8月10日(5名)
小口泰與
桔梗や殘雨の峠七曲り★★★★
葛咲くや資材置き場のクレーン車★★★
湖の朝の山気や沢桔梗★★★
廣田洋一
遊行寺や秋田の踊り披露さる★★★★
遊行寺は藤沢にある、踊念仏で知られる一遍上人のお寺。遊行の盆として日本三大盆踊のひとつ秋田県の「西馬音内(にしもない)盆踊り」が披露されたのだろう。盆踊りは一遍上人の踊り念仏に行きつくと言われることもあって、盆の祈りと共に楽しまれたことだろう。(髙橋正子)
久し振り踊る櫓のしつらわれ★★★
七夕や子らの希望は宇宙旅行★★★
多田有花
享保の木彫り彩る秋の社★★★
集落は秋の棚田とともにあり★★★★
木造の旧役場支所秋浅し★★★
桑本栄太郎
暁闇のどこか遠くに威し銃★★★★
新涼のラジオ体操妻の朝★★★★
「妻の朝」がいい。朝の家事をする妻ではなく、まず「新涼のラジオ体操」をする。さわやかな妻の姿が浮かぶ。(髙橋正子)
日暮れ居て熱き風吹く残暑かな★★★
弓削和人
垣越しや石榴が熟すをととのえて
「ととのえて」が分かりにくいです。(髙橋正子)
高き日に八月の風交じりけり★★★
雑魚の群れ過ぎゆく秋の川瀬かな★★★
8月9日(6名)
小口泰與
朝顔や左ひだりと宙とらふ★★★
弟切草餌を求めて禽の翔つ★★★
メール音響く湖畔や女郎花★★★
多田有花
八月の石鉢にメダカ群れ泳ぐ★★★★
八月といえば、暑さのなかにも秋の気配が感じられる時。石鉢に張られた水が涼しそうで、メダカの群れが泳いで気持ちよさそうだ。(髙橋正子)
新涼や鎮守の森に入りたれば★★★
谷川の水が水追い秋に入る★★★★
廣田洋一
実朝祭吹き来る風の爽やかに★★★★
父帰宅井戸より上げる大西瓜★★★
西瓜に塩を振る馬鹿振らぬ馬鹿★★★
桑本栄太郎
さるすべり団地を囲み紅あまた★★★
(さるすべりの団地を囲み紅あまた)
長崎忌なみだ滲みぬマリア像★★★
(マリア像の眼に涙とや長崎忌)
日暮れたる峰の西山残暑かな★★★
友田 修
秋立ちて風の動きに驚きぬ★★★
立秋を確かに風に感じけり★★★
世田谷の蜻蛉横切る日暮れかな★★★★
世田谷は戦後生活の街として発展してきた。昭和20年には人口30万で、竹やぶが残っていた話を聞く。今は景観を重視した街づくりがなされているようだ。「世田谷の蜻蛉」がすっと横切った。もう日暮れなのだ。懐かしい風景が目の前にふっと現れたような気持ちになる。日暮れが余計にそうさせる。(髙橋正子)
弓削和人
秋暑し仔虫家居へ入り込み★★★
まな板の音がする秋よその窓★★★★
稲妻のありやすなわちお天道様★★★
8月8日(6名)
小口泰與
朝顔や榛名曇れば利根晴るる★★★
夕立や山語らえば利根答う★★★
萱草の畦に咲きたる足尾線★★★★
廣田洋一
銀(しろがね)の光そよげる芒原★★★★
ぎらぎらと立秋の日が昇りけり★★★★
今年は8月7日が立秋だった。いつもの年なら、暑いと言いながらも空や雲に秋の気配が感じられるのに、世情不安もあってか、不快さの混じる立秋だったと思う。「ぎらぎらと」は、立秋に相応しくないようだが、実際の実感として強く訴えて来た。(髙橋正子)
デザートに西瓜一切れ瑞々し★★★
多田有花
古民家のパン工房や秋立つ日★★★
新秋の座敷に座卓のどっしりと★★★
薪で焼くパン工房に今日の秋★★★
弓削和人
新涼や左官河川を見て食す★★★★
秋空の電柱を仰ぐ工事かな★★★
秋立つやフードコートへ日がさして★★★
桑本栄太郎
お供えの手配終えたる盆用意★★★
しま柄の無くて甘きや真桑瓜★★★
辻曲がり出会いがしらや鬼やんま★★★
8月7日(5名)
小口泰與
片時の日照雨や木木の落し文★★★
ほうたるや天を傾く地震の音★★★
郭公や妻のかたえのアームチェア★★★★
郭公の声が聞こえるところ。誰も座っていないアームチェアの傍にいる妻。妻はもう一つの並んだアームチャアに座っているのではないかと想像する。面白い着眼。夫婦がゆっくり過ごす山の時間を思った。(髙橋正子)
廣田洋一
夏越の茅の輪くぐりて風を受く★★★★
夏越祓形代抱きし若夫婦★★★
秋立つや全天覆ふ雲の有り★★★
多田有花
夜明け前の雷鳴続く今朝の秋★★★
立秋や今日の献立黒板に★★★★
「黒板」が楽しい。毎日黒板に献立が書き替えられるのだろう。楽しみな黒板である。立秋の今日は食欲が湧きそうな献立か。(髙橋正子)
立秋の光の中の天井扇★★★
桑本栄太郎
立秋の朝の静寂や朝烏★★★
大山の峰に傘雲今朝の秋★★★
普羅の忌や想い出で募る伯耆富士★★★
弓削和人
うき草の水面びっしり池の縁★★★
夏の鯉はねるや池の干上がりて★★★
夏日陰鳥居くぐりて露天商★★★
8月6日(5名)
小口泰與
蒼天を泳げ泳げよ若き友★★★
農婦より賜わる茄子の温きかな★★★
鳴り渡るかんかん石の風鈴よ★★★
廣田洋一
国連事務総長を動かしたるや広島忌★★★
南洋にてミサイル飛びし広島忌★★★
広島忌軍手で抜きぬ庭の草★★★
多田有花
神戸牛入れて真夏のすき焼きを★★★
夏の夜の夢に不思議な生きもの★★★
原爆忌昼の窓辺に虫の声★★★★
原爆忌は広島が8月6日、長崎が8月9日。このころは立秋前後であって、暑いながらも、ふとしたところに秋の気配が感じられるようになる。昼の窓辺から虫の声が聞こえ、哀愁を帯び、原爆忌を悼んでいるようにも聞こえる。(髙橋正子)
桑本栄太郎
八月の青空哀し原爆忌★★★
ピカドンの今も広島原爆忌★★★
忘れえじあの娘逝きし日芙蓉咲く★★★
弓削和人
夕立晴サイドミラーに蔓ひかる★★★
太鼓の音きこゆ校舎や夏の宵★★★
休校や植木に張るる蜘蛛の糸(原句)
「張る」は、ラ行四段活用で、「張(は)」が語幹です。ご確認ください。
8月5日(5名)
小口泰與
落葉松や夏霧生まる峡の渓★★★★
あっさりと情景を詠んだ句だが、句の景色がいい。繊細な落葉松のを包むように夏霧が生まれる峡の渓。秋には落葉松は金の葉を降らすことになる。(髙橋正子)
利根川の白波尖り夏の果★★★
中天へみんみん鳴くよ雨後の沼★★★
多田有花
夕立の残してゆきし空気かな★★★★
宵の月夕立雲の去りしあと★★★
白雨いっとき激しく屋根を打つ★★★
廣田洋一
夏の旅知床の地を満喫す★★★
風鈴のかたとも言はぬ昼下り★★★
湘南の風に応へし南部風鈴★★★
桑本栄太郎
涼風の窓より来たる雨のあと★★★
雨上がり又も鳴き出す蝉しぐれ★★★
ひぐらしやハタと手を置くあかね空★★★
弓削和人
緑負う駅員直く指を差し★★★
夜店あり瞑りて過ぎる通過駅★★★★
通過駅は、急行の止まらない小さな町の駅。ちらと見えた町に夜店が出ている。それも疲れて眼をつむったまま通り過ぎる。眼裏には記憶のなつかしい夜店の風景が見えたことだろう。(髙橋正子)
傘の柄をにぎる拳や大夕立★★★
8月4日(6名)
小口泰與
空耳か夜の闇破る滝の音()
「空耳」と「破る」が不似合いな感じなので添削しました。
空耳か夜の闇より滝の音★★★★(正子添削)
「滝の音」の大きさは読者の読みに任せます。意外と大きい籠ったような音かもしれないし、遠くに聞こえる定かでない音かもしれません。(髙橋正子)
軒並みに向日葵倒る驟雨かな★★★
舐めるよう田をとび回る夏燕★★★
廣田洋一
短夜に終わらぬ夢をまた見たり★★★
夏の夜薄きパジャマをおろしけり★★★
いつまでも夜は来ぬ夏オスロかな★★★
多田有花
秋近し小さき辞書を買い求め★★★★
干しものを乾かす真夏の陽と風と★★★
夕立ち接近左前輪パンクする★★★
桑本栄太郎
いつまでも雨の降らざり雷走る★★★
西山の虹の彼方や晴れ来たる★★★
雨止めば黒雲のこるあぶら蝉★★★
川名ますみ
襟足にあたる剃刀夏の雲(原句)
「剃刀」と「夏の雲」が並ぶと、情景としてかけ離れすぎる感じです。
剃刀のあたる襟足夏の雲★★★★(正子添削)
夕立晴ベリーショートへ最後の刃★★★
髪切りぬ胡瓜どっさり冷や汁に(原句)
髪切って胡瓜どっさり冷や汁に★★★★(正子添削)
冷や汁はいろんな具で栄養が補給され、食欲が落ちる夏に冷たい汁を飯に掛けた料理はさっぱりとうれしい。髪を切ってさぱっりし、胡瓜をどっさり入れて爽やかな匂いの冷や汁にさらに元気が湧くというもの。(髙橋正子)
弓削和人
夏一点雲なき空へ天守閣★★★
冷めんや塩ふくシャツへ風吹きて★★★★
白鷺が潮揺れもせず立ちにけり★★★
8月3日(5名)
小口泰與
相宿の鮎釣り人は今朝坊主★★★
青田まで近き背戸なり水の音★★★★
ひと筋の湖へ入日や一夜酒★★★
廣田洋一
トマトの皮切れなくなりて庖丁研ぐ★★★
大玉のトマトを切りてデザートに★★★
ともかくも喉の渇大暑かな★★★
多田有花
虫の音の聞こえ初めにし夜の秋★★★
新しい朝連れてくる蝉の声(原句)
新しい朝を連れくる蝉の声★★★★(正子添削)
リズムがいいほうがいいかな、と思い添削しました。
夏の朝は蝉の声からはじまるが、日々くる朝を新しいと思えば、何事も新鮮で、爽やかで、生き生きと五感が感じ取ってくれる。蝉の声を聞いて、新しい朝を連れて来てくれたのだと感じた潔い心持ちがいい。(髙橋正子)
渡る日は近し群れたる夏燕★★★
桑本栄太郎
塩飴を舐めて投句の酷暑かな★★★★
午後からは膚を焼くかにあぶら蝉★★★
夕暮れの空掻きならし喜雨ありぬ★★★
弓削和人
電灯の先なる路や夏の夜★★★
玉苗をつっきる畦や漕ぐペダル(原句)
玉苗をつっきる畦やペダル漕ぐ★★★★(正子添削)
この句では、「玉苗をつっきる畦」と「漕ぐペダル」二つがテーマになっています。俳句の都市伝説として、「中が八音になるのはいけない、終わりは体言にするのが効果的」などと言われているのを聞いている思いますが、それはケース・バイ・ケースで、俳句の本質ではありません。(髙橋正子)
高架橋くぐる列車に夏日射し★★★
8月2日(6名)
小口泰與
化粧塩振られし鮎の我が膳に★★★
黒揚羽嬉々として來る水溜★★★★
黒揚羽を見かけるといかにも夏の蝶という固定的な印象をもつが、この黒揚羽は、心躍らせて、「嬉々として」水溜にやって来て水を飲んでいるのだ。そんな揚羽を見ると嬉しいではないか。(髙橋正子)
美麗なる一ノ倉沢蟻地獄★★★
廣田洋一
忘れゐし松葉牡丹の赤き花★★★
打水や黒く染み込むアスファルト★★★
打水や人を迎える少し前★★★
桑本栄太郎
買い物の翁日傘の戻りけり★★★
山の端の入日あかねやあぶら蝉★★★
かなかなや入日茜の山の端に★★★
多田有花
晩夏光ココアの味のプロテイン★★★
明けてくる中へひぐらし鳴き始め★★★★
病院の庭には白き百日紅★★★
弓削和人
夾竹桃高し民家にそそり立ち★★★
日車のノックアウトのように垂れ★★★★
蜘蛛の囲や松を構える庭狭間★★★
川名ますみ
空蝉に未だしがみつく透けるせみ★★★
抜け殻にしがみつくさみどりの蝉★★★
空蝉のふんばり碧き羽を背負う★★★★
8月1日(5名)
小口泰與
目高等の水槽沸かす食餌かな★★★
蛍火や里の露座仏おわします★★★
老鶯や階段続く奥の院★★★★
廣田洋一
睡蓮の揺蕩ふ池に鯉はねる★★★
睡蓮の白一色に平家池★★★
緑陰に南国の香やカフェテラス★★★
多田有花
朝長けて蝉の合唱一段落★★★
影ひとつ持ち運びたる日傘かな★★★
開け放つ部屋吹き通る夏の風★★★★
桑本栄太郎
八月の青空いよよ深きかな★★★★
口を開け鴉歩くや炎暑の日★★★
街燈の明かりを惜しむ蝉しぐれ★★★
弓削和人
隣家まで水打つしぶき懐かしき★★★★
冷房の普及しない時代、打水はあちこちで見られた。最近はまた打水のよさが見直され、打水された店や個人の家もある。勢いよく水を打って隣家までのこともある。「隣家まで」に、水の勢いと涼しさが感じられる。(髙橋正子)
ちらとみゆ面影のこす縞蜥蜴★★★
晩涼に初雪葛添えたりて
「初雪葛」を何に添えたのでしょうか。(髙橋正子)