5月31日
●小口泰與
赤城より朝の薫風鳥の声★★★★
咲き充ちて白ばらの花よごれたり★★★
百本のばら咲く庭のあかりかな★★★
●迫田和代
土手道の新樹浮かべて河流れ★★★
薄暑の日若い娘(こ)の足綺麗だな★★★
ざあざあと窓うつ雨や梅雨近し★★★
●小西 宏
朝顔の種植え鉢に朝の水★★★★
「朝の水」で句に詩情がでた。朝顔の種を植えれば、その後は水やりが日課となる。夕方ではなく、朝のすずやかな水をもらって朝顔も、すぐにも芽が出そうだ。(高橋正子)
梅の実の膨らむ深き葉の影に★★★
窓という窓開け放ち五月風★★★
●多田有花
風きって自転車降り来る夏の坂★★★
遠く近く森に満ちたり不如帰★★★★
本を読みそのまま昼寝となりにけり★★★
●河野啓一
オリーブの花影白き瀬戸の島★★★★
網戸入れ吹き過ぐ風の心地よさ★★★
マンションの横にも田水引かれたる★★★
●桑本栄太郎
金糸梅かぜの行方の定まらず★★★
天車(標準語:肩車)されて散歩や五月尽★★★
こんもりと古墳の森の青葉かな★★★★
●古田敬二
ジャガイモの畝をはみ出るみのりかな★★★★
ジャガイモが収穫時期を迎えた。太り具合を見にゆけば、畝をはみ出てみずみずしいジャガイモが見える。予想以上の出来に、またそのみずみずしさに嬉しさが湧く。(高橋正子)
土掘ればごつごつジャガイモ当たり来る★★★
畝作る遠くにヨシキリ今日も鳴く★★★
5月30日
●小口泰與
たかむらの闇や一声夏きぎす★★★★
海芋咲き朝の冷気は赤城から★★★
葉がくれのからももの実や雨の中★★★
●河野啓一
薄荷あめ含めば口に若葉風★★★★
そよ風やマーガレットは揺れもせず★★★
路の辺に茂る葉桜陽のひかり★★★
●小川和子
日傘さし小径に入れば花柘榴★★★★
風来るざわめきを乗せ夏落葉★★★
青葉風子らは造れり砂の城★★★
●多田有花
つとよぎる影見上げれば黒揚羽★★★
咲きのぼる構え大きく立葵★★★★
バンダナを結ぶうなじに夏の日差し★★★
●桑本栄太郎
乙訓の里に風吹き柿の花★★★★
青蘆の遮る丈のあおりけり★★★
降るものの舗道散りばめ緑蔭に★★★
●井上治代
トントンと葱切る音や夏に入る★★★★
夏に入ると、まず衣服が軽くなる。部屋も窓が開けられ、風が通るように、日差しも一段とあかるくなって、快活な気分が漂う。まな板で葱を刻む音もトントンと軽やかに弾んでくる。季節が進み夏が来たうれしさが湧く。(高橋正子)
憎きまで畑の中に草茂る★★★
夏霧や里の街灯ぽつねんと★★★
●川名ますみ
迷い来て寺に泰山木の花★★★★
道に迷いようやくたどり着いた寺に、泰山木の大きな白い花が咲いていた。おおらかな、白い花に予期せず迎えられ、うっすらかいた汗もひく思いで、感激も一入だっただろう。予期せぬ花に出会う喜びは大きい。(高橋正子)
梢まで赤咲きのぼる立葵★★★
白き一花迷いし道に泰山木★★★
5月29日
●小口泰與
風薫る朝日をあびし赤城山★★★
黄ばらや通園バスのえんじ達★★★★
たかぶれる噴水空を破りけり★★★
●祝恵子
ルピナスの色とりどりの風をうけ★★★
新緑の森に清しい光あり★★★
艦艇のプラモも走る夏の池★★★★
●古田敬二
葉の影を映して実梅丸丸と★★★★
枝先へうばらの花の咲き上る★★★
のうばらの最後の一花枝先に★★★
●桑本栄太郎
野蒜咲く風の田道の散歩かな★★★
蕗束ねバケツに売らる無人店(だな)★★★★
蚕豆の莢の空向き実りけり★★★
●多田有花
緑陰の途切れるところ頂に★★★★
山の登り始めは木々が茂りあう道から始まる。体も緑に染まりそうなくらいの緑陰となって、延々と道は続くのだが、その緑陰がとぎれるところに出た。そこが頂上だったわけで、頂上を目指すというのではなく、登り至れば頂上だった、というのがさっぱりしている。(高橋正子)
揚羽蝶森の奥より飛び来る★★★
すれ違う人にオーデコロンの香★★★
●高橋秀之
沖合に停泊する船夏日差し★★★★
夏と言えば太陽にかがやく海。沖合に停泊する船が夏の日差しに浮かんでいる。それが夏をいち早く感じさせる景色なのだ。(高橋正子)
紫陽花に当たる朝日と水飛沫★★★
月曜の朝紫陽花の色を見る★★★
●小西 宏
卯の花の垣根に咲ける親しきこと★★★★
梔子の白にあらざる白静か★★★
毒痛みの花泉水の近くあり★★★
●黒谷光子
万歩計つけて今日より夏帽子★★★★
一万歩目指し五月の池巡る★★★
黄菖蒲の池の周りのあちこちに★★★
5月28日
●小口泰與
咲ききって風の中なる庭のばら★★★★
ほろほろと散りし紅ばら香りおり★★★
浴衣着てすずろに歩む繁華街★★★
●河野啓一
風薫る朝のテラスやミントティー★★★★
風薫る朝のさわやかさをテラスで飲むミントティーが象徴している。庭でとれたミントを紅茶に浮かべて飲む至福のお洒落なひとときだ。(高橋正子)
薫風やグランドの芝撫でゆきて★★★
屋根裏の空蝉思わる去年の夏★★★
●多田有花
バンダナで額の汗を抑え歩く★★★★
木漏れ日の中渡り来る夏の風★★★
長く長く鳴く夏の鶯★★★
●桑本栄太郎
だれも居ぬ花壇の彩の紫蘭かな★★★
昼顔や彷徨う畦を彩と為し★★★
じゃがいもの花に望郷つのりけり★★★★
●小西 宏
園児バス待つマンションの赤いバラ★★★★
木陰より出でて青野の蛇いちご★★★
蚕豆のよき顔立ちを青く噛む★★★
●祝恵子
玉ねぎの抜きしにおいも持ち帰る★★★★
梅雨入り前の、まださわやかな風が吹くころ、新玉ねぎが収穫できる。畑から抜き取るとき、玉ねぎ独特の匂いがするが、その匂いまでもが、収穫のよろこびとなる。(高橋正子)
水面のバラ花びら少しづつ離なる★★★
すっきりと色花立ちて薄暑なり★★★
●黒谷光子
竹落葉踏み雑木山仏花切る★★★★
供花とする夏菊を買う道の駅★★★
供花はみな新しくして堂涼し★★★
5月27日
●小口泰與
鉄線花赤城の風となりにけり★★★
ばら咲くや色とりどりの登校児★★★★
浅間より絶えず雲出づ蟻の穴★★★
●河野啓一
紫陽花の白き蕾の数かぞえ★★★
あめ玉を口に含みて新緑へ★★★★
房咲きのバラ小さくて賑やかに★★★
●多田有花
幼虫の懸垂下降夏めく森★★★
鋏手に薔薇を切らんと男立つ★★★★
音のみが青葉のなかを流れゆく★★★
●桑本栄太郎
桑の実や遠き日となる母のこと★★★★
桑の実を今の子供たちは食べないだろうが、昔の子供は桑の実の甘さを喜んだ。母の記憶と桑の実を食べた記憶が重なる。それらが「遠き日」となることにさみしさもあるが、思い出す幸せもある。(高橋正子)
姫女苑風の行方を示しけり★★★
山影の映る植田や昏れゆきぬ★★★
●黒谷光子
玉葱を引く葉の倒る一つから★★★★
玉葱は抜いて見てはじめて大きさが解るのだが、抜いて小さかったからといって植えなおすわけにはいかない。葉の養分が根に移り、根を太らせて倒れる。今年の玉葱を初めて抜くときのちょっとした期待感がいい。(高橋正子)
莢豌豆山ほど採れて日本晴れ★★★
夏薊群れ咲き土手の華やげる★★★
●小西 宏
紫陽花の色づき初むる陽の五月★★★★
毒痛みの花群れ咲いて人恋し★★★
睡蓮の花閉じ眠る午後の水辺★★★