11月10日(1句)
★初時雨傘打つ音の程もなく/廣田洋一
時雨はさっと降って上がったり、夕立のように強く降ったり、雨脚が移動するのが見えたり、趣のある雨。初時雨は傘を打つ程の音も立てなかった、というのだ。初時雨らしく、顔見世と思うような降り方だった。(髙橋正子)
11月9日(1句)
★落葉踏む音に帰宅を知りにける/小口泰與
落葉が降り積もった玄関までの路。出かけていたのは妻だろうか。落葉を踏む音がすると、「あ、帰ってきた」と帰宅を知る。足音で誰とわかるのだろう。冬の初めの家族のあたたかさが知れる。(髙橋正子)
11月8日(1句)
★底抜けに晴るるあおぞら冬日さす/桑本栄太郎
快晴の冬空を読んだ句。あまりにもよく晴れた空を「底抜けに晴るる」と言った。手放しの喜びようだ。冬の日はこんな晴がうれしい。(髙橋正子)
11月7日
該当句無し
11月6日(1句)
★陽に風に芒吹かれるばかりなる/多田有花
秋も深まる野に、陽にも風にもが芒が吹かれている。自然の静かさと明るさが感じられる句。自然そのままの芒がいい。(髙橋正子)
11月5日(2句)
★整然とひつじは風に吹かれおり/多田有花
ひつじは漢字で穭と書く。稲の刈り株から芽生えた新芽のこと。稲の株あとから芽生えた「ひつじ」は整然としている。丈低くも、整然と晩秋の風にそよぐ「ひつじ」に心を寄せた句。(髙橋正子)
★冷まじや湯気白々と露天の湯/廣田洋一
「冷まじ」は「すさまじ」と読み、この句では、この季語がよく効いている。晩秋、気温が急に下がると、露天風呂に湯気が白々とあがっているが、肌が知るのは「冷まじ」の感覚。(髙橋正子)
11月4日(2句)
★再びは生まれこぬ世や秋惜しむ/小口泰與
現実は、この世には再び生まれてこない。そう思うと、この秋が惜しまれる、というのだ。秋のわびしさ、もの悲しさは古来和歌に詠まれ、それが受け継がれて日本人のだれもが感じる感情となっている。そういう秋は命が惜しまれるのだ。(髙橋正子)
★豪雨止み一安心の秋夕焼/廣田洋一
最近の雨の降り方は、台風や嵐というものでなくても、豪雨となって災害を方々で起こしている。豪雨が止んで夕焼けが見られると、安心を覚え、美しい夕焼けを眺めるのである。「一安心」には実感がこもっている。(髙橋正子)
11月3日(1句)
★嵐去り今朝のあおぞら冷ややかに/桑本栄太郎
激しく荒れた嵐のあとに、あおぞらが、冷ややかに静かに広がっている。清涼で深い心持になる句。(髙橋正子)
11月2日(1句)
★郵便の間に挟まり赤い羽根/上島祥子
さりげなく郵便物の間に挟まっている赤い羽根に、心にほっと灯が灯るような感じがする。詠みかたが、素直でいい。
赤い羽根共同募金は、10月1日から翌年の3月31日が募金期間で、戦後地域の社会福祉のために始まった。だれもが幸せに暮らせることを願う募金。(髙橋正子)
11月1日(2句)
★水音を間近く聞けり貴船菊/多田有花
貴船菊は、秋明菊とも呼ばれる。赤紫色の細い菊のような花びらをもつのが、もともとの貴船菊である。最近は花びらが少ない白い花が多くなっている。楚々とした姿に、水音が添うのもゆかしい。(髙橋正子)
★神在りの月の出雲や海荒るる/桑本栄太郎
出雲の神在りの月は、十月になる。「そのころの出雲は、海が荒れるのですよ。」という句意。「神在りの月」の「月」は「月の出雲」のようになり、修辞的な面白さがある。さりげないようだが、実感がこもっている。(髙橋正子)