自由な投句箱/8月11日~8月19日

※当季雑詠3句(秋の句)を<コメント欄>にお書き込みください。
※投句は、一日1回3句に限ります。
※登録のない俳号やペンネームでの投句は、削除いたします。(例:唐辛子など)
※印の基準について。
「心が動いている」句を良い句として、★印を付けています。
主宰:高橋正子・管理:高橋信之

今日の秀句/8月11日~8月19日

8月19日(2句)
★秋雲のつぎつぎ生まる嶺の奥/桑本栄太郎
秋の雲が生まれ、流れ出て来る。生まれ出るところは、嶺の奥。誰もよく知らない、嶺の奥から。ただそれだけのことが、爽やかに思える。(髙橋正子)
★終電の人みな黙す秋の顔/弓削和人
人間の顔に季節があるかと言う問題に直面するが、秋を表す雰囲気の顔と言えば、目を開いているが、思索にふけるような、頬がやや冷たい顔となるのではないだろうか。仕事で疲れた人たちの乗る終電では、誰も話さない。疲れ切っていても眠りはしない。なにか思うような印象的な顔が並ぶ車内。(髙橋正子)
8月18日(1句)
★飼い犬のスキップちらと秋来る/弓削和人
散歩に連れ出された犬か。爽やかな秋の空気が嬉しくて、スキップのような軽快な走り方ちらとする。すれ違った作者の心にもに秋が来たうれしさが読み取れる。軽い句の良さがある。(髙橋正子)
8月17日(1句)
★涼のオールディーズやバーバーに/桑本栄太郎
「新涼」が効いている。静かに流れるオールディーズに髪を刈ってもらう客も
店の主人も古き良き時代を楽しんでいる。理髪店のひと時がいい時間となっている。(髙橋正子)
8月16日(1句)
★河岸段丘色づき初めし田もありぬ/多田有花
「 河岸段丘 ( かがんだんきゅう ) 」とは川の流れに 沿 ( そ ) ってつくられた 階段状 ( かいだんじょう ) の地形のこと。景観は棚田のような眺めといってよいだろう。そういう特異な地形の田も稲の穂の熟れ始めた色合いが見える。(髙橋正子)
8月15日(2句)
★とんぼうの止まりて離る舫い綱/小口泰與
「舫い綱」は、船を繋ぎとめておく綱のこと。その綱にとんぼが止まっていたのが、離れていった。綱は当然水の上を渡されているので、とんぼ綱に止まりながらも水の上にいて、姿が映っているかもしれない。とてもきれいな秋の情景が詠まれている。

★竹伐って貯金箱とす星祭/弓削和人

星祭りの竹を伐りに行った。笹は七夕飾りに、竹幹は、貯金箱になった。子どものころの思い出か。竹の一節を貯金箱として台所の柱に掛けてあったのをどこかで見た記憶がある。昭和の暮らしが今更に思い出される句。(髙橋正子)
8月14日(2句)
★鶴の首水吹き上げて秋澄めり/廣田洋一
鶴の形をしたおそらく陶器の噴水だろうが、首を上向けて水を吹き上げている。吹き上げた水が落ちて鶴の首から体を濡らしているだろう。「秋澄めり」を実感する景色だ。(髙橋正子)
★手に供花の盆供養なるバスの客/桑本栄太郎
盆のバスに乗ると供花をもった客がいる。バスの中にも今日が盆であることが
示されて、はからずも乗り合わせて人たちも祖先を思う日となったのではなかろうか。(髙橋正子)
8月13日(1句)
★迎え火の無くて夕餉を摂りにけり/桑本栄太郎
故郷を離れて住んでいる家族には、祀る仏のいない家族もある。故郷にいれば迎え火を焚いたであろうに、その迎え火もなく、いつものように夕食を摂った。なにか淋しい、取り残されたような思い。(髙橋正子)
8月12日(1句)
★境内に緋メダカ泳ぐ盆の寺/多田有花
盆の寺の生きとし生けるものはみんな大切にされる感じだ。緋メダカがすいすい泳いで涼を呼んでいて、明るい雰囲気がいい。(髙橋正子)
8月11日(1句)
★山の日の山に向かいて風が吹く/多田有花
山の日は、7月20日の海の日に対して2016年から施行された新しい祝日。「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する 」日とされている。何かかを祝うということではないが、山に向かって吹く風があれば、山もいきいきとしてくるように思える。(髙橋正子)

8月11日~8月19日

8月19日(5名)
小口泰與
夕さりの湖渺渺と花芒★★★
好日のひと日や利根の下り簗★★★
石を積む一ノ倉沢秋の声★★★
廣田洋一
口角に汁溢れ出る水蜜桃★★★
雨上がり風さわさわと今朝の秋★★★
栗ご飯黄色く光る夕べかな★★★★
多田有花
ジャズピアノ静かに流れ風は秋★★★
朝の月飛行機雲の上に出て★★★
秋めきて路傍の草の刈られけり★★★★
桑本栄太郎
新涼の風の入り来る朝の窓★★★
嵐去り歩道埋め居り蝉の殻★★★
秋雲のつぎつぎ生まる嶺の奥★★★★
秋の雲が生まれ、流れ出て来る。生まれ出るところは、嶺の奥。誰もよく知らない、嶺の奥から。ただそれだけのことが、爽やかに思える。(髙橋正子)
弓削和人
とんぼうは車窓に寄りて競うかな★★★
終電の人みな黙す秋の顔★★★★
人間の顔に季節があるかと言う問題に直面するが、秋を表す雰囲気の顔と言えば、目を開いているが、思索にふけるような、頬がやや冷たい顔となるのではないだろうか。仕事で疲れた人たちの乗る終電では、誰も話さない。疲れ切っていても眠りはしない。なにか思うような印象的な顔が並ぶ車内。(髙橋正子)
花びらのなきやコリウス秋さやか★★★
 
8月18日(4名)
小口泰與
徐に利根を眺めし下り簗★★★
利根の瀞渦白きかや赤蜻蛉★★★
茫茫の長き裾野や花木槿★★★
廣田洋一
密やかに窓打つ音や秋の雨★★★
古稀祝ふ集ひを終えて秋の雨★★★
秋雨や人影見えぬ街の角★★★
桑本栄太郎
つぎつぎと名乗り出でたる法師蝉★★★
一木を被う盛りや葛の花★★★★
合歓の実のあまた垂れ居り川の上★★★
弓削和人
飼い犬のスキップちらと秋来る★★★★
散歩に連れ出された犬か。爽やかな秋の空気が嬉しくて、スキップのような軽快な走り方ちらとする。すれ違った作者の心にもに秋が来たうれしさが読み取れる。軽い句の良さがある。(髙橋正子)
蟋蟀や家屋建てつつ雨上がり★★★
終着の駅へ向かうや秋の傘★★★
8月17日(5名)
小口泰與
啄木鳥や小沼の水面うす緑★★★
飛び鳴きの鳥や木の実へまっしぐら★★★★
群なして草地へ下りし小椋鳥★★★
廣田洋一
送り火や上る炎に合掌す★★★
送り火やしんがりに就く息子なり★★★★
桃の皮手で剝くほどに柔らかき★★★
桑本栄太郎
新涼のオールディーズやバーバーに★★★★
「新涼」が効いている。静かに流れるオールディーズに髪を刈ってもらう客も
店の主人も古き良き時代を楽しんでいる。理髪店のひと時がいい時間となっている。(髙橋正子)
白き腹みせて落蝉仰のけに★★★
大屋根の甍まぶしき残暑かな★★★
多田有花
唐突に鳴きだす夜の法師蝉★★★
盆過ぎの雨心地よく聞いている★★★★
朝の驟雨残る暑さを吹き払う★★★
弓削和人
夜食とる暮るるを忘れ読み耽り★★★
秋橋の行き交う車ゆるゆると★★★
停車いま線路の際のすすき揺れ★★★★
 
8月16日(5名)
小口泰與
渓流の波百態や秋の雲★★★
奥利根の城跡狭し鵙の贄★★★
菩提寺の点鬼簿読むや秋の声★★★
廣田洋一
星一つ窓を斜めに流れけり★★★★
日比谷公園あめりか芙蓉咲かせをり★★★
用水路細々流れ白芙蓉★★★
多田有花
なつかしき人と語らう秋の昼★★★
交差点残暑の城を見て帰る★★★
河岸段丘色づき初めし田もありぬ★★★★
「 河岸段丘 ( かがんだんきゅう ) 」とは川の流れに 沿 ( そ ) ってつくられた 階段状 ( かいだんじょう ) の地形のこと。景観は棚田のような眺めといってよいだろう。そういう特異な地形の田も稲の穂の熟れ始めた色合いが見える。(髙橋正子)
桑本栄太郎
背の高く鉄砲百合の白さかな★★★
新涼のオールディズとやバーバーに★★★
新涼の嶺の端確と定まりぬ★★★
弓削和人
枯薄落書きのこる駅を過ぎ★★★
浮洲より見渡す残暑空に溶け★★★
花束を手向けられしや秋の橋★★★
8月15日(5名)
小口泰與
とんぼうの止まりて離る舫い綱★★★★
「舫い綱」は、船を繋ぎとめておく綱のこと。その綱にとんぼが止まっていたのが、離れていった。綱は当然水の上を渡されているので、とんぼ綱に止まりながらも水の上にいて、姿が映っているかもしれない。とてもきれいな秋の情景が詠まれている。
色鳥や大売出しののぼり旗★★★
聞えきし汽笛にまざるきりぎりす(原句)
聞こえきし汽笛に混ざるぎすの声★★★★(正子添削)
多田有花
カンカンと踏切の鳴りカンナ咲く★★★
路地入れば板壁の前に秋の薔薇★★★
明け方はほっと息つく残暑かな★★★
廣田洋一
終戦日玉音聞きて空青き★★★
虜囚記録見直す父の終戦忌★★★
盆休み子供の姿少なかり★★★
桑本栄太郎
母親の田草引き居り終戦日★★★
正午には黙祷したる敗戦忌★★★
ふるさとの送り火想う盆三日★★★★
弓削和人
終戦の戒め守るひといかな★★★
竹伐って貯金箱とす星祭★★★★
星祭りの竹を伐りに行った。笹は七夕飾りに、竹幹は、貯金箱になった。子どものころの思い出か。竹の一節を貯金箱として台所の柱に掛けてあったのをどこかで見た記憶がある。昭和の暮らしが今更に思い出される句。(髙橋正子)
線香や昼下がりの盆の寺★★★
8月14日(5名)
小口泰與
八方に虫の音を聞く星の夜★★★
朝顔や日の盛んなる午後の庭★★★
秋灯下古文書辿る我が家系★★★
多田有花
散華する天女は裸足盆の寺★★★★
残暑の雲山の彼方に湧き上がる★★★
棚経にあわせて着きぬ遠路の客★★★★
廣田洋一
台風の後を追ふかに雲流れ★★★
首掛け銀杏高々伸びて空高し★★★
鶴の首水吹き上げて秋澄めり★★★★
鶴の形をしたおそらく陶器の噴水だろうが、首を上向けて水を吹き上げている。吹き上げた水が落ちて鶴の首から体を濡らしているだろう。「秋澄めり」を実感する景色だ。(髙橋正子)
桑本栄太郎
手に供花の盆供養なるバスの客★★★★
盆のバスに乗ると供花をもった客がいる。バスの中にも今日が盆であることが
示されて、はからずも乗り合わせて人たちも祖先を思う日となったのではなかろうか。(髙橋正子)
想い出づ夕映え光る盆の海★★★
いさり火の闇にきらめく盆の海★★★
弓削和人
一片のたもあみ流れ秋の川★★★
縄張りの争いなしと蜻蛉舞う★★★
ほおずきの色めくほどに軽く舞い★★★
8月13日(5名)
廣田洋一
仏前に牡丹餅供へ盂蘭盆会★★★
新盆を迎へし姪に花送る★★★★
台風の進路を見つつ予定立て★★★
小口泰與
青空へ長き裾野や秋うらら★★★★
縄文の土器の紋様秋の声★★★
朝顔や午後も開かぬ裏鬼門★★★
多田有花
残暑また始まる今日の朝日かな★★★
格子戸に秋の風鈴吊るされて★★★★
明け方の空に残りぬ盆の月★★★
桑本栄太郎
盆波や白兎海岸潮の香に★★★
迎え火の無くて夕餉を摂りにけり★★★★
故郷を離れて住んでいる家族には、祀る仏のいない家族もある。故郷にいれば迎え火を焚いたであろうに、その迎え火もなく、いつものように夕食を摂った。なにか淋しい、取り残されたような思いがある。(髙橋正子)
我らとて生御霊なり盆の夜★★★
弓削和人
通学の夕べの路や白粉花★★★★
珊瑚樹の実り塀より路へ垂れり(原句)
下の句5音でいいと思います。
珊瑚樹の実り塀より路へ垂れ★★★(正子添削)
駅通う人にかくれし白木槿★★★
8月12日(5名)
小口泰與
奥利根の秋色はやし川の風★★★
爽やかや清流渓を流れ行く★★★★
隣家よりピアノの音や秋澄みぬ★★★
廣田洋一
水引の花一直線に空へ伸び★★★★
詰まりたる白き粒見世玉蜀黍★★★
水不足隙間だらけの玉蜀黍★★★
多田有花
境内に緋メダカ泳ぐ盆の寺★★★★
盆の寺の生きとし生けるものはみんな大切にされる感じだ。緋メダカがすいすい泳いで涼を呼んでいて、明るい雰囲気がいい。(髙橋正子)
阿弥陀像のステンドグラス盂蘭盆会★★★
冷房の納骨堂へ墓参り★★★
桑本栄太郎
律儀なる初鳴き聞きぬ法師蝉★★★
初盆と云えど叶はぬ帰省かな★★★
ふるさとを異郷に想う盆供養★★★
弓削和人
秋蜂の巣跡をのこす空き家かな★★★
とんぼうは草のきっさき浮きゐたる★★★★
真鰯を焼くや潮の香想うらむ(原句)
「らむ」は推量の意味なので、「(自分が)想うのだろうか」となって、意味が不自然です。(髙橋正子)
真鰯を焼くや潮の香想いつつ★★★(正子添削)
8月11日(5名)
小口泰與
小鳥來る販売店の早き朝★★★
清流の石洗い行く渡鳥(原句)
「行く」と「渡鳥」とが切れすぎです。
渡鳥清流は石洗い行き★★★★(正子添削)
土産屋の我が名刻みし椿の実★★★
廣田洋一
山崩れのニュース流れる山の日かな★★★
白蓮に赤蓮混じる神の池★★★
手のひらの踊りしなやか風の盆★★★
多田有花
山の日の山に向かいて風が吹く★★★★
山の日は、7月20日の海の日に対して2016年から施行された新しい祝日。「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する 」日とされている。何かかを祝うということではないが、山に向かって吹く風があれば、山もいきいきとしてくるように思える。(髙橋正子)
百日紅の赤いきいきと残暑かな★★★
夜もなお厳しき残暑続きおり★★★
桑本栄太郎
暁闇の寝床に聞きぬ威し銃★★★
秋暑し轍の跡のアスファルト★★★
日当たりと日影の確と残暑かな★★★
 
弓削和人
いびつなる唐辛子あり丘の園★★★
橋二つを見下す土手やカンナ咲く★★★
にぎやかな無人販売芙蓉咲く★★★

祝 自由な投句箱開設 5000日

祝 自由な投句箱開設 5000日
今日、8月8日、「自由な投句箱」のブログを開設して5000日となりました。毎日ご投句ありがとうございます。皆様の熱心さにどれだけお応えし、お役に立ったかは疑問ですが、ともかくも5000日、約13年半続いたことは、素晴らしいことと思います。あっけなく過ぎた5000日のようにも思えます。これからもよろしくお願いいたしします。
2022年8月8日
花冠発行所
髙橋信之・髙橋正子

自由な投句箱/8月1日~8月10日

※当季雑詠3句(夏の句・秋の句)を<コメント欄>にお書き込みください。
※投句は、一日1回3句に限ります。
※登録のない俳号やペンネームでの投句は、削除いたします。(例:唐辛子など)
※印の基準について。
「心が動いている」句を良い句として、★印を付けています。
主宰:高橋正子・管理:高橋信之

今日の秀句/8月1日~8月10日

8月10日(2句)
★遊行寺や秋田の踊り披露さる/廣田洋一
遊行寺は藤沢にある、踊念仏で知られる一遍上人のお寺。遊行の盆として日本三大盆踊のひとつ秋田県の「西馬音内(にしもない)盆踊り」が披露されたのだろう。盆踊りは一遍上人の踊り念仏に行きつくと言われることもあって、盆の祈りと共に楽しまれたことだろう。(髙橋正子)
★新涼のラジオ体操妻の朝/桑本栄太郎
「妻の朝」がいい。朝の家事をする妻ではなく、まず「新涼のラジオ体操」をする。さわやかな妻の姿が浮かぶ。(髙橋正子)
8月9日(2句)
★八月の石鉢にメダカ群れ泳ぐ/多田有花
八月といえば、暑さのなかにも秋の気配が感じられる時。石鉢に張られた水が涼しそうで、メダカの群れが泳いで気持ちよさそうだ。主の季語は八月。(髙橋正子)
★世田谷の蜻蛉横切る日暮れかな/友田 修
世田谷は戦後生活の街として発展してきた。昭和20年には人口30万で、竹やぶが残っていた話を聞く。今は景観を重視した街づくりがなされているようだ。「世田谷の蜻蛉」がすっと横切った。もう日暮れなのだ。懐かしい風景が目の前にふっと現れたような気持ちになる。日暮れが余計にそうさせる。(髙橋正子)
8月8日(1句)
★ぎらぎらと立秋の日が昇りけり/廣田洋一
今年は8月7日が立秋だった。いつもの年なら、暑いと言いながらも空や雲に秋の気配が感じられるのに、世情不安もあってか、不快さの混じる立秋だったと思う。「ぎらぎらと」は、立秋に相応しくないようだが、実際の実感として強く訴えて来た。(髙橋正子)
8月7日(2句)
★郭公や妻のかたえのアームチェア/小口泰與
郭公の声が聞こえるところ。誰も座っていないアームチェアの傍にいる妻。妻はもう一つの並んだアームチャアに座っているのではないかと想像する。面白い着眼。夫婦がゆっくり過ごす山の時間を思った。(髙橋正子)
★立秋や今日の献立黒板に/多田有花
「黒板」が楽しい。毎日黒板に献立が書き替えられるのだろう。楽しみな黒板である。立秋の今日は食欲が湧きそうな献立か。(髙橋正子)
8月6日(1句)
★原爆忌昼の窓辺に虫の声/多田有花
原爆忌は広島が8月6日、長崎が8月9日。このころは立秋前後であって、暑いながらも、ふとしたところに秋の気配が感じられるようになる。昼の窓辺から虫の声が聞こえ、哀愁を帯び、原爆忌を悼んでいるようにも聞こえる。(髙橋正子)
8月5日(2句)
★落葉松や夏霧生まる峡の渓/小口泰與
あっさりと情景を詠んだ句だが、句の景色がいい。繊細な落葉松のを包むように夏霧が生まれる峡の渓。秋には落葉松は金の葉を降らすことになる。(髙橋正子)
★夜店あり瞑りて過ぎる通過駅/弓削和人
通過駅は、急行の止まらない小さな町の駅。ちらと見えた町に夜店が出ている。それも疲れて眼をつむったまま通り過ぎる。眼裏には記憶のなつかしい夜店の風景が見えたことだろう。(髙橋正子)
8月4日(1句)
★髪切って胡瓜どっさり冷や汁に/川名ますみ
冷や汁はいろんな具で栄養が補給され、食欲が落ちる夏に冷たい汁を飯に掛けた料理はさっぱりとうれしい。髪を切ってさぱっりし、胡瓜をどっさり入れて爽やかな匂いの冷や汁にさらに元気が湧くというもの。(髙橋正子)
8月3日(1句)
★新しい朝を連れくる蝉の声/多田有花
夏の朝は蝉の声からはじまるが、日々くる朝を新しいと思えば、何事も新鮮で、爽やかで、生き生きと五感が感じ取ってくれる。蝉の声を聞いて、新しい朝を連れて来てくれたのだと感じた潔い心持ちがいい。(髙橋正子)
8月2日(1句)
★黒揚羽嬉々として來る水溜/小口泰與
黒揚羽を見かけるといかにも夏の蝶という固定的な印象をもつが、この黒揚羽は、心躍らせて、「嬉々として」水溜にやって来て水を飲んでいるのだ。そんな揚羽を見ると嬉しいではないか。(髙橋正子)
8月1日(1句)
★隣家まで水打つしぶき懐かしき/弓削和人
冷房の普及しない時代、打水はあちこちで見られた。最近はまた打水のよさが見直され、打水された店や個人の家もある。勢いよく水を打って隣家までのこともある。「隣家まで」に、水の勢いと涼しさが感じられる。(髙橋正子)

8月1日~8月10日

8月10日(5名)
小口泰與
桔梗や殘雨の峠七曲り★★★★
葛咲くや資材置き場のクレーン車★★★
湖の朝の山気や沢桔梗★★★
廣田洋一
遊行寺や秋田の踊り披露さる★★★★
遊行寺は藤沢にある、踊念仏で知られる一遍上人のお寺。遊行の盆として日本三大盆踊のひとつ秋田県の「西馬音内(にしもない)盆踊り」が披露されたのだろう。盆踊りは一遍上人の踊り念仏に行きつくと言われることもあって、盆の祈りと共に楽しまれたことだろう。(髙橋正子)
久し振り踊る櫓のしつらわれ★★★
七夕や子らの希望は宇宙旅行★★★
多田有花
享保の木彫り彩る秋の社★★★
集落は秋の棚田とともにあり★★★★
木造の旧役場支所秋浅し★★★
桑本栄太郎
暁闇のどこか遠くに威し銃★★★★
新涼のラジオ体操妻の朝★★★★
「妻の朝」がいい。朝の家事をする妻ではなく、まず「新涼のラジオ体操」をする。さわやかな妻の姿が浮かぶ。(髙橋正子)
日暮れ居て熱き風吹く残暑かな★★★
弓削和人
垣越しや石榴が熟すをととのえて
「ととのえて」が分かりにくいです。(髙橋正子)
高き日に八月の風交じりけり★★★
雑魚の群れ過ぎゆく秋の川瀬かな★★★
8月9日(6名)
小口泰與
朝顔や左ひだりと宙とらふ★★★
弟切草餌を求めて禽の翔つ★★★
メール音響く湖畔や女郎花★★★
多田有花
八月の石鉢にメダカ群れ泳ぐ★★★★
八月といえば、暑さのなかにも秋の気配が感じられる時。石鉢に張られた水が涼しそうで、メダカの群れが泳いで気持ちよさそうだ。(髙橋正子)
新涼や鎮守の森に入りたれば★★★
谷川の水が水追い秋に入る★★★★
廣田洋一
実朝祭吹き来る風の爽やかに★★★★
父帰宅井戸より上げる大西瓜★★★
西瓜に塩を振る馬鹿振らぬ馬鹿★★★
桑本栄太郎
さるすべり団地を囲み紅あまた★★★
(さるすべりの団地を囲み紅あまた)
長崎忌なみだ滲みぬマリア像★★★
(マリア像の眼に涙とや長崎忌)
日暮れたる峰の西山残暑かな★★★
友田 修
秋立ちて風の動きに驚きぬ★★★
立秋を確かに風に感じけり★★★
世田谷の蜻蛉横切る日暮れかな★★★★
世田谷は戦後生活の街として発展してきた。昭和20年には人口30万で、竹やぶが残っていた話を聞く。今は景観を重視した街づくりがなされているようだ。「世田谷の蜻蛉」がすっと横切った。もう日暮れなのだ。懐かしい風景が目の前にふっと現れたような気持ちになる。日暮れが余計にそうさせる。(髙橋正子)
弓削和人
秋暑し仔虫家居へ入り込み★★★
まな板の音がする秋よその窓★★★★
稲妻のありやすなわちお天道様★★★
8月8日(6名)
小口泰與
朝顔や榛名曇れば利根晴るる★★★
夕立や山語らえば利根答う★★★
萱草の畦に咲きたる足尾線★★★★
廣田洋一
銀(しろがね)の光そよげる芒原★★★★
ぎらぎらと立秋の日が昇りけり★★★★
今年は8月7日が立秋だった。いつもの年なら、暑いと言いながらも空や雲に秋の気配が感じられるのに、世情不安もあってか、不快さの混じる立秋だったと思う。「ぎらぎらと」は、立秋に相応しくないようだが、実際の実感として強く訴えて来た。(髙橋正子)
デザートに西瓜一切れ瑞々し★★★
多田有花
古民家のパン工房や秋立つ日★★★
新秋の座敷に座卓のどっしりと★★★
薪で焼くパン工房に今日の秋★★★
弓削和人
新涼や左官河川を見て食す★★★★
秋空の電柱を仰ぐ工事かな★★★
秋立つやフードコートへ日がさして★★★
桑本栄太郎
お供えの手配終えたる盆用意★★★
しま柄の無くて甘きや真桑瓜★★★
辻曲がり出会いがしらや鬼やんま★★★
8月7日(5名)
小口泰與
片時の日照雨や木木の落し文★★★
ほうたるや天を傾く地震の音★★★
郭公や妻のかたえのアームチェア★★★★
郭公の声が聞こえるところ。誰も座っていないアームチェアの傍にいる妻。妻はもう一つの並んだアームチャアに座っているのではないかと想像する。面白い着眼。夫婦がゆっくり過ごす山の時間を思った。(髙橋正子)
廣田洋一
夏越の茅の輪くぐりて風を受く★★★★
夏越祓形代抱きし若夫婦★★★
秋立つや全天覆ふ雲の有り★★★
多田有花
夜明け前の雷鳴続く今朝の秋★★★
立秋や今日の献立黒板に★★★★
「黒板」が楽しい。毎日黒板に献立が書き替えられるのだろう。楽しみな黒板である。立秋の今日は食欲が湧きそうな献立か。(髙橋正子)
立秋の光の中の天井扇★★★
桑本栄太郎
立秋の朝の静寂や朝烏★★★
大山の峰に傘雲今朝の秋★★★
普羅の忌や想い出で募る伯耆富士★★★
弓削和人
うき草の水面びっしり池の縁★★★
夏の鯉はねるや池の干上がりて★★★
夏日陰鳥居くぐりて露天商★★★
8月6日(5名)
小口泰與
蒼天を泳げ泳げよ若き友★★★
農婦より賜わる茄子の温きかな★★★
鳴り渡るかんかん石の風鈴よ★★★
廣田洋一
国連事務総長を動かしたるや広島忌★★★
南洋にてミサイル飛びし広島忌★★★
広島忌軍手で抜きぬ庭の草★★★
多田有花
神戸牛入れて真夏のすき焼きを★★★
夏の夜の夢に不思議な生きもの★★★
原爆忌昼の窓辺に虫の声★★★★
原爆忌は広島が8月6日、長崎が8月9日。このころは立秋前後であって、暑いながらも、ふとしたところに秋の気配が感じられるようになる。昼の窓辺から虫の声が聞こえ、哀愁を帯び、原爆忌を悼んでいるようにも聞こえる。(髙橋正子)
桑本栄太郎
八月の青空哀し原爆忌★★★
ピカドンの今も広島原爆忌★★★
忘れえじあの娘逝きし日芙蓉咲く★★★
弓削和人
夕立晴サイドミラーに蔓ひかる★★★
太鼓の音きこゆ校舎や夏の宵★★★
休校や植木に張るる蜘蛛の糸(原句)
「張る」は、ラ行四段活用で、「張(は)」が語幹です。ご確認ください。
8月5日(5名)
小口泰與
落葉松や夏霧生まる峡の渓★★★★
あっさりと情景を詠んだ句だが、句の景色がいい。繊細な落葉松のを包むように夏霧が生まれる峡の渓。秋には落葉松は金の葉を降らすことになる。(髙橋正子)
利根川の白波尖り夏の果★★★
中天へみんみん鳴くよ雨後の沼★★★
多田有花
夕立の残してゆきし空気かな★★★★
宵の月夕立雲の去りしあと★★★
白雨いっとき激しく屋根を打つ★★★
廣田洋一
夏の旅知床の地を満喫す★★★
風鈴のかたとも言はぬ昼下り★★★
湘南の風に応へし南部風鈴★★★
桑本栄太郎
涼風の窓より来たる雨のあと★★★
雨上がり又も鳴き出す蝉しぐれ★★★
ひぐらしやハタと手を置くあかね空★★★
弓削和人
緑負う駅員直く指を差し★★★
夜店あり瞑りて過ぎる通過駅★★★★
通過駅は、急行の止まらない小さな町の駅。ちらと見えた町に夜店が出ている。それも疲れて眼をつむったまま通り過ぎる。眼裏には記憶のなつかしい夜店の風景が見えたことだろう。(髙橋正子)
傘の柄をにぎる拳や大夕立★★★
8月4日(6名)
小口泰與
空耳か夜の闇破る滝の音()
「空耳」と「破る」が不似合いな感じなので添削しました。
空耳か夜の闇より滝の音★★★★(正子添削)
「滝の音」の大きさは読者の読みに任せます。意外と大きい籠ったような音かもしれないし、遠くに聞こえる定かでない音かもしれません。(髙橋正子)
軒並みに向日葵倒る驟雨かな★★★
舐めるよう田をとび回る夏燕★★★
廣田洋一
短夜に終わらぬ夢をまた見たり★★★
夏の夜薄きパジャマをおろしけり★★★
いつまでも夜は来ぬ夏オスロかな★★★
多田有花
秋近し小さき辞書を買い求め★★★★
干しものを乾かす真夏の陽と風と★★★
夕立ち接近左前輪パンクする★★★
桑本栄太郎
いつまでも雨の降らざり雷走る★★★
西山の虹の彼方や晴れ来たる★★★
雨止めば黒雲のこるあぶら蝉★★★
川名ますみ
襟足にあたる剃刀夏の雲(原句)
「剃刀」と「夏の雲」が並ぶと、情景としてかけ離れすぎる感じです。
剃刀のあたる襟足夏の雲★★★★(正子添削)
夕立晴ベリーショートへ最後の刃★★★
髪切りぬ胡瓜どっさり冷や汁に(原句)
髪切って胡瓜どっさり冷や汁に★★★★(正子添削)
冷や汁はいろんな具で栄養が補給され、食欲が落ちる夏に冷たい汁を飯に掛けた料理はさっぱりとうれしい。髪を切ってさぱっりし、胡瓜をどっさり入れて爽やかな匂いの冷や汁にさらに元気が湧くというもの。(髙橋正子)
弓削和人
夏一点雲なき空へ天守閣★★★
冷めんや塩ふくシャツへ風吹きて★★★★
白鷺が潮揺れもせず立ちにけり★★★
8月3日(5名)
小口泰與
相宿の鮎釣り人は今朝坊主★★★
青田まで近き背戸なり水の音★★★★
ひと筋の湖へ入日や一夜酒★★★
廣田洋一
トマトの皮切れなくなりて庖丁研ぐ★★★
大玉のトマトを切りてデザートに★★★
ともかくも喉の渇大暑かな★★★
多田有花
虫の音の聞こえ初めにし夜の秋★★★
新しい朝連れてくる蝉の声(原句)
新しい朝を連れくる蝉の声★★★★(正子添削)
リズムがいいほうがいいかな、と思い添削しました。
夏の朝は蝉の声からはじまるが、日々くる朝を新しいと思えば、何事も新鮮で、爽やかで、生き生きと五感が感じ取ってくれる。蝉の声を聞いて、新しい朝を連れて来てくれたのだと感じた潔い心持ちがいい。(髙橋正子)
渡る日は近し群れたる夏燕★★★
桑本栄太郎
塩飴を舐めて投句の酷暑かな★★★★
午後からは膚を焼くかにあぶら蝉★★★
夕暮れの空掻きならし喜雨ありぬ★★★
弓削和人
電灯の先なる路や夏の夜★★★
玉苗をつっきる畦や漕ぐペダル(原句)
玉苗をつっきる畦やペダル漕ぐ★★★★(正子添削)
この句では、「玉苗をつっきる畦」と「漕ぐペダル」二つがテーマになっています。俳句の都市伝説として、「中が八音になるのはいけない、終わりは体言にするのが効果的」などと言われているのを聞いている思いますが、それはケース・バイ・ケースで、俳句の本質ではありません。(髙橋正子)
高架橋くぐる列車に夏日射し★★★
8月2日(6名)
小口泰與
化粧塩振られし鮎の我が膳に★★★
黒揚羽嬉々として來る水溜★★★★
黒揚羽を見かけるといかにも夏の蝶という固定的な印象をもつが、この黒揚羽は、心躍らせて、「嬉々として」水溜にやって来て水を飲んでいるのだ。そんな揚羽を見ると嬉しいではないか。(髙橋正子)
美麗なる一ノ倉沢蟻地獄★★★
廣田洋一
忘れゐし松葉牡丹の赤き花★★★
打水や黒く染み込むアスファルト★★★
打水や人を迎える少し前★★★
桑本栄太郎
買い物の翁日傘の戻りけり★★★
山の端の入日あかねやあぶら蝉★★★
かなかなや入日茜の山の端に★★★
多田有花
晩夏光ココアの味のプロテイン★★★
明けてくる中へひぐらし鳴き始め★★★★
病院の庭には白き百日紅★★★
弓削和人
夾竹桃高し民家にそそり立ち★★★
日車のノックアウトのように垂れ★★★★
蜘蛛の囲や松を構える庭狭間★★★
川名ますみ
空蝉に未だしがみつく透けるせみ★★★
抜け殻にしがみつくさみどりの蝉★★★
空蝉のふんばり碧き羽を背負う★★★★
8月1日(5名)
小口泰與
目高等の水槽沸かす食餌かな★★★
蛍火や里の露座仏おわします★★★
老鶯や階段続く奥の院★★★★
廣田洋一
睡蓮の揺蕩ふ池に鯉はねる★★★
睡蓮の白一色に平家池★★★
緑陰に南国の香やカフェテラス★★★
多田有花
朝長けて蝉の合唱一段落★★★
影ひとつ持ち運びたる日傘かな★★★
開け放つ部屋吹き通る夏の風★★★★
桑本栄太郎
八月の青空いよよ深きかな★★★★
口を開け鴉歩くや炎暑の日★★★
街燈の明かりを惜しむ蝉しぐれ★★★
弓削和人
隣家まで水打つしぶき懐かしき★★★★
冷房の普及しない時代、打水はあちこちで見られた。最近はまた打水のよさが見直され、打水された店や個人の家もある。勢いよく水を打って隣家までのこともある。「隣家まで」に、水の勢いと涼しさが感じられる。(髙橋正子)
ちらとみゆ面影のこす縞蜥蜴★★★
晩涼に初雪葛添えたりて
「初雪葛」を何に添えたのでしょうか。(髙橋正子)