見世の早やも看板南座に★★★
せせらぎの底に色葉や高瀬川★★★★

●福田ひろし
秋高し一朶の雲を探しをり★★★★
雲一つなく高かく晴れた空を見渡し、素晴らしさに感嘆すると同時に、どこかに一朶の雲がぽっかりと浮いているのではと思う。それほどまでに晴れているのだ。私もときにこのようなことがある。(高橋正子)

阿蘇の野の社の水のさやかなり★★★
朗々と秋風に乗る祝詞かな★★★

●小西 宏
錦秋の市民公園フラフープ★★★
大欅ここぞとばかり紅葉す★★★★
コンビニのドアに黄菊の棚並ぶ★★★

●川名ますみ
横たわる鮃に秋の灯の一条★★★★
厨房に無言のひらめ暮の秋★★★
秋高し鮃の血抜き跡の紅★★★

11月3日(7名)

●小口泰與
鶺鴒や岩に次々渦纏う★★★★
鯉こくや小諸の城の夕紅葉★★★
見晴るかす靄につつまる夕紅葉★★★

●祝恵子
秋桜ポーズは決まり女学生★★★
竹の春透けて樹林の明るさよ★★★★
周囲が秋色に染まるころ、竹は明るい葉をそよがせる。「竹の春」だ。周囲の樹林を明るくさせ、凋落の季節にほっとする明るさを与えている。(高橋正子)

机上には鉛筆削りと柿ころぶ★★★

●多田有花
初めての動画を作る夜半の秋★★★★
秋深し試行錯誤が面白し★★★
昼間から飲んで街ゆく秋曇★★★

●佃 康水
 廿日市自然観察の森
(紅まんさくは県の天然記念物) 2句
紅葉して紅まんさくのハート型★★★
しろがねの葉裏光りて朴落葉★★★

蕎麦刈るや山の夕日を巻きこみて★★★★
傾斜する山の蕎麦畑には、夕日が一茎一茎に絡むようあたる。蕎麦を刈るときは、「夕日を巻き込みて」、夕日ごと刈る感じだ。丁寧によく観察された句だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
野分めく音に目覚める夜半かな★★★
大風の青き深空や文化の日★★★★
釣り人の湾処(わんど)に黙や鴨来たる★★★

●黒谷光子
秋しぐれ法衣を吊るす衣紋掛★★★
湖北路に文士の講演文化の日★★★
晩秋の両手に包む抹茶碗★★★★

●小西 宏
黄落の桂疎林を柔き風★★★
春は花今は紅葉の桜かな★★★
戦艦の街や南京黄櫨(なんきんはぜ)紅葉(もみじ)★★★★

11月2日(4名)

●小口泰與
白波のほぐれて黙の紅葉かな★★★
大沼の雑魚の群や秋澄めり★★★★
カーテンのほのと揺れたり湖の霧★★★

●河野啓一
天平の古きを偲ぶ秋祭り★★★
宮跡に飾る菊花の香りかな★★★
竿揺れてパクリとパンを運動会★★★★

●小西 宏
隔つ樹に糸を渡して秋の蜘蛛★★★
去年(こぞ)生まれし鴨帰り来て葦の茎★★★★
団栗の音聞きながら雨宿り★★★

●桑本栄太郎
 洛西の山里独り吟行
溝川の楽を聞き居り石蕗の花★★★★
溝川の流れに沿うように石蕗の花が咲いている。流れの音を「楽」と聞き、今花咲くことを楽しんでいる石蕗の花だ。(高橋正子)

人住まぬごとく静もり里の秋★★★
山茶花の坂の垣根の寺苑かな★★★

11月1日(5名)

●内山富佐子
店々にハロウィンの子ら声高く★★★★
アメリカのハロウィンでは、仮想した子どもたちは、家庭を回ってお菓子などをもらうが、日本では、商店街を回って「トリック オア トリート」と言ってお菓子をもらうようだ。晩秋の楽しい行事だ。(高橋正子)

干し柿の秋色カーテン雁木下★★★
新蕎麦を求めゆく道紅葉道★★★

●迫田和代
霧の中飛び込んでいく母の訃に★★★★
散る前の桜紅葉を心根に★★★
青い空赤白揃って渡り鳥★★★

●小口泰與
白樺の林に楓紅葉かな★★★
見晴るかす白樺林秋の空★★★
あけぼのの岸辺の紅葉靄に揺れ★★★★

●福田ひろし
名城を丸ごとつつむ空高し★★★★
晴れわたる秋空の中に堂々と聳える名城。空は、名城をすっぽりと包んで高くある。正岡子規にも郷里松山の城を詠んだ句がある。「松山や秋より高き天守閣」(高橋正子)

雨やみて十一月の町静か★★★
秋出で湯とりわけ太き息を吐く★★★

●桑本栄太郎
秋天の飛行機雲や二本の線★★★
青空にまぶしき銀杏黄葉かな★★★
園児らの花に語るや秋麗ら★★★★

今日の秀句/10月21日-31日

[10月31日]
★溝川の流れ豊かや芋水車/桑本栄太郎
掘りあげた芋を溝川の流れで小さい水車を回して洗うのが芋水車。たくさん獲れた芋を、豊かな溝川の流れで洗うのを見るのもうれしい。静かで豊かな里の風景だ。(高橋正子)

[10月30日]
★生駒嶺の黒きうねりや秋暮れぬ/桑本栄太郎
大阪・奈良市民に親しまれている生駒山。秋の夕暮には、その山容が黒くうねっているように見える。「黒きうねり」が、秋の夕暮をよく描写している。(高橋正子)

[10月29日]
★豆腐屋のラッパ響くや秋暮/内山富佐子
夕方、豆腐屋がラッパを鳴らしてやってくる。スーパーマーケットでなんでも揃う時代に、昔ながらの豆腐売りに、古き良き時代が思われる。(高橋正子)

★大根の田舎みやげは葉付きかな/桑本栄太郎
郷里の土産に、畑で出来た大根などをもらうのは、うれしい。畑から抜いたばかりの大根は、葉がふさふさと茂り、みずみずしくて、一本まるごと料理が楽しめる。(高橋正子)

[10月28日]
★種蒔いて揃い芽生えし朝かな/河野啓一
種を蒔いて数日過ぎた。芽生えを楽しみに待つと、朝のこと、揃って芽生えた双葉の露けきこと。驚きにも似た嬉しさと安堵の気持ち読み取れる。(高橋正子)

[10月27日]
★順番にバチを渡す子秋祭り/祝恵子
秋祭りの担い手に子どもがいる。順番にバチを手渡して、元気よく太鼓を打つのだろう。リズムに乗ってきびきびと動く。秋祭りを楽しむ子らだ。(高橋正子)

★掘り起こす甘藷や畝に赤々と/佃 康水
甘藷の収穫で特に嬉しく思うのは、土から掘り起こした甘藷が鮮やかな紅色であること。畝にその紅色が「赤々と」並び、収穫の喜びが伝わる。(高橋正子)

★蟷螂の路上を這える青きまま/小西 宏
秋になると蟷螂も枯れ色をしたのが眼に付く。ところが、路上に出てきた蟷螂がゆっくりとした動きだが、青きまま。「青きまま」が却ってあわれを誘う。(高橋正子)

[10月26日]
★高熱と医師の静けさ窓の秋/川名ますみ
高熱の作者を見守る医師の静かな態度に、人間的なやさしい慎重さが窺える。病室には秋空を見せる窓があって、これも静かだ。高熱を出しながらも冷静な詠みだ。お大事に。(高橋正子)

★走る間は潮の香りと秋の空/高橋秀之
マラソンなどで走るときは、何も考えず、ひたすら走る。海沿いを走れば潮の香りがしてくる。真っ青な秋の空が広がる。走る苦しさを超えて、爽快な自然が呼吸する体に直に触れてくる。
(高橋正子)

[10月25日]
★ 秋深し絵本に見入る子らの顔/内山富佐子
秋が深まると子どもたちも心が落ち着くのか、絵本を見るにも、見入るように見ている。その面持ちに、絵本の世界が子ども心にインパクトを与えていることを知る。(高橋正子)

★ 秋空や下に牧あり馬はねる/迫田和代
秋空の下に牧場が広がり、そこには馬が跳ねている。健やかで、さわやかな光景だ。(高橋正子)

★新しき街の秋気に仮装して/川名ますみ
「新しき街」は実際に新しく開発された街としたい。「仮装」して歩く人たちは、日本にも広まってきたハロウィンを楽しむ人たちなのだろう。日常から離れ秋気に「仮装」して歩くのも現実世界の中の新しい世界だ。(高橋正子)

[10月24日]
★秋播きの種直線に芽生えけり/古田敬二
播種がゆがむことなく、まっすぐに芽生え、美しい。秋播きなので、あたりの空気も澄み、風景のなかにも緊張感がある。揃って芽生えたことの嬉しさがさわやかに伝わる。(高橋正子)

★夕空にゴーギャンの青秋深し/福田ひろし
秋も深まり空の青さに感嘆することもしばしば。夕空を眺めれば美しい青色。その青を「ゴーギャンの青」と称えた。(高橋正子)

[10月23日]
★合歓の実の莢の白きや川風に/桑本栄太郎
優しい合歓の花が咲いたあとは、合歓の木は忘れられそうになるが、ふと気づくと季節は夏から秋への変わって合歓にも莢がつく。川風に吹かれていた花は今は白っぽい莢だ。川風にも淋しさが混じる。(高橋正子)
(高橋正子)

★栗ご飯湯気と山の香ほぐし盛る/佃 康水
栗ご飯は、まさに季節のご飯。炊き上がって釜の蓋を開ければ、湯気と栗ご飯のにおいが立ち上がる。杓文字でほぐしていただくのだが、栗ご飯の匂いを「山の香」と言ったのは、作者の感動。山から採ってきたばかりの新鮮な栗、都会ではない地方の生活がうかがえる。(高橋正子)

[10月22日]
★鶏頭のほむらや朝に群れて立つ/小口泰與
鶏頭の真っ赤な花が群れて、ほむらのように燃え立って咲いている。秋冷の朝の冷気がなお鶏頭を燃え立たせているのだ。鮮明な句。(高橋正子)

[10月21日]
★星月夜明日はよきこときっとある/内山富佐子
星月夜の美しさは、心を澄ませてくれる。見上げれば、明日はきっとよいことがあると思う。(高橋正子)

★新米の湯気鶏卵の殻堅し/小西 宏
新米の湯気の立つご飯を前にして、卵を割ると、卵の殻がコツンと音を立て固い。卵がいかにも新鮮。新米の香りもよくて、おいしい卵かけご飯に満悦。いい生活句だ。(高橋正子)

★高架路を幾たびまたぐ鰯雲/川名ますみ
高架路を幾たびも通って車が走る。高架路に出るたびに鰯雲の空に近付く。目的地など忘れてしまいそうな鰯雲の広がりだ。(高橋正子)

10月21日-31日

10月31日(4名)

●小口泰與
鶏頭や赤城の裾野まさやけし★★★
爽やかに交わりてゆく句会かな★★★
まさに今何時もの場所の紅葉かな★★★★

●小西 宏
黄葉広し欅並木の三車線★★★
柿の実もレモンもたわわ陽の中に★★★
先生はカッパ園児のハロウィーン★★★★

●桑本栄太郎
 洛西の山里独り吟行
溝川の流れ豊かや芋水車★★★★
掘りあげた芋を溝川の流れで小さい水車を回して洗うのが芋水車。たくさん獲れた芋を、豊かな溝川の流れで洗うのを見るのもうれしい。静かで豊かな里の風景だ。(高橋正子)

路地を逸れ里の庭なる柘榴の実★★★
つらなりて水辺さまようあきつかな★★★

●祝恵子
指で切る抜菜柔らか朝の汁★★★★
影を見て姿勢を正す秋の朝★★★
雲を背に鵙は鋭く高く鳴く★★★

10月30日(3名)

●小口泰與
秋ばらのまさしき香り朝の風★★★★
柿の実や禽の高音のおちこちに★★★
朝日浴ぶ白樺林虫の声★★★

●多田有花
頂を囲み光りし薄の穂
【添削】頂を囲み光れる薄の穂★★★★

新装の駅前広々秋の宵★★★
ほろ酔いで歩く夜寒の街路かな★★★

●桑本栄太郎
櫓田の青田の様となりにけり★★★
せせらぎの石橋慕い石蕗の花★★★

生駒嶺の黒きうねりや秋暮れぬ★★★★
大阪・奈良市民に親しまれている生駒山。秋の夕暮には、その山容が黒くうねっているように見える。「黒きうねり」が、秋の夕暮をよく描写している。(高橋正子)

10月29日(7名)

●小口泰與
のど飴をまさぐりおれば秋の風★★★
脚まげて横に寝る癖秋湿★★★
噴煙と黒雲交差破芭蕉★★★★

●河野啓一
秋の朝しんとしずまる木々の色★★★
銀杏の木黄葉の色を競う朝★★★★
秋深し能勢の里には猪(しし)が出る★★★

●小川和子
ハロウィンの南瓜に目鼻秋惜しむ★★★★
群青の空よ三日月童話めく★★★
赤とんぼ増え来る柵の陽だまりに★★★

●佃 康水
箱に詰めはち切れそうな熟柿かな★★★
捥ぎ(もぎ)竿を翁提げゆく柿の秋★★★
向き合うて海藻食むや初の鴨★★★★

●内山富佐子
豆腐屋のラッパ響くや秋の暮★★★★
夕方、豆腐屋がラッパを鳴らしてやってくる。スーパーマーケットでなんでも揃う時代に、昔ながらの豆腐売りに、古き良き時代が思われる。(高橋正子)

味噌汁の椀のぬくもり秋の夜★★★
薄皮に収まつている熟柿かな★★★

●桑本栄太郎
大根の田舎みやげは葉付きかな★★★★
郷里の土産に、畑で出来た大根などをもらうのは、うれしい。畑から抜いたばかりの大根は、葉がふさふさと茂り、みずみずしくて、一本まるごと料理が楽しめる。(高橋正子)

田舎より妻持ち帰る柘榴の実★★★
二連ほど柿のすだれやベランダに★★★

●小西 宏
黒船を眺めし丘の秋椿★★★
黄緑を銀杏に広げ秋深し★★★★
秋澄んで夕日に黒き富士の影★★★

10月28日(5名)

小口泰與
眼間に浅間山(あさま)や佐久の刈田道★★★★
朝風や金木犀のまぎれなし★★★
秋の暮捨てつちまをか鯨尺★★★

河野啓一
柿みかん笊に盛り上げ客迎え★★★
種蒔いて揃い芽生えし朝かな★★★★
種を蒔いて数日過ぎた。芽生えを楽しみに待つと、朝のこと、揃って芽生えた双葉の露けきこと。驚きにも似た嬉しさと安堵の気持ち読み取れる。(高橋正子)

柿の実は風に揺れつつ太りゆく★★★

桑本栄太郎
秋麗ら座席に着くや飴玉を★★★
稲滓火やけむり棚引く天王山★★★
稲株の焼かれ確たる刈田かな★★★★

多田有花
母のもぐ小さき柿を三つ食ぶ★★★
紅葉して低き峠の並木道★★★
三日月がかかる夜寒のテニスコート★★★★

小西 宏
柿熟れてどの家の庭も丘の上★★★★
陽の下に風の肘ゆく秋の青★★★
蘆刈の池の静けき鎌の月★★★

10月27日(8名)

●祝恵子
参道に続く刈田の道をゆく★★★
順番にバチを渡す子秋祭り★★★★
秋祭りの担い手に子どもがいる。順番にバチを手渡して、元気よく太鼓を打つのだろう。リズムに乗ってきびきびと動く。秋祭りを楽しむ子らだ。(高橋正子)

賑わいを後ろに残し秋の暮★★★

●小口泰與
新そばや小諸へ向かう峠道★★★★
雨まぎは赤城山の空を稲光★★★
朝鵙や赤城の裾野まぎれなし★★★

●佃 康水
今朝湾に鳴き声響く初の鴨★★★   
朝日浴び湾に鳴き合う初の鴨★★★
掘り起こす甘藷や畝に赤々と★★★★
甘藷の収穫で特に嬉しく思うのは、土から掘り起こした甘藷が鮮やかな紅色であること。畝にその紅色が「赤々と」並び、収穫の喜びが伝わる。(高橋正子)

●河野啓一
空青く車窓に古都の稲の秋★★★
秋暑し木犀の色香消え失せて★★★
もみじ鯛大きく跳ねて網の中★★★★

●桑本栄太郎
鳴き交わす梢見上ぐや小鳥来る★★★
蘆刈のひと鎌づつの揃えかな★★★
草の穂の絮に夕日の暮れゆけり★★★★

●高橋秀之
大皿に柿と五本の爪楊枝★★★★
薄紅葉一雨ごとに濃い色に★★★
秋時雨地下鉄出口の人だかり★★★

●古田敬二
妻の留守無骨に炊き上げ秋刀魚飯★★★★
澄みきって始まる紅葉を映す池★★★
秋の月尖る空行く宇宙船★★★

●小西 宏
蟷螂の路上を這える青きまま★★★★
秋になると蟷螂も枯れ色をしたのが眼に付く。ところが、路上に出てきた蟷螂がゆっくりとした動きだが、青きまま。「青きまま」が却ってあわれを誘う。(高橋正子)

崖深く淡き色なる秋椿★★★
紅葉の欅を見上げ山遠し★★★

10月26日(8名)

●小口泰與
あかあかと朝日出づるや水澄めり★★★★
目陰して谷川岳の紅葉かな★★★
朝寒や黒檜山(くろび)鍋割山(なべわり)彫り深し★★★

●河野啓一
鯊釣りし少年の夢遠かりき★★★
なかなかに成らぬこの道秋灯し★★★
軒下に杖突き立てば小鳥来る★★★★

●多田有花
見渡せば四方いずこも紅葉山★★★
ぶな楓みなもみじして頂に★★★★
倒木に腰掛けて見る紅葉山★★★

●桑本栄太郎
秋天を切り裂き行くや飛機の雲★★★
蘆の穂の彼方に嶺の青き空★★★★
葉脈の緋色透き居り秋西日★★★

●小西 宏
廃屋に窓ガラスあり蔦紅葉★★★
静やかに桂香れる黄葉道★★★
湯気に炊く飯に一椀きのこ汁★★★★

●古田敬二
がまずみの実に夕焼けの色宿る★★★
がまずみの実森一番に色づけり★★★★
一つ咲くさびしき秋の月下美人★★★

●川名ますみ
道を曲がれば大木に薄紅葉★★★
高熱と医師の静けさ窓の秋★★★★
高熱の作者を見守る医師の静かな態度に、人間的なやさしい慎重さが窺える。病室には秋空を見せる窓があって、これも静かだ。高熱を出しながらも冷静な詠みだ。お大事に。(高橋正子)

窓の秋となりの病棟の人も★★★

●高橋秀之
秋晴れとジャズのリズムでマラソンす★★★
ゴールしてまずはみかんを丸かじり★★★

走る間は潮の香りと秋の空★★★★
マラソンなどで走るときは、何も考えず、ひたすら走る。海沿いを走れば潮の香りがしてくる。真っ青な秋の空が広がる。走る苦しさを超えて、爽快な自然が呼吸する体に直に触れてくる。
(高橋正子)

10月25日(8名)

●内山富佐子
晩秋や槌音高く冬囲い★★★
秋深し絵本に見入る子らの顔★★★★
秋が深まると子どもたちも心が落ち着くのか、絵本を見るにも、見入るように見ている。その面持ちに、絵本の世界が子ども心にインパクトを与えていることを知る。(高橋正子)

朝七時校門前に落葉無し★★★

●小口泰與
鈴虫や長き影なす城の松★★★★
鶏頭や御朱印帳の太き文字★★★
ポリープは酒を好まず秋の暮★★★

●古田敬二
草蔭によろめく蟋蟀夕暮れる★★★
畝滑る翅を痛めし蟋蟀よ★★★
新しき零余子のレシピで夕餉とす★★★★

●迫田和代
薄紅葉周りの木々はまだ緑★★★
秋空や下に牧あり馬はねる★★★★
秋空の下に牧場が広がり、そこには馬が跳ねている。健やかで、さわやかな光景だ。(高橋正子)

秋の暮れ僅かに残る茜雲★★★

●桑本栄太郎
チャイム鳴る午後の校舎や秋麗ら★★★
木の実踏む足裏つづきし散歩かな★★★
一羽のみ水脈の広がり鴨来たる★★★★

●多田有花
虫の音の絶えて静かな夜となる★★★
中古車の並びいずれも露けしや★★★★
渓流の音背に黄葉の山へ★★★

●小西 宏
秋ひと日雑木林を歩きけり★★★
団栗の梢に音し転び落つ★★★
鈴虫を銀座露店で買いし事も★★★★

●川名ますみ
天高しハロウィンの子と女学生★★★
秋空へ化粧落とさず演劇部★★★

新しき街の秋気に仮装して★★★★
「新しき街」は実際に新しく開発された街としたい。「仮装」して歩く人たちは、日本にも広まってきたハロウィンを楽しむ人たちなのだろう。日常から離れ秋気に「仮装」して歩くのも現実世界の中の新しい世界だ。(高橋正子)

10月24日(5名)

●小口泰與
榛名山(はるな)にも陽と影ありし虫の声★★★
嬬恋の里も田じまい山粧う★★★★
はらからと松茸飯を別所の湯★★★

●桑本栄太郎
水滴の朝日に光り水木の実★★★★
バス待ちの並木通りや黄葉初む★★★
部屋の灯を点けて推敲秋ついり★★★

●多田有花
快晴の空がうれしき鵙高音★★★★
どの枝も重くしなりて柿たわわ★★★
よき日和朝日に光る草の露★★★

●古田敬二
秋播きの種直線に芽生えけり★★★★
野菊咲く入り口入れば森暗し★★★
秋播きの種に優しく土を載せ★★★

●福田ひろし
秋寒の夜泣きする子の母哀し★★★
夕空にゴーギャンの青秋深し★★★★
秋澄むや垣根の先から猫の声★★★

10月23日(7名)

●古田敬二
猫じゃらし活けられ茎はまっすぐに★★★
さらさらと心地よき音種を採る★★★★
街灯の夜風に穂芒白く揺れ★★★

●小口泰與
水の星水に犯さる葉月かな★★★
紅葉の奇岩の山へ登りけり★★★★
マカロンを食めばほろほろ穂草かな★★★

●河野啓一
麦の秋きらきら光り地平まで★★★★
麦秋や波輝やけるちぬの海★★★
船着き場波をかすめて鴎飛ぶ★★★

●多田有花
ジンジャーティ飲む晩秋の雨の午後★★★
霜降の快晴の空の深さかな★★★★
山の道尋ねられにし秋の昼★★★

●桑本栄太郎
舗道濡れかつら黄葉の雨に散る★★★

合歓の実の莢の白きや川風に★★★★
優しい合歓の花が咲いたあとは、合歓の木は忘れられそうになるが、ふと気づくと季節は夏から秋への変わって合歓にも莢がつく。川風に吹かれていた花は今は白っぽい莢だ。川風にも淋しさが混じる。(高橋正子)

ガラスは戸の外は黄明かり秋湿り★★★

●佃 康水
友訪う日桜紅葉の土手をゆく★★★ 
川土手の桜紅葉や魚の跳ぶ★★★

栗ご飯湯気と山の香ほぐし盛る★★★★
栗ご飯は、まさに季節のご飯。炊き上がって釜の蓋を開ければ、湯気と栗ご飯のにおいが立ち上がる。杓文字でほぐしていただくのだが、栗ご飯の匂いを「山の香」と言ったのは、作者の感動。山から採ってきたばかりの新鮮な栗、都会ではない地方の生活がうかがえる。(高橋正子)

●小西 宏
柿を剥く手にぬるぬると滑らせて★★★
綿入れを出して着てみる秋の雨★★★
雨音や旅の土産の今年酒★★★★

10月22日(4名)

●古田敬二
杜鵑草咲けば背低き母想う★★★
我が母は背低き人杜鵑草★★★
九人の命の母よ杜鵑草★★★★

●小口泰與
鶏頭や落暉に映ゆる浅間山★★★
藁塚や雀群たる夜のほどろ★★★

鶏頭のほむらや朝に群れて立つ★★★★
鶏頭の真っ赤な花が群れて、ほむらのように燃え立って咲いている。秋冷の朝の冷気がなお鶏頭を燃え立たせているのだ。鮮明な句。(高橋正子)

●河野啓一
はんなりとさくら並木はうすもみじ★★★
秋澄めり狭庭の池に魚の棲む★★★
山の辺の池に水脈引き鴨の群れ★★★★

●桑本栄太郎
ピヨピヨと秋の時雨の交叉点★★★
日が射せど秋時雨また秋しぐれ★★★
薄紅葉とはいえ朱色の一葉かな★★★★

10月21日(8名)

●古田敬二
風呼んで実りを揺らす猫じゃらし★★★★
もうあんなに秋のオリオン傾きぬ★★★
秋の海裂いてボートの直進す★★★

●小口泰與
雲脚の乱れコスモスほしいまま★★★
夕さりの秀つ枝の柿や禽の声★★★
印伝の靴を履きけり鱗雲★★★★

●内山富佐子
星月夜明日はよきこときっとある★★★★
星月夜の美しさは、心を澄ませてくれる。見上げれば、明日はきっとよいことがあると思う。(高橋正子)

秋の床日向の匂いに包まれて★★★
文化祭爺婆赤子父母親戚★★★

●桑本栄太郎
きのうより今日の色濃くうす紅葉★★★★
とんからり楽を奏でつ木の実降る★★★
暮れて尚灯りとなりぬ泡立草★★★

●多田有花
朴落葉大きを踏んで下りけり★★★★
コスモスの一面青空に揺れて★★★
焼き芋を売る声聞こえ初めにし夜★★★

●小西 宏
新米の湯気鶏卵の殻堅し★★★★
新米の湯気の立つご飯を前にして、卵を割ると、卵の殻がコツンと音を立て固い。卵がいかにも新鮮。新米の香りもよくて、おいしい卵かけご飯に満悦。いい生活句だ。(高橋正子)

はてここに何があったか猫じゃらし★★★
海棠の実の静かなり秋の雨★★★

●佃 康水
笙の音の洩れ来る園や秋惜しむ★★★  
水澄むや雁木に掛けてギター聞く★★★ 
色紅き無花果選りて捥ぎくれる★★★★

●川名ますみ
空高くおとぎ話のような雲★★★
高架路を幾たびまたぐ鰯雲★★★★
高架路を幾たびも通って車が走る。高架路に出るたびに鰯雲の空に近付く。目的地など忘れてしまいそうな鰯雲の広がりだ。(高橋正子)

秋雲の鱗一枚づつ暮れぬ★★★

今日の秀句/10月11日-20日

[10月20日]
★池の辺に楓紅葉の始まりぬ/多田有花
池の周辺から紅葉が始まった。高山でなければ、楓や桜がまず紅葉する。池の水が澄み、楓が紅葉する穏やかな光景だ。(高橋正子)

★分かれ道高き欅の紅葉す/小西 宏
分かれ道の目印のように聳える欅の木。燃えるような欅紅葉に威風堂々の風格がある。(高橋正子)

[10月19日]
★さわさわと波の白きに夜の薄/小西 宏
夜の湖畔の薄だろう。白い波がさわさわと寄せ風がある。薄の穂も波のように白く揺れる。波と薄に「さわさわとしたもの」を見た。(高橋正子)

★バッタ飛ぶパソコン置きし畳の間/祝恵子
秋日和のよい日が続く。バッタがどこから入ってきたのか、畳の部屋の広さを喜んで飛ぶ。畳の間には、パソコンという現代の生活機器があって、バッタが部屋を飛ぶのは現代生活の中。緑色のバッタのみずみずしさが印象に残る。(高橋正子)

★湖の波ほぐれし朝や蔦紅葉/小口泰與
湖の波がほぐれるとは、それまで波打っていた湖が、大変に凪いでさざ波となったということであろう。そんな朝を迎えて湖畔の蔦紅葉が赤く照り映えて、深まる秋の美しさを見せている。(高橋正子)

★秋深し低い脚立を柿の木に/河野啓一
柿の実もたわわに熟れて秋も深まった。家の庭の柿の木だろうが、その下に低い脚立が置いてある。柿の実を採るのに、少し背丈が足りない。その少し足りないのを補ってくるのが低い脚立。暮らしの一場面にユーモアがある。(高橋正子)

[10月18日]
★町も好き桜紅葉の道も好き/迫田和代
愛着のある町があるのは、素晴らしいこと。その町を彩る桜紅葉の道を辿れる楽しさが、人生を前向きに、また幸せにしてくれる気がする。(高橋正子)

[10月17日]
★法隆寺土壁崩れて彼岸花/古田敬二
法隆寺という立派なお寺でも、土壁が崩れている箇所があるのが意外だが、そういうこともあるのだろう。土壁が崩れたところに彼岸花が咲いて、斑鳩の里の古からの長い時間が感じられる。(高橋正子)

[10月16日]
★足元に火の粉一片秋夜の能/黒谷光子
薪能を楽しまれた。観能の席に夜寒さが忍び来る秋の夜、薪の火の粉が足元に飛んで来て、演じられている能と直接のかかわりが生まれた。火の粉が薪能を生き生きとさせている。(高橋正子)

★藁にほのそれぞれ持つや己が影/桑本栄太郎
藁におは、田んぼに立って、それぞれの形をして、立つ位置を動かない。日差しを受けてそれぞれが影をもつ。存在感がある藁におだ。(高橋正子)

[10月15日]
★橋いくつもくぐりて秋の隅田川/多田有花
隅田川を水上バスでゆくと橋をいくつもくぐる。なかでも清州橋はケルンの橋と呼ばれ、青いアーチが美しい。いろんな形の橋をくぐりながらの川下りは秋のうららかな日が堪能できる。(高橋正子)

[10月14日]
★蔓引きてほろほろ零す零余子かな/佃 康水
蔓を引っ張って零余子を採ろうとすると、零余子がほろほろ零れてしまった。零余子は十分に太って蔓から離れるばかりのとき。おいしい零余子飯にでもなっただろう。(高橋正子)

[10月13日]
★直立の日矢や藁塚一列に/小口泰與
朝早くだろう。山里などでは日が高く昇り、日矢は真上近くから差し込んでくる。それを「直立の日矢」といった。その日矢が一列に並ぶ藁塚に差し、山里は神々しいまでの朝だ。(高橋正子)

[10月12日]
★ざわざわと稲波打つや雲の無し/小口泰與
ざわざわと音が立つほど稲穂が揺れる稔田が輝かしい。空を見れば雲ひとつない。稲穂の黄金と、空の青さが対比され、明快なさわやかさが印象づけられる。(高橋正子)

[10月11日]
★鈴懸の毬のみどりや秋空へ/桑本栄太郎
鈴懸の葉が散るころには、鈴懸の毬のある丸い実が茶色なって青空に残る。今は秋の半ば、まだその毬がみどりだという。これからいよいよ秋も深くなる。(高橋正子)

10月11日-20日

10月20日(6名)

●古田敬二
恙無きこの一年よ色づく木の実★★★
幾度も屈む団栗道に輝けば★★★★
吹く風に素直になびく芒叢★★★

●小口泰與
山国の甲斐と信濃の紅葉かな★★★★
秋の夕庭に何しに出でしかな★★★
知恵の輪のように解れし秋の水★★★

●多田有花
頂に群れて小さき秋の蝶★★★
池の辺に楓紅葉の始まりぬ★★★★
池の周辺から紅葉が始まった。高山でなければ、楓や桜がまず紅葉する。池の水が澄み、楓が紅葉する穏やかな光景だ。(高橋正子)

秋晴れや日向の尾根の匂いする★★★

●桑本栄太郎
堰水の魚道きらめく秋の川★★★★
太竹の支えたわわや柿灯る★★★
鉄柵の囲む田中や街の稲架★★★

●高橋秀之
右腕にとまる秋の蚊そっと吹く★★★
雨宿り桜紅葉の下に立ち★★★★
秋時雨傘をさしかけることもなく★★★

●小西 宏
猛き風に髪振り乱す芒かな★★★
分かれ道高き欅の紅葉す★★★★
分かれ道の目印のように聳える欅の木。燃えるような欅紅葉に威風堂々の風格がある。(高橋正子)

秋にして西の空なる山の影★★★

10月19日(9名)

●古田敬二
青空へ段々畑の彼岸花★★★
九条を守れの看板彼岸花★★★
野に独りおればアカネの我に寄る★★★★

●小口泰與
片雲や豊かな朝の秋の山★★★
湖の波ほぐれし朝や蔦紅葉★★★★
湖の波がほぐれるとは、それまで波打っていた湖が、大変に凪いでさざ波となったということであろう。そんな朝を迎えて湖畔の蔦紅葉が赤く照り映えて、深まる秋の美しさを見せている。(高橋正子)

左えと靴の減り癖西鶴忌★★★

●河野啓一
歓声の湧いて広間は”運動会”★★★

秋深し低い脚立を柿の木に★★★★
柿の実もたわわに熟れて秋も深まった。家の庭の柿の木だろうが、その下に低い脚立が置いてある。柿の実を採るのに、少し背丈が足りない。その少し足りないのを補ってくるのが低い脚立。暮らしの一場面にユーモアがある。(高橋正子)

縄文の頃もかくやと栗焙る★★★

●多田有花
晩秋や朝の布団の心地よし★★★
秋高し鳶が虚空に輪を描く★★★
竹田城桜紅葉のその向こう★★★★

●桑本栄太郎
水底のような一天秋深む★★★
朴の葉の落ちて白きや秋寒し★★★
街中のビルの谷間や稲穂垂る★★★★

●小川和子
石蕗咲いて季節移ろうこと知れり★★★
個展なる画廊の庭の石蕗の花★★★
秋時雨して待ち合わす八重洲口★★★★

●高橋秀之
かけっこと大きな青空運動会★★★★
運動会保護者席からの大歓声★★★
チラ見する隣の弁当運動会★★★

●小西 宏
鰯雲吸い込む如く寝湯にいる★★★
さわさわと波の白きに夜の薄★★★★
夜の湖畔の薄だろう。白い波がさわさわと寄せ風がある。薄の穂も波のように白く揺れる。波と薄に「さわさわとしたもの」を見た。(高橋正子)

秋烏賊の漁火消えて朝日赤し★★★

●祝恵子
子の誕生メール飛びくる秋晴れに★★★
バッタ飛ぶパソコン置きし畳の間★★★★
秋日和のよい日が続く。バッタがどこから入ってきたのか、畳の部屋の広さを喜んで飛ぶ。畳の間には、パソコンという現代の生活機器があって、バッタが部屋を飛ぶのは現代生活の中。緑色のバッタのみずみずしさが印象に残る。(高橋正子)

鉢水にぽろぽろと落ち式部の実★★★

10月18日(5名)

●古田敬二
秋冷やパン焼く香りに目覚めけり★★★★
廃校に鹿撃ち集まり国訛り★★★
枯れ切って自然薯零余子こぼしけり★★★

●迫田和代
町も好き桜紅葉の道も好き★★★★
愛着のある町があるのは、素晴らしいこと。その町を彩る桜紅葉の道を辿れる楽しさが、人生を前向きに、また幸せにしてくれる気がする。(高橋正子)

新米を鯛飯にして豊かさを★★★
雀達横目でながめ刈田道★★★

●黒谷光子
紅葉山みて海を見てバスの旅★★★★
紅葉を見上げ潜りて札所寺★★★
バス連ね参拝の旅秋うらら★★★

●小口泰與
はらはらとさくら紅葉や黙の中★★★★
朝顔やますます盛ん日の光★★★
振舞の松茸飯も杣の宿★★★

●桑本栄太郎
<秋の天王山夕景>
紅白の鉄塔空へうろこ雲★★★★
秋日さす坂の山崎大黒天★★★
青空ののこる茜やいわし雲★★★

10月17日(6名)

●古田敬二
秋の陽に百済観音背はすらり★★★
観音像裳裾へ秋の陽の届く★★★

法隆寺土壁崩れて彼岸花★★★★
法隆寺という立派なお寺でも、土壁が崩れている箇所があるのが意外だが、そういうこともあるのだろう。土壁が崩れたところに彼岸花が咲いて、斑鳩の里の古からの長い時間が感じられる。(高橋正子)

●小口泰與
コスモスや風を踏まえし赤城山★★★★
捨てかねる古りし文机(ふずくえ)墓参★★★
ふためいてごくりと酌むや今年酒★★★

●河野啓一
梨剥けば滴る果汁甘き香に★★★
松茸を押し頂いて口に入れ★★★
夕日浴び柿燦然と青き空★★★★

●多田有花
えのころの枯れて朝日に輝けり★★★
シリアルを温め初めしそぞろ寒★★★
爪を切る秋の夕陽を浴びながら★★★★

●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランドへ>
秋潮の空へと進むモノレール★★★★
見下ろせば眼下に光る秋の潮★★★
岸壁のクレーンそろり秋の潮★★★

●小西 宏
柵に寄る釧路湿原赤とんぼ★★★★
吊り橋を揺らして渡る楢黄葉★★★
山遠く瑞々しきや草紅葉★★★

10月16日(5名)

●小口泰與
開きたる本の福神霧襖★★★
湯煙のなびく川原やきりぎりす★★★★
鈍色の雲や刈田の群鴉★★★

●古田敬二
団栗へ幼な心の手が伸びる★★★
秋蝶の息するたびに羽ばたけり★★★
来るたびに銀色増せり芒叢★★★★

●黒谷光子
薪能果てし家路の夜寒かな★★★

足元に火の粉一片秋夜の能★★★★
薪能を楽しまれた。観能の席に夜寒さが忍び来る秋の夜、薪の火の粉が足元に飛んで来て、演じられている能と直接のかかわりが生まれた。火の粉が薪能を生き生きとさせている。(高橋正子)

長々と提灯行列秋祭り★★★

●桑本栄太郎
遙かまで嶺の青さや野分晴れ★★★
コスモスの田道を歩む女子高生★★★

藁にほのそれぞれ持つや己が影★★★★
藁におは、田んぼに立って、それぞれの形をして、立つ位置を動かない。日差しを受けてそれぞれが影をもつ。存在感がある藁におだ。(高橋正子)

●小西 宏
雌阿寒の初冠雪に空無窮★★★★
秋風の少し冷たき牛の牧★★★
色鳥のほろと彩葉を零すなり★★★

10月15日(4名)

●小口泰與
ふくよかな腹をなぜけり秋惜しむ★★★
ぬれ煎の歯ごたえ好し鉦叩★★★
歌舞伎揚げざくっと噛むや秋の空★★★★

●河野啓一
日を透かし浅黄色して銀杏立つ★★★
いろいろな茸炊き込みきのこ飯★★★
銀色の肌ぞ美しさんま焼く★★★★

●桑本栄太郎
柿の実のたわわに撓る夕日かな★★★
口先の尖り黄色やさんま焼く★★★
ひと茹での渋皮剥きて栗御飯★★★

●多田有花
橋いくつもくぐりて秋の隅田川★★★★
隅田川を水上バスでゆくと橋をいくつもくぐる。なかでも清州橋はケルンの橋と呼ばれ、青いアーチが美しい。いろんな形の橋をくぐりながらの川下りは秋のうららかな日が堪能できる。(高橋正子)

嵐去り虫の音戻る深夜かな★★★
柚子の香の残りし指でキーを打つ★★★

10月14日(5名)

●小口泰與
吹かれたる黄土色なる刈田かな★★★
星空や馥郁とたつ金木犀★★★★
不器量な犬と共にや金木犀★★★

●河野啓一
野分立ち雨音騒ぐトタン屋根★★★
豪雨連れ列島縦断スーパー台風★★★
野分去り狭庭の朝日おだやかに★★★★

●佃 康水
蔓引きてほろほろ零す零余子かな★★★★
蔓を引っ張って零余子を採ろうとすると、零余子がほろほろ零れてしまった。零余子は十分に太って蔓から離れるばかりのとき。おいしい零余子飯にでもなっただろう。(高橋正子)

蓋取りてぽっと野の香や零余子飯★★★
回りくる獅子に噛まれて秋祭り★★★

●桑本栄太郎
水澄みてせせらぎ光る高瀬川★★★
穂芒の中洲となりぬ桂川★★★★
狼藉の沙汰を尽くすや野分去る★★★

●小西 宏
窓すべて台風一過朝眩し★★★
台風の名残や森の騒がしき★★★
台風の過ぎにし後の青落ち葉★★★★

10月13日(3名)

●小口泰與
ひねもすを史記に陥り秋湿★★★
直立の日矢や藁塚一列に★★★★
朝早くだろう。山里などでは日が高く昇り、日矢は真上近くから差し込んでくる。それを「直立の日矢」といった。その日矢が一列に並ぶ藁塚に差し、山里は神々しいまでの朝だ。(高橋正子)

ひるがえる葉に朝露一閃す★★★

●桑本栄太郎
秋暑し足場の囲む高架線★★★
新駅の上はバイパス秋日さす★★★
藁塚の田の賑わいに夕日かな★★★★

●高橋正子
月ひとつ霧に滲んで高くあり★★★★
空耳と思えど里の祭笛★★★
銀杏を割って永久のみどり色★★★

10月12日(4名)

●小口泰與
ざわざわと稲波打つや雲の無し★★★★
ざわざわと音が立つほど稲穂が揺れる稔田が輝かしい。空を見れば雲ひとつない。稲穂の黄金と、空の青さが対比され、明快なさわやかさが印象づけられる。(高橋正子)

畦道へ置かれしままの案山子かな★★★
刈小田の日向くさかり山の風★★★

●桑本栄太郎
錦木の紅葉いよいよ緋色透く★★★
殻開き花咲くごとく椿の実★★★
草の穂や湿りをふふむ風に会う★★★★

●高橋信之
台風の来る緊張がわが街に★★★
台風来つつありパソコン画面の緊張★★★
台風の眼がある今日のパソコンに★★★★
台風の眼をレーダーが捉え、地上に送ってくる。その天気図が今日では家に居ながらにしてパソコンで見られるようになった。当然、それを詠んだ句も登場する。(高橋正子)

●高橋正子
銀杏を割れば翡翠のみどり出づ★★★
夜寒さに台風遠く海上に★★★
ガラス窓磨けば秋風そうそうと★★★★
「そうそう」は、「錚錚」の意とした。「金属や楽器が澄んだ音を発するさま」である。「ガラス」を磨けば、「秋風」はますます澄んだ音を立てる。秋の季を詠んだ佳句。(高橋信之)

10月11日(3名)

●小口泰與
稲雀塊り立つや風倒田★★★
あけぼのの稲田一枚ごとの色★★★
木犀や今朝の赤城の彫り深し★★★★

●桑本栄太郎
鈴懸の毬のみどりや秋空へ★★★★
鈴懸の葉が散るころには、鈴懸の毬のある丸い実が茶色なって青空に残る。今は秋の半ば、まだその毬がみどりだという。これからいよいよ秋も深くなる。(高橋正子)

さみどりの風に添い居り萩は実に★★★
葉の落ちて実を翳しけり柿の艶★★★

●河野啓一
あの孫が嫁迎う歳や菊香る★★★
歩み出す若き二人よ秋薔薇★★★★
日溜まりに憩う秋蝶と吾と★★★